●呪鏡の怪談
「ねぇ、あなた達。怪談は好きかしら」
新学期も始まったが夏の暑さは衰えを知らず。うんざりしながらも木陰での同級生との談笑で部活後の熱気を緩やかに冷ましていた少年達に、不気味な雰囲気の女が語りかける。
フードを深く被った異様な雰囲気に呑まれ、少年達はつい肯いてしまう。
「学校の裏手の倉庫。使えなくなって、とりあえず置いてあるだけの物がほとんどだけど一つだけ。一つだけ危険だから置かれている物があるの」
それは姿見。昔、ある姿見の前で原因不明の死を遂げた少女がいて、その想いが鏡に棲み憑いた。それ以降、夕方の四時四十四分になると鏡に少女が映るようになり、その少女に誰かの名前を十三秒以内に言う事ができればその人に呪いが降りかかる、と女は語った。
「その噂を重く見た学校は姿見を誰の目にも触れない場所に封印した……なぜ捨てなかったのか? それはね、捨てても戻ってきたのよ」
割ろうとして近づけば原因不明の高熱に苦しんだという話も聞いたことがあるわね、と楽しくてしょうがないというような笑顔を浮かべて語る女に、最初は聞いているだけだった少年達もその話に興味を抱いてしまう。
「そんな怖い話聞いたことないけど……」
「それって本当なの……あれ?」
一瞬顔を見合わせた少年達が再び女の方を見たが、そこには誰もいない。
「ほんとか分からないけど怖い話だね」
「あの辺り昼でも暗いし、雰囲気あって肝試しにいいかもな」
「肝試しというには夕方だけで夜には出てこないみたいだよ。……でも部活ない日に、一回見に行ってみるのはいいかも?」
再び雑談を始める少年達。恐らくそう遠くない日に件の倉庫に噂を確かめに行くのだろう。
それが異様な雰囲気の女――ホラーメイカーの狙いだとも知らず。
「少年達が向かう倉庫にいるのは屍隷兵。ドラグナー『ホラーメイカー』による事件だろう」
雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)は集まったケルベロス達に告げる。初老のシャドウエルフの男――ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)が知った、とある廃屋の鏡に呪いを叶えるものが住んでいるという怪談。それに似た内容の怪談がホラーメイカーに作り出されて事件を引き起こすようだ、とヘリオライダーは説明を始めた。
「ホラーメイカーは事前に作成した屍隷兵を学校に潜伏させた後、怪談に興味を持つ学生に屍隷兵を元にした内容の怪談を聞かせ、屍隷兵の居場所にやってくるように仕向けているようだ」
既に行方不明になった人もいるらしい。一般人が事件現場に来ないように対策した上で速やかに屍隷兵を撃破して欲しいと白熊の女は言った。
「現場となるのはとある学校の裏手にある倉庫。廃品置き場にしている建物で、中身は割と雑多な物が置かれている」
殆ど使ってないような物ばかりのようなので、戦闘の余波である程度破損しても問題はないと思われると知香は説明した。
「遭遇については怪談の内容通り、夕方倉庫に向かえば学生達が接触する前に遭遇自体は可能だろう。ただ、戦闘中に一般人が現場に現れる可能性はあるから、近づけないように何らかの人払いの手段は準備した方がいいかもしれない」
敵は大柄な屍隷兵が一体。全身に鱗が生えており、腕部に生えたものは特に硬質で鋭利。それを屍隷兵の腕力でスパイクのように叩きつけ人間を破壊する。さらに胴体には光をよく反射する細かな鱗がびっしりと生えており、見方によっては姿見のようにも見える。勿論それもただの飾りではなく、怪光線を放つ事もできるようだと知香は語る。
「……しかし怪談を利用して事件を起こし、自分は隠れて高みの見物ですか」
何とも用意周到ですね、と執事らしい丁寧な口調でヒルメルが呟く。
「ともあれこのままだと屍隷兵が確実に事件を起こす」
一般人が被害に遭う前に、早急に対処して犠牲者を出さないように頼む、と知香は締め括り、ケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
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メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) |
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132) |
ゼレフ・スティガル(雲・e00179) |
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096) |
西院・織櫻(櫻鬼・e18663) |
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222) |
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635) |
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017) |
●夕暮れの怪談
夕方の学校。その片隅にある倉庫に数人の人影がある。
「犠牲者を誘き寄せるための作り話、ですか」
それその物が都市伝説じみた行為にも思えると、家令然としたヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)は考える。
「怪談と言う物語はいつでも人の心を惹きつけるものじゃのぉ……」
こうして事件が起こらなければ笑って済ませられる範囲なのじゃが、と姿に似合わず老成した口調の青年は藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)。本来彼は夜行性だが、夕方の今は比較的元気だ。
「怖い話なんて、いかにも若い子達が好みそうだもんね」
だけど好奇心というのはこんな危険もあるわけか、と呟き褪せた冬色の衣を纏い周辺に一般人がいないことを確認しているのはゼレフ・スティガル(雲・e00179)。
(「……それにしても、人の心とは不可解なもの」)
恐怖とは何らかの危機に対する本能的な警告。それをあえて好むというのは、本質的に情緒が欠落したヒルメルにとっては実に不可解だ。
「テープは準備してきたわ」
倉庫周辺にキープアウトテープを張り終えたメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)と、教員に事情を説明してきた月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が倉庫前のケルベロス達に合流する。
その間、倉庫に異変が起こらないか監視しつつ武器の手入れをしていたのはラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)。
「……生で見るのは戦争以来か」
数多の戦場を渡り歩いてきた楽天家の彼も屍隷兵の存在、そして趣味の悪さには思う所があるようだ。
「ドラグナーも……屍体などで。下らない物……こさえてくれる……!」
人の屍体を悪用するドラグナーの所業に、櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)も怒りを隠さない。
(「死者を斬るのは初めてですが……よい機会です。我が身と我が刃に感覚を覚えさせましょう」)
深紅の桔梗紋が鮮やかな漆黒の着物を纏うのは西院・織櫻(櫻鬼・e18663)。周辺を確認しているが、キープアウトテープの効果もあってか学生はいない。これに殺界形成が重なれば戦闘の間に一般人が迷い込むこともないだろう。
そして、ヒルメルと織櫻が殺界形成を展開。奇襲に備えた叔牙達ディフェンダーが扉を開け、まず倉庫に飛び込む。ヒルメルは倉庫内の電灯のスイッチを確認するが見当たらず。しかし、扉から射す夕日と、準備していたネックライト等の光源が内部を照らす――一つの巨大な姿をも。
それは短い足に長い胴、全身に鱗を生やしていた。全身の色に一部だけ、腹部にまるで光を反射する鏡のように細かな鱗が密集している。それを鏡というなら周りの肉体は額といった所か。それがのっそりと腕を上げ、侵入者たちに敵意を向ける。
「ぅげっ! 本当に来てた!」
嫌そうな顔をした朔夜が、肩に乗せた白いコキンメフクロウのポルテを杖へと変化させる。他のケルベロス達も武器を構え、戦闘が始まった。
●怪物は暴れ狂い
屍隷兵がそのびっしりと鱗を生やした腕でなぎ払おうとするも、オルトロスのリキが代わりに受け止める。
(「ドラグナーって…やっぱり変っ!」)
朔夜が黄金の果実を生成、その光で前衛に加護を与える。
(「……おっと、つい前に出そうになっちゃうな」)
今日の御役目は回復役だと自身に再確認しつつ、ゼレフが白犬を癒す。前でも後ろでも、仲間の安全を預かることに変わりはない。
「任せて、前だけ見ててよ」
促された攻撃手の中でいち早く動き出したのはメリルディ。
「動かないでっ!」
ランタン型のライトを倉庫の端から内部全体を照らすように放り投げ、粉砂糖を屍隷兵の足元へと振りまき動きを鈍らせる。さらに重ねて織櫻が螺旋のエネルギーを掌から解き放つ。
カノンが弓を引き絞り、射抜いた相手を魅了する矢を放ち、さらにヒルメルが手の中のスイッチを押すと、屍隷兵を中心とした爆発が起こる。
「これ以上被害が広がらぬように確実に処理せねばな」
まだ回復は必要ないと判断したラジュラムが透明感のある刃に雷の霊力を纏わせ突くも、呪縛も消耗も少ない屍隷兵に回避される。
「端子展開、放電開始……!」
背中のウイングを展開した叔牙が両掌の電撃端子から雷電を生成、それを屍隷兵の胴体へと打ち付け、雷撃を流し込む。
「お前の主は何処だ?」
朔夜が問いかけつつ愛杖を白梟へと戻し、魔力を込めて射出。胴体に直撃し屍隷兵を包む呪縛を増幅、さらに白オルトロスのリキが睨んで発火させた。
「あと、お前が連れ去った子は何処にやった?」
いずれの質問に反応なく、屍隷兵が上半身を振るい、それを避けた白梟は慌てて主の下へと舞い戻る。その振るった勢いで両腕を近くにいたメリルディに激しく叩きつけようとするが、ラジュラムがそれを阻み斬霊刀で受け流す。
(「……重いな」)
受け流してなおその攻撃は重く、刀を持った腕、そして足に痺れが残る。
叔牙がオーラを飛ばし呪縛を解除するも、傷の完治には遠い。
「大丈夫、いけるよ」
それに重ね、ゼレフがささやかな声援と共に薬液の雨を降らせる。
「ありがとう、ございます」
後ろからの支援にレプリカントの少年が思わず礼を言う。屍隷兵は一体、けれどケルベロスは八人。一人で全てを担わなくてもいいのだから。
礫をカノンがばらまくように放つ。薄く白が降り積もった床に黒い穴が穿たれ、屍隷兵の脚にも同じように風穴が開く。それに乗じてヒルメルが影のように忍び寄りナイフを振るうも、運悪く振り上げた腕に阻まれ回避。さらに跳躍した叔牙が星型のオーラを蹴りこもうとするが、間が悪くその腕で防がれ衝撃を流される。
「ここが弱いかのう?」
上方に気を取られた敵の隙を突いて飛び込んだカノンが屍隷兵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を加える。足止めは仲間が十分やってくれる、なら守りを崩す方が効率的にダメージを与えられるとの判断だ。
(「もう屍隷兵にされちゃった人は無理だけど、増やさないことはできるよね」)
少しずつでも止めていく、その決意を胸にメリルディが片手を屍隷兵へと向け、
「縛って、ケルス」
同時、攻性植物が爆発的に伸びて屍隷兵を捕らえる。クラッシャーとしての火力も相まってきつく締めあげるも、屍隷兵は大きな反応もなく絡まる蔓をその腕力で千切り外す。
しかし、そこに生まれた隙を捉え、織櫻が屍隷兵の側面から螺旋鬼刃斬、螺旋の力を上乗せしたその斬撃が屍隷兵の腕に深々と食い込むものの、屍隷兵は意に介さぬとでもいうようにもう片方の腕を振るい、織櫻を吹き飛ばす。初めて死者を斬る感覚に僅かに戸惑うが負傷はそれほどでもない、つまりは戦闘継続に支障はない事を確認すると織櫻は再び二刀を構え、切り込む為の間合いを計り始める。
そこで攻撃の勢いが止まった事を機と見たか、鱗を生やした腕の鋭い一撃がヒルメルを襲う。暗く淀んだ赤色の鉄鎖で直撃を防ぐが護り手ではない為ダメージはそれなりに大きいが、
「大丈夫、まだ立てるだろう?」
体勢を崩しかけた彼にゼレフが緊急手術、ダメージの殆どを治療する。同時にその隙を埋めるように織櫻の黒の刃が緩やかな弧を描き屍隷兵を切り裂き守りを崩す。それを確認したヒルメルは静かに呟く。
「攻撃ばかりに気を取られれば、防御が疎かになるもの……お手伝いしましょう」
――死の恐怖を、想い出せます様に。その言葉と共に屍隷兵の影がぐぐっと持ち上がり、影の主の下半身に縋り付く。
それに合わせ朔夜がポルテに魔力を込めて放つも見切られ、回避される。
朔夜が活性化していた攻撃用のグラビティは全て敏捷が関わるもの。どうしても見切られてしまう為、思ったよりも効率的には行動阻害を行えない。しかし主に合わせ白い毛並みのオルトロスが飛び込み、咥えた刃で屍隷兵を切り裂く。
不意に、屍隷兵の体が縮こまる。まるで胴体部に力を込めているように見えるその姿に、
「危ない!」
敵の動きを注視していた朔夜が警告を発する。ラジュラムと叔牙、リキがその言葉に反応した直後。
屍隷兵の胴体部の鱗から放たれた光が後衛を包み込んだ。
●怪物は要らず
後衛を狙った光線は警告もあり殆どがディフェンダー達に阻止される。唯一直撃を受けたゼレフも、
「残念――けっこう頑丈なんだ」
鱗の光に焼かれながらも飄々と笑みを作り、ゼレフが薬液の雨を降らせる。それほど慣れてはいない回復手としての立ち回りだが、判断は的確。護り手のみでは不足する癒しを十分に補う彼の動きがあるから攻撃手も回復に手を裂くことなく専念できる。彼のみでなく叔牙もウイングを展開したままステップを踏み、花びらのオーラを降らせ庇った前衛を癒す。
「お返しよ」
ドラゴンの幻影をメリルディが召喚、屍隷兵を業火で包み込む。ただでさえ威力の高い火炎がクラッシャーとしての効果、そして重ねられた足止めで急所を捕え易くなっている事も相まり、屍隷兵がついによろめく。しかし、その視線は相変わらずケルベロス達に向かっている。
その動きを見逃さず、側方から音もなく飛び込んだ織櫻が影のように密やかな斬撃を屍隷兵の頸に見舞う。反撃しようと屍隷兵が織櫻へと腕を振り上げるが、
「そこじゃ!」
その瞬間、カノンが抜き打ちで礫を放ち腕にぶち当てる。そのまま腕を振り下ろすも、勢いを削がれた攻撃は織櫻の代わりに叔牙が受け止める。その圧力にみしみしと全身軋むも、
「護り手、担ったからには……簡単に、誰かに……膝に土など、付かせない……!」
彼の役割は護る事、そう決めたからには倒れる訳にはいかないとオーラを溜め凌ぐ。
「さて、仕切り直しだ」
さらにラジュラムが掌を広げると桜色の花びら――彼の瞳に灯る桜色の地獄の炎の片鱗が溢れ、叔牙の傷を癒す。その隙にゼレフも自身に手術を行っており、傷は大方癒えている。
それから数分戦闘は続く。
屍隷兵はすでに全身に傷を負い、鱗も傷だらけで剥がれ落ちたせいでまばらになっている。対してケルベロス達は二度ほど強烈な一撃を受けたが、増幅された武器封じとプレッシャー、そして護り手と癒し手による手厚い回復により倒れた者はいない。オルトロスのリキも屍隷兵の腕から幾度もケルベロス達を庇い消耗してはいるが健在だ。
(「逃げる様子はなさそうか」)
傷も随分深くなっているが、朔夜が見ている限りにおいて不審な動きや逃走の素振りはない。
護り手、癒し手が十分であるのなら、自身は攻撃に専念するのみ。カノンが妖精の弓を再び弾き絞り、魅了の矢を狙い撃つ。鱗の守りの崩れた個所を正確に射抜き、屍隷兵の動きが衝撃に一瞬停止する。
(「……どちらも私には分かりませんが、愛とは恐怖を超えるための力に思えます」)
ヒルメルは悲惨な生の内に恐怖も情緒も本質的に欠落した。それを哀しいとも思わないが、一度死したも同然の自分を救った主の慈愛という感情を知りたくもある。だからこそまずは本能に根ざす恐怖を、彼は理解したい。
(「皆様の他者を悼む心もまた慈愛……彼の敵がそれを貶めた」)
なれば、見逃すはずもない。ヒルメルが幾度目かの影の呪詛を放ち、屍隷兵の攻撃を鈍らせる。
屍隷兵が諦めずその剛腕を振るうもラジュラムが受け止め、
「花楽音流――」
体に染み込んだ流派の動きが、空の霊力を纏ったカウンターの斬撃として屍隷兵の傷と呪縛を一気に拡大させる。
「困ってなくても唱えてください♪」
翼の生えた巨大な獣の御業を朔夜が呼び出し、御業から雷撃のような一撃が放たれ屍隷兵を撃つ。
「さあそろそろ終わりかな」
押し切れると判断したゼレフが短刀を翳す。何も映さぬはずの銀の刃に恐ろしい何かを見たのか、屍隷兵が怯む。
「コル、お願い」
纏うドレスと似た濡羽色の刃を閃かせ、メリルディが橙の精油の香りと共に屍隷兵を幾重にも深く切り裂き、表面の鱗をごっそりと削り落とす。
「――我が刃の前に如何なる守りも無意味と知れ」
刃に桜の象嵌が施された斬霊刀に螺旋の力を乗せた、織櫻の螺旋の力を乗せた強烈な斬撃。彼が刃を振るうのは善悪でも使命でもなく、ただ己の為。全ては刃を磨いた果てにある至高の為の糧。その一撃を受けた屍隷兵は防御しようとした腕ごと胴体を両断された。
●怪談のあと
織櫻が愛刀を軽く拭い、納刀する。拭う様は斬った感触を忘れないように己の剣技の糧にするかのように。
「ドラグナーって……本当に変な奴ばっかり……」
ヒルメルとカノンと共に屍隷兵の攻撃で穴の開いた壁をヒールで修復しつつ、朔夜は理解できない風に呟く。メリルディは破壊痕の残る倉庫の品々を元の位置に戻している。ほぼ使わない品しかないとはいえ、そのままにしておくのは気が咎めるから。手入れを終えた織櫻も合流する。
「ホラーメイカーの、下らない真似は。必ず……ケルベロスが、止めて見せます」
どうか、安らかに、と白菊を一輪供え、叔牙が黙祷する。屍隷兵と犠牲になった人の両方に向けて。ヒールを終え、同じく弔いに来たヒルメルの表情は戦う前と変わらない。
その一方で、理科室の骨格模型を使い、上からいきなり吊り下げる仕掛けを作っているのはラジュラムと、素のノリの良さから手伝っているカノン。噂を聞いて訪れた学生へのささやかな悪戯だ。
「怪談は矢張り笑って済ませられるのが一番じゃ」
遠くない日に来るだろう学生達がいつか笑って話せるお話になるか、それは分からない。
倉庫の後片付けを終え、校門を出ると秋の日はすでに落ちていた。
「ああ、月が綺麗だ」
今なら近くのコンビニで酒と焼き鳥でも買って月見酒するのもいいかもしれないな、とラジュラムは思う。
「しかし怪談とは……本当に不可解です」
後にした学校を振り返り、ヒルメルが呟く。
「まあ、ささやかなスリルに期待してしまうのもまた人間ってもんだから」
肝試し、楽しい思い出に終わればいいね――掌に灯された炎を吹き消し、また遠くない日に訪れるだろう学生達の姿をゼレフは想像した。
とある学校に悪意あるデウスエクスによって作られた怪談による事件。
好奇心を利用し、青春の思い出の一幕として語られるはずの怪談を悪用して犠牲者を生み出すはずだった事件は、こうしてケルベロス達によって未然に防がれたのだった。
作者:寅杜柳 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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