おっぱいおばけ

作者:青葉桂都

●幽霊のおっぱいは触れますか?
 まだまだ暑い時期の続く8月。
 夏の夜の風物詩と言えば、やはり肝試しだろう。
 1人の男子中学生が、住む者のいないマンションに入り込んでいた。
「本当に、出るのかなあ……」
 どうやら、友人たちとの賭けに負けてここに来ているらしい。
 恐怖を抑えようとしてか、彼は聞く者もいないのに大きな声でしゃべり始めた。
 少年の言によれば、この街のどこかにあるマンションで、かつて女性がバスルームで殺され、まるで血の湯船に浸かっているような状態で発見されたらしい。
 以来、その建物には血まみれになった裸の美女の幽霊が出没するようになり、夜な夜な自分を殺した人間を探して徘徊するようになったのだ。
 彼女は犯人を見ていないらしい。出会った人間すべてに疑いをかけ、殺そうとするのだ。
 そして、今彼がいる廃マンションこそがその現場だというのだ。
「その幽霊って……かなりの巨乳だって噂なんだよな……。裸だったらでっかいのが丸見えだよな……。あ、でも、幽霊じゃ触れないのか……」
 少年の表情がゆるむ。
 彼の好奇心と勇気の原動力には、どうやらスケベ心が含まれているようだった。
 しかし、現れるのが幽霊ではなくデウスエクスだとは、彼もまったく想像していなかっただろう。
 階段の踊り場で、背後に現れた魔女が少年の心臓を鍵で貫く。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 第五の魔女・アウゲイアスは静かに告げた。
 少年が倒れこむと、その横に噂通りの幽霊が姿を見せた。
 一糸まとわぬ女性の、黒く長い髪が大きな胸に垂れ下がっていた。まるで絡みついているようにも見える。
 細く白い首からは血が絶え間なく流れていた。
 床に血の足跡を残しながら、ドリームイーターが歩き出す。
 魔女は、すでに姿を消していた。

●幽霊狩りのお仕事
「胸の大きな女性の幽霊が現れるという都市伝説を調べていたら、ドリームイーターが現れる事件を見つけましたわ」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) は、おそらくくだんの幽霊に劣らぬくらい大きいであろう胸を揺らしてそう言った。
 都市伝説に興味を持ち、肝試しも兼ねて真偽を確かめようとしていた男子中学生が、その『興味』をドリームイーターに奪われるのだ。
 奪った本人はすでに姿を消しているが、その『興味』をもとに出現したドリームイーターが事件を起こそうとしているらしい。
 幽霊は殺人事件に巻き込まれた女性だということになっている。もっとも、現場となる予定の廃マンションでそんな事件が起こったことはないのだが。
「でも、都市伝説で幽霊さんは出会った人を片っ端から自分を殺した犯人扱いするということになっていて、ドリームイーターも同じような行動をするみたいですわ」
 被害が出る前に幽霊を退治して欲しいとミルフィは言った。
 興味を奪われた本人は意識を失っているが、ドリームイーターを倒すことができれば目を覚ますはずだ。
 ミルフィの後ろに控えていたドラゴニアンのヘリオライダーが、出現する敵について説明を始めた。
「ドリームイーターは、胸の大きな半透明の女性の姿をしています。首から血と同じ色の液体を流しており、服は着ていません」
 攻撃手段だが、まずは手でつかもうとしてくる。触れたものを切断し、体力を奪い取る力があるため、素手だとあなどってはいけない。
 また、首から流す液体で血の池を作り出す範囲攻撃も行う。強い毒性があるようだ。
 聞く者にプレッシャーを与える金切り声をあげることで、遠距離に範囲攻撃を行うこともできるようだ。
 なお、透けているように見えるが別に攻撃がすり抜けたりすることはない。
「現場は廃マンションです。急いで行動すれば、建物内にいるうちに遭遇することができるでしょう」
 マンションの住人はもういないので、狙われた少年を除いて人はいないようだ。あえて外に出てくるのを待つつもりでなければ避難活動の類はする必要ない。
「ドリームイーターには2つの性質があります。1つは、自分について噂する者に引きつけられるというものです」
 うまく誘き出せば、有利に戦えるかもしれない。
 もう1つは、出会った相手に『自分は何者か』と問いかけてくることだ。正しい答えを返さなかった者を殺そうとするようなので、明らかに間違った答えを返すといいだろう。
 どうせ、正しい答えがなにかはわからない。
 ヘリオライダーは説明を終えた。
「若い殿方が大きな胸に興味を覚えるのは、仕方のないことかもしれませんけれど、それをドリームイーターが利用するのは見過ごせませんわね。どうぞよろしくお願いします」
 ミルフィは最後にそう告げると、丁寧に頭を下げた。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
ロスヴィータ・クロイツァー(官能の導き手・e00660)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
羽丘・結衣菜(マジックマニピュレイター・e04954)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)

■リプレイ

●夜のマンションで
 もはや住む者もいないはずの建物で、久しぶりに人の声が響いていた。
「所謂曰く付きマンションですね」
 青い髪を持つ女性が、仲間たちにそう告げた。
「このマンションの一室、バスルームで胸の大きな女性が殺害され、血の湯船につかったような状態で発見されたらしく、その女性の怨念が霊となってこのマンションに徘徊しているとか」
 キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)の言葉に、ウサギ耳をつけたメイドが痛ましげな表情を浮かべた。
「無惨な死を遂げた巨乳美女の霊ですか……巨乳同士として、供養などして差し上げたいですけども……」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)がうつむく。年齢に似合わぬやたら豊満な胸が、かすかに揺れた。
「そうですね。全裸に近い状態で出るらしいので少年が入り浸ってたりするようですから……」
 頷いたキアラも、同じく年相応とは言い難い自分の胸を、複雑な表情で見降ろした。
「そこまでしておっぱいが見たいなんて、男の子はしょうがないわねぇ……」
 ロスヴィータ・クロイツァー(官能の導き手・e00660)は、白い頬に掌を寄せて、薄く微笑んで見せた。
 彼女が歩くごとに、紐で留められた胴衣やブラウスに収まりきらず、肌色が大きく覗いてしまっている豊満な胸が柔らかく揺れる。
 偶然か、はたまたおっぱいはおっぱいを呼ぶのか、8人のケルベロスたちのうち実に半分以上が豊満な胸を誇っているのだ。
 ひたひたと、前方から足音が聞こえてきたのはその時だ。
 大きな胸を隠しきれていない露出度の高い衣装を身につけた女性が、笑顔で拳を握る。
「来たみたい。肝試しは夏の定番行事だからね。それが悲劇になってしまうのは悲惨だからなんとかするよ」
 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)は近づく戦いの予感に胸を高鳴らせていた。
 闇の中から半透明の女性が姿を見せたが、幽霊だからといって驚く者はいない。
「精霊魔法だったり御業を使役してる身から言わせてもらうと幽霊なんて驚くほどの物じゃないのよねえ。ケルベロス業を長くやってると血とか死体も見慣れちゃうしねぇ……」
 小さな声で呟くマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)のように、術を得意とする者ならなおさらだろう。
「……やっぱり嬉しさはこみ上げてきませんね。十夜君はどうですか?」
 巨乳幽霊を前にしても平然とした様子で土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は隣にいた青年に問いかける。
「私にはお慕いする方がいます。その方に既に魅了されていますから、上書きはありえませんよ」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)はさらりとそう言ってのける。
「好きな方がいるんですか。それは良いことですね。しかし、文字通り人間離れした大きさにびっくりです」
 もっとも動揺するほどではない。……人間離れした大きさという点では、仲間たちも負けてはいなかったし。
 ……それに、たとえ巨乳が好きでも、血まみれではさすがに嬉しくはなるまいと、岳は思った。
「まあ、普通の人間にしては大きい方よねぇ。私には劣るみたいだけど」
 幽霊の胸に目を向けて、マイアが半ばあらわになっている大きな胸を悠然と張る。
 男たちも平然としていたから、幽霊の姿に心を動かされていたのはケルベロスの中でたった1人きりだった。
「ふ、ふふ、ふふふ」
 地の底から響く笑いを上げたのは、敵も味方も『持つ者』ばかりの中、唯一の『持たざる者』……。
「こんなドリームイーターが生まれるなんて、やっぱり巨乳に惹かれるのかしら。む、むぐぐぐぐ……許すまじ」
 うつむくと、まだ起伏に欠ける自らの胸元が目に入り、彼女をさらにいらだたせる。
「すごい腹が立ってきたから、このドリームイーターは思いっきり叩き潰してやるわ」
 羽丘・結衣菜(マジックマニピュレイター・e04954)は妖精弓を構えて最前列まで歩いていくと、敵を見据えた。

●幽霊の正体は見えず
 血まみれの女が、ケルベロスたちへと一歩近づいて、声を発した。
「わたしは……だ・あ・れ?」
 幽霊が問いかけると同時に、首筋から流れ出る血の量が増した。まるで彼女の体を捕らえる鎖のように、血の筋が絡みついていく。
 正しい答えなどわかるはずもないが、正しい答えを言う必要もない。
「私は羽丘・結衣菜よ」
 答える必要などないとばかりに結衣菜は自らの名を告げた。
「貴女は……不憫な霊の噂に託つけて男を惑わす痴女の類い、かしら?」
 ミルフィが首を傾げてみせる。
「貴女はいつの日かこの地で殺されて、仇を求めるものでしょう?」
 泉の答えは仲間たちほどふざけたものではなかったが、間違っているのは同じだった。 ニタリ、と幽霊が笑う。
「ホログラムかな? すごーい!」
 静夏は心から楽しげに言い放った。
 同時に敵へと踏み込んで、振り上げるのは巨大な鉄の管。
 反動で、長身の体に見合った大きな胸が揺れる。
 だが、振り下ろすそうとした時、彼女の足がつんのめった。
 床に広がった血の池がケルベロスたちを飲み込もうとしているのだ。
 結衣菜がとっさに泉をかばって池の外に押し出したのが視界の端に映る。
 呪いが侵蝕して体をさいなむが、静夏はむしろ笑みを浮かべて苦痛を迎え入れた。
 体勢を立て直している間に、マイアから伸びた植物が色とりどりの花を咲かせながら敵にからみつく。
 改めて大鉄塊管を振り上げて、静夏は血の海から跳んだ。
 力任せに叩きつけ、敵の怒りを誘う。
「体型は普通だね~」
 止めとばかりに、静夏は笑顔のまま幽霊に声をかけてやった。
「普通っ!?」
 もっともその一言は、むしろ味方の心に突き刺さったかもしれないが。
 敵の横をすり抜けたところで、岳が線香花火のごとく煌めく粒子をばらまいて静夏や仲間たちを癒す。
「音も、光も、そして拍手も無いマジックショーの開幕よ」
 姿を消した結衣菜が音もなくフェアリーブーツで蹴りを叩き込む。グラビティを込めた泉のナイフが続いて敵に襲いかかった。
 キアラの御業が放つ炎をミルフィの空機靴が起こした摩擦熱があおった。
「これがアナタの黒歴史、ってねん♪」
 ロスヴィータも悪夢を見せる黒い球体を放っている。
 反撃は敵を確実にとらえていたが、戦いはまだ始まったばかりだった。
 胸を揺らしながら滑るようにマンション内を移動する幽霊の動きは、ケルベロスたちをはるかに凌駕するほどに素早い。
 あたかも実体がないかのような動きで、不気味な笑顔のまま飛び回っている。
 そして、敵の攻撃は結衣菜や静夏を捕らえて容易く切り裂いていた。
 静夏をかばった結衣菜の胸元に半透明の手が押し当てられ、少女の体を切り裂く。
 岳は、しかしその強さが逆に哀れだと感じていた。
「他者の興味をなぞった行動しかとれないとはお可哀想に。貴女のモザイクは決して晴れないでしょうに……」
 魔女によって生み出されたドリームイーターの欠落が埋まることは、きっとない。
「せめて倒す事でその定めから解放しましょう」
 宝石を探すための小ぶりな鎚を、岳は振り上げた。
 もっとも、向けるべき相手は敵ではない。回復役である彼の役目は敵を倒す仲間たちを癒すこと。
 大地が割れた。巨大でムラのある緑色をした石が、攻撃を受けた結衣菜を包み込む。
 橄欖石の石言葉は幸せと豊穣……。
「地に沢山の幸せが満ちます様に。貴女の『心』にも届きますように」
 石は一瞬にして風に溶けたが、込めた願いは消えはしない。
 攻撃を続ける仲間たちを岳は支え続けていた。
 ケルベロスたちの攻撃は幽霊にダメージだけではない不利益を積んでいく。
 マイアは赤い瞳に魔力を込める。
 瞳に込めた呪いは、敵の身体機能を狂わせる。狂った身体機能がさらに、敵に弱体化したことを錯覚させて異常な状態を悪化させていく。
(「本来なら幽霊のほうが呪う側なのかもしれないわね。でも……」)
 恨みのこもった敵の目が、マイアへと向けられた。
「……ふふふ、私は何もしてないわよ? 貴方を狂わせるのは他ならぬ貴方自身よ」
 平然と視線を受け流し、彼女は薄く笑った。
 キアラは光の翼を広げて廃マンションの狭い通路を飛び回っていた。
 距離を取りつつ、しかし敵を狙える位置へと移動しながら敵の様子を確かめる。
「そろそろダメージを狙っていきましょうか」
 懐から札を取り出す。
「胡蝶が閃く。もう、あなたは逃げられません!」
 言葉と共に札から一羽の胡蝶が飛び出した。
 光で形作られた蝶はひらひらと飛び、ゆっくりと、しかし確実に敵を追っていく。
 幽霊に近づくと、蝶は閃光となって敵を貫く。
 怒りのこもった金切り声が、ケルベロスたちへと放たれた。

●夢は消え去る
 廃マンションの壁や、扉を破壊しながらドリームイーターとケルベロスたちは戦いを続けていた。住人がいればとんでもないことになっていただろうが、人影は見えない。
 隙を見て、岳が小さな槌を振り下ろし、床をたたき割る。
 強烈な一撃による振動が、幽霊の大きな胸を激しく揺らした。
「……っ! そ、そんなに揺れて……っ」
 さすがに少し恥ずかしかったか岳が目をそらして距離を取ろうとする。
 ロスヴィータはすれ違いざま、その耳元で声を発した。
「見てないの? さっきから、みんな揺れてるのに」
 鮮やかに赤い舌で、一瞬唇を舐める。
「わ、わざわざ言わないでください!」
 敵と距離を取る岳から敵に視線を戻すと、ロスヴィータは氷結の螺旋を練り上げる。
 幽霊を凍らす一撃を放つと、彼女は紫の長い髪をかき上げた。
 ドリームイーターの攻撃を主に受けているのは静夏だ。しかし、耐性がないこともあるだろうが、結衣菜も仲間をかばってかなりのダメージを受けている。
 結衣菜は岳の回復にあわせて攻撃を仕掛けるミルフィの背中に目を向けた。
 自分とほとんど年が変わらないのに、斜め後ろからでもはっきりわかるほどのサイズ。
「目を閉じて――わたくしからの愛、お受け取り下さいまし……」
 幽霊に口づけると、ミルフィは桃色の霧となって消えた。
 刹那、大きな2つの胸が重なりあうのが目に入る。
 目をそらすと、続いてキアラが幻想的な光の槍で連撃を仕掛けるのが見えた。
 まだ成長途上なのに随分と大きな胸が槍の動きに合わせて揺れている。
「うう……二人ともスタイルいいなぁ。世界は不平等よ……うう」
 嫉妬と羨望の目を仲間に向けてしまうのは、きっとダメージが重いせいだ。
 真に自由なるもののオーラを放ち、乱れた心を癒そうとする。
「ねえ、まんごうちゃん……。私を慰めて……」
 シャーマンズゴーストに声をかけると、結衣菜のために祈りを捧げてくれた。
 くじけそうな自分を鼓舞し、結衣菜はなおも攻撃を受け止める。
 戦いはさらに続き、幽霊の体はだんだんと薄れていっていた。
 デウスエクスの戦闘能力は死ぬまで変わらないが、ダメージを受ければ傷つくし多くの場合は見た目にも現れる。
「そーれ、大・爆・発♪ 天高く昇天しちゃいなさぁい♪」
 ロスヴィータの柔らかいものが女の顔を挟み込んで物理的にも吹き飛ばす。
 少しでも回復しようとしてか、幽霊の手が結衣菜をつかんだ。
 切り裂かれた少女がとうとう倒れるが、ケルベロスたちの勢いは止まらない。
 泉は倒れた仲間に目を向けながらも、銀の刃を振りかざす。
「……敵は弱っています。たたみかけましょう」
 白銀の剣から星座の幻影を放つマイアに続いて、正確に幽霊を狙って踏み込む。
「申し訳ないのですが、鮮血の舞踏はここでフィナーレです」
 最小限の動きで、ただ確実に狙った場所を切り裂き、刃を振り抜く。
 同じく攻撃役のミルフィだけでなく、他の者たちも一気に攻撃をしかける。
「いつもとは、一味違う私でいくよ。冷夏の一撃!」
 冷たい風を身にまとった静夏が背中から敵にぶつかっていく。
 キアラの放つ胡蝶が貫き、岳の生み出す橄欖石が包み込む。
 ミルフィは懐中時計のついたパイルバンカーを構えた。
 先ほどからなにかの視線を感じていたが、もう感じない。解き放たれた加速にメイド服に包まれた胸が揺れる。
「不憫な美女の霊の噂を利用し少年を惑わすなど……貴女の様な夢食いは……討ちますわ!」
 ジェット噴射する勢いで、不思議の国の巨獣亀をも貫く杭は幽霊を貫き通す。
 半透明だった体が、断末魔の声とともに消えていった。

●天国への階段
 幽霊が消えたのを確かめると、ケルベロスたちは建物が崩れない程度に軽くヒールし、応急手当を行った。
「えっと、何か嫉妬のような怨念を感じましたが……。大丈夫ですよ、結衣菜さんはこれからが成長期ですから……!」
 結衣菜の手当てをしている間、戦闘中にも感じた視線を再び感じてキアラはフォローしようと試みる。
 まだ10代になったばかりの彼女には、これから無限の可能性があるはずだ。
 ……可能性だけは。
「キアラさん……スタイルよくて綺麗だよね……」
 まんごうちゃんにしがみついて、結衣菜が小さくありがとうと言った。
 手当てを終えると、ケルベロスたちはドリームイーターに狙われた少年を探した。
 さして時間はかからず、上階に倒れていた少年が見つかる。
 身を起こそうとする少年の視線が周囲を囲むおっぱいに向けられた。
「年頃のオトコノコは仕方ないわねん♪」
 ロスヴィータがむしろ見せつけるようなポーズをとる。
「うう……ここは天国……じゃ、ないみたいだ」
「はぁ!?」
 頭を振りながら、18歳の姿になったミルフィに支えられて彼は立ち上がる。
「お目覚めですか? 危険な場所には行かない方が宜しいですわ♪」
「回復は必要なさそうですね。健全な興味ですけれども危ない事はなしですよ?」
 大きな胸を押し当てられて元気になった場所をちらりと見て、岳が告げる。
「快楽エネルギーがたくさん得られそうね」
「そこそこ可愛いし、揉ませてあげてもいいかしら♪」
 マイアやロスヴィータが小さく言葉を交わした。
(「周りのセクシーな女性方の姿を目と心に焼き付けるといいですよ!」)
 接触テレパスによる助言を受けた少年が途端に挙動不審になった。
「大変だったね。でも、デウスエクスは倒したからもう大丈夫だよ」
 見られるくらいなら気にならないのだろう。静夏が少年を元気づける。
 出口まで送っていくと、少年は礼を述べて去っていった。
「危ないところには近づいたらだめですよ?」
 その背中に声をかけてから、泉はマンションへと振り向いた。
 持ってきたブルースハープで、静かに追悼の曲を奏でる。少年が音を聞きつけたのか、一度だけ振り向いた。
「男性の健全なリビドーがる限り、貴女は永遠に不滅ですよ。大地のゆりかごでどうか安らかに」
 静かに響く調べを聞きながら、もうどこにもいない彼女のために、岳は祈った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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