●
黒と白、非対称な菱型模様を纏う女性の周囲に、青い燐光が蝶のような動きをとりながら宙を舞う。
「そう、やはり螺旋の収束が阻まれているのね」
手元に開いた無数のカードを見下ろし、ミス・バタフライは螺旋の仮面の奥から静かな声を絞り出す。一枚、一枚とそれを取り落としながら、最後に残る一枚を投じた。
カードはその手を離れると共に、翻り蝶の如き光となって舞い上がる。
「事象因子の螺旋が乱されない程の流れを作らないと……異分子の生む渦が、大螺旋の収束を散逸させてしまう前に」
焦燥を感じさせる言葉運びだが、その口調に焦りの色は無い。むしろ、その口元は笑みを作り、足取りは穏やかにして苛烈。
「ハイリスクハイリターン、ハイレートオールイン」
口遊む彼女の頬を潮風が撫でた。
「ああ、大嫌い」
唇を潤して言い放つと、果てまで広がる大海を遍く睥睨する青空を見上げた。
道化達は躍りの支度を整え、運命の先を見据えた。
●
北陸から九州へと日本近くの公海を迂回しながら数日航行する経路が張り出されている。
「ミス・バタフライが動きます」
ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)が言い提示したのは、世界を巡る大型客船に日本縦断の間乗船できるというツアーのパンフレットだった。
「デウスエクス襲撃の危険を承知で航行か、それはまた豪胆だな」
そのパンフレットを発行した海外会社に目を通した神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が言う。
「この航路では、日本人のスタッフも多く乗船するようです」とダンドはそのパンフレットのとあるページを開く。
そこには、客船内にあるカジノルームが紹介されていた。日本国内でのカジノ運営、ギャンブルは禁止されている、が、
「これはどうなのか、とお詳しいかと少し意見を聞いたのですが」
「上手い事躱している、といった所だな。これに載っている他にも日本近海で合法に運営を行える工夫をしているのだろう」
でなければ、ここまで堂々と宣布することも無い、とダンドの疑問に晟は言い切る。
「という事は、カジノディーラーに弟子入りか?」
賭け事で運命を捻じ曲げるとでも言うのか、と晟は僅かに思案する。
「はい、弟子入りというよりは、その様子を見て技術を盗み取るという形が正しいですね」
乗船した日本人ディーラーの技術を盗む、それが予測されるミス・バタフライの目的。
「やはりその行動が何を引き起こすのか、明らかではありませんが、ただ言えるのは、全く意味のない行動を取る相手ではない、という事です」
それだけは、確かだとダンドは言う。
「今までの動きから、恐らくミス・バタフライ自身は戦闘能力に長けているわけではないでしょう」
だが、それでもデウスエクスとしての力は一般人の前では抗えぬ脅威でしかない。
「彼女に殺害の意志があるか、それもまた分かりませんが、彼女らにとって有益であるとすればそれを躊躇う事は無いでしょう」
「みすみす見逃す手は無い、という訳だな」
「はい、ですが臨戦態勢のままこの場に居れば、確実に勘付かれてしまうでしょう」
だから、不審に思われないように潜伏している必要がある。
「そして、最も早くミス・バタフライの行動に対応できるこの場の立ち位置は、ディーラーです」
彼女の目的を考えるならばそこに行きつく。当然乗客に扮する事も出来るが、ミス・バタフライから接近を期待できるディーラーという立ち位置と比べると、不審に思われる危険性は高い。
「ミス・バタフライの出現まで一週間あります」
その期間にカジノディーラーとしての技術、知識、そして立ち居振る舞いを身に着けて、ミス・バタフライに近づくのが最善だろう、と彼は説明する。
「技術を餌にすれば、甲板などにおびき出す事も出来るはずです」
そこは海の上。逃げ場の少ないカジノ内での戦闘は出来るだけ避けてほしい、と続ける。
「体を張るのでなく、知略を巡らせる相手。一体で船に乗り込むとも考えにくいな」
晟が、ダンドに告げると、彼は静かに頷く。
「はい、恐らく彼女の他に螺旋忍者が船に潜伏している。私もそう考えています」
その数は不明だが、多くはない。少なく一人、多くて三人といった所だ。戦闘になれば、その相手もしなければいけない。
「戦闘を不得手とするミス・バタフライが護衛として連れているのであれば、純粋な戦闘力であれば護衛の方が上なのかもしれませんが、気を付けてください」
「何もしないという事はないだろうからな」
「はい。そして、ここでミス・バタフライを撃破すれば、今まで多くの人を脅かしていた危機を一つ取り除くことが出来ます」
ダンドは晟に頷いて、激励する。
技術を持つ人々を襲い技術を奪う、というその計画を。
「彼女の言う螺旋の収束、その成就をここで潰えさせましょう」
参加者 | |
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烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420) |
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
シィ・ブラントネール(蒼天に坐すシャファク・e03575) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
泉宮・千里(孤月・e12987) |
天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675) |
●
それは、初めからそこにいたかのようにフロアに足を踏み出した。
客と言うよりもディーラーであるような、しかしディーラーとして見れば派手に過ぎる。白と黒に身を包んだ金の長髪の女性は、ゆっくりと視線を巡らせる様に、赤黒い渦を描く面を動かす。
随分と若く見える少女ともいえる女性が瓢箪状の籠の中でサイコロを転がしている。その正面に座る老夫婦に、3つのサイコロを使うゲームの紹介を行っているようで時折混ざる冗談に彼らは肩を震わせている。
トランプをシャッフルする音が小気味よく耳を掠める。豊満な体を凛と立たせ、慣れた手つきで札を操る女性の前には三人の男女が座り、配られるカードへと目を走らせ多彩な色を瞳に走らせると、腹を張り困ったように自慢げな笑みを浮かべた。
その横を過ぎながら彼女は自らに贈られる視線に笑みを返す。背後を過ぎた人の気配に一瞬思考を絶ち切った女性が、捨てようとしていた札を変える。
それだけで弱い役だった女性の役が逆転する。
それはその結果を見届けることなく、背後から聞こえる声に変化した未来を感じ取った。
「ここ、いいかしら」
と弧を描いた口を綻ばせたのは、赤と黒の円盤とそれに対応した数盤の前だった。
「ええ、どうぞ」
こともなげに取り出したチップを数字の上へと置いたそれは、ディーラーの女性が放った銀の球を眺める。
●
――どこに落とすか、ではなくどこに落とさないか。
ディーラーに扮するレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)は、まずは、と教えられた言葉を声に出さず反芻した。
狙った場所に落とす。それが出来ればそれこそ凄腕ともいえるだろうが、その技術は一朝一夕では当然身につかない。そして、それは必要のない技術だという。
ルーレットをショーとすれば落としてはいけない所はあれど、落とさなければいけない場所はそうそう存在しない。
必要なのは、公平な態度と即興力。レカは数度ゲームを繰り返し、初めから僅かに増えたミス・バタフライのチップを見る。
そして、意味ありげに視線を動かし、かすかに首肯した。その視線の先で一人のディーラーが動いた。
楡金・澄華(氷刃・e01056)は、静かにミス・バタフライに近づいてこう言う。
「サプライズイベントのアシスタントをやってみないか」
「……なぜ私に?」
「結果ではなくディーラーの手元に興味があるように見えてな。それにあなたは中々に人目を引く」
そして、手伝ってもらえるならば、その技術が間近で見れる。彼女の誘い文句にミス・バタフライは少し考えた後、微笑む。
「なるほど、そうね」
彼女らが耳元に口を寄せ、静かに言葉を交わす傍で、次なるゲームが始まった。
ふと、躍る球に目を向けたミス・バタフライは、ベットしなかったチップを示し、レカに微笑みかけた。
「そう、楽しそうね……これを預かっていてもらえる?」
「分かりました。お帰りをお待ちしております」
レカが了承を返すと共に、ミス・バタフライは席を立ち、案内するという澄華の背を追って歩き始めた。
明るく照らされたカジノフロアの直上。眩い日光を跳ね返す甲板で白い服を来たドラゴニアンの男性が木箱を抱え上げながら、周囲の乗客にスペースを開けてもらっていた。
通信機からの声に、頷く。副船長であることを示す肩章に気付いた乗客は一早くその指示に従って何かあるのか、と遠巻きに眺めている。
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は吹く風の潮を感じながら、木箱に向けて小声で何かを呟いてふと顔を上げた。
「そちらはゲストの方でありましょうか?」
と澄華に問い掛けながら、それに近づくのはゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)だ。かれはどこか胡散臭い口調でミス・バタフライを観察する。
「それで、一体私はどうすればいいのかしら?」
ミス・バタフライは荷を退けた甲板の空白へと歩きだした。その足取りに迷いは無く、舞台の真ん中へと躍り出る花形の演者の様にも見えた。
腕を広げ、髪を揺らし、陽の光を浴び風に裾を遊ばせ、振り返る。
その首筋へと刃が走る。
放たれた螺旋手裏剣は、その目がそれを捉える瞬間に空気に解けて立ち消える。ミス・バタフライが動く間もなく、赤い花弁を開くように立ち上る炎が彼女を庇い飛び込んだ人影の体を包み込んだ。
「一勝負と洒落込もうか」
乱入者に驚く様子も無く、不意打ちを放った泉宮・千里(孤月・e12987)が声を投げた。
「命を賭した勝負だ」
「そう、やはり来るのね」
熱持たぬ幻炎に焼かれる配下を一瞥し納得した声を出したミス・バタフライに、船内でカードゲームを行っていたディーラーが、烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)が千里の横に並び立ち問いかけた。
「貴女の目的、背後関係……教えてはくれないかしら?」
「あら、知らないの? そう、それは良い事を聞いたわ」
笑みを深め、振りまいたカードが燐光を放って蝶が舞い踊る。淡い光は、炎に巻かれた螺旋忍者と現れたもう一体の螺旋忍者に吸い込まれていった。
「残念ですわね」
華檻は呟くとディーラー服を脱ぎ去り、水着のような装いになった。豊かな乳房が跳ね、腰には鎧装が展開する。
彼女が動くと同時に、ケルベロス達は弾けるように動き出した。
●
炎を纏っていた螺旋忍者へと薙ぐのは黒の鎖。ピエロのような衣装から風纏う針を抜き放ちそれを弾き飛ばす。
「――ッ」
澄華が妖刀の黒を纏う鎖を、弾かれた勢いを利用するように円を描かせた。そのままであれば同様に弾いたであろう螺旋忍者へと青い体が衝突し、体勢を崩した螺旋忍者へと鎖の重い一撃がめり込んだ。
「レトラ!」
と純白の天使の如き翼をもつオラトリア、シィ・ブラントネール(蒼天に坐すシャファク・e03575)が彼のサーヴァントの名を呼んだ。
見れば、晟の運んでいた木箱の蓋が外れ、白と青、白と黒のシャーマンズゴーストが飛び出してきていた。
二体のうち、白と黒、名を呼ばれたレトラが木箱の縁から螺旋忍者へと跳んだ。帽子を飛ばさぬよう押さえながら着地した瞬間にその手の先が揺らぐ。
非物質化した爪が澄華の攻撃に弾かれた螺旋忍者を裂く、と同時に数発の弾丸がその体を穿った。
オラトリアの力を込めた弾丸を放った二丁拳銃を遊ばせながらシィに、もう一体の螺旋忍者が氷結を纏わせた貫手を突き出す。が、それはもう一体のシャーマンズゴーストによって阻まれた。
雪氷を思わせるシャーマンズゴーストの体を貫いた螺旋忍者へと流星の輝きが走る。
それは、カジノで老夫婦にゲームを教えていたディーラー、天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)だった。
「大丈夫、シィさん?」
「ええ、助かったわ、シュウ」
シャーマンズゴースト、シラユキの主である彼女はシラユキの頭を撫でると、視線を周囲に向ける。
影分身を生み出した螺旋忍者へと華檻が駆けた。
「その程度では惑わされませんわ」
増えた標的に怯むことなく、彼女はその一体へと突貫する。華檻の鎧装の高速演算によって、本体、構造的弱点を特定していた。猛烈な勢いで螺旋忍者の腹部へと叩き込まれたバトルガントレットの拳は、その体を宙へと舞い飛ばした。
道化の螺旋忍者は、弾丸のように甲板の上を飛び、ブラックスライムの広げていた咢の中へと突っ込んだ。
「大当たり」
ゼフトがその横で呟く。追撃の為に展開していたブラックスライムの中に飛び込んできた螺旋忍者に、思わず失笑しながらもゼフトはその黒の中で踠く螺旋忍者を押し潰した。
●
黒陽の光が、ミス・バタフライの手から離れた燐蝶をかき消す。
「酷いのね、帰りを待っていてくれるのではなかったの?」
レカにミス・バタフライは零す。
「騙してごめんなさい。でも、……貴女は危険です、だから――」
「せいっらぁ!」
レカの言葉の最中に、晟の裂帛が響いた。不意を打つように飛び込んできた残る螺旋忍者が彼女へと苦無を投げ放っていたのだ。
それを虹を纏わせた蹴りで打ち払った晟は、レカの傍に着地するや否や、腕に突き刺さった苦無をものともせず、螺旋忍者へと迫る。槍に纏う蒼雷が軌跡を描き、その先で螺旋忍者の体を貫いていた。
「他のお客様のご迷惑となる方にはご退場頂きたいが」
と晟が螺旋忍者を突き離しながらミス・バタフライに告げる。
「逃がす訳にもいかないのでな」
「怖いことを言うのね」
放言するその口ぶりはしかし、逃げようとしているようには聞こえない。
澄華はその態度に気味の悪さを感じながらも、螺旋忍者へと追撃する。黒の妖刀を振るい、作戦通り、甲板の中心へと残る二体を押し込めるように包囲できるよう、螺旋忍者をミス・バタフライの近くへと切り飛ばす。
忍者、としてその親玉が表舞台に上がる事の重要さは認識しているつもりだ。澄華が逃げようともしないミス・バタフライに警戒を強める。
そのミス・バタフライの体が瞬時に凍り付いた。
「企みは知らねえが、此処で終いだ」
千里が氷結の螺旋を放ったのだ。甲板に既に人影はない、乗客は全て船内に避難した。
「攻撃は弱いな」と千里は呟く。先だって彼はミス・バタフライから蝶の羽による飛刃を受け、シラユキから与えられた祈りの力を剥ぎ取られはしたが、その威力自体は大したものでは無かった。それを周囲にも共有する。
「やっぱ戦闘を不得手てのは違いねえって」
事だ、と続けようとした瞬間に、ミス・バタフライの笑みが深まったのを千里は見た。
それに考えを巡らせる前に、螺旋忍者が動く。
鎌を構えた螺旋忍者が、目にも止まらぬ速さでそれを投げ放つ。直後にその頭蓋は、焼け焦げた弾痕を浮かべ、爆ぜ飛んでいた。
「アナタの罪業、撃ち抜いたわ」
シィが放ったそれは紛れもなく光速の弾丸だった。引鉄を引いたのは、螺旋忍者の行動よりも後だが、晟の与えていた加護の力も相乗し、時間差を埋めてシィの弾丸が螺旋忍者を貫いていた。倒れた体が振るった鎌は胡乱な方向へと消えた。
●
残るは、ミス・バタフライ一人。
「さあ、……楽しみましょう?」
華檻が、蠱惑的に唇を濡らし、ミス・バタフライへと近づく。
周囲を包囲された上にこうして近寄ってみれば、例え考えずとも理解できた。ミス・バタフライは戦闘行動そのものが苦手だと。
その四肢はすらりと伸び、笑みを浮かべる顎は流麗な曲線を描いている。
言いしれない縁を感じていた相手を追い詰めている、その嗜虐心が彼女の心臓を僅かに高鳴らせていた。
ミス・バタフライが現れると知り高揚し、その姿を見て心が躍った。
ああ、やはり、魅力的な方だ。と僅かに追った視線に笑みが返されて喉奥が震えた。
離れようとしたミス・バタフライを阻み、華檻はその大胆に開いた双房の間へとミス・バタフライの頭を誘い、その上から抱え込むように腕を組む。
感じ取っているだろうその香りは、ミス・バタフライが望んだ技術によって作り出された香りだ。上品な甘い花の香りが、華檻自身のラブフェロモンと溶け合い、引き立てている。
首の捻じり砕ける音が響いた。鈍い衝撃と僅かに湿った破砕音が胸を伝う。跳ねるように痙攣する振動が鼓動と重なる快感に喉を鳴らし。
「――っ!」
同時に華檻は、鋭い痛みを感じて飛びずさった。見れば、腹部に淡い光を放つ蝶の羽が突き立っていた。
ミス・バタフライは背中側にぶら下がった捻じれた首から笑いを上げた。
「空に目を持つのは貴方達ではない、そう、そう言う事ね」
見えてもいないだろう腕でカードを巧みに操り、燐光を放つ。
「最期に理解できたわ」
レカが妖精弓から魔法の矢を放ちカードを操る腕を打ち抜くと、ゼフトの御業が炎球を作り出す。
カードが地面へと散らばるが、それを拾おうともしない。
「ギャンブラーならばリスクを楽しめるようにならきゃな。心に遊びがない奴はゲームも戦いも上手くいかんぞ?」
ゼフトの言葉に、ミス・バタフライは空を仰いだまま返す。
「嫌よ」
直後、業火に包まれたミス・バタフライの体を、千里が叩き込んだオーラを纏う高速の拳が、火炎の衣ごと強烈な勢いで吹き飛ばした。
●
千里が煙管を吹かして、椅子に座り気だるげにしている。太陽は傾き始め、空の端が僅かに赤みがかっていくのを見つめていた。
「ぐぁー」と晟が伸びをする。事前準備、そして戦闘においても裏方の役目を果たしていた彼は、副船長の制服を脱いでいた。地球人用の制服は、尻尾や翼を出していては着れず、サイズも相まって窮屈だったのだ。
周囲の修復などを済ませ、乗客たちが甲板に上がって来たことを確認すると彼は、自由になった尾を楽し気に揺らしながら操舵室へと向かった。
「どどーんと賭けるわよ!」
「おお、いいねえ。俺も勝ち分全部だ」
カジノではシィがチップの束を一つのマスに積み上げていた。その横でゼフトが楽しそうに笑って、同様にチップを重ねていた。
「……これでいいか」
澄華は、複数にチップを分散し、手堅く手持ちを増やしている。大当たりも大外れもするシィと被らないようにしているのは、作戦か、性格の表れか。
「やっぱ、プレイヤーの方が性に合ってんな」とゼフトは修行の中でも感じた事をしみじみと改めて感じていた。ディーラーでは、この楽しみはない、と彼は一人ごちる。
数秒後、シィの悲鳴が上がる事になるが、それを知る者はここにはもういない。
「結局、答えは頂けなかったですわね……」と華檻がため息を吐いた。その手には、ミス・バタフライの手にしていたカードの一枚があった。
蝶に変化する前のカードはその一枚のみ。華檻は蒼い蝶の描かれた繊細なエースの柄を眺める。
しかし、と彼女の言葉を聞いたレカが言う。
「最期に、何かを得たような言いようでしたが……彼女達が真に得た物とは何なのでしょう」
「あの……」と彼女たちに声をかける人がいた。
振り返ればそれは、仲間達ではない。だが、知らない顔でも無かった。
「ああ、いたいた」
同様に、周に話しかける声があった。
「カジノに居ないと思ったら甲板にいたんだね」とカジノで出会った老夫婦がそこにいた。十八歳未満であった周は囮の為に特別に入場していたのだ。その事情を知らない彼らはカジノで彼女の姿を探していたらしい。
「ありがとう、楽しい時間が過ごせたよ」
唐突に投げかけられた感謝を数拍置いて理解した周は、頬を綻ばせた。
作者:雨屋鳥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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