精霊馬事件~叶わぬ願い

作者:さわま


 蒸し暑い夏の夜。
 深夜だというのにむせ返るような熱気に老人は目を覚ました。
「夢、か……どうせならずっと覚めなければ良かったものを」
 暗く低いため息が老人の口から漏れる。先ほどまで老人は夢を見ていたのだ。
 それはずっと昔。若い頃に妻と一緒に河原に蛍を見に行った思い出の再現であった。
 静まり返った部屋。老人の妻は数年前に亡くなり、今は1人で生活している。彼の呟きに答える者はこの家に居るはずもなかった。
 老人は寂しそうな目を部屋の片隅に飾られた妻の遺影とその前に置かれた茄子でできた牛へと向けた。
 『精霊馬(しょうりょううま)』。盆に亡くなった神霊をお迎えする乗り物として茄子や胡瓜などの野菜で作られる供え物である。
「戻れるのならばあの日に戻りたい。なぁ、妻の元に連れていってはくれないか?」
 物言わぬ茄子に老人は子供じみた願いを口にした。
 ……それが叶うはずの無い願いと分かっていて。
「よかろう。汝の願い、聞き届けようではないか!」
 頭上から突然聞こえた声に、老人が顔を上げる。そして、老人はハッと息を飲んだ。
 そこに浮遊する巨大な精霊馬がいたのだ。
「我とひとつになるのだ。さすれば汝の願いを叶えよう」
 驚く老人に精霊馬は甘く囁やくように言葉を続ける。老人は一瞬躊躇いを見せたが、それでも怪しげな精霊馬の提案にコクリと頷いた。
「グフフフ、良きかな良きかな……では始めるぞ。ギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラ!」
 精霊馬が不気味な呪文を唱え始めると黒い霧のような物が周囲に立ち込める。霧は老人の身体へと纏わりつき、全身を覆い尽くす。やがて霧が晴れると、そこにモザイクの衣を纏った若い男の姿があった。
「グハハッ素晴らしい、これぞワイルドの力! 汝の望みが叶うまで、汝は我にドリームエナジーを供給し続けるのだ。死者に会うという実現不可能な願いが叶うまでな!!」
 邪悪な笑い声を上げ、男を背に乗せた精霊馬が夜の闇に飛び去っていった。


「ケニアでの大運動会、ご苦労様であった。帰国早々で申し訳ないが、ドリームイーターによる新たな事件が発生している。貴殿らの力が必要なのだ」
 そう言って、山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)は集ったケルベロスたちに新たな事件についての説明を開始する。
「今回出現したのは精霊馬のドリームイーターで、『若返って死別した妻に会いに行きたい』と願う老人の願いを取り込んで、老人と合体して暴れ出そうとしている。人間からドリームエナジーを奪うのではなく、ドリームエナジーを生み出し続ける人間を取り込む事で、より強いドリームイーターとなっているようだ。実際、敵の耐久と攻撃力はかなり高く、強敵といって差し支えない。しかもこの状態でドリームイーターを撃破すれば、取り込まれた老人は大怪我、最悪の場合は死亡してしまう事になる」
 どよめくケルベロスたちにゴロウはしかし、と言葉を続ける。
「貴殿らの説得で、老人が『死別した妻に会いたい』という望みを捨て去る事が出来れば、ドリームイーターは力を失い弱体化する。この場合、敵は役立たずになった老人を投げ捨てるので、誤って老人に怪我をさせてしまう心配もなくなるだろう」

 さらに詳しい説明をゴロウは続けていく。
「ドリームイーターが出現するのは、かつて老人が亡き妻と訪れたという河原だ。周囲に人は居ないので人払いなどは不要だ」
 敵の殲滅と老人の説得に力を注いで欲しいとゴロウは言う。
「敵はその丸い体躯を生かした体当たりと、周囲に実体化させた無数の光球を用いた攻撃を仕掛けてくる。四方八方から襲いかかる光球は威力も高く脅威となるだろう。しかし力の源である老人を失えば光球は消え去り体当たりによる攻撃しか行えなくなるようだ」
 体当たりは光球よりもダメージで劣り、攻撃が一本調子になれば見切る事も容易になる。早い段階で老人を説得できれば有利に戦闘が進められるのは間違い無い。
「さらに言えば、高い耐久力も8割程度に弱体化する。戦闘をしながらの説得は大変だが、上手くいった場合のリターンは大きいだろう」

 最後にゴロウはケルベロス1人1人に信頼の眼差しを向けて言った。
「老人の純粋な想いを踏みにじるドリームイーターに正義の鉄槌を下してやって欲しい。……どうかよろしくお願いしますだよ!」


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
カリン・エリュテイア(赤い靴・e36120)

■リプレイ


 死は誰にでも訪れる。
 人の死によって心に深い傷を負う事もあるだろう。
 人の死によってそれまでの生活が一変する事もあるだろう。
 愛しい人にもう一度会いたい、失ったあの日々に戻りたい。
 だが、人は知っている。それは決して叶わぬ願いなのだと。

 深夜、人里離れた河辺。夜の静寂を飛び交う蛍。その淡い光の中で、巨大な茄子の馬に乗った男が何かを探すように、虚ろな瞳をさ迷わせていた。
「そのナスさん、お爺ちゃんを死者に会わせる気なんか無いんよ」
 突然の声。薄闇の中からカリン・エリュテイア(赤い靴・e36120)が姿を現わす。
「願いを叶えたげる。そんな調子の良いこというて、騙し取り込んでるだけなんよ」
 柔らかな、しかし強い意志を感じさせる語調でカリンは男へと語りかけた。
 そんなカリンから目をそらすように、男が跨った茄子の背中へと視線を落とすのを見て、その傍にいた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は口を開いた。
「ワタシ達はケルベロスだ。貴方を助けるためにやってきタ」
 ケルベロスの出現。男の顔に驚きの色が浮かび、すぐさま口元が歪んだ。戸惑い、失望、それに後悔に、後めたさ。そんな苦々しい感情が入り混じったような男の顔に、眸は続けようとした言葉を呑み込んだ。
(「……このワタシが、カレの願いを捨てさせル事など許さレルのだろうカ?」)
 押し黙った眸がそばに寄り添うビハインドのキリノをチラリと見る。大切な人を失う痛み、もう一度会いたいと願う気持ち。それは眸にとって決して他人事では無かった。
「愛する者との死別、孤独。その苦しみはよく解かる。再び会いたいと願う事そのものに罪は無い。だがそんな姿になった所でその願いが叶うはずもないはずだ」
 苦悩する男にウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は言葉を投げかける。淡々とした物言いであったが、ウルトレスの様子の端々には男に対する真摯な気持ちが伺えた。
 そして眸やウルトレスと同じように、男の想いを我が事のように真摯に受け止める者たちが、この場には集っていた。
 ……ただひとりを除いて。
「グヒヒッ、たしかにここには汝の妻は居ないようであるなぁ。だが安心するがよい! 我と汝は一心同体。汝の願いは必ずや叶うであろう、ゲハハハッ!」
 場違いともいえるドリームイーターの下品な笑い声が夜の闇に響く。
「そんなに気を落とすでない。なぁに、すぐに妻には会えるさ。その日まで汝は我に力を与え続ければ良いのだよ」
 それは、慰めにもならないあまりに軽薄な言葉であった。事実、背中の上の男の苦悶の表情はますます深いものになっていった。
「死んだ人間に会えるだなんて、そんな都合の良いことがあってたまるかよ!」
 適当なことを平然と言ってのけるドリームイーターに一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が語気を荒げた。
「爺さんだって、本当は分かってるんじゃないのか? 『あの日に戻れたら』なんて、そんなのは夢物語に過ぎないんだって!」
 鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)の言葉に男は再び視線を落とす。それでもヒノトは堰を切ったように言葉を投げかけ続けた。
「そんなのは不可能なんだ! まやかしに過ぎないんだ!」
 自分の発する言葉が重く苦しい。無意識のうちにヒノトは相棒のファミリアロッドのアカを強く強く握り締めていた。
「大層な物言いだなケルベロスたちよ。グハハハハッ!」
 ドリームイーターが嘲るように笑い、男を背に乗せたまま空中へと浮かび上がる。
「だが、こやつがすがるのは我の方だ」
 蛍のものでは無い。冷たく輝く光球がケルベロスたちの周囲に出現する。
「哀れよな、人間共。己の無力さに打ちひしがれて死ぬがよい」
 嘲笑が夜の闇に響き、光球が一斉にケルベロスたちに襲いかかった。


「けったいな攻撃なんよ。どないするん、レスターさん?」
 間断無く襲いかかる無数の光球。そんな中でも呑気に首を傾げるカリンにむしろ頼もしさのようなものを感じ、レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)は笑顔で答えた。
「どうするも何も、彼を救って敵を倒す。それが俺たちの任務だろ? 援護は頼むよ」
 そう言って、レスターは光球をかいくぐりドリームイーターへと向かっていった。
「ほな、頑張らないといけないんよね」
 レスターの背中を見送るカリンが相棒のウイングキャットのシロさんへと声をかける。
「ん? シロさんもやる気なんね。レスターさんとまた縁側でお喋りしたいんね」
 レスターの後を追って飛び出す白猫にカリンはクスリと微笑んだ。
「今回の敵は肉成分が足りない、です!」
 飛んでくる光弾をトンファーのように変化した如意棒で叩き落としつつ、一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)が戦場を飛び交う茄子をキッと睨みつけた。
「馬と名乗るなら馬肉くらい用意しとけ、オラァ、です!」
 軽口を叩く茜の瞳に、茄子の上でうな垂れた男の顔が映し出される。
(「うーん、元気が無いのはいけませんね。馬刺し食べたら元気になりませんかね? ご老体にはちょっと重いですかね?」)
 あくまでも基準が肉な思考の茜だが、男を心配する気持ちは本物であった。そんな茜のすぐ横を、黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)が音も無く通り過ぎていく。
「さて、手遅れになる前に旦那さんをお助けしましょうかね」
 一気にドリームイーターとの距離を詰め、死角から逆手に構えた短刀を突き出す。その技の冴えは達人の域に達しているといって間違いのないものだ。
 刃が身体を切り裂く感触。瓔珞にとってそれは、幾千、幾万と繰り返され、返り血と共に手にこびりついてしまったものだ。
「今ならまだ、彼岸に旅立ってから奥さんに再会できるはずだからね……僕とは違ってさ」
 血塗られた過去は、積み上げた屍からは、何があっても逃れる事は出来ない。たとえケルベロスとして幾千、幾万の人々を救おうとも、自分の行き着く先は無間の地獄に違いない。あの世でさえ再び会いたい人たちに会う事など自分には望むべくもないのだ。
 だからこそ、男を救わなくてならないと瓔珞は刃を振るう。
「止めどなく力が溢れてくる。最早ケルベロスなど物の数ではないわ、ゲハハハハッ!」
 雄太の周囲を光球が覆っていった。
 しかし雄太は怖気付く事なく、下卑た笑いを漏らす敵を睨みつけた。
「不死のお前らにはわからないだろう。大切な人を失うってことが! だからこんなにも容易く人の死を利用する!」
 雄太の声をかき消すように光球が次々と炸裂しまばゆい閃光を放った。やがて光が収まると傷だらけの雄太は、それでも怒りを滲ませて叫んだ。
「てめえは絶対にぶちのめす!」
 雄太の脳裏には、今は亡き母親と、その死をきっかけに荒んだ父親、そして喧嘩に明け暮れたかつての自分の姿が浮かんでいた。
「一条、少しそのままデ――バイタル測定……波長ヲ合わせる」
 雄太の側に駆けつけた眸の掌が金色の光に包まれる。
「Refined/gold-heal……承認」
 眸の掌から溢れた光が雄太の傷を癒す。活力を得た雄太は敵に向かって一直線に駆け出していく。
「喰らえ、『虎尾脚(サヤマスペシャル)』!」
 大きな助走からの後ろ回し蹴りがドリームイーターの身体に叩き込まれた。


「ええぃッ、しつこい、です!」
 追尾してくる光球から茜はダッシュで逃げる。と、不意に頭上から下卑た声が聞こえた。
「フハハハ、馬鹿め!!」
 気が付けば頭上からドリームイーターが茜を押し潰そうと迫っていた。
 直後、驚く茜の身体を大きな茄子の巨体が呑み込み地面へと叩き潰す。
 ――ガブリッ!
 何かを噛み砕く音。グゲッと、情けない悲鳴をあげたドリームイーターが空中へと飛び上がった。
「ペッペッ、やっぱり茄子でした。苦いったらありゃしません」
 立ち上がった茜が目に涙を浮かべて、口から茄子の破片を地面へと吐き出す。敵ののし掛かりを茜は身体に食らいつく事で振りほどいたのだ。
「災難やったんね」
 のほほんと近づいてきたカリンが茜をヒールする。カリンにお礼を言った茜は他の仲間と戦いを続けるドリームイーターの方に向き直り、むうと眉をひそめた。
「皆さんの説得はかなり効いてると思うんですけどね」
 男に対し同じような感慨を得ていたのは茜だけではなかった。冷静に男の反応を観察し、自分自身も誠意ある対応を続けてきたウルトレスもその1人であった。
(「彼は敵に騙されている事は理解している。デウスエクスに加担する罪の意識も。そしてなにより、願いは叶わない事も分かっているはずだ」)
 それはこれまでの男の反応から十分に察する事ができた。こちらの言い分に男は理解を示しているのだ。
「このまま他人を殺めてしまったなら、あの世で会う事すら叶わなくなる。今ならまだ間に合う、引き返すんだ!」
 ウルトレスの言葉に、それまで黙っていた男は初めて口を開いた。
「だったら、頼む。私を殺してくれ――叶わぬ願いならばせめてあの世で妻に会いたい」


「ッ!? そんな事――」
 出来る訳ないと、答えようとしたヒノトの横を雄太が通り過ぎていった。そして雄太はドリームイーターに馬乗りになり、背に乗った男の胸ぐらを引っ掴む。
「フッ、ざけんなよッ!! テメェ!!」
 怒りの形相の雄太の拳が男の頬を引っ叩く。呆然とする男に雄太は激情のままに言葉をぶつけていった。
「アンタの死を、アンタの大切な人が、望むわけねぇだろうがッ!!」
「大切な人が死んだのはつらいさ。よく分かる。そのせいで俺だって人様に迷惑かけたさ。でもな、それでもそいつは、テメェで乗り越えなきゃいけないものなんだよッ!!」
 同じ旅団のヒノトにとって、いつも何だかんだで大人の対応を見せていた雄太の、それは今までに見た事のない荒々しい感情の発露であった。
 と、その場の全員の耳に歌声が聞こえた。
「R.I.P……朽ちて散れ、安らかに眠れ――」
 もの悲しくも、どこか優しい旋律をレスターが口ずさむ。呆気に取られる男に、レスターは周囲を飛び交う蛍を指差して言った。
「蛍たちを見ろ、儚い生を精一杯生き抜いている。かつて貴方たち夫婦が見た光、貴方の愛した人が慈しんだ命の輝きだ」
 そして言葉を続ける。
「俺にも死に別れた家族がいる。けれど……アイツはきっと肉親会いたさに俺が自ら死を選ぶのを望んじゃいない。アイツの為に死ぬ事はアイツのせいで死ぬ事と同義だからな」
 どこか悲しそうな笑みをレスターは浮かべる。
「そんなまやかしの姿で会いにきてほしくはない、自分の分も年を重ねて天寿を全うしてほしい、ばあさんもきっとそう思ってるぜ!」
「生きている内は楽しい思い出をいっぱい作る。そうして精一杯生きて死んだ後、あんな事やこんな事があったと奥さんに自慢してあげればいいんです」
「会いに行くのは最後まで生きて、土産話を増やしてからでも遅くないんよ、きっと」
 ケルベロスたちの言葉に男は肩を震わせ泣き崩れる。
 そして次第にその姿が瑞々しい若者の姿から本来の老人の姿へと変化していった。
 それはケルベロスたちの説得が成功した事を意味していた。


「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったけどさ」
 安堵のため息をついた瓔珞が狼狽するドリームイーターへと冷たい目を向けた。
「こっちはきっちり切り刻んで、水の子に混ぜてしまいましょうかね」
「あの茄子は大きいだけで中身はスカスカ、クソ不味かったですよ」
 茜が指をボキボキと鳴らし口元に意地の悪い笑みを浮かべる。
「でも、お仕置きタ~イム、です」
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!?」
 ケルベロスたちの怒涛の攻めに為すすべもなくドリームイーターは追い詰められていく。
「ゲスいマネしてくれたな、このモザイク茄子野郎」
「し、死にたくない!? 我にはなすべき事が……」
「シャレのつもりか、地獄に落ちろ」
 ウルトレスのチェーンソーが断末魔を上げるドリームイーターを無慈悲に切り刻んだ。


 老人を無事に家に送り届け、ケルベロスたちは再び河原へと戻ってきていた。
「蛍の光は死者の魂だって、そんな話もあるみたいだな」
 そう言って飛び交う蛍に優しい目を向けるレスター。
「彼は奥さんとこの場所で会っていた。その姿は見えなくとも、話す事は出来なくとも。彼の願いは叶っていたのです。きっとそういう事なのでしょう」
 同じく蛍を静かに見つめるウルトレスの顔に微かな笑みが浮かんだ。
「死者の魂……お盆か、父さん母さん」
 小さく呟いたヒノトが愛用のローブの裾をギュと握りしめる。肩にしがみついた相棒のアカは飛び交う蛍に話しかけるようにチチッと鳴いた。
「さっきは格好悪い所、見せちまったな」
 そんなヒノトにバツが悪そうに雄太が頭を下げると、ヒノトは慌ててかぶりを振った。
「キリノ……」
 立ち上がった眸が、ビハインドの名前を呟く。
「ッ――桐乃」
 震える眸を、物言わぬビハインドはそっと抱きしめるのであった。
 ドリームイーターの痕跡を探していたカリンがふと立ち止まり、蛍へと目を向ける。
「死んでも会いに行きたいくらい大切な人……うちにもいたん、かな?」
 ぼんやりと呟いたカリンは、思い出したように懐からメモ帳を取り出すのであった。
「こうやって帰ってきてくれた死者をお迎えして送り出す事は、生きてる人にしか出来ないからねぇ」
 煙草の煙をくゆらす瓔珞が見守る先で、茜が花で作った灯篭を水面に浮かべていた。
「また会う日まで、ですよ~」
 ゆっくりと下流に流れていく灯篭に茜は小さく手を振った。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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