拗らせた恋心は腐臭を放って

作者:質種剰

●臭い怪談
 放課後。
 数人の男子生徒が中庭に腰を下ろして駄弁っていた。
「ウチのクラスは宿題一週間待つって」
「どんだけやってへん奴多いねん」
 夏休みの宿題という定番の話題が尽きぬ中、妙な格好の女が近づいてきた。
「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
「好き、だけど」
 不気味な雰囲気の少女に恐れをなして、男子生徒は半ば反射的に頷く。
「そう」
 言質を取ったとばかりに語り出す少女。
「旧校舎の裏のイチョウの木には、その側で銀杏の臭いを厭わずに告白すれば結ばれる……そんな噂があったの」
 幾人もの女子が学年一のモテ男に告白しようと、イチョウの木へと向かった。
「けど、呼ばれたモテ男がイチョウの木の下に現れても、女子は誰1人来なかった」
 ただ、モテ男が女子に呼び出される度、イチョウの下に落ちた銀杏の悪臭は強まっていった。
「……何で?」
 男子生徒が息を呑む。
「実はね……モテ男を呼び出した女子生徒は……全員バラバラにされて木の根元に埋められていたの」
 犯人の女子もまたモテ男へ片想いしていて、ライバルを全て消した後、彼をイチョウの木に呼び出した。
「その子が告白しようとした時……イチョウの根がメキメキと音を立て始めたわ」
 地面をぶち破って根っこが外気に触れ、それを怪力で押し上げた存在も2人の前に姿を現す。
「それは、バラバラ死体になった少女達が、手足を継ぎ接ぎして蘇った異形の怪物……」
「ひっ」
「怪物は犯人の女子を八つ裂きにして身の内に取り込み、逃げ出した男子をずっと探し続けて……今も旧校舎の裏を徘徊してるそうよ……」
 女が怪談を語り終えて去った後、男子生徒達は湧き上がる興味を抑えきれずにいた。
「なかなか怖い話やったな」
「怪物ってマジでいるんかね?」
「そのイチョウの木掘り返したら判るんちゃう?」
●全ては嘘っぱち
「ドラグナー『ホラーメイカー』が、屍隷兵を利用して事件を起こそうとしてるであります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「ホラーメイカーは、作成した屍隷兵を学校に潜伏させた後、怪談に興味のある中高生へその屍隷兵を元にした学校の怪談を話して聞かせ、彼らが屍隷兵の居場所へ自ずからやってくるよう仕向けてるであります」
 既に、学校の怪談の真偽を追究して行方不明になった者達もいる為、早急に解決する必要がある。
「事件の舞台となる高校でホラーメイカーが広めた怪談話は、旧校舎の裏に植わったイチョウの木に纏わる内容で、その近くを探索すると、屍隷兵が襲ってくるらしいであります」
 そう言って、ぺこりと頭を下げるかけら。
「怪談話を聞いた生徒達が事件現場に現れないよう対策しつつ、怪談話に扮して高校に潜伏する屍隷兵の撃破、どうか宜しくお願い致します」
 さて、今回討伐して欲しい屍隷兵は3体。ドラグナー『ホラーメイカー』は、既に現場の高校から去っている為に戦えない。
「屍隷兵は、研究段階故の不完全な肉体を武器に、継ぎ接ぎだらけの拳で殴りかかったり、太い丸太みたいな足による多彩な蹴り技で攻撃してきます」
 それらは、セイクリッドダークネスやグラインドファイア、レガリアスサイクロンによく似たグラビティだと言う。

「敵は、予め学校に屍隷兵を潜伏させてから、人間を誘き寄せるべく怪談話をばらまく用意周到さを持っています……一般人の方々が学校の怪談を模した屍隷兵の被害に遭う前に、早急に撃破する必要がありましょうね」
 かけらはそんな憂慮で説明を締め括ったのだった。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
真夏月・牙羅(ネコゴニアン・e04910)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ


 旧校舎の脇。
「ごめんね、今ここは立ち入り禁止なんだよ!」
 好奇心を抑えきれずに裏手へ回ろうとする生徒達を、喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)が慌てて呼び止めた。
 どっしりと重そうに思えるほど立派な爆乳が目を惹く、褐色の肌も色っぽいサキュバスの女性。
 快楽主義者かつ露出度の高い服装を好み、それが赤い吊り目や愛嬌のある笑顔と相まって挑発的な魅力を作っている。
 疲弊した人々を励ますべく歌うミュージックファイターであり、ケルベロス兼地下アイドルとして生活しているそうな。
「……どちらさんです?」
「私達はケルベロスだよ。戦闘に巻き込まれたくなかったら、大人しく退がっていてね?」
 不思議そうに問う男子生徒へ、波琉那は明るくも妖艶な笑みを浮かべてウィンクしてみせた。
 更に反対側では。
「この周辺に不審者が立ち入ったという情報を掴みましたので、暫く立ち入り禁止です」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)が、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)と一緒に精一杯腕を広げて、生徒達を通せんぼしていた。
 最近は失恋の痛手からも何とか立ち直り、新たに揶揄い甲斐のある相棒を得て、張りのある日々を過ごしている、隠れ巨乳のドワーフだ。
「不審者ってもしかして怪談の化け物じゃ!?」
 わっと色めき立つ生徒達へ、ニルスはいつになく怖い顔でぴしゃりと言い放つ。
「怪談話? 何を仰ってるのです? おばけとか非科学的な存在、居る訳がないでしょう?」
 流石は、いつもマニアックな教義を掲げるビルシャナを相手どり、時に冷静に、また時には辛辣に数多の信者を説得で正気に戻してきた、歴戦のメイドさん。
「おばけなんていません」
 ずいっ。
「フィクションです」
 ずずいっ、と生徒達の方へ伸び上がって威圧して、
「おばけ……いないもん」
 終いには、ギンッとメンチを切ってまで彼らを追い返した。
「す、すいませんでした〜〜!」
 一方。
「皆っ! 危ないから退がって! ここはケルベロスにお任せなの!」
 警告で忙しい波琉那やニルス達の目を盗んでまでイチョウの木へ向かおうとする野次馬には、フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)が大喝する。
 銀のシニヨンと煌めく紫の瞳が印象的な、レプリカントの美女。
 舞台衣装の手直しを自分で出来るぐらい器用な手先を持つバレリーナで、目標は世界最強との事。
 鶏のササミやスルメ、赤身肉を好み、相当な燃費の悪さ故かエンゲル計数が高いのだとか。
「仕方ねぇ、戻るか」
「他校の子じゃなくてケルベロスだったのか……」
 ぶつくさ文句を言いながらその場を離れる生徒達。
「あとは鼓太郎くん、キープアウトテープをお願いっ!」
 辺りにひと気が無くなったのを確かめて、フィアールカは仲間へ声をかける。
 彼女の今回の事件への憤りは——生国ロシアで培われた主義信条もあって、一通りではない。
「承りました。お任せくださいませ」
 力強く頷いた綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)が、旧校舎の裏手への道を塞ぐべく、立入禁止テープを張り巡らせた。
 柔らかい黒髪と誠実そうな表情が特徴の、地球人の巫術士。
 外見から漂う真面目さに違わず礼儀正しい性格で、お菓子が好きという年相応の一面もある少年だ。
 育った神社を出てデウスエクスとの戦いに身を投じた今は、廃れたふうにしか見えない『緋糸山天狗神社』へ住み着いているそうな。
「……注連縄張ってる気分になって参りました。意味は近からずも遠からずで御座いましょうか」
 旧校舎の壁と学校の敷地をぐるりと囲う塀を繋ぐようにテープを張りながら、思わず苦笑いする鼓太郎。
 程なくして、旧校舎の裏手——イチョウの木周辺は完全に封鎖された。
 8人が、どこから屍隷兵が襲ってくるか判らないと警戒心を強めつつイチョウの木へ近づけば、
 ——パサササッ!
 イチョウの木の真横の塀を乗り越えて来たのだろう、青黒い人影が幾つか、宙空から一気に降ってきた。
「怪談が心惹かれるコンテンツなのは認めるし、現場がご近所ならば見たくなるのも分かるが……」
 浜本・英世(ドクター風・e34862)は、不恰好ながらも着地した屍隷兵達の姿を、検分するかのように眺めて呟く。
「まあ無謀な少年達がこれ以上押し寄せる前に、お化けは退治しておこう」
 銀色の長い髪と茶色い切れ長な瞳を有する、レプリカントの男性。
 元は地球を侵略していたダモクレスだったが、偉大な魔法使いとの邂逅で鹵獲術士となり、その研究を引き継いだ経歴を持つ。
 今は探究心の赴くままにケルベロスとして活動しているらしい。
「屍隷兵は地球の生物を素材にしていると聞く。ならば」
 おもむろに凶科学式破壊龍鎚を振りかぶる英世。
「大地に、還してやらなくてはね」
 ガツンと超重の一撃をぶち当てて、屍隷兵から『進化可能性』を奪い取り凍てつかせた。
「行くぞ!」
 真夏月・牙羅(ネコゴニアン・e04910)も、号令をかけると共に正体不明を召喚。
 正体不明とは、猿の顔と狸の体、虎の手足に蛇の尾を持つ怪物の事だ。
 その怪物が勢いよく屍隷兵達に襲いかかって、1体へは歯を剥き出しにして噛みつき、もう1体を尾でぶっ叩く傍ら、最後の1体に雷を落としダメージを与えた。
 アトラスも主人の意志に忠実に、喚び出した原始の炎を屍隷兵達へ食らわせている。
 牙羅自身は、ツンツンした銀髪と枯れ木のように枝分かれして尖った角の目立つ、精悍な雰囲気のドラゴニアン男性。
 偶然シャーマンズカードを拾ったのをきっかけに巫術士へと目覚めて、ドラゴニアンの多く住む故郷を離れたらしい。
 今は鎧装騎兵の素養を活かして、デウスエクスと戦い続けている。
 他方。
「好奇心は猫を殺す、か……怪談話が流行る時期とは言え、デウスエクスが絡むと笑い話にもならぬな」
 ぬらりと、霊力で霞みがかった斬霊刀を抜き払うのは葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)。
 螺旋忍軍の術を受け継ぐ一族に生まれ、幼少期から厳しい修行を重ねて螺旋忍者となった、銀狐のウェアライダーだ。
 眩い銀髪と眼光鋭い碧眼がクールな佇まいだが、常に口元へ口当てを着けていて素顔は余り晒さないという。
 性格は寡黙で冷静沈着な反面、情にも厚く、仲間を思いやる優しさもしっかり持っている。
「更なる害を及ぼす前に、此処で滅せねばなるまい」
 淡く白い光を纏う神仏拵を非物質化して、影二は屍隷兵の懐へ飛び込み斬りかかる。
 鋭い一閃が屍隷兵の腹部を深々と斬り裂き、その霊体のみを汚染した。
「オカルトだとか超常現象ってのは現代科学で説明出来ない原因不明なものの事。原因があるのは唯の現象だ」
 岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)は、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、苦虫噛み潰した表情をした。
 鋭い眼差しと険しい顔つきが迫力あるオラトリオ男性で、短く整えた茶髪の脇に咲く三色の彼岸花がよく似合う。
 だが、その性格や物言いは見た目よりも遥かにキツく、敵は多けれど味方は少ないらしい。
 ちなみに、本人が自分の食事に無頓着なせいか、料理の腕は殺人級なのだとか。
「俺の趣味悉く潰しやがって。胸糞悪いドラグナーばっかり出て来やがる」
 ともあれ、怪談話を穢されてかなり腹を立てている真幸。
 身軽に跳び上がるや、光の尾を引いて重力宿した蹴りを屍隷兵へ炸裂させ、奴の機動力を奪った。
 チビは属性インストールを敢行して、メディックである鼓太郎へ異常耐性を付与した。


 屍隷兵達は太い足を振り上げて蹴り技を繰り出してきた。
「まだまだ踏み込みが浅いのよ!」
 フィアールカが牙羅を庇って炎の蹴りを喰らい、気丈に笑ってみせる。
 スームカももう1体が放った回し蹴りから、影二を守るべく奮闘していた。
「立派な銀杏の木です。秋になればさぞや美しく色づくのでしょう」
 青々とした枝葉を悠々と広げるイチョウを見上げて、鼓太郎が呟く。
「——だと言うのに、無粋な真似を」
 そして、キッと屍隷兵達を睨んでから、力強くバイオレンスギターを掻き鳴らした。
 立ち止まらず戦い続ける者達の歌が聴こえてきて、前衛陣を奮起させると同時に、フィアールカの怪我も治癒した。
「ターゲットは回復を度外視して攻撃がメインみたいだから、多人数の被ダメージにもなるべく早く対応したいよね」
 波琉那はそう断じて、全身を鎧のように覆うオウガメタルから光輝く粒子を放出。
 前衛陣の超感覚を覚醒するまでに引き上げて、神経を研ぎ澄まさせた。
「……研究資料の流出、残念ながら阻止しきれませんでしたか」
 屍隷兵へ丁寧に一礼したニルスは、身につけたTor Roarの砲台で奴を狙い澄ましていた。
「せめて屍隷兵となった犠牲者がこれ以上苦しまないように……」
 主砲から大地を断ち割るが如き高威力の砲弾を放って屍隷兵の胴体を撃ち砕き、反射神経をも鈍らせた。
 トライザヴォーガーも炎に巻かれた車体を突撃させて、同じ個体へ大火傷を負わせている。
「生まれはロシア、流派は軍隊格闘術、誰が呼んだか“赫星拳姫”フィアールカ・ミハイロヴナ! 推して参るの!」
 猛々しく名乗りを上げるや、機敏にダッシュして屍隷兵へ肉薄するのはフィアールカ。
 ゴスッ!!
 綺麗に蹴りをキメるべく突き出した足先から魂を喰らう降魔の一撃をぶちかまして、己が疲労をも回復した。
 スームカは屍隷兵の腕へガブリと噛みつき、鋭い歯を立てている。
 イチョウの下、ケルベロスと屍隷兵の戦いは続く。
 グラビティを避けられにくくしたり凍傷によってダメージを蓄積させる戦法が功を奏して、牙羅はやられたものの依然優勢であった。
 ——ガスッ!
 屍隷兵の勢いある拳が不意にアトラスを捉え、塀へと叩きつける。
「穢れは悉く祓い尽くしましょう。誰一人として落としません、後方支援はお任せを」
 鼓太郎は頼もしく言い切ってから、厳かに祝詞の奏上を始めた。
 それは自らの仕える超常的存在へ対して、此の世を守護する誓いであり、加護を希うものでもある。
 すると、鼓太郎の心臓の辺りから光の球が顕現、アトラスを包み込んで傷を癒し、静かに消えていった。
 真幸は、亡者の怨念篭りしナイフの刀身に、屍隷兵の忘れ難きトラウマを映し込む。
「技術がどの程度進んでいるのか変わっていないのか、戦争で戦った螺旋の屍隷兵と比べて違いがねえか確認する必要があるな」
 具現化したトラウマに屍隷兵が怯えて弱っていく様を眺める目つきは、まさしく研究者のそれだ。
「月夜に足掻け!」
 天舞を鞘から抜いて、緩やかな弧を描く斬撃を見舞うのは影二。
 屍隷兵の四肢に通う腱を、正確な太刀筋で次々と断ち切り、遂に息の根を止めた。
「これでも食らえ!」
 既に一度轟竜砲を外している牙羅は、凍結の一撃を繰り出そうとドラゴニックハンマーを振り下ろすが、屍隷兵2体ともに攻撃を見切られ、当然ながらちっとも当たらない。
「ウガァッ……!」
 アイスエイジインパクトを避け様に前へ飛び出した屍隷兵は、英世の髪を大きな左手で掴み、強引に引き寄せる。
 ドガッ!
 ほぼ同時に、彼の顔面へ握り拳が勢いよく減り込んだ。真正面からの全力パンチである。
「輝ける甘露にて彼の者に力の一片を分け与えたまえ……」
 すかさず、波琉那が回復能力を持つ液体を器に満たして、英世の打撲を癒した。
 ガイバーンと共にヒールへ専念するチビも、属性インストールを施して治療の手助けをする。
「回復有難う」
 英世は痛みに動じる事なく仲間へ笑顔を向けるも、
「それなりに報復させて貰うとしようか」
 屍隷兵には冷酷な視線で射抜くや否や、ドラゴニック・パワーの噴射によって加速したハンマーを振り下ろし、奴の頭を叩き潰した。
「好奇心旺盛な思春期男子が飛び付きそうな話を吹き込んで狩場に誘い込む……ホラーメイカーさんの仕掛けた罠で犠牲者を出す前に、早急に排除しましょう」
 と、固い意志の篭った眼を細めてバスターライフルの照準を定めるのはニルス。
 放たれた冷たい光の帯が屍隷兵を飲み込んで、有るか無きかの体温を著しく奪った。
「おやすみなさい」
 フィアールカは、屍隷兵の急所と看て取った身体の継ぎ目へ、正拳、裏拳、膝蹴りを遠心力に任せて叩き込む。
 そのまま組み伏せたところに手刀を打ち、ダイヤモンド化した爪で頚動脈を掻き切って命を奪った。


 残る屍隷兵は1体。
「……」
 影二は二振りの刀を鞘に納めて、屍隷兵へ音もなく近づく。
 かと思えば、奴と最接近した刹那、螺旋状の気流に包まれて姿を隠した。
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
 転瞬、屍隷兵の死角へ回り込んでいた影二が、抜き放った二振りの刀でそのおぞましい身体をザクリと斬り裂いた。
「敵の『元』が何であろうと……今この時、敵である事に変わりは有りません。それに心傾けてはグラビティが鈍ります。戦いに専念しなくては」
 鼓太郎は自らへ言い聞かせるように声を張ると、九尾扇を構えて屍隷兵へ肉薄。
「意外と痛いんですよね、これ!」
 グラビティ・チェインの破壊力を乗せた扇の背で、思いっきり頭部を殴りつけた。
「お前らにとってマシな救いは死だけだろうからな……俺と来るか?」
 屍隷兵へ幾ばくかの同情心を抱いている真幸は、鹵獲術士として彼らの魔法を奪うつもりで、誘いをかけた。
「そんな姿にした奴らに復讐したいなら怨嗟となりその時まで俺の中で眠れ」
「……ギ……ギギ……」
 しかし、襲いくる屍隷兵達は変わらず低く唸るだけで肯定の意を汲み取れなかった為、溜め息をつく真幸。
「だと思ったがな」
 ジグザグに変形させたナイフの刃を屍隷兵の継ぎ接ぎだらけの腕へ突き刺し、容易には癒えない深さまで抉り抜いた。
「屍隷兵。生命を冒涜しているその存在を終わらせてやる事こそ、せめてもの慈悲」
 英世はメスなど様々な種類の刃物を、あっという間に周囲へ召喚。
「安心したまえ、すぐに終わらせるさ」
 屍隷兵の既に痛々しい傷口を麻酔も打たぬ状態で更に開き、痛みを拡大するだけの解体手術を行った。
「ところで、怪談話で釣るとはどういう事です?」
 ニルスは首を傾げつつも、コマンドワード(詠唱)認証によりTor Roarを電磁加速砲撃形態へと変形させる。
「科学が発達した現代でグラビティによらない超常現象が存在するなんてナンセンスなのです」
 Dwarven Hammer Ver.Busterの銃身を接続部に挿入した可変式電磁加速砲『ミョルニールレール』より、電磁誘導した砲弾を見舞って、屍隷兵の胸部を庇った両腕ごと撃ち砕いた。
 トライザヴォーガーは全速力でスピンをかけ、屍隷兵の足を容赦なく轢き潰す。
「赫き運命の星、その身で喰らって驚きやがれなの!」
 威勢良く啖呵を切って、理力を籠めた星型のオーラを屍隷兵目掛けて蹴りつけるのはフィアールカ。
 フォーチュンスターは屍隷兵の腐肉を突き破り、その守りを崩してダメージを与えた。
「怖い話への好奇心を利用して悪い事するなんて……小狡くて粋じゃないから許せないんだよね」
 波琉那は形の良い眉を寄せつつも、フィアールカが蹴りつけたのへタイミングを合わせて、バスターライフルの銃口を屍隷兵へ向ける。
 その長大な銃身から照射したぶっとい魔法光線で1体を焼き尽くし、トドメを刺した。
「……討伐完了」
 影二が刀についた血を振り払って、鞘へ収める。
「怪談の真相としては面白くない部類だった。ホラーメイカーとやらに是非、感想を突きつけてやりたいところだ」
 眉を顰めて唾棄するのは英世だ。
「元は一般人だったし、身元が分かれば何より……あっ」
 屍隷兵の遺体の回収を試みていたフィアールカだったが、遺体が全て地面へ溶けるように消え失せたのを見て、声を上げる。
 例え不完全とはいえデウスエクスはデウスエクス、遺体が残るか残らないかは倒してみるまで判らないのだった。
「テンペストさん、チビさん、有難うございました」
「なんの、礼を言うのはわしの方じゃ」
 鼓太郎は、同じメディックとして戦った仲間達へ丁寧に礼を述べてから、戦場となったイチョウの木周辺の修復に励む。
「あら」
 ふと、立入禁止テープの向こうから様子を伺っている生徒の姿を見つけて、波琉那が近づく。
「良い? 好奇心は大事だけど……スリルを楽しむにはリスクがつきものよ。好奇心は猫を殺すと言うし、今回本当に命も危なかったんだよ、これからは気をつけてね?」
 噛んで含めるように言い聞かせれば、男子生徒は波琉那の可愛さもあってか、
「あ、はいっ」
 素直に頷いたものだ。
「うん、良いお返事だね、イイコイイコ♪」
 波琉那も上機嫌に笑って、男子生徒の頭を撫でてあげた。
 一方の真幸は、紙とペン片手に中庭を散策。
「……さてと。マジな心霊現象でも起きないもんかね」
 オカルト好きの血が騒ぐのか、普段は抑揚のない声に珍しく期待が滲んでいた。

作者:質種剰 重傷:真夏月・牙羅(ネコゴニアン・e04910) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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