鎌倉ハロウィンパーティー~ヴァンプdeぱんぷっ!

作者:銀條彦

●All Hallows Eve
「ハッ! 浮かれちゃってバッカみたいッ!!」
 街のハロウィン商戦もたけなわ。
 受け取った『ハロウィンフェア』の文字踊るチラシを手に毒吐きながら歩く女がひとり。
 かっちりとしたひっつめ髪に眼鏡、黒のパンツスーツに身を包むその女性は世間ではいわゆるキャリアウーマンと呼ばれる人種で、勤め先ではそれなりの地位と年収を得ている。
「……コスプレなんて、ガラでもないし。かぼちゃのスイーツなんて……そんなにおいしいってワケでもないし……」
 だがその口から漏れる毒はどんどんと弱々しいものとなり膨らむ羨望が取って替わる。
 そんな彼女の前に、ゆらりと、『少女』は現れた。
 彼女以外に人気は途絶えていたはずの夜道。
 可愛らしい赤ずきん姿でひとり、外灯に照らされてニッコリとほほえみ掛け軽い足取りで近付いて来る『少女』のさまはそれこそ童話モチーフのコスプレのように現実感が無い。
「何よビックリさせないでよ。こんなトコロでまでチラシ配り? ……――――ッ!?」

 半ば八つ当たり気味にわめき散らそうとした彼女の豊満な胸を『鍵』は一気に貫いた。
 するすると吸い込まれるように人体へと埋まりあっさりと心臓へと達したその行為には、しかし、流血も痛みも全く生じない。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう」
 何かを吟味するかのように両目を瞑りながら、女が隠そうとした強がりやコンプレックスを『少女』はあっさりと暴いて可憐にそう告げた後に『鍵』は引き抜かれた。
 傷ひとつ残らぬ女の体は、しかし、完全に意識を失い深い眠りについてしまったかのようにガックリとその場に崩れ落ちた。
 そしてその傍らに新たに生まれた別の女。『彼女』が纏う真紅と黒を基調にしたゴシック&ロリィタのコルセットドレスは西洋の吸血鬼をイメージしたものらしく、蝙蝠の刺繍や薔薇のレース飾りが姫袖や裾の方々に豪奢に用いられている。
 大胆に開いた胸元や深い腿のスリットは大人向けなデザインな一方でワンポイント、愛嬌たっぷりのかぼちゃのランタンがハロウィン仕様を主張する。
 ――ただしその女吸血鬼は頭からつま先まですべてモザイクを人間のかたちに寄せ集めた異様な外見をしているのだが。

「世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 いかにもつくりものめいた牙を生やした口元を笑みの形に歪ませた後、『少女』に導かれるようにしてモザイクの女吸血鬼はその場から姿を消した。
 その向かう先は……。

●吸血姫のスイーツお茶会
 居並ぶケルベロス達に向けてセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はドリームイーターの暗躍についての依頼を切り出した。
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんの調査によれば、ドリームイーターが日本の各地でハロウィン祭に関する劣等感を抱く方達を襲い新たなドリームイーターを生み出しているようです」
 そしてそれらドリームイーター達全てが『世界で一番盛り上がる楽しいパーティー』、
 ――鎌倉のケルベロスハロウィンのパーティー会場へ一斉に出現すると予知されたのだ。
 復興を目的としたお祭りに乗じて再びデウスエクス達によって鎌倉市を荒らされる訳にはいかない。それを阻止し討伐する手段についてセリカはこう提案してくれた。
「ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティーが始まると同時に現れます。つまり実際にパーティが開始する時間よりも前にケルベロスの皆さんで盛り上がりあたかも既にパーティが始まったとドリームイーターに錯覚させるぐらいに楽しく振舞えばきっとドリームイーターは誘き寄せられてくることでしょう」
 そこをすかさず囲んで叩けばハロウィンパーティが始まる前に全てのハロウィンドリームイーターを撃破できるはずである。 

「皆さんに撃破して来ていただきたいのは吸血鬼のコスプレをした女性の姿のハロウィンドリームイーターです」
 外見がお祭り仕様なこと以外はドリームイーターとしては標準的な敵だが、自身と同じ吸血鬼や西洋のモンスターの扮装をした者により惹き寄せられやすい傾向にあるらしい。
「そして……ハロウィンらしいデコレーションの南瓜スイーツにも強いこだわりが有るようでしたので、オープンテラスのあるカフェを一軒押さえておきました。もしもよろしければこちらを誘き寄せのお茶会会場としてご利用ください」
 お店側の受け入れ態勢は万全でディスプレイは勿論のことデザート全品とお茶の用意をした上でいつでも退避スタンバイ。もしも腕に覚えがあるのなら、カフェの厨房を使って南瓜スイーツを自作するのもいいですねとヘリオライダーはにこやかに勧めてくれた。

「では本番のハロウィンパーティを心置きなく楽しむためのデウスエクス退治、頑張ってくださいね」
 ヘリオライダーからの激励とカフェの連絡先メモを受け取り、ケルベロス達は出立の準備を始めるのだった。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
シャス・ナジェーナ(紡ぐ翼・e00291)
リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)
ルシッド・カタフニア(真空に奏でる・e01981)
安曇野・真白(霞月・e03308)
イルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)
夜昏・三月(雨夜の月・e05761)
月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)

■リプレイ


 ハロウィンを前にきらびやかに飾りつけられたテラスは既に賑やかな雑踏の中。
 ――だが実際に目を遣れば音楽と共に耳に飛び込んでくる喧騒を生み出す程の人数は其処には存在しない。演出用BGMである。
 店内もオープンテラスもケルベロス御一行様貸切状態だがその分、バックアップ体制はバッチリでケルベロス側の準備にもぬかりは無い。

 既に卓上にセッティングされているスイーツはいずれもカフェ提供の品。南瓜のババロア、南瓜と和栗のロールケーキ、3種のカップケーキの内訳はパンプキンモンブラン&タタン風りんごケーク&ガトーショコラオランジェである。その1つ1つにゴーストや黒猫といったデコレーションが施してある。
「お店の方もなんだかやる気十分に感じられますね……存分に甘えさせて頂きましょう」
 幼い顔立ちに反し冷静沈着が常のリト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)も今はすっかり少年そのもの。
 ちなみに彼が選んだ仮装は頭に電極ネジを刺しツギハギメイクで古典準拠の人造モンスターである。
 同じくキラキラ眼を輝かせていた安曇野・真白(霞月・e03308)だったが突然そわそわと落ち着きの無い余所見が始まる。視線の先は更に奥の厨房だ。
「焼きたての匂い……」
 小さく鼻を鳴らした少女の仮装は生来の純白の獣耳と尻尾を活かした狼男の少女版と赤頭巾のお婆さま。何故混ぜたという仮装コンセプトはともかくひらひらナイトウェアもキャップも大変に愛らしい。

 厨房からは続々と新たなスイーツが運ばれ始める。
「魔女の作ったお菓子はいかがかしら?」
 夜昏・三月(雨夜の月・e05761)お手製菓子は、様々なハロウィンモチーフで型抜きし焼き上げられたサクサクかぼちゃクッキー。
 バスケットを手にウインクする姿は実に魅力的だが、預かり翼猫の銀を引き連れ三角帽に黒マントの魔女姿で黙々クッキー種をこねる姿は正直ちょっとアレだった。
 シーツ1枚おてがる幽霊のルシッド・カタフニア(真空に奏でる・e01981)は予め調理を済ませ冷やしておいた人数分の南瓜プリンを冷蔵庫から取り出し、蝙蝠型のチョコや生クリームなどで仕上げ終えた処だった。仮装面では手抜き疑惑が拭えずともプリンは中々の本格派。
 オーブンに付きっきりのクラシカルメイドさん、イルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)の背には蝙蝠羽。
 吸血鬼メイドが竹串で何度も焼き具合を確認し型から取り出せば現れるふんわり山吹色。しっとりやさしい南瓜のパウンドケーキの完成である。

 狼男のコスプレ店員に扮して給仕に励む月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867) 製作はかぼちゃのタルト。なめらかなかぼちゃの舌ざわりとタルト生地に対比は実に絶品。
 一方で料理の経験はそれなりのシャス・ナジェーナ(紡ぐ翼・e00291)は非自作組。
 曰く、
「師匠が食事にゃ頓着無えクセして茶と酒だけにはうるせえ人だったんで普通の飯はそれなりだがお菓子みてえなキラキラしてて分量きっちりは駄目。無理。ぜってぇ無理」
「ただし茶淹れるのは一寸自信あんだわ、任せてくれな」
 との事で、用意された何種かの茶葉を喜々として吟味する彼女に本日の紅茶関連はお任せなのである。

 全員がテラスに揃い自然と上座を譲られた骸骨騎士の偉丈夫、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)が音頭を取って恙なくお茶会の開催である。
「うむ、デュラハンとも迷ったのだがな。美味しいものが食べられぬことに気づいたのだ」
 骸骨殿も甘味はイケる口のご様子。

 警戒は怠らなかったが洋風百鬼夜行の和やかな歓談とケーキブッフェの一時を皆、心から楽しんでいた。
(「どれも美味しくてお芝居必要ございませんね♪」)
 幸せいっぱいの真白は音楽に合わせて踊り、鈴を鳴らし、カスタネットを打ち合わせる。巻き起こる拍手喝采。
「それじゃ今度は俺が珈琲を淹れて来……」
 夕が厨房へ踵を返そうとして即座に中断した。鳴らされる鐘の音。
「やれやれ、恥かしがり屋のお嬢さんにも困ったもんだ」

 戦いを前にシーツを脱ぎ捨てたシーツおばけの中から現れたのは……。
「結局またシーツかよっ!?」
「こちらは魔術補助用の呪布だ、全く違う」
 シャスのツッコミに対し安易には外せないとルシッドは大真面目な顔(推定)。

 鐘の音が鳴り響く。幾度も幾音も繰り返し。
 ジャック・O・ランタンの灯り一つをさきぶれにした女吸血鬼の登場を告げる為に。


 ケルベロスとドリームイーターのみとなった戦場でまず真っ先に動いたのはバニラエッセンスの香り纏わせた魔女。
 もっふり撫ぜていた銀を膝上から放した三月は立ち上がるや即応の攻撃で、扇情的に開いた女吸血鬼の胸元へ狙い違わず螺旋の軌跡描く氷結の手裏剣を突き立てた。
「魔女だけど、忍者なのよね」 
 からかうような笑顔を向けられても女吸血鬼から反応は返らない。そんな暇は与えられなかった。
「南瓜の菓子は見た目よりも優しい味わい。仮装も似合っているではないか」
 諭すようなレーグルの声。だが獄炎宿す両腕が振り上げた鉄塊剣は大上段、女吸血鬼の体を揺らがせる程の一閃でデストロイブレイドを浴びせ外傷と同時その心へ怒りの疵を走らせた。
 どうにか黒いピンヒールで踏み止まった女吸血鬼の首筋には気がつけば、ひやり、イルヴァの掌が当てられていた。
「楽しいパーティ、煌びやかな仮装。なによりカボチャのスイーツ!」
 ハロウィンってとっても素敵、と。
 仲間達の猛攻の間に敵死角へと滑り込み忍び寄ったその手管とはアンバランスにほほえましい少女の主張は、螺旋掌の威力と共に一気に解き放たれた。
「デウスエクスに、そんな素敵な時間を邪魔させるわけにはいきません! そしてカボチャのスイーツも渡すわけにはいきませんっ」
 一撃を浴びせた後イルヴァは突然ひらりとミニスカートの裾を翻す。大胆に露わとなった腿のガーターから禍々しい二振りのナイフを抜き放ちメイド少女は両手に握り締め隙の無い構えを取る。
「夢は喰らうものでなく見るものでございましょ?」
 可憐な寝巻姿で、それこそ夢見るようにおっとり語る真白の傍らにゆらり顕現した『御業』は敵を鷲掴んで縛めを強める。
(「もふっと獣の手足を戻して美味しい皆さまのお菓子を頂きたいですの……!」)
 そんな内心の願いの為にもカフェは死守せねばならないのだから。
「……さ、早いところご退場いただいて、パーティいたしませんと」

 だがドリームイーターとてされるがままで無い。
 付け牙覗く真紅の唇を除いてはのっぺりモザイクに覆われるばかりの顔面がぐにゃりと歪み、宙高く射出されたモザイクは一対の牙をはやした顎を形作る。
 直前にちらと首を向けていたのは真白に対してだったが女吸血鬼の胸にいまだ滾る怒りに引き寄せられ、牙剥いた先はレーグルだ。
「むぅ……」
 モザイクの一噛みが甲冑を貫き膂力と闘志の一部が掠め盗られる。だが直ぐに、穢れた牙の呪力を洗い流す雨が降り注ぐ。
 不機嫌そうに腕組みをしたシャスが放ったメディカルレインである。
「人の気持ちを暴くとか趣味わりぃっての。自分で踏み出してこそだろうによ」 
 山羊角映える薔薇の髪も極上の琥珀石を思わせるシャスの瞳も真っ直ぐな怒りを帯びて美貌に色添えていた。

 ルシッドは改めてハロウィン仕様だという夢喰いの女を眺め、まずはセンスの良さを褒め上げた上で、だが、と嘲笑しながら星辰の細剣を抜刀した。
「綺麗な服も着てる体がモザイクじゃ、ただのホラーだな」
 先までのとぼけた朗らかさとは別人の様に容赦の無い青年の懐中から零れるオルゴールの旋律は、青年の魔力と溶け合い劇的に変容する。
 呪布の『魔術師』がまるで指揮棒の如く幾度も天秤宮のレイピアを華麗に振りあげるのに呼応して『音』はいつしか「殲剣の理」を紡ぎ出していた。
 馴染みの男の挑発に乗る形で夕もまた。軽やかなフットワークから電光石火の飛び足刀を女吸血鬼へと喰らわせた後、
「借り物の衣装じゃなくて自分で選んだ衣装で参加したらどうだい。お嬢さん?」
 そうにこやかに吐き捨てた。モザイクの貌から表情は窺い知れず。ばさりと翻した外套の下、腰の南瓜ランタンだけが煌々と嗤い続ける。

「全力で排除します……デザートも月夜さんの珈琲も、お代わりを頂く約束、ですから」
 何よりも一般人であるのにギリギリまで準備に踏み止まってくれたカフェのスタッフ達の熱意とプロ根性に応える為にも必ずや討伐を完遂させパーティーを再開したいのだと。
 リトは珍しく依頼達成以外への要素にも僅かに、けれど確かに執着心を覗かせていた。 
 リトのスパイラルアームが黒ドレスのスリットからすらりと伸びる白い脚やコルセットで締められた腹部へ次々と襲い掛かり仮装ごと容赦なく女吸血鬼を切り裂いた。
 そして敵の注意がリトとの攻防だけに向いた隙を的確に嗅ぎ取ったイルヴァは黒影葬刃を逆手に持ち直す。
 刃に施された深紅の呪紋が鈍く光り、より、惨たらしい殺傷に相応しい形状へとその姿を変えてゆく。
「よーし、チャンスですっ」
 ピンと狐耳を立てながら明るくそう言い放つと同時、駆け出した少女が繰り出したジグザグラッシュはまるでつむじ風。
 淡い水色髪のポニーテールをたなびかせ素早く跳ね回りながら縦横に振るわれたナイフの斬撃の前に、断ち落とされた布地の面積は更に拡大の一途を辿る。
「あらあらまあ」
 更に上昇した敵露出を目の当たりにして真白は思わず頬を赤らめた。今、何かの拍子にこの女吸血鬼さんのモザイクが晴れてしまったらとドキドキ目が離せない。
「セクシィというよりも見てはいけないもの、な気がして……真白の目には毒な気がいたしますの」
 そもそもドリームイーターのモザイクが全て晴れる事態そのものの方がよほどの一大事な気もするのだが――おませなおこさまの天然と恥じらいおそるべし。

 夕のサーヴァントとして指示に従い此処までもっぱら前衛列への回復支援に徹していた翼猫が攻勢に加わる。浮遊したままライトグレーの尾をぐるんと一振りさせ敵めがけてリングが射出される。
 新手からの攻撃を女吸血鬼はかろうじて回避したが、逃れた先に待ち構えていたかのタイミングで発生した竜巻に右と左から同時に挟まれ、錐揉み状態となる女吸血鬼。
 三月の螺旋手裏剣が巻き起こした螺旋竜巻地獄の忍術である。
 銀と三月との間に偶然発生したまるで擬似的なコンビネーションの様な連続攻撃。
 その光景を目にした夕はそれまで続けていた敵への挑発を止めてしばし黙りこんだ後……フッと口の片端を歪めて軽く首を振り、再びいかにもやる気なさげに挑発を語り掛ける。
「恥ずかしがらずにパーティーに飛び込めばいい。楽しいぜ、ここはな」
 不可避の間合い、降魔の力乗せた夕の寸勁が鮮やかに命中し敵の生命を啜り上げた。


「その姿でなく本来のあなたでまたお会いしましょう」
 何処までも澄んだリトの赤瞳のひと瞬きを合図に、『VV(ヴァリアブルヴォイド)』は展開を開始する。
 耳部パーツと首元の専用装置から生じる干渉波はリトによってその出力を精密に調節される事で青と緑を交じる電撃めいた眩い『歪み』そのものを敵へと浴びせ――つまりは、また服が破れた。

 戦いは数に勝り連携もスムーズなケルベロス側が終始押し気味に進め、身に折り重なる状態異状の前にドリームイーターも攻撃の手を休めモザイクヒーリングに頼る頻度がじりじりと増えつつあった。
 ジグザグと押し進み、途中、一部をどぎまぎさせた敵の肌色もといモザイク色部分の露出もモザイク補修でかろうじて全年齢的な面積に踏み止まっている。
 だがドリームイーターやその外見がどうなろうとルシッドの知った事では無い。 
『――Nox I=S Cm=oves Vgts C2nx E=M=Tragoedia』
 編まれる魔術に刻まれた物語。
 拍を刻むかのようにレイピアは躍り、感情から溢れ出す力の奔流を制御する。
 激しく跳ね上がった刃先から零れ落ちた青紫色の鍵を以って、呪布の『魔術師』は夢喰いの精神を喰い荒らした。其れは彼が殊更に憎む夢喰いを想起させる彼独自の魔術体系の一。
 まるで何かに怯え、痛みに耐えるかの様な感情めいた反応が女吸血鬼のモザイク貌に初めて浮かぶ。
 その様子から畳み掛ける時と判断したシャスもまた己が内包する魔力を解放しその頭上へ強き一対の『翼』を生み出した。
「……判じろ。下す事が、お前の仕事だ」
 紡ぐ声に応じるは白銀の羽撃き。睥睨する巨鳥の審判を前に消耗著しいエウスデクスは為す術なくその場へと打ち据えられた。
 それでも女吸血鬼は倒れない。高く翳したモザイクの右掌から撃たれた一射は知識喰らいの貪欲さでルシッドを包み込まんとするも骸骨であり同時に勇猛な竜たる『騎士』が敢然と射線へと立ち塞がり其の狙いを阻む。縛霊手の巨腕はガッチリと真正面からモザイクを受け止めていた。
「汝の心の欠片は埋まったであろうか」
 胸の深きにまで達した『鍵』にもがき続ける女へ漆黒の竜人はそう問いかけた。
 答えは待たない。
 両の腕から一層激しく噴き上がる劫火の熱をレーグルは感じながら。刃とも呼べぬ武骨な刀身の一撃はモザイクの片手首を完全に砕き落とした。

「その顔、潰してあげる!」 
 不意に。軽やかな体捌きから発せられた肉を打つ……いや、挽き潰すかの如き乱打。
 此処までに三月は己が、味方が、傷つけられる都度に苛立ちを積み重ねて来ており、遂にその最高潮だった。
 明るくイタズラな黒瞳は今やすっかり真紅に輝き、金髪を振り乱し、狂い壊れ苦しめと女吸血鬼を解体する三月のさまはこの上なく危うく、美しい。
 ――だが。
「そのモザイクを叩き壊す。少し痛いが我慢してくれよ?」
 夢喰いを蝕み喰らい尽くしたのは、もうひとつの欠け月。
 夕の拳にグラビティが集まり、人から『狼』の其れへと急激に獣化が進む。
「放たれた狼は止まらないもんだ。獲物(アンタ)の命を狩りとるまでな」
 既に半ば潰された頭部には目もくれず突き立てられた『鍵』もろともに狼の鋭爪は女吸血鬼の心臓を穿ち、貫き、握り砕いたのだった。

 亡骸はぽむりとコミカルな音と煙を立てると同時、跡形もなく消え去った。 ――そしてその後に残されたモノが1つ。
「これは……?」
「あら、素敵なハロウィン飾りですわ」
 何の力も感じられない、手に取った真白の台詞通り只のジャック・O・ランタンでしか無いようだった。念入りに安全を確認した後、ドリームイーターを産み出した女性の代わりに会場飾りとしてパーティーに参加させようという事で意見は纏まった。
「そして、貴殿にとって来年は楽しい夜となれば良い」
 今頃目を醒ましているであろう女性の今後の幸いを想い、レーグルは囁いた。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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