精霊馬事件~故人への想い

作者:沙羅衝

「ああ……。早く貴女に逢いに逝きたい。想いは募るばかりだ」
 ここはひっそりとした住宅街。そこに一人の老人がベッドに横たわっていた。
 日々自分の体が上手く動かせなくなって来ているのが分かっていた。病気という病気はしたことが無かったが、とうとうその時が近づいてきているという感覚だけは、なんとなく分かった。
 彼には美しい妻が居た。50年も前の事だ。子供はいなかったが、とても幸せであった。だが、突然別れの時は来てしまった。美人薄命とはよく言ったもので、40にも満たないうちに死別したのだ。
 その後、この老人には縁談の話が無かった訳ではない。だが、全て断った。それほど、妻の事を愛していた。勿論、90歳となった今でも。
「そうだな、出来ればあの頃のような、若く元気な姿で逢いたいものだ。死ねば、そうありたいものだな。そして、自然にまた出かけたい……車で一緒になぁ」
 老人はそう言って、しわが刻まれた自分の掌を見つめた。
 すると、天井からナスの精霊馬が現れた。
「精霊馬……。そうか、願いをかなえに来てくれたのか……。さあ、今すぐ!」
 老人の言葉に、精霊馬が口を開く。
「それを叶えるためには、我と一つになるのだ。……ギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラ!」
 精霊馬が唱えた呪文は黒い霧となり、老人に纏わりついていく。それは、収縮され、モザイクとなっていく。
 そのモザイクが衣となり、精霊馬にその若返った姿の老人が跨った。
「汝のドリームエナジー、頂いたぞ。ワイルドの力により汝はドリームエナジーを生み出し続けるであろう。汝の望みが叶うまでな! そう、死者に会うという不可能な願いが叶うまでな!」
 ナスがそう叫ぶ。
「幸子……。やっと、逢えるな……」
 そう言って、精霊馬となった山下・忠は飛び去っていったのだった。

「大運動会、お疲れさんやったで!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、大運動会から帰ってきたケルベロスに話しかけていた。
「んでまあ、聞いたかもしれんけど。事件や。疲れてるところ悪いけど、頼むで」
 何人かはその話を噂程度に聞いていたらしく、詳しく説明を求めた。
「多くのケルベロスが危惧していたみたいやねんけど、精霊馬のドリームイーターの事件が発生しているみたいや。
 このドリームイーターは『若返って死別した妻や夫に会いに行きたい』っちゅう老人の願いを取り込むらしい。ほんま、タチ悪いやつやな……。たぶん、このドリームイーターは、ドリームエナジーを奪んや無くて、ドリームエナジーを生み出し続ける人間を取り込むのが目的ちゃうかと言われてる。より強いドリームイーターになる為、ちゅうことやな」
 成る程と頷くケルベロス達。絹に注意点は無いかと尋ねた。
「ある。老人を取り込んでるわけやから、そのまま倒してまうと、その老人にもダメージが当たる。まだ怪我で済めばええけど、死亡することもありえるんや。せやから、この取り込まれてる老人を説得せなあかん。『死別した伴侶に会いに行きたい』っちゅう望みを捨てさせればええ。そうすると、ドリームエナジーを生みださんくなるから、役にたたんくなる。そうすると投げ捨てるらしいから、そこを狙ってほしい」
 絹の話を聞いて、ケルベロス達は頭を悩ませた。そんな望みを捨てさせることなんてできるのだろうか? それぞれが自分に当てはめて考えるが、答えは未だでない。成る程、絹がタチ悪いと言った意味を実感する。
「とりあえずや、今回皆に向かってもらうのは、被害者の山下・忠さんの家の近所の住宅街。90歳。若い時に奥さんに先立たれて、再婚もせずに最期を全うしようとしてはる人や。真面目で、会社の仲間や部下からも信頼が厚かった技術者でな。なんか、車のエンジン部分の設計をしてはったらしい。趣味はアウトドアと料理。まあ、最近はあんまりできんようになってしもたらしいけどな。
 んで、敵は催眠と武器封じの攻撃、それにヒールをしてくる。そいつ一人や。もし説得に成功したら、耐久力と攻撃力は8割程度まで下がる見たいやから、まず説得するのがエエかもしれん。ただ、それまで耐えなあかんっちゅうのもしんどい。その辺の作戦、上手いこと考えてな」
 絹の一通りの説明が終わり、ケルベロス達はどうするか思考をめぐらせた。
「お盆らしい敵やけど、これはほんまにタチ悪いわ。個人的にも許されへん。頼んだで!」


参加者
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)

■リプレイ

●ナスに跨った往年の技術者
「この辺り……だな」
「どうしたの? 浮かない顔してるわよ。まあ、今回の敵が許せないっていうのは同意だけど……」
 目的の住宅街を見渡している神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)に、黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)が問う。
「いや……まあ、そうだな」
 晟はそう言って少し言葉を濁す。彼の隣にはボクスドラゴンの『ラグナル』が彼と同じようにその住宅街を見つめている。
「敵は家の中じゃないって聞いて、少し安心したぜ。思い出とか、壊したく無いもんだしな」
 ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)は己の改造銃『ミタマシロ』をカチャリと確認する。彼も何か思い出している様で、それ以上は言葉を発しない。
 ケルベロス達は、絹の情報にあった住宅街に到着していた。目標は山下・忠さんという老人を取り込んだドリームイーターだ。
「そうだね、ボクもそれは思うよ。誰にだって大切なものってあるもの」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、いつも一緒に居る少女人形を抱きながらその力を少し強めた。
「皆さんにも、何かがあってはいけません。私が絶対に護ります。ですから……」
 ドラゴニアンの少女、巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)がその小さな身体に決意をこめて言う。彼女のシャーマンズゴースト『ルキノ』と共に、静かにその瞳に火を灯す。
 すると、ライドキャリバーに乗った北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が一同と合流する。
「神崎さん、住民の避難OKです」
 そう言って計都はライドキャリバー『こがらす丸』から降りる。そしてその後方から、少し早足で駆けて来るケルベロスが二人が近づいてきた。
 雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)と四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)である。二人は状について計都が報告した事を確認し、頷いた。彼らは万が一の為に、警察への連絡及び住民への避難を呼びかけていたのだ。
「これを使うほどではなさそうか」
 達也の手には携帯型の照明弾が握られていたが、その明るさを確認して、照明弾を懐に仕舞いこんだ。
 大運動会から帰宅した直後の依頼。辺りは暗いが街灯が灯り、戦闘に困ることはなさそうであった。
「……さて、来た様ね」
 その時、玲斗がそう言って遠くから飛来する一つの塊を確認し、日本刀『光陰逝水』を抜き放った。ドワーフである彼女はいち早くその物体の接近に気がついたのだ。それを聞き、全員が自分達の武器を手に取る。
「止まれ!」
 舞彩が割り込みヴォイスでその物体に声をかけると、徐々にその姿がはっきりし始めた。
 ゆっくりと近づいてくるそれは、ナスに跨った青年、であった。
「おおっと。ケルベロスどもかあ。我の邪魔をしに来たのだな。……ご苦労なことだ。おい、こやつらは汝の願いを邪魔しに来たそうだぞ。くっくっく……」
 ナスがそう喋ると、それに跨った青年、山下・忠はケルベロス達に敵意を表したのだった。
「誰だい……君たちは。邪魔しないでおくれよ」

●願いと現実のはざまで
 どぅ!
 鈍い音が静かな住宅街にこだまする。ナスが嗤いながら放ったモザイクを晟が受け止めたのだ。そのモザイクが彼の右腕に纏わり付く。
「神崎!」
「……大丈夫だ。続けよう」
 達也が声をかけるが、晟は動じた様子も無く返す。
 ケルベロス達は、忠をまず説得する事を考えた。出来るだけ傷など負わせたくは無い、そう考えたのだ。それは大半のメンバーが命について、生についての重みを知っているからだった。
「聞いてくれ! そいつはデウスエクス! 貴方が願いを叶えようとする限り、それを動力源に人を襲い続けるんだ! そんなものに手を貸しちゃいけない!」
 達也がケルベロスチェインを展開しながら、言葉をかける。
「そうだよ。それに、そんな若い姿で会いに行ったら『旦那が早死した』って、奥さんは悲しむと思うけど……?」
 アンセルムが攻性植物の『kedja』に軽く命令し、ナスの背後を襲わせる。だが、ナスはそれを軽々と避ける。狙っていないわけではないが、致命傷を与えてはいけないという思いからか、上手く攻撃を与える事ができない。アンセルムは、その攻撃を少し諦めたような表情で、再び口を開いた。
「折角長生きしてるし『キミの分まで生きた結果だ』って、そのままの姿で会いに行けば良いよ。やりたいことを叶えるのは、その後じゃないかな」
 だが、忠はその声に反応する様子もなく、ただ現場を眺めているだけだった。
「ねえ聞いて。まさか、地獄に奥さんがいると思っているわけではないでしょう? それに、逢いたいと想いながら、ここまで生きてきたのは何故?」」
 舞彩も続いて呼びかける。
「無駄だ無駄だ。我の力はコイツの願いそのもの……」
「ナスは黙ってろ」
 舞彩はその言葉に、怒りを押し殺した声をぶつけ、バスターライフルの引き金を天に向かって引く。
「……どうした? さあ、攻撃してみせろ! もっと殺す気で来ないとなあ!」
「コイツ……最低」
 怒りを何とか制御し、顔を上げる舞彩。
「貴方はまだ死んでない。死んでいないのなら、逢いにはいけない。逢いにいくわけにはいかない。そんなこと、ここまで生きてきた貴方が、一番わかっているでしょう!」
「死んで……ない? 生きて、きた?」
 それは紛れも無く、彼の意思が紡いだ疑問の言葉だった。
「ああ、アンタは生きている。間違いなくな。で、自分のためなら、こうやって人を襲うデウスエクスに力を貸すつもりかよ?」
 ヒスイが『ミタマシロ』の引き金を素早く引き、ナスの足元に正確な射撃を行うと、お返しとばかりにモザイクが飛んでくる。
 するとヒスイは、その攻撃を弾こうとした計都を手で制し、癒乃から受けていた光の盾を使いながら、その攻撃を受け止め、派手に吹き飛んだ。
 ドゴ!
 そのまま激しくコンクリートで出来た家の外壁にぶつかる。
「ぐ……あ!」
 ヒスイは腹を押さえ、苦しむ。
「き、君! 大丈夫か!?」
 自分と一体化したナスが放った攻撃で、見ず知らず若者が苦しんでいる姿に忠の心に動揺が走る。
「そんな人間が、……アンタの奥さんと、同じ所に行けると思うのか?」
 そのままよろよろと立ち上がるヒスイ。傍に玲斗が駆け寄り、光の術式を開始する。
『光以て、現れよ。』
 その光がヒスイの身体を覆っていく。ヒスイは軽く玲斗に礼を言うと、苦しみながらも言葉を放つ。
「年とったのは……。50年ヤケ起こさずに生きてきた結果で、誇りだろうが! 会うなら真面目なアンタのままで、会いに行ってやれ!」

●誇り
「ほ、こり……」
「そうよ。あなたはその誇りを胸に今まで生きて来たのよ。……でも、死んだ人間が戻らないのは事実」
 玲斗が少し俯く。だが、言葉は続ける。彼女が顔を上げると、頬を涙が伝っていた。
「でも、だからこそ、大切で掛け替えの無い物。あなたはそれを知っているはず。思い出して。
 ……ただ、人の記憶は別物。
 それでも、二人が幸せな夫婦だったと覚えている人がいれば、その人の中では二人は幸せな家庭を築き続けるもの。……私はそう、信じてる」
「二人……。ああ、幸せだった。……でも、だからこそかもしれないけど、その分、寂しくて、哀しくて……」
 玲斗の言葉に胸を熱くさせながら、忠の目にも涙が浮かぶ。
 すると、癒乃から生命の光が忠に放たれる。恐れの火ではなく、恵みの火が彼の身体を包み込んでいく。
「山下さん、奥さんはどんな方でしたか? 貴方が長年一途に思い続けてきた人は、貴方が年相応に年老いたら、見向きもしなくなるような人ですか?」
「……」
 忠は目を瞑り思い出そうとする。そして、首を横に振る。
「そうですよね。きっと違う。今は夢喰いの言葉に心が揺らいでいますが、貴方が一番愛した思い出の中の人が、貴方を愛した言葉はきっと揺らがないはず。
 それに、貴方が誰かを傷つける事を望むような人じゃない。私はそう直感しています」
 その言葉を聞き忠の動きが止まる。すると、計都が叫んだ。
「気付いてください。馬に乗って若返ったところで、どうして亡くなった奥さんに会えるんです? そもそものロジックが噛み合っていないんです!」
「……あ」
 ロジック。技術者にとって、その言葉はてき面に現実を思い出させる言葉だったのか、忠は目を見開いた。
「その力はデウスエクスによるもの……。そのデウスエクスが例え死んでも、あなたは奥さんの待つ天国には行けないんですよ! 今ならまだ間に合います! まっとうに人として生涯を遂げて、胸を張って奥さんの元に行きましょうよ!」
「汝は黙ったほうが良さそうだな!」
 忠の変化に気がついたナスが、破壊のモザイクを計都の頭に打ち込んだ。
 計都の頭に纏わりつくモザイク。だが、計都はかける言葉をやめず、より大きな声と共にグラビティを高める。
「男なら……。ありのままの姿一つで勝負せんかい!」
 その叫びが、纏わり吐いたモザイクをかき消す。
 すると、ゆっくりとした口調で晟が語りかけた。
「思い出すんだ。彼女の事を」
「幸子の事は……さっき見たみたいに、思い出せるよ」
「……そうだ。その彼女は、今の君が会いに行ったとして喜ぶのか?」
 自分の姿を確認する忠。その姿はおぞましく、不恰好なデウスエクスそのものだ。
「そして、彼女が愛した男は、人生に無頓着で無責任な男だったのか?」
「愛した……男」
「趣味や仕事に打ち込みながら彼女を愛し続けた。そんな直向きな男を彼女は愛したのではないのか?」
 晟は落ち着いた様子で、重みのある言葉を丁寧に語る。
「今までの『貴殿』ならよかったのかもしれない。
 だが、今の君が再び彼女の前に立った時、恥ずべき事はない人生だったと、果たして言えるだろうか?」
 その言葉を聞きうな垂れる忠。そこには後悔の念が表れていた。
 すると晟はグラビティの力を高め、ラグナルと共に癒しのブレスを放つ。
 ガッ!!
 そしてそのまま、ナスをその巨体で押さえ込もうと両手で抱えこんだ。
「な、何を!?」
「絶対に、助ける。この身が傷つこうとも! さあ、今の内だ!」
 すると、その両脇から彼を支えるべく他の手が差し伸べられた。達也と計都だ。
「神崎、一人だけじゃないだろ」
「そうですよ。俺も……、俺たちも居るんです。誰一人、死なせません。失われてしまえば、戻らない。……良く知っていますから」
 すると、舞彩から光輝くオウガ粒子が放たれた。
「まったく、しょうがないわね。……でもその考え、嫌いじゃないわよ。なんてね」
 そして癒乃から更なる光の盾と、玲斗の光の術式が、その三人に振りそそぐ。
「君たち……。だが、もうこれ以上は迷惑をかけれんよ。こんな老いぼれの為に、未来ある君たちをこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかん。一思いに……」
 自責の念にかられた忠が、もう十分だと声をかけようとした時、ヒスイが心から叫んだ。
「うるせぇ! アンタは未だ生きている。それで良いじゃねぇか!? オレは、オレ達はそんなアンタを助けたい。生き抜いて欲しいんだ! 最期まで、その誇りを貫いてくれよ!」
 忠の目に光が灯る。それは紛れも無い生の光だ。そして、迷いの無い表情で言った。
「……君たち。我侭を許して欲しい。……どうか、助けてはくれないか?」

●それは新たな生きがいとして
「ケッ! もう役に立たなくなったか。老いぼれめ……」
 ナスはそう言うと、勢い良く忠が宙に放出された。
「神崎!」
 アンセルムが叫ぶと、晟は一気に跳躍し、忠を抱えてそのまま翼を広げて宙に静止した。
「……まあいい、十分に力は得た。……ん? なんだその表情は?」
 ナスが見た先は、怒りの表情のケルベロス達。
「良いかい? 愛する物に会いたいという気持ち。それはとても尊いものなんだ」
 アンセルムの声が、いつもより低く響く。
『其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう』
 その言葉が終わる前に、ナスに氷の槍が降り注ぐ。
「この怒りは峻烈なる劫火、無辜の魂を弄ぶ傲慢なる咎神よ、その身の業と共に滅却せん」
 癒乃の掌に火が灯る。その火は先程忠を癒した火とは異なる恐れの炎だ。
『生きる事は…死に向かう事。代償なき生は世の理に非ざる欺瞞…。あなたは滅びずにいられるかな…?』
 その炎が容赦なくナスを襲い、玲斗の雷が貫く。
 そこへ舞彩と達也が無言でナスを挟み込む。愛用の武器を手に、二人は無言のまま怒涛の勢いで何度も何度も切り付ける。
「チッ!」
 よろめくナスは、そう言って体重を後方へと移動させようとした。
「まさかてめぇ……逃げれるとでも、思っているのか?」
 ヒスイは少し後ずさろうとするナスを見て、冷たく言い放つ。
『てめぇの器から追ん出されないようせいぜい気を付けな、「コイツら」はシツコイぜ』
 無数の弾丸を撃ち込むヒスイ。そこから悪霊が張り付き、ナスから離れない。
「どこへ逃げようとしても無駄だ……何故なら! 俺は! 俺達は! 神を喰らう地獄の番犬! ケルベロスだからな!!」
 こがらす丸と空中で合体し、グラビティを増幅させる計都。背中から炎を出現させると、急降下する。その速度は重力の力を打ち破る。
『これが、俺の・・・俺達の!精一杯だぁぁぁッ!!』
 ドォン!!
 その急降下は炎の柱となり、一直線にナスを消し飛ばしたのだった。

「どうしたの?」
 アンセルムとヒールを施していた玲斗が少し考え込むヒスイに尋ねた。
「ちょっと、熱くなっちまったなァ……ってな」
「あら、カッコ良かったわよ」
 少し照れた表情で言うヒスイに、玲斗が微笑んで答えた。
「良かった……手遅れになる前に助けられて……。安心して。きっと想いは届きます。そして、その時が来るその日まで、貴方があの人の前でそうでありたいという自分を、どうか見失わないで……」
 忠にヒールを施した癒乃が、その終わりに言う。
「有難う、お嬢ちゃん」
 忠の姿はすっかり歳相応となっていた。
「俺のような若造が、知った風な口を利いてすみませんでした。ですが、奥様には『いままでの人生を裏切らなかった貴方』で会いに行って欲しかったんです」
 達也がそう頭を下げると、晟も続けて言う。
「でも、願いそのものを捨てる事はないと思います。その想いを持ったまま、生きてください」
 その言葉を聞き、忠はうんうんと頷いた。
「そうだ、山下さん。私に何か作ってくれないかしら?」
 舞彩のふとした思い付きに、忠は少し戸惑ったような表情を作る。
「構わないが、この歳では役に立つようなものなど……」
 忠は少し目を輝かせるが、自信の無い表情も併せ持たせた。
「いいのよ。何でも。お守りのような物でも構わないわ」
 すると忠は、やってみようと答えたのだった。それはきっと、これからの生きがいとなるに違いなかった。命尽きる、その日まで。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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