鎌倉ハロウィンパーティー~モザイク吸血鬼現る!

作者:麻香水娜

 街中が黒とオレンジの装飾がされ、すっかりハロウィン一色になっている。
「はぁ……吸血鬼の格好して彼女に襲い掛かって……なんてしてみたいよなぁ……」
 彼女いない暦=年齢である20代半ばの男は、溜め息を吐いた。
 そこへ、ハロウィンパーティから抜け出してきたような、赤い頭巾の少女が現れる。しかも、手には大きな鍵のようなものを持っていた。
 少女は、その大きな鍵で、男の心臓を貫く。
「……え?」
 しかし、貫かれた心臓からは血も出ず、痛みもない。ただ、意識だけが遠くなり、男はその場に倒れた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 少女が微笑むと、吸血鬼の格好をした全身モザイク人間が現れたのである――。
 
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)ちゃんが、調査してくれたんですけど、日本各地でドリームイーターが暗躍しているようなんです!」
 手に、ハロウィンっぽいお菓子の袋を持った笹島・ねむが口を開いた。
 どうやら、出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティー当日に、一斉に動き出すようだ。
 ハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場、つまり、鎌倉のハロウィンパーティー会場らしい。
「みんなには、ハロウィンパーティーが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいのです!」
 手にしているお菓子の袋を見るからに、ハロウィンを楽しみにしていると言わんばかりのねむが、ずいっと身を乗り出した。
「ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティーが始まると同時に現れます! だから――」
 パーティーが始まるより早く、あたかも、ハロウィンパーティーが始まったように楽しそうに振るまえば、ハロウィンドリームイーターを誘き出すことができるだろう、とねむは説明する。
「このハロウィンドリームイーターは――」
 パラライズ効果のある、モザイクを飛ばして知識を吸収する『知識喰らい』、武器封じ効果のある、モザイクを巨大な口の形に変えて欲望ごとくらう『欲望喰らい』の2種類の攻撃方法を持っていて、更に、傷をモザイクで修復する事ができるそうだ。
「ハロウィンを台無しにするドリームイーターを撃破して下さい! あ、このドリームイーターは撃破したら消滅しちゃう場合もあるですが、ハロウィンの飾りになる場合もあるそうですよ!」


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
リンダ・ラブレース(淫魔の諜報員・e03050)
篠森・亮斗(黒狼・e04102)
アンジェラ・コルレアーニ(オラトリオのミュージックファイター・e05715)
シエナ・ライティス(紅瞳のネメシス・e07925)
フィオーナ・リューブラント(のんびり癒し手・e14902)

■リプレイ

●準備は楽しく
「万が一があるし……」
 リンダ・ラブレース(淫魔の諜報員・e03050)が、キープアウトテープを入り口の周りに貼り付けた。
「こっちもハロウィン風にデコレーションしよう。敵に違和感を覚えられてしまっては困るからな」
 リンダが貼ったテープに、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が、ハロウィン風のシールやマスキングテープで可愛く飾り付けていく。2人は、キープアウトテープだけでなく、周りの壁も可愛く飾り付けた。
「ん~~実にすがすがしい気分だ~思わず歌でも口ずさみたくなる♪」
 入り口を潜った会場となる場所では、鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)が、楽しげにコウモリやクモ等を黒の色紙で切り絵にしていく。お祭り気分を盛り上げるために、多少自己暗示気味にも見えるテンションだ。
「本物の南瓜をくりぬくのは大変、ですから、これをジャックランタン型に、切り取ったり、しましょう、です」
 アンジェラ・コルレアーニ(オラトリオのミュージックファイター・e05715)がオレンジの色紙を切り抜く。翼で飛びながら天井にぶら下げたり、壁に飾った。
「どの曲にしましょうかぁ~」
 フィオーナ・リューブラント(のんびり癒し手・e14902)は、何種類もの楽譜を見ながら、のんびりと選曲する。楽しげな雰囲気に華を添える音楽を、自らがギターで奏でる為に。
「これとか、どうですか、です」
 そこに、飾りつけがひと段落したアンジェラが、1つの楽譜を指しながら声をかけた。今回、フィオーナと一緒にギターを奏でる事になっているから。
「はい~。ではぁ――」
 2人の打ち合わせが和やかに進む。

 厨房では、吸血鬼衣装を着た篠森・亮斗(黒狼・e04102)が、お湯が沸騰している大きな鍋にパスタを入れた。パスタを茹でている間に、手際良くオリーブオイルを敷いたフライパンで、ベーコンと玉葱を炒め、塩を振る。そこへ、レンジで火を入れて柔らかくしておいたカボチャを合わせ、コンソメと生クリームを入れてソースを作った。
「そのパスタ美味しそうですわね♪」
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)が、オーブンからキノコをふんだんに使ったマッシュルームと生ハムのピザを取り出しながら、亮斗が盛り付けるパスタに感嘆の声を上げる。
「ありがとう。そのピザも美味そうだな」
 亮斗がレーンに微笑んだ。
「どれ、手伝うぞ」
 英国紳士風の衣装に兎耳の付け耳をつけたシエナ・ライティス(紅瞳のネメシス・e07925)が、2人に声をかける。持参したパンプキンケーキを皿に盛り付け終わったようだ。
「では、その南瓜プリンを可愛くして頂けますでしょうか?」
「うむ。飾りつけはワシに任せておけ」
 レーンがピザに切れ目を入れながら頼むと、シエナは快諾してホイップクリームやカラースプレーチョコで可愛く飾り付ける。
「おいしくなあれ」
 パスタの盛り付けが終わった亮斗は最後の仕上げをした。実は、メイド服を着ているが、ヴァンパイア衣装を模したケルベロスコートで隠しているのである。そして、知り合いの店で買ってきたオススメのパンプキンマフィンを皿に盛り付けるのだった。

●誘き出し作戦成功
 たくさんの料理を持った3人が会場に入ると、メイド服に身を包んだフィオーナと吟遊詩人のようなローブと帽子を被ったアンジェラのギターの旋律が流れる。低音でおどろおどろしい雰囲気の中、高音でおちゃめなアクセントが入り、見事にハロウィンの雰囲気を出していた。
「わ~! パスタにピザ……デザートも! 美味しそうだぴょン♪」
 準備が終わって、プリンセスクロスに兎耳を付けた猛が料理に瞳を輝かせる。喋り方も変えて、すっかり『ウサミミプリンセス』というお姫様になりきっているようだ。
「料理お疲れ様」
「テーブルに並べるのを手伝おう」
 魔女衣装に着替えたリンダが微笑み、西洋甲冑を着込んだシヴィルが料理を受け取る。
 料理を並び終えると、
「早速いただきましょう♪」
 料理が終わり、黒のロングコートにつばの広い黒い帽子、そして顔には付け髭をしたレーンが瞳を輝かせながらピザに手を伸ばした。
 その時――、
『その生き血を寄越せー!』
 吸血鬼――の仮装をして吸血鬼になりきっているドリームイーターが、ウサミミプリンセスこと猛に襲い掛かる。
「!!」
 突然現れたドリームイーター。構えが間に合わなかった猛の前に、亮斗が飛び出して、その攻撃を受け止めた。
「っ! ……ようこそいらっしゃいました。ここは地獄の番犬のハロウィンパーティー会場でございます。……てか」
 攻撃を受けつつも、口調を作る亮斗。奇しくも、吸血鬼が吸血鬼を迎える、というシーンになった。
「庇ってくれてありがとだぴょン♪ さて……正面から打貫く!」
 亮斗に礼を述べたウサミミプリンセス猛は、すっと真顔になる。そして、全身の気脈と骨格と筋肉を連動させ、無拍子の一撃を、ドリームイーターに放った。
「ん……それで立ってるなんて、まずまず固いのかな?」
 『烈風』を受けても、よろめいただけで膝もつかないドリームイーターを見て、猛は戦力を分析する。
「ドリームイーターにされてしまったのが、冗談でも女性に襲いかかりたい等と言ってしまうような男だったことは、不幸中の幸いといったところだろうか」
「まったく……女の子を襲う悪い吸血鬼は捕まえてしまいましょうね」
 シヴィルの声と同時に、ドラゴンの幻影が現れ、ドリームイーターを炎で包んだ。続いて、リンダの猟犬縛鎖が締め上げる。
「飛んで火に入る……じゃな。季節はとうに過ぎたが」
 シエナは、クロスをかけたテーブルの下から、大斧を取り出し、戦言葉の強烈な自己暗示で自らの肉体を硬化した。
 そして、ばっ、と付け髭を取って、プリンセスモードに変身したレーンは、
「はあああああああっ!」
 全身に気合を込め、インフェルノファクターで、己の戦闘能力を大幅に増幅させる。
「雷壁よ、彼の者達の盾となれ……!」
 今までのんびりと穏やかな口調だったフィオーナの声が凛々しいものに変わり、前衛の仲間達の前に雷の壁が現れた。その壁は、異常耐性を高めると共に、猛を庇ってダメージを受けていた亮斗の傷を癒す。
「ん。ありがとな」
「パーティに、参加したいと思うのはいいですけど、迷惑を掛けちゃうと、それは駄目だと思います、です」
 亮斗が礼を述べると、アンジェラは控えめに口を開いた。その背の翼を広げ、聖なる光を放つ。その光は『罪』を直接攻撃した。

●吸血鬼vs番犬
『……俺はハロウィンパーティーを楽しむんだー!!』
 ドリームイーターは、邪魔をするケルベロス達を睨む。
「だったら普通にパーティーに参加すれば良いだろう」
 シヴィルが、冷静に口を開きながら、破鎧衝を撃ち込んだ。続いて、猛がマインドソードで斬りかかる。
「……お、少し防御力が落ちたかな……」
 猛のマインドソードを避けようとしたドリームイーターに、見事攻撃を命中させた猛は、リンダの猟犬縛鎖の効果、そして、シヴィルの破鎧衝の効果も実感した。続いて、リンダが炎を纏った蹴りを見舞う。
『……くそ、邪魔をするなー!!』
 ドリームイーターが叫びながら、モザイクを飛ばした。そのモザイクはレーンを包み込もうと襲い掛かる。しかし、咄嗟にシエナがレーンを庇い、モザイクに包まれた。
「っ……大事ないか?」
「有難う御座います。お陰様で大丈夫ですわ」
 ダメージに顔を歪めつつ、戦言葉を使っていたからこそ致命傷にはならなかったシエナが問う。その問いに、レーンは感謝を込めて微笑んだ。
「やってやれ」
 亮斗が口を開くと、満月に似たエネルギー光球をレーンにぶつけ、その凶暴性を高める。
「えぇ……吸血鬼は心臓に杭(パイル)を撃ち込まれるものですけれど、殴りつけても充分効果はありますわよね」
 先ほど、自らインフェルノファクターを使った上に、亮斗からのルナティックヒール。レーンは、地獄の炎を纏わせた武器を思い切り叩き付けた。
『……ぅ、ぅぅ……』
 レーンのかなり重い一撃に、ドリームイーターは膝をつく。
「大丈夫……、すぐに直しますからねっ!」
 致命傷ではないにしろ、深いダメージを負っていたシエナに、フィオーナが真剣な眼差しでウィッチオペレーションを施した。
「すまんな……」
 傷が癒されていくシエナは、フィオーナに感謝を込めて笑いかける。
 そこへ、アンジェラのギターが鳴り響いた。追憶に囚われず前に進む者の歌。それは、ダメージこそ少ないものの、ドリームイーターの信念を揺らがせるには充分な効果があった。
「もう一息だぞ! 頑張ろう!」
 ふらふらになっているドリームイーターに、限界が近い事を見て取ったシヴィルが仲間達を鼓舞する。
「カジャス流奥義、サン・ブラスト!」
「今度は、実際に彼女作ってイチャイチャしろよ」
 シヴィルが捨て身の突撃を繰り出し、その反対側から、猛が飛び上がって、旋刃脚で急所を貫いた。
『く、くそ、くそー!! 俺だって彼女とイチャイチャしてぇよーーー!!!!」
 なんとも哀しい断末魔を上げると、ドリームイーターは倒れたのである。

●パーティーの後はパーティーへ
 ――ポン!
 倒れたドリームイーターは、可愛いコウモリのぬいぐるみに変わった。
「あのしぶとさ……気概だけは吸血鬼並……というと、本物に怒られるかの」
 最後まで彼女と過ごすハロウィンを夢見たドリームイーターの断末魔。それを思い出してシエナが苦笑を浮かべる。
「吸血鬼だからコウモリ?」
「折角だから飾ってあげましょう。飾りとしてパーティーを満喫してもらうってのもいいんじゃないかしら」
 猛が近付いてぬいぐるみを覗き込むと、リンダがコウモリのぬいぐるみをテーブルの中央に、ちょこんと置いた。
「ご馳走は全部食べつくすまでがパーティーですわ」
 そのテーブルに乗るパスタを、レーンが美味しそうにもぐもぐと頬張る。
「作った側としちゃ、美味しく食べてくれるのが何よりだな」
 亮斗は、レーンの様子を嬉しそうに見守り、自分でもピザを口に運んだ。
「わたし、本来のパーティにも参加してみたい、です」
 南瓜プリンを食べながら、アンジェラが呟く。
「私も~、行きたいですぅ」
 戦闘で傷ついた周囲をヒールで直していたフィオーナが、のんびりした口調に戻って、アンジェラの横でパンプキンマフィンを取った。
「じゃあ、折角の料理を食べたら、皆で本来のパーティーに行こうか」
 パンプキンケーキを食べながら、シヴィルが提案すると、一同は笑顔で頷いた――。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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