鎌倉ハロウィンパーティー~南瓜頭の見る夢は?

作者:刑部

「ハロウィンか……」
 TVの画面に映し出されるワイドショーのハロウィン特集を見て、青年は呟いた。
「だいたい数年前まで日本にそんなものなかったじゃないか……えっ」
 続けてボヤいた青年の前に、赤い頭巾を被った少女のドリームイーターが現れると、青年が呆気にとられている間に手に持った鍵でその心臓を一突きする。
「うっ……」
 青年は小さな呻き声を上げて崩れ落ちる。……が鍵に穿たれた胸に傷はなく、青年の息も乱れてはいない。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか、ふふっ素直じゃありませんね。ではその夢叶えてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 と赤い頭巾を被ったドリームイーターの少女が鍵を振るうと、倒れた青年の隣に大きなフォークを持ったパンプキンヘッドのドリームイーターが現れる。
 嗤うカボチャ頭以外の体の部分は全てモザイクが掛っており、突き立てたフォークでドンドン! と床を叩くとその姿は掻き消えたのである。

「日本各地でドリームイーターが暗躍しとるみたいや」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044) がそう切り出す。
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査により判明したところによれば、このドリームイーターは、ハロウィンというイベントに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティーの当日に一斉に動き出す様なのだ。
「ハロウィンドリームイーターが現れるんは、今年世界でいっちばん盛り上がるハロウィンパーティー会場……そうや、鎌倉のハロウィンパーティーの会場っちゅー事や。
 みんなには、実際のハロウィンパーティーが始まるまでに、ハロウィンドリームイーターをけっちょんけっちょんにして欲しいっちゅー訳や」
 と千尋が八重歯を見せて笑う。

「ハロウィンドリームイーターはハロウィンパーティーが始まったら姿を現すねん。せやから、ほんまのパーティより先にパーティ始まったでーって感じでやったら、のこのこ出て来ると思うねん。
 せやから盛大に騒いだってや。
 ほんで、倒してほしいハロウィンドリームイーターやねんけど、だいだい色の南瓜頭した人間や、首から下が全部モザイクになってるから、見たら一発でわかると思うで。
 ……テレビで見たんやったら、ハロウィンに乗じた露出狂の可能性は否定できへんけどな。会いとうないけど」
 千尋が笑って話を続ける。
「手には鍵と三又の槍……ちゃうな、でっかいフォーク持ってるわ。そのフォークで突いたり、モザイク飛ばしたりしてくるから気ぃつけや」
 とケルベロス達を見回す。

「ほんまのハロウィンパーティーを楽しむ為にも、こんなドリームイーターはぱぱっと片付けよー、ほなあんじょう頼むで」
 千尋はケルベロス達の肩をバシバシ叩いて激励する。
「成程、不埒なドリームイーターですね。鎌倉の復興の為に私もこの刀を振るいましょう」
 千尋に肩を叩かれた桐生・冬馬はよろけそうになるのを堪え、刀の柄に手を置くのだった。


参加者
水鳥・ユーグレナ(鎖の女神の崇拝者・e00598)
サイクス・ニルヴァーナ(ロマネクトアビス・e00801)
アイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)
セフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220)
天之空・ミーナ(紅風・e01529)
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)
近宮・一情(清楚系火力上等お嬢様・e12977)
蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618)

■リプレイ


「みなさーん、盛り上がっていきましょう」
 いつもと違う蝙蝠翼を広げた早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)が、衣装のキラキラを振りギターを掻き鳴らしメロディーを紡ぐと、その楽しい音楽に合わせ南瓜を模した風船が揺れ、
「さぁ歌いましょう」
 黒のシンデレラをイメージとした姫騎士ドレスを身に纏い、肩にボクスドラゴンのシルトを乗せたセフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220)が朗々と歌い上げる。
「たのしいたのしいパーリナーイっ♪ ドラーゲ~♪」
「全力で盛り上げちゃうよー」
 蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618)が、お菓子が沢山入った篭を手にくるくると回ると、黒猫の着ぐるみを着たアイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)も踊る。
「本番じゃなくても、盛り上がっていかないとね」
 アラビアンナイトな恰好の社守・虚之香がナイフと扇を手に、アイシアに並んで踊り出すと、真っ白なローブを纏って杖を持ち、古の魔法使いに扮したサイクス・ニルヴァーナ(ロマネクトアビス・e00801)が、
「トリックyetトリート!」
(「初依頼が、心満たされねェドリームイーターとは、なんとも言えねェが……」)
 心の声を封じて、悪戯させろと騒ぎ立てた。
「素敵な演奏ですわね……。こうして望海様と一緒に聴ける事、それが一番素敵ですが……」
「んへぇ。またそんな事いうんだよね」
 パーティから顔を向ける近宮・一情(清楚系火力上等お嬢様・e12977)の頭に、笑みを浮かべた千種・望海がぽんぽんと手を乗せる。
 そんな楽しいパーティの様子、スピカの奏でる音色に合わせ、物陰からパンプキンヘッドの男が踊りながら現れる。
「アハハハハ、楽しいパーティパーティ、アーイ!」
 だがその首から下は全てモザイク。こんなの密着、警察24時! とかで捕まった露出狂でしか見た事がない。
「……その格好はねーだろ……」
 青を基調とした女騎士に扮した天之空・ミーナ(紅風・e01529)が、うわぁという表情でつぶやくと、皆がパーティを止めパンプキンヘッドに向き直った。
「楽しいパーティパーテ……あれ?」
 音楽が止み、皆が自分を見ている事に気付いたパンプキンヘッドが首を傾げる。
「とりっくおらとりーとぉ!」
 次の瞬間、パンプキンヘッドの近くにあった巨大カボチャが爆ぜ、中から水鳥・ユーグレナ(鎖の女神の崇拝者・e00598)が現れた。
「露出狂の仮装じゃきかねぇぞそれ! 仮装ぐれぇしろよ!」
 ズビシィ! と人差し指を突き付けそう言い切るユーグレナ。
「パッ、パーティを止めるなよぉ、続けろよぉ、ノリと勢いで弾けようぜアーイ!」
「来ますよ」
 プルプルと震えたパンプキンヘッドは、カッ! とカボチャの目を見開くと、巨大フォークを突きつけ襲い掛かり、桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019)が腰を落とし斬霊刀の鯉口を切った。


「さあ、待ちに待ったショータイムだよ。けど、残念だけど、君の出番はここには無いんだ。さあ、帰りはあちらだよ」
 手に取ったシルクハットをくるくると回し、被り直したラーレ・ベルンシュタインがパチリと指を鳴らすと、色とりどりの花びらが舞い敵に緩慢なる死を付与する。
「向かってくるモザイクには、なぜこんなにも嫌悪感を抱くのかな? とりあえず……ビリビリ痛いよー♪」
 だが、それをものともせずに仕寄ってくる敵に、下ろしたゴーグルの下で眉を顰めたアイシアが、雷の力を纏わせた手裏剣を次々に投じる。
「ひいっ、ビクンビクンしてる。なんかやだっ! なんかわからないけどやだ!」
 その手裏剣を受け、雷の力でビクンビクンするモザイクを見て、ぶんぶんと首を左右に振るのはスタイリッシュモードになった智優利。
 寄って来るなと言わんばかりに、ブラックスライムを槍の様に尖らせ叩き付ける。
 それを大きなフォークの切っ先で逸らした敵が、夢喰らいを放つが、そこに七五式鳳仙花が迫り、モザイクの足を轢きまくる。
「楽しいハロウィンを滅茶苦茶にするだなんて……皆が大切な人と過ごす、素晴らしきハロウィンを……神がお許しになったとて、私が許しはしません!」
 望海に見せる顔とはまったく異なる顔を見せた一情が、近域制圧用強化型BRから凍結光線を放ち、足を押えて跳ねる敵に追い撃ちを掛ける。ミーナとセフィも一情の光線に合わせて攻撃を仕掛ける中、
「荒ぶる魔力いま矢となりて……どっかーん! マジックミサイル☆」
 智優利が構えた杖頭から次々と魔法の矢が飛び、ユーグレナとサイクスの攻撃が続くと、
「乱交バトルパーティかい? 負けないぜアーイ!」
 敵も果敢に反撃し、アイシアを巨大フォークで突き刺した。
「やってくれたね。覚悟はいいかな?」
 直ぐにスピカから回復を受けたアイシアが、赤い瞳を向けマフラーを棚引かせて一気に詰め、螺旋掌を放って跳び退くと、
「皆が心待ちにしたハロウィン、決して邪魔はさせませんわよ!」
 一情のアームドフォートが一斉に火を噴いた。

「アーイ!」
「パーティの主役はこの私達だと言ってるでしょう」
 敵の繰り出す欲望喰らいを、双剣で薙ぎ払ったセフィが気を吐くと、シルトがその後ろから属性をインストールして抵抗力を高める。その間に距離を詰めたアイシアとユーグレナが鍔迫り合いを演じる中、
「そこだ!」
 ミーナの右手が弦を弾くと、妖精の加護を宿した矢が敵の左眼に突き刺さる。
「流石は天之空さん、私も蒼き月の光に導きし聖なる焔にて敵を払いましょう」
「まったくだ。大人しく寝てろ、この大馬鹿野郎が!」
 パンプキンヘッドに開いた左目を押さえ、苦しむ敵を見た蒼龍院・静葉が熾炎業炎砲を放ち、その焔と共に駆けたリオル・アイオンハートが電光石火の蹴りを見舞う。
「畳み掛けましょう」
 一連の攻撃に蹈鞴を踏む敵に、上体を低く保って一気に間合いに入った冬馬が斬り上げながら声を上げると、一情の放つ光線とサイクスの放つ時空凍結弾と共に、智優利もドラゴンの幻影を放って畳み掛ける。
「反撃ッ反撃ッ、アーイ!」
 それらの攻撃に身を刻まれ、あるいは受け流しつつ、敵は巨大なフォークを繰り出しケルベロス達の夢や欲望を喰らおうと、攻撃を繰り出すが、スピカが的確にケアに回り、深刻な状況には至っていない。
「見た目が悪いの以外はそんなにダメージないけど、しぶといわね」
 矢と気咬弾を交互に放つミーナが、敵の耐久力の高さを愚痴る。
 回復している様子も無く、自分が受けていたら既に倒れている程のダメージを与えているのだが、パンプキンヘッドはテンション高く甲高い声を上げノリノリで攻撃を繰り出していた。
「ここは通さないぞ!」
(「絶対に護り抜く、そう誓ったのだから」)
 愚痴ったミーナに襲い掛かる夢喰らいを、割って入ったセフィが斬り捨てると、シルト、静葉とリオルと共に攻勢へと転じる。

 スピカは常にギターを掻き鳴らし、味方の士気を鼓舞している。
「それにしても全身モザイク……なんだかひわ……いえいえ、見た目で判断してはいけません」
 そして敵に目をやり何かを思い浮かべては、それを振り払う様に首を左右に振っていた。その半歩程前には魔導書を手にしたサイクスが、足元に描いた魔法陣から動かないでいる。
「……我が手を媒に大地の縛は疾く捕える也」
 サイクスが詠唱を結ぶと向けた掌から魔法の光線が飛び、踊り狂う敵の動きを阻害する。
「そこだっ! 女神様は、その御姿を現すことはなく。されど、我が信仰はその畏怖を敵に与える!」
 どこかイッてしまった視線を向けたユーグレナの声に、敵はプルプルと震え、サイクスの光線の効果も相まって動きを止めた。そこを狙ってミーナとアイシアが攻撃を仕掛けるのを、ユーグレナが掌だけを向けて制する。
(「様子が……おかしい……」)
 ユーグレナの直感が何かを告げていた。そしてそれを肯定する様に、
「ダンスを止めるなんて、私を怒らせたようだね、アーイ!」
 爛々と輝くパンプキンヘッドの瞳がユーグレナに向けられる。その眼光に力があるのか、ユーグレナは視線を逸らせないでいた。
「いざ、必殺のパンプキン……」
 敵の腕がゆっくりと胸の前でクロスされ、
「気を付けるんだ!」
 サイクスの声が響く中、スピカも起こり得る事態を想定し、いつでも回復を飛ばせる様に身構える。
「……ボンバアァァァァア!」
 続く声と共に敵の両腕が弾ける様に高々と突き上げられた。
 ……?
「……何も起こらねぇじゃねーか!」
 その敵の腹にユーグレナ蹴りが叩き込まれると、敵はアウチ! と叫んでもんどりうつ。
「紛らわしい真似しやがるぜ」
 安堵の息を漏らしたサイクスは時空凍結弾を飛ばし、怒りをぶつける為に距離を詰める仲間達の背中を見送る。


「寂しかったなら、普通にパーティに参加してくだされば良かったのに……」
 波状攻撃を受けながらも反撃を試みる敵に対し、寂しそうにそう呟いたスピカが、攻撃を受けた者へ的確に回復を飛ばして戦線を支える中、
「グッバイ誰かさん。輪廻からは解き放ってやるからよ。俺のいる場所が涅槃に至る道だ」
 サイクスはそう言って一度目を閉じ、その目を開くと、
「汝等が霊は我が救済の元に掬い、軈て涅槃に至るべく大乗なる弥勒菩薩の慈愛を以て成る也」
 朗々たる詠唱を紡ぎ後光の様に広がった魔法陣を収束させ敵を睨む。その視線に怯んだ敵に対し、
「鎖の女神よ、その御業をここに願う!」
 ユーグレナの声に応じ見えざる鎖が敵の体を更に縛り、冬馬が斬霊刀を一閃する……が、敵はまだ倒れない。
「しっぶといわねー。飛び出せちうりんカード! ぶち当たって砕けエンチャント! グラビティーっブレェェエエエエイクッ☆」
 智優利がグラビティ・チェインを乗せた一撃を叩き込むと、その肩に手を置き回転しながら頭上を越えて来たのはアイシア。
「肩借りたよ、智優利。これでも……食らうん、だよっ!」
 逆手に構えた2本のナイフに雷の力を込め、パンプキンヘッドに叩き込む!
「レッツパーティ。アーイ!」
 次の瞬間、その穿たれた傷から欲望を喰らう力が溢れ出してアイシアを襲う。
「ずいぶんと往生際が悪いじゃねぇか、なら私がテメェの運命、断ち切ってやるよ!」
 ミーナが右手に構えたナイフの刃に光が収束し巨大な刃を形作る。
「ここで決めるっ! 白狐四天・弧月無影閃っ!」
「……お前は甘く見過ぎたんだ。そのまま何も抗わず……堕ちろ!」
 静葉とリオルが挟み込む様に強烈な一撃を叩き込み、
「こ、こんなパーティ楽しくないネー」
「逃がしはしないのです」
 敵がよろよろと逃げ出そうとするのを、回り込んだセフィの重い蹴りが押し留めた。
 そこにミーナの運命の剣が振るわれる。
 断ち切られる運命と断ち切れぬ絆がその一点に交錯し、強かに斬られたパンプキンヘッドが、
「あうー、聞いてないー、こんな痛いなんて聞いてないアーイ!」
 と千鳥足で恨み節を呟いた。その足元にさり気なく伸びた蔦が、
「Trick and……」
 声と同時に臨海に引かれ、敵はバランスを崩し倒れそうになる。そこへ、
「Treat!」
 一情の構えた巨砲が火を噴き、文字通り敵の体を吹き飛ばすと、そこには中が空洞になったパンプキンヘッドだけが空しく転がったのだった。


「さぁ、ハロウィンの予行演習もバッチリだね♪」
 壊れた物にヒールしたアイシアが、ゴーグルをおでこに上げて笑うと、
「ハロウィンだからってハロウィン風にはならないんですね。残念です」
 ヒールを掛けた所から門松みたいなのが生えてきたのを見て、スピカが唇を尖らせた。
「消し飛んじまうとはな……これは、会場の飾りにしてもいいんだよな?」
 サイクスが転がるパンプキンヘッドを拾い上げる。眼鏡を押し上げ色々と調べてみたが普通の中身をくり抜いたかぼちゃで、害は無さそうだった。
「モザイクも掛ってないし、いいと思うぜ……っと」
 言いながら振り返ったユーグレナは、サイクスから投げ寄こされたパンプキンヘッドを落としそうになり、慌てて拾い上げる。
「じゃあケルベロスハロウィンに向いましょう! 全てはノリと勢いで! それが楽しむコツなのー☆」
 智優利が元気良く腕を上げると、恋人と見つめ合った一情も手を繋いで歩き出す。
「あ……」
「……あんだよ。私から誘うのがそんなに不服か? これでも気ぃ使ってんだよ」
 差し述べられた手に戸惑うセフィに、ミーナはバツが悪そうにそっぽを向く。……が、その手は引っ込められてはいなかった。
 こうしてケルベロス達はハロウィンドリームイーターを無事撃破し、本番のハロウィンパーティを楽しむ為、その場を後にしたのである。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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