興味を騙る夢カッパ

作者:飛翔優

●カッパを探して
 大地を踏みしめ河原を歩き、草木をかき分け上流へ。
 眩い太陽に見守られ、小学三年生の少年・ミナトは水底まで見通すことができる程に綺麗な渓流を遡っていく。
「今年の自由研究はこれに決まり! って思ってたけど、やっぱり中々いないなー」
 片手で抱いているノートには、ぶっといインクでカッパの文字。
「色々と面白い事もあったんだけどな―、やっぱりカッパにも会いたいよなー。おーい、どこかにいるなら出ておいでー、美味しいきゅうりも持ってきたぞー。だから尻子玉取って殺さないでおくれよー」
 慣れた足取りで斜面を歩き、時には飛び石を踏んで反対側の河原へと移動する。時には立ち止まり、川の中をじっと眺めてみたりした。
「うーん、やっぱりいない……あ、お魚。あれななんて魚だろう……?」
 帰ってから調べようと携帯端末を取り出した時、背後に何かの気配を感じて振り向いた。
 視線の先、一人の女性が佇んでいて……。
「お姉さん、そんなところで何を……」
 ミナトの言葉を無視し、女性が近づいてきた。
 後ずさる間も速さで、女性はミナトの胸に一本の鍵を突き刺していく。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 女性が鍵を引き抜くと共に、ミナトは倒れた。
 代わりに、甲羅を背負っていて、手足に水かきを持つ緑色の人型。いわゆるカッパと呼ばれるだろう存在が出現した。
 もっとも、頭の頂点。お皿が乗っているだろう場所はモザイクに覆われていて……そのカッパが、ドリームイーターであることを示していた。

●ドリームイーター討伐作戦
「ほう、そんな者があらわれたのであるか」
「はい! なので……っと」
 ン・グァ(蛇神の巫女にして蛇神の奉仕者・e27936)と会話していた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「不思議な物事に強い興味をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われて興味を奪われてしまう……そんな事件が起きてしまったみたいなんです!」
 今回の被害者は、小学三年生の少年・ミナト。
 自由研究のため山の渓流で、尻子玉を抜き取り命を奪うというカッパを探していた。その時にドリームイーターと遭遇し、興味を奪われてしまったのだ。
「興味を奪ったドリームイーターは、既に姿を消してしまっています。しかし、奪われた興味を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているみたいなんです」
 そのため、この興味を元にしたドリームイーターによる被害が出る前に、撃破する必要がある。
 この興味を元にしたドリームイーターを倒すことができれば、興味を奪われてしまったミナトも目を覚ましてくれることだろう。
 続いて……と、ねむは地図を取り出した。
「ドリームイーターはこの山の中。この辺りから街へ流れていく渓流を中心に行動しているみたいです。また、自分のことを信じていたり噂している人がいるとその人の方に引き寄せられる性質もあるみたいなので、この辺りを中心にカッパの噂話をしながら探索すれば、向こうから近寄ってくるかなと思います」
 また、このドリームイーターは人間を見つけると、自分が何物であるかを問うような行動を取ってくる。正しく答えることができれば見逃され、逆に間違った答えを返したり返答しなかったりすると殺してしまうようだ。
「その辺りも考えて、作戦を立てると良いと思います! 最後に、戦闘能力について説明しますね」
 姿は前述したとおり、カッパ。甲羅を背負い手足に水かきを持つ緑色の人型。本来ならお皿が乗っている部分がモザイクに覆われているのが特徴。
 戦いにおいては、怪力を用いた攻めの一辺倒。また、グラビティはどれも威力が高い。
 四股を踏む事で小規模な地震を起こし、前衛陣の動きを止める。甲羅を軸にした体当たりで加護を砕く。連続張り手……といったグラビティを用いてくる。
「これで説明は終わりになります!」
 ねむは資料をまとめ、締めくくった。
「本当にいたら楽しいかもしれない存在も、ドリームイーターなら話は別! どうか、ミナトくんが無事に目を覚ますことができるように、全力での戦いをお願いします!」


参加者
伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)
城間星・橙乃(雪中花・e16302)
栗山・エレナ(幸福の宿り木・e22654)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
ン・グァ(蛇神の巫女にして蛇神の奉仕者・e27936)
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)
愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)

■リプレイ

●河童を探して
 木漏れ日を返して煌めく水面、形を変えることなく揺らめき続ける水の底。穏やかに流れていく渓流は涼しやかな風と音色を運び、河原を歩く者たちの体を冷やしてくれていることだろう。
 木々のざわめきにも身を委ね、伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)は草木をかき分け仲間とともに、上流目指して進んでいく。
「この辺にカッパが出るんだって、どこかなぁ?」
「時々河童のミイラとかも見つかったりするのよね。ほとんどは偽物みたいだけど」
「へー」
 城間星・橙乃(雪中花・e16302)の言葉を受け、心遙は木々の開けている一角へと視線を移した。
 幸い、何かが干からびている様子はない。
 彼女と同様に視線を移していたオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)が、小さく肩をすくめていく。
「そういえば、カッパはお相撲が強いって聞いたけど、ほんとうかな?」
「ああ、それは本当じゃ。類まれなる怪力を持ち、相撲で打ち負かした相手の尻子玉を抜く、という話もあるのじゃよ」
 レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)は得意げに語り、きゅうりをかじる。
 小気味の良い音色が響く中、心遙は小首をかしげていた。
「尻子玉ってどんな玉なんだろう」
「うむ……」
 きゅうりを飲み下し、レオンハルトは声音を若干低いものへと変えていく。
「尻子玉というのはじゃな、尻の奥にあるとされる架空の臓器の事なんじゃ。ほれ、腑抜けという言葉があるじゃろ。それは腑、つまりは内蔵、ハラワタを指すんじゃが……尻子玉を抜かれた状態という説もあるんじゃ、まさにカッパ恐るべしじゃなあ」
 心遙らを脅かすようにクックと笑い、再びきゅうりを一口。咀嚼しながら反応を伺い、平らげるとともに笑顔を明るいものへと変えていく。
「ちなみに、尻子玉は龍神が持つ龍の玉という説もあってカッパが献上したりしたそうな。七つ集めたら願いが叶ったりしないかのう?」
「それはまた別の龍だろ。ただでさえ相撲したりとか皿が弱点とか色々と盛り過ぎだってのに……」
 十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)は自分のお尻を軽く押さえながら肩を落とす。
 一方、ン・グァ(蛇神の巫女にして蛇神の奉仕者・e27936)は澄み渡る川の流れを見つめたまま目を細めた。
「まぁ、昔から、この伝説が残ってる場所も、結構あるのじゃえ。先程橙乃が言った場所しかり、こういう水が綺麗な場所しかり……」
 言葉を途切れさせるとともに、仲間たちを手で制した。
 流れるままに指先で示す先。穏やかに流れていく渓流の中ほど。
 頭の頂点がモザイクと化している緑色の人型が水面から顔を出していて……。

●河童の姿をした夢喰い
 手足についた水かきで、川を横切り河童の姿をしたドリームイーターはやって来た。
「オイラはなにもの?」
「カッパさんでしょ? キュウリ食べる?」
 オリヴンは素直に返答しつつ、一本のきゅうりを差し出した。
 ドリームイーターのどんぐりのような瞳が輝く中、栗山・エレナ(幸福の宿り木・e22654)は寂しげな笑顔を浮かべながら拳を握りしめた。
「みんなの夢からできたカッパさんだよ。だからね、夢だから、ここにいちゃいけないの。カッパさん、夢に帰ろう」
 返答は待たず、気高き咆哮を浴びせかけた。
 ドリームイーターが川の中へと押し戻していくさまを見つめながら、オリヴンは高く飛び上がる。
「地デジはみんなの援護をお願いね」
 テレビウムの地デジが頷く中、オーラで固めた両足を河童の頭上に突き出した。
 大きな音を立てて飛沫があがる。
 飛沫に紛れ河原へ逃れたドリームイーターを、待ち構えていたのは愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)。
「……半魚人とか……でしょうか?」
 どんぐり眼が悲しげな色を浮かべていく。
 臆する事なく心愛は星座の形をしたオーラを解き放つ。
 体を丸め甲羅で受け止めていくドリームイーター。表面が凍りついたことなど気にせずに、あるいは気づかずに、体を丸めたままの体当たりを放ってきた。
 心恋がゾディアックソードを横に構えて受け止める中、オリヴンは水底を踏みしめ再び高く飛び上がる。
 頂点へと達する頃にはもう、皆、各々の役目に合わせた解答を終えていた。
 後は倒してしまうだけど、オリヴンは甲羅めがけて蹴りを放つ。
 右へと跳んだドリームイーターの首筋を、心遙が踏みつけた!
「ミナトくんの素敵な研究を邪魔するドリームイーターは許さないんだから!」
 力を込めて飛び退けば、ドリームイーターはうつ伏せに倒れ込む。
 すぐに起き上がり河原の中心へと一時離脱していくさまをな画面柄、ンは半透明の御業による炎を解き放った。
「汝は前線への攻撃、頼むぞぇ」
 頷き、炎を追いかけかけるボクスドラゴンのナーガ・ルジュラ。
 右腕で炎弾を撃ち落とした瞬間に飛翔し、下からえぐりこむような体当たりをかましていく。
 くぐもった悲鳴を聞きながら、ンは再び狙いを定めはじめた。
 半透明の御業にて、ドリームイーターを捕らえるために。

 地面が揺れる。
 ドリームイーターが四股を踏むたびに。
 心恋はゾディアックソードを地面に刺して体を支えた。
 揺れが収まると共に距離を詰め、至近距離を保ったまま高らかなる歌声を響かせていく。
 柔らかな歌声は自分を癒すため。
 テレビウム・メロディの動画は歌声を更に飾るため。
 刃鉄が軽くリズムに乗りながら横合いへと踏み込んでいく。
 牽制のために突き出された張り手をいなし、胸元に強烈な一撃を叩き込んだ。
「相撲か知らないけど力で押すだけじゃ通じないぜ」
「一人にかまっている暇はないじゃえ」
 よろめくドリームイーターの脚をンの尻尾が払っていく。
 転んでいくさまを見つめながら、心恋は二人を下がらせドリームイーターを見下ろしていく。
 甲羅を軸に回転して立ち上がったドリームイーターは、その勢いを乗せた張り手を放ってきた。
 体をそらし避けていく。
 間髪入れずに繰り出された二撃目は固めたオウガメタルで受け止め、三撃目はゾディアックソードで打ち払う。
 されど勢い弱まらぬ張り手に押され、心恋は仲間たちのもとへと後退した。
「っ!」
 ダメージも響いたか心恋が足元をよろめかせる。
 すかさずメロディが応援し始める中、橙乃の白い柄の刀がが心恋とドリームイーターを別つかのように閃いた。
「追撃はさせないわよ」
 ドリームイーターの視線を受け止めながら、少しだけ情報に目を向けため息一つ。
「それにしても、本当に皿がないのね。割れないじゃない……割ってみたかったのに……!」
 理不尽にも思える言葉を叩きつけながらも、落ち着いた調子で川の方角へとステップを踏む。
 追いかけんと踏み込むドリームイーターにはレオンハルトが立ちふさがった。
「悪いが、そうなんどもお嬢さんらに手出しはさせん。我が相手じゃ」
 ドリームイーターは立ち止まり、レオンハルトを睨みつける。
 ジリジリと距離を詰めた後、前触れもなく体を丸めた体当たりを放ってきた。
 正面から受け止めていくさまを見ながら、橙乃は力を集めていく。
「冷え冷えと、香り漂うは冬の花」
 レオンハルトと弾きあったドリームイーターの周囲に漂う、水仙の花が。
 甘く凛とした香りが冬のような寒さを招き、花びらを刃へと変貌させた。
 腕を、脚を切り裂かれ、ドリームイーターの体にうっすらとした氷が浮かんでいく。
 寒さが答えたか、ダメージがかさんだか、ドリームイーターがくぐもった悲鳴を上げた。
「……この調子で頑張りましょう。大丈夫、順調にダメージは重ねて行けているわ」
 橙乃は口元に笑みを浮かべながら、刀を横に構え直し……。

●綺麗な川には河童が棲む
 御業に体を掴まれたまま、足を取られよろめくドリームイーター。
 すかさずエレナが懐へと入り込み、至近距離から全力の咆哮を浴びせかけていく。
 体ごと吹き飛び、ドリームイーターは川の中へと落下した。
 大きな水しぶきを見つめながら、エレナは少しだけ笑顔をかげらせる。
 悪者のカッパはちゃんと倒さなければならないから。
 悪者のカッパが沢山知られたら、これからのカッパが悪者になるお話ししか出てこなくなってしまうから。
 だから……。
「……行くよ、カッパさん!」
 ドリームイーターが起き上がるのを待たずに距離を詰め、甲羅の凍っている場所めがけて放つ掌底を。
 氷の砕ける音とともに、凍らの一部に亀裂が入った。
 痛みも感じたか、ドリームイーターが姿勢を崩す。
 すかさず心遙が指を来る来るさせ、渓流と共に流れる優しい風を指でなぞった。
「聞こえる……風の声、空の歌。遠く、遠く飛んでいけっ」
 ドリームイーターを指し示し、風を刃に変えて腕を脚を切り裂いた。
 のけぞっていくさまを視界の端に収めながら、刃鉄が雷を宿した剣を突き出していく。
「っと」
 右肩を貫いた時、ドリームイーターが強引に姿勢を正した。
 刃鉄が剣を引き抜く動きに合わせるかのように、風を切る音色を奏でながらの張り手を――。
「させません」
 間に、心恋がオウガメタルを差し込み受け止めた。
 流れるままに刃鉄とドリームイーターの間に入り込み、続く張り手を払い、受け止め、受け流していく。
 ついでとばかりに脚を払えば、ドリームイーターは一歩、二歩とつんのめった。
 姿勢を正すことや許さぬと、橙乃が甲羅に踵を落とす!
「今よ!」
 うつ伏せに倒れたドリームイーターを踏みつけたまま、橙乃はケルベロスたちへと視線を向けた。
 足の下、それは許さぬとばかりにバタつくドリームイーター。
 その抵抗の意志を刈り取るかのように、激しき爆発が甲羅を砕く。
「諦めなよ。もう、この戦いは揺るがない」
 担い手たるオリヴンが告げる中、レオンハルトはオルトロスのゴロ太と刃鉄に視線を向けていた。
「刃鉄殿、コンビネーションで格好良く決めようぞ!」
「おう、任せとけ!」
 視線を交わし、レオンハルトはゴロ太をむんずと掴み取る。
 刃鉄と同時に懐へを入り込み、ゴロ太を思いっきり振りかぶった。
「ゴロ太スラッシュ!!」
 ドリームイーターの脳天に叩きつけ、何か固いものが割れる音を響かせる。
 苦悶に似た悲鳴が上がる中、刃鉄は剣を振りかぶる。
「これで……トドメ!」
 真っ直ぐに振り下ろし、ドリームイーターの背中を斜めに切り裂いた。
 振り下ろした姿勢のまま刃鉄が見つめる中、ドリームイーターは少しずつ光の粒子に変わっていく。
 完全に姿を失う頃、渓流の音色だけが聞こえる静寂に抱かれて……。

 戦いに疲れた体を癒やしてくれる優しい風を感じながら、ンは一人首を捻っていた。
「ドリームイーターって、一体、何なんだろうか。よくわからん存在ってのは、妖怪を作り出す地盤だとは思うのではあるのじゃえ」
 興味などと言った感情を元に生まれる、ドリームイーター。その全貌が明らかになる日は来るのだろうか。
 いずれにせよ、今回も無事勝利をおさめる事ができた。興味を奪われてしまっていた少年、ミナトも目を覚ましてくれていることだろう。
 彼を介抱するために、言葉も伝えるために、ケルベロスたちは移動を開始する。
 戦場だった区域からの去り際、橙乃の川の撮影が終わるのを待ち、エレナが水辺にきゅうりを供えた。
 ――もし本当にいたら、キュウリ食べてくれるかな……?
「……ふふっ」
 笑みを零しながら踵を返し、仲間たちの後を追いかける。
 後に残されたのは穏やかな静寂、流れ続けていくきれいな川。
 自然あふれる情景が残されている限り、きっと……!

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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