海水浴に水着は許さない明王

作者:神無月シュン

 神奈川県鎌倉市、由比ガ浜海水浴場には今日もたくさんの海水浴客が訪れていた。
 カップルで水をかけあう者。子供と共に砂いじりをしている家族。その誰もが水着を着て、楽しそうにしている。
 そんな中に、羽毛の生えた異形――ビルシャナが降り立つ。
「海に入るのに水着を着るなど、許せん! 自然と一体になるためにも、何も身に着けるべきではない!」
 ビルシャナが駆ける。その瞬間、近くにいた海水浴客達の水着が剥ぎ取られていた。

「暑い中お疲れさんです!」
 集まったケルベロス達に、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が今回の事件についての説明を始める。
「個人的な主義主張により、ビルシャナ化した人間が、個人的に許せない対象を襲撃する事件が起こるので、解決してほしいっす」
 さらにビルシャナの主張に賛同した、一般人が配下となっている。
 配下はビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるだろう。
 ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。

「ビルシャナ自体は、服を剥ぎ取る攻撃をしてくるだけで、戦闘力はさほど高くはないっすけど、厄介なのが賛同している配下の数っす」
 純粋な賛同なのか下心なのか判らないが、配下になった一般人の数は20人にもなる。
「やっぱり異性の裸が見たい、ということっすかね?」
 相手を脱がせることばかり考えている奴には、自身が脱がされた時の事を教えてやるのもいいかもしれない。
「服を剥ぎ取られたら、すぐに着なおしてくださいっす」
 一般人が見ている中、裸のままで戦うわけには行かないだろう。周りの視線を何とかできれば別だが……。
「流石に全裸で戦ってるところを、報道される訳にはいかないっす」

 説明を終え、ダンテが資料を閉じる。
「どれだけ配下を減らせるかが、勝負のカギっすよ」


参加者
水無・ゆかり(目指せ未来系女子高生・e00258)
望月・巌(渚のシンドバッド・e00281)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
茅乃・燈(キムンカムイ・e19696)
リシュティア・アーキュリア(サキュバスの螺旋忍者・e28786)
ミューズ・ヘリオス(清楚系新人アイドル・e36404)
ソルヴィン・フォルナー(継ぎ接ぎの・e40080)

■リプレイ


 夏の日差しが、ケルベロス達の肌をチリチリと焼く。
 まさに海水浴日和。それなのに浜辺には不自然な空間が出来上がっている。一般人が巻き込まれまいと遠巻きに眺め、動向を窺っている。
「現在、由比ガ浜海水浴場から、ネット生配信しています」
 テレビウムのプロデューサーにカメラを向けられ、実況を開始するミューズ・ヘリオス(清楚系新人アイドル・e36404)。
 ファンを増やすためのこの配信も、今回は嫌な予感しかしない。
「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね、撮影役のプロデューサーさんっ!」
 プロデューサーはカメラを持ったまま、ただ頷くだけだった――。
「ふぅ……」
 持ってきた大量のアタッシュケースを、砂場に置く、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)。
 中には様々なサイズのメイド服。服を脱がされた人に着せるつもりで用意した、自慢の品々だ。あわよくば、メイド服を普及しようという気持ちもなくはない。
 自身も好きなメイド服を元にした、白と黒の色をしたメイド風水着を着用している。
「……エッチなのはだめだと思います。それよりもメイド服を……あっ」
 いくつかのメイド服を手に取り、配下の人達に向かって勧めようとして、ふと気付く。
 テレサの周りに居る配下は、男性だけだった。
「脱がし脱がされの死地? だし見えにくくするかー」
 リシュティア・アーキュリア(サキュバスの螺旋忍者・e28786)がバイオガスを散布していく。バイオガスが辺りを包み込む。これで外に居る一般人からは服を脱がされようが、人影のシルエットくらいしか見えないだろう。
「さて、そんなに裸が好きならさせてあげよう!」
 配下の男一人に狙いをつけ、にじり寄るリシュティア。
「ネイロー、やるよー」
 リシュティアの合図にビハインドのネイロが男を羽交い締めにする。
 動けなくなった男の水着をリシュティアがすかさず脱がす!
 そしてそのまま、ネイロがくるくると回りだす。
「ぎゃああああ」
「人を脱がすつもりなら、自分も脱がされる覚悟をしないとね」
 目を回している男に、リシュティアの言葉は届いていなかった。
「水着ってすごいんだよ。あんな最小限の布で、体型の補正から何でもやってるんだよ。胸の谷間とか、アレも水着のお陰。それともあなた達は自分の身体に自信があるのかな?」
 エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)は配下の女性達に問う。
 女性達に動揺が走る。
「それと男達。彼女と海に行って、周りの男に大切な彼女の裸を見られるわけだけど、彼氏として、それは許せるのかな?」
 続いて男性達に問うエルネスタ。
「彼女が居たら、こんなことしているわけがないじゃないかあぁああっ!」
 血の涙を流しながら叫ぶ男達。
「それは……ごめんなさい?」
 エルネスタは落ち着くまで、そっとしておくことにした。


 水無・ゆかり(目指せ未来系女子高生・e00258)と茅乃・燈(キムンカムイ・e19696)は仲良く二人、色違いの水着を着ていた。
「水着の素晴らしさが分からないとは、何を考えているのでしょう。私が教えてあげます……燈ちゃんの身体を使って」
「……ん? なにか今、ゆかりさんが変なこと呟いたような……? ともかく水着のよさをアピールですね。頑張ります」
 意気込む燈。
「でもアピールって何するんですか、ゆかりさん?」
「水着は女の子を可愛くする魔法の衣服なんですよ? ほら……こうすると、凄く興奮しませんか?」
 ゆかりが背後から燈の身体をまさぐり始める。
「ひゃん?! や、やめてください、ゆかりさんっっ」
「ほらほらぁ、こことか……弱いでしょう?」
「あんっ! あ、だめです、変な声出ちゃいます……んんっ……ていうかこれ、水着のアピールになってるんですかあ?!」
「うふふ、燈ちゃんの悩ましい声に配下もイチコロだよぉ!」
 調子に乗って激しさを増す行為に、燈の水着が取れる。
「やっ、ビキニの紐がっ?! ポロリは無しって言ったじゃないですかー?!」
 両手で咄嗟に胸を隠し、ゆかりを壁にして燈は水着を急いで着なおす。
「ゆーかーりーさーん?」
 わなわなと身を震わせながら、ゆかりへとにじり寄る燈。
「うん? 私はいいよお。だから燈ちゃんその手を下げよう? ね? にゃあーーー!!」
『眼福じゃー! もっとやれー』
 配下の男10名が前屈みになりながら、歓喜の声をあげる。
 その時、男の一人が近くに立っていた、着ぐるみの人物に気が付く。
「おい、みんなっ! この着ぐるみも中身は女性に違いない! 脱がせー!」
 抵抗もなく脱がされていく着ぐるみ。そして――現れたのはなんと、色黒の筋肉。望月・巌(渚のシンドバッド・e00281)だった。
 『ワーオ』よくテレビで聞く効果音と共に、フローレスフラワーズで周囲に花びらのオーラを演出。局部はしっかりとガードし、恥ずかしそうなポーズをとる巌。
『おえぇぇぇぇぇ!』
 あまりのインパクトに男達が倒れる。
「女性諸君、どうだろうか、目のやり場に困るだろう? それに、公衆の面前で生まれたままの姿になり、俺はとても恥ずかしい!」
 そのまま女性達へと声をかける。顔を背ける者、まじまじと見つめる者、反応もまちまちだ。
「あ、でも……開放感があってちょっとだけ、気持ちイイかも……」
 これ以上は変な扉が開いてしまいそうと、巌は用意しておいた浴衣へと着替えた。
「今回の撮影のテーマは大自然! ということで、貝殻や海草で編んだ水着を着てきました! さあ、この格好でも大自然と一体になっていないと言えますかっ?!」
 面積の小さい水着に、恥ずかしそうにしながらも配信を続ける、ミューズ。
「嫌がる人々を無理矢理脱がすとはなんという奴ら! 許せん! 成敗してくれる!」
 配信しているカメラのすぐ近く、ソルヴィン・フォルナー(継ぎ接ぎの・e40080)が声をあげる。
「脱がされる恥を知らぬが故、そんな事ができるのだ」
「即ち! お主らにその恥を教える為! わしは! 心を鬼に! 鬼にして! ……脱がす!」
 ソルヴィンが詠唱を開始する。そして――、
「行くぞい! 『LayerRayer』」
「へっ? きゃああっ!」
 消え去ったのは配下の水着ではなく、ミューズの水着。
 ――しばらくお待ちください。
 配信されていた動画の画面が瞬時に切り替わる。
『えっポロリ!?』『ミューズちゃあああん』『カメラマン仕事しすぎぃぃぃ』
 画面に流れるコメントの嵐。
「くっ! 操作を間違えてしもうたわ! 誠に! 申し訳ないッッッ!」
 言い終わると同時、ソルヴィンはダッシュでその場から逃げ出した。


「ぐはっ!」
「ぎゃふん!」
「あぁん」
 正気に戻った配下達をバイオガスの外へと避難させ、説得しきれずに残った配下をテレサ、燈、リシュティアの3人が気絶させていく。喜びの声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
「隙ありぃいいい!」
 配下の対処に集中していた、テレサの側を駆け抜けるビルシャナ。その手には一瞬で剥ぎ取った白と黒の水着。
「……っ!?」
 水着を取られ、テレサが耳まで真っ赤にしてへたり込む。かろうじてビニール浮き輪で、下半身の大事な部分は見られずにすんでいる。
「みせられないよ!」
 エルネスタが咄嗟にプライバシーミストで、テレサの姿を隠す。
「ぐえっ」
「さて、残るはあなただけよ」
 最後の配下を昏倒させ、リシュティアはビルシャナに向き直る。
「ちゃっちゃと退場しちゃってくれい」
 巌が星形のオーラを浴びせる。更に燈の獣化した拳にゆかりの回し蹴りが続く。
「ぐはぁっ」
 盛大に吹き飛ぶビルシャナ。
「や、やるな……だがっ」
 風が巻き起こり、リシュティアの水着が宙を舞う。攻撃を喰らいながらも、やることはひたすら服を脱がすこと。
「プライバシーミスト!」
 すかさずエルネスタの援護。
「フォーチュンスター」
 ミューズの星形オーラに、ソルヴィンの槍の一突き。
「虐げられた人々の怒りや無念を糧にして、『アヴェンジャー 』のケルベロスたる望月・巌の名において命ずる! 虎よ、復讐するは我にあり!」
 巌の生み出した炎の虎がビルシャナに襲い掛かる。
「いやあの、隠してくれるのはいいけど、このままじゃ着替えられない」
 炎がビルシャナを焼く中、リシュティアは裸を隠してくれていた、ネイロに声をかけている。
「我、空になりて邪悪を断つ。人を超え、獣を超え、カムイとならん。大自然のお仕置き、やってやります!」
 燈が蒼白いオーラを身に纏い突撃。
「ブリュレもお願い」
 ゆかりが翼から聖なる光を放ち、オルトロスのブリュレが口に咥えた剣で斬りかかる。
 ビルシャナが駆け、ソルヴィンの服を剥ぎ取るが、
「服など気にしとる暇はない!」
 全裸のままソルヴィンは地獄の炎を叩きつける。
 そこへ天高く飛び上がっていたミューズが、虹をまとい急降下。
 ビルシャナが吹き飛ばされた先には、水着からメイド服へと着替えなおしたテレサの姿。
 そして、涙目のまま『ジャイロフラフープ・オルトロス』を構える。
「当たれっ!!」
 高威力の弾丸がビルシャナを撃ち抜いた。


「もうお嫁にいけない」
 散々な目にあったと落ち込みながら、結局使うことのなかったメイド服をアタッシュケースへとしまっていくテレサ。
「見られる前に隠したから、大丈夫だよう」
 テレサを手伝いながら慰めるエルネスタ。
「何ということじゃ! 余りの解放感に興奮してきたわい……ワハハハハハ!」
 腰に手を当て、全裸で佇んでいるソルヴィン。身体の一部分が元気になりかけている。
「ちょっと! 笑ってないで、バイオガスが無くなる前に服着なさいよ?」
「まぁそこまで言うなら着るかの」
 リシュティアが慌てて声をかけると、ソルヴィンはようやく服を着始めた。
「ごめんー燈ちゃん。ね、機嫌なおして、ほら泳ご」
「今そんな気分じゃないですっ。あんな……人前でなんて」
 謝るゆかりにプイッと顔を逸らす燈。
「それならさ、今度二人っきりで遊びに行こっ! ね?」
「それならまあ……ほんとゆかりさんったら」
 機嫌を直し燈は微笑んだ。
「プロデューサーさん! 私の裸、配信されてないですよね? ね?」
 ミューズにガクガクと揺られながら、頷くプロデューサー。
「砂まみれになっちまったか」
 巌が脱がされ放置されていた、着ぐるみを回収する。
 バイオガスが晴れ、気絶していた配下だった人達も目を覚ます。
 海水浴場には普段通りの活気が戻ってきている。
 その様子を確認し、ケルベロス達は海水浴場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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