UMAを探せ

作者:あかつき

●山間部にて
「うわ……これマジ出そうじゃん……なんだっけ、チュパカブラ? ネットで調べたけど、結構グロい外見してるよな」
 人気のない山間の森の中。大学生と思しき男性が、草を掻き分け歩く。最近、インターネットのサイトで有名な噂で、このあたりでチュパカブラに血を吸われたネズミが発見された、というものがあった。
「いくら罰ゲームって言っても……これ、ガチすぎねぇ? でも、見つけたら俺……大発見ですげー金もらえるかも……」
 誰もいないのに1人でぶつぶつ垂れ流してしまう程に、彼はビビっていた。
「しかも、人襲わないって書いてたのに、あいつら最近のチュパカブラは人も襲うから気を付けろって……いらねぇ情報だよ。まじ怖ぇわ」
 出たらどうしよう、走って逃げられるもんなのか、と繰り返し呟く彼の胸が、突然現れた女性の持つ巨大な鍵に貫かれた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にはとても興味があります」
 そして、倒れこむ彼の横に現れたのは、爬虫類的な顔をした二足歩行の生物。
「シャッ」
 そう短く鳴くや否や、胸の部分がモザイクになったその生物は、木の枝に飛び乗った。

●UMAを探せ
「不思議な物事に強い『興味』を持って、実際に自分で調査を行おうとしている人がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われ、その『興味』を元にドリームイーターが生み出される事件が起こった」
 雪村・葵は集まったケルベロス達に説明を始める。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に現場を去っているが、生み出されたドリームイーターはその場にとどまり更なる事件を起こそうとしている。被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してきてくれ」
 ドリームイーターは一体、配下などは存在しない。
「このドリームイーターはチュパカブラの形をしているらしい……しかも、最近のチュパカブラじゃなくて、少し古い方のチュパカブラだ」
 少し古い方、と言われても、と首を傾げるケルベロス達に、葵は続ける。
「簡単にいうと、爬虫類みたいな感じで、二足歩行だ。このドリームイーターは噛み付いてきたり、爪で引っ掻いたりして攻撃してくる。気をつけてくれ」
 また、『自分が何者であるか問う』ような行為をして正しく対応できなければ殺してしまう、という特性がある。他にも、自分の事を信じていたり噂話をしていたりする人がいると引き寄せられる習性があるため、上手く利用すれば有利に戦う事が出来る。
「チュパカブラは、ある意味ひとつのロマンだと思う……そんなロマン溢れる『興味』を利用するなど、許せない。是非、早めに撃破してきてくれ」
 葵はそう言って、ケルベロス達を送り出した。


参加者
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
メロウ・グランデル(分類は自然科学・e03824)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
鉄・冬真(薄氷・e23499)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ

●我々はチュパカブラを追い、山間部へとやってきた。
「この辺りで大丈夫ですかね」
 被害者のいる辺りから離れ、足場を確保できる開けた場所に立った筐・恭志郎(白鞘・e19690)がぽつりと呟く。
「そうだね、良いんじゃないか?」
 弟分である恭志郎の選択に同意を示しつつ、鉄・冬真(薄氷・e23499)は辺りを見回す。木々の多い山にあって比較的広いスペース、そして足場はしっかりしている。
「そうですねーぇ、じゃあ早速ぅ」
 独特の間延びした口調で喋りつつ、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)はアイズフォンを取り出した。
「この辺りはーぁ、人の血を吸うチュパカブラが出るぅ……らしい、ですよーぉ」
 その情報に、アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)は嬉しそうに頷く。
「日本ですとツチノコや雪女が有名ですが外来のUMAも現れてきているのです、ね!」
 気合の入ったアニエスに、メロウ・グランデル(分類は自然科学・e03824)がぐっと拳を握りしめた。
「最初にChupacabraの発見報告があったのは1995年、プエルトリコの牧場だったそうです。それが、海を渡ってきっと日本に……」
 やたらと発音良くチュパカブラと言うメロウ。
「たしかダンジョン……ウルフクラウドハウスにもチュパカブラがいましたっけ? あちらは種族がドラゴンらしいですが、やはり似通ってる部分もあるんでしょうか」
 思い出すように首を傾げながら、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)は呟く。
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)は、それぞれのチュパカブラに対する思いに耳を傾けながら、口を開く。
「まぁ、チュパカブラは有名なUMAだからな。そういえば、名前の由来は『吸う』という意味の『チュパ』と『やぎ』を表す『カブラ』が合体した言葉で、『やぎの血を吸うもの』という意味らしいよ」
 ルージュの調べたチュパカブラ豆知識に、ツグミは目を細める。
「チュパカブラ……改めて口にすると、不思議な響きですねーぇ。由来を知ると、尚更名前に不気味さを感じますねーぇ……」
「因みにですが、チュパとカブラ、言語はスペイン語で、一番最初の目撃例から採られた名前ですね」
 なんだかその瞳に炎のような情熱を宿らせながら、メロウは力説する。
「ふぅん、面白い名前だと思っていたけれど、スペイン語なのね」
 自分ではあんまり調べて来なかった曽我・小町(大空魔少女・e35148)は、皆の話を聞きながら頷く。
「ふむ、スペイン語か。言われれば、そう言った雰囲気はあるな」
 ルージュは自身の知識の欠落部分を聞きながら、感慨深げに頷く。
「メロウは他にも何か知っているのかな。博識だから、何かあったら教えてくれないか?」
 冬真に尋ねられ、メロウの眼鏡がキラリと光る。
「そうですね、色々ありますよ。血を吸うための牙以外にも鋭い鉤爪と強靭な脚を持ち、最大で5mの距離をジャンプで詰めてくる……目撃情報によっては翼を持ち、空を飛ぶとも言われています。また、Chupacabraは米軍の生物兵器とも言われていたり、UFOと同時に出て来たケースから宇宙人説もあるんですよ」
 最初から熱は入っていたが更にヒートアップして来たメロウの語りに、一同は驚愕を通り越して最早微笑ましい気持ちになっていた。
 そんなメロウに負けじと、恭志郎は予め用意していた噂の発端となったであろうサイトの記事のコピーを取り出し、読みながら口を開く。
「UMAは浪漫だからね。こういう山奥にUMAはつきものだね」
 生き生きした瞳で話しかけてくる冬真に、恭志郎も頷く。その横で、発音の同じユウマがぴくりと反応していたが、恥ずかしかったのか誰にも気付かれないようさり気なく目を逸らしていたので、一同はそっとしておく事にした。
「浪漫ありますよねぇ。他にもツチノコとか有名ですけど、古いとこだと……ネッシーに対抗して、クッシー、アッシー、キナッシー、あと……」
「ふなっ……えー、あれだ。ッシーと付く奴は、結構いるんだね」
 何かを言いかけた冬真は、ごほんと1つ咳払い。
「何気に世界各地で事件があったらしいですからね。中国でもあったそうで……だから、日本に来ててもおかしくないですよね」
 そんな兄貴分に苦笑をこぼしつつ、恭志郎は記事のコピーをひらひらさせながら言う。
「ルーンヤ! ルーンヤ!」
 後ろの方で叫び出したメロウに、2人は驚いて振り向く。
「その変な鳴き声……何? 呪文?」
 尋ねた小町に、両手の指を3本前に構えたメロウはカッと目を見開く。
「鳴き声ですよ、Chupacabraの」
「チュパカブラとは鳴くものなのか……勉強になるよ」
 ルージュは感心したように頷く。果たしてチュパカブラの勉強とはなんなのか。少しだけメロウとルージュ以外の全員の胸に疑問が過るが、まぁいっか、という雰囲気になった。何より、この場においてそのツッコミほど野暮なものはない。
「まぁ、チュパカブラが謎の生命体であるのは間違いないからね。こういう所に出てきてもおかしく無いだろうね」
 冬真は肩を竦め、そしてやや芝居掛かった風に周囲を見回そうと視線を上げる。
「ほら、こういう場所は今にも出て来…………」
 木々の隙間を何と無しに見たその時、冬真は動きを止めた。
「どうし…………あぁ〜」
 視線の先を覗き込んだ恭志郎も、思わず気の抜けた声を上げる。そんな2人を見て、他のケルベロス達も視線を上げる。その先にいたのは。

●いたっ!
「………………ルーンヤ」
 申し訳程度に鳴きながら、それは地面に落ちてくる。とすっと軽めな音をさせ、3本指で着地したそれは、ごほんと1つ咳払い。
「おいお前ら、俺が何だかわかるか?! わからないだろう!! ふははははは!!!! ほらっ、言ってみろ!!!!」
 多分、相手も自棄に近いのだろう。何気なく見上げたら事故で見つけてしまった冬真は、相手はドリームイーターながらもなんだか申し訳ないような気がして来た。あくまで、してきた、というだけだけど。
「ちゅ……Chupacabra!!!!」
 ある意味衝撃的な登場の仕方をしたにも関わらず、メロウはその姿形に感動したらしい。きらきらと眼鏡の向こうの瞳を輝かせ、彼女は叫ぶ。
「ちゅ、ちゅ、ちゅぱか、チュパカブラ……ですね!!」
 言い辛そうだが、アニエスはなんとか言い切る。次、というように目を向けられた先のルージュは、納得したように頷きながら答える。
「うむ。聞いていた通りの姿だね。噂が現実になったのだろう、まさしくチュパカブラだ」
 その横で、ユウマも大きく頷く。
「ええ、ユ……もとい、UMAのチュパカブラですよね」
 名前的な親近感は、この際横に置いておこう。
「簡単じゃないですかーぁ、チュパカブラですよぅ」
 薄っすらと笑みを浮かべながら、ツグミが答える。
「…………えと、チュパカブラ……資料……資料は……」
 呆気にとられていた恭志郎が、いつの間にか落としていた記事のコピーを地面から拾い上げて、見比べる。
「資料通り……、通り?」
 なんだか、少し違う気がするけど。具体的にいうと、ちょっとだけ大きいような。人間の血を吸うチュパカブラ、だからかもしれない。
「……チュパカブラだろう。有名だ」
 気を取り直した冬真が答える。
「ッチ…………ほら、最後そこの」
 ドリームイーターは酷くつまんなさそうな様子で一本の指を小町に向けた。小町はふふん、と笑い、自信満々な様子でびしっと人差し指をドリームイーターに向け、叫ぶ。
「見たことあるわね。ディノサウロイドだったかしら!!」
「たしかに二足歩行だがだいぶ違うだろう!!!」
 思いもよらぬ答えに、ドリームイーターはカッと目を見開いた。
「爬虫類系って所とかあってると思うのだけれど」
「ちっがーーーーーう!!! 失礼なお前から殺してやる!!」
 ドリームイーターはぐっと足を踏ん張り、鋭い牙で噛み付こうとするが。
「あらあらUMAの運動能力って、そんなもの?」
 元々離れていた上に華麗に飛び退った小町には、その牙は恐らく届かないだろう。そうは思うが、素早く距離を詰めようとするドリームイーターに好きに動かせる気は、更々なかった。
「行かせませんよ」
 ユウマが振るった鉄塊剣は、足をバネのように使って動くドリームイーターの横っ面に見事命中した。
「ルッ……ルーンヤッ!!!」
 元々届かなかったであろう攻撃を阻止されたドリームイーターは、怒りを露わに鳴く。
「チュパカブラ、なかなかに興味深いね」
 ルージュは満足げに呟きながら、地面を蹴って飛び上がる。勢いそのままに、怒るドリームイーターの横っ面を蹴っ飛ばした。
「ぐふっ」
 なんとか踏み止まったドリームイーターに、メロウの構えるドラゴニックハンマーから発射された竜砲弾が命中した。サーヴァントのリムはメロウを援護するように、尻尾の輪を飛ばして攻撃を加えていく。
 よろめくドリームイーターに、恭志郎は愛用の護身刀を手に間合いを詰める。
「すみませんが……あまり、動き回らないで下さいね」
 咄嗟に身構えようとするドリームイーターの腕を正確に突き崩す。
「ぐぬっ?!」
 一撃を受け動きが極端に鈍ったドリームイーターの懐に走り込むのは冬真。
「いくよ」
 静かに言い放つ冬真は、斉天截拳撃をドリームイーターに叩き込む。
「さてさて、鬼さんこちらって奴ね!」
 姿勢が完全に崩れたドリームイーターに、小町は美しく虹を纏いながら、急降下して蹴りを食らわせた。吹き飛ぶドリームイーターに、小町は目を細めた。
 挑発するような小町の台詞に、ドリームイーターは元々かなり凶悪そうな顔を更に歪ませた。小町は言いながらドリームイーターから距離を取り、その間サーヴァントのグリは仲間達の間を飛び回って清浄の翼で、援護していく。
「このぉ……チュパカブラをなめるぐぉっ!!」
「すいませんねぇ、お話中でしたかーぁ?」
 立ち上がったドリームイーターが話している途中で、その脇腹にツグミの電光石火の蹴りが入った。
「ポチくん! アニエス達もがんばりましょうっ!!」
「ピコピコ!!」
 アニエスはテレビウムのポチに声をかけてから、仲間達を見回す。ドリームイーターの攻撃は今の所当たっておらず、回復の必要は無さそうだ。
「えいっ……!!」
 アニエスは大きく一歩を踏み出し、ぐらりと膝をつきそうになるドリームイーターへ破鎧衝を食らわせる。
「ポチくん!!」
 アニエスの合図に、ポチはぶんぶんと傘を振り回し、そしてドリームイーターに殴りかかる。
「っぐぅ……」
 べたりと地面に突っ伏しかけるドリームイーターは、寸前で手をつき、ゾンビのような動きで立ち上がる。
「るぉおおおおお!!!」
 唸り声をあげ、ドリームイーターは辺り構わず爪の生えた手を振り回す。土が抉れ、木が倒れ、そして、ケルベロス達にもその攻撃は襲いかかる。
「回復、しますよーぉ」
 広範囲に渡った攻撃に、ツグミはオウガメタルを展開し、オウガ粒子を放出、仲間達に回復を施していく。
「手伝うわ。グリも、よろしくね」
 小町の声に、グリも頷き回復の為に仲間達の間を飛んでいく。小町もオラトリオヴェールを使い、仲間達の回復に努める。
「長引かせると厄介だね……」
 呟くと、ルージュは地獄の炎を増幅させていく。体外に流れる程になった地獄の炎を噴射させながら、ルージュはその手をドリームイーターへと伸ばす。
「例え偽りの翼でも、翔んでみせようーー皆が笑って迎えるハッピーエンドまで」
 ルージュの放った朽紅の蝋翼は、跳んで逃げようとするドリームイーターを追いかけていく。
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
 枝に飛び乗った瞬間地獄の炎に包まれたドリームイーターは、跡形もなく燃え落ちた。

●お疲れ様でした。
「こんなもんですかねーぇ?」
 空いた穴と倒れた木々をヒールで治したツグミがパンパンと手についた砂埃を叩き落とす。
「じゃあ、被害者さんの無事をかくにんしにいきましょうか」
 アニエスに同意を示すようにピコピコ言うポチ。ケルベロス達は、被害者が倒れていると言う場所へと急ぐ。
「……んん?」
 その場所へ行くと、座り込んで時々頭を振り、考え込んでいる大学生がいた。彼が今回の被害者で間違いない。
「大丈夫ですか?」
 駆け寄ったメロウが彼の頭についたままの落ち葉を適当に払って、手を貸す。
「見た所怪我も無さそうだね。あぁ、落ち葉や砂埃はついてしまっているから、払った方が良いな」
 立ち上がった大学生の様子を確認するルージュは、取り敢えず彼の背に広範囲に渡ってくっついていた砂埃を落としてやった。
「気分とかは悪くないですか? 頭痛いとか」
「え? うん、大丈夫。なんで俺こんな……」
 気遣うユウマに素直に頷きながら、大学生は少し眉間に皺を寄せて考える。
「えーっと、俺……は……あーチュパカブラ? チュパカブラは?」
 ぱちぱちと目を瞬いて尋ねてくる大学生に、小町が溜息を吐いた。
「まぁ興味は分かるんだけどね」
 首を傾げる大学生に、冬真が肩を竦める。
「危険だから一人で山に入るのはやめた方がいい。人を襲う怪物はチュパカブラだけではないから……ね?」
「え……?」
 さっと顔を青くする大学生に苦笑しつつ、恭志郎がぽつりと一言。
「ケルベロスでも8人がかりでしたからねぇ」
 その一言に、大学生の顔がひきつった。
「ともかくお兄さん、この山間を一人で探索って方が無茶だと思うのよ! 装備と人員は充分に、ね?」
 流石に可哀想かと思って小町が比較的親身に声をかける。その優しさが多少伝わったのか、大学生はしょんぼりと肩を落とし、頭を下げる。
「すいませんでした……、なんだか、迷惑をかけてしまったみたいで」
 そう言う大学生の肩にポンと手を置き、ツグミは笑う。
「兎に角、もう危ない事は控えてくださいねーぇ。でないと、チュパカブラではなく自分が襲って資源として食べちゃいますよーぅ♪」
 ご機嫌なその一言に、大学生の目から溢れる涙。
「ひ、ひぃいぃぃぃいい!!!!」
「やだなぁ、冗談ですよーぉ」
「嫌だっ、あっ、そのっ……今後気をつけますーーー!!!」
 その後、ケルベロス達は泣いて謝る大学生を十分くらいかけて宥め、励ましながら下山する事になったのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。