あなたに会いたくて

作者:なちゅい

●突然の終わり……のはずだった
 それは、思いがけない人生の幕切れ。
 会社で夜遅くまで残業をしていたそのOL、菊井・愛華。彼女は疲労困憊の状況になるまで仕事の資料作りを頑張っていたのだが……。
「さすがに、帰らないと……」
 もう少し頑張れば、愛しのあの人と一緒に過ごすことができる。
 来月には、彼と同居できる。SNSでだけ会話する日々も、もう長くはない。だからこそ、こうして今のうちにしっかりと頑張って、休暇をとって、彼と一緒に……。
 そんな風にぼんやりとしていた愛華はスマートフォンに視線を降ろして歩いていると、うっかりと階段を踏み外して……。
「あっ……」
 残念なことに、打ち所が悪かった。頭を強打した彼女は大量の血を流す。夜も遅く、彼女を助けに訪れる者は誰もいない。
(「賢也……さん」)
 薄れ行く意識の中で彼女は切に恋人を思い、誰にも発見されぬまま、命を落とすことになってしまう。
 その後、どこからか現われた人魚にも似た姿の死神が現われた。人魚といえば聞こえはいいが、そいつの目は爛々と赤く輝き、病的な肌に禍々しいオーラを纏っている。
 奇怪な姿の深海魚型の死神を従えたそいつは、死神・エピリアと呼ばれる。微笑むような表情の彼女は、まだ亡くなって間もない女性の遺体へと歪な肉の塊を埋め込んでいく。
 ドクン……。
 すぐに、遺体は大きく膨れ上がり、醜く異形の姿と成り果ててしまう。新たな屍隷兵の誕生だ。
「あなたが今、一番会いたい人の場所に向かいなさい」
 エピリアは、自ら作り上げた屍隷兵に指示を出す。会いたい人をバラバラにしてしまえ、と。
「さすれば、あなたと同じ屍隷兵に変えてあげます。ケルベロスが2人を分かつまで、一緒にいることができるでしょう」
 そう告げたエピリアは、3体の怪魚をこの場に残して消えていく。
「アアァァ、ケンヤ、サンンンン……」
 屍隷兵は怪魚を連れ、この場から離れていく。僅かに残された記憶を頼りに、おぼろげに姿が脳裏に浮かぶ男性に会う為に。

 ヘリポートへと向かったケルベロス達に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が手を振る。
「来てくれてありがとう」
 早速、彼女は新たに動き始めた死神の事件について、説明を始める。
 死神『エピリア』が、死者を屍隷兵に変化させて事件を起こしているのが分かったと言う。
「エピリアは、死者を屍隷兵にした上で、その屍隷兵の愛するものを殺すように命じているらしいね」
 屍隷兵は知性をほとんど失っているが、エピリアの言葉に騙され、愛する人と共にいる為にその人をバラバラに引き裂こうと移動している。
 このままだと、屍隷兵は愛する人を殺し、その殺された者もエピリアによって屍隷兵とされてしまう。
「そんな非道な行いを、見過ごすわけには行かないよ」
 屍隷兵となったものを元に戻すことはできないが、愛する者を殺すような悲劇が起こる前に、歪なる形で蘇った彼女を倒してほしい。
 討伐目標は屍隷兵1体と深海魚型死神3体だ。事件の元凶、死神・エピリアは姿を消してしまっている。
 屍隷兵と成り果てた女性はクラッシャーとして、平手打ち、伸縮する腕、そして、体から発射する肉弾で攻撃を行う。
 それに付き従う深海魚型死神3体は、いずれもディフェンダーとして動き、噛み付き、怨霊弾で攻撃しながら、屍隷兵を護るようだ。
「それほど戦闘能力は高くない相手だね。ただ、……やりにくい相手なのは間違いないよ」
 現場は、群馬県前橋市の郊外だ。
 人通りがほとんどない道路を移動する屍隷兵の一団を迎撃することになる。
 幸か不幸か、女性の恋人宅はまだ数駅分の距離がある為、すぐに被害が及ぶことはない。この為、直接迎撃して交戦することになるだろう。
 状況説明を終え、リーゼリットは主観を語る。
「この屍隷兵は、螺旋忍軍の集めたデータを元にして作られたものだと思われるよ」
 きっかけは不幸な事故だった。その死に際の思いを利用した死神を許すわけには行かない。
「ただ、今は……彼女を止めないと」
 新たな犠牲者を生む前に、屍隷兵と成り果てた女性の討伐を。リーゼリットはそうケルベロス達へと願うのである。


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
進藤・隆治(黒竜之書・e04573)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
志藤・巌(壊し屋・e10136)

■リプレイ

●死神に弄ばれた死者
 群馬県前橋市に降り立ったケルベロス達。依頼に臨む各メンバーの表情は険しい。
「全く、やる瀬ねぇ事件が起きるもんだなぁ」
 煙草代わりにくわえた長楊枝を動かし、不知火・梓(酔虎・e00528)が語る。
「こぅいぅのは、すかっと戦いに集中できねぇのがいけねぇ」
 首を振る梓に、メンバーの誰からも相槌の声すら上がらない。
 クールな印象の騎士、ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)は、被害者となった女性への憐憫と死者を弄ぶ今回の黒幕、死神エピリアに対する怒りを抱いている。
 故郷の同胞の霊魂をその身に宿す、アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)も悩んでいたようだ。
「勝手な都合で蘇らせて、死者の想いを弄ぶ……」
 筋肉質な身体を持つ志藤・巌(壊し屋・e10136)の脳裏に、ホワイトメロウの事件が過ぎる。
 巌は以前、自身が救えなかった男性のことを思い出し、柄にもなく感傷的になっていた。
「……今度は外見が異形化してて、生前の意思がちょっとだけ残ってる屍隷兵かぁ……」
 一見女性かとも思える雰囲気を持つ、パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)が呟く。
(「伴侶に会いたいという心に付け込む奴を、退治したばかりだってぇのに」)
 一度、パトリックは彼女を亡くしたショックを付け込まれた者を倒しているし、彼はとある地球人の女性の姿に擬態した敵を自身の手で始末をつけている。
 そんな事件を振り返りながらも、パトリックは周囲に一般人の姿を見つけると剣気を解放して無気力にし、この場から退去を強く求めていた。
「俺は、死神のこういう所が気に食わねェ。……命を何だと思っていやがる」
「屍隷兵は……冥龍と一緒に無くなるべきだったのに、なんでこんなに広まってしまったんだろう」
 この状況を憂う黒猫のウェアライダー、月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)。月喰島の事件に参加していた彼女は、屍隷兵に対しては複雑な心境を抱く。
 ゾンビだと言って目をそらした苦い思い出。あの時、もっと何かできたのではないか、縒にはそんな思いが尽きない。
「これからも犠牲者は増えていくのかな? ……そんなの、嫌だよ」
 それに対し、赤頭巾姿の少女、フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)が大きく首を横に振って。
「縒ちゃんが月喰島で頑張ったのを、僕は知ってるから」
 彼女は悩む相棒を優しく元気付けた。
「屍隷兵は絶対、被害増やしたくないし、止めないと」
 そして、フィーは医者としても、この状況を是とはしていない。生も、死すらも冒涜する相手を許すわけにはいかない。
 いつもは臆病な縒だが、フィーと一緒の依頼であれば安心して頑張ることができると、気合を入れる。
 縒とフィーの2人は近辺に人がいないことを確認して、協力しながらキープアウトテープを周囲に張り巡らせていく。
 そして、フィーは道の中央に、オレンジ色に輝くランプ『幽世の案内人』を置いた。
 それに引き寄せられるように道の向こうから現われたのは、怪魚を引き付けて歩く、歪な形に成り果てた哀れな骸。
「これまた厄介だな」
 パトリックはそれを目にして、大きく溜息をつく。
「アアァァ、ケンヤ、サンンンン……」
 かすかに生前の記憶が残されているのか、OL、菊井・愛華だったその存在はケルベロスの方へと向かってくる。
(「死んで尚彼氏に、かぁ……。やる瀬ねぇなぁ」)
 おそらくは死神にそそのかされ、愛する人の命を自ら断とうと向かっているのだろう。梓はそれに、なんとも言えぬ感情を覚える。
「恋人を殺して一緒になる? 巫山戯んな! ここで止めるぜ!!」
 だが、パトリックはその言葉で一気に火がついたようで、屍隷兵に対して声を荒げた。
「……愛華さん、ごめんね」
 『幽世の案内人』を地面に置いたフィーも相手へと呼びかける。今の僕達に出来るのは、貴女の想いを利用されないよう、此処で止める事。
「死神が刻んだ歪みを絶つよ。この光はせめてもの道標」
 ――貴女が天まで迷わず逝けるよう。
 ――貴女の想い、見失わないように。
 仲間達も思い思いに哀れな屍隷兵を見つめ、時に目を背ける。
「会いたいからと、無理をしなければ、こんなことにはならなかったかもしれない」
 それも、もう過ぎたこと。どうやっても、過去は変えられない。左腕と翼を地獄化させた竜派ドラゴニアン、進藤・隆治(黒竜之書・e04573)は首を振る。
「菊井さん。屍隷兵にされたアンタの願いは、叶えてやれない」
 巌は眼光鋭く敵を直視し、両腕に嵌めた2種のガントレットで構えを取った。
「アンタに俺がしてやれる事は1つだけだ。なるべく苦しまないように、壊してやるよ」
 そのとなりの梓は神妙な顔で、そんな仲間達を見た後、これから対する相手を再び見つめて。
(「んでも、俺がこの場にいるっつーことは、運命が繋がっちまったんだよなぁ」)
 彼は道路脇へと、長楊枝を吐き捨てる。
「ならもぅやれるだけの事をして、より良い結果を掴もうじゃぁねぇか」
「アアァァアアァア……!」
 戦闘態勢に入るケルベロス達。
 対して、屍隷兵もまた怪魚型の死神と共に、邪魔な相手を倒すべく襲い掛かってくるのである。

●邪魔な死神の排除を
 手早く敵の撃破を狙いたいケルベロス。
 敵は全て前衛のようだが、それだけに攻防、とくに防御重視の布陣だ。
 仲間に先んじて飛び出すアバンはケルベロスチェインを操り、地面に描いた魔法陣によって前線の仲間を守護する。
 そこに、死神が食らいつき、あるいは黒い弾丸を放ってきた。
 アバンがそれらを受け止める横では、ロベリアが屍隷兵の平手打ちを食らう。
 騎士として仲間を護る役となるのは、臨むところ。ロベリアは稲妻を帯びた騎士槍『紅炎』を死神へと突き出す。ただ、そこで庇い合う怪魚達は非常に面倒だ。
 その身を張って邪魔してくる怪魚もろとも、狙いを定める隆治。彼は屍隷兵の姿に刹那顔をしかめ、炎のブレスを吐きかけていった。
 1体ずつ確実に。梓は仲間の攻撃に続くようにして、確実に刃で切りかかっていく。達人の域に達したその一撃は、怪魚の体に深い傷を負わせ、さらにグラビティによって凍りつかせてしまう。
 比較的、順調な出だしだが、いつ戦線が崩れるか油断が出来ない。回復役となるフィーは周囲に幻を現して。
「想い描く結末は――もうその掌の中に」
 それはまるで、絵本の中のように小動物や小さな人形らがオーケストラを奏でている。この物語の主役たるケルベロスがその手に掴む選択に幸あることを願って。
「菊井さんの大事な人を守るために、止めるんだ。辛くても怖くても逃げるもんか!」
 その後ろから黒い耳を動かし、縒が打ち出の大槌から砲弾を飛ばす。やはり、相棒の存在に彼女は士気を高めていたようである。
「地獄の底まで落ちていけ」
 そして、巌は隕焔の篭手と灼炎の篭手による猛連打を、目の前の死神へと浴びせかける。上段、下段と繰り返されるコンビネーションから、脳天への強烈な一打を見舞った。
 ただ、防御態勢の敵はすぐには倒れない。ケルベロス達はさらに猛攻を仕掛けて速やかな撃破を目指す。

 しばし、ケルベロスは敵の食らいつき、肉弾といった攻撃に耐えながらも、奇妙な姿で宙を泳ぐ怪魚型の死神の討伐に全力を尽くす。
「人の不幸な事故につけこむんじゃねぇぜ! まったくもう!」
 ボクスドラゴン、ティターニアに前線の護りを支援させつつ、パトリックは悪態をつきながら白い翼より聖なる光を発する。
 撃ち抜かれる怪魚がうな垂れ始める。続く仲間の攻撃の中、隆治が九尾扇の羽根を長く伸ばし、鞭のように相手を打ち据えていく。
 それによって強かに打ちつけられた怪魚は奇怪な声を上げ、この場から消えていった。
 怪魚達もケルベロスに食らいつき、体力を奪いながらも応戦を続ける。だが、怒りと悲しみ、様々な感情が交錯するケルベロスを止めることが出来ない。
 ロベリアが振るう鮮烈なる一蹴。それに怪魚が痺れを覚えて動きを止めれば、巌がそいつの体を左手で手繰り寄せて。
「人を弄んだ報いだ。……魚」
 漆黒を纏わせた右手で、そいつの体を全力で粉砕した。
 残る魚を、梓が狙いを定めて運命の意を持つ青みを帯びた黒い刀で捌いていく。
 仲間達の攻撃で痺れや足止めを受け、そいつの動きは鈍ってしまっている。
 その隙をアバンは見逃さない。
 本来、足止めを考えていた彼だったが、回復補助に徹するよりも前に仲間達が怪魚型死神を追い込んでいたこともある。それだけ、ケルベロス達は相手に強い感情を抱いていたのだろう。
 だからこそ、アバンもまた斬霊刀を握り、幻惑の桜吹雪を戦場に舞わせて刃を一閃させる。
 次の瞬間、怪魚は真っ二つになり、嗚咽を吐きながら宙に消え去っていったのだった。

●恋人を求める死人
 怪魚型死神は倒れど、依然として屍隷兵の活動は続く。
「嬢ちゃんを止めねぇ事には、何もできねぇからなぁ」
 色々と思うことはあれど、今は全て脇に置いて梓は雷を纏わせた刃で相手の体を貫く。
「ケェェンヤァ、サァアアァァ……」
 漏れ出る声は、かすかに残された菊井・愛華の意思。その想いは強く恋人を求めている。……一緒になりたいと。
(「俺はどうすれば良いんだろう」)
 仲間達がそいつの伸びる腕を受け止めるのを目にし、アバンは逡巡してしまう。
 ――屍隷兵に残ってる愛華さんとしての想い。その目に会いたい人の姿を見せてやることすらできないのか……。
 それは、よりひどい結果を生んでしまう。それが頭で解っているからこそ、アバンは霊力で満たした鞘へと霊化した刀身を収めて。
「蒼き燐光解き放ち、暗雲を斬り裂け、疾風の斬撃!」
 スカーフを靡かせる彼は屍隷兵に飛び込み、刀身を抜き放って相手の体を変質させた要因のみを取り除こうと切り伏せる。
 これで、遺体が元の姿に戻るのなら、せめて、その可能性を高められるのなら。
 だが、その願いは届かない。屍隷兵の腕が異様なほどに長く伸び、ロベリアへと襲い掛かる。騎士鎧で受け止めてなお、強い衝撃が彼女の体を駆け巡った。
「残念だが、お前をお前が愛した者のところへ行かせる訳には行かないのでね」
 続く隆治は、小さなエネルギー体のドラゴンを召喚する。
「行け、我輩の子ら」
 その声に応じ、嘶くドラゴンは颯爽と飛び、屍隷兵へと襲い掛かってから強くその身体を押さえつけていく。
 そして、巌が攻め入り、バトルガントレットを連続して叩き込む。
 強く、強く、拳を叩きつける。この悲しみから、苦しみから、少しでも早く彼女を解放してやる為に。
「Live and Let Die!!」
 さらに、白い翼を羽ばたかせ、パトリックが残像を残しながら襲い掛かる。敵が再び放つ肉弾を捌きつつ、彼はゾディアックソードでその歪な身体を切り裂く。
 ただ、屍隷兵の肉弾がまたも、前衛陣へと浴びせかけられる。
 徐々に深まるケルベロスの傷を癒そうと、箱竜ティターニアは自らの属性を注入しに回り、フィーも1人ずつ緊急手術に当たって仲間の治療を行う。
 ただ、敵の足が竦みかけていたことを、縒は見逃さない。
「うちのナカに眠る、ケモノの、チカラ……!」
 縒は獣としての本能を高め、極限にまで引き出した後に仲間の付けた傷を狙って両手の爪で十字に引っかく。つけられた傷は深く、相手の体を抉る。
「アァァァアアアァァ……」
 崩れかける身体に気づき、屍隷兵が慄き始める。
 後方に下がる屍隷兵の後ろには、ロベリアが回りこんでいて。
「愛する者をその手に掛ける事をあなたも望まないでしょう。安心してください、私たちが終わらせてあげます」
 ウォーハンマーを手にしたロベリアは、渾身の一撃を叩きつける。
 突き飛ばした先では、梓が構えを取っていた。
(「これで屍隷兵となった核を破壊したら、元の死体に……なんてこたぁねぇだろぅなぁ……」)
 これから梓が放つ一撃は、体内から破壊する技。それによって、元に戻ればと淡い期待を抱く。
「ま、諦めんのは試してからでも遅くはねぇ」
 ダメだったならば、せめて死出の旅路が安らかなることを願って……。彼は刀身を正中に構える。
「ここで終わらせよぅ。……我が剣気の全て、その身で味わえ」
 斬撃と共に放つ剣気。それは相手の体の表面を通過し、心臓付近で一気に解放されて。
 起こる爆発に、屍隷兵は一際大きく呻く。
「ケンヤ……、サ、ン……」
 崩れ落ちる屍隷兵。それは元の女性の姿に戻ることはなく、歪な体のままで地面に倒れたのだった。

●全ては戻ることなく
 死神と屍隷兵を撃破して……。
 メンバー達はやるせない気持ちで事後処理へと移る。
 目の前の骸から、犠牲者の女性がつけていたと思われるネックレスが確認できた為、パトリックはそれを遺品代わりに回収していた。
「賢也氏に何て言ったら良いんだか……」
 肩を落とすパトリック。この後、まだ恋人の死すら知らぬ彼……影山・賢也へと事実を伝えねばならない。
 隆治はそうした作業は仲間に任せ、自らは奥義を手にし、戦闘の余波で破壊された道路に幻影を纏わせて修復を行っていた。
「今回は助けられた、か」
「安らかに眠れ」
 異形と化したまま遺体に、巌は手を合わせる。隆治もまたそれに倣って鎮魂の祈りを捧げた。
 フィーは何とかして元の姿に戻らないかと施術を行うが、埋め込まれた肉の塊だけを抽出することができない。
 傍で見ていた隆治もある程度の諦めを持っていたのだろう。元に戻らぬことに大きな反応を見せない。
「遺体が元に戻ればいいのにな。異形のままじゃ、あんまりだよ」
 犠牲となった菊井・愛華に対し、縒が冥福を祈る。
 きっと、……いや、絶対に隷兵の技術を根絶させる。そう誓って。

 再び長楊枝を加えた梓は1人、菊井が階段を踏み外した事故現場に向かっていた。
 梓はそこに花を捧げ、さらにスキットルを置く。菊井が酒を飲むかどうかとの情報はなかったが、これくらいしか自分にはできないと考えていたのだ。
「勘弁してくれ。なぁ」
 一言残した彼は立ち上がり、その場から去っていったのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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