おいでませ竜宮喫茶

作者:志羽

●おいでませ竜宮喫茶
「……やっぱり、この水槽かしら」
 店内の壁面。そこに張り巡らされる大きな水槽では魚たちが涼しげに泳いでいる。
 しかし、この店の持ち味たるそれを維持するには莫大な経費がかかった。
 が、最初の頃は客も来ていた。しかしだんだんと客足が途絶え今は誰も訪れない。
 女は大きくため息をついて、赤字の帳簿を閉じた。
 確かに、この店の水槽の維持費は金がかかった。だがそれは客が来れば補えるもの。
 しかし、客が来ない原因は立地でもなんでもなくこの店の入店条件だった。
 水着で入る事。
 更衣室もあり、水着が無ければお安い水着も売っている。
 最初の内は面白がって客も来ていたが、なぜわざわざ水着にならないといけないのか――それにより客足は途絶えたのだ。
「うう……もうちょっと水槽を小さくすればよかっ……え?」
 とすり、と。
 胸を貫く何かに女は気付いた。
 それは一本の鍵。その持ち主は第十の魔女・ゲリュオンだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 女は倒れる。
 するとその横に顔はモザイクに覆われた竜宮城の主、乙姫のようなドリームイータ―が立っていた。
●予知
「竜宮城みたいな喫茶店なら、行ってみたいと思うんだけどね」
 アトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)の言葉に、私も行ってみたいと声を上げたのはザザ・コドラ(鴇色・en0050)だ。
「うん、俺も普通のお店ならそう思うんだけど……」
 と、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)が言うとアトリは普通? と首を傾げた。
「このお店、水着入店がお決まりで」
「それは……」
「普通じゃないわね……」
 客足が途絶えてしまいそうな理由だとアトリは苦笑して、その店にドリームイータ―がいるんだねと続けた。
 店を持つという夢を叶えたのに、店が潰れてしまう。その後悔をドリームイータ―に襲われ、その『後悔』を奪われてしまう事件。
「その『後悔』を奪ったドリームイータ―はもういないけど、奪われた『後悔』を元にして具現化したドリームイータ―はそのままそこにいるんだ」
 だからそのドリームイータ―による被害が出る前に撃破してきてほしいとイチは言う。このドリームイータ―を倒せば、『後悔』を奪われてしまった人も目を覚ますからと。
 事件が起こっている店は海底の、竜宮城を模したような店内。壁面は全て巨大な水槽があり、水中にいるような雰囲気だと言う。
 入口には更衣室スペース。着替え終わって店内に入ると、壁面は水槽。
 そこで気持ちよさそうに泳ぐ魚達。
 テーブルは貝殻を模していて、ソファは見た目は岩のようだがすわり心地は抜群のふかふか。
 ところどころにヒトデや貝殻のモチーフが散りばめられているのだとか。
 そして、喫茶メニューは海の幸パスタやサンドイッチ。それから可愛らしく盛り付けされた海色パフェなどがあると言う。
 店内を見るのも楽しみ、とザザは言ってそうそうとイチに確認する。
「お店にいくと、店長ドリームイータ―がおもてなししてくれるのよね? それで満足すると」
「うん、戦闘力が落ちるし、満足させて倒すと、被害者も前向きな気持ちになれるみたい」
 どうするのかは皆にお任せするよとイチは言う。
 アトリの足元でどうするのかというようにキヌサヤが一声鳴く。
 アトリはその一声に笑み向けて、水着を忘れないようにしないとねと集ったケルベロス達へ告げた。


参加者
ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)
アトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
美津羽・光流(水妖・e29827)

■リプレイ

●入口で
「――……室内なのに水着ねぇ。面白い、が、確かに一般受けはしなそうだよな」
 そう苦笑している疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)へそうやねと春次も頷く。
 しかし店へと向かうその足取りはどこか浮かれ気分。
 朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)はあっちだよと示す。
 なんで水着と思っていた蒼は店を見て納得し。
「そこまでガキじゃねーよー」
 蒼は結へむすーっとした顔向けて更衣室へ。
 子供も大きくなると機会も無くなるので水着なんて久しぶりですよと西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)は言う。
「見てくださいよ、この中年腹」
 笑いながら、それではと足を踏み入れた先は海底。
 幾重にも重なった白い裾を翻し、泡沫の姫のような四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は髪には貝殻のアクセサリーをと人魚姫のよう。
 一緒にやってきた吹雪は白と青を基調としたビキニでシースルーのパレオを腰に。
 赤い、アフリカンな柄のサーフパンツをはいた美津羽・光流(水妖・e29827)はウォーレンと。
 ウォーレンは去年のスポーティなスパッツ風競泳水着。どう、と問えば水着についてノーコメントやと視線を逸らす。
 自分が水着なのは恥ずかしくないがウォーレンをまともに見られず。綺麗だと言えず、顔は真っ赤で俯くしかない。
 それを水着になったのが恥ずかしいのかとウォーレンは思い。
「カッコイイから自信持ってね」
 そう言って余計赤くなる光流。
 ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)が動けばひらりとパレオが揺れる。赤から薄い黄色へ変わるそれはひらひらとまるで人魚のように揺れていた。
 水着姿は少し恥ずかしいけれど、本当の人魚みたいでしょうとはしゃぎ、くるりと回る姿にアレクセイも笑み零す。アレクセイもロゼと似た色で、花魁金魚をモチーフとしたものを。
 黒いビキニを着て、耳はぴこりと、尻尾は楽し気に揺れているのはエルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)だ。
 一緒にきたヒノトは新調したての水着で。
 薄色のパレオに花飾り。一枚肩に羽織ったアトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)は髪を結い上げ、イブと一緒に。
 イブは紫色を基調とした水着。それはついこの前の大運動会で理力族女子部門1位をとった思い出の装い。
 水着纏って準備万端、いらっしゃいませ、竜宮喫茶へ!

●ようこそ竜宮喫茶へ
「水着着用必須……というのは変わっているけれど…結構雰囲気出ていていい感じのお店だね……」
 海底の様相。その中にいる不思議に千里は声零し吹雪と一緒にメニューを開く。
「色々あるから……何を頼むか迷ってしまうね……」
 どれにしようかと視線はさまよってやがて。
「メニューも豊富ですね。千里さんは何を頼んでみますか?」
「私はイカスミのパスタとフルーツたっぷりのハワイアンパンケーキにノンアルコールのブルー・ハワイを注文しよう……」
「私はペスカトーレとノンアルコールのマリンスノーと海色パフェにしますか」
 注文して、料理を待ちつつ色々な話。
「水槽の魚達と一緒に泳げたら楽しそうだね……」
 と、店の話から始まり。料理がくると、吹雪の飴細工を見て千里も同じものを追加でお願いする。
「初めて依頼で一緒になった時も……こうして一緒に食事したね……」
 あの時はバイキングだったけれどとその時のことを千里は思い出して。
「ソフトクリームにチョコレートかけたりして……楽しかったね……」
 料理を食べながら二人で思い出話をする時間は過ぎていくのも早い。
 光流は水の底みたいやなと瞳細める。
「俺には懐かしい光景や」
 と、注文の品がきて。
 光流の所にはお魚バーガーと塩ジェラート。付け合せは海藻サラダ。
「……美味い!」
「海色パフェ美味しいー」
「少しもろとこ」
 と、ウォーレンのパフェを一口。
 良いよとウォーレンは笑って代わりにサラダを少しもらっていく。
「岩なのにふかふかのソファー!」
 ぱふっと座ってエルピスは傍にあるクッションを抱える。
「すげえ! ふかふかの岩…!」
「ヒトデや貝もいるのね。本当に水のなかにいるみたいなの」
「魚達も気持ちよさそうだ。へへっ、海中で食事なんて夢みたいだぜ」
「ヒノトは何を食べるの?」
「色々気になるけど俺は竜宮セットにするか」
 注文決めて、二人の目の前には今、それが。
「海のなかでごはんを食べるってとっても贅沢! 海に潜ると息を止めなきゃいけないけど、ここでは止めなくて良いもんね」
 わぁ、と声をあげるエルピスに知ってるか、と悪戯するようにヒノトは言う。
「この箱を開けると一気に大人になるんだぞ」
 と、示したのは海色ゼリーの横にある玉手箱。その蓋あけると出てきたのは白身魚の冷製パスタ。
「まー冗談だけど! へへへ!」
 笑いあって、美味しいと舌鼓。
「海の幸パスタの貝や魚は今捕まえて来たのかなあ?」
 ふふふのふーとエルピスは零し、この部屋のどこかに漁師さんがいるかもなのと笑む。
「こっちの海色のパフェもとっても綺麗!」
 食べるのが勿体無いねと言いながらエルピスはヒノトの皿にこっそり貝を。
「あれ、この貝いつの間に?」
「ふふふのふー、貝をあげるからパフェのさくらんぼ、ほしいなあ」
 交換っこしようなのよと笑うエルピス。
「もちろん乗った!」
 交換成立とさくらんぼをエルピスのパフェに。
 と、そこにヒノトがこっそり頼んでいた貝殻型クッキーが。
「俺の奢りだ、半分ずつ食べようぜ。競争はまた今度にして」
 その言葉にエルピスはうんと頷く。
「いつもは競争しているけど今日は競争なしなのよ! ご飯を一杯楽しむの」
 今日は楽しむのが一番だから。
 本当に海の中に居る様で、ロゼは常磐の瞳を瞬かせ頬を薔薇色に染める。
「竜宮城、一度行ってみたかったので夢が叶ったようで嬉しくなっちゃいます!」
 楽しげな表情をロゼは浮かべつつもその心にはしっかりと己の為すべきことを抱えている。
 大切な、素敵な夢。悪夢になんてさせませんと。
 そんな様子にアレクセイは笑って、歌ってみたい? と問う。
 その問いにロゼは小さく微笑んで、ええと頷いていた。
「ね、アレクセイ! 何を頂きましょう」
 メニューを開いてロゼはどれにしようかと視線さまよわせ。
「アイス、ケーキ……これにします。抹茶の和風ティラミス」 ロゼが選んだティラミスは、一番上の抹茶パウダーが泳ぐ魚を模しているもの。
「はい、あーん!」
 その差し出された一口が嬉しくて、照れながらアレクセイは応える。
「アレくんのも頂戴っ」
 ロゼからのおねだりにアレクセイも竜宮パフェからひとすくい。
「ほら、ロゼもどうぞ」
 笑み浮かべ、差し出す。その仕草にドキドキしながらロゼは貰う。
「ほぉ、これは正に海神の宮だな」
 壁面の水槽。そこで泳ぐ魚達。海底を模した椅子やテーブルといったものにヒコは感心する。
「陸ながら水中の中の心地と云うのは不思議なモンだ」
 ソファは硬そうに見えてふかふかですわり心地。
 メニュー開けば多彩で決めるのに迷ってしまう。
「よし、俺は海色パフェにしようかね」
 春次は? と問えば俺は海の幸パスタと。
 そしていつもの様にシェアの流れ。
 注文して届いたのはパスタとパフェ。
 ヒコのパフェは海色。高さの低い、平たい器に白いアイスが波打ち際を作り、砂糖のヒトデ。真珠のチョコ。
「折角の竜宮城やし海の物食べなね……って、んんっ」
 思いのほか可愛らしいパフェ。そしてそれを前にするヒコ。
 その相対する画が面白可愛くて春次は変に咳払いをする。
 そこへ差し出されるひとすくい。
「春次にゃこの海星をやろう。交換」
 海色のパフェ。その純白のアイスに砂糖のヒトデを乗せてほらと眼前にヒコが差出したのだ。
「嬉しそうやね、一人占めしてもえぇのに」
 そう言っても折角だからとぱくり。
「独り占めしちゃ楽しくないだろ」
 口に広がる甘さ。この後パスタを食べることを思うとこの甘さなかなか、と春次は思う。
 食べ合わせは考えてはいけない。
 それになにより、ヒコが楽しそうだ。水を差したらイケナイと思いつつ、春次もトマトソースのパスタをお返しに。
 しかし、一緒にというのが何よりも旨くなるスパイス。
 ヒコは頬張ったパスタにも美味いと声を上げてもう一口と言う。
 そう言えるのは、相手は春次だからこそだ。
 その頬膨らませ満足そうな笑みに春次の頬も緩み、もう一口フォークに巻いて口元へ。
「一口でも二口でも、沢山食べてえぇよ」
「サンドイッチも頼めば良かったな。今から追加……いけるか?」
 店主を呼んで追加の一声。
 それと共にヒコは紡ぐ。
「こんだけ海に凝って旨いってのは好い店だな、店主」
 その言葉に、そうやねと柔い声色で春次も返す。
 そう、店主はドリームイータ―。けれど美味しいのは本当だ。
 壁面側へ座ればすぐそばに泳ぐ魚達。
 アトリは目の前の、今一緒にいるイブへと笑いかける。
「イブさんと一緒に食事が出来るなんて、嬉しいよ」
「僕こそ。誘ってくれて嬉しかった」
「今年の水着も素敵だよね、見惚れてしまいそう」
 その言葉に褒めてくれてありがとうとイブは笑み、二人で色々な話を。
「……そうだ。お食事、何を頼んだの?」
 折角だし、とアトリが頼んだのは海色パフェ。
「以前、依頼の折に頂いたパフェの彩りが忘れられなくてね」
「僕が頼んだのは貝殻のパルフェ」
 楽しみと話しているところにそのパフェが。
 それぞれまず一口。美味しいと笑みあう。
「ほんのり塩味のバニラアイスが美味しいよ」
 折角だしひと口味見してみる? とアトリは言うと。
「! ……いいの? じゃあお言葉に甘えて、一口頂こうかな」
 良かったらアトリちゃんもどうぞとイブはパフェを寄せる。
「分けっこ、女の子同士の特権だね?」
 イブはふふと笑い零す。アトリは頷きながら少し気恥ずかしげに一口。
「美味しいデザートがもっと美味しく感じちゃうや」
 イブがそう感じるのは、この場所で、そして目の前にアトリがいるから。
 アトリもイブに笑いかける。
「……水着のまま楽しむのも、涼しげで悪くないね。潰れるのは聊か勿体無く感じるよ」
 もう少しすれば戦いになるこの場所は、今はそれが想像できぬほど穏やかで楽しい場所だった。
 そんな皆の様子を目に、正夫はしかしと呟く。
「しかしこれ見ようによっては水着でおねーちゃんと遊ぶ店的な感じで娘が見たらなんと言うか……いや待て逆にチャンスか?」
 ふむ、と正夫は少し考えてそうだとひとつ思いつく。
 それはこの、皆と遊んでいる様子を娘のSNSに上げるということ。
「朝までお説教は確定……あらやだ完璧じゃないですか」
「そ、それは完璧なの?」
 そう問うザザ・コドラ(鴇色・en0050)に正夫は頷いて。
「いやね最近思うんですよ、娘に構ってもらえたらこの際何でも良いかなって」
 そう言って正夫は皆と写真を撮り満足気。
「それにしても、ブルーな環境って俗世感無いし緩んで良いですよね」
 そしてお酒は? と言うけれどそれはダメと言われ。
「え? ダメ? ですよね~この後やる事ありますもんね」
 それならまったりしますわとソファにゆったりと腰掛ける。
「注文、何にしようね? 気になるのあった?」
 尋ねながら結はパスタやサンドイッチを選ぶ。
「注文は、んっと……ん~……悩むけど、全部は食いきれねぇもんなぁ」
 そしてサンドイッチとパフェで! と決める。
「これくらいなら、食べきれなくてもハコとジィジが食べてくれるはず……たぶん」
「あ、そうだ……! 勿論、あれも忘れちゃ駄目だよね? 海色パフェ!」
 一緒の席に座ったザザは悩みながら海のドリアを。
 そして注文したものが目の前に来ればぱぁっと笑顔零れる。
「はい! ハコにもお裾分けね?」
 結はハコの口許にサンドイッチを。嬉しそうに食べているのを見てふと顔をあげる。
「それにしても……本当に水槽が大きくて素敵!」
 それに蒼もそうだなぁと頷いて、任せておけと言う。戦いになったら、水槽もしっかり守っておくんだぜと。

●竜宮店主は満足して
 喫茶での時間を楽しんで、これからは戦いの一間。
 戦う意志を見せると店主も邪魔されてなるものかと思ったのかそれに応じる。
 それではと先手を切ったのは正夫。
 拳に乗せた降魔の一撃。深く入る一撃に手ごたえを感じる。
 それに抗うように向けられた攻撃はずいぶん軽く、正夫はなるほどと思う。
「満足した恩恵ですかね」
 満足したことにより店主の攻撃の威力は格段と落ちていた。
 水槽を壊してしまわないよう、陣取ったのは店の中央。
 千里は身軽に踏み込んで達人の域まで高めた一撃を放った。吹雪も息を合わせ攻撃を共に重ねていた。
 アトリは日本刀を抜き放つ。刃の中腹が折れたそれに自身の影纏わせ黒き一振りで月の軌跡を描く。
 その傍ら、キヌサヤは羽ばたいて、皆に清浄の翼の恩恵を。
 戦いとなり、ハコは一鳴きして結に属性インストールを。
 結はありがとうと視線で伝え、前衛の皆の足元へ、ケルベロスチェインを走らせる。それで描いた魔法陣は守りの力を引き上げる。
 その攻撃に続けてヒコも客を向ける。
 一撃の衝撃。確実にダメージは敵に募っていく。
 さらにエルピスが電光石火の蹴りを放つ。その衝撃で店主の身は痺れ動きは鈍くなる。
「西の果て、サイハテの海に逆巻く波よ。訪れて打て。此は現世と常世を分かつ汀なり」
 光流は胸の前で波を描いて空間切り裂き、荒れ狂う波が敵を打ち据える。
「夢から覚める時間です。私と一曲、歌いませんか?」
 誘うように笑んで、ロゼはひらりとその脚を振り上げる。 続けてテレビウムのヘメラも店主へと攻撃を。
「こいつはちょっと痛いですよ?」
 正夫は踏み込み、硬く作り上げた貫手を向ける。
 只々鍛え上げ大木を穿つほどの一撃は店主からぐぇっと変な声を零させる威力。
「逃がさないのよ!」
 攻撃重視に動くエルピスはその手を緩めない。
 地を滑るように走り、その摩擦の熱を乗せた足で一閃。
 揺らめく炎が店主の身の上で踊る。しかし店主も攻撃の手は緩めない。
 攻撃受けた仲間へ結は気力を溜めて向け、その間にハコが動く。
「水槽には注意してね!」
 結の言葉に頷いてハコはブレスを吐く。
「楽しませてもろたさかい、なるたけ楽に逝かせたるで」
 螺旋手裏剣を放つ光流。螺旋力を帯びた手裏剣は店主の身を穿つ。
「生を啜られゆく感覚、じっくりと味わいなよ」
 仄暗き影の弾丸をアトリは生み出す。それを向けるのは店主にだ。
 放たれた弾丸は着弾すると同時に即座に融解し、そこよりその身を、影を広げて浸食してゆく。
 ここがもし本当に海の底だったならこれは海流かとヒコは笑い。
「東風ふかば にほひをこせよ 梅の花――……忘れるな、この一撃」
 双翼で起こした辻風と共に飛び蹴る一撃。綻んだ梅花舞い甘い香りが擽ってゆく。
 そこへ続けて。
「気づいたときにはもう遅い……さよなら」
 弓を引き絞るように引いた刀からの、鋭い突き。
 しかし千里が繰り出したのは単純な刺突ではなく、その刀身から重力エネルギーの塊を相手の体内に流し込み中で爆ぜることを本質としていた。
「夢の様な一時でした。楽しい時間をありがとう!」
 でもそれも、もう終わりなのとロゼは言ってその指先を敵へ向け。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌ーーあなたに終焉を」
 一族に伝わる時空の伝承の詩、その一節をロゼは歌う。すると光纏う終焉の大鎌が現れノルニルの紡ぎし運命の糸を断ち切るがごとく、一閃が店主へと振り下ろされた。
 その一撃で消えていく店主。店には静けさが戻るのだった。

●夢の終わり
 目覚めた女性に説明をし、正夫は声をかける。
「素敵な内装だし、イベント日設けるとか」
 うんうんと頷いて結はそれにと続ける。
「割引特典つけるとか……そういうのもありじゃないかなぁ? 水着必須じゃなければ、きっと流行ると思うんだよ!」
 大丈夫だよと結は力強く紡いだ。
「やり様によっては当たる店だと思いますよ、私」
 ただ海に行かずに海の雰囲気を味わうってなら水着よりも心象に訴える物の方が大事かなと思うんですよと続け、正解はわかりませんがと続ける。
「水族館とか、後はインスタレーションとかそういうもののコンセプトについての本を読んでみるとかどうでしょうね?」
 そういった所で正夫の所に届くメール。
 それを見て微笑みが零れる。
「あ、写真上げたら娘から『死にたいらしいな、ちょっと面貸せ』ってメールが来たので私、帰りますね」
 それではあとはと託してそそと。
 正夫を見送って、千里も声をかける。
「素敵な雰囲気で料理も美味しかった……年中水着必須というのは厳しいだろうから……期間限定のイベントにするとかだとどうだろう……」
 そんな風に、やり方はいっぱいあるのだと小さく微笑んで。
 満足は、店主も弱体化していたからしてくれていたのだろう。けれどそれと彼女に向ける言葉は別だ。
「綺麗な所だからまた頑張ってほしいの。ワタシは応援するのよ!」
 アトリは楽しい時間を過ごせて良かったよと、声をかける。
「またお店を開いた時は必ず駆けつけるよ。お友達を誘って、ね」
 約束するよと向ける笑顔。
 店主はアトリの言葉に瞬いて、いつかまたその日が来ればと柔らかな笑みを浮かべた。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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