少女は、家族で朝からプールに出かけていた。
浮き輪に入って、緩やかに流れるプールを何周したことやら。
「ふわぁぁ……」
だから、帰ったらすぐに眠ってしまった。
プールに流れる自分と、家族と……魚。
「にゃっ!?」
それがとっても大きかったから、少女は飛び起きてしまった。
食べられてしまうと、思うほどに。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
そんな少女の感情を、魔女は容赦なく奪っていった。
「彼方が休まないので、此方も夏休みをとれませんね」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、苦笑する。
幾名かのケルベロス達も、まったくだと笑ったりむっとしたり。
「今回のドリームイーターは、魚のカタチをしています。大きさは、私くらいありますね」
鰓呼吸とか無関係だし、鰭や尾を器用に使って自由自在に動きまわる。
ちなみに、調査に携わったのは、七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)だ。
「ドリームイーターは、少女の家の周辺を彷徨いています。誰かを驚かせたくてしょうがないようなので、歩いていれば向こうから寄ってくるでしょう」
ちなみに、ドリームイーターは自分に驚かなかった相手を優先的に狙ってくる。
誘導や戦闘を有利に進めるために活用してくださいと、セリカは言った。
「発見したら、そのまま近くの公園まで誘導してください。少女年の家からは、ゆっくり歩いても5分で到着しますよ」
未だ陽も長いし、コトが順調に運べば、暗くなる前には決着がつくだろう。
公園の出入口は東西に1箇所ずつあるため、逃走防止や人払いも対策が必要だ。
「攻撃方法は、噛み付きと水鉄砲です」
鋭い牙を立ててきたり、勢いよく水をかけてきたり。
どちらもバッドステータスのおまけつきなので、注意してほしい。
「万全の準備で臨んでいただければ、なんの心配もありません。よろしくお願いしますね」
ドリームイーターを倒せば被害者も眼を覚ましますと、セリカは言う。
皆と男の子の無事を願って、丁寧に頭を下げるのだった。
参加者 | |
---|---|
九石・纏(鉄屑人形・e00167) |
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447) |
シルク・アディエスト(巡る命・e00636) |
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597) |
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247) |
ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199) |
リリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385) |
七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457) |
●壱
ケルベロス達は、二手に別れて作戦を実行する。
公園に先まわりした面々は早速、一般人の避難誘導を開始した。
「デウスエクスが現れるっす。皆さん、あっちから逃げるっすよ!」
ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)とミミックが、片方の出入口を塞ぐ。
「こっちよ」
行く先では、リリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385)が優しく手招き。
「おーいみんな、早く逃げてくれー! デウスエクスが来るぜー!」
七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)も、公園周辺にぐるりと声をかけてまわった。
公園で避難行動が始まった頃、誘導組はというと。
「でかい魚のドリームイーターか……腹減ったな……」
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)の頭のなかは、魚でいっぱい。
切り分けて冷凍庫で保存しておけば何日分の食事になるだろうかと、思案する。
「少女のピュアな驚きを餌にするのはいいものでは……いいものとはいえませんね」
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)も、テレビウムとともにきょろきょろ索敵。
擦れ違う一般人に、公園から離れるよう手短に伝えながら。
そのうちに。
「……大きいって聞いていた、けど。人間程度の大きさ、なら、そこまででも無い、かも……さあ、こっちへ、おいで」
ドリームイーターに、遭遇した。
翡翠の瞳で、ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)がじっと見詰める。
変わらず無表情で静かに、ただただじーっと。
「なにを見てこのような想像に繋がったのかも気になりますが、いまはこれを討ち果たすことを優先しましょうか。さあ、魚釣りのお時間です」
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)も落ち着いて、冷静に対処する。
ほかのヒト達を巻き込まないよう殺気を放ちながら、公園へと足を向けた。
「手配書を描いたんで、確認しておいてくれ」
さらさらっと記した紙を、九石・纏(鉄屑人形・e00167)が皆にまわす。
万が一逃がしても、これで全員がドリームイーターの居場所を知れるようになった。
「あぁ、これから誘導を開始する。そっちも準備よろしく」
スマートフォンを使って、ゼノアが公園にいる仲間達と連絡をとる。
「花の鎖は艶やかに。心に絡みつけば、ほら、もう目が離せない」
シルクを包み込むように創造された菫の幻影に、怒りの感情を覚えさせつつ。
「赤薔薇、行きましょう」
上から下までを眺めて瀬乃亜は、さして興味がないと言わんばかりにぷいっと踵を返す。
「プールから帰って、お魚の夢。それが、現実に出てくる、なんて。それだけ聞いたら、御伽噺みたい、ね。それが、害のないもの、だったら、よかったのだけれど……」
ハンナもその存在を無視するかのように、先頭を歩いていた。
「あと1分もあれば到着する。其方の準備は大丈夫か?」
アイズフォンを起動し、纏が最終的な連絡を入れて。
ノイアールと七喜にリリーも手伝って、反対側の出入口は立入禁止テープで封鎖済み。
此方も、ドリームイーターとケルベロス達が入ってから、手早く塞いだ。
「大きな魚ね。焼いたらいい匂いがするかしら? しっかり三枚におろしてあげましょう」
フェアリーブーツで大地を踏み締め、リリーが配置に付く。
魅力的な赤の瞳で、ドリームイーターの姿をはっきりと捉えた。
「あれ、猫さん。此処は危ないからちょっと外で待っていてね」
ふんわりと抱っこしてやって、テープの下をくぐって敷地の外へ。
猫に手を振り戻ってくると、ノイアールもディフェンダーとして準備万端。
「あんまり立ち位置変えねーで済むように、遠距離から狙える技も多めに揃えてきたからな! へへへ、最強の妖狐は頭だっていいんだぜ!」
七喜も皆の位置どりを確認しながら、自分の立ち位置を決める。
ドリームイーターを包囲し、逃走を阻止するための布陣をしいた。
●弐
驚いた者がおらず、逆に誰を狙うかドリームイーターも迷う状況。
取り敢えずイチバン近くで睨んでくる者達へ、水鉄砲をぶっ放す。
「……なんてことない。命大事」
ずぶ濡れでも戦闘行動に支障はないし、ひとまずは気にしない。
纏は上空へと小型治療無人機を飛行させて、前衛陣を警護させる。
「私の『咲き誇る盾』で、皆を護ります」
愛用のアームドフォートから、シルクは一斉に砲撃をおこなった。
菫の花弁を模した浮遊盾を構えて、積極的に噛みつき攻撃を受け止めている。
「でっけー魚かー、魚って捕まえにくいんだよなー。ぬるぬるするし、なんかびちびち動くしよー。っつーワケで、秘密兵器準備してきたぜ! へへへ、魚を捕るならやっぱ銛だよなー。いやまぁ、槍だけどさ。刺し身にしたら、どんだけのサイズになるんだろーなー。あ、オレ焼き魚よりナマで食う方が好き!」
矢継ぎ早に喋りながら攻撃を避けて、七喜はドリームイーターにあっかんべー。
稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブで、脂の乗った腹を貫き通した。
「恐怖を含めて、心の、特に純粋な部分を狙うのが、パッチワークたちのえげつないとこっすよね。さくっと倒して、女の子の意識を返してもらうっすよ! やるっす、ミミ蔵。我が血と掌中の星の下、幻翼よ来たれ」
ノイアールの詠唱に呼応して、ミミックのなかの宝石が眩しく輝きを増す。
前衛メンバーの背中へと、咄嗟の動きを補助するための幻の翼を授けた。
「夏休みらしい夢、だわ」
テレビウムが閃光を発するうちに、オウガメタルからオウガ粒子を放出する。
前列の超感覚を覚醒させて、瀬乃亜はしみじみと想った。
「遅いわよ! 斬って斬って斬り倒してあげる!」
水鉄砲を避けると、ドリームイーターの霊体へと直接的に触れるリリー。
打突で神経の伝達を遅らせ、反射をも鈍らせると、どやぁと笑ってみせる。
「きゃ……っ!」
しかし次の水鉄砲は、ハンナの全身を悉くずぶ濡れにしてしまった。
「……」
濡れて透けそうな胸元を隠すハンナに黙って上着をかけるのは、ゼノアである。
「レオ……ありがと……」
「……あまり羞恥の目に晒されるのも……な」
上着のぬくもりを抱きしめつつ、石化魔法の光線を放つハンナと輪を投げる相棒。
ゼノアも、自身の袖口から鎖状のエネルギーを飛ばし、傷口から神経毒を流し込んだ。
●参
噛みつきも水鉄砲も、庇い庇われ、回避できたりできなかったり。
数ターンののちに決着を悟り、ケルベロス達は残る力を振り絞る。
「ゼノ……ちから、借りる、ね……芯を穿つ黒矢は尊く、清らかで在れ。幾重の願いが届かずとも、我が胸の燈火さえ、消えることなし」
「前に出過ぎるな。普段通りやれば、俺達が負ける筈はない」
ハンナは、ゼノアが放出する微細なグラビティ・チェインを指先に収束させ十字を切る。
魔法陣のなかで向かい合うふたりのあいだに召喚するのは、白銀の薔薇弓。
ともに弦を引き絞れば、ミラニーズ・ブルーの矢が顕現する。
天高く緩やかな弧を描き、涼やかな鈴の鳴弦を奏でてドリームイーターを貫いた。
「そこだ」
突撃してくるドリームイーターの動きを見極め、噛みつきを避ける纏。
狙いを定めて、左腕に取り付けた仕込み銃からカウンターの凍結弾を撃ち込んだ。
(「お魚さん。夏に外へ出るなんて、あつくないのでしょうか……」)
心のなかで考えながら、瀬乃亜が爆破スイッチを押す。
主の起こしたカラフルな爆風を追い風に、テレビウムは果敢に凶器で殴りかかった。
「うわっととと。えいえいおー!」
不意の噛みつきを喰らっても、リリーは絶対に弱音なんて吐かない。
星形のオーラをフェアリーブーツに纏わせて、お返しにと思い切り蹴り込んだ。
「そろそろおしまいっす。観念するっすよ!」
左手の人差し指で、足許のふらつくドリームイーターをロックオン。
魂を喰らう降魔の一撃を放って、ミミックのエクトプラズム攻撃を補助した。
「System:Imitation、Mode:Fox、Start-up――出番だ、妖狐! 焼き尽くせぇ!」
真紅の炎で造形した巨大な妖狐を喚び出せば、ひとつ可憐な声で鳴く。
手の甲に魔術回路を輝かせて、七喜は灼熱の妖狐を突進させた。
「仕方ありませんね……はてさて、お味は如何でしたか?」
最後の抵抗と噛みついてくる口に、敢えて手を突っ込んだシルク。
口中にてドラゴンの幻影を解き放てば、内側からその身を焼き尽くす。
焼き魚となったドリームイーターは、あえなく焦げつき、灰となるのだった。
●肆
夏の夕暮れの風に吹かれながら、公園と自分達をヒールし終えて。
平穏をとり戻した空間で、ケルベロス達は暫し、自由な時間を楽しむ。
「まぁ。綺麗な夕陽ね」
のんびりマイペースにリリーは、橙に染まる空を仰いだ。
未だ濡れている服の上には、いつの間にか銀河を思わせるマントを羽織っている。
「早く帰って着替えたい……」
愛用する眼鏡のレンズを拭いて、濡れた服が気になる纏は軽く嘆息を零した。
気持ち悪いのはキュアされていても、ちょっとだけ落ち込む気分。
「お待たせしたっすね。テープの回収も終わったんで帰りましょうっす! ミミ蔵、悪戯せずにちゃんとついてくるっすよ」
呼ばれたミミックは、ぴょんぴょんと跳ねて主の足跡を踏んづけていく。
なーんとなく空気を感じとって皆を促すノイアールからは、頼もしい姐さんオーラが。
「……ハンナ。ふらついてるぞ、大丈夫か。張り切り過ぎだ」
親しい旅団仲間と認識しているからこそ、ちゃんと窘めないとと考えるゼノア。
吊り目で無愛想だが、繋いだ掌からは、確かな熱と思いやりの心が伝わってくる。
「ありがと、ゼノ。夢は夢へ、お戻り、なさい……」
その温かさに、ハンナも頬を赤らめつつ。
霧散してしまったドリームイーターの来世の安寧を願い、祈りを捧げた。
「ちぇー。せっかくでけー魚だったのに、倒したら消えちまいやがった。なんか魚食べたくなってきたなぁ。なーなー、まわる寿司とか食べにいかねー?」
本当に残念そうに肩を落としたかと思いきや、次の瞬間には立ち直っている七喜。
既に、気持ちは『次』へと切り替わっている。
「いいですね。依頼の報告を済ませたら、皆でいきましょう」
賛同してシルクも、しっかりと前を向いた。
デウスエクスの不死性を忌み嫌う自分に、立ち止まっている暇などないと。
「お寿司、楽しみですね。ねぇ、赤薔薇。あなたは魚と肉なら、どちらが好きですか?」
問われたテレビウムは、どちらかを選ぶではなく、どちらでもよいと首を横に振る。
赤い薔薇のカタチをした飴を舌で転がしながら、愛おしさに瀬乃亜は笑うのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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