精霊馬事件~亡くなった伴侶と一緒に……

作者:なちゅい

●叶わぬ望みに……
 お盆も近づく中、その老婆は床に伏せていた。
 町田・富美江、御年92歳。今は娘や孫に介護を受けている状態である。
 彼女は自身が作ったきゅうりの精霊馬を見ながら、ふと喪って久しい夫のことを思い出して。
「できるなら若くなって、あの人と会いたいねぇ……」
 その時、町田が頭上を見上げると、きゅうりに割り箸のような四肢をもつ精霊馬が彼女の枕元へと降り立ってくる。
「ああ、私の願いを叶えてくれるのかねぇ……」
 表情を和らげた町田は、精霊馬に若返りと自身を連れて行くことを願う。
 すると、精霊馬……いや、死妖霊馬が奇妙な声で語りかける。
「汝が我と一つになるのならば、その願いを叶えよう。……ギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラ!」
 そいつが妙な呪文を唱えると、黒い靄みたいなものが町田へと纏わりつく。
 完全に町田の姿を包んだ靄が晴れると、そこにはモザイクでできた衣を纏った若い女性の姿があった。そして、彼女はすぐに精霊馬と一体化してしまう。
「よいぞ、よいぞ。お主のドリームエナジー。さすがはワイルドの力じゃ」
 馬となっているキュウリの部分が気分よく声を上げる。
「死者に会うという不可能な願いが叶うまで、存分にドリームエナジーを生み出し続けるがよい」
「あなた、今、参りますね……」
 しかし、キュウリに跨る女性に馬の言葉は届いておらず、死妖霊馬に乗っていずこともなく消えていったのだった。

 ケルベロス大運動会が終わって。
「皆、お疲れ様。ゆっくりと休んで欲しいのは山々だけれど……」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は日本に帰ってきたケルベロス達を労うが、どうやら新たな事件が発生してしまうらしい。多くのケルベロスが危惧していた、精霊馬のドリームイーターによる事件なのだと彼女は言う。
「この夢喰いは、精霊馬に『若返って死別した妻や夫に会いに行きたい』と願うご老人の願いを取り込んで、合体して暴れ出そうとしているようだよ」
 推測だが、このドリームイーターはドリームエナジーを奪うのではなく、ドリームエナジーを生み出し続ける人間を取り込むことで、より強いドリームイーターとなろうとしているのだろう。
 実際に、老人を取り込んだドリームイーターは高い耐久力と攻撃力を持っており、なかなかの強敵となっている。
「あと、ご老人が取り込まれたままでドリームイーターを倒すと、ご老人は大怪我をしてしまうか、場合によっては……」
 リーゼリットはその先を言いよどむ。悪い結果となるのは間違いない為、気をつけるに越したことはなさそうだ。
「戦闘をしながら説得をして、ご老人が『死別した伴侶に会いに行きたい』という望みを捨て去ったなら、ドリームイーターの力は元に戻るはずだよ」
 さらに、夢喰いは老人を役に立たないと判断し、投げ捨ててしまう。こうなれば、老人の命を奪うなどといった危険性はなくなるだろう。
 続いて、リーゼリットはドリームイーターの能力について話す。
「敵は1体だけだね。配下などは引き連れていないよ」
 ただ、老人と合体したドリームイーターは手ごわい。突進、知識食らい、怪しい呪文(石化)を行使してくる。クラッシャーとして破壊力も合わせて攻撃してくる為、攻防合わせた戦略が必要となる。
「また、説得に成功してご老人との合体が解ければ、敵の耐久力と攻撃力は減少するよ」
 合体時と比較し、それらの能力は8割ほどに落ちる。攻撃手段も突進、のしかかり、怪しい呪文(催眠)と若干変化するようだ。威力は大分和らぐが、それでも油断できぬ相手であることは変わりないので、一気に撃破したい。
 時間は宵の口、戦場は被害者となる東京都内某所、町田宅周辺の住宅地だが、外れの為に人気は少ない。避難誘導対処よりも、老人の説得に力を入れるべきだろう。
 説明を終えたリーゼリットは、予知で気になった部分について語る。
「ワイルドの力、それに怪しい呪文。いろいろと気になるけれど……」
 具体的にはと聞かれると難しいようだったが、ともあれ、このままにしておくわけにもいかない。
「ご老人の救出も合わせて、ドリームイーターの撃破を。よろしく頼んだよ」
 彼女は最後にそうして、ケルベロス達にこの事件の収拾を願うのだった。


参加者
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
鞍馬・橘花(超火力愛好家な鎧装騎兵・e34066)

■リプレイ

●お年寄りを騙す夢喰い
 現場に向かうヘリオンにて。
 狼の耳を持つ獣人、鞍馬・橘花(超火力愛好家な鎧装騎兵・e34066)は一心不乱にセール品のキュウリとナスに、割り箸を刺し、大量の精霊馬と精霊牛を作成していた。
「願わくば、彼女の望みが叶う事を」
 橘花はわずかばかり知る交霊の下地を、整えようとしていたのだ。
「デウスエクスも年寄りを騙しに来たのね。酷い話ね」
 黒豹の獣人である浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)が語るところによれば、お年寄りを狙った詐欺事件が多発しているらしい。
 詐欺事件というと違和感があるが、ドリームイーターがお年寄りを騙しているという点では間違っていない。
「…………」
 無表情ではあるが、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は事件の引き金となった相手、キュウリのような見た目の死妖霊馬に言いようのない怒りを覚えている。
「……夢に微睡む事で救われる事もあるのかも知れない」
 落ち着いた態度の花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)もまた、思うことがあったらしい。
「けれど、それを悲しむ人がいる以上、僕は止めてみせる」
 颯音はケルベロスとして、そして医者として、悲劇を食い止めようと誓う。
「死別した人に会いたい――その望みを捨ててもらうのは酷だよね」
 アメリカ人のウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)。お盆という日本の風習を本で読んで知っていた彼は、精霊馬についても一定の知識を得ていたらしい。
「だけど、それについていっても望みは叶わない、だから――」
 相手はドリームイーターだ。ついていったところで、ドリームエナジーを奪われ続ける餌となるだけ。
「引き止めないと」
 現場上空への到着もあってウォーレンが立ち上がると、皆頷き、降下準備を進めるのだった。

●夢喰いにたぶらかされた老女
 東京都内某所。
 被害者宅周辺の住宅街にて、ケルベロス達はすぐにそれを発見する。
「どこへ行くの?」
 道路を行くきゅうりの精霊場に乗ったモザイクで構成された着物を羽織った女性に、ウォーレンは声をかける。
「……わからないよね。それはお迎えじゃない」
 ついて行っても、旦那さんには会えないとウォーレンが断言すると、その女性……若返った老女は首を振って否定する。
「だって、こうして若返ったのだから」
 しかしながら、それをケルベロスが受け入れるはずもない。白い翼のオラトリオ、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)先導の元、メンバーは夢喰いを囲んでいく。
 言葉をかけるタイミングを図る響花。そばでは、体内から炎を発した鈴木・犬太郎(超人・e05685)が煙草を燻ぶらせている。
「あの人に会いに行きたいの」
「……貴女が髪に霜を置く代わりに慈しんだお子さん、お孫さん。貴女とご主人が出会えたから繋がった絆」
 しかし、颯音がそれを拒絶し、老女へと呼びかけ始める。
「その全てを捨てる事を望むような人だったのかい、ご主人は」
 おそらくは、その1人1人の顔を思い浮かべたはずの老女へ。颯音は物腰こそ温厚なままだが、毅然とした態度で呼びかける。
「貴女がずっと大切に思えるような人がそんな狭量な筈がない。得体の知れない者の力を借りて、穢してはいけないよ」
「所詮、世迷言。聞き入れずともよい」
 きゅうり部分からそんな声が聞こえる。こいつこそが、この老女……町田をそそのかした張本人である夢喰い、死妖霊馬だ。
「さて、これより魂魄分離術を実施しよう」
 町田の説得を仲間に託し、颯音は魔術医として仲間の治療に動く。犬太郎も煙草の火を消して本格的に仲間のカバーの為に身を張っていた。
「鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
 オウガメタルと攻性植物をボディスーツの上にあわせ、ジューンは構えを取る。
「モード・インターセプター! 状況を開始します」
 彼女が目元にバイザーを下ろすと、夢喰いは邪魔者を排除しようと襲い掛かってきたのだった。

●声は届くか……?
 襲い来る夢喰いは手始めに、ケルベロスに対して怪しげな呪文を唱えてくる。
(「説得は俺一人じゃないからな」)
 頑張って説得しようとする仲間をさらすわけには行かない。敵の呪文が仲間に届かないようにと、犬太郎は敵の正面に立つ。
「生きている人は、亡くなった人間に会いたいと思うのは自然だ」
 体の一部を石のように固まらせながらも、彼は若い女性の姿をした老女へと語りかける。
 ――亡くなった人は、残された人の幸せを願う。だからこそ、人は生きなきゃいけない。
「死んで会いに行くのは、早すぎるんじゃねぇのか?」
「そんなはずないわ」
 やはり、若返った老女は聞き入れる様子はない。
 説得も長丁場になりそうだと感じつつ、颯音は地面に守護星座を描き、前線メンバーの仲間を包み込んでいく。
「きゅぴ!」
 光の属性を持つボクスドラゴンのロゼも、颯音に合わせて光の花を降らしていた。
「富美江さんが昔の事を殊更良かったように、思い出す気持ちはわかります」
 説得の言葉を掛けながら、ジューンは前列メンバーへとオウガ粒子を飛ばして仲間の感覚を活性化させる。
「でも、今のあなたを支えてくれている家族のことは放っていくのですか?」
 ジューンの問いかけのタイミングで、橘花はライフル「魔筒・山嵐」を構える。
「はーい、ちょっとビリビリしますねー」
 それは、動きを封じることに特化したグラビティ。橘花の発射した弾丸がきゅうりに命中すると、そいつの体に痺れを与えた。
 しかし、夢喰いは動きを止めず、今度は戦場を走り回ってきゅうりの尖端でメンバー達を突き飛ばし、攻撃の足を止めてくる。
「旦那さん、きっといつも見守ってくれてる。貴女が穏やかに暮らしていたのがその証左」
 ウォーレンも仲間を護るべく、黒い鎖を操って地面に魔法陣を描いた。それはケルベロスを包む盾として展開していく。
「若返り――今まで積み重ねたものが、思い出も絆も無かったことになってしまうよ」
 僅かに女性の表情が陰るが、それでも町田の亡き亭主に対する想いは強いのだろう。
 オルトロスのアロンにカバーを任せ、キアリも呼びかける。
「富美江さんも女性だし、若くして亡くなった旦那さんに老いた姿を見られるのが恥ずかしいのかもしれないけど」
 今回の被害者、町田・富美江は92歳になるまで、一途に旦那のことを思い続けていたと言う。その純愛に、12歳のキアリは乙女心をときめかせていた。
「……わたし、それは間違っていると思うの」
 だからこそ、キアリは町田を止めたいと考えている。
「漂うモノ達よ……我の元に集い生者を救え」
 響花は祝詞を唱え、呼び出した守護霊魂によって自らの運気を上げていく。
 そして、彼女は最近、物忘れの多い老人の心の隙間につけ込んだ悪質な詐欺事件が多発していると女性へと話す。
「町田さんは本当に旦那さんに会いたかったの? 違うでしょう。本当はコイツ、うざいと思ってたでしょう」
 メンバー達の驚きの視線が響花に集まる。目の前の女性は明らかに不快な表情をしていた。
 しかし、響花は構わず話を続ける。自分の記憶を都合よく変えるのは、お年寄りには良くある症状だと。
「町田さん思い出して。一緒にいて嫌な事もあるし、旦那さんと喧嘩したでしょう」
 長く連れ添っていれば、仲違いすることもあるかもしれない。しかしながら、その様子は響花が騙そうとしているようにも見える。
「そんなことないわ……!」
 それに、苛立ちを見せる町田。どうやら、火に油を注いでしまったようだ。
 その様子を嘲笑う夢喰いは、町田の服を構成するモザイクの一部を飛ばす。
「長い間連れ添ってきた夫を失ってからの喪失感というのは、確かに辛いかもしれないが……」
 飛んで来るモザイクに対し、青く鈍い色の鱗を持つドラゴニアン、萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)が身を張る。
「それでも、今回のように力に逃げるというのは、決して許してはいけない」
 説得が成功するまで楼芳は前に出て、仲間のヒーリングに当たる所存だ。
「まだ、ここで倒れる訳にはいかない」
 楼芳は血の宿命による衝動を解き放ち、自身や仲間の傷を癒していく。
「今の貴様の姿、そしてその行いは本当に故人に対して胸を張って誇れるものであるか?」
 サーヴァントの属性注入を受けながら、楼芳が更に言葉を続ける。
 だが、女性はどうしても、この場を突破しようと動くのは変わらない。
「まぁ本当に死んでも会いたいなら、俺が苦しまないようにやってやる」
 最悪の状況を想定していた犬太郎は、自身が手を汚すべきかと考えていた。
 しかしながら、細かな戦法を想定していなかった彼は敵の怪しい呪文に対処できず、石になっていく。
 仲間達が前線メンバーの回復へと当たるが、強力な力を持つ夢喰いを抑えられない。再度の突進を受けた犬太郎は動かぬ体を大きく突き飛ばされ、意識を失ってしまった。
 状況はかなり悪い。キアリのオルトロス、アロンも主を護り、モザイクで包まれて消えてしまう。
 ただ、ケルベロス達はまだ説得を諦めてはいない。
「冬から春になるように、夜から朝になるように、廻る光が、消えずにここで咲くように――」
 手のひらにナナカマドの花を咲かせたウォーレン。女神の力を癒しとして発現し、仲間の傷を癒す。
 その花言葉は、『あなたを見守る』。今の町田に、相応しい花かもしれない。
 そして、彼は町田を制する。目には見えなくても、旦那さんは貴女の精霊馬で駆けつけてくれていると。
「僕らがここに来たのも、きっと彼のお導き。貴女が悲しい方へ行かないように。――だから行かないで」
 ジューンも仲間に黄金の果実で進化を促しながら、声を上げる。昔のことを殊更よかったように、町田が思い出す気持ちはわかる、と。
「でも、今のあなたを支えてくれている家族のことは放っていくのですか?」
 お盆を迎える準備をしながら、お孫さんに精霊馬の謂れを教えていたのではないかと、ジューンは問いかける。
「亡くなったおじいさんを、きちんと送り届けてあげましょう?」
「あ、ああっ……」
 逡巡する町田へと、さらにキアリが『若返って』と語る部分に物申す。彼女の老いた姿は、92歳になるまで旦那さんを一途に想い続けた証ではないのか、と。
「わたしは素敵だと思うし……。だから、若返った偽りの姿で旦那さんに会いに行くのは、その愛を否定することだと思うの」
 偽りの姿。その言葉に、町田は大きく動揺する。
「ああっ、こんな私では……」
 今のままでは、死別した旦那に合わせる顔がないのではないか。そう気づいた彼女に、夢喰いが舌打ちして。
「ちっ、使えない奴だ……!」
 大きく身体を捻らせ、その背から女性を放り捨てる死妖霊馬。分離した女性は元の老女の姿へと戻った。
「旦那さんはきっと、彼女を見守ってくれてる、けど」
 ウォーレンは改めて、きゅうりの姿をした夢喰いを見据える。さすがに、これは旦那さんの手に余るだろうと彼は考えて。
「旦那さんに代わって僕らが倒すよ」
 攻撃に耐えていたケルベロスは一転して、攻勢に打って出るのである。

●純粋な思いを汚した報いを
 老女を降ろしたきゅうりの姿の死妖霊馬。
 その攻撃は突進こそ変わらないが、相手にのしかかってきたり、呪文が相手を惑わせるものになったりとグラビティが変化していた。
 楼芳は肩で息するほどに疲弊していたが、自ら展開する光の盾とサーヴァントの属性注入でなんとか倒れずに済んでいる。
 ボクスドラゴンのロゼも光の花を降らして、前線を支えていく。主の颯音も桃色の快楽エネルギーを発して仲間の体力維持に努めていた。
 かなりケルベロスも疲労の色が強くなっていたが、ウォーレンは「Ice shaver」で敵の体に斬りかかる。その際、彼は倒れる町田が巻き込まれないようにと気がけていた。
 ジューンも一気に攻め入り、オウガメタルを纏わせた拳で強かに夢喰いの身体を殴りかかる。
「……くっ、キュウリの金的って、何処……!?」
 夢喰いに対し、怒り心頭のキアリは思いっきり相手の股間を蹴りたい衝動に駆られながらも、黒猫の鋭い爪できゅうりの体を薙ぎ払っていく。
 敵ののしかかりを受けた響花も日本刀で受け止めつつ、緩やかな斬撃を見舞う。そして、今度は敵の的にならぬようにと戦場を駆け回っていたようだ。
「さあ、悪趣味なお盆は終わりですよ」
 次なる攻撃対象を定めていた夢喰いへ、橘花が言い放つ。
「生者の死者に対する情念を汚した代価、届くことも足ることもないでしょうけど、受け取ってください」
 橘花が展開したのは、「17式試製超高速概念射出機構ハ-B3モデル」。その砲口から、集中弾幕射撃を敢行する。
「迸れ雷鳴、彼の者を打ち据えよ!」
 敵の攻撃が少し和らいだこともあり、颯音もライトニングロッドから雷を飛ばし、夢喰いの体を焼く。
「この一撃を受けてみろ!」
 呻く敵へ、大仰なポーズを取ったジューンが両手の間の光を放出していく。
「しくじったか……!」
 きゅうりの体が爆ぜ飛ぶ。それによって舞うモザイクはすぐに霧散し、消えてなくなったのだった。

●想いを馳せて
 ドリームイーターをケルベロスは何とか退け、楼芳が戦場となった場所へと気力を撃ち出し、修復を図る。
 その間にふらりとその場を離れた橘花は、本能の赴くままに行き着いた名もない墓を発見していた。
「長くお待たせする事、大変申し訳なく思います。しかし、そちらに往くことはまだ叶わないようです」
 お盆だからだろうか、そこに供え物を捧げた彼女はそう告げ、ふらりと姿を消していった。

 現場では、倒れた町田を残っていたメンバーが介抱していた。
 ジューンが黄金の果実の聖なる光で照らすと、町田はゆっくりと目を覚ます。
「おばあちゃん、上手い話には気を付けないと」
 事情を説明した響花は、無償で親切にしてくれる人は間違いなく詐欺師だと話す。
 すると、町田は小さく笑って。
「おや、ケルベロスさんはそんな悪い人に見えないけれどねえ」
 無償で助けてくれたケルベロスへと町田が告げると、メンバー達から笑いが起こり始める。
 しばし、楼芳は町田の容態を気にかけて光の盾を展開させていたが、当面は問題なさそうだ。
 ただ、その間、町田が小さく、「あの人に会えなくて残念だねえ」と呟いたのをキアリが聞き逃さない。
「わたしも、運命の相手に逢えるかしら?」
 まだ、青春はこれからのキアリは、自分の未来へと想いを馳せるのだった。

作者:なちゅい 重傷:鈴木・犬太郎(超人・e05685) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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