触手生物、海辺に潜む！？

■リプレイ

●大ダコ、襲来！
　熱い砂浜、白い海。どこまでも続く青い空の下、広がるのは南国のリゾート地。
「タコってやぁねぇ、うねうねしてて……。見た目があまり好きじゃないわぁ」
　だが、そんな魅力的な場所を訪れているにも関わらず、ペトラ・クライシュテルス（血染めのバーベナ・e00334）は重苦しい様子で溜息を吐いた。
　否、彼女だけではない。よくよく見れば、この場に集まった大半の者達が、微妙な顔をして打ち寄せる波を眺めている。
　何も知らずに遊んでいる、一般人達が羨ましかった。しかし、そんな彼らの幸せを守るためにも、自分達は戦わねばならない。
「タコ型のドリームイーター……。いろんな意味であぶない予感がしますが、海で楽しんでる人達のためにも頑張りますっ！」
　そう、剣・聖（鍛錬中・e36110）が叫んだところで、その声に呼ばれでもしたのだろうか。
　突然、海面が大きく盛り上がり、その中から浮島よろしく巨大なタコが現れた。
「う、うわぁぁぁぁっ！」
「きゃぁぁぁっ！　怪獣よぉぉぉっ！！」
　予期せぬ怪物の襲来に、海水浴に来ていた一般人達は、早くもパニック状態である。もっとも、この程度の騒ぎは折り込み済みなのか、ケルベロス達に慌てた様子は微塵もなく。
「陸のタコってどうなんだ……」
　遠慮なく上陸しようとする巨大タコの姿に突っ込みを入れつつも、桜庭・萌花（キャンディギャル・e22767）は逃げ惑う一般人達を魅了し、自らの方へと引き付けて誘導して行く。同じく、光宗・睦（上から読んでも下から読んでも・e02124）も海上を飛行しつつ、一般人達に向けて海から退避するよう声を掛け。
「みなさーん、ケルベロスです！　マジでエグくてヤバい怪物警報発令！　みんな逃げて！！」
「うげっ！　気色悪っ！　こ、こっち来んなぁぁぁっ！！」
　声の届いた一般人達が、それぞれ蜘蛛の子を散らすようにして、海から上がり逃げ出した。
「プシュゥゥゥッ！　プシュルルゥゥゥッ！！」
　なにやら奇妙な雄叫びを上げながら、逃げる一般人達を狙って大ダコが触手を伸ばして行く。だが、それが獲物を絡め取るよりも先に、凄まじい轟音と共に放たれた砲弾が、タコの触手を直撃した。
「避難までの時間を稼ぐよ！　そこを動くな！」
　ハンマーの柄を構えたまま、大ダコと対峙する風音・和奈（哀しみの欠如・e13744）。怒った大ダコが彼女の方を向けば、続けてその身体に鋼の拳が突き刺さり。
「……タコ野郎、相手はあたしよ。タコ焼きにでもなってなさい」
　すかさず拳を引き抜いたところで、浜咲・アルメリア（捧花・e27886）は距離を取りつつ、大ダコに挑発するような視線を送り。
「何時アタリを引いてしまうか判らないし、早めに対応はしたいのだけど……。今は、目の前の状況を整えなければね」
　両手に愛用の刀を携えつつも、ヒメ・シェナンドアー（白刃・e12330）は逃げ遅れた一般人達を後ろに下がらせ、大ダコとの間に割って入る。
　戦いの準備は万全だ。大ダコの方も、どうやら逃げて行く一般人達よりも、ケルベロス達の方を最初の獲物として見定めたらしい。
「今回のターゲットは、ドリームイーター・ジュエルジグラッド、通称ドリームイーター。生み出した方は、すでに姿を消した後のようですが……新たに生まれたドリームイーターの分だけでも賞金をいただきましょう」
　流動する漆黒の衣を纏い、フィア・シュヴァルツ（デウスエクスハンター・e39509）は、夜の闇よりも暗き色の大剣を構えて宣戦布告。果たして、こんなタコに賞金が掛かっているかは怪しいところだが、それはそれ。
「デウスエクスハンター・フィア、参ります！」
　うねる触手の合間を縫って、フィアは自らの身体を業火で覆い、勢いに任せて敵の懐へと飛び込んだ。

●タコ墨シャワー
　海水浴客の嫌悪により誕生した、巨大なタコのドリームイーター。その力は水中だけでなく、陸上においても健在だった。
「わぷっ！？　墨で視界が！？」
　特大の墨キャノンを食らって、聖の顔面が早くもモザイク色に染まってしまった。大ダコの繰り出す技の数々は、戦う場所を選ばない。
「こ、こういう時こそ心を落ち着かせて、心の目で……」
「うわっ！　ちょっと、危なっ！？」
　それでも、懸命に敵の居場所を探って拳を繰り出す聖だったが、残念ながら攻撃は明後日の方向へと逸れて行く。むしろ、その辺にいた和奈に直撃しそうになり、隣にあった岩を粉々に粉砕してしまう始末。
「ごっめーん、おまたせ♪　みんな、大丈……夫、じゃないみたいだね」
　避難誘導から戻って来た萌花が、周囲の惨状を見て全てを悟った。
　なるほど、これは色々な意味で強敵っぽい。傍から見ているだけなら笑い話で済むが、自分も当事者の一人として、巻き込まれることを考えるとやってられない。
「召しませ、Sweet Temptation♪」
　とりあえず、少しでもキモい動きを封じるべく、萌花は魔力を増幅させる口紅を塗り、魔性の言葉を囁いた。正直、こんなタコに惚れられても全く嬉しくないのだが、今は気にした方が負けである。
「受けてください、我が漆黒を！」
　続けて、大剣を構えたフィアが一直線に大ダコへと斬り掛かるが、その刃は大きく空を切るだけ。
　もっとも、これは単なる見せ技だ。本当の本命は、彼女の纏った漆黒の装甲。漆黒の残滓を鋭い槍の形へと変えて、敵を貫き猛毒を注ぎ。
「好きにはさせない――」
　先読みの牽制でヒメが大ダコの動きを抑え込めば、そこに斬り込むのはペトラと和奈の二人。
「うふふ……バラバラにしてあげるわぁ」
「その目障りなタコ足、切り落としてやるよ！　喰らいなっ！」
　巨大な鎌と鋼の竜爪。鋭い斬撃はそれぞれに大ダコの触手に食らい付き、そのまま勢いに任せて斬り落とす。奇声を発して暴れる大ダコだったが、その様子をアルメリアは静かに見つめており。
「……すあま、食べちゃ駄目よ」
　落ちた触手へと飛び付かぬよう、相棒のウイングキャット、すあまに忠告する。正常なる羽ばたきで聖の食らった目潰しを除去させつつ、自らは指輪より光の剣を精製し、正面から敵の頭に叩き付けた。
「プッキュォォォォッ！？」
　情け容赦ない一撃に、大ダコが悲鳴を上げながら墨を吐く。敵の意識が正面へと向いていることを察し、続けて強襲したのは他でもない睦だ。
「この空が、私の味方……！！」
　空中から巧みに大ダコの背後を取り、そのまま飛び上がる睦。粘液を纏った軟体性の身体は掴み難かったが、それでも頑張って持ち上げると、そのまま自由落下を活かしつつ、締め上げるだけ締め上げた……のだが。
「うわぁ、気持ち悪っ！　なんか、手とか腕とかベタベタするし……」
　なんというか、この手の敵に接近戦を、しかも肉弾戦を仕掛けたのは、根本的に間違いではなかろうか。いや、確かにダメージを与えることはできますが、それでも不快な気持ちにさせられるのは、絶対に避けられないことなわけで。
「プッキュッ！　プッシュォォォッ！！」
　完全に怒り心頭になった大ダコが、頭から湯気を立てて激昂している。いっそのこと、このまま茹でダコになって死んでくれればいいのに。誰ともなしに、そんなことを考えたものの、それで大ダコが消えてくれるはずもなく。
「墨の中に……隠れた？」
　モザイクの墨を自ら纏う大ダコの姿を見て、ヒメが呟いた。モザイクの墨を纏うことで、敵は体力を回復させるつもりだ。
　墨の中、不気味に揺れる大ダコの触手。なんとも気色悪い動きと共に、切断された触手の先が、粘液の絡み合う音と共に再生した。

●触手、大乱闘！
　人気の完全になくなった浜辺で、大ダコとケルベロス達の死闘は続いていた。
　これが映画なら、『地獄の番犬、南海の大決闘！』とかいうタイトルになるのだろう。まあ、実際はそんな悠長なことを言っている暇などなく、気が付けば大半の者が、タコの墨やら触手やらに翻弄されていた。
「くっ……し、視界が……。それに、なんか墨で全身ベトベトだわ……」
　度重なる墨攻撃を食らい、既にペトラは全身がモザイク色に染まっていた。気が付けば、ビキニの水着もモザイクまみれ。なんというか、実際には見えていないはずなのに、これはこれで物凄く卑猥な気がするのはなぜだろう。
「くっ、しぶといですね……」
　全身を覆う残滓が消耗して来たことを察し、歯噛みするフィア。敵は墨隠れによって体力を回復してくるため、思った以上に戦闘が長引いてしまっている。結果、彼女の衣服や装備もダメージを受け、だんだんと素肌が露わになっており。
「プッキィィィッ！！」
　ここぞとばかりに狙いを定め、大ダコが触手を一斉に伸ばして来た。四方八方へと伸びる８本の腕。それらの全てを巧みに動かし、ケルベロス達を一網打尽にするつもりなのだ。
「さ、させません！」
　だが、そんな大ダコの攻撃を前にして、果敢にも立ちはだかったのは聖だった。
　迫り来る無数の触手。本来であれば陸やアルメリアが狙われる分の攻撃まで、聖は己の身を盾にして一手に引き受ける。
「ひゃっ！？　手も足も！？　は、離してくださいっ！」
　もっとも、捨て身で仲間を庇った代償は重く、一気に触手によって絡め取られた挙句、そのまま宙吊りのような形にされてしまった。
「くっ……！　し、しまった！？」
　同じく、聖が庇い切れなかった触手はフィアを襲い、彼女もまた触手に巻かれてしまうことに。
「こ、こら！　変なところに貼り付くな！」
「そんなとこ入れて……うごいちゃだめぇぇ！」
　大ダコの吸盤が彼女達の肌に吸い付いて、容赦なく身体を締め上げて行く。そればかりか、触手の先端は彼女達の服の中に入り込み、更なる責苦を与えようと暴れまくる。
「すあま、そっちは任せたわ」
　フィアのフォローはすあまに任せ、アルメリアは自身の気を薄紅の芍薬の花に変えて聖に届けた。
「癒せ、《枸杞》。叢雲流霊華術、壱輪・芍薬」
「きゃぁっ！？　……うぅ、た、助かりました……」
　触手から振り落とされ、砂浜に落下した聖が悲鳴を上げる。かなり消耗はしていたが、それは敵も同じこと。
「隙あり！　当ったれぇぇぇっ！」
　空中高く舞い上がった睦が、その手に握り締めた戦斧を振り下ろす。輝く呪力と共に繰り出された一撃は、真後ろから大ダコの脳天を直撃し。
「プッシュォォォッ！？」
　あまりの衝撃に、大ダコは墨と一緒に目玉まで飛び出しそうになっていた。が、この程度では、まだまだケルベロス達の猛攻は終わらない。
「ついでに、そのタコ皮も剥がす！」
「ってゆーか、大きいタコとかガチの怪物じゃん。ふつーにきもいんだけどぉ！」
　和奈と萌花、二人の拳が左右から身体にめり込んで、大ダコはますます悶絶しながら墨を吐き出した。
「続けていくわ」
　間髪入れず、隙を狙ってヒメが敵の口に稲妻を纏った刃を突き立てる。その隙に、フィアもまた自身の纏う残滓を弾丸に変え、その全てを大ダコ目掛けて撃ち出した。
「漆黒の弾丸よ、我が敵を撃ち抜け」
　情け容赦なく降り注ぐ黒き雨。その度に彼女の身体を覆う残滓が薄くなって行くような気がするが、細かいことは気にしたら負けだ。どうせ、一般人は当に浜辺から退避しており、しかもここには女子しかいない！
　のたうち、暴れ回る大ダコが、身体を引きずりながら海の方へと逃げて行く。もっとも、ここで逃がすつもりなど毛頭なく、聖とペトラは互いに視線を合わせると、無言のまま頷いて一気に駆けた。
「宿命は……『斬り』開くものと見つけたりっ！」
「たこ焼きの具になるか、丸焼きになるか、選びなさぁい！」
　このまま逃がしてなるものか。身体を回転させた勢いのままに聖が敵の触手を叩き斬れば、最後はぺトラの繰り出す桃色の魔方陣が、彼女を中心に広がって行き。「総てを識る聖譚の守り手よ、古の契約に依り其の力を示せ。――さぁ、細切れにしてあげるわぁ！」
「プッキュゥゥゥッ！！」
　解き放たれし空間の楔が、敵の身体を千切るように裂いて行く。なにやら、妙に甲高い悲鳴を上げ、巨大なタコのドリームイーターは、溶けるようにして消滅した。

●ソース派？　醤油派？　それとも、マヨ派？
　真夏の太陽の下、浜に広がる黄色い声。戦いの終わった海辺には、再び海水浴客達が舞い戻り、それぞれの休暇を楽しむ姿があった。
「怪我をされた方は、いないようですね」
　迅速な避難が功を制したのだろう。一般人に負傷者が出なかったことに安堵するヒメ。だが、実際に大ダコと戦った者達からすれば、それどころではないようで。
「あ、危ないところでした……」
「うぅ……。服もほとんどなくなっちゃいましたし、ひどい目に遭いました……」
　殆ど半裸に近い状態にされてしまったフィアや聖にしてみれば、冗談では済まない話だった。タコの吸盤に貼り付かれた場所が、未だに痺れているような感じがするのは気のせいか。
「みんなの服、ちゃんと綺麗にしないとね」
　惨状に苦笑する和奈だったが、正直、綺麗にするとかしないとか、そんなレベルの話ではない。着ている服は綺麗にできても、既に失われてしまった服に関しては、どうすることもできなかった。
「まあ、気にしても仕方ないじゃん。それよりも、ちょっとくらい遊んでいかない？」
　折角、沖縄の海に来たのだから、楽しまなければ損だろう。そんな萌花の提案に、他の者達も頷いて。
「どうせなら、あのタコでタコ焼きでも作れればよかったのだけど……」
「確かに、ちょっと勿体なかったかも……。あ、ちなみに私は、マヨたっぷり派で！」
　喉元過ぎれば、なんとやら。他愛もない会話を交わすペトラと睦が、ふと浜辺の方を見てみると、アルメリアが嫌悪の感情を奪われていた女性を介抱しているところだった。
「タコは気持ち悪いけど……茹でてしまえばこっちのものよ……。ほら……タコ焼き……とか……どう？」
　そう言って、アルメリアはタコ焼きを販売している海の家の方へと指を差す。とろける生地に、ソースと鰹節。見た目が気持ち悪い生き物でも、刻んで食材にしてしまえば、こっちのものだ。
「そ、そうね……。それに、タコ焼きになっちゃえば、見た目もそこまで気にならないし……」
　意識を取り戻した女性も、なんとか気を取り直してくれた模様。望まれぬ来客こそあったものの、海水浴は、これからだ！

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年8月19日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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