ミッション破壊作戦～死者を弄ぶ者

■リプレイ

●絆を喰らう死神
　ヘリオンはケルベロスの定めた目的地を目指し、空を行く。
「今回向かう先はひえいざん。あいてはしりょう使いのしにがみ、ですか」
　銀髪色黒のヴァルキュリアの少女、シャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）は年相応な口調で、状況を確認するように繰り返す。
「死神って、本当に腹が立つ連中だね……」
　黒髪ツインテールにチャイナドレス着用のリョウ・カリン（蓮華・e29534）は、拳を振るわせる。
「死者を利用するだけで無く、絆すら喰らってしまうなんて許すわけにはいかないよ」
「戦力増強だけならまあ、戦略として理解できないでもないけどね」
　ヘッドフォンで音楽を聴いていた一比古・アヤメ（信じる者の幸福・e36948）も会話に加わる。必要もないのに、他人の顔を奪って喜ぶような三流に好き勝手されるのが気に食わないと。
「裏工作担当といえばボクも似たようなものだけど、趣味で奪う顔を選ぶようなやつには格の違いを見せてあげなきゃね」
「死者を弄び己の傀儡とするに留まらず、その心まで狩ろうとは傲岸不遜にも程がある」
　影の如く任務ならぬ、忍務を遂行せんとする樒・レン（夜鳴鶯・e05621）もまた、今回の相手に敵意を示す。
「しかも、比叡山でそのような振舞とは、よくよくケルベロスも舐められたものだ。それを後悔させてやろう」
　傍でそれを聞いていた黒いゴスロリ衣装のカリーナ・ブラック（黒豚カリー・e07985）。ジト目で無表情な彼女もまた、この地をなんとかしなければと考えている。
「ここを放置すれば死んだ人達が次々に死神に利用される。１秒でも早くこの回廊を叩き壊すよ」
　大人たらんと意識し、アヤメは依頼に臨む。丁度、現場到着のアナウンスが流れる。
「少しでも、次に繋げましょう」
　笑顔を浮かべるベルカント・ロンド（医者の不養生・e02171）は一件平静さを保っているが、このミッションで交戦するのは、彼の因縁の相手、絆狩。内心ではここで始末するというくらいの強い気持ちで作戦に臨む。
　右目の地獄を燃え上がらせる御忌・禊（憂月・e33872）はいち早く戦場に到着できるようにと、仲間に先んじてヘリオンから飛び降りる。
「私にココロがあるならば。それを受けて光りなさい、グラディウス」
　グラディウスを握りしめるマリオン・オウィディウス（響拳・e15881）は、無表情のまま降下していく。
「この忍務、必ず成し遂げる」
　月夜の中、レンはそう誓いを立て、ヘリオンから飛び降りたのだった。

●魂の叫び
　滋賀県、琵琶湖を臨む比叡山。
　ケルベロス達はグラディウスを手にし、真下の魔空回廊目掛けて落下する。
「……死を弄ぶ者……死神……、僕はそれを赦せない……」
　先陣を切った禊。雪豹の尻尾に嵌めていたリングを外し、凶暴な本性を解き放つ。
「……だから、私が仕留めましょう。眠りの中にあるものを引きずり出す賤しき神よ！」
　普段とは違ってやや饒舌になった彼は、一人称を変える。そして、グラディウスの刃を光り輝かせ、その刃を真下へと突き出した。
「今ここでその悪業を断ち切りましょう！　必ず、この土地を返していただきます……っ！」
　禊の刃は魔空回廊を包むバリアを破壊し、その中にある魔空回廊へと突き刺さる。
　直後、周囲に放たれる眩い雷光、聞こえてくるどよめきはこの場の死神達によるものだろう。
　そこへ、続々とケルベロス達が落ちてくる。
「顔を奪い、絆を狩る悪鬼外道！」
　螺旋忍者のアヤメは、今回現れる死神、絆狩に嫌悪を抱く。
「忍の名において、今こそその業を終わらせる！」
　だからこそ、忍者として自身で倒す。アヤメはそう決意を立てて刃を魔空回廊へと突き立てた。
　光と共に爆炎が巻き起こる。それらは比叡山のかなりの部分を覆い、死神に混乱をもたらす。
「この星に住まう者の一人として、外敵がここに居座るのは認められません」
　続くのは、銀の髪を白のキャスケット帽で抑えるマリオン。
　人々が正しく絆を結ぶ為、絆を喰らう死神に引き取ってもらうと彼女は刃を輝かせて。
「そして何より……この剣が輝くことが、私のココロの証左とします」
　レプリカントのマリオンには、心の在り方が未だ分からない。
　それでも、グラディウスの光によって、自身に心があることを確認した彼女は刃を振り下ろす。
　光と爆炎が大きくなる中、カリーナ、ベルカントが飛び込む。２人は、「ロンド先生」、「カリーナ」と呼び合う仲だ。
「ここは、綺麗な湖と壮大な景色、素敵な自然がたくさんあるの。忘れちゃいけないたくさんの歴史が眠ってるの」
　金色のツインテールを靡かせ、カリーナは舞い落ちる。
「それを死神が占領して、無理やり起こして、好き勝手に使ってるなんて、許せない」
「……ええ、この美しい景色を死神が占領するなど、この地に眠る歴史への冒涜です」
　その隣のベルカントは、絆狩に友人をサルベージされたという。
「死したその身を、思いを弄ぶやり方、絶対に許せません」
　これ以上被害を広げない為にも、身勝手な理由による蛮行を必ず止める決意をベルカントは抱いて。
「カリーナは絶対に退かない！」
「この地の解放を願い、この一撃に全て込めます」
　新たに刃が魔空回廊へと深く食い込む。亀裂は走るように見えるが、まだ決定的な一撃には及ばない。
「何かのため、だれかのためにたたかうのは、わたしたち生きてるがわがする仕事、です」
　ゆっくりとした口調で、シャウラが語りかける。
「地のそこで、やすらかにねむっている人をたたき起こし、あげくせんそうの道具にするなんて、ぜったいにゆるしちゃいけない事です、から」
「そうだよ、死者を冒涜なんてさせやしない！！　絆を喰い物なんかにもさせない！！　侵略者の思い通りなんて絶対にさせない！」
　それに大きく同意したのは、リョウだ。
「私たちはケルベロス！！　この星に住む人々を護る番人！　それは既に無くなった人も例外じゃない！！」
　シャウラ、リョウは手にする刃に強く、強く、想いを込める。
「もっと輝け、グラディウス！！　私の想いを！　憤りを！　全てを燃やして！！」
　一際強く輝いた小剣を２人は大きく振り下ろす。
「このいちげきが、しにがみへのくさびとなる事をねがって……全力で、打ちこみます！」
「強襲型魔空回廊をぶっ壊せ！！！」
　さらに突き刺さる刃は深く魔空回廊を抉る。噴き出す濃いスモークが辺りを徐々に包み込んで。
「死者の絆をも弄ぶとは」
　トドメに、レンが真下にいるはずの死神へと呼びかけるようにして躍りこむ。
　――その時代時代を精一杯生き抜き、家族や友、仲間と絆を紡いできた民草の心をも汚し、甚振る死神の行いは。
「……正に非道の極み也、絶対に許さん」
　比叡山も延暦寺も、死者の安寧を祈り、またこの世の平和を願う場。ならばこそ、この場には自分達だけではない。大勢の者達の心がともにあるはずだ。
「故に！　此処で絆狩と回廊を撃ち砕けぬ道理はない！」
　レンは構えたグラディウスの眩い光で、自身の黒装束を、そして、魔空回廊を照らし出す。
「人の心の！　紡ぐ絆の強さを！　刮目せよ！　天魔覆滅！」
　伸びる光が魔空回廊を寸断した……かに見えた。
　着地していくケルベロス達は、頭上を見上げる。
　……………………。
　しかし、魔空回廊に大きな変化は見られない。
　今作戦での破壊は叶わなかったと、ケルベロス達はすぐに察したのだった。

●死神、絆狩
　夜の山林へと真っ先に着地していた禊は隠された森の小路を使い、出来る限り仲間との合流をスムーズに行うよう努める。
　合流したマリオンは木箱型のミミック、田吾作に座りつつも隠密気流を使う。
　そうして敵に見つからないよう時間を稼ごうとするが、どうやらマリオン自身と田吾作以外をカバーできないらしい。
　ゆらりとスモークの中から現れる人影。それは赤髪の青年……に見えた。
「……逃がしませんよ」
　こいつこそが、「絆狩」。灯りを持つカリーナは仲間を護ろうと前に出るが、内面が年齢よりも幼ない為か目の前の相手に強く恐怖を覚えて足を震わせてしまう。
　ケルベロスとしてこの地域を解放しようとする想い。そして、仲間を護ろうとする覚悟を持って、カリーナはその足をなんとか立たせる。
「夜鳴鶯、只今推参」
　レンもその場に駆けつけ、口上を上げる。
「絆狩、借り物の顔で悦に入っているとは、正に道化だな。……紛い物の美を張り付けても、貴様の悍ましき本性が隠せることはないと知れ」
　ただ、相手は端正な顔を全く崩すことはない。
「会ってすぐで申し訳ありませんが……ここで死んでください、絆狩」
　地獄となった目を眇めて禊が敵に言い放つと、骨でできた槍を構える。
「今、俺達が安寧を授けてやる、覚悟！」
　飛び出すレンはパイルに凍気を纏わせて死神の体へと突き刺し、その部分を凍結させた。
　他のメンバー達もまた目の前の死神を排除する為に、グラビティを発する。
　リョウは単騎決戦を狙い、最初から全開でグラビティを解放する。左手に纏った虎を象った影。その顎が死神の肉体を透過し、精神を噛み砕く。
　攻撃に専念こそするが、リョウはすぐさまその場から飛びのく。ヒット・アンド・アウェイこそ彼女の得意とする戦法なのだ。
　さらに、ベルカントがウイルスカプセルを構える。
　そこにあるのは、見知った友人の顔。しかし、絆狩によってその肉体は支配されてしまっている。
　感情的にこそならぬが、ベルカントはこの死神を許せぬ気持ちは仲間達の誰にも負けない。
　そのカプセルを受け、全身にウイルスが駆け巡るのを感じる絆狩りは、骨の槍を振るう。受け止めたカリーナの絆を狩るつもりなのだろう。
「負けないの」
　大切な何かがなくなりそうになるのを必死に引き止め、カリーナは自分達の背後にカラフルな爆発を起こして士気を高める。どんなに怖くとも、こんな相手に負けるわけには行かない。
　彼女の相棒、黒い長毛種のウイングキャットの男の子、かまぼこも死神を引っかいて大切な友達であるカリーナを援護する。
「私を見つづけていただきますよ」
　これ以上、攻撃対象が分散しないようにと、禊は銀色の大太刀「氷刃・大紅蓮」の刀身を死神に叩きつける。
　それなりに気に入った姿を傷つけられ、絆狩は禊の思惑通り、彼に注意を向けていたようだ。
　その間に、マリオンはドラゴニックハンマーから竜砲弾を打ち出し、死神の動きを止めようとする。
　ミミック、田吾作もけなげにマリオンの希望通り動き、エクトプラズムで造った武器で死神へと切りかかっていた。
「みんながししゃといっしょにあやつられないよう、しっかりきよめてよぼうお願いね？」
　シャウラがウイングキャットに少し砕けた口調で呼びかけると、オライオンは大きく翼を羽ばたかせていた。
　対して、アヤメは絆狩りへと広げた翼から聖なる光を放つ。
　相手は利益にもならぬ理由で他人を踏みにじる相手だ。その罪は許しがたい。
「誰も、許して欲しいと思っていませんよ」
　だが、ケルベロスの敵意を向けられ、アヤメの光に打ち抜かれてもなお、まるで意にも介さぬ絆狩は死骨槍を投げ飛ばす。
　それを受け止める禊は気丈に耐え、仲間達の攻撃の合間を見て「我見・無明」の刃を抜く。
「あなたの罪、この刃にて表しましょう」
　それは相手の心を断つ無音の一撃。絆狩は何を虚空に見ていたのだろうか。
　シャウラは禊に死神の攻撃が集まるのを見て、自身の力をエネルギー体として形にする。
「まだ、死ぬさだめではありませんから」
　若返りの果実を模して作り出したそれを、シャウラは傷つく仲間へと振り撒いて体力の回復へと当たっていた。
　仲間が耐えてくれる間に。レンは比叡山に咲く夏水仙花の葉と花弁を借り、螺旋の力を込めて自らの分身をいくつも生み出す。
「この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ」
　レンは分身と共に、一斉に死神へと連続斬りを浴びせかけていく。
　敵も禊を執拗に狙って応戦するが、カリーナや田吾作が盾となる。
「これは出逢いのための音」
　絆狩のグラビティには、思考を惑わす効果がある。カリーナは白いバイオリンをそっと奏で、近場の仲間を正気に戻す。
　オライオンも翼を羽ばたかせて援護する中、かまぼこが尻尾のリングで敵の槍に絡めていた。
「面倒極まりないですね……」
　死神、絆狩は徐々にケルベロスへと追い込まれる形となる。やや苦々しい顔をしていた敵へ、アヤメは敵の惑わせながら飛翔して。
「白雪に残る足跡、月を隠す叢雲。私の手は、花を散らす氷雨。残る桜もまた散る桜なれば……いざ！」
　アヤメは敵の死角から急降下し、螺旋の力を直接相手に叩きつける。
「Call、八角の牢獄」
　マリオンも敵の動きが鈍ってきたことを察し、正八角柱の結界を生み出して死神の体を閉じ込め、高圧力で押し潰さんとした。
　別方向からは、リョウが影のように大鎌を振るって絆狩りの体を傷つける。
　ただ、全身から血を流しながらも、敵の余裕の表情が消えない。それがまた、ベルカントの嫌悪感を強くする。
「君よ、花と散れ」
　口元に寄せた一輪の薔薇。それを彼は安らかな眠りへの祈りを込め、死神の心臓へと突き刺す。
「まあ、いいでしょう。では、また……」
　死神はスモークの中へと倒れこみ、そのまま姿が見えなくなってしまう。
「手ごたえはなかったが……」
　地面に倒れる音からして、倒したのは間違いないはず。レンは瞑目し、絆狩の魂の救いと重力の祝福を願って片合掌を行う。
「ししゃへのとむらいに、あまり大したことはできません、けれど……」
　この場にいる死者の魂を慰められればと、シャウラはしばしの間レクイエムを捧げる。
　ただ、ぼやぼやしてもいられない。他の死神が態勢を整えてこちらに向かってきていたのだ。
　ベルカントはフードで顔を隠し、自身を含めてグラディウスが揃っていることを確認する。彼は隠された森の小路も使用し、迅速な撤退を試みていた。
　メンバー達はそこを通って速やかに避難していく。敵の増援がスモークの中で集まっていたが、なかなかこちらへと近づいてこない。暴走も視野に入れていたメンバーもちらほらといたが、その必要はなさそうだ。
　かまぼこと殿を請け負っていたカリーナ。彼女は敵がスモークから現れることを見ることもなく、その場から離脱していくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年8月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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