観賞用筋肉VS戦闘用筋肉

作者:陸野蛍

●筋肉とは芸術である
 とあるスポーツジム、そのトレーニングルームで異形が熱弁をふるっていた。
「人の美しさとは、筋肉の量にある! そして、筋肉という芸術を極めることこそが我々のしなければならないことである!」
 異形の周りに集った、十人程のボディービルダーたちは、大きく頷く。
 どの男達も、隆々とした筋肉を誇り、日焼けマシーンで焼いたであろう身体は黒光りししている。
「だが、分かっているな? 筋肉とは、美しくそして儚いもの。日々のトレーニングで美しい筋肉を保つことも重要だが、それを決して日常の労働で使ってはならん!」
 周りにいる男たちは声をそろえて『はい!』と答える。
「筋肉とは繊細なものだ。無駄な労働で、筋肉の細胞が壊れてしまったり、付かなくてもいいところに無駄な筋肉が付いてしまったりしてはいけないのだ!」
 異形が熱く語るのをを男達は真摯に聞いている。
「ましてや傷つく恐れがあるようなことは決してしては、いけない。それは、筋肉への冒涜なのだから!」
『はい!』
「それでは、今日のトレーニングに入る! 俺はトレーナーとしてお前達を最高の芸術品へと昇華させて見せる!」
『はい! トレーナー!』
 男達の野太い声がトレーニングルームに響いた。

●胸やけ注意報
「……あはは、スポーツの秋っすねえ、皆さん?」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が何故か乾いた笑いと共に聞いてくる。
「皆さん、筋肉つける為に何かしてるっすか?」
 ダンテが、世間話のように会話を続けるが、顔は若干ひきつっている。
 ケルベロス達の、怪訝な表情に諦めたのか、ダンテが本題に入る。
「ビルシャナ大菩薩が飛び散った光の影響で、ビルシャナになってしまった人が現れたっす」
 ちゃんとデウスエクス事件の様でケルベロス達は安心するが、ダンテの次の言葉で絶句することになる。
「現れたビルシャナが布教している内容って言うのが、筋肉とは芸術であるということらしくって。あるスポーツジムで、ボディービルダー達に教義を広めてるっす……」
 ダンテが、額の汗をぬぐう。
「しかも筋肉って言うのは使うものではなく、あくまで芸術品であって磨き上げることに意味があるって言うことらしいっす」
 つまり、肉体労働やレスキュー、筋肉を酷使するスポーツなどは、してはいけない。
 ましてや、戦闘などもっての外らしい。
「まあ、考え方は人それぞれなんっすけど、ビルシャナが関わっているとなれば話は別っす! ビルシャナの教えは強い説得力を持っているっすから、教義を覆すのは大変かもしれないっすけど、皆さんならきっと何とか出来るっすよね」
 ダンテは、笑顔で言うがつまり丸投げである。
「ビルシャナの教義に完全に呑まれてしまうと、その方はビルシャナを撃破できるまでビルシャナの手足として動いてしまうっすから、なるべくそれは避けてほしいっす」
 ダンテはなるべく事務的に要点を説明していく。
 深く考えてしまうと胸やけしてしまいそうなのだ。
「場所は、郊外のスポーツジムのトレーニングルームっす。オーナーがビルシャナ化してしまった為、ビルシャナの周囲には教義に呑まれかけているボディービルダーの方々が十人程度いるみたいっす」
 戦闘するだけの広さはあるが、屋内で障害物と言うほどではないがトレーニング機器も十数台置かれているらしい。
「ビルシャナの攻撃手段は、奇妙に黒光りするビルシャナ閃光と何かの油が燃えてるんすかね? 孔雀炎を使ってくるみたいっす。それと筋肉の素晴らしさをビルシャナ経文にこめてくるみたいなのでこちらにも注意して下さいっす」
 ダンテの説明内容がいちいち若干気持ち悪いのは気のせいだろうか?
「このビルシャナ、提唱する教義通り、自分の肉体を使っての攻撃は美しくないと思っているみたいなので、近接攻撃は無いと考えていいっす。それは、ボディービルダーさん達が配下になったとしても同じなんすけど、ただ……」
 ダンテがげんなりとした表情で続ける。
「ビルシャナの力を受け入れたボディービルダーさん達のポージングには、精神攻撃の効果が生まれるみたいっすね。トラウマになったりしないといいんすけど……」
 ビルシャナの力を受け入れると言うことの恐怖(?)にダンテが一瞬身震いする。
「身体を鍛えるのって大事だとは思うんすよ。だけど、ケルベロスの皆さんなら分かると思うっすけど、その力は何かの役に立たせてこそだと思うんす」
 ボディービルと言う芸術競技を否定している訳じゃないんすよとダンテは付け加える。
「身体を鍛えることの意味と本当に美しいということがどういうことなのかを教義に惑わされている人達とビルシャナに教えてきて下さいっす!」
 そう言って、ダンテはビルシャナの撃破を切に願うのだった。


参加者
磐境・かなめ(山巫女・e01801)
ロストーク・ヴィスナー(チエーストヌィ・e02023)
ヤクト・ヴィント(邪神を料理するモノ・e02449)
サンダル・アドビス(輝くみんなの目印・e02698)
中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)
黒宮・透(狂火・e09004)
ジャック・ハイロゥ(廃墟の街のガンスリンガー・e15874)

■リプレイ

●筋肉に会いに……
「はあ……」
 夜の静まり返ったスポーツジム前で憂鬱そうなため息が漏れ聞こえる。
「どうしたの? ため息なんかついちゃって?」
 頭にラフレシア、背中に孔雀羽と言うとにかく派手な、サンダル・アドビス(輝くみんなの目印・e02698)がため息を漏らした、黒宮・透(狂火・e09004)に尋ねる。
「いえ、分かってはいるんですよ。筋肉がお好きな殿方が多いって事は……」
 そう、透も頭では分かっているのだ、男性にとって立派な筋肉が自慢になることは。
「私、筋肉って暑苦しくて正直嫌いなんです。だから到底理解できません」
 言って、またため息が出る。
「俺も見かけ倒しの筋肉には興味無ぇけどな」
 言いつつ、カリーナ・ストレリツォーヴァ(銀龍無頼・e00642)が葉巻の煙を吐きだす。
「筋肉ってのは使ってナンボさね」
 そう言う彼女の露出した腹筋は綺麗にシェイプされ、彼女の魅力を引き出すものになっている。
「そうであります! どんなものでも使ってこそ意味があるのだと思うであります!」
 迷彩ヘルメットに巫女服と言う変わったいでたちで言うのは、磐境・かなめ(山巫女・e01801)である。
「芸術家ってよく分からないのであります。……あれ? ボディービルって芸術なのでしょうか?」
 そんな疑問が頭をよぎり、かなめが首をひねる。
「まあ、ダンテも言ってた通り、芸術競技としての需要はあるみたいだね」
 柔らかな物腰で、ロストーク・ヴィスナー(チエーストヌィ・e02023)が答える。
 だが、ロストークの内心はと言うと。
(「折角鍛えても鳥人間になってしまったら羽毛で見えづらいよね」)
 と言うものだったり。
「ボディービルにかける情熱と言うのは競技者と言う意味では共感できますが、観賞用筋肉至上主義ですか……」
 女子プロレスラーとしても活動している、中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)は、複雑な気持ちになる。
「プロレスにおいても魅せる筋肉は確かに必要です。技をダイナミックに見せる為には美しい筋肉は、必要不可欠ですから。ですがパフォーマンスに必要なのは実践的な筋肉なんですよね」
 プロレスは、客を楽しませる為の興業と言う意味合いが強い為、めぐみ自身も商売道具たる筋肉については、彼らに言いたいことは多い。
「両方とも素晴らしい所があるのにな。それを否定するとは情けない……。ボディービルダー達にもだが、件のビルシャナにも分からせてやらないとな」
 ヤクト・ヴィント(邪神を料理するモノ・e02449)が言いながら、スポーツジムの門をくぐると、仲間達もそれに続く。
 最後尾となった透も新たなため息をつきながらジムに入っていく。
「筋肉……筋肉……。むさくるしいものが待っているんでしょうね」
 今回最も憂鬱に現場に向かったのは透だったかもしれない……。

●ケルベロスの筋肉論
「ダンベルは自分にあった重さで調整するように。休憩中のプロテイン接種も忘れるな!」
 ジムのトレーニングルームでは、異形のコーチ、ビルシャナによるボディービルダー達のトレーニングが行われていた。
「邪魔するぜェ!」
 力強い荒々しい口調と共に扉が開くと、隆々とし尚且ついい色合いに焼け黒々した身体にベストだけを羽織った、ビルシャナ的に理想の男がズカズカと入って来た。
「ほう、素晴らしい肉体を持っているな。当ジムに入会希望なのかな?」
 今にもすり寄りそうな勢いでビルシャナが入って来た男、ジャック・ハイロゥ(廃墟の街のガンスリンガー・e15874)に問いかける。
「は? 俺が? このジムに?」
「お前なら、すぐに俺の理想の肉体に仕上げることが出来るだろう。俺の指示するメニューに従えばすぐにだ!」
 ビルシャナは熱い瞳でジャックの肢体を上から下まで舐め上げるように見ながら、嘴を笑みの形にして必死に口説きにかかる。
 そんなビルシャナを見て、ジャックはフッと笑うと。
「馬鹿言ってんじゃねえよ。俺の筋肉は戦う力なんだよ! 人を守る意思の象徴だ……だから、わざわざ見せびらかしてんだよ! てめえらみてえなくそと一緒にするんじゃねぇ!」
 ジャックの言葉に数人のボディービルダーが一瞬反応したが、すぐに室内にビルシャナの怒りの声がこだまする。
「それだけ、美しい身体を持っていながら戦うだと! 愚かなのかお前は!?」
 ビルシャナは怒りのあまり、大声をあげるが、それが合図になったかのように、他のケルベロスも室内に入ってくる。
「ジャックさん、ふぁーすとこんたくととやらは出来ましたか? まあ、むさ苦しい部屋ですこと。……胸やけがしますわ。胃薬持ってきてましたかしら?」
 そう言って、透は筋肉を見ないようにと後ろを向く。
「そこの女ー! 芸術に対してその態度はなんだー!?」
「ビルシャナ殿、怒るのは待つのであります。我々も筋肉については考え方があるであります。ボディービルダーの方々も交え筋肉について語ろうではないですか?」
 かなめがビルシャナに提案するように言うと、『筋肉』と言うワードにときめいたのかビルシャナも落ち着きを取り戻し。
「そう言うならば、お前らの筋肉への考え方と言うのを聞いてやってもいいだろう。筋肉とは美であり、その美への考え方を聞くのも重要なことなのだからな」
 そう言うと、ビルシャナはボディービルダー達にも話を聞くように命令した。
(「このビルシャナ、結構ちょろいのでありますね。脳みそまで筋肉なんでしょうか?」)
 かなめはそんなことを考えつつ、仲間達に目配せを送る。
 それを合図とサンダルが一陣の風を起こし、ボディービルダー達にケルベロスの言葉をしっかりと聞く姿勢を取らずにいられないようにする。
「あのさあ、造形美ってのは分かりやすく美しいだろうが、機能美ってモンはそんなに美しく思わないかね?」
 カリーナが葉巻をふかしながら話しだす。
「軍艦なんかが顕著なモンで、それぞれの役割の為に突き詰められた合理性の産物ってのはそりゃまた美しいモンだぜ?」
「筋肉の話ではないのか?」
 ビルシャナが首をひねって聞くと、カリーナは一睨みし。
「黙って聞いてな。造形美を重んじるヤツから見りゃ飢えた狼だのなんだの好き勝手言うが、モノは使ってナンボ。目的に重点を置いて作り上げられたモノの方がずっと理に適っている。筋肉だってそうだろ?」
 ボディービルダー達の数人がざわつきだす。
「お前は何を言っているのだ! 機能美? 造形美の前ではまったく意味を成さないものではないか!」
 ビルシャナが突っかかるが、カリーナはふんと顔をそむけると新しい葉巻に火をつけた。
「たばこを吸っているような女だからそんな結論になるんだ! 女になど筋肉の事は、分からん!」
「私も女性ですが筋肉のことに関してなら言いたいことは、沢山あります!」
「ほう、お前も女にしては、鍛え上げているようだな?」
 ビルシャナに次に意見を始めたのはめぐみだ。
「私は女子プロの世界にいますが……」
「プロレスだと!! 筋肉への冒涜のスポーツか!!」
「冒涜だなんて、違います! 魅せる筋肉と戦う筋肉を両立させた芸術スポーツです! あなた達の様な、魅せるだけの筋肉の人達が筋肉の持つ本来の力強さを表現し人々を納得させることが出来ますか?」
 めぐみの『力強さ』という言葉に一瞬熱い炎が灯ったボディービルダーもいるようだ。
「納得など必要ない! 美しさこそ全てだ!」
 めぐみの言葉を打ち消そうとするビルシャナをめぐみはキッと睨むとつかつかと歩みより、ビルシャナの側にいた、ジャックをおもむろにお姫様抱っこして見せた。
「お、おい! ちょっと待てェ!」
 一番体格のよさそうな相手をお姫様抱っこするとは聞いていたが、女性にお姫様抱っこされるのは、男のプライドの問題ってもんがあるだろうがと、ジャックがめぐみに抗議の目を向ける。
「あなた達にこのようなお姫様抱っこが出来ますか?」
 めぐみが誇らしげに言うが。
「ボディービルにそんな競技演目は無いし、必要もない!」
 ビルシャナはその右手の羽毛を横に振りめぐみを否定する。
「でかい図体で使えない筋肉つけたってひたすら邪魔なだけだろう?」
「小さい頃は、父親の背中……労働する為の筋肉に憧れを感じたものではないのか?」
「今度は筋肉のなんたるかも分かっていないような、男達が出てきたか。嘆かわしい」
 ロストークとヤクトを見るや否や、侮蔑の言葉を浴びせるビルシャナに苛立ちを覚えたロストークとヤクトはそれぞれ上着を脱ぐ。
「これでも貧相だって言えるかい?」
 ロストークの身体はタートルネックのシャツの上からもはっきり分かるくらいに、引きしまった筋肉をしており、ビルシャナがごくりと唾を飲む。
「使えない筋肉でかさばるくらいなら、ビール腹の熊みたいなボクのじい様の方がよほど格好いいよ、力持ちだし」
 ロストークは、挑発するように言い捨てるとまたコートを羽織った。
「魅せる筋肉ってのも否定はしないが、美味いものを食べてそれを筋肉に変えてこそ、食べるってことに意味があるだろ? プロテインばっかり食ってたら本当の筋肉は付かないだろ?」
 そういうヤクトのタンクトップの下の身体も男としては十分な肉付きをしているし、食を楽しみにしているだけあって実に健康的だ。
「筋肉の美しさに関わらず筋肉には、果たすべき役割があってそれを果たせないのは筋肉にとって不幸だと思うんだよね?」
「役割だと?」
 軽い口調で言うサンダルをビルシャナが睨む。
「筋肉の美しさは機能美であって、機能を優先させない筋肉は美しくないね。それこそ、筋肉への冒涜だろう?」
「貴様等俺の教義を否定するか!」
 サンダルの言葉にビルシャナは怒りをあらわにする。
「私も実用的な筋肉なら悪くないかと思いますよ」
 透がビルシャナに優雅に微笑む。
「聞け! お前等! 筋肉は意味だ! 力だっ! 使わねぇ筋肉に意味はねぇ! 人が魅せられることもねぇ!」
 ジャックがボディービルダー達に激を飛ばすように叫ぶ。
「筋肉は萌えるもんじゃねぇ、使う為に作るもんだろ! 俺も筋肉信者に入るんだろうがよ……あーゆーナマクラと一括りにされるのは業腹だぜ」
 ジャックは、暗にビルシャナを刺してナマクラと言う。
「俺の筋肉がナマクラだと!」
「ナマクラでありますよ」
 かなめがビルシャナの怒りを更にあおる。
「人を動かすのは筋肉なのであります! つまり使わなければ生きていけないものであります! 生きる為についた物なら、無駄だなんてことはありませんよ!」
「何を!?」
「現に、他の皆さんには、私達の声が届いたみたいでありますよ」
 かなめがビルシャナに言いつつ、後ろを指すと、既にビルシャナの洗脳から解かれたボディービルダー達を、カリーナ、ヤクト、ロストーク、めぐみがジムの外に逃がしていた。
「貴様等! 俺の嗜好の肉体達をよくも!! 貴様等は生かして帰さん!」
 ビルシャナはそう言いつつ大きく翼を広げた。

●見よ! 戦闘用筋肉!
「我が筋肉美の光!」
 ビルシャナがなまめかしく光る黒い光を後衛に向かって放つと、ヤクトが被弾するがすぐに、かなめが山の女神を召喚する。
「大山祇大神を奉請て 禊祓へ給ひし時に成り座せる天嶽の大神等 諸々の禍事穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと恐みも白す! 大自然の生命力を!」
 山の女神がヤクトを包み、みるみるうちにヤクトの傷が癒えて行く。
「It's clobberin' time!私の妙技を味わいなさい!」
 時計を見るかのようなしぐさの後に叫ぶと、めぐみは一気に距離を詰めビルシャナに螺旋の一撃を与える。
「グフッ!」
「この技なら、あなたのご自慢の筋肉がお飾りだって、嫌と言うほど痛感しますよ」
 掌底を加えると、めぐみはさっと後ろに飛び退く。
 そこへ、カリーナが距離を詰めていた。
「埒を開けよう。全砲門、強制指向。ようこそ、我 が キ ル ゾ ー ン へ ! ぶっ込むぜェ!」
 カリーナの全武装からの集中攻撃でビルシャナの身体からゴッゴッと鈍い音がする。
「飢エノ絶望渇キノ嘆キヲココニ……」
 続けざまにヤクトの咆哮がビルシャナを襲うとビルシャナは未だかつて感じたことのないほどの空腹感に襲われ、眩暈にも似た症状が引き起こされる。
「プロテインじゃ腹は膨れないだろう?」
 ヤクトがにやりと笑う。
「これしきの事で俺が!」
 ビルシャナが怒りの形相でケルベロス達を睨むと、ひるんだ様子もない声が聞こえてくる。
「その羽根は飾りかな? それだったら僕の孔雀の羽根の方が立派だね♪」
 サンダルの挑発に。
「うるさいわ! 小僧!」
 叫び、孔雀炎をサンダルに放つビルシャナ。
 しかし、サンダルは優雅にそれをかわすと、お返しとばかりに。
「アビラウンケンバンウンタララキリリアクアビラウンケンバンウンタララキリリアクアビラウンケンバンウンタララキリリアク! 出でよ蝿の王!」
 どこからともなく現れた恐ろしい数の蝿がビルシャナを襲う。
「俺からも鉛玉のプレゼントだ」
 一度カウボーイハットをクイッと上げ次の瞬間ジャックが放った銃弾は、部屋のあちこちを飛び回ったかと思うと、ビルシャナを打ち抜いた。
「氷と」
「炎」
『どちらがお好み?』
 ロストークと透が問いかけをした瞬間、冷気と熱気がビルシャナの周囲を覆う。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
「……燃えなさい」
 ロストークと氷の一撃と透の地獄の炎がビルシャナを凍らせ焦がした。
 半死半生のビルシャナの耳にめぐみの声が響く。
「あなたはここまでよく闘いましたわ。でも、もうおしまいです。これが私のフィニッシュホールド。さあ、安らかにお眠りなさい!」
 独特な体勢から放たれためぐみの膝蹴りを受け、遂にビルシャナは沈黙した。

●筋肉の果て……
「うん、お疲れェ」
 新しい葉巻に火をつけながら仲間達に声をかけるカリーナ。
 その隣では、サンダルが戦闘で壊れてしまったジム内にヒールをかけている。
「身体を芸術品レベルまで作り上げるのは凄いと思うけれど、ちょっとやりすぎちゃったね」
 やれやれと言う感じでロストークが言うと。
「筋肉が悪いんじゃねえ。全部ビルシャナが悪かったのさ……語ろうぜ、これからの筋肉の未来をよ」
 ジャックの言葉に『筋肉の未来って何だ?』とみんなが心の中で総ツッコミしていると、かなめの口から。
「筋肉のお話をしていたら、お肉が食べたくなりましたね!」
「いいねえ♪ 美味い肉ならいくらでも俺入るから!」
 DAGON焼きを食べながらヤクトも賛同するが、透は口を押さえると。
「申し訳ありません、私今日はもうお肉はいいですわ。と、言いますか当分お肉はいいですわ。胸やけしてしまいますもの」
 いつになく、疲れを見せる透だった……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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