若気の至りは命を落す

作者:幾夜緋琉

●若気の至りは命を落す
 茨城県はかすみがうら市。
 何処にでもありそうな街角だが……その一角に響き渡る叫び声。
『ち、ちっきしょー……』
 口元から血を流しながら睨みつける若者数人。
 そんな若者達の前には、同じく数人の若者グループがヘヘへ、と笑みを浮かべながら周りを取り囲む。
 そして。
『ったく、その程度で俺達に勝てる、とでも想ったのかぁ? そんなん百年はえーんだよぉ!』
 下卑た笑い声で、相手を挑発するのは、優位な側のリーダー格の男。
 そして。
『く、くっそー……負けてられるかよ。省吾、助けてくれよ!!』
 と叫ぶと……その叫びに応じるかの如く、現れるのは、体に植物のツタを生やしたような、異形の男。
『な……な、なんんだなんだこいつ!!』
 と叫び、逃げようとするが、すぐにその手から伸びた触手が、若者達を次々と捉えていく。
 そして逃げられなくなった彼らを……攻性植物になった男が、次々となぶり殺していくのである。
 
「皆さん、集まりましたね? それでは早速ですが、説明しますね」
 セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へ、早速説明を始める。
「茨城県はかすみがうら市……近年、急激に発展した若者の街ですが、この街に、最近、若者のグループ同士の抗争事件が多発している様なのです」
「その抗争事件が、ただの抗争事件ならば、皆さんケルベロスが関わる必要は無いのですが……その中に、デウスエクスである、攻性植物の果実を体内に受け入れ、異形化したものが居る様なのです」
「デウスエクスがいるとなれば、話は別です。皆さんには、このデウスエクスを倒してきて頂きたいのです」
 そして、セリカは続けて詳細に説明を続ける。
「今回の攻性植物が居るグループは、別の若者グループとの抗争をしています。とはいえ攻性植物が強すぎて、それ以外の若者達は、みんなただの人間なので、脅威になる事は全くありません」
「彼らは、皆さんが攻性植物と戦い始めれば、恐怖に駆られて勝手に逃げて行ってしまう事と想います。なので、攻性植物との戦いに集中してもらえれば大丈夫です」
「攻性植物の彼は、そのツタの手を振り回し、鞭のような攻撃を嗾けてきたり、それを触手の様に使い、手足を拘束してきたりします」
「一体だけではありますが、その動きはトリッキーなので、その動きに惑わされないように注意してくださいね」
 そして、セリカは最後に。
「かすみがうら市の攻性植物。これは鎌倉の戦いとは関わっていないので、状況は大きく動いては居ません。ですが、これを見逃す事は出来ません。どうか皆さんの力を結集し、このデウスエクスを倒してきてください。宜しくお願いします」
 と、微笑み、頭を下げた。


参加者
毒島・漆(雷帝・e01815)
小熊・正(流離ノ銃鍛冶人・e03388)
安岐・孝太郎(デフォームドデフォルト・e09320)
トゥル・リメイン(降り注げ心象・e12316)
鏑木・夕雲(八代目の伝承者・e12952)
五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)
アレク・コーヒニック(無才の仔・e14780)
ガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297)

■リプレイ

●若気の至り?
 茨城県はかすみがうら市。
 見渡す限りでは、どこにでもありそうな、変哲も無い若者の多い町、といった具合。
 しかし……そんな街角では、今日も。
『うるせえんだよ、てめえ!!』
『あぁん? なんだとゴラァ!! もういっぺんいってみろやこらぁ!!』
 ……と、若者グループ達の抗争が、次々と繰り広げられている。
 そんな若者達の荒々しい言葉を聞きながら、ふと、鏑木・夕雲(八代目の伝承者・e12952)が。
「……こういう殴り合いが出来るのも平和な証拠、なんスかね? だいぶ複雑ッスけど」
 とぽつり。
 ……確かに、そんな若者の抗争を見ていると、そんな事を思うのも仕方ない。
 でも、百歩譲って抗争しているだけならまだいい。
 今回、ケルベロス達がやってきたのは、そんな若者の抗争に、攻性植物の果実を体内に受け入れ、異形化してしまった人が居る、という事。
 それにガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297)、毒島・漆(雷帝・e01815)、小熊・正(流離ノ銃鍛冶人・e03388)が。
 「攻性植物っていうけれど、これ、植物じゃないよな……うねうねしてて、オークの触手みたいだ。ついでに、人間でもないように、見える」
「そうですね。まったく……何を思ってデウスエクスなんて物に手を出したんですかね……」
「確かに。そんなバケモノになってまで、力を欲したのか? それとも誰かに無理矢理与えられたのか? ヤツに聞く暇があったら、聞いてみたい所じゃな」
 更にとアレク・コーヒニック(無才の仔・e14780)、安岐・孝太郎(デフォームドデフォルト・e09320)そして五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)も。
「攻性植物になったのって、自分自身の意志なのかな? ケンカしてたみたいだし、多分そうなんだろうな……」
「……全く、頭の軽い餓鬼共めが。その始末をする羽目になるこちらの身にもなれ。寄生された後だし、今となっては屠るだけだが」
「そうね……デウスエクスになった以上、救う道は無さそうだし」
「元人間だからって倒さない理由にはならないよね。ここに居る皆や、他の人達が傷つく前に、何とかしないとね」
「そうですね。仕方有りませんが、全力で撃破する事にしましょうか。チームメイトは誰一人として倒れさせません。それが、今回のオレの役目です」
「うん。心配ないとは思うけど、もし一般人が狙われたら、庇う。獲物はこっちだ。その蔦で捕まえて、殺してみろ……出来るなら、だけど」
 そんな仲間達の言葉に、トゥル・リメイン(降り注げ心象・e12316)が。
「そうですね。若気の至り……はて、何が彼を突き動かすのか、教えて頂きましょう。知りたい、このデウスエクスが何を思い、こんな所業に至ったのかを……ですね」
 くすり、と微笑みを浮かべつつ、灼滅者達はセリカに聞いた場所へと向かうのであった。

●売り言葉買い言葉
 そして、セリカに聞いたケンカの現場へ。
 20代前半位の男子が2グループ、言い争いをしている。
『なんだよおめぇ、その程度で俺達に勝てるとでもおもってたのかよ! へっ、とんだお笑い草だよなぁ!!』
『そうだねぇ、あはははは!!』
『っ、く、くっそぉぉ……!! ま、負けてられるかよ。省吾、省吾、助けてくれよ!!』
 ……ケンカに負けそうになった男が、救いを求める。
 求めた救いの声に……身体に植物の蔦を生やした様な、異形の男が現れる。
 突然現れた異形の姿に、今迄余裕で挑発していた男達は……驚く。
 そして、その手から触手をしゅるるる、と伸ばして相手を捕まえようとした、その瞬間。
「あはっ、あははっ、みいーつけたー!!」
 笑いながら姿を現し……そして、主人と共に現れたサーヴァント、ラキャーがガトリング掃射で割り込む。
 更に正が、素早く奴の前
 続けて湊、奈津美が。
「デウスエクスが出現しました! 皆さん避難を!!」
「これから戦闘を行います! ここからすぐに避難して下さい!」
 と、周りの人達の避難誘導を開始する。
 勿論、デウスエクスとなってしまった攻性植物の男が。
『邪魔……スルナ……!』
 と怒りを孕んだ口調で威嚇してくる。
 しかし、それに怯むことなく、奈津美が周りに居る一般人達の手を握り、さっさとその場から避難させる。
 それは、彼を呼んだ、不良グループに対しても……。
『な、何だよ、放せ、よっ!!』
 と、手を振りほどこうとするが、奈津美は。
「ここにいれば、死ぬだけですよ! 今の省吾さんは、省吾さんではありません!!』
 と、真っ正面から、強い口調で言い放つと……渋々、仲間の不良グループ達も、逃げ帰っていく。
 そんな男達を横目に、アレクはぽつりと。
「……ケンカは、嫌だよねぇ……」
 そして……一般人達を避難させている間に、残るケルベロス達が男を包囲。
 ケルベロス達を睨みつける攻性植物の男……それにアレクは。
「恨まないでね……君が悪いんだよ」
 と意識を切り替え、魔力を充填。
 そして他のケルベロス達も気合いを込める。
「グルルゥ……ガウッ!!」
 と唸り声を上げて、ガルフが接近……組み付いて、スターゲイザーの一撃を叩き込む。
 そして更に、トゥルが降魔真拳を振りかざし、攻撃。
 ……どちらも、軽く当たる程度で、彼にそこまでのダメージは与えられない。
 やはり、そこはデウスエクスとなり、ブーストされた身体能力と、素養があるのかもしれない。
「結構素早い様だな……ならば」
 と、孝太郎はその状況を素早く見極め、ジャマー効果でのバッドステータス付与。
 合わせてスナイパーに立つ夕雲、アレクも。
「人間やめちまった以上、容赦はしないッス!!」
 と、少し悲し気に、でも決意を持って彼を見据えて、シャドウリッパーの一撃を夕雲が叩きこめば、アレクはドラゴニックミラージュ。
 流石にスナイパー両者の攻撃は命中し、一瞬、苦しそうな表情を浮かべる。
 でも、直ぐに。
『グ、ゥウウガアア……!!』
 と叫びながら、ツタの手を振り回しての範囲攻撃。
「させぬ!」
 と、咄嗟に正と、指示を受けた奈津美のウィングキャット、バロンがカバーリング。
 鞭のような攻撃は、中々痛い。
「……チームメイトは、誰一人倒れさせませんよ。それが今回の、俺の役目ですから」
 でも、漆はその一撃に対し、すぐにエレキブーストで回復し、戦線を維持する。
 そして行動が一巡し、次のターン。まだまだ一般人の避難には時間が掛かりそうで。
「これは、足止めを基軸に進めていく方がよさそうだな」
「グルゥ」
 孝太郎の言葉に啼いて頷くガルフ。
 そしてガルフ、トゥルの二人は、足止めをかねて、更に攻性植物の男を攻撃。
「さあ、教えてよ、キミのすべてを!」
 今度はチェーンソー斬りと、振り絞れ表象。
 更に孝太郎は、レゾナンスグリードによる捕縛効果を狙い、夕雲、アレクは絶空斬、猟犬縛鎖、とバッドステータスを更に、大量に付与していく。
 大量のバッドステータス付与に、苦しみの啼き声を上げる攻性植物の男。
 そんな男を見てて、ふとガルフは。
(「……省吾は、自分がこうなる事を解ってて、自分から寄生を受け入れたのかな?」)
 と、ふとした疑問を抱く。
 そして、彼の次のツタの一撃を、たたき落すようにしながら。
「……勝つため? 仲間の為?」
 と、ガルフは問いかける。
 ……しかし、その問いかけに、応えることはない。いや、応えるのは。
『ウグアアアア、グ、アアア……!!』
 と、言葉でない呻き声と、唸り声で反撃をするばかり。
 ……そして、更に3分、4分と経過し、5分後。
「お待たせ、一般人の避難は完了したわ!」
 と一般人の避難誘導をしていた奈津美が合流。
 全員揃ったケルベロス達が、攻性植物の男をぐるりと包囲すると、一歩、後ろに下がる。
「ん、どうしたのかなー? ボク達に恐れを成したのかなー?」
 と、何処か嘲笑うようなトゥルの言葉。傍らのラキャーが、エンジンを蒸かして諫めるものの、余り効いてはいない。
 ……だがしかし、その挑発に、攻性植物の男は乗った様で、ツタを縦横無尽にしならせて攻撃を嗾けていく。
 でも、その攻撃を、旋刃脚の一閃で切り返し、そして。
「消えて無くなってしまう前に、キミの心を、魂を教えて欲しいな?」
 とトゥルがニコリと笑う。
 そして、仲間が全員揃った所で、漆も。
「俺も、少しは行かせてもらいますよ」
 と、達人の一撃を叩き込めば、奈津美もドラゴニックミラージュや、ファミリアシュートを交互に繰り出し、その体力を削る。
 ……勢いと共に、ケルベロス達の総攻撃が、攻性植物を少しずつ、少しずつ追い詰める。
 そして、彼との戦いを始めて、十数ターン。
「さぁ、なーんにもいってくれないならいいや、用事もないし。さっさと、死んじゃえ」
 とトゥルがふふつ、と微笑み、そして指天殺の一閃を、真っ正面から叩き込む。
 その一撃は、彼の体勢を崩す会心の一撃だった様で……その場に膝から崩れ墜ち、動きが鈍る。
 そして、その隙を見逃す事無く。
「グルゥゥ……ガウッ!!』
 どう猛な唸りと共に、ガルフが放った熊狩りの一撃は、攻性植物のツタを引き裂き……そして彼は、絶叫の叫びと共に、消失していった。

●戻れない
「……ふぅ」
 深く息を吐き、汗を拭う正。そして隣の奈津美は。
「バロンもお疲れ様」
 と、頭を撫でる。
 奈津美のスキンシップに、バロンはちょっと嬉しそうにごろにゃんと啼く。
 そんな奈津美とバロンの仲良さに、周りの仲間達も、自然と微笑んでしまう。
「さて……と。先ずは周りの修復をしておかないといけませんね」
 と漆の提案に、そうですね、と奈津美も頷き、そして色々と傷ついたり、壊れたりした所をキュアで治していく。
 一通り治した後は、負傷者が出ていないかを確認し、治療。
 大方治療を終わらせると……また、遠くの方から、ケンカをする声が……。
『なんだてめぇ、やるのかよぉ!!』
『あー、やってやるよ!!』
 ……そんな若者達の声に、夕雲が。
「……こんな世の中ッスから、せめて人間同士の争いがなくなればいいッスね……」
 ぽつりと呟く一言に、周りの仲間達も静かに頷きながら、ケルベロス達は、かすみがうらを後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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