ミッション破壊作戦～万緑叢中刃一閃

■リプレイ

●ミッション１１－１「長野県上田市」
　都道府県別、松茸生産量日本一を誇る長野県。中でも上田市は、県内でも有数の産地だ。それ故にか、キノコ型攻性植物の侵略に脅かされるようになって、暫く経つ。
　今回の作戦目標を聞いた青謐のヘリオライダーは、些か懐かしげだったという。何でも、かつて上田市にケルベロスを運んだ事件があり、その時も攻性植物絡みであったとか――閑話休題。
「松茸、か……香りマツタケ味シメジ、とは言うけれど」
　移動中、燈家・陽葉（光響射て・e02459）は得物の手入れに余念がない。元々は弓が得意らしいが、今回はゾディアックソードと如意棒を携え、エアシューズを履いている。
「この辺りは果物農家も多いし、松茸狩りも行われるでしょう。ならば秋になる前に、魔空回廊を潰しておかなければ、いい加減、地元の産業が立ち行かなくなりそうです」
　陽葉の呟きに答えたヴァルキュリアの青年は、小さく溜息を吐く。黄硝子のサングラス越しの視線は、剣呑として。
「そろそろ、でしょうか」
　地図と窓の外を見比べるダリル・チェスロック（傍観者・e28788）の言葉に、イピナ・ウィンテール（眩き剣よ希望を照らせ・e03513）は静かに目を開いた。来る魔空回廊への攻撃に向けて、ヘリオン搭乗から集中している。まるで彼女自身が一振りの刃となったような、心地好い緊張感に背筋も伸びるというもの。
「上田市の事は、ばっちり勉強済みだよ～」
　ウイングキャットのぽかちゃん先生の桃色肉球をふにふにしていた鮫洲・蓮華（ぽかちゃん先生の助手・e09420）は、何だか楽しそうだ。好きな武将から戦国時代の歴史を勉強したらしく、上田市を舞台とした合戦の下りもお気に入りになったとか。
　一方、ボクスドラゴンのラジンシーガンと並び、ミッション地域を見下ろすシエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）は何処か熱帯びた眼差し。攻性植物を愛してやまない少女にとって、そこはある意味楽園なのだろう。現地の被害等は、この際さて置いて。
　対照的に、大粟・還（クッキーの人・e02487）は不機嫌そのものだ。
（「収穫期だから本気出す……今日の私は怒り心頭ですよオラァ！」）
　何せ、実家の畑を「自宅」としている「菜園警備員」だ。丁度、夏野菜が収穫期を迎えて思考も農家寄り……ウイングキャットのるーさんがちょっと遠巻きになるくらい、ミッション地域破壊の気炎を上げている。
「大丈夫！　地面に根を張る手足が無いキノコなんて恐るるに足らず！　ボク達の圧勝だ……！」
　意気盛んに耳ぴょこぴょこ尻尾ふりふり。グラディウスを手元でくるくる回し、ミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）はウォーミングアップ。
「……よし。市街地はひとに返す。いつまでも攻性植物に大きな顔はさせないよ」
　開かれたハッチから、強風が吹き込んでくる。降下中に飛ばされぬよう、そして気合いを入れて帽子を被り直すルードヴィヒ・フォントルロイ（キングフィッシャー・e03455）。
（「かつての古戦場、上田合戦だって多勢に囲まれる苦境から守り抜いた……多勢蹴散らしてキノコから取り戻してこその現代だろ！」）
　意気を胸に秘め、飛び出した――その想いこそ、グラディウスに込めれば良かったものを。

●万緑叢中刃一閃
「千里の道も一歩から……っていうけど、今回で取り戻させてもらうよ！」
　声高らかに、グラディウスを振り被るルードヴィヒ。何処のミッション地域も厄介だが、人が暮らす場所をキノコにやる訳にはいかない！
　１番手のルードヴィヒに続き、２番手は陽葉。躊躇なく身を乗り出し、気負う様子なく飛び降りる。
（「味はシメジが勝るとも、松茸は日本人の憧れ。高級品のイメージは仕方ないよね」）　そんな松茸の生産地を、脅かされ続ける訳にはいかない！
「ここで、その脅威を、絶ってみせる！」
「農地を侵略するとか、キノコ共、絶対許さない！」
　大きく息を吸い、還はルーさんをむんずと抱き寄せる。
「農業はねえ、滅茶苦茶大変なんですよ！」
　土日祝日盆暮れ正月関係無く、作物に手間暇掛けてとっても大切に愛情込めて育てていく――攻性植物如きが荒らしていいものではないのだ！！
「この地の農業は私が守る！　砕け散れ魔空回廊ォ！！」
　一気に降下しながら、還はあらん限りの声を張り、グラディウスを振り被る。
「いつまでもこの場所をやらせない！　取り返させて頂くよ！」
　敵がキノコな攻性植物という事で、勝気の表情に余裕を覗かせ、明らかに油断しているミリムだが……魂の叫びは本物だろう。全ては、長野の農家さんの平穏の為に。そして、生産量日本一の美味しい松茸の為にも！
「松茸じゃないキノコ攻性植物なんか、消え失せろぉおおお！」
　松茸を気に掛ける声の一方で、蓮華は歴史に思いを馳せる。
（「上田の地は、昔から圧倒的な軍勢の侵略を退けてきた場所だよ！　でも、今この時代、デウスエクスの暴虐から守れるのは、私達ケルベロスだけ！」）
　ケルベロスの矜持をこの一撃に託す。この地の人と自然を、攻性植物の手から助け出す為に！！
「グラディウス！　応えて！　過去から未来に続く、守る為に戦う人に力を貸して！」
（「貴様らがこの地に現れて１年近く……このままではどれだけデウスエクスが増え、周囲への被害が拡大してゆくか」）
　松茸を肥やす豊穣なる山々に囲まれたこの地の侵略を看過すれば、攻性植物も又、本能のまま繁茂し、増殖していくだろう。
「これ以上、人々を脅かす事は許さない。文字通りの禍根、今すぐに断ってくれよう！」
　想いの丈が、自然と熱を帯び迸る。気合一閃、ダリルのグラディウスが暑気を切り裂き唸りを上げる。
「Excusez-moi！　これもあなた達の為ですのぉ！」
　魔空回廊さえ壊れれば、補充され続ける攻性植物がケルベロスに狩られ続ける日々も終わる――それが、シエナの主張。
「Recrutement！　行き場がない子は是非ともわたしの元に来て！　みんな受け入れてあげますの！」
　限度を知らぬシエナの愛情は、病的なまでに狂おしく、攻性植物へ注がれる――思想は、自由だ。
「我が刃の煌めきを以て、この闇を打ち砕く！」
　デウスエクスに抗う術を持たない人々の為に、戦う他にも出来る事を――そんな想いから、アイドル活動を始めたイピナだが、武門の出としてケルベロスとして、戦いこそが本来の務め。
（「今は『剣』として、この地に希望を切り拓いてみせる」）
「やああぁぁぁぁ！！」
　決意を鬨の声に替え、殿となったウィンテール家４代目当主は魔空回廊目掛けて降下する。
　――――！！
　幾重にも閃光が走り、スモークが立ち込める。ふわりとオラトリオの翼を広げて着地したイピナは、肩越しに振り返り……眉を顰めた。
「失敗、ですか」
　魔空回廊健在――長野県上田市は攻性植物のテリトリーに於いて、最も難易度の低い地域だが、もっと脆い魔空回廊でも１度で壊せなかった例はある。攻撃が成れば戦果となろう。
　だが、グラディウスを研ぐのは「『この』ミッション地域はこの手で潰す！」という熱意。その熱意は『言葉』在ってこそだ。口にするしないは別として、グラディウスへ魂の熱を注ぐ意志は『言葉』を生す『行動』によって顕れる。胸の奥底にどれだけ熱きを秘めようと、目的を達せんとする『意志』は形にしなければ何も伝わらない。
　或いは、その点が甘かった者もいたかもしれない。

●強化版「スポアー」
「ヴィオロンテ！」
　主に応え、紅薔薇の咆哮が轟く。シエナの合図とラジンシーガンを目印に、ケルベロス達が次々と集う。グラディウスはしっかり身に着ける者もいれば、ダリルのアイテムポケットに預ける者も。
「さて、ここからは時間との勝負ですね……」
「短期決着、即時撤退、ですかね」
　周囲はまだまだ混乱の呈。イピナの真剣な言葉と還の掠れ声に否やはない。
「こちらに」
　ダリルの先導で撤退を図るケルベロス達。程なく――不意打ちを警戒し、周囲に気を配っていたルードヴィヒは、ハッと身構える。
　シャァァァァァッ！
　果たして、ケルベロス達の前に立ち塞がったのは、通常で対峙する攻性植物に比べても一回りは大きなキノコ一株。強化版スポアーとでも呼ぼうか。
「さあ、激励お願いしますの！」
　シエナの従者たる咆哮と、強化版スポアーの胞子が前衛３人＆猫２匹にぶち撒けられたのはほぼ同時。すかさず、ディフェンダーの背後の位置取りで、ダリルはスターサンクチュアリを描く。ウイングキャット達が相次いで清浄の翼を羽ばたかせる。
「みじん切りにしてあげます！」
　斬霊刀と日本刀を構え、雷気帯びて突撃するイピナ。豪快に担いだ蓮華のハンマーから轟竜砲が奔るも、ぽかちゃん先生と魂を分け合う故か足止めには至らない。
「……あれ？」
　ふと怪訝そうに顔を顰めるルードヴィヒ。よくよく狙える立ち位置ながら、クリティカルを狙うには厳しい命中精度に違和感を覚える。構え直して、如意直突きを繰り出す。
「……っ」
　風歌の旗を翻し、陽葉も竿を伸ばして突進する。石突が顔めいたキノコの軸を抉れば、目にも留らぬ速さで還が改造スマートフォン二刀流を操作。だが、Ｗ炎上はスルーされた。続いてミリムも痛撃を繰り出さんと迫る。
「な……」
　ずんぐりの見た目に違う俊敏で破鎧衝をかわされ、ミリムはギョッと目を見開いた。慢心を自覚して唇を噛む。そう言えば、眼力が視た命中率は７割を大きく下回っていた。紅蓮大車輪に至っては、その命中率と範囲攻撃故の威力からして、到底短期決戦には向くまい。
　それはシエナも同じく。カタストロフガイアの命中率が５割強で最高だ。それも範囲技では……使役修正と相まって、安定した効果を上げるまで厄を積むのは相当難しいだろう。
　勿論、その程度でシエナはめげない。
「Inviter！　キノコさん、わたしの元へおいでなさいな！」
　シャァァァァァッ！
　だが、少女の心を込めた呼び掛け（＋攻性捕食）に、スポアーの反応は怒りの雄叫び。
　補給断たれたミッション地域に取り残されたデウスエクスは、早晩、狩り立てられ全滅する。つまり、グラディウスの魔空回廊への攻撃は、破壊の成否を問わず、覆りようのない敵対行動なのだ。
　先に殴っておいて、更には攻撃しながら「受け入れてあげる」という言葉に、攻性植物がどれ程の誠意を感じたか――答えは、皆無だ。
　思想は自由だ。だが、以心伝心はある意味嘘だ。意思を伝えるには行動が必要で、その行動にどう反応するかも相手の自由なのだ。
「ぐ……ゴホッ！」
　シエナの巻添えで頭から猛毒胞子を浴び、激しく咳き込むミリム。ジャマー２人共、理力技に備えていたにも拘らず。
「ほらほら、わたしの目を見て♪　これでもう釘づけ♪」
　可憐な金髪と妖艶な赤い瞳の美少女に姿を変え、蓮華がコケティッシュにポーズを決めれば、漸くキノコの動きが鈍ったように見えた。だが、彼女は浮かぬ表情で溜息を吐く。
「キャスター、だよね」
　回避と命中、攻防共に優位なポジションは１つしかない。恐らく、強化版スポアーは時間稼ぎに徹して、同胞が正気に返るのを待つ心算だろう。包囲され圧倒的多数に胞子を浴びせられれば、ケルベロスとて無事では済まない。
「大丈夫！　足止めはきっちりやっておくよ！」
　そうは言ったものの、厄付けの安定性に欠ける事は、蓮華自身よく判っている。
（「短期決戦以外に道はなし」）
　イピナの見立ては正しい。だが、短期決戦に必要なのは――速攻で押し潰す火力か。敵の装甲を剥ぎ、集中攻撃に追撃する氷結の厄か。それもまず命中しなければ無為となる。肝心なのは、如何に全員の攻撃が命中出来るよう図るか……最も厄を撒き易いルードヴィヒに、足止めや捕縛の準備はない。
　他のグラビティも、強化ヒールを持たぬ敵にブレイク技は不要だし、発動率の低いパラライズや催眠技は寧ろ長期戦向けだろう。短期決戦を意識しながら、片手落ち感が否めない。
　それでも、敵の胞子攻撃が範囲型なのは幸いだった。厄の対策さえ調えば凌ぎ易い。時に蜂竜に回復を任せ、ダリルも攻撃に回る。後は弛まず、穿つのみ――。

●辛勝突破
　ルゥルゥルル――。
　時間は短期決戦の範疇を経過――嘆くような叫びと共に、自らに胞子を掛ける強化版スポアー。金色の煌きは、穿たれた傷を幾許か癒したように見えた。
「押し切るよ！」
　初めてヒールを余儀なくされた敵の劣勢を見て取り、ミリムは思わず声を張る。
「裂き咲き散れ！」
　蓮華の尽力の末、漸く捉える事が出来た――ゾディアックソードに緋色の闘気を纏い、鮮やかに緋牡丹を描く斬撃で、キノコを切り刻むミリム。
「皆、もう少しだよ！」
　星型オーラを蹴り込み、蓮華の一撃がスポアーの守りの体勢を崩せば、一気呵成に畳み掛けるケルベロス達。
「冬を運ぶ風よ……」
　凍気を集中させた旗を振るい、陽葉は極低温の風を浴びせ掛ける。
　――Imagination means nothing without doing.
　ルードヴィヒより吹き抜ける一陣の風――すかさず過たず敵を穿つ刃となりて。
「穿つ落涙、止まぬ切っ先」
　水の精霊の力を纏う型は、降り注ぐ雨の如く途切れぬ刺突。余さず刻み、イピナは冷ややかに言い放つ。
「やはりキノコでは、斬り応えが今一つですね！」
　ルゥルゥルル――。
　集中打に重なる凍結に弱りきったスポアーの様子に、思わず救いの手を伸ばそうとするシエナ。
　シャァァァァァッ！
　だが、その応えは完全な拒絶。麻痺胞子から少女を庇い、還は「鋼の鬼」と化す。
「砕け散れキノコォ！！」
　ハスキーな叫びが響き渡り、鋼の拳が唸りを上げた。

「天地の理、遡及せし」
　ダリルが「Albus Alas」を以て還をヒールする間に――ザワリ、と周囲の空気が蠢く。
「よし、急いで逃げるよ！」
「クッキーの人の本気、見せてやんよ……！」
　既に、スポアーの包囲網は半ば完成している。息つく暇も惜しみ、ぽかちゃん先生を抱えて駆け出す蓮華。回復した還も農作業で鍛え上げた足を遺憾なく発揮。るーさんが慌てて追い掛ける。
「うん、まあ、退き際は重要だよね」
　ルードヴィヒが努めて平静に肩を竦めれば、陽葉は唇に笑みを刻んで身を翻した。
　誘惑に駆られた表情で周囲を見回すシエナだが、今ならばまだ突破出来る。そんな状況で、本能がタガを外す事を許さない。
「もうすこし頑張るのだー」
　急かすミリムに促され、後ろ髪引かれる風情で少女は踵を返す。拙い足取りを従者達が支えた――斯くて袋の口が閉じる間際、ケルベロス達は１人も欠けず帰還を果たす。
「ここが復興したら又訪れたいですね」
「いえ、魔空回廊潰えるまで何度でも……希望を繋ぐ。これが私の務めであり、本望です」
　ダリルの呟きに、イピナは凜と顔を上げた。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年8月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。