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「……お前か? それとも、お前か!?」
深夜2時を回った頃、一人の男がある空き地を走り回っていた。
男が追い回しているのは、猫。見れば、空き地には至る所に猫がいた。そういう溜まり場なのだろう。
「違う、こいつも違う……どこだ、どこまでも体を伸ばして人を襲うと噂の怪猫とやらは!」
真夜中の空き地で一人騒ぐ男と、大変迷惑そうな猫たち。
そんな男の背後に、まるで闇から滲み出るように人影が姿を現す。
不審人物の報告を受けた警察、ではない。現れた女性は、気配に気付いた男の胸元に何かを差し込んだ。
「あなたの『興味』に興味があります」
短くそう告げると、女性は倒れる男をじっと見下ろす。
男は完全に意識を失ってはいるが、不思議なことに血は一滴も出てはいない。
――そして、男のすぐ傍から、ゆっくりと何かが『伸び』始めた。
●
「猫は好きか?」
突然の質問にノル・キサラギ(銀架・e01639)は返答に困ったように、目を瞬かせた。
「失礼。因みに僕はどちらかと言えば好きな方だ。だからと言って犬が嫌いとかそういうわけではないが……いや、今その話はいらないか」
「う、うん、後で聞くよ。それよりも、今はドリームイーターの方をどうにかしないと」
最もである。
出現したドリームイーターは、ある噂に『興味』を持った人間を狙い、その『興味』を元にして新たなドリームイーターを生み出しているらしい。
「そして、今回その『興味』の対象になった噂が、ノルくんの警戒していた奇妙な猫の噂になるわけだが……どこまでも胴体を伸ばし、逃げようともどこまでも追い回し、最後には……うん? 最後どうなるのか詳細が書いてないぞ」
資料を眺めながらフレデリックは眉根を寄せる。とにかく恐ろしい事になったり、目撃して生きて帰った者はいない事になってたり、いかにも都市伝説らしいお茶濁しで締めくくられているようだ。
そもそも伸びるくらいなら普通に追いかければ良いのではないだろうか。疑問は尽きない。だが、そんな不可思議な存在だからこそ、人々の間で静かに噂されたのかもしれない。
だが、これがただの噂話ならまだしも、ドリームイーターとして実体を持ってしまったとなれば、そのとにかく恐ろしい事も現実となってしまう。そればかりは、止めなくてはならない。
「ところで、敵は例の猫の集まる空き地に現れるのかな? 俺たちも猫を探して走り回らないと駄目?」
例の被害者のように。ノルは深夜の空き地を野良猫を追いかけ走り回る自分の姿を想像し、微妙な表情を浮かべる。
「いや、その点は安心してくれ。今回のドリームイーターの特性として、自分の噂をしている人物のところに引き寄せられる性質があるようだ」
要するに、件の空き地でその伸びる猫の噂話をしていれば良い、と言うわけである。
「見つけた後は倒すだけだな。あぁ、くれぐれも他の野良猫を巻き込まないようにな」
可哀想だから。と付け加えつつ、フレデリックは続ける。
「敵はキミたちが思っている以上に伸びる。凄く伸びる。それこそ戦線の後方にいても、関係ないくらいには伸びるから注意してくれ」
「……むしろ伸び過ぎて、懐に潜った相手には攻撃しづらいのかな」
伸び過ぎるのも考えものである。
「昔、人面犬なんてものが話題になったが……奇妙な動物の噂とはいつの時代も絶えないものだな。ともかく、人を襲うのであれば猫と言えど見過ごせないな。頼んだぞ」
参加者 | |
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ノル・キサラギ(銀架・e01639) |
香祭・悠花(ジュエルコンダクター・e01845) |
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138) |
篶屋・もよぎ(遊桜・e13855) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) |
リン・イスハガル(凶星の氷闇龍・e29560) |
●
そこは絵に描いたような、のどかな空き地であった。3つ重なった土管とか置いてある、そんな空き地だ。
猫は集会を開く、と言う話がある。ふらりと、どこからともなく特定の場所に野良猫が集まってダラダラしているのがそれだ。
そして今夜、その集会所となっているこの空き地に……。
「どうしていつも猫さんばっかり……! わんこだって頑張っているんですよ……!」
犬派が舞い降りた。
違う。地獄の番犬、ケルベロスが現れた。
土管の上に立ち、オルトロスのコセイの両手を握ってぶら下げているのは香祭・悠花(ジュエルコンダクター・e01845)。
ただただ重力に忠実にだらりとしているコセイだが、残念ながら犬は猫程は伸びない。頬の辺りはムニムニとして意外と伸びるようだが。
「頑張れコセイさん! ですっ」
そして、それを応援するマロン・ビネガー(六花流転・e17169)。手には同じように両手を持って伸ばされる白猫……ではなく、猫の形に変形したオウガメタル。
流石流動体、こちらはとことん伸びる。
「おーい伸びーるにゃんこー、出てこないとコセイの方が良く伸びるって事にしちゃうぞー?」
「あ、そうだった、伸びる猫探しに来たんだったね? おーい!」
突如やってきたケルベロスの事などお構いなしにゴロゴロしている猫を見渡し、小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)が呼びかける。
両手に猫じゃらしと、袋に入った液状の猫おやつを手にしていたノル・キサラギ(銀架・e01639)は、その声にようやく目的を思い出していた。
……思い出してはいるが、呼びかけながら足元に擦り寄る猫の喉を撫でている。猫は、餌を貰う時だけ可愛げを振りまくのだ。仕方ない。
「しかし、この辺の猫は人に慣れてるんだな。逃げない……」
「きっと普段からご飯とか貰っているんじゃないかしら? あぁ……もふもふね……」
伸びそうな猫を探しながらも、やはり猫の魅力に無表情ながらどこか幸せそうに櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)、その隣でユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)はひたすらに猫をモフる。
「そうだろうそうだろう。さぁ思う存分愛でるが良い」
「……毎度言うけど、何しに来たんだ」
だが、猫耳猫尻尾を着用して猫に混じっているシャルフィン・レヴェルスを見つけ、千梨の無表情も真顔へと変化、したような、気がする。
「うーん、こうなったら自来也さんも伸びてみます~? みんなで伸びれば釣られて出て来るかも?」
「それは妙案でござるな! 然らば……まちゅかぜ!」
ペットのカエル――ではなく、ボクスドラゴンの自来也さんは主である篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)の言葉に視線で抗議。ボクスドラゴンは伸びない。カエルであってもあんまり伸びない。
一方、マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は期待の眼差しでライドキャリバーまちゅかぜへと振り返る。
まちゅかぜに意思表示の力があれば静かに首を横に振ったであろう。無機物は伸びない。
「ふぅむ、中々難しいのぅ……里桜、何だかブレてしまうのじゃが」
「ん? えーと、これはね……あれ?」
すっかりドリームイーターか野良猫か、どっちが目的か曖昧になってきた中、リン・イスハガル(凶星の氷闇龍・e29560)は里桜に託されたスマートフォンで撮った写真を当人に見せる。
伸びる猫を収めるための練習撮影だったのだが……様子がおかしい。
写っているのは、横になった土管から上半身を覗かせる毛並みの良い猫の姿。だが……その胴体、妙に……長い。
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背景も猫本体もボケてはいない。むしろ鮮明にくっきりと写っている。だが、違和感のあるその猫を、2人はレンズ越しではなく肉眼で捉える。
その瞬間、土管から猫がゆっくりと歩み出て――来ない。否、正確には、下半身が土管の中に収まったまま、上半身だけが闊歩している。
伸びているのだ、胴辺りが。
「で、出た! リン、写真お願い!」
「え? う、うむ、心得た!」
驚く里桜とリンをよそに、猫はどんどん伸び始めている。
ここまで伸びれば流石に他のケルベロスたちも異変に気付く。
「わ! 伸びています! こ、コセイ、私たちも負けていられませんよ、わんこ派として!」
危うく目的を見失いそうだったが、結局目的が微妙にズレている気がする悠花。しかしビシっと指揮棒を構える姿はやる気十分、解放されたコセイも一吠えしつつ伸び続ける猫へと飛びかかる。
「もよぎ殿っ! 拙者が食い止めている間に、猫さんたちの避難を頼むでござる!」
「あ、猫さん、もういませんね~」
避難させるまでもなかった。猫は自由である、仕方ない。
「なんと!? いや、承知でござる。これならば思う存分戦えると言うもの!」
しかしめげないマーシャ。もよぎのオウガメタルが放つ粒子の輝きを後光に受け、やたらめったら荘厳な雰囲気を醸し出す二対の扇を振るい、果敢に猫へと立ち向かう。
だが、攻撃を受けながらも猫は伸びる。天高く伸び、その狙いを遠方に陣取った者へと定める。
「うわー、凄い! 本当に伸びてる! 見た!?」
「あ、あぁ、その……攻撃していいんだよな?」
うにょうにょと自在に伸びる猫は、一直線に千梨へと襲いかかる。
一体、重力とかいう物理法則はどこでサボっているのだろうか。そんな事はまるでお構いなしだ。
それを見て目を輝かせるノル。持たされた猫じゃらしを持て余しつつ、攻め時を見失うグレッグ・ロックハート。
「ハハハこいつめ、じゃれるなじゃれるな……いや流石に痛い。悪いが少し大人しくしてもらうぞ」
そして、噛まれる千梨。
このままだと例のとにかく恐ろしい目に合わされてしまう。咄嗟に結界を張って蜘蛛糸でその動きを捉えようとする、が。
虚空より転がり落ちたのは……毛糸玉であった。てん、てん、と地面を転がって足元で止まる。
伸びる猫は、ドリームイーターだが限りなく猫だ。毛糸玉の魅力には抗えず、絡まりながら転がり伸びる。
「……結果オーライだな」
動きは抑えられた。完璧である。
「姉さん、今です!」
「え? あ! うん!」
絶好のチャンスとばかりにマロンの撃ち出した弾丸に、ノルがワンテンポ遅れて連携に入る。
今絶対、絡まりながらも尚伸びてる猫に気を取られていた。とは誰もが思ったが、人の事を言えない者も多く、誰も口にはしないのだった。
●
みんな猫の伸び具合とか、その辺りに気を取られてばかりいるが、戦闘自体はこう見えてそれなりに順調だ。
「随分伸びてるけど、狙える場所はむしろ広くなってる気がする……そこっ!」
園城寺・藍励を始め、サポートも頑張ってくれているのも大きいだろう。
「猫ぱーんち!」
シャルフィンは攻撃ついでに千梨を巻き込む自由さを見せているが。仕事はきっちりこなしている、多分。
「お前……」
「っとぉ! 危ないでござる!」
あのドリームイーター並に引っ張って伸ばしてやろうか。千梨がそんな事を考えた瞬間、マーシャの声と共にまちゅかぜが飛び出した。
鋭い爪を突き出しながら伸びてくる猫を、そのファンシーな車体……ではなく乗っていたマーシャ自身が受け止める。
「すまん……あの猫もどきには後でしっかり言い聞かせる」
「ごふっ! し、心配ご無用でござ――!?」
爪を立てたまま伸びる猫。腹に良いのを一発喰らって吹っ飛ぶマーシャ。
実際、まだ体力的には心配ご無用だが、綺麗な放物線を描いて空き地の外まで飛んで行くのだった。
必然的に猫も随分と伸びてしまったが、今度はそれを丸々とした影が追いかける。
「伸びて逃げても~……自来也さんの追尾はすごいんですよ~!?」
それは、大きなカエル。いや、もよぎのボクスドラゴン、自来也さん。重力を目一杯受けつつ、タックルついでに猫の頭部目掛けて突撃する。やはり重力は仕事をしていた。
「もう一発! これでどうだ!」
自来也さんと入れ替わって、里桜がグラビティ・チェインをたっぷり乗せた拳を真上から叩き付ける。
集中打撃の重みに、一度はぐにゃりと地面に向かって垂れ下がる猫だったが、負けじとばかりにそこを起点に改めて伸びては、か細く一鳴き。
「恐ろしいくらい本当に伸びるのぅ……これ、どこまで行くんじゃろう」
伸びはすれど縮みはしない。お陰で空き地はどんどん猫の胴体に占領されていく。
リンの石化魔法も胴体の一部を硬化させてはいるが、動きを完全に止めるのは至っていない。
「はっ、もしや最後にはこのまま世界中を埋め尽くすつもりなのです!? そうはさせませんですよ!」
ちょっと突飛ではあるが、冗談に聞こえないマロンの発想。
確かにこの伸び速度を鑑みると、明日の朝にはこの街が猫の胴体に押し潰されている可能性はある、かもしれない。
「いや、まさかそんな……いずれにせよ、止めねばならんのは確かじゃな」
魔導書を開き、最後の一押しに入るマロン。そこにリンも動きを合わせる。
敵は空き地を取り囲むように伸びながら、その狙いをオウガメタルを纏うノルへと合わせる。
「させるか、ここで止めさせてもらう」
――が、死角から繰り出されるグレッグの鋭い蹴撃がそれを阻み、そこにリンの氷撃が螺旋を描きながら直撃する。
「あ! あー……」
完璧なタイミングの連携。ノルもそこに加わって拳打を繰り出すが、思わずこぼれる残念そうな声。
殴り付けた反対の手には、オウガメタル『銀架』を変形させた猫じゃらし。余程猫が伸びるところを見たかったのだろうか、心なしか相棒の銀架も呆れたように項垂れている。
「長すぎてどこを狙えばいいかわからないので……全部狙わせていただきます、行きますよコセイ! 必殺! わんこもふもふスラッシュ!」
「長ーい猫さんの胴にも、蜂の一刺しです!」
心なしか、伸びる速度が落ちている気がする。そろそろ、決着も近いのだろう。
ここは一気に、と悠花は土管の上で指揮棒を振るう。舞い踊る光の剣はコセイの斬撃を支援するように、空き地を駆け抜けた。
更に、それに騒がしく彩りを添えるのは、マロンが召喚した蜂の巣から溢れる蜂の群れ。
「……ノルには悪いけど、そろそろケリ付けさせてもらうよ!」
ケルベロスたちの攻撃から逃れようと、尚伸びる猫。だが、里桜にはどれだけ伸びようと無関係だ。
「伸びるなら伸びた分だけ撃つ! 下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってね!」
呪符から創り出された無数のマスケット銃。地面に突き立つそれを抜いては撃ち、抜いては撃つ。
土管から伸びる身体を根本から先端まで、文字通り蜂の巣となり猫イーターは消滅していく。ちょっと可哀想な気もするが、相手はあくまでもドリームイーター。大体、いくら猫でも、ここまでは伸びない。
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「いやー、酷い目にあったでござる……でもあんなに伸びても凄くもっふもふだったでござるよ!」
貫かれたんじゃないかって勢いで打ち付けられたお腹を擦りながらも、余程良い毛並みだったのだろう、マーシャはご満悦である。
「良いなぁ……俺、結局あんまり触れなかった」
残念そうにしょげながら、ノルは転がってるコセイのお腹を撫で回している。これはこれでまた良いモノである。
流石に一応はそれなりに激しい戦いの後だ。野良猫もすっかり姿を消してしまっていた……かのように思われていた、が。
「あ、姉さん、猫さんですよ! わ、増えた、あ、どんどん出て来るです……あれ? 私ですか!?」
ふと気付けば、一匹の野良猫がマロンの足元でにゃあにゃあ鳴いていた。と思えば、瞬く間に増える猫。囲まれるマロン。
「マロンちゃんの持ってる鰹節に誘われたんですかね? わ~、どんどん増えますね~」
相変わらず人に慣れている猫たち。先のドリームイーター程ではないが、もよぎに脇を抱えられ、無気力に伸びている。
それを見て、猫と一緒にされるがままモフられているコセイの手を悠花が掴んだ。
「コセイ、もう一回頑張ってみません? ダメ? やっぱり伸びない?」
戦闘で疲れているのもあって、伸び伸びだらんとしているコセイ。それとなく尻尾を揺らして返事をするのだった。
「まぁ、ほら……犬には犬の良さがあるから。健気な所とか……」
それでも抵抗せずひたすらもふもふされているコセイを千梨は眺める。
数分前までの戦いが嘘のように、あっという間に和み空間が出来上がっていた。
「あ! ねぇリン、写真どうだった? 撮れた?」
「む……うむ、まぁ、撮れたには撮れたぞ?」
思い出したかのように尋ねる里桜に、リンはやや歯切れ悪く答える。
不思議そうにスマートフォンを受け取って、写真フォルダを開いてみると……そこには。
「……う、うん、良く撮れてるね」
最初に映し出されたのは土管からはみ出る少し胴体の長い猫。戦闘直前のものだ。
そこからは、よくわからない筒状のもふもふが画面の至る所に映っている写真が続いていた。あの長さでは、まぁこうなるだろう。
「……動画で撮るべきじゃったかのぅ?」
戦闘中にその余裕があったかは別である。
こればかりは苦笑するしかなく、里桜はとりあえず、目の前で伸びている猫を改めて写真に収めるのだった。
作者:深淵どっと |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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