空を泳ぐ巨大金魚

作者:天木一

 平たい水槽の中をすいすいと沢山の金魚が泳いでいる。
「あっちの金魚は元気だなー、こっちの出目金は底に沈んでるし」
 ポイを手にした少年がじーっと金魚を目で追い、どれを取ろうか悩む。
「あっ! 元気なのがこっちにきた!」
 チャンスとばかりに少年はポイを水に入れ、ゆっくりと真っ赤な金魚をすくい上げた。おわんの中に放り込むと金魚は元気にくるくる泳ぐ。
「やったー! よーし! この調子で次は出目金をねらうぞ!」
 調子に乗った少年は深く潜った出目金を狙ってポイを投入する。
「ゆっくり、ゆーっくり……」
 慎重に持ち上げると、水面から出目金が浮かび上がる。そこでおわんに入れようとした時、ポイが破れて出目金が水中に落下した。
「あーーー……ざんねーん。でも一匹は取れたからいっか」
 がっかりと肩を落とした少年はおわんの中の金魚に視線を移す。だがそこには水しか入ってなかった。
「え? どこいった?」
 慌てる少年を影が覆う。見上げればそこには何メートルもある巨大な赤い金魚が空中を泳いでいた。
『アー、ザンネーン』
 オウム返しに少年の言葉を発すると、金魚は大きな口を開けて少年を呑み込んだ。
「わーーーー!? 金魚に食べられ……る?」
 目を開けた少年の視界には暗い部屋の天井が映る。
「あー金魚におそわれる夢って、すごいもの見ちゃったな。昨日縁日行ったからか」
 電気を点けると机の上には金魚鉢が置いてあり、その中で戦利品の金魚が泳いでいた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 その少年の胸に鍵が突き立つ。いつの間にか現れた魔女が鍵を引き抜くと幻であったように姿を消した。
 意識を失い崩れ落ちる少年。その傍らには金魚、それも6mはある巨大金魚が現れた。
『ザンネーン、ザンネーン』
 少年の声で喋りながら、金魚は窓を突き破って外に出る。月夜の空を泳ぎ、金魚は獲物を求めて地上を見渡した。

「わたあめのつぎは、おっきなきんぎょがみつかりました!」
 ぼんやりした表情ながらも、エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)は精一杯事件について表現する。
「第三の魔女・ケリュネイアが現れ、奪った『驚き』からドリームイーターを生み出すようです」
 隣に立ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を引き継ぐ。
「生み出されたドリームイーターはグラビティ・チェインを奪う為に人々を襲うようです。その前に皆さんには敵を倒して、眠ったままの少年を助けてあげてほしいのです」
 すぐに現場に向かえば、一般人が襲われる前に到着できる。
「敵となるのは6mほどの金魚です。空を泳いで人を襲い食べてしまいます」
 その巨体は人を丸呑みするほどである。貪欲で餌を見ればすぐに飛びつくだろう。
「場所は東京の郊外にある住宅地。そこで人が通るのを待っているようです」
 深夜なので人通りは無い。一般人を巻き込む心配は少ないだろう。
「金魚はまず人を驚かせ、それから捕食しようとするようです」
 その習性を利用すれば敵の攻撃対象をある程度は限定できる。
「金魚は可愛いものですね。縁日に行けばよく持ち帰る人を見かけます。ですがそんな金魚に食べられるような事態は阻止しなくてはいけません。犠牲が出る前に人食い金魚を撃破してください」
 よろしくお願いしますとセリカが頭を下げると、ヘリオンへと足早に向かう。
「おっきなきんぎょをすくうには、おっきなどうぐがひつようでしょうか? みんなでそらとぶきんぎょすくいをするのもたのしそうです……」
 エドワウが想像を膨らませてぼんやりしていると、ケルベロス達は顔を見合わせ先に準備を澄ませてしまおうと素早く動き出した。
「……あれ?」
 妄想を終えて見渡すと誰も居ない。エドワウも慌てて仲間を追って駆け出した。


参加者
ルーカス・リーバー(道化・e00384)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
月海・汐音(紅心サクシード・e01276)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)
ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)

■リプレイ

●空を泳ぐ
 家々の明りが灯る、人気の無い静かな住宅街の夜道をケルベロス達が進む。
「空を泳ぐ金魚か……」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)はどんな金魚だろうと空に浮かぶ月を見上げた。
「ああ、空を飛ぶ魚。夢がありますねえ、すばらしい! 子供の発想力には、目を見張るものがありますね」
 顔の上半分を仮面で覆ったルーカス・リーバー(道化・e00384)が、口に笑みを浮かべ褒め称えるように拍手を贈る。
「大きい金魚かあ……掬ってみたいけど、食べられるのは嫌だなあ」
 巨大金魚を掬ったら楽しそうだと、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は巨大なポイを使う姿を想像して微笑む。
「金魚に食べられるなんて、とんでもない悪夢だね」
 そんな夢を見てしまったらと、スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)は嫌そうに顔をしかめた。
「空をふよふよしてる金魚って想像したら、一瞬だけ可愛いかも? って思っちゃった」
 空を泳ぐ金魚をイメージしたルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)は、可愛いんじゃないかとデフォルメした金魚で考える。
「けど……やっぱ怖いよね、うん」
 だがそのイメージをリアル寄りにすると、不気味な印象へと早変わりした。
「さて、金魚はどうやら……少々育ち過ぎのようね」
 周囲を見渡した月海・汐音(紅心サクシード・e01276)は、空の月を遮る大きな影に気付き見上げた。そこには全長6mもある真っ赤な金魚が月を背景に夜空を泳ぎ、ケルベロス達の元へと降りて来る。
「きんぎょ……! ううん、あれはデウスエクスだから、乗ってみたいけどがまん……しっかりやっつけないと、です」
 思わず見惚れそうになったエドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)は、ふるふると首を振って戦いへと気持ちを切り替える。
「あれが標的の金魚でございますか、情報通り大きいでございますね」
 無表情にケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)は見上げ、いつでも動けるようにしながら敵が近づくのを待つ。

●巨大金魚
「わっ! 空から金魚が!? 急に現れるのは反則だよ……」
 ドキッとした心臓を抑えるように胸に手を置いたスミコが本気で驚いた顔をみせる。
「飛んでる……金魚って空を飛んだっけ?」
 続いて驚いたフリをしようとアバンはビクッと体を強張らせた。
『ザンネーン、ザンネーン』
 パクパクと口を動かし少年のような声を発しながら、金魚は頭上で威圧するように体をくねらせる。
「……あ、やっぱダメか。可愛くない……わー、金魚が空を飛ぶなんてー!」
 わくわくしながら見上げたルリカは、間近で見た金魚の不気味さに肩を落としてガックリしながら何とか驚いたように声を出す。
「これは大きい金魚だな……」
「金魚? クジラとかそういうレベルよね」
 見上げたベルンハルトは目を見開いて驚いてみせ、空を覆うようなサイズに汐音は驚きを表現するように後ずさる。
「おっきいおしゃべりきんぎょ! です」
 その隣でエドワウも驚きの顔で金魚を見返し、金魚を満足させて視界から外れた。
「ふぁ~……」
 そんな中、表情を変えぬままケイトは欠伸をして敵を煽る。
『アー、ザンネーン』
 それを見た金魚はから勢いよく水を吹き出す。ケイトは咄嗟に燃えるようなオーラを纏って腕でガードしながら後ろに飛ばされた。
「これは見事な金魚ですね、せっかくですから楽しい大道芸を見て行ってください」
 割って入ったルーカスはボールを使って金魚の目の前でジャグリングを始め、視線を奪うとうっかり手を滑らせてボールを金魚の顔面にぶつけてしまう。
「失敬、誰にでもミスはあります」
『ザンネーン』
 慇懃に頭を下げると、許さんと金魚が人を丸呑み出来そうな口を開けて迫る。その顔にもう一度ボールをぶつけて視界を塞ぎ、さっと横に逸れて闘牛を相手にするように攻撃をいなした。
「さてさて、金魚すくいを始めようか」
 気を取り直してスミコは漆黒の魔槍に雷を帯びさせ、金魚の胴に突き刺した。穂先から流れる電流が体を痺れさせる。
「芝居は終わりだ。切り伏せてやるぜ」
 その隙に正面からアバンは刀を鋭く振り抜き、強烈な斬撃を顔に浴びせて頭から口を斬り金魚を怯ませた。
「綺麗に捌いてあげるわよ」
 続けて手に魔力を集めた汐音は金色に輝く長剣を生み出し、飛び掛かって金魚の背中から胴を斬り裂く。
「……さて、悪夢のまま、台無しにするわけにはまいりません。おとなしく夢の魚は夢の中に、ご退場いただきましょうか」
 ローラーダッシュで接近したルーカスは、炎を纏った蹴りで金魚の腹を蹴り上げた。炎が皮膚を焼き焦げ目をつける。
「それにしても大きな金魚だなあ……これで金魚掬いをするとしたら……一体どれほど大きい生け簀とポイを用意すればいいんだ。うぅむ、気になるな」
 そんな想像をしながらベルンハルトは手にした勲章に光を纏わせて輪にし、金魚の脇を駆け抜けながら光輪で胴を横に斬りつけた。
『ザンネーン ゲンキー』
 金魚はすいすいと宙を泳ぎ、ケルベロス達を尾ひれで叩き撥ね飛ばしていく。
「きんぎょからみんなを、まもって」
 エドワウは小型のドローンを周囲に展開させ、仲間を守るように敵との間に浮かべた。ドローンにぶつかり金魚が反射的に方向を変える。
「金魚はね、そんなおっきくなくていいんだからね! 小さい方が可愛い。巨大なのは全然可愛くないや、うん」
 そこへルリカは影の弾丸を撃ち出し、金魚の胴を穿ち毒となって黒く侵食していく。
『ザンネーンザンネーン』
 狙い定めた金魚は大きな口をパクパクさせながらルリカに一直線に泳いでくる。
「腹ペコなら拳を馳走するでございますよ――さぁ、戦争でございます!」
 その前に立ち塞がったケイトは機械仕掛けの拳に燃ゆる魂を宿らせ、その拳を向かって来る金魚の顔に叩き込んだ。顔を燃やされ金魚が暴れる。
「出番でございます、相棒!」
 横からライドキャリバーのノーブルマインドが炎を纏って突進し、金魚にぶつかって撥ね飛ばした。
『ヤッター、ヨーシ』
 金魚は口から水を放水砲のように勢いよく発射し、ノーブルマインドを吹き飛ばし塀に叩きつける。するとボクスドラゴンのメルが属性を分け、車体を修復すると共に耐性を与えた。
「はっはっは、大きくて派手な分、良い的ですねえ」
 ルーカスは影に紛れるように死角に黒い鎖を伸ばして回り込ませると、金魚の背中の傷口に突き立て鱗を引き剥がす。
「見たところ、身体で柔らかそうな部分はここかな?」
 仲間が攻撃してる間も観察していたベルンハルトは、姿勢を低くして敵の懐に潜り込み弱そうな部位である腹に向けて光輪を振るって大きく斬り裂いた。
『ユックリ、ユックリ―』
 クワッと大きく口を開いた金魚が上からベルンハルトに襲い来る。
「それはお前の餌じゃないぜ」
 そこへアバンは飛び蹴りを横っ腹に叩き込み、金魚の軌道を変え目標を見失った金魚は地面を抉り取って呑み込んだ。
「どれだけ食べればこれほど肥えるのでございますか、計り知れない食欲でございます」
 ケイトは腕をドリルのように回転させて金魚の腹に打ち込み、荒々しく鱗を削り肉を削ぎ落とす。
「削ぎ落とす……!」
 音も無く死角に回り込みながら、汐音は紅と金の短剣を引き抜き金魚の尾を縦に斬りつけ、更に刃を横に走らせて胴へと切り込みを入れる。
『ザンネーン』
 金魚が暴れ回り近くの汐音と周辺のケルベロス達を薙ぎ倒し、姿勢を崩したところに口を広げて呑み込もうと迫る。
「うわっ正面から見たら余計に怖い! ごめんだけど、こっち見ないでね!」
 手に何も持たぬ状態から、ルリカは素早くライフルを構えて光弾を金魚の顔に撃ち込んだ。
 金魚が怯んだ隙に外套の光学迷彩を使いスミコは敵の背後から忍び寄る。
「ボクはね……人を驚かせるのは好きだけど、驚かされるのは、大っ嫌いなんだぁぁ!!」
 そして大きく跳躍すると怒りを乗せてスミコは槍を背中に突き入れ、深く捻じ込み腹まで貫く。
「からだのなかの、ちからを……ここに」
 敵が態勢整える前にエドワウは空から天の川を模ったエネルギー流体を雨のように降らせ、仲間達の傷を癒しその身に眠る力を目覚めさせた。

●大食い
『ザンネーンザンネーン』
 鱗が剥げ傷だらけの金魚が暴走車のように宙を泳ぎ回り、電柱を折り塀を打ち砕く。
「おやおや、そのような攻撃で、どうにかなるとでも?」
 ルーカスは鎖を縦横に編んで網のようにして突進を受け止め、掌を金魚の腹に当てて螺旋の力を伝えると内部から捻じ曲げ内臓を破壊する。
「弱点をどんどん突いていく」
 ベルンハルトは黒い液体を槍のように長く伸ばし、金魚の腹を刺し貫いた。
「でかくても魚は魚だ、切り身にしてやる」
 刀に空の霊力を帯びさせ、魚の下に潜り込んだアバンは腹の傷口に刀を突き入れ、引き裂くように刀を振るって傷を広げた。
「これだけ大きいと捌くのも大変ね……」
 実際に大きい魚を捌く人は大変だと思いながら、汐音は跳躍して魔鎌を横一閃に振り抜き金魚の胴に大きな傷を刻む。
『アー、アー』
 金魚は水鉄砲を吐き、仲間を守ろうと前に立つルーカスを吹き飛ばし、その上から押し潰そうと突進する。
「大きくて神経が鈍そうだけど、全身に電流を回せば動かなくなるだろ!」
 そうはさせじとスミコは雷纏う槍を連続で突き、金魚を寄せ付けずに幾つも刺し傷を刻んで体を麻痺させた。さらにルリカは魔法の光線を放ち、照らした金魚の体を石へと変えていく。
「石にしたら少しは見れる……無理だね、うん」
 石化した部分が余計に怪物らしさを演出していた。
『ザンネーン』
 攻撃を嫌がり迂回した金魚は塀を食べて穴を空け、スミコの眼前に迫る。それを庇おうとしたケイトが一口でパクリと金魚に呑み込まれてしまった。
 そこへノーブルマインドはスピンしながら金魚の腹に衝突すると、その口から衝撃でまだ奥まで入っていなかったケイトが吐き出される。
「――言い忘れてたでございますが、私を喰ったら腹壊すでございますよ」
 口から逃れたケイトは魂を乗せて熱く燃える拳を横っ腹に叩き込み、金魚を吹っ飛ばした。
「みんなはえさじゃありません……!」
 エドワウはきらきらのお星さまのようなオーラを分け与え、ケイトの魔力を増幅させる。
『ザンネーンザンネーン』
 金魚は空を活き活きと泳ぎ次の獲物を狙う。
「ザンネーン、ザンネーンって、それはキミでしょ。漆黒のチェイサーからは逃れられないんだから! 喰らい尽くせ!」
 ルリカの元から漆黒のオーラで生み出した弾が撃ち出され、動く金魚を追いかけてその体に着弾した。衝撃に鱗が砕け肉を穿って反対側へ貫通した。
「これで活け造りにしてあげるわ」
 家の壁を蹴り上がって跳躍した汐音は金魚の上に着地し、金の剣を突き刺してから走り出し、金魚の右側を切り分けた。
『ネラウゾー』
 金魚は体を捻って汐音の体を宙に浮かし、横から口を開けて迫る。それを助けようとルーカスが汐音を押し出すと、代わりに金魚にパクッと一口で食べられる。
「腹を捌いて救出といくでございます。少しの我慢でございますよ!」
 すぐさまケイトは拳を金魚の膨らんだ腹に打ち込み、ドリルのように回転させて身を抉り深く穴を空けた。
 その金魚の内部からバールが突き出た。それを抉じ開けて体液塗れのルーカスが姿を現す。
「やれやれ、金魚に食べられるなんて初めての経験ですよ」
 ルーカスは出てきた穴にバールを突き入れ、足を掛けて身を引っぺがして肉を大きく抉りとった。バランスを崩して金魚はきりもみに落下していく。
「蒼き燐光解き放ち、暗雲を斬り裂け、疾風の斬撃!」
 アバンは鞘を霊力で満たし刀身を納めると、スカーフを揺らしながら疾走して一気に間合いを詰めて刀を抜き放つ。蒼き一閃は金魚の害意だけを斬り捨て、墜落した金魚を少しの間行動不能にした。
「霊長類なめんなぁ!!」
 その隙に背後からスミコは体当たりするような勢いで槍を突き、尾の方から深く串刺しにするようにグラビティエネルギーを纏う槍を刺し込んだ。
「最後だ、金魚らしく掬ってやる」
 ベルンハルトは光輪を巨大なポイの形に変え、金魚の下に差し込み掬うように振り上げた。持ち上げられて金魚の巨体が宙吊りとなって動きを止める。ビクビクッと痙攣する金魚の頭に、メルが飛び乗ってブレスを放ち傷を悪化させた。
『ザンネーン、タベラレルー』
 金魚が陸に上がった魚のようにぐったりと力無く口をパクパクさせた。
「きんぎょ……すくい!」
 巨大金魚掬いに目を輝かせながら、エドワウはライフルを構え光弾を発射した。光はちょうど深く開いた傷穴に吸い込まれるように入り、体内から衝撃が走り金魚は砕け幻のように消えてしまった。

●夏の思い出
「お疲れ様でございました、と」
 敵が消えてしまったのを確認して、戦闘も平時もいつもと変わらぬ顔でケイトは一礼する。
「夜更けの住宅街で戦う、というのも迷惑でしたかねえ。せめて後片付けくらいは、やっておきましょうか」
 周囲の破壊痕を見渡したルーカスは、ヒールを掛けて少しでも壊れた建造物を元に戻す。
「金魚、ね……私はそういったお祭りに参加した経験は殆ど無いし、金魚を掬ったことも飼育したことも無いけれど。結構大きく育つものなのかしら」
 汐音は消えた金魚を思い浮かべ、流石にこの大きさはないだろうと首を振る。
「……それにしても、これは少々大きすぎるけれど」
 この大きさでは家がパンクしてしまうと、家の中でぎゅうぎゅうに狭苦しく暮らす巨大金魚を想像して笑みを浮かべた。
「聞いてたよりデカく感じたな、水族館なら喜んで飼うかもしれないが……」
 アバンも巨大金魚を入れる水槽を考え、水族館なら違和感がないかもしれないと他の魚に混じって泳ぐ姿を想像した。
「金魚も小さいから可愛いんだな、大きいのはもう見たくない……」
 もう一度見たいとは思わないとスミコは頭を振って脳裏に焼き付く巨大金魚を追い払った。
「やっぱりこういう巨大生物とか想像の中だけがいいよね、うん」
 うんうんとルリカも同意して頷く。
「乗ってみたかったです……きょだいきんぎょ……」
 エドワウは満足そうに返ってきたメルを胸に抱き、羨ましそうに見つめた。
「やはり祭りの時だけで十分、かな。そろそろ夏も終わりだな……」
 祭りの風物詩として見られればそれでいいと、ベルンハルトは戦いの熱を冷ますように少し涼しくなってきた夜風に身を委ねた。
 もうすぐ夏休みも終わる。巨大金魚の夢も事件を知らぬまま目覚めた少年には、面白い夏の思い出の一つとなるだろう。それを成したケルベロスにも巨大金魚は忘れられぬインパクトを持った夏の思い出となった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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