美しくも狂い咲く薔薇

作者:なちゅい

●美しい薔薇と一つに……
 山梨県のとある薔薇園。
 赤、白、黄色。色とりどりの薔薇が来園者の目を楽しませる。
 それは、薔薇園のスタッフによる普段からの手入れがあってこそ。今日も開園前から数人のスタッフが早出して、薔薇の手入れに当たっている。
 黒川・未來もその1人だ。名前もあってか、色とりどりの花に興味を抱き、植物が好きになった彼女。だから、仕事とはいえ、こうして植物の、とりわけ綺麗で香りのよい薔薇と触れ合うのは大好きで、天職とすら自ら語っている。
「さてと、開園までにもう一仕事……」
 薔薇に見入ってしまっていた黒川。その間に、怪しげな花粉が周囲へと飛来する。花粉は一輪の薔薇を見定めて取り付いていく。
 突如、その薔薇は巨大化。美しいはずの薔薇は禍々しい攻性植物と成り果て、すぐに近場に板黒川の体へと寄生していく。
「え、あ……っ」
 身体を奪われた黒川は徐々に意識を失ってしまう。
 一方で、寄生した攻性植物は彼女の体から棘付きの茎や葉を突き出し、頭上に赤い花を咲かせた。
「攻性植物だ!!」
 別のスタッフがデウスエクスの存在に気づき、スタッフ達に避難を促す。
 大切なスタッフが寄生されているとわかっていても、自分達ではどうしようもない。被害を拡大させぬ為にも、この場のスタッフを逃がすのが最良と彼らは判断したのだ。
 荒れ狂う攻性植物は黒川の足元から根を伸ばして移動し、蔓触手を使って周囲を破壊し始める。新たな獲物を求めて……。

 とあるビルの屋内。
 花屋を通りがかったケルベロスは、花を見ていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の姿を見つけて。
「あ、依頼の話かな。来てくれてありがとう」
 彼女が買っていたのは、数本の薔薇。ヘリオン内でちょっと飾ってみたいのだそうだ。
「そういえば、デウスエクスが薔薇園に現れると聞いた」
「うん……、詳しくは後でね」
 周囲の目を気にしてか、小声で語るエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)の言葉に頷くリーゼリット。彼女はビル内の一般人に不安を与えないようにと、ヘリポートへの移動を促す。
 10数分後、ケルベロス達の集まるヘリポートで、リーゼリットは説明を始める。
「薔薇園に攻性植物が出現するようだね。敵は女性職員に寄生して暴れるようだよ」
 現場は、山梨県某所の薔薇園。敵の出現直後にヘリオンは到着予定だとリーゼリットは話す。
「到着したら、取り急ぎこの攻性植物を倒してほしい」
 攻性植物は1体のみで現われ、配下などはいない。
 敵と見なしたものに対しては、攻性植物は3つの形態を使い分けて攻撃してくる。蔓触手、埋葬というよく見る形態の他、自らの葉を舞わせて攻撃もしてくるようだ。
「すぐに倒したいところだけれど……、そのまま攻性植物を倒すと、寄生された女性の命まで奪ってしまうことになるから、注意して欲しい」
 だが、相手にヒールをかけながら戦うことで、戦いの後に攻性植物に取り込まれた女性を助け出す可能性がある。女性を助けたいというのなら、ヒールグラビティを使いながら粘り強く攻性植物を攻撃していくしかない。
「皆が到着するタイミングでは、薔薇園のスタッフは園外へと避難している状況だよ」
 朝も早く、開園前ということもあって来園者もいない。この為、ケルベロスは攻性植物の対応に集中することが出来る。
 ところで、避難している薔薇園スタッフも、寄生された女性が植物好きであることを知っているからこそ、助け出してほしいと願っているはずだ。
 そのスタッフの要望に応えたいのは山々だが、ケルベロスにとって優先すべきは攻性植物討伐。そうしなければ、被害が拡大してしまうのは間違いないからだ。
「私も参加させてもらいたい。攻性植物などに、人の命を好き勝手にさせるわけにはいかん」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も参戦表明をする。彼も攻性植物に対して、思うことがあるのだろう。
 女性救出は簡単なことではない。その為には、しっかりとした戦略と粘り強く戦う気概が必要だ。
「女性の救出も気に掛けたいけれど……。ともあれ、攻性植物の討伐、よろしく頼んだよ」
 最後に、リーゼリットはそう一言だけ告げ、ヘリオンへと乗り込んで行ったのだった。


参加者
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
アニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)
眞守・白織(しろきつね・e21180)
リオルト・フェオニール(ドラゴニアンの思春期・e26438)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)

■リプレイ

●綺麗な薔薇と乙女を助け出す為に
 現地へと向かうヘリオン内。
 ケルベロス達は今回の依頼状況について、確認していた。
「攻性植物が薔薇園のスタッフであるご婦人に寄生したとか」
 八重歯を煌かして語る少年の様なドラゴニアン、レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)。しかし、彼はぶっちぎりでチーム最高齢だったりする。
「ただいつものように、愛でていただけなのにね。一瞬の出来事で恐怖に包まれて、苦しんでいるだろう」
 こちらは年相応のドラゴニアンの少年、リオルト・フェオニール(ドラゴニアンの思春期・e26438)もまた、時折八重歯を見え隠れさせつつ、寄生された女性を慮っていた。
「予知によると、黒川さん以外のスタッフも被害を減らすために辛い気持ちを抑えて『仕事』をしたと」
 黒髪長髪の小柄なオラトリオ、アニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)がそう語り、さらに言葉を続ける。
「ならば、私も『仕事』をしませんと」
「助けられる、なら。助けたい、ね」
 敵を倒し、人を助ける。お楽しみはそれからとアニマリアは考えていた。チーム最年少の眞守・白織(しろきつね・e21180)も無表情で頷いてみせる。
「勿論捨て置けぬ事案、撃破は当然じゃが、救出も我らが使命じゃろう」
 その後に、そのご婦人からモテ気が到来しても……と言うレオンハルトの戯言は聞き流して。
「攻性植物の依頼で対象を救出するのも毎度お馴染み、救えるもんをわざわざ殺す奴も居ねーわな」
「エンデ、きよう。だから。なれたら、きっと、だいじょうぶ。だよ」
 殺さない戦いは苦手と、黒青グラデの猫の尾の様な髪を持つエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)が独りごちると、お揃いのイヤーカフスを付けた同居人白織が彼を嗜める。
「こんなに素敵な薔薇園なのに、大事にしていた薔薇に襲われるなんて悲しすぎるのパオ」
 ツインテールのような大きな象の耳を揺らす、エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)も少し物悲しそうな顔を見せてから、決意を見せる。
「絶対に助けてあげなきゃなのパオ!」
 そんな同旅団のエレコと同居人の姿も見て、何とかなんだろとエンデは眼前に見えてきた薔薇園を仰ぎ見た。
「綺麗な薔薇園、荒らさせはしないよ」
 女性のような外見をしたリィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)が意気込むと、さらにメンバーが声をあげる。
「お姉さんをしっかり助け出してあげて、薔薇園に平和を取りもどそうね……!」
「そうだな。悲劇を見過ごすわけにはいかん」
 リィンハルトに雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が同意すると、一行は薔薇園で上がる奇声に気づき、一斉に駆け出す。
 程なく、メンバーの前に女性の姿が目に入る。
 ただ、その女性の体からは植物の葉が所々から生え、その頭には真っ赤なバラが咲いていた。一見美しさを覚えるが、禍々しくも見える花は、攻性植物と成り果てている。
「僕たちが助け出すから待ってね、お姉さん」
 その苗床になってしまっている女性へと呼びかけたリオルトは、腕に巻きつくブラックスライムを構え、鋭い視線を向ける。
 そばにいる猪突猛進型な物部・帳(お騒がせ警官・e02957)は持ってきた荷物を安全そうな場所に置き、黒蛇の御業を呼び出して戦闘態勢に入っていた。
「シャアアアアアッ!!」
 バラに似つかわしくない叫び声を上げる攻性植物。
 そいつに、対するメンバーの中、レオンハルトはパチンと扇子を鳴らし、格好つけて見せて。
「竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 彼もまた仲間に合わせてライトニングロッドを手にし、グラビティを放つタイミングをはかるのである。

●地道に、辛抱強く救出を
 攻性植物に先んじて飛び出したエンデが電光石火の一蹴を敵に見舞うと、続く白織が寄生された女性を励ますべく呼びかける。
「お花、きれい。だね。たぶん、あなたが。いっぱい、いっぱいお世話、したから。だ」
 立ち位置が少しずれたらしく、彼女は盾役に移動する形で仲間達の前で身を張った。
「サチ。はたらいて?」
 主に呼ばれたボクスドラゴンのサチは大儀そうに現れて封印箱に入ったまま特攻すると、白織もまたライトニングロッドを振るって。
「はぜる。いかづち。――うごけない、よ」
 迸る雷が攻性植物の体を焼いていく。それに、苗床となってしまっている女性の表情が陰る。
(「彼らがプロであったのなら、我々もプロでありたい」)
 そうすれば、最良は付いてくると信じるアニマリアは地獄となった翼を広げ、ロザリオ【シルバーペイン】を砲撃形態に変え、竜砲弾を攻性植物へと撃ち込んでいく。
 対する攻性植物も多少の攻撃には怯む様子を見せず、根や葉を広げて襲い来る。
 手始めにそいつは根の一部を蔓触手のように変化させ、ケルベロスへと殴りかかってくる。
 すると、レオンハルトのオルトロス、ゴロ太が飛び出て受け止めていた。
 この後も激しい攻撃が仲間を襲うのは間違いない。
「お願い、みんなを守って、パオ」
 エレコは小型のゴーレムを錬成していく。可愛らしいフォルムのゴーレム達が前に立つ仲間達を警護し、さらに勇気付けていく。
「長期戦になるから、我輩達がしっかり支えてあげるのパオ!」
 エレコの言葉に、テレビウムのトピアリウスはこくこくと頷き、画面に応援動画を流して傷つく前衛陣の回復へと当たる。
 リュエンはそのエレコの要望に応える形で、敵の蔓触手に絡まれる仲間を解放する為にと癒しの雨を降らしていたようだ。
 その間もケルベロス達は攻勢に出ていたが、それが先行しすぎれば、寄生された女性の身が危ない。
「リィン殿、回復は手厚くゆこうぞ!」
「うん、レオンくん、しっかり回復してこ!」
 リィンハルト、レオンハルトは2人で連携し、仲間と女性の救出を目指す。
 レオンハルトはライトニングロッドを振るい、雷を攻性植物の体に走らせてその動きを止めようとし、リィンハルトは仲間の手前に同じくライトニングロッドを操って、雷の壁を構築する。
 その後、レオンハルトは敵の足止め弱体、リィンハルトは敵……というよりも捕らわれの女性の体力維持の為、回復へ動く。
 帳もまた女性の回復を考えながらも、荒ぶる攻性植物の足止めの為、構えたリボルバー銃より黒蛇の姿をした御業を飛ばし、攻性植物に撒きつけることでその動きを縛り付ける。
 そして、リオルトも女性の救出にと立ち回るものの、攻性植物に対しては冷酷な態度でブラックスライムを飛ばし、その動きを押さえつけようとした。
「ごめんね。少しの辛抱だからね」
 攻撃の直後、リオルトは寄生されて苦しむ女性を思いやる。
 少しでも早く彼女を攻性植物から解放する為、ケルベロス達はグラビティを繰り出していく。

 攻撃、回復を繰り返すケルベロス。
 高々と飛び上がったアニマリアはロザリオ『シルバーラース』を握りしめ、太い刃を攻性植物の花部分へと力の限り振り下ろす。
 女性の身が危険と判断すれば、リオルトが光の盾を展開し、女性の体を包み込んで癒していく。
 しかし、女性に寄生した攻性植物まで活性化してしまうのは非常に厄介だ。
 体力を取り戻した攻性植物は自身の根を地面へと埋め、戦場を侵食していった。
 それは時に、後方にいるメンバーにまで及んで。
「あら、あれ? 敵ってどっちでしたっけ? もしかして私が敵?」
 思考を乱された帳はやや錯乱し、自身にリボルバーの銃口を向けていて。
 そこで、エレコが溜めた気力を撃ち出し、帳を正気に戻す。
「はっ、私どうなっていたでありますか!?」
 きょろきょろと周囲を見回し、帳は改めてリボルバー銃を攻性植物へと向けてバラばくように弾丸を発射する。
 小学生ながらに少し大人びた考えを持つエレコは、さらに仲間の癒しを行う。
「被害者の人は、絶対に助けてあげたいパオ!」
 基本的には、ケルベロスの回復に専念するエレコ。ただ、彼女は常に女性を気遣いながらグラビティを行使する。
「出来る限り、支援させてもらう」
 リュエンもジャマーとして動く攻性植物の攻撃を受ける仲間の回復に立ち回り、サポートに駆けつけた昇もまた宝石に封じられた魔力を弾丸に変えて発射し、癒しを与えていたようだ。
 ケルベロス側の回復は手厚い状況。それもあって、攻性植物対応に集中するメンバーも多く、オルトロスのゴロ太も地獄の瘴気を浴びせかけていく。
「まだじゃ! このまま倒すとご婦人を助け出せぬやも知れぬ、慌てるのではない!」
 攻撃が先行しすぎれば、レオンハルトが仲間に釘を刺す。彼はオウガメタル「紅隈」を纏った拳で相手の体を殴り付け、攻性植物の様子を見る。
「お姉さん、もう少しがんばってね……!」
 女性の状況が厳しいと判断したリィンハルトは、緊急手術を行うことで治療に当たっていく。
 攻性植物となった薔薇を助け出すことができないことを残念がりつつ、彼は戦闘に臨んでいたが。
(「お姉さんを助け出してあげるのがきっと、薔薇さんのためにもなる、よね」)
 リィンハルトはそう信じつつ、女性へと施術を行う。
 魔術切開にショック打撃と多少荒っぽい手段だが、縫合が終われば女性の顔色がかなり良くなった。これでしばらくは攻性植物を攻める事ができる。
「薔薇の根に冷気は悪いのですが、デウスエクスにはどうでしょう?」
 十分に仲間が敵を抑えつけていると判断し、アニマリアは詠唱を始めた。
「時の氷に閉ざされよ! 其は汝の棺!」
 物質の時間を凍結する力を、彼女はロザリオ【シルバーペイン】へと付与して。
「廻らず巡らず堕ちよ、終の世界へ!」
 アニマリアは直接相手を叩きつけ、攻性植物を強く縛り付けていく。
 攻撃を繰り返す中、敵も応戦を強める。
 飛んでくる鋭い刃となった数枚の葉によって斬りつけられたアニマリアが深手を負っていると判断し、エレコは気力を撃ち出す。合わせて、トピアリウスも応援動画を流し続けていた。
 さらに、エレコはまた花弁のオーラを降らしていく。
 そうして、万全の態勢を維持するケルベロスはさらに、攻性植物へ攻撃を繰り返す。
「ふっふっふ、私の巫術にかかれば、ちょちょいのちょいっでありますとも!」
 黒白の蛇の姿をした御業を使う帳。やや抜けている彼だが、ここぞと己の血を触媒にして陣を描き、呪歌を唱える。
「聞こえるでしょう? 怨嗟の声が。見えるでしょう? 貴方が踏み躙ってきた者の姿、水底に烟るその魂が!」
 その陣から暗い影が延び、敵を中心に沼を構成する。その底からは死者が現れ、相手を腐った手で引きずり込もうとした。
 根を捕まれて動きを止めた攻性植物へ、リオルトが飛び込む。
 ヌンチャク状になった如意棒を振るうリオルトは嬉々として、攻性植物を叩きつけて行く。
 徐々に攻性植物は弱ってきているのは間違いないが、そいつは依然として、蔓触手とした根で前線メンバーを狙う。
「エンデ、エンデ。とっこう、ちゅうい。ってやつだ」
 身を張る白織だが、ここはボクスドラゴンのサチが身を挺してくれる。
「もどって、これたら。おはなし、きかせて。ほしい、な」
 その間に、白織が寄生された女性へと繰り返し繰り返し伝える。途切れなく伝わるように。疲れた彼女の耳へと呼びかけていく。
 雷を発する白織の一撃によって、攻性植物が女性の体から少しずつ剥がれかけていて。
 それを、鮮やかなコーンフラワーブルーの瞳でエンデは見つめていた。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 徒手空拳で飛び込んだエンデは、両手に隠した仕込み爪を伸ばし、左右から素早く挟撃を仕掛ける。攻性植物を確実に殺しつくす為に。
 ただ、攻性植物はなおも活動を止めない。
 よろよろとしながら地面に根を埋め込もうとする敵へ、リィンハルトは流星の蹴りを見舞う。
「ここは押す場面、コンビネーションで攻撃じゃ!」
 レオンハルトはゴロ太の体をむんずと掴んで。
「ゴロ太スラッシュ!」
 ほん投げられたゴロ太が攻性植物の頭の花に斬りかかり、レオンハルトがオウガメタルを纏わせた拳で殴りつけていく。
 ついに、女性の体に取り付いていた薔薇が枯れ始める。萎れたそれはぽとりと地面に落ちていった。
 同時に、女性も糸が切れたように崩れ落ちる。
 メンバー達がその安否を確認して、一息つく。
 一方で、昇は攻性植物の花粉を採取できないかと動いていたが、徒労に終わっていたようで小さく首を振っていたのだった。

●薔薇園を歩いて
 事後、メンバー達は荒れた薔薇園の修復を始める。
 リュエンは戦場となった場所へと薬液の雨を降らし、さらにリィンハルトが攻性植物に侵食された地面へと雷の壁を作り、この場を元の形へと近づけていく。
「綺麗な薔薇園さん、戦闘の跡が残るのはよくないもん」
 幻想交じりに残る部分はあれど、メンバー達の働きによって薔薇園は華やかな花壇を取り戻していたようだ。
 白織もそれに参加していたが、彼女は倒れた女性、黒川・未來も気がけて溜めた気力を撃ち出す。
「だいじょうぶ、かな」
 程なく、黒川が目覚めたのに気づき、白織は白いもふもふの尻尾を揺らす。
「ご無事ですか?」
 アニマリアはそっと、黒川へとカーディガンをかける。
「薔薇トークをしましょう。さっきのは悪い夢とかそんなのですよ」
「折角だし、薔薇園巡りでもしながら、あんたの話聞かせてよ」
 アニマリアのフォローに、エンデも薔薇園巡りを頼みつつ、話を促す。
「案内してもらえたらうれしいな。薔薇園のすてきなところ、教えてほしいっ」
 目覚めた黒川の様子にホッと一安心していたリィンハルトも、植物に恐怖を覚えてなければと気遣いながらも頼む。
「早朝に出て来て、丹精込めて育ててたんだ。好きなんだろ? 薔薇」
「そうですね、ケルベロスの頼みとあれば」
 微笑む黒川は起き上がり、スタッフとしてケルベロスを案内し始めると、エレコはてくてくとゴーレムと一緒に歩く。
 リオルトはまだ万全の体調ではないはずの黒川をすぐおんぶできるよう構えてはいたが、彼女は薔薇園のスタッフとして自身の力で案内したいと主張していた。
「ね、どの薔薇が一番綺麗?」
「一番なんて決められないですね……」
 リィンハルトの問いに、黒川はなかなか一番が決められずにいた。
 ただ、感情が籠もりつつも好きな薔薇を親切丁寧に一つずつ説明する黒川の姿は、本当に植物好きなのだと言葉の端々から伝わってくる。
 しばし、黒川による色々な薔薇園の話を聞くメンバー達。
 白織はこくと頷き、リィンハルトが微笑む。
 そんな中で、アニマリアはきょろきょろと園内を見回す。
(「香る綺麗な薔薇……そして、今回の赤薔薇の悪夢を払拭する薔薇といえば……」)
 ようやく目的の薔薇を発見したアニマリアは、それを指差して。
「あの薔薇を欲しいと思っているのですけど、育てるコツを教えて貰えませんか?」
 それは、黒のニュアンスを抱かせぬ、明るい真紅の薔薇。強く香り、情熱の炎のように咲く花だ。
 その花の品種は、フラムと呼ばれる。
「気障ですか? 薔薇はそういうものですよ、ふふ」
 アニマリアの笑いに黒川も微笑み返し、苗や鉢の選び方からまた丁寧に説明してくれていた。

 その後、案内を頼んでいた黒川がやはり少し辛そうなこともあり、ケルベロス達は景観の良い場所で休憩をとることにする。
「こんな時こそ、私が持ってきたお茶とお菓子……」
 帳が用意したそれらは攻性植物の下敷きになってしまっていた。涙を流すおっちょこちょいな帳。とはいえ、口にできぬこともない為、皆、それを頂くことにする。
 休憩をとるメンバー達が心を落ち着ける中、帳は黒川へと問う。
「こんなに綺麗な花を咲かせるとは、さぞ苦労して手入れされたのでしょう」
 来年の薔薇も楽しみと語る彼に、黒川はそんなことはない大きく手を振る。
「植物のことは何も知らないんだよね。この機にバラを育ててみよう」
 リオルトに対し、黒川がお勧めの薔薇とその育て方を語り始めていた。
 その後、メンバー達は各自で薔薇園を巡る。
「リィン殿、よければ爺に付き合わぬか?」
「わあい、いっしょに見てまわろ」
 レオンハルトの誘いにリィンハルトは喜び、2人で歩き始める。戦友と過ごすゆるりとした一時に、レオンハルトは頬を綻ばせていた。
「あおいばら。さがそう」
 白織は思いついたようにエンデの手を引いて誘うと、彼は白織りの体を手馴れた様子で抱っこすると、白織は大きく尻尾を動かして問う。
「青い薔薇って……、そうそう見つかんねーと思うけど」
 自身のグラビティに青薔薇を使用するなど、薔薇は好きなエンデ。珍しいとは知っていても、白織は探さずにはいられない。
「しあわせは、となりにあった、ってやつ。だ?」
 その花言葉は近年、品種改良された青い薔薇が生み出されたことで、「夢かなう」と言われる様になったという。
 探したら、出会えるかもしれない。2人はそうして園内を見回し、青い薔薇を探すのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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