「喜びなさい、我が息子」
廃病院の手術室だろうか。ボンヤリと薄暗い台の上で、男は目を醒ます。
「お前は、ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得た」
視界の外から声が降る。熱狂を押し殺したような口調だった。
「しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、何れ死亡するだろう」
死を回避し、完全なドラグナーとなるには――多くの人間を殺めて、グラビティ・チェインを奪わなければならない。
「……ころ、す?」
「そうだ。息子よ、思いの侭、殺すが良い」
「殺す、ころす…………コロスゥゥゥッ!」
カッと充血した眼を見開き、飛び起きた男――ドラグナーは、絶叫しながら扉をぶち破ろうとして、カクリとつんのめる。
ガアァァァッ!
ねじくれた竜角が脂汗滲む額を、いかつい竜翼が薄汚れたTシャツを突き破る。
「ぐ、がは……コロ……」
全身朱に染め、男は倒れ臥し動かなくなった。手の甲から生えた鉤爪は、忽ち変色して朽ちていく。
「…………」
異形と化した骸を見下ろし、彼はヘッドギアめいた仮面の下で嘆息した。
「ここまで来て、失敗とは。ドラゴン因子定着時間の短縮は、やはり一筋縄ではいかぬか」
だが、露となっている唇は、いっそ愉しげに歪んでいる。
「地球には、急いては事を仕損じる、という言葉があったか。焦る必要もなかろう。新たな検体など、すぐ確保出来る。次は、触媒を変えてみよう。検体も、もっと若い年齢が良いかもしれない……」
淡々と考察する独り言は、沈着にして狂気を孕む。仮面の男――竜技師アウルは、翼龍と地龍を絡み合わせたような禍々しいロッドを取り上げる。
「……そうだ、検体に重度のストレス負荷を掛ければ」
次の実験方法を模索しながら、竜技師アウルは寂れた手術室を後にする。床にぶちまけられた紅は、もう顧みられなかった。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を静かに見回す。
「ヘリオンの演算により、竜技師アウルの居場所が判明しました」
ヘリオライダーの言葉に、俄かに空気が張り詰めた。
これまでも、多くの一般人にドラゴン因子を移植し、不完全なドラグナーを作り続けてきた竜技師アウル。正確には、竜技師アウルの「ドラグナー化実験の失敗」を察知出来たのだという。
「残念ながら、ドラグナー化に失敗した犠牲者を助ける事は叶いませんが……竜技師アウルが山中の廃病院から出てきた所で、対峙が可能となります」
「ここで竜技師アウルを撃破出来れば、こんな胸の悪くなるような事件の終止符が打てるって訳だね」
低い声で吐き捨て、和柄桐箱風ミミックを伴うシャドウエルフの青年は、剣呑に紫の双眸を細める。
竜技師アウルの暗躍が発覚して約半年――その数、60にも及ぶ事件の1つ1つを洗い直し、検証した。ニケ・セン(六花ノ空・e02547)の詳細な調査が、竜技師アウルの捕捉の大きな援けとなったと言えよう。
「場所は、中部地方内陸山間部。時間帯は、黄昏刻。山中に在っても、視界に困る事はないでしょう。皆さんは、へリオンより廃病院周辺に直截降下して、竜技師アウルが出て来るのを待ち構える事になります」
廃病院の前は、砂利敷きの駐車場のような広場となっている。戦うのに支障は無いだろう。
「これまで暗躍してきたドラグナーです。その戦い方は判然としていませんが……禍々しいロッドを携え、周囲を怪しげな靄が取巻いています。恐らく、武装に関するグラビティを使うでしょう」
そして、ダメージを被り追い詰められれば、擬似的にドラゴンに変身するのも予測されている。
「幸い、ドラゴンを擬似的に模しても、竜技師アウルが被ったダメージは回復しません。ですが、火力は一気に跳ね上がります」
戦い方も、遠距離攻撃中心の搦め手から、直截包囲を食い破る肉弾戦に変わるだろう。追い詰めてからも油断は禁物だ。
「これまでの事件からも判る通り、竜技師アウルは暗躍を好み、自ら戦いを求める性質ではありません。ここで逃せば、足取りを掴む糸は途絶えてしまいます。必ず引導を渡して下さい」
数多くのドラグナーを生み出し、惨劇の引き金となってきた竜技師アウル――漸く、元凶のドラグナーにケルベロスの牙が届こうとしている。
「是非とも、皆さんの手で決着を。ヘリオンより武運をお祈りしています」
参加者 | |
---|---|
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474) |
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793) |
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795) |
シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527) |
ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131) |
シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959) |
●決戦の幕開け
中部地方山中――廃病院前の砂利敷きの広場は、元は駐車場だろう。だだっ広く雑草蔓延るも、遮蔽となりそうな木々や藪は敷地の境界代わりに点在するのみ。
奇襲に向いた地形かと言えば、微妙な所だ。
それでも、ケルベロス達は木々や藪の陰に潜み、待ち構える。漸く行方を突き止めた、復讐者ドラグナー化事件の黒幕に引導を渡すべく。
「実験失敗、か……ドラゴン因子の移植は、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなのかもしれないけど、先に藪蛇になったみたいだな」
「陰で散々好き勝手してくれた礼は、ここできっちり返さねーとな」
額の真紅のバンダナを締め直す日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)の言葉に、緩やかに唇を歪める鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)。
(「ここで、終わらせなきゃ……これ以上、悲劇を生むわけには、いかないです……」)
シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)は真剣な面持ちで、医療者の白手袋を嵌める。ウィッチドクターとして、メディックとして、仲間を全霊で支えんと決意している。
(「ドラグナーは……ドラゴンに連なる存在は全て仕留めます。1人たりとも生かしてはおきません……!」)
斜陽が描く影は長い。その影に紛れるように身を伏せるシベリアンハスキーの子犬――シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)の碧眼は、正に復讐者の眼差し。憎悪と殺意を帯びて、炯々と。
やはり子猫の姿で藪の影に隠れているのは、佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)だ。
(「ここでケリをつけようか」)
竜技師アウルとの因縁を――ちらと、小柄を一瞥したニケ・セン(六花ノ空・e02547)は、和柄桐箱のミミックと並んで溜息を吐く。
ささな曰く、アウルの最初の目的はもっと情緒的、我が子の復活であったらしい。だが、どんな理由があっても、超えてはいけない一線がある。
「ドラグナーもデウスエクスだよね……デウスエクスでも、喪えば蘇らせたくなるくらい子供は大事なのかな」
小首を傾げるヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。実の両親の顔を知らず関心もない少年にとっては、理解の外だ。
「だけど、これ以上、人生に挫折した人を狂気の渦に巻き込むような真似なんてさせないよ」
「そうだね、ここで食い止めてみせる」
ガアァァァッ!
突如響き渡った雄叫びに、ケルベロス達に緊張が走る。恐らくは最後……としたい犠牲者の断末魔の叫び。
ギシリ――。
果たして、廃病院の扉が軋みながら開いた瞬間。ケルベロス達は息を合わせて飛び出す。
「急いては事を仕損じる、されど、兵は拙速を尊ぶ、ってね」
ヴィルフレッドのケルベロスチェインが守護を敷く間に、ジャケットの「風の団」のエンブレムを翻し、蒼眞の達人も斯くやの一撃が唸る。
「竜技師アウル、犠牲者達の悲しき魂を弄んだ罪は重い!」
同時に、ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)の斬霊刀が奔る。
ギュルリ、ギィンッ!!
歴戦2人の刃を、上回る速度で絡み合う竜象るロッドが弾く。すかさず、仮面の男に一言の詠唱が囁かれた。
「――――オヤスミ」
音もなく、ドラグナーの首へ、背後へ、死角へと、雅貴の影より生じた鋭刃が迫る。デウスエクスをも侵す痺闇が、じわりと動きを鈍らせんと。
だが、シェスティンが癒杖「アスクレピオス」を掲げる前に、竜技師は動く。
「浅ましくも嗅ぎ付けたか……定命の分際で」
ドラグナーが纏う混沌が揺らめくや、一斉放射。のたくるように前衛に迫り、ヴィルフレッドの黒鎖が描いた魔法陣の一角を抉り砕く。
「……っ」
人型に戻り、シフは思わず息を呑む。今回の編成では『比較的』実戦経験は浅い方。それでも、前衛に立てる自負はあった。だが、自身やささな、ニケのミミックのみならず、ギルボークや蒼眞の防具の備えをも、アウルの初撃は容易く貫いたのだ。
命中と回避、攻防で優位なポジションは1つしかない。
「キャスター、です!」
ライトニングウォールを前衛に構築しながら、シェスティンは声を張る。
ブンッ!
ニケのアイスエイジインパクトは大振り故か、狙い付けたにも拘らず空を切る。シフのスターゲイザーは、僅かな身動ぎでかわされた。顔を顰め、ささなはヒールドローンを展開した。
●急いては事を仕損じる
先制攻撃を悠然と凌ぎ、アウルは仮面越しに睥睨する。
病院のエントランスを背にした長躯を、半円状に包囲するケルベロス達。ロッド構えるアウルに纏いつく混沌が、不穏に揺らぐ。背後まで回り込むには、敵の間合いに踏み込まねばなるまい。
「ボクの事を覚えているか」
刃の如く閃いたささなの蹴りを半身でかわし、アウルは冷ややかに唇を歪める。
「さて。取るに足らぬを一々記憶するのは、メモリーの浪費でしかない」
「……っ」
少女が思わず息を呑んだのは、カウンターで混沌の槍に抉られたからだけではなかろう。注がれた毒が回る前に、シェスティンのサキュバスミストが甘やかに立ち込める。
「君の事なんてお見通しさ……ほら、そこ!」
素早さなら負けない自信はある。いっそ小動物めいてちょこまかと駆け回り、死角と見定めるや鎖を放つヴィルフレッド。行動不能を強いる厄の発動率は相当に低い。だが、ジャマーの手なら或いは。
しかし、アウルの身のこなしを上回る業を、連続で叩き込むのは難しい。一極に尖れば、見切りを考慮したとして他の能力に基づく業の精度は相対的に低くなる。
(「急いては事を仕損じます……」)
蹴り込んだ星のオーラを事も無碍にかわされ、ギルボークは奥歯を噛み締める。元より、理力の技は不得手。まだまだ届くには遠くとも、序盤から焦りは禁物。盾たるを意識しながら、弛まず攻撃を続行するのみ。
「ドラグナーは……ドラゴンの係累は、絶対に許しません!」
「漸く捕まえた尻尾なんだ。そう簡単に離さないよ」
凍気纏うシフのパイルバンカーが風を切る。対照的に、ニケの掌より竜炎がゴウと迸った。蒼眞の絶空斬が、雅貴の月光斬が、次々と閃く――シフとニケ、蒼眞と雅貴、竜技師を捕えられた攻撃が何れも後者のみなのは、命中精度の差だろう。
どれ程威力が大きい攻撃も、命中せねば無為となる。戦況を優位に運ぶ第一段階は、如何に迅速に『全員の攻撃が当たるようにする』か。反撃の起点となろうスナイパーは2人いるが、足止めと捕縛技を用意したのは雅貴のみ。第一段階の構築を唯一に任せたのは、些か危うかったと言えよう。
――――!
その危うさはアウルも看破したか。後衛目掛けて混沌が爆ぜ、絡み合う竜の顎が雅貴に喰らい付く。自らは黒影弾を放ちアウルの体力を蝕む厄を積まんと専心するニケの指示に、ミミックが気を引くように愚者の黄金を撒くも一顧だにされない。
「……っ」
元より、虎視眈々と敵の隙を狙う戦法を好む性質。そして、全体の隙をカバーする心算であった雅貴だが、寧ろ真っ先に攻撃の矢面となっては。焦燥が胸を食む。
「雅貴ばっかり狙うなんて、新しいものにしか興味を示さない子供みたいだね」
挑発を投げながら、彼が見向きもしない理由をささなは判っている。攻撃が届かない自分に脅威を感じないから。欠片の情もない冷徹が悔しい。
(「ヒメちゃん、僕はどうしたら?」)
そして、ギルボークには、アウルの注意を引く具体的手段がある。だが、アウルのドラゴン化も予測される中、前半から攻撃を一身に引き受けて、果たして最後まで立っていられるか。
「ビビ各位に、伝達。護衛モードから、医療モードへ、移行……トップオーダーは、傷病を、根絶やしにせよ、です」
高機動蜂型ドローン「Bindabi」と6本のマニピュレータや格納医療機器を駆使する、シェスティンのメディックとしての手腕は、確かに目を瞠るものがある。ヴィルフレッドのフローレスフラワーズの援けもあり、今は凌げている。それでも、全員の攻撃が届いていない現状、思い切るには分が悪い。
ギルボークの逡巡を窺い、シフも刹那、迷う。だが、1人が潰え、その穴を突かれれば……脳裏を過った故郷の惨禍が、激情に任せた炎の蹴打と共に気炎を吐かせる。
「どれだけ未完成のドラグナーを生み出そうと、亡くなった息子さんは返ってこないんですよ! それが何故分からないんですか!」
逃亡阻止の挑発にと考えていた言葉だ。不意に動きを止めたアウルに、突き刺さったかと思った――仮面の下の唇が、冷ややかに歪められるまでは。
「私の『テーマ』は我が主への遺伝子レベルの服従の伝播。取るに足らぬ定命に、不相応にも蓄えられたグラビティ・チェインの有効活用だ。見当違いも甚だしい」
ゴォォォッ!
呵責無い黒炎の渦は、あくまでも後衛に注がれる。辛うじてディフェンダーが遮った。歯を食い縛って耐えるささなを心配げに見やる蒼眞。弛まず一撃を放ちながら、小さく息を吐く。
(「罪悪感の欠片もない……もうとっくに壊れて、実験を続けるのが目的になっているのかもな」)
●竜技師の骨頂
「誰も、倒れさせません」
耐戦に次ぐ耐戦だった。元より命中自体に不安があれば、手数を自己回復に回す余裕はない。猛威を振るうアウルの攻撃を、シェスティンの回復量で凌げたのは重畳であった。
「よし……いける!」
再びのアイスエイジインパクトの手応えに、ニケは思わず快哉の声を上げた。
たとえ正面からでは届かぬとも、僅かな隙をこじ開け、抉り込む。諦めない攻撃の継続が、力となる。一心に穿つ内に――ケルベロス達は、知る。徐々に、刃が届き出してきている事を。
「これ以上、悪趣味な謀巡らす猶予なんざ与えねぇ」
初めて、雅貴は雷刃突を繰り出した。雷気がアウルを取巻く呪装を貫けば、すかさずギルボークと蒼眞の絶空斬が傷口を広げ、装甲を剥いで行く。その度に、竜技師を凍結が侵した。
「ほらほら、最近流行りのイケてる情報屋は何でも把握してるのさ!」
Assalto attacco――抉り込んだヴィルフレッドの痛撃に、刹那、アウルの動きが止まる。反撃の目が摘まれたのを幸いに、シフのドラゴニックスマッシュが竜技師の脳天目掛けて振り下ろされた。
「アウル……」
呼び掛けようとして、一旦、ささなは口を噤む。彼が自分を覚えていようがいまいが……割り切ったなんて冗談だ。
「……あんたはボクの逆鱗に触れた。頑張って生きようとする子にまで、手をかけた!」
だから倒す。今更、解り合うには彼は色んな人を手に掛け過ぎた。
「全身全霊、必殺の一撃だーっ!!」
グラビティを左手に集中させ、思い切り殴りつけた。仲間の援護なくしては到底届かなかった破滅的な一撃は、アウルの胸を穿ち長躯を揺るがせる。
「ぐ……」
ささなの拳から逃れて1歩退く。初めて、少女を見たアウルの眼差しに、何ら感情は窺えない。
「侮っていたか……やむを得ぬ」
ヘッドギア状の仮面が、地に落ちる。露となった面に底光る銀の光彩は、爬虫類の――ドラゴンのそれ。
――――!!
アウルを取巻く空気が変わる。銀髪を揺らし、スパークする火花。その右手から離れた絡竜のロッドは、自ら混沌を撒いて浮遊する。姿は変わらぬまま――否、右半身に呪詛を浮かせた虚ろな微笑は、秀麗と呼ぶを許さない禍々しさに満ちていた。
「まさかこれが、竜技師の『ドラゴン化』」
咄嗟に動く。ギルボークの剣術、七天抜刀術・壱の太刀【血桜】――血飛沫が花の如く舞う。
「揺光の瞬き、ご覧あれ……あなたに見切れるかはわかりませんけど」
侮るような言葉に刹那迷いを見せたアウルの視線は、ギルボーク――の肩越しに向けられる。「怒り」の発動は五分五分。寧ろ確率は高い。それでも、一手遅かった。
――其は、尽く屠る竜の毒。
アウルの呪に混沌が形を変える。禍々しくロッドの宝玉が輝くや、爆ぜるように噴出した猛毒が後衛を席巻する。
シュゴォォォッ!
シェスティンのヒールを挟ませず、もう1度――あたかもドラゴンの毒息の如き。ふらついた雅貴の脚は、踏ん張ろうとして膝から崩れ落ちる。
敵の火力跳ね上がる後半戦を見越して、としながら、ケルベロスにアウルの戦力を削ぐ武器封じやプレッシャーの類は一切、準備がなかった。
結果、攻撃に晒され続けた雅貴は、重ねられた猛毒に限界を迎える――重傷に至らなかったのは防具耐性の賜物であろう。
徐に明滅するロッドの宝玉。再び振るわれれば、竜の牙となり爪となり、ケルベロスの包囲を食い破るだろう。
「よくも、よくもっ……ドラゴンの業なんか、僕に見せるなああぁぁっ!!」
シフの咽から絶叫が迸る。これ以上、時間は掛けられない。投げ捨てるように手袋を外した右腕が掴み掛かる。憎き敵の息吹を奪い尽くさんと。
「ランディの意志と力を今ここに! ……全てを斬れ……雷光烈斬牙!」
理不尽な終焉を破壊する冒険者の意志と力を借り受け、蒼眞は渾身の一撃を叩き付ける。
ドラゴンの気配にも怯まず、ケルベロス達の攻撃が殺到する。届きさえすれば、圧倒的な手数と武威がドラグナーを穿っていく。
「これで、最期、です!」
ケルベロスの眼力を以てしても、敵味方の体力の明確な数値化は叶わない。それでも、シェスティンはアウルの『最期』を感じ取り、破鎧衝を叩き付ける。
そう、彼とて無事ではない。武威をドラゴンの域まで高めようと、掛けられた幾重もの厄は変わらずその身を蝕んでいる。
「猟犬如き、が……!」
包囲を破らんとしたか、アウルは首を巡らせ――今度こそ、絡竜のロッドはギルボークを貫く。
(「ヒメちゃん、ボクに力を貸して……!」)
ロッドの切先は竜爪の如く。呪的防御を砕かれながら、持ち堪えたのは正に身に纏う守護衣のお陰。会心の笑みを浮かべ、ギルボークはシャウトで息を整える。
「大した事ないんだね、この期に及んで失敗しちゃってさ……逃さないよ」
すかさず回り込み、ニケはミミックと息を合わせて稲妻突きを敢行する。桐箱はガチリと物騒な音を立てて喰らい付いた。
「ここですごすごと逃亡かい? 死んだ息子の蘇生も夢のまた夢になるねぇ」
同じく挑発を言い放ち、ヴィルフレッドは暴食の残滓「drago gula」をけしかける。丸呑みせんとするブラックスライムの大顎はドラゴンのそれに似て。
「く、おのれ……」
「さあ、年貢の納め時だ――ささな、暗躍も望みも、アンタの手で断ってやれ」
青息吐息の雅貴の言葉に押され、ささなは拳を握り締める。
「さよなら、もうあんたに悩まされる事もないんだろうね」
アウルへ振るわれた一撃は、降魔拳士の真骨頂――降魔真拳。
「あんたの魂も喰らって、ボクは強くなる。これまでも、これからも、少しずつ、少しずつね」
流れ込む感触は冷え冷えとして――最期まで無関心を貫かれたように思えて、ささなは唇を噛んで瞑目した。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 21/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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