木々生い茂る山奥を、探検隊のような格好をした男性が行く。
「昔この山で、空輸中のペンギンがオリごと落下。必死の探索にも関わらず、発見される事はなかったという」
手にしたビデオカメラで録画しながら、草をかき分け、進む男性。
「だがペンギンは生きていた。環境に適応するどころか進化さえして。そのペンギンは人を襲う怪物として、この地域で語り継がれている……」
そんな妄想のような存在を追い求めて、なおも進む冒険家が……ぱたり。
突然倒れた。
「ぺ、ペンギンか……?」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
魔女の声と共に、冒険家の足元から怪物ペンギンが、むくりと起き上がった。
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、新たなドリームイーター出現の予知を伝えた。
「山中に現れる怪物ペンギンの噂に興味を抱いて、実際に調査していた人が、魔女に『興味』を奪われてしまうんっす。その『興味』を元に生まれた怪物が起こそうとしている事件を、阻止して欲しいんす!」
『興味』を奪われ、気絶したままの被害者を救う方法は、ただ1つ。奪われた『興味』から生まれたドリームイーターを退治する事だ。
残念ながら、元凶となった魔女は既におらず、対面する事はかなわない。
「それで、皆さんは、ドリームイーターが現実化した直後に接触する事になるっす」
ダンテによれば、ペンギンドリームイーターの出現地点は、人里離れた山奥。
特徴的な眉毛状の冠羽がイワトビペンギンを思わせるが、全身はペンギンから大きく変貌し、怪物めいた姿をしている。
ひれ状の翼はブレード状で、その斬撃は鋭い。また、フィンのように大きく後方に伸びた冠羽を、手裏剣のように飛ばしてくる。
更に、脅威のジャンプ力を生かした突撃もあなどれぬ。
「それと、このドリームイーターは、人間を見つけては『俺様は何の動物かわかるな?』なんて問いかけてくるっす。ちゃんと答えないと殺されてしまうらしいんす」
加えて、自分の事を噂したり、自分の噂を信じる人の方に寄っていく性質もあるらしい。これを逆手に取れば、戦闘で有利になる局面があるかもしれない。
「そもそもの噂自体うさんくさい感じっすけど、間違いなくロマンはあるっす! そのロマンを奪うなんて、ダメっすよね。ぜひ退治して欲しいっす!」
参加者 | |
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四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389) |
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507) |
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
月島・彩希(未熟な拳士・e30745) |
沖田・ありあ(白のラメンタビーレ・e36935) |
●ペンギンの棲む山
ペンギンドリームイーターとの出会いを目指し、山を登るケルベロス達。
その一行の中に、赤いペンギンが混じっていた。
「怪奇! 夏の山奥に潜む巨大ペンギン?? その時特派員が見たものは~~」
着ぐるみに身を包んだヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)である。
「最近は、珍獣系のドリームイーターも多くなってきていますよね。好奇心の塊である私達からは、興味のドリームイーターも生まれやすいのかもしれません」
赤ペン着ぐるみを見たせいか、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)が、ふとつぶやく。
「山奥のペンギン。ロマンなのですが……ロマン……ううん」
若干引っかかりを覚えつつ、沖田・ありあ(白のラメンタビーレ・e36935)が、指示されたポイントへと進んでいく。
「デウスエクスという脅威がある中で未知の冒険を求めるのは、浪漫というか無鉄砲というか……私にはよくわからんな」
草木をかき分けながら、首を傾げる四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)。その耳が鳴き声を捉えた。見上げれば、野鳥の姿。
いるのは普通の野生動物ばかり。とてもじゃないが、ペンギンなどいそうにない。
「でもペンギン、可愛いですよね。あのとてとて歩くところとか。山でも見られたら嬉しいかな」
ジェミ・ニア(星喰・e23256)は、割と遭遇を心待ちにしていたりする。
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)もペンギンに期待を寄せる。『冒険者』というフレーズだけでワクワクもの。
そのうちに、そろそろドリームイーターの出現地点のようだ。
「山中のこの辺りで、ペンギンを見たって噂があるみたいですね。嘘みたいな話ですけど、もし会えるなら、愛嬌のある可愛いのを希望です」
ジェミが、本格的にペンギンの噂を始める。
「イワトビペンギンのようなものでしょうか? 2mもあるのなら、ぴょんぴょん飛び跳ねると結構揺れそうですが」
話を合わせていく紫御。
「大変、夢のある話だと思います。手触りなども変わっているのでしょうか、是非とも撫で……いえ、拝見したいですね」
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)の口から、本音が思わずぽろり。
「でも、こんな山奥に適したペンギンって、どんな進化を遂げた感じなんだろう?」
どちらかというと可愛い姿を期待したい彩希。
「ペンギンなりに森で生きる術を学んだのか? そもそも陸を飛ぶようにして滑るのだろうか」
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)もわくわく。好奇心が止まらない。
「山で生きていたペンギンがいる……それだけでロマンティックですよね。どんな大きさになっていようともペンギンはペンギン、きっと愛くるしいに違いありません」
ありあの想像も膨らむばかり。
「いや進化というか、そもそもどうやって生き残れたんだ、川魚でも食べてたのか?」
柚木が若干のツッコミを交えていると……その頭上に影が落ちた。
また野鳥の類か……いや。
のそっ、と現れた影の主は、どう見ても山の怪物だった。
●マーベラス! 貴様はペンギンのドリームイーターなのだな!
「俺の名前を言ってみろ」
目元に殺意すら漂わせた巨大ペンギンが、低い声で話しかけてきた。
思ってたのと違う。彩希は、想像と実際の容姿のギャップに、しばしその場で固まっていたけれど、
「……えっと、うん! 間違いなくペンギンだね。……だよね?」
後半は、自分にしか聞こえないレベルでごにょごにょ。
「そうですね、イワトビペンギンさんですか。立派な冠羽です!」
「ええ、綺麗に整えられていますし、そのワイルドな口調も雰囲気とぴったりですね」
ジェミや紫御の答えに、満足げな巨大ペンギン。
「では、そこのお前達、俺の名は?」
「ペンギンです」
「ペンギン!」
ラズやアニーは、回答だけにとどまらず、
「獣医のたまごとしては、大きなペンギンにはロマンがつまっていると思う! とても良いボディだ! 写真を撮らせてほしい!」
目をキラキラさせたアニーがカメラを向け、次々とシャッターを切る。
巨大ペンギンもまんざらではないようで、アニーに応え、ポーズまでとってくれる始末。
「ありがとう、いい絵が撮れた!」
「ところで、進化しても、お魚は変わらずお好きですか?」
ラズはそういうと、抱いていたミミックのエイドを開けた。救急箱状の中から取り出したのは、イワシ。
「どうです?」
「ぱくっ」
イメージそのままに、するりと魚を飲み込む巨大ペンギンの様子に、ラズはほんのり満足げ。
「さあ、次はお前か。俺は、なんだ?」
「妖怪……いや、妖鳥……? いえ、鳥でもないし……!」
悩む素振りを見せるありあ。焦れる巨大ペンギン。
「このトサカを見ればわかるだろう」
「トサカ? わかりました、黒い鶏ですね」
「水族館のアイドルだぞ」
「アザラシでしょうか」
「ペンギン様だぁー!」
答えを自分で言っちゃった。
「違う、私のロマンと違う…!」
「俺様の期待と違う……!」
ありあと巨大ペンギンが同時に頭を抱えた。
「お前、後で、殺す。最後はお前だ。俺は……」
「くぁ~、どっからどう見ても珍獣とか怪物とかその手の類のオチよ♪ え? まさか『ペンギン』とか言う答えを期待?? ありえん、ありえんのオチ」
赤ペンヒナタさんが、ヒレをぺしぺしと振って笑った。煽ってる。めっちゃ煽ってる。
あからさまに不機嫌な巨大ペンギンに、ヒナタは胸を張ると、
「真のペンギンとは、そう!」
ばばーん!
「このヒナタさんのような!」
どどーん!
「ステキな存在を指すのオチよ!」
しゃきーん!
「お前達は死刑!」
巨大ペンギンが、誤答者2人に襲い掛かった。
無論、仲間達がそれを許さない。戦闘開始!
柚木は巨大ペンギンから距離を取りながら、その体を見上げた。
「改めて見るとでかいな……言ってみれば着ぐるみみたいなものか、まあ可愛げはあんまりというか、ほぼ無いんだが」
可愛げゼロ認定されたペンギンが暴れ出した。
●どたばたペンギン退治
「こっちは可愛いペンギンだね!」
彩希がはしゃぐ。ヒナタの号令一下、草木の陰から小型ペンギンの群れが現れたのだ。
小ペン軍団は、小型銃火器で、巨大ペンギンを集中攻撃。
「くぁ~~撃て撃て撃ちまくれ~~! のオチ!!」
なおヒナタ氏は見てるだけ。
怒りの巨大ペンギン、両のヒレを振り上げ、周囲の蹂躙を始めた。アニーの散布した紙兵が、敵の攻撃から仲間を守って蹴散らされる。
だが、巨大ペンギンをジェミが狙っていた。
「ペンギンさん止まってもらいますよっと」
どおん!
巨大ペンギンが振り返った瞬間、ジェミの砲撃が、その足元を穿った。
そこに、ボクスドラゴンのアカツキがタックル。態勢が崩れたところに、彩希が斬りかかる。普段は折りたたまれているという足が露わになったのを狙って、腱を断つ。
巨大ペンギンがもがいている間に、戦神への舞いを奉じ終えた柚木が、次なる手を打つ。
顕現した『御業』は、振り上げられたヒレを払って、ペンギンの顔面をつかんだ。多少ジタバタされても、その束縛が緩むことはない。
その隙に、キックで相手のお腹に星型を刻んだ紫御が、内心思う。
(「空輸中に檻ごと山に落下した、という設定のようですが、環境に適応して進化、というよりはサイボーグ改造ですよね」)
もはやそれはペンギンではない。
もっとも、巨大ペンギンも、ケルベロス達に遊ばれているばかりではない。
すいーっ、と空中を滑るように移動すると、鋭いヒレで、ありあを切り裂いた。さんざん間違われた恨み。
するとラズがありあに向けて、電撃を飛ばした。それは全身を駆け巡ると、力を活性させたのだ。
ナノナノのありえったにも守りをもらったありあは、切ないバラードで、相手の動きを封じる。
歌声に惑わされ、足止めされ、挑発され。どんどんへろへろにされていくペンギン。
その隙をついて、ラズがこっそり表面を撫でてみた。
「思っていた触り心地とは違いますけど、貴重な体験ですね」
アニー達動物大好き勢が、ラズを羨まし気に見ていたとか見てないとか。
●さらばペンギン、また会う日まで
ペンギン退治もクライマックス。
なおも煽られた巨大ペンギンが、ヒナタに羽根を突き刺した。負けじとやり返す赤ペンさん。ロッドが変身したペンギンがアタック!
「くぁ~」
「くぁ!」
どったんばったん。
「ペ、ペンギン同士の頂上決戦? もしくは縄張り争いでしょうか?」
紫御が観戦していると、突如、ペンギンが爆発した。
ぺふっ、と黒煙を吐いて倒れ行くその体の影から、サイコフォースを放った柚木の姿が現れる。
ラズが雷の壁で巨大ペンギンを阻んでいる間に、エイドがペンギンの背中にかぶりついた。必死にしがみついて離さない。
木々を蹴って位置取りしていたジェミが、その影から矢を放った。四方八方からの狙撃に、巨大ペンギンはなすすべもない。
どすん。巨大ペンギンの尻餅を見た彩希が、鮮やかな蹴撃を加えた。独特の表皮の触感が伝わって来る気が。
そこに、紫御の一撃。
「ペンギンには氷が似合うでしょうか」
耐えた! と胸を張るペンギンが、ぱきん、と氷に覆われた。
フローズンペンギンめがけ、ありあの拳が炸裂。巨体を吹き飛ばし、大木へと叩きつける。
決してよいとは言えない足場をものともせず、戦場を駆け回るアニー。その挙動は、まるで本物のウェアライダーのよう。
「倒すのがもったいない……けど! 心を鬼にさせてもらうよ!」
アニーは木を土台にして、思い切り蹴りを叩き込んだ。
「俺様はペンギンの伝説になるのだ~!」
しゅわああ……とどめを受けた巨大ペンギンは、光の粒子になって、天に消えていった。
気づけば辺りは巨大ペンギン被害。彩希らが周囲をヒールにとりかかる。
「怪我の残ってる人はいない? わたしが治すよ!」
彩希が手当てしている間に、柚木や紫御らは、周囲を見回す。例の男性を探しているのだ。
「いたな」
「無事でしょうか?」
木陰に倒れていた男性の介抱にかかる柚木。
見たところ、けがもなく、熱中症にもなっていないようだ。
「俺は一体……はっ、まさか、伝説のペンギンに襲われて!?」
「ペンギンはいませんでした、ええ」
迫真のありあに、おっさん、がっくり。
もっとも、『本物の』怪物ペンギンなどいないのだから、嘘はついていない。
「冒険はロマンですが、くれぐれもお気を付けになった方が」
ジェミに諭され、さすがの男性もちょっと反省したようだ。
そして、男性を伴い、下山するケルベロス達。
ふと、ヒナタは足を止め、振り返る。
「……くぁ、まあ色々言ったけど。次の世では本当のペンギンとして生まれて来る事を、祈ってるのオチよ」
ファミリアロッドのペンギンと一緒に、南無南無。
「なんだか、水族館でちゃんと可愛いペンギンを観に行きたくなってきたかも……ありえった、一緒に行こうね」
「なのー」
ありあが、抱き締めたナノナノと微笑み合う。
そのやり取りを見ていたジェミも、
「ああ、僕も何かとても、可愛い生き物に会いたくなりました」
……俺は可愛くなかったのかよ。
そんな幻聴がしたが、実際可愛くなかったので全員聞き流した。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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