絆を継ぎ接ぎ

作者:天枷由良

●異形を作る
「ゆうすずみかい、たのしかったね!」
 食卓を囲む家族に澄んだ眼を向けて、幼い娘が言った。
 片手にはスプーン。もう一方の手には、赤い風車。
「みっちゃん、ご飯食べる時はおもちゃ置いておきなさい」
「やだ! だってこれ、にぃにがくれたんだもん!」
 窘める母に抗い、娘は年の近い兄に縋り付く。その可愛らしさに母だけでなく、頼られた兄も、見守る父や祖父母も顔をほころばせる。
 それから祖母が「本当にお兄ちゃんが好きなんだねぇ」とこぼせば、力強く頷いた娘は「ばぁばもじぃじもすき!」と付け加え、父が拗ねたように「お父さんは仲間外れかい?」と言って、また笑う。
 和やかな一家団欒の一幕。ゆえに不幸が招かれるとは、誰一人とて思うまい。
 何処からともなく忽然と踏み入った、黒ずくめの男。不気味な操り人形を手にするそれは、瞬くほどの間に大人四人の身体を切り分ける。
 悲鳴を上げることもできないまま、赤く染まった顔をこわばらせ、それでも本能的に妹を守ろうとはだかる兄の頭を、捻り切る。
 そして血が滴る生首を手にしたまま、男は娘の前に屈み込んで笑う。
 何も心配することはないと。
 家族は『いつまでも一緒』なのだと、そう言いたげに。

 大小六人分の人間だったもの。それだけあれば材料は十分なのだろう。
 分けた死体をつなぎ合わせ、男は口にするのもおぞましい怪物を生み出した。
 六本の脚と六本の腕が生えた、脈動する巨大な人型の肉塊。兄の生首が頂点に据わり、その下には娘の顔が覗く。余った手足と大人たちの頭で組まれたお供が、周りで跳ねる。
「にー、にぃに……ああ、アアアア……」
 もはや縋ることもできない兄を呼んで、嘆く娘の声は夜闇に消えていく。
 巨体で蠢く腕の一番小さなものには、未だ風車が握られていた。

●ヘリポートにて
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は陰鬱な表情のまま手帳を閉じ、ケルベロスたちに向き直った。
 屍隷兵の研究を利用する勢力が現れるのではないかと危惧していた神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)とて、果たしてこれほど悲惨な予知がされると思っていたかどうか。
「今からでは『螺旋忍軍の傀儡使い・空蝉』の凶行は止められない。けれど、作成された屍隷兵による近隣住民への被害は食い止められるわ。急ぎ現場に向かって、この事件を解決……そう、解決してちょうだい」
 一家が暮らしていた地域は農村部で、最も近い住民との間にもそれなりの距離がある。避難などを考えることなく、ケルベロスたちは屍隷兵の殲滅に力を注ぐべきだろう。
「接敵は被害者宅の前。開けた砂利道で、戦闘に差し支えるようなものはないわ。灯りもないけれど、月明かりでも十分に見えるでしょう」
 敵は3メートルほどで多腕多脚の屍隷兵が一体と、手足や頭を組み合わせた小さな屍隷兵が四体。お供はさておき、本命の方は屍隷兵にしては高めの戦闘力を有している。
「多腕多脚が繰り出すのは、巨体を活かした突進、殴る蹴るなどの格闘ね。力任せで単純な攻撃だけれど、直撃すれば大ダメージを被るのは必至よ」
 お供の方は噛み付いたり組み付いたりで、ケルベロスたちの動きを止めようとしてくるようだ。本命を守ろうともするようだから、早めに除去した方が良いかもしれない。
「……皆が刃を向けた時、そして振るった時、相手が見せる姿や発する言葉に惑わされることなく、務めを果たしてくるのよ。屍隷兵にされた彼らを救う手立ては、ないのだから」
 絞り出すようにして、ミィルは全てを語り終えた。


参加者
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
九十九折・かだん(泥に黎明・e18614)
リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)
水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)
レイ・ローレンス(白雪の花・e35786)

■リプレイ


 夏の夜らしからぬ涼やかな風が、死の香りを運ぶ。
 それを仄かな月明かりの下で嗅ぎ取って、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は道中幾度となく零しかけた望みに別れを告げた。
 分かっていたことだ。戦う以外に方法はない。彼らを救う術などない。
 口を真一文字に結んだまま、円筒の先端を擦って放るフィルトリア。やがてケルベロスたちの決意を示すかのように煌々と輝き始めた炎の先を、旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)と水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183)がライトで照らす。
「っ……」
 浮き上がった異様な風貌に、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は息を呑んだ。
 人ならざる巨体を形成する肉塊。二つの顔。六本の手足。微かな呻き。跳ね回る『余り物』たち。
「こんな酷い事、ないよ……」
 心の臓を潰されるような感覚に耐えかね、シルヴィアは洩らす。それに小さく言葉を返した竜華が、友の固く握られた拳に目を落として語る。
「戦いとは無縁の方々をこの様な姿に変え、死して尚、道具とするとは……」
「……趣味が悪ぃぜ」
 十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)も怒りに震えながら呟けば、千咲が「早く解放してあげなければいけませんね」と答えた。
 傍らではリップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)が虚ろな顔で、こくりこくりと頷いている。
「せめて、この悪夢を……少しでも早く……終わらせて……あげないと」
 自身には想像し得ない悪意の産物に打ちのめされたか、友愛のボクスドラゴン・ホルスを連れるレイ・ローレンス(白雪の花・e35786)が絞り出すように声を発した時。眼前の異形は、か細く「たすけて」と口にした。
 その響きは見かけの歪さからかけ離れた、純朴な少女のもの。多くのケルベロスが苦悩に揺さぶられるなかで、しかし九十九折・かだん(泥に黎明・e18614)は冷ややかな表情のまま剣を構えて言う。
「私達に、お前達を救う手立ては無いそうだ。……お前達家族が、人殺しの怪物になるのを、食い止める事しか出来ないそうだ」
 ならば、せめて――淡々とした台詞の下に全てを秘して、かだんは駆動式の刃を唸らせた。
 けたたましい音に巨体が身じろぐ。秩序無く跳ねていた余り物たちが敵意を察してか、ぞろぞろと巨体を庇って並ぶ。
 そこにまだ残る家族の絆を感じながら、ケルベロスたちは今一時、心を圧し殺す。


「カードイグニッション! 黄金の果実!」
 レイの手元から陰鬱な気配を祓う輝きが放たれて、ケルベロスたちの背中を押した。
 弾かれるように地を蹴るかだん。彼女を追い越す形で、竜華が操る八条の鎖が余り物の一つに絡みつく。
 深い皺の刻まれた顔は絞め付けられるたび、しゃがれた声で「ヤメテクレ」と懇願した。巨体が嘆き、残りの余り物たちも呼応して奇声を発す。
 しかし彼らが襲い来る前に、かだんの脚が雷光の如き速さで空を薙ぐ。蹴り飛ばされて地を転がった老爺の頭は、天から降る千咲の爪先に打たれて止まり、フィルトリアが放つ光の戦輪によって他の余り物たち諸共、切り刻まれていく。
「ぱぱ! まま!」
 悲痛な声に、またシルヴィアの心が抉り取られる。一言「ごめんね」と呟いた彼女が巨体と余り物の間に割って入ったのは、せめて父母たちの顔をしたそれが痛めつけられるところを見せまいとする、優しさだったのかもしれない。
 そしてシルヴィアは、堰を切ったように歌いだした。屍隷兵となった一家を待ち受ける未来など一つしかないと知りながら、追憶に囚われず、前へと進む者の歌を歌った。ヴァルキュリアが宿す慈悲の心は音に溶け、大気を伝い、幾重にも湧き上がる屍隷兵たちの苦悶を暫し封じ込める。
 その一瞬に機を見出して、刃鉄が電光石火の蹴りを打つ。相手は集中攻撃を受けた老爺。柔らかく不快な感触を受けつつも脚を振り抜けば、衝撃が砂利と肉片を吹き飛ばし、人頭以下に成り果てた塊はただ呻くばかりとなった。
「アア、ウア、ア……!」
「っ……うるせえ、少し黙ってろ!」
 言い返してしまってから舌打ち、刃鉄はすぐさま大振りな槍斧を構える。
 これは仕事。ケルベロスとしての義務。そうした意識で耳を塞ぎ、ただ倒すべき敵に繰り出す斬撃をイメージする。
 それから腕に力を込めて戦場を駆ける――はずだった刃鉄より先に、何かが戦場を走り抜けて老爺を攫った。
 赤黒い、泥のようなもの。その正体を掴む間もなく、薄ら寒い声が耳に届く。
「く、ふふ。に、く……肉。肉だ」
「……?」
 誰とはなしに溢れた疑問に、答えは返らない。ただ彼女は――リップは揺らめくように動き、泥の中から目の濁った顔を取り出して笑う。
 助命を乞うしゃがれ声はとうに途絶えて、代わりに場違いな台詞が際限なく続く。
「お肉、お肉が、いっぱい……ぁは……それ、じゃ、いただき、ます」
 そして聞こえてくる、骨の砕ける音。肉が潰れる音。
「ん……ぁ……くふ、ふ……おいしい、やっぱり美味しい」
 リップは汚れた口元を拭いもせず、爛々と光る両眼で彷徨く肉たちを眺め、囁いた。
「次、は、どれを……食べよう、か」

「――あ、あぁ……あああああああああっ!!」
 冒涜的な行為に絶叫が轟く。
 家族を貪られた少女の嘆きは留まるところを知らず、前衛に立つ者たちを激しく揺さぶった。
 身体が軋み、視界が明滅する。世界がひっくり返るような感覚に、気が触れてしまいそうになる。
 或いはいっそ、錯乱してしまったほうが楽かもしれない。そうとさえ思わせるほどの苦しみを和らげたのは、八人の中で最も小さな少女が放つ輝き。
 それは始めに受けたものよりも柔らかな、オラトリオの極光。レイが生み出す薄布の如き光に包まれたケルベロスたちは、続けてシルヴィアの歌声に赦されるような想いを味わって、今しがた起きた出来事に立ち向かうだけの力を取り戻す。
「何をっ……しているのですか! あなたは!」
 恨みがましげに牙剥く老婆の顔から品定めを続けるリップを庇いつつ、反撃に拳を打ってフィルトリアが叫んだ。
 けれど答えることも、ましてや省みることなどあるはずもなく。ただ貪るだけの存在と化したリップは降魔の力を口元に宿し、打ち返されたばかりの余り物、その喉笛を噛み千切る。
 赤い飛沫が上がり、戦場から声が一つ消えた。それでもまだ動く老婆を追ってリップは跳ねる。欲望のままに動く彼女と、所詮は出来損ないの屍隷兵。既に勝敗は決している。
 だが、白く禍々しい歯は獲物を捉えきれなかった。彼方から飛んできた小さな箱が既のところで捕食を防ぐ。そしてざらつく地面に落ちた後、箱から首を出した竜は今が好機と言わんばかりに一つ、グルゥと鳴いてみせた。
「……この炎の華、貴人方への手向けとさせて頂きます。どうか、安らかにお眠りを……」
 今日ばかりは、戦いの中にあってもしめやかに。悼む竜華の元から炎を纏った鎖が伸びて、老婆の顔を絡め取る。続けざまに振るわれた燃え上がる剣で両断され、それは桜花のように散って消えた。
(「……たべ、そこなっ、た」)
 心中に不満を漏らし、リップは戦場を見回す。
 なに、まだまだ肉は余っている。例えば、かだんに組み付いている女の頭。取り付けられた手足もどきは萎びて見えるが、首筋は先程貪った老婆の欠片より白く柔らかそうに思える。
 次は、あれにしよう。決めてしまえば甘美な夢と期待が膨らみ――すぐさま一転して、落胆に変わった。
 爪や指が身体に食い込むのも意に介さず、じっと立ち続けていたかだんの手元で剣が咆える。斬るというより叩き伏せるような、力任せの一撃が、女を容易く引き剥がして裂いた。
 またも聞こえる悲鳴に、幾人かのケルベロスが顔を曇らせる。
 本命の巨体に気を払っていた千咲も心を痛めて、しかしそれが何かを象って表れるよりも先に、彼女は女の顔まで躙り寄ると一分の躊躇いも見せずに、それを斬った。
 ただ身の内を曝け出すように、何度も何度も。
 やがて動きを止めた千咲の前には、もう斬れるものなど何も残っていない。そこでようやく、彼女の表情にも人並みの陰りが浮かんだ。

 あと余り物が一つと、六種六本の手足を備えた巨体だけ。
 先に倒すべきはお供の余り物。刃鉄が穂先に降魔の力を込めた槍斧を向けると、残されたそれは、自身より遥かに大きな異形を庇うように立っていた。
「コロサナイデ……コロサナイデ……」
 懇願する声に滲む親心。意識を傾けてしまえば太刀筋が乱れる。
 刃鉄は強い意志をもって口を噤み、刃を真上から落とした。その強力な一撃に耐えられるだけの力などあるはずもなく、最後の余り物も露と消える。
「ああ……ぱぱ、まま……じぃじ、ばぁば……」
 一人取り残されて、巨大な異形は啜り泣く。ぽろぽろと落ちる涙を拭い取るように、六本の腕が少女の顔を撫でた。
 細く白いもの。乾いて皺の寄ったもの。日に焼けた逞しいもの。まだ小さく、未来に向かって伸ばされるはずだったもの。
 それら家族全員の手足を一つずつ使って作り上げられた、悍ましき異形。此処に至ってまじまじと見つめざるを得なかった敵の姿に、フィルトリアは自らの過去に影を落とした螺旋忍軍の存在を思い起こす。
 しかしどれほど深い悲しみに浸っても、激しく憤っても、出来ることは一つしかない。ケルベロスたちは武器を構え直して、この忌まわしき事件を終わらせるために巨体を狙った。
 炎と蹴りが飛び交い、落ちた肉が燃えて異臭が漂う。そんな中でも未だ衰えることのない食欲に突き動かされたリップが、体当たりを影のように密やかな動きで掻い潜って少女の顔を切り取り、口元に運ぶ。
「あああああ! にぃ、に……にぃに! やだ、やだよぉ」
 ひしひしと迫る死を察したか、巨体は喚きながら膝を折った。その姿に聞き及んだほどの力が見えないことも手伝って、刃鉄の槍斧が勢いを失っていく。
 そして腕が届くほどの距離に立ち、刃鉄は向き合ってしまった。
 異形の中にある幼い少女と。死した家族に、兄に助けを乞う『みっちゃん』と。
 重苦しい現実が、深く解することを拒もうとしていた心を抉じ開け、流れ込んでくる。逸らすに逸らせない視線の先で泣きじゃくる少女に、己が半身と呼ぶべき亜麻色の髪が、空色の瞳が重なってしまう。
 生じた迷いで動きが止まったのは、ほんの一瞬だった。しかし。
「! しまっ――」
 我に返った時には遅く、一つに束ねられた腕が刃鉄に襲いかかっていく。
 体勢を整える間もなく砂利道に叩きつけられ、思考と酸素が纏めて吐き出される。積み重ねた戦士としての経験が身体を起こすが、巨体は天頂に座す少年の頭が主導権を奪ってしまったかのように猛って、質量に任せた突撃を食らわせようとしていた。
「カイゼリン!! 刃鉄お兄様を癒して!」
 レイが喚んだ女帝のエネルギー体に癒された刃鉄が槍斧を拾い上げ、握り直す。
 その前で一本の刀が閃き、月の形に似た軌跡を緩やかに残して巨体の脚を攫った。そうして斬って、巨体がふらつくのを目にしてから、千咲は申し訳無さそうな表情を浮かべつつ、もう斬る機会はないだろうと刀を収めた。
 それを証明するかのように、幾らか弱まった体当たりをかだんが受け止める。外から襲う衝撃だけでなく、内から込み上げるものも堪えて悠然と立つかだんは、敵が静止するのを待って跳び、一時的に変質した地獄の両足で頂点の部分を刎ねた。
 ごろりと転がる塊。巨体が前のめりに突っ伏して、腕を伸ばす。ひたすらに兄を呼ぶ声を、かだんがただの音だと流すことに努める一方で、刃鉄は強く歯噛みしながら受け止め、生じた感情を槍斧に転じて鋭く突き出した。
 大穴が開き、横たわった肉塊が徐々に崩壊していく。微かに聞こえた声は、未だ家族を呼んでいる。
「もう眠って……お願い……」
 シルヴィアが祈り、歌を紡ぐ。
 ――遠い、遠い、刻の果て……もう戦わなくて良いの、もう頑張らなくて良いの……アナタはもう自由、さぁ、新しい未来へ……。
 その歌声に合わせて、せめて安らかにとフィルトリアが願えば、何処からともなく燃え上がった純白の炎が、全てを浄めるように歪な肉塊を包み始めた。


 そして立ち尽くすケルベロスたちの前には、まだ少女の名残が留まる。
「辛かったよね……苦しかったよね。ごめんね、助けてあげられなくて……ごめんね」
 へたり込んで謝罪を繰り返し、途切れ途切れの鎮魂歌を口ずさむシルヴィアの頬を、溢れるものが伝っていく。それを竜華が寄り添って支えれば、ぷつりと糸が切れたようにレイも座り込んでしまった。
「この人たちが……何かしたわけじゃ……ないのに……酷過ぎる……」
 口にしてしまえば抑えることもできず、泣きじゃくる主の隣で困惑したホルスが鳴く。
 その光景は、リップにとって全く理解の及ばないところだった。
 そこにあるのは親でも子でも友達でもなく、ましてやヒトですらないもの。ただの肉。
 あぁもう一口。本能のまま近づこうとして――リップは突き刺さる視線に足を止める。
 戦いの最中、仲間たちは彼女の奇行を少なからず目にしていた。もしやとの疑念が、彼女の行く手を自然と阻んでいた。
 これでは咎められずに目的を達することなどできそうにない。リップは諦め、しかし不満を隠そうともしないまま、夜闇に消えていった。

 それからケルベロスたちは犠牲者を弔って、住人を失った家に踏み入る。
 万一、空蝉の痕跡でもあればとの思いからだったが……まさか手がかりなど残っているはずもなく。そこには夕食の並ぶ食卓と、おびただしい量の血。写真や少女が描いたと思しき似顔絵など、不憫な一家の存在をより知らしめるものばかりが置き去りになっているだけだった。
「空蝉……ぜったい……ゆるせないの」
 顔を拭って言ったレイに、ケルベロスたちは次々と同意を示す。
 少しでも早く元凶の居所を掴み、この残忍な所業の報いを受けさせる。
 そう固く誓って、ケルベロスたちは悲しみを振り払うように現場を後にするのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。