真夏の夜の竜牙兵

作者:baron

 パーンパーンと雷鳴にも似た破裂音が、夜の静寂を打ち砕く。
 それを助長するのはあちこちから響く歓声だ。
「おとおさん、花火きれいだね」
「来て良かったろう? 次まで時間があるから溶けない内にお食べ」
 子供はカキ氷が融けるのも忘れて、花火に魅入っていた。
 それを見ながら父親は、枝豆とキュウリの叩きのどっちを先に食べようかと迷っていた。
 そんな時のことだ。
「おとおさん、何か落ちてきた」
「?」
 夜を引き裂く白い牙。
 残念なことにこの状況では一目見ただけでは判らない。
 いいや、例え一目で危険と判ったとしても、彼らから逃げるのは難しいだろう。
『グハハハ!』
『オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ』
 牙は鎧兜をまとった骸骨に変身すると、驚く人々を次々に殺して回っていた。
 周囲は花火への歓声を上げるどころか、阿鼻叫喚の地獄と化したということである。


「広島県の海岸へ竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました」
 ユエ・シャンティエが広島県の地図とガイドブックを手に説明を始めた。
「なんで海岸にゆうたら、その日は花火があるんですわ。せっかくの夜を邪魔する無粋な輩、蹴散らしてくれたら皆さん助かる思います」
 ユエはそういうと、花火大会のページを開いて詳細な説明に入った。
「残念ながら先に避難勧告したら、連中は他に行きますんであきません。ですが一度戦いが始まったらこっちを優先してきますし、逃げもせんので戦いには専念できますえ」
 その後は警察などに任せて敵を足せば良いということである。
「敵は三体ですが、いずれも竜牙兵にしては強敵。以前の皆さんならばかなりの強さゆうところです」
 城ケ島辺りで戦ったころと比べて、ケルベロス達も成長して居る。
 だがそれでもなお、油断できない強さだと言う。
 何故ならば……。
「この場合は強さよりは連携や分担の方が危険なんですわ。よお知っとる方もおられるでしょうが、連中は最も傷付いたメンバーを集団で襲うたり、被害担当が攻撃を引き受けるとか普通にやります。くれぐれも油断は禁物ですえ」
 ユエはそういいながら、敵の武器は剣と大鎌だと教えてくれた。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
 ユエはそういうと、人数分の浴衣を含めて出発の準備を始めるのであった。


参加者
カナタ・キルシュタイン(此身一迅之刀・e00288)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
レア・ストラスブール(ウィッチドクター・e29732)
シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)

■リプレイ


「これで準備完了っと」
 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は腰のベルトにランタン型のライトを吊るす。
 そして意気揚々とヘリオンの扉を開けた。
「待って待って、いま飛び降りるの? うそ……でしょ!?」
「でないと間にあわないんだからあったり前じゃない。警察さん達、避難誘導お願いしまーす!」
 メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)の抗議には耳も貸さず、そればかりか手まで引いて空へ飛び出した。
 なんということだろう、押すなよ、押すなよと言って居るのにファミリアのタルタリカは後ろから押し込んでしまう。
「ひ、ひぃ。まだ上がって来よ。あとちょっと、あと五分だけ待って、待ってったら~!」
「予定よりも早いけど、たーまーやー! デース!」
 涙目で落下するメリノの隣をシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)がギターを弾きながら降下して行く。
 メリノがブルってる? だが、世界じゃ二番目か三番目だ。
 口では勇ましいが実はシィカも死ぬほどビビっていた。対空砲火の様にどどばん、どどばんと花火が連続で撃ちあがるのだから仕方ない。
「よ、ようやく降りれた。ナニカ忘れてるような……あいたっ! なんだタルタリカってば」
 無事に着地してほっと一息、メリノの頭にゴッチンしたのはロッド形態に戻ったタルタリカである。
「そ、それでは、ロックなケルベロスライブのスタートデス! イェイ!」
 シィカはメリノが泣きそう担っている間にコッソリ立て直し、激しいリズムで奏でようとした(出来たとは言って居ない)。
 そもそも周囲に響き渡るメロディに対して、彼女の弾いているコードは別物だ。
「ケルベロスだ。ここは我々に任せて落ち着いて避難してくれ」
 実はそれ、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)のベースギターだったりする。
「次の花火が終わる前に片付ける」
 と豪語して見せるウルトレスに対し、シィカは『……ろっロックだ』とちょっとだけ感動。
 なお彼の方は『クール』の言い間違いだろうと湧きあがった疑問を考えないことにした。

 三体の竜牙兵に対し、ケルベロス達はまずは横に広い壁を築いて遮断を開始。
「ここは任せて、早く逃げて!」
「皆さん、ここは私達に任せて逃げて下さい!」
 カナタ・キルシュタイン(此身一迅之刀・e00288)とレア・ストラスブール(ウィッチドクター・e29732)は顔を見合わせると配置に着いた。
 最前線にカナタが食いつき竜牙兵を防ぎ止め、最後尾にレアが位置して最後の壁と成る。
『ケルベロスめ、邪魔をしおッテ』
「あっそ。あなたに電光石火の剣戟、見切られる?」
 彼方は目にも留らぬ踏み込みで攻撃を掛けると、器用に肋骨を狙って刺突を掛けた。
 それが避けられそうになった瞬間に、膝を取り飛ばして強引に押し当てる。
『シネイ!』
「皆さん、直ぐに治します。頑張って下さい!」
 敵の生み出した氷の波が迫るのだが、レアは癒しの雨を降らせて溶かしていく。
 その間にも、箱竜のサールブールたち壁役は攻撃を防ぎに掛り、あるいは果敢な反撃へと移って行った。
「無抵抗の一般人を襲うなんて、それでもデウスエクス最強と言われるドラゴンから生み出された存在なんですか!」
『我らは死ノ使イ。狩り取ル命に差ナド無シ!』
 シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)は二度・三度と剣を掲げて襲いかかる竜牙兵を撃退した。
 迫る刃はその身を傷つけるが、元より護るために飛び込んだのだ恐れるはずもない。
「この程度、この程度で僕は、僕らは怯んだりなどしない!」
 シフは次第に押し返しながら、チェンソーの刃を振動させて切り刻む。
 相手もさる者、刃を腕で押し返し傷付くことなど恐れずに間合いを取ったのだ。
 攻撃を半減させる為でなく、威力を拡大する為の間合いを重視するとはなんとも剛毅である。
 あるいは竜牙兵は尖兵であり消耗品、あちらにも恐れなど無いのかもしれない。


「竜牙兵か……。まだ侵攻を続けてくるとはなかなか執念深いようだな」
 ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)は回り込むように脇を取り、強引に抑え込み始める。
「だがそれに負けるわけにはいかない。どれだけ強かろうとも、ここできっちりと止めさせてもらおう」
 翼を広げ低空飛行で突進を掛けると、輝く翼で運命を切り開くことにした。
 急加速を掛けて軌道を変更し、金剛不壊の覚悟で槍を突き立てる。
「レイドだ、合奏といくぞ」
「オーライッ。即興というのも実にロックデース」
 ウルトレスの申し出にシィカは素直に頷いた。
 弦の音色に合わせて重砲撃が敢行され、唇で挟んだ楽譜(護符)を引き裂くと炎の息吹を放つ。
 一人でやっても良いが二人でギグというのも良いだろう。
「敵もチームワークがいいみたいだけど、三体はどういう集まりなんだっけ? こっちは音楽家って繋がり見たいだけど」
「えっえ? えーとサーヴァント仲間とか? でなきゃドラゴンにとってファミリアとかみたいなもんじゃないかな」
 ロビネッタが時間を止めて放つせいかもしれないけれど、思わずメリノは思考が止まった。
 豆腐のように真っ白な頭から出たのは、自分がお腹に抱えているタルタリカ達のことである。
 ゲットできても骸骨のサーヴァントとか遠慮したいと重い居ながら、林檎を用意するメリノなのでした。
 それにだいたい、これ以上増えたらお腹が減っちゃうものね。
「脳天いっただきっよ!」
「むっ。どこに脳味噌があるのだろうか……」
 カナタが勢い良く刀を振り上げて飛び込むのだが、ミーシャは対象的に止まってしまった。
 そして暫く考慮したあと、おもむろに動き出す。
「よし、倒したら切開してみよう。どこかに隠れているかもしれん」
「あ、あのー。あれは言葉の綾だと思いますよ……」
 ようやくミーシャが納得した所で、レアは苦笑しながらフォローを入れた。
 そして敵が繰り出す斬撃の密集地帯に向けて、走り出しながら術を構築して行く。
 ただしそれは魔法では無く、実際の施術を脳裏に描いて、グラビティで短縮する為である。
 見えない糸で縫合し、一気に治す為だ。
「いっけー!」
『ググヌヌ……、あと一撃!』
 シフの刃が振動を始め、受け止めた剣を押し返し始める。
 敵の一撃が鋭く彼の肩に食いこんでいるが、チェンソーのバイブレーションで生じる痛みを無視して押し返す。
 徐々に徐々に態勢を入れ換え、最後は敵のどてっ腹に逆襲してやった。
「助かりますっ」
「いえいえ。お互いに役目ですからね」
 シフは肩を優しく癒してくれるレアに感謝の言葉を伝えながら、後どのくらいで倒せるかを測り始めた。
 雑魚ならば既に倒している頃。
 あと一撃か二撃で倒せる筈だ。先ほど倒せてないのは単に、彼が壁役であり攻撃役では無いのと相手が途中でガードに回ったから為である。
「というわけで葬送曲だ。騒がしいのは勘弁してもらおう。サイレンナイッ フィーバァァァァッ―!!」
 疾走感溢れるサウンドを奏で、感性の合う者の波調を急上昇させて行く。
 普段は迷惑なので音量を下げるが、花火会場とあって今夜は大怨霊だ。
「イェー♪」
 そして対象に成るのは当然、ノリに乗ってるシィカたち前衛陣である。
 まだまだ演奏は続くので、ギターの代わりに巨大注射器で殴りつける暴挙を行い一体目にトドメを刺したのであった。


「肝試しにピッタリな恐ろしい相手でも、あたしの拳銃で返り討ちにしちゃうんだからっ」
 ロビネッタは二体目の足へ命中させた後、動きを止めたところで次々に連射して行く。
「よーし、ここにサインを……って骨じゃ無理か」
 ロビネッタは自分の名前を示すサインを男痕で描こうとしたが、やはりスッカスカの胴体に描くのは無茶だったようだ。
 鎧に何発か当てるのが限界であった模様。
『オノレ、ケルベロスめが!』
「ひうっ。サールブールちゃんが……。あたた、直ぐに治すからねっ」
 竜牙兵の攻撃を箱竜が止めたところで、もう一体の竜牙兵が強烈なスイングで叩きつけて行った。
 メリノは我がことのように痛そうに視線を反らせた後で、タルタリカがお腹を蹴っ飛ばして決意させたため、慌てて霧を広げてサールブールを癒して行く。
「骸骨は骸骨らしく、肝試し会場かお化け屋敷にでも行きなさいっての……。その加護ごと打ち砕いてあげるわ!」
 カナタは剣を合わせて打ち合っていたが、途中で軌道を開けて柄尻で殴りつけた。
 丁度相手が輝く防壁を張った所で、ガラスのように砕けて行くのが判る。
「このまま包囲網を完成させる」
「そうさせてもらいますっ!」
 ミーシャが再び翼に光を集めて突撃すると、シフも走り出して二人が並んだ。
 そこから共に飛び立って、シフは一足先に飛び蹴りを、ミーシャは槍を構えてチャージを掛けたのである。
 そして一撃離脱を掛けた後、交差して敵の脇に降り立って包囲を掛けたのだ。
 最初は通さない為であったが、今度は確実に倒す為のフォーメーション。
「あの子の回復、どーデス?」
「うちの子だし、こちらでやっておきますね」
 シィカが指差して集中攻撃を受けた箱竜の事を尋ねると、レアはサールブールを抱えてナデナデしてあげた。
 その様子を見ていたシィカは、頷いて再びギターを構え直す。
「では、遠慮なくいきますデース!」
 シィカは曲を鳴らしながら一回転すると、手が離せないので再び竜の息吹を放った。
 猛火をあげさせながら、次の攻撃の備えて流体金属もスタンバイ。
「少々の抵抗は押し切るとするか。二体目も、もう直ぐの筈だが油断はするなよ」
 ウルトレスは再びベースギターを激しくかき鳴らすが、思ったよりも攻撃の通りが悪い。
 今も重低音のサラウンドを砲弾によって響かせているが、空中で叩き落とされ直撃を免れてしまった。
「これは明らかに、敵が攻勢から防御に移った証拠だろう。回転率があがってるのにさほど変わってないからな」
「当たり。残念だけど、油断しちゃ駄目って方がね……」
 ウルトレスがおかしいと思った頃、不思議なことに敵の攻撃が止んだ。
 いぶかしんで忠告を掛けたのだが、敵はどうやら二体が前に出て、運悪くカナタに当たってしまったようだ。
 片方が防御を担当し、もう片方が攻勢に回ったようである。
「た、大変!」
「カタナさんっ……」
 メリノとレアは一斉に治癒術に移行した。
 ディフェンスによるカバーは必ずしも成功する訳でもないので、治療師二枚という編成が上手く機能したのだろう。
「ありがとっ。助かったわ。このまま逆襲と行きましょう」
「ふう……。心配させないでください」
 カナタは治療してくれたレアの指先を握り、縫合されたばかりのお腹を撫でさせる。
 先ほどサールブールが撫でられて居たのを見たのであろうが、これはこれでセクハラだと言えなくもない。
 だがレアは特に抗議せず、されるがままであったという。
『ヨクモ仲間ヲ!』
「それはこちらの言葉だよ! 憎悪も拒絶もあたし達には必要ないっ必要なのは知恵と勇気! これは皆を守る為の戦いなんだ!」
 ロビネッタの弾が反射して、二体目の竜牙兵を片づけた。
 こうなれば後は早い物だ。何しろ残り一の状態で敵が防御に回るはずも無く、対してこちらは全員で一体を倒せば良いのである。
「卑怯と思うな。これも民を守るため、そして……わたしがこれを使うという事は貴様が必ず倒れると言う事だ」
 ミーシャは平然と敵の背後に回ると、拳を上下に組む独特の仕草を行った。
 そして何かを掴んで居るかのように振り降ろすと、構築された膨大なグラビティが軋みを上げて周辺に小さなクレーターを刻む。
 威力重視でやや命中力に難があるのかもしれないが、ここまで追い込めばもはや関係あるまい。
 全力全壊で敵を倒す事にした。
『セメテ一人デモ!』
「させません、あなた達はドラゴンに与するもの! 僕の倒すべき敵! 理由などそれだけで充分だっ!!」
 やがて手番が幾つか過ぎ、最後の時間がやって来る。
 シフは敵の大鎌の刃を握り込むと、そのまま咆哮を上げて血で濡れた籠手を弾けさせる。
 見れば全身に赤いラインが走る様に輝き、触れた者に滅亡をも足らず悪夢の手が残った生命を奪い尽くす。

 そして少年が手を離すと、ガックリと膝を突きそのまま朽ち果てたのである。
「終わりですね。花火客が混乱で怪我してないと良いのですが」
 シフは手袋に包まれた手を握ったり開いたりしながら、無茶をした指先が元取り動くかを確かめる。
 敵の残骸を三体分見て回るが、やはり動く様子は無い。
「やったー! ちょっと疲れたけど完全勝利~っ!! 花火見て帰りたいんだけど、誰か浴衣着付けできない?」
「せっかくだし、花火見てから帰るのもいいね。少し待ってれば屋台の的屋さんも帰ってくるし、ヒールしてよっか」
 全てのトドメを確認し、ロビネッタがくるっとターンして背中をお願いって言うと、メリノはパタパタと手を振りながら勘弁してもらった。
「すまんが、わたしも頼む」
「なら私がなんとかしますね。でも大丈夫ですか? 本当に心配したんですからね」
「レアちゃんこそ怪我してない? 大丈夫?」
 ミーシャ達の申し出に、レアが頷きながらさっき怪我していたカナタの傷を完治させる。
 抱きついて来たので顔を赤らめつつ、一緒に浴衣着ましょうかと大胆発言。
「花火の見た目にはあまり興味はないが、あの音は良いな。腹の底に響く音は最高だ」
 ウルトレスは激しい演奏で痛んだ弦を引き千切ると、煙草を取り出して風下をヒールしていった。
 そして全て終った後……。
「最初に言いましたが、改めてもう一度! たーまーやー! デース!」
 やっぱり上から見るより、下から見る様が良いなとシィカ達は歓声をあげるのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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