決戦バナナイーター~地下茎の音色を辿ったら

作者:飛翔優

●雑木林は今日もトロピカル
 風が吹けば木々がざわめき一握の涼が訪れている事を教えてくれている、大阪城近くにある雑木林の外縁部。
 夏の暑さなどものともせずにランニングしていた青年が、前触れもなく立ち止まった。
 青年はキョロキョロと周囲を見回した後、少しだけためらいがちに雑木林の中へと入っていく。
 腐葉土を踏みしめ進んだ先、少しだけ木々が開けている場所へと到達した。
「あ……」
 夏の強い陽射しが降り注ぐ場所へと躍り出た青年の視線の先にいるのは、全裸の女。
 動くたびに躍動する柔らかそうな肢体。愛おしそうに一本のバナナを撫でたかと思えば、先端を舐める仕草を見せながら青年へと流し目を送ってくる。
 ゴクリと生唾を飲み込み、青年は歩み寄った。
 熱に浮かされたかのように瞳をうるませ、何度も何度もつまづきながら女の前へと辿り着いた。
 青年は何かに誘われるかのように、女の両腕に……。
 ……彼は知らない。
 彼女がバナナイーターと呼ばれる存在だということを。
 一時間後にはもう、命を失ってしまっているだろうことを……。

●決戦! バナナイーター
 ケルベロスたちを出迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。メンバーが揃った事を確認した上で、説明を開始した。
「爆殖核爆砕戦後、大阪城付近の雑木林に出現していた攻性植物、バナナイーター。すでに知っている方もいると思うっす」
 今までは大本がわからず、出現後に叩くという方法による対処療法を行っていた。
 しかし、メイセン・ホークフェザー(薬草店店主のいかれるウィッチ・e21367)らの調査によってバナナイーター本体に対する予知を行う事ができた。また、その際に本体へと辿り着く方法も判明したのだ。
「本体を撃破する事ができれば、このバナナイーター事件も終息に向かうはずっす。だから皆さんには本体へと到達し、撃破してきて欲しいんっすよ。それに必要なことを、順を追って説明していくっすね」
 まずは、バナナイーターの性質に関するおさらいから。
 バナナイーターは全裸あるいはそれに近い姿を持つ美女……の擬態を持つ攻性植物。
 十五歳以上の男性が現れると出現し、その果実の力で魅了し絞り尽くして殺害。グラビティ・チェインを奪う。また、囮となった人数に応じて出現数は増加する。
 その他、三分以内に攻撃を受けると地下茎を通って撤退してしまうという性質も持っている。
「今回、この中の三分以内に攻撃を受けると地下茎を通って撤退してしまう、という性質を利用する事で、本体へと到達できる事がわかったっす」
 メイセンが地下茎を調査した際、討伐の際に切り離されたりしたのかそれとも本体のもとへと戻ったのか、地下茎そのものは中途半端な場所で途切れていた。
 しかし、途切れるまでは概ね直線を描いていたため、そのまま直進。しかし、すでに移動した後なのか、本体がいたらしき痕跡を見つけるに留まった。
「つまり、攻撃されたバナナイーターが地下茎が地面を通って本体に戻っていくタイミングで、音を頼りに逃げていく方角を定めて追いかける形っすね。そうすれば、移動前の本体へと辿り着く事ができるっす」
 後は正面から戦いを挑み、撃破すれば良い。
「続いて、現場となる区域や介入タイミングになるっすね」
 ダンテは地図を取り出し、雑木林の一角に丸をつけた。
「当日の朝六時頃、この雑木林外縁部をランニングしていた大学生がバナナイーターに誘われる……そんな未来を予知したっす」
 そのため、青年に囮になってもらい、バナナイーターが出現した瞬間に行動を開始し青年は逃がす。
 あるいは、青年を予め遠ざけた上で十五歳以上に見える男性ケルベロスが囮になり、出現した瞬間に行動を開始する……といった流れになるだろう。
「どちらか、より良いと思う方法を選んで欲しいっすよ。続いて、戦闘能力などについて説明するっすね」
 相手取ることになるのはバナナイーター本体。及び、護衛のごとく近くに控えている二体の分身体。
 本体は、様々なトロピカルフルーツが実っている木をまるで玉座に見立てているかのような雰囲気で腰掛けている女性。みずみずしく豊かな植物色の肌を持ち、要所は葉っぱで隠しているがほぼ全裸。また、戦いのさなかにあっても、余裕のある冷徹な笑みを崩すことはない。
 高い体力と殺傷力の高い攻撃を持ち、長期戦で攻撃で相手の体力を削りきる、といった戦法を取ってくる。
 使ってくるグラビティは三種。
 幾多のバナナをミサイルのように連射し、複数人の攻撃の勢いを削ぐ。
 相手の尖った場所を口に含み、生命力を吸い取る。
 バナナをブーメランのように投げて攻撃した後、自ら食して毒などに抗う加護を得る……といった攻撃を仕掛けてくる。
 一方、二体の分身体は造形こそ本体と同一だが、肌の色が片や白、片や褐色という特徴を持つ。また、本体さえ撃破すればこの分身体は消滅すると言う性質も持つ。
 力量は本体よりも遥かに劣る。しかし、行動方針は非常に攻撃的で、一撃一撃の威力だけならば本体を僅かに上回るほど。
 使ってくるグラビティは三種。
 バナナによる刺突で加護を砕く。
 相手をバナナに見立てて防具や衣服を脱がす。
 バナナを食べる、あるいは食べさせる事で、味方には回復を敵にはダメージを与える。
「以上で説明を終了するっす」
 ダンテは資料をまとめ、締めくくった。
「このバナナイーター本体を撃破することができれば、バナナイーター一連の事件も終息に向かうはずっす。だから、どうか全力での戦いをお願いするっすよ。大丈夫、皆さんならできるはずっすから!」
 大阪城雑木林の平和と治安と風紀を守るためにも……!


参加者
久遠・翔(銀の輪舞・e00222)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)
メイセン・ホークフェザー(薬草店店主のいかれるウィッチ・e21367)
香河・将司(魔王を宿す者・e28567)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)

■リプレイ

●音の行先新たな美女
 眩い木漏れ日、輝く緑陽、風の訪れを教えてくれる木々のざわめき、蝉の声。
 張り付くような熱が若干和らげられている、大阪城近くの雑木林。香河・将司(魔王を宿す者・e28567)の瞳に映るのは葉の緑でもなく、木々のこげ茶色でもなく、花の色彩でもない、肌の色。
 豊満な果実の形、ピッタリと閉ざされているが柔らかそうな楽園への扉。
 心のアルバムに収めながら視線を上げれば、見目麗しい女性が頬を上気させながらバナナを優しく撫でている。
「……」
 将司は微笑み、一歩前に踏み出した。
 音に気づいたらしい女性が流し目を送って来る。
 落ち着いた足取りで受け止めながら、表情を変えずに距離を詰めていく。
 そんな中、後を追いかける形で後ろを歩いている久遠・翔(銀の輪舞・e00222)足取りがぎこちなくなっていくのがうかがえた。
 やがて、将司は手を伸ばせば抱き寄せられる位置で立ち止まる。
 美女の潤んだ瞳を見つめながら、ゆっくりと手を……。
「そこの破廉恥女! わらわ達が成敗してやるのじゃ!」
 背後からマリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)の声が聞こえると共に腕を引き、小さく肩をすくめていく。
「美しい女性のお誘いは嬉しいですが、今回は楽しむ時間は無いようですね」
「……ほっ、良かったっす」
 翔が安堵の息を吐き出す中、二人の背後の茂みから次々とケルベロスたちが姿を表した。
 近くにいた一般人は逃したし、追いかける準備もできた……との報告を受ける中、将司は地面へと潜っていく美女たちを……バナナイーターたちを見つめていた。
「……音は、あっちですね」
 雑木林の南側へと視線を向けていく。
 仲間たちと確認しあい、駆け出した。
 音をたどった先、バナナイーターの本体が潜んでいる。
 決着をつけるため、ケルベロスたちはやって来た。だから……!

 直線距離を進むため、植物たちを可能な限り傷つけないため、翔は走る先頭を。
 道を塞ぐ木々を見つけるたび、少しだけどいてくれるようお願いした。
 万難を排して進む中、常に地中へ意識を向けることも忘れない。
 根の戻っていくスピードはさほど早くない。時折右や左にずれることも合ったけど、それは他の植物の根を避けているのだろう。
 やがて、様々なトロピカルフルーツが混じり合ったような甘い香りが漂ってくる。その中心地にバナナイーターの本体はいると、翔は覚悟を決めて速度を上げた。
 そして……。
「いたっすね」
「そうね。地下茎があるのならと調査して正解でした」
 メイセン・ホークフェザー(薬草店店主のいかれるウィッチ・e21367)が頷く中、翔は目の前の大樹を退避させていく。
 開けた視界の向こう側に狙いを定め、様々な想いが込められているメイスを振りかぶりながら跳躍した。
「まずは出鼻を挫くっす」
 視界の右側に見える白い女性めがけて振り下ろせば、間に割り込んできた太い枝とぶつかり合い鈍い音を奏でていく。
 さなかにはゲシュタルトグレイブに稲妻を宿したジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が踏み込んだ。
「その余裕ある笑み、崩してあげる!」
 木っ端が散る中跳ね除けられていく翔を横目に、ジェミは白い女性に向けて火花散る穂先を突き出した。
 地面から伸びてきた根が進路を塞ぎ穂先を貫通させるに留めていく。
 直後、月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)がジェミの横を駆け抜けた。
 白い女性が驚く様子を見せる中、先程のジェミのように稲妻を宿した槍を突き出していく。
 硬質な音が響いたのは、白い女性が握るバナナに弾かれたから。
 構わぬと、環はゲシュタルトグレイブを構え直しながら告げた。
「叔母さま直伝蒼龍薙刀術、魔法使いタイプだからって甘く見たらダメ、ですよ?」
「……」
 白い女性は返答しない。
 代わりに、その奥に座していた緑の女性が楽しげに笑った。
「面白い、私を嬲ろうというのか。ならば私も貴様らを蹂躙しよう。命も、尊厳も、何もかもを犯し奪い尽くしてやろうぞ」
 立ち上がると共に、手の中で弄んでいた座していた樹に実っていた赤い果実を手放していく。
「……」
 反撃に備えて身構える翔が見つめる先、あらわになっていく緑の女性……バナナイーター本体の姿。
 みずみずしく豊かな植物色の肌を保ち、要所のみを葉っぱで隠している美女。
 両隣に控えるは、肌の色以外は同じ容姿を持つ白と褐色の分身体。
 どちらも決して油断のできない相手。
 だからこそ奇襲は戦いに大きな楔を打ち込んだはずと確信しながら、本格的な戦いへと移行していく……。

●黒白の従者
 本体が指を弾くと共に、無数のバナナが虚空に浮かびはじめた。
 少しずつ皮が剥かれていくバナナたちの先端が前衛陣へと向けられていく中、その全てが一瞬だけ白く染まる。
 遅れて漂い始める焦げた匂い。
 木の部分から立ち上り始めていく黒煙。
 微笑んだまま視線を巡らせていく本体に、環がライトニングロッドを突き付けていく。
「たわわに興味ありませんが、しばらくは相手お願いする、ですよ?」
 緑色の瞳で見つめる先、本体が小さな息を吐く。
 バナナたちの矛先が環のみに向けられた。
 間髪入れずに解き放たれたミサイルのようなバナナの群れを、環は植物を操り一つ、二つと弾いていく。
 全ては叩き落とせない。
 バナナが腕を掠めていく。
 傷を確かめる暇もないままに、ももが頬が脇腹が怒涛の勢いで痛みを訴えてきた。
 表情に浮かべることなく環はその場に立ち続ける。
「この程度、どうってことない、です!」
 バナナの嵐が止むと共に植物に与えていた力を変えたなら、植物が茨の棘と化していく。
「植物使いの真髄、お見せする、です!」
 茨の棘は群れなす蛇のように地面を這いずり進んだ先、四方八方から本体へと襲いかかった。
 女性の姿をした部位を護らんというのか、枝葉の部分が身代わりとなり茨の棘に絡まっていく。
「っ、中々やり、ますね。ですが、その状態で満足に」
「ぐ……」
 言葉半ばにてくぐもった悲鳴を聞き、環は声の方角へと視線を向ける。
 白の分身体が持つバナナが、ジェミの鳩尾に突き刺さっていた。
「ジェミさん!」
「……は……あ、大丈夫、だ……!」
 環の心配げな声を聞きながら、ジェミは笑みを浮かべ白の分身体を押しのけた。
「中々、きつい……一撃。だけど、この程度で……」
「一度後退を」
 右手側に飛び込んできたマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が蹴りを放つ。
 ジェミに飛びかかろうとしていた褐色の分身体が腕をクロスさせた姿勢のまま後退した。
 さなかにはメイセンのビハインド・マルゾが白の分身体とジェミの間に割り込み、後退する隙を作り出していく。
「……」
 深い息を吐き、ジェミは最前線から距離を取った。
「少しの間だけ、お願いね」
「すぐに戻れるようにしますね」
 メイセンが自然に魔力を送り込めば、ジェミの足元に二重の魔法陣が広がり痛みを和らげていく。
 呼吸も整い、ジェミは安堵の息を吐き出した。
「ありがとう、メイセンさん。次こそは耐えてみせるわ」
 拳を握り再び最前線へと舞い戻る。
 再び白い分身体と対峙しながら、褐色の分身体の様子を確認した。
「本体と違い分身体の方は人に近い肌の色ですね、どちらも眼福ではありますが」
 どことなく冷静にバナナイーターたちの批評を行っている将司の服が脱がされていくさまが見える。
 ほどなくして気合を入れ褐色い分身体を跳ね除けていくさまを横目に捉えながら、白い分身体が仕掛けてくるタイミングをうかがった。
 白い分身体がバナナ片手に大地を蹴る。
 合わせるようにジェミは跳躍し、腹筋でバナナを受け止めていく。
「それは、砕くわ! 師匠譲りのこの体に、通じるもんですかっ」
 全身を駆け抜けていく痛みを無視しながら、勢いのままに白い分身体を押しのけつつ脚に炎を宿していく。
「今度はこっちから……!」
 地面から三日月を描くかのような蹴りを放つ。
 白い分身体の右腕を跳ね除けた。
 炎もその体を伝い木の部分へと伝わって、全身を焼き始めていく。
 揺らめく炎の中でも、分身体の表情は変わらない。
 ほほ笑みを浮かべたままジェミを見つめ、次に仕掛けるタイミングをうかがっているようだ。
「……」
 見つめながら、ジェミは少しだけ目を細めていく。
 先程受けた一撃の重さを考えれば、まだまだ白い分身体が弱っているとは言い難い。
 一方自分、恐らく将司や環にもダメージは積み重なっている。
 後いくつ、受け止める事ができるだろうか……。
「……」
 可能な限り受け止めると拳を握り、白い分身体と睨み合っていく。
 動きを淀ませぬ白い分身体は瞬く間もなく距離を詰め、ジェミの防具に手を伸ばし……。

 マリーが握る炎に染まりしルーンアックスが、白い分身体の半ばまで食い込んだ。
 内部より白い分身体を蝕んだ炎は瞬く間に枝葉の先端まで飲み込み、物言わぬ炭へと変えていく。
「一体目! この調子で、褐色の分身体も倒すのじゃ!」
「はい、そうですね。この調子で……」
 行けるのなら……との言葉をメイセンは飲み込んだ。
 視線の先、体中に傷を残し気力だけで立っているように思えるジェミ、表情こそ余裕の笑みを浮かべ続けているけれどたびたび足元がおぼつかない様子を見せている将司、本体への挑発を控えざるを得ない状況に陥っている環、後一撃でも受ければ一時的な消滅を迎えてしまうだろうマルゾ……。
 他の者たちよりも多くの攻撃を受け持っていた者たちに限界が訪れようとしている。今はまだ立ち位置を変え的を絞らせず、時に庇い合うことで耐えているけれど、それがいつ瓦解してもおかしくはない。
 なんとなく感じ取っているのだろう。フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)が褐色の分身体に大鎌を振り下ろす。
「死を忘れた者達は、滅びる運命なのです」
 地面から伸びてきた太い根に阻まれ可能性を秘めた光とともにある爆発が届かぬ中、マキナが褐色の分身体の背後へと回り込んでいた。
「地球を護るため、ここが踏ん張りどころね」
 この後に本体との戦いが控えているのだから……と、マキナはエクスカリバールで幹を何度も何度も突き刺していく。
 褐色の分身体が激しく揺さぶられていく中、戦場に無数の影が差し始めた。
「みんな、来るわよ」
 ミサイルのようなバナナの群れだと断定し、マキナは褐色の分身体から距離を取る。
 影の外へと退避し見つめる先、前衛陣めがけて無数のバナナが降り注いだ。
 疲労か、ダメージがかさんでいるのか避けきれぬ仲間たちを癒やすため、メイセンは軽やかなステップを踏んでいく。
「耐えて下さい。もうすぐ、褐色の分身体も倒せるはずです。そうすれば、今よりも楽に……」
 願いと共に治癒の力を秘めた花びらを散らし、前衛陣の傷を塞いでいく。
 痛みが和らいだ矢先、将司の指先が暖かな温もりに抱かれた。
「っ……」
 指を包む唇の感触、何か別のものを転がしているかのような舌使い、加速度的に積み重なっていく疲労。
 心根に残る気力を振り絞り、褐色の分身体を跳ね除けていく。
「……観察、とは中々行きませんね」
 分身を生み出しながら後退し、治療を望んだ。
 頷きメイセンが走り寄る。
 誰ひとりとして倒れぬまま、本体との交戦へと向かうため。
 マキナは褐色の分身体との距離を詰める。
 少しでも早く本体との交戦に移行するため。
 正面から踏み込み、如意棒を突き出した。
 盾のように降りてきた枝とぶつかった瞬間二つに分裂し、ヌンチャクへと形を変えていく。
「隙は逃さない」
 更に踏み込み、無防備な左肩を力強く殴打する。
 ぴしりと小さな音を響かせながら、左肩に走る大きな亀裂が。
 まだ動けると言わんばかりに、褐色の分身体は枝から一本のバナナを掴み取った。
 皮を向き食べ始めていくさまを見て、マキナは如意棒を力強く握りしめていく。
 回復行動を取るまでに追い詰めた。
 後は畳み掛ければ、きっと――。

●バナナイーター、死闘の果てに
 マキナの全武装が捉えた時、褐色の分身体は跡形もなく消え去った。
 即座にマリーは進路を変える。
 桜が描かれたルーンアックスに炎を走らせながら本体へと向かっていく。
「そのうらやましいボンキュボンの体系で数々の殿方をたぶらかし! 死に追いやる悪女め! 年貢の納め時じゃ!」
 道半ばにて虚空を飛んでいくバナナとすれ違うも、後を後を追うことはない。
 ただまっすぐに、力強く、炎に染めたルーンアックスを振り下ろした!
「っ!」
 二本の根に阻まれて地面を砕くことすらもかなわない。
 かまわないとマリーは力比べに持ち込んで……。
「あ……」
 背後から小さな声が聞こえてきた。
 視線を向ければ、ジェミが飛んできたバナナを避けきれず尻もちをついている。
 瞳は揺れ、呼吸も荒い。
 腕も脚も震えていた。
「……まだまだぁ!!」
 ジェミは飛びそうになる意識を引き戻し、地面に突き刺したゲシュタルトグレイブを支えに立ち上がる。
 両足を叱咤し、切っ先を本体へと突き付けた。
 稲妻を宿し突き出すも、根に阻まれ押しきれない。
 ならばとマリーが踏み込んでルーンアックスを力いっぱい振り下ろす!
 微笑みを崩さず、本体は枝葉を盾代わりに――。
「言った、です。植物使いの、神髄……お見せする、と……!」
 ――降りてきた枝葉を環が操る蔓草が絡め取った。
 遮るものなど何もない本体に、マリーはルーンアックスを食い込ませる。
 本体は身を捩り木ごと後退しようとするも、蔓草を振りほどく事ができていない。
 重ねられてきた呪縛が、蔓草をきっかけに本体を雁字搦めに縛り付けていた。
 最大にして最後の好機。
 これを逃せば一人ずつ倒され勝利すらままならないだろうと、ケルベロスたちは雪崩れ込む。
 将司が力を解放し叩きつけ、マキナが全ての兵装をぶち込んだ。
 もしもにそなえメイセンが治療の準備を始める中、翔はメイスを振りかぶる。
「もう、終わりっす。砕け、全てを!」
 全ての守りを捨て、渾身の力で振り下ろす。
 幹を捉え粉砕し、木っ端が地面を埋め尽くす。
 形だけは残った女性の擬態は空を仰ぎ……。
「口惜しや……よもやここまで……嗚呼……バナナプリンセス様、今一度、あなたに……」
 色を失い崩れ落ちた。
 木々のざわめきが聞こえてくる。
 優しい風が戦いの熱を覚ましていく。
 一人、また一人とその場にしゃがみこんでいく中、マキナはバナナイーターが崩れ去った場所を見つめていた。
「バナナプリンセス……それが、次の……」
 新たな戦いの予感を感じながらも……思考を一度切り替えた。
 今は休息が必要だ。
 傷を治すためにも、体を心を癒やすためにも。
 心身ともに万全な状態でなければ、新たな戦いなど望めないのだから……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月1日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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