ミッション破壊作戦~回廊裂破 光明 弐

作者:雨屋鳥

 ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)はご存じの方もいらっしゃるとはおもいますが、と前置きして説明を始める。
「グラディウスは、光る小剣型の兵器です」
 しかし、通常の兵器ではなく、強襲型魔空回廊を開き、破壊するための兵器だとダンドは続けた。
 これの使用によって各地、侵略された地域を解放できる。
 だが一度力を解放すれば充填に数週間、または数ヶ月かかるのだが。
 それが、いま整った状態の好機だ。
 強襲型魔空回廊は、敵にとっても重要なものだ。周囲はドーム型のバリアと護衛戦力が存在する。
 地上からの接近は困難を極める。限りある兵器であるグラディウスが奪われる危険もある。
「ですので、ヘリオンを利用した高高度からの降下、そして攻撃即離脱を行います」
 ドーム状のバリアは周囲30m。それ自体も魔空回廊の力なのでバリアに力を解放したグラディウスを接触させれば強襲型魔空回廊に影響を伝播することが出来る。つまり、攻撃を防ぐバリアによって標的が大きく攻撃しやすくなっている。
 上空からの攻撃は周囲の護衛戦力に迎撃されることもないはずだ。
「グラディウスはその機能を発揮する際、雷光と爆炎を発生します」
 武装としては使用できないが、混乱を引き起こす事は十分に期待できる。
 そしてそれは撤退の目くらましとしても活用できる。ダンドは通常なら突破出来るはずも無い防衛戦力の只中から、これを利用して敵の群中から脱出してほしい。と説明を続ける。
「グラディウスに込められるグラビティに含まれる思いによって、効果には大きく差が生まれます」
 極限まで性能を引き出したグラディウスを使用すれば一度の降下作戦で魔空回廊を破壊できるとのことだ。多くかかっても10回程で破壊自体は可能でもあると予測されている。
「周囲の戦力は余波によって、ある程度無力化が図れます。それでも完全に無力化することは出来ないでしょう」
 おそらく戦闘自体は避けられない。だが、混乱の最中、連携は十分に行えないだろう。
 撤退の道を阻まれたのであれば、その個体だけを素早く撃破することが最善だ。
「侵略地を取り戻すことができれば重畳、ですが、グラディウスの堅守も重要です」
 ダンドは、告げる。
「何より、無事に帰還してくれる事を願っています」


参加者
双刃・炎希(イクサガミの寵児・e00195)
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
舞阪・瑠奈(ヤンデレ美人・e17956)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
マリア・ライン(黒山羊の女神の偶像聖女・e33839)
安海・藤子(道化と嗤う・e36211)

■リプレイ


 島根県松江市、歴史あるその長閑な町並みは倒壊した建物の瓦礫が山となり、回収されずにその地域の危険を示していた。
 泥濘の様に広がった雲は、まばらに火の散った街を閉ざしている。
 過ぎる空気が耳元で爆音をかき鳴らし、複数の小さな影が月明りを遮る灰色の帳を突き破った。
「見えたわ……!」
 翼を畳み、自由落下に身を任せるオラトリオの少女が、視界を遮るものが無くなった空から見えた魔空回廊を目に捉えた。
 マリア・ライン(黒山羊の女神の偶像聖女・e33839)に続いてケルベロス達は目標物を目視していく。
「ここを押さえれば、人々を救うことにも後続ケルベロスの成長にもつながります」
 世界が愛と平和で溢れていますように。倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)がケルベロスとして常に持つ願い。地球の破壊を信条として掲げるかのビルシャナが存在していては、その願いは叶いようもない。
 空気の叫ぶ音に呟きながら彼女は迫る魔空回廊の結界へとグラディウスを構えた。
 同様に、グラディウスを構えながら空を流れ双刃・炎希(イクサガミの寵児・e00195)は、再度ここにいる理由を心に浮かべる。
「決まってるよな」
 皆と、生きる、ため。ただその意志を胸に滾らせ、結界へと一直線に下っていく。
「やれやれ、おばちゃんに恋する乙女みたいな……魂を震わす叫びを期待するの?」
 風に白いレースの裾をたなびかせ、狐の獣人が息を吸い込んだ。
 ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)は肺の空気を吐き出す。
「機は熟した! 明王を騙る悪鬼を駆逐し、黄泉比良坂から冥府へ追い落とさん!」
 叫んだ彼女の横を舞阪・瑠奈(ヤンデレ美人・e17956)の声が過ぎていく。
「貴方達が来たせいで、楽しみに計画してたダーリンとの旅行が潰れちゃったじゃないの!」
 忙しいから無理、とか、一人で行けばいい、とか大事な所はそこじゃない。と溜まった鬱憤を晴らす様に声を吐き出す。
「二人で一緒じゃなきゃ意味ないって、そんな事も分からないのあのバカは!」
 あれ、私、個人的な事しか言ってない? と瑠奈の冷静な部分が密やかにツッコミを入れるも一度吐き出し始めた想いは、止めようとしても止まらないもので。
「絶対に二人で玉造温泉に入るの!」
 間近に迫った結界に向けて渾身の叫びをあげて彼女はグラディウスを振り下ろした。
 爆音が響く、噴出した黒煙が稲妻を抱いて周囲に広がった。
「地球の破壊なんてさせないわ! 地球は素敵なところだもの!」
 マリアが守るものの価値を笑みに込める。
「この街だって素敵に溢れてるもの! わからないなら教えてあげる! 私の想い全部込めて!」
「お城が合って、沢山の人の想いが合って、歴史があって。それを紐解くことであたしは術を手に入れる……禁術ってのは歴史の裏に隠されてるものよ?」
 マリアに協調するように安海・藤子(道化と嗤う・e36211)が言葉を重ねる。
「あんたたちが壊していいような場所じゃないの早く出て行きなさい」
「ふざけんじャねェ」
 自らの視界をも塞ぐ煙幕の中にクラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は暴言を放っていた。
「地球が争いの根源だ? てめェらが勝手にやッて来て勝手に暴れてるだけだろうが……っ」
 争いの元は、デウスエクスではないか、と思いが滾る。
 ここに生きる人々の今までもこれからも全てを無視した暴虐。だがそれ以上に。
「俺は、てめェらの目が、正しい事をしていますッつー面で浮かべている、その目が、怒りが」
 触れた剣刃が想いを乗せ、魔空回廊へと力を注ぎ込んでいく。
「気に入らねェんだよッ!」
「狂った思想に憑かれたビルシャナ! 地球は、愛すべきわたし達の故郷であるこの星はわたし達が護る!」
 七つの爆轟の後、最後に接触した佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)が叫んだ。
「お前たちなんかに渡さないし壊させない! そして歴史あるこの地、松江の地は返してもらう!!この地から――」
 一度、声を切り、肺へと空気を送り込む。
「――出て行けぇぇっ!」
 裂帛の叫びと共に、込められた思いが、全ての刃が、魔空回廊へと達した。


 立ち込める爆煙と雷光の中で、いましがたグラディウスの機能を振るった魔空回廊が垣間見えた。
 込めた思いは決して弱いものでは無い。
 だが、足りない。
 思いは、込めたグラビティは魔空回廊を消滅させるにはまだ至らず、その空間は、この地に揺るがずに存在を続けていた。
 それを目の端に捉えながらもケルベロス達は素早く視線を飛ばし合い、頷いた。
 魔空回廊の破壊には至らなかったが、それでもダメージを残すことは出来ているはずだ。周囲は、グラディウスの影響で敵が集まってくる様子はない。
「この通りをまっすぐに、それで最短距離のはずですわ」
 事前に調べていた地図を思い浮かべ、現在地と脱出ルートを示した瑠奈に続いて彼らは一団となり、煙の中を走り抜ける。
 退避開始は滞りなく行えた。このまま遭遇もせずに脱出できるか。
「まあ、そうそう甘くはないわよね」
 ユーシスがそう零す。
 彼らの進む先に、一つの影が見えた。赤毛の羽に覆われながらも、その強靭な体つきをはっきりと見せる鳥人の姿。
「尚も争いの渇欲を絶やさぬか……ケルベロスよっ!」
「邪っ魔だあぁっ!」
 構えを取る壊塵明王に勇華が突貫した。地を蹴り、突き放った拳は薙ぐように払われた壊塵明王の腕に捌かれ、宙に流れた彼女の体をビルシャナの剛脚が沈み込んだ。
 走る痛みも感じる間も無く、彼女の体が弾かれる。
 その脇を通り抜けようとすれば確実に背後を討たれるだろう。
「――っ! ……時間はかけないよ」
「ええ、手早く済ませましょう」
 衝撃にわき腹を押さえ着地した勇華の言葉に柚子が答え、味方を鼓舞する爆炎を散らした。と同時に、彼女のウイングキャット、エジプシャンマウが羽の祝福を与えていた。
 分身を現した瑠奈が駆け出し、手に透明なメスを出現させる。
 不可視の刃。そうと知らなければ何も握っていないように見えるだろうその武器を突き出す直前。
「っ!」
 ビルシャナが振るった腕翼から眩い光が放たれ、吹き上がる炎が瑠奈達に襲い掛かった。
「……だめね」
 身を焼かれながら瑠奈は、手に持つ刃が溶けた様に砕けているのを見て距離を取る。それと入れ替わる様に、クラムが飛び出した。
「っらぁっ!」
 流星の如き勢いのままに、火炎を纏わせた蹴撃を浴びせると、なおも止まらず怒りを凝縮したエネルギーを放出する。
 直前に動いた壊塵明王の脚にオルトロスが喰らい付いて軌道を逸らし、クラムの攻撃が直撃する。
 空気の炸裂する音と共に吹き飛んだビルシャナの体にクラムのボクスドラゴン、クエレがブレスで追い打ちをかける。
 再び、閃光が走ってブレスを裂いてケルベロス達を焼くが、それで攻撃が留まる事はない。
「下がれ、クロス」
「勝手言いやがる」と彼が強い舌打ちと共に吐き出す先、まだ余裕をもって立つ壊塵明王へと、蹴りからクラムを庇ったオルトロス、クロスにひと声かけ藤子がチェーンソー剣の騒音をかき鳴らす細かい刃でビルシャナに傷を植え付ける。
 そして、壊塵明王が動き出す前に、その体へと鎖が纏う。
「軍狼一槍の陣ってとこかしら?」
 ケルベロスチェインを町中の瓦礫と絡め、その体を縫い留めたユーシスは少しの照れを滲ませ、嘯いた。
「突破するっ」と炎希が蹴りから放つ炎弾をビルシャナへと放つ。
「複数相手を懸念していたが、単体相手で助かる」
 と静かに一人ごちる。目の前の壊塵明王が多数相手であった場合、突破は絶望的だっただろう。
 既に数分が経っている。
 キーターを鳴らし、歌声に癒しの意思を込めて響かせる。
 マリアが攻撃を庇い傷ついた柚子へとヒールを飛ばしながら、いまだ漂う噴煙に過ぎる影を見た。


 炎希のグラインドファイアの残滓を振り払いながら壊塵明王は、演武を舞い自らの体を癒し強化すると、周囲へと光を散らす。
 それに穿たれながらも勇華は駆ける。左に持つ白銀の鎌が空を裂いて壊塵明王へと迫る。
 そのビルシャナの首へと吸い込まれた白刃は、疲弊していたビルシャナの頸骨を砕き、高々とその頭部を跳ねた。
「みなさんっ!」
 とその瞬間に、マリアの声が弾けた。歌を紡いでいた声は降り注いだ数条の光火に悲鳴じみたものへと変わる。
「……っ」
「争い」
「戦い」
「憎み」
「破壊をもたらす者」
 徐々に薄れ始めている黒雲と雷鳴から現れたのは、四体の壊塵明王だった。
「時間をかけ過ぎたか……っ」
 藤子が素早く現状を把握し、ほぞを噛む。だが、だとしても、出来る事は一つだった。
「長居は禁物、逃げ……っ」
 一体を倒し、生まれた間隙を目指し走りだそうとした藤子の目に攻撃を受け倒れるマリアの姿が映る。
「俺が担ぐっ、撤退だ!」
 クラムが光に焼かれたマリアの体を担ぐ。彼自身も先ほどの光に撃たれている。壊塵明王一体との戦いで疲弊している彼にとってもそれは軽い傷ではない。
 柚子が直後飛び掛ってきたビルシャナの脚に穿たれるも、数体からの攻撃を受けた仲間へと治癒の術を施した。
「助かるわ」
 とユーシスが告げ、道を走る。それを阻むように、再び壊塵明王達が放つ光が道を溶かし焼きながらケルベロス達を包囲するように放たれる。
 アスファルトの地面が沈む感触を蹴り飛ばしながら、炎希が彼らへと加速装置を使った高速の突撃を行い、その行動を惑わせた。
「これで……っ」
 数秒を稼いだ、と踏み込んだ彼の背に振り上げられた脚の影が落ちた。高速機動の攻撃にも怯まなかった二体の蹴撃が彼の体に叩きこまれた。
 咄嗟に掲げた左腕は不格好にひしゃげ、脚は砕かれ地面に転がる。意識はどうにか保つが、痛みに視界が明滅を繰り返していた。
「……っ!」
「炎希くん!」
 瓦礫に身を埋めた彼に勇華が彼の体を背負うと、ただ一瞬周囲を見て離脱を図った。
「……」
 同様に、周囲を見た瑠奈が目を少しばかり潜め、服に忍ばせていた注射器を取り出す。
 暴走。
 命の危機に瀕した時、体内のグラビティを暴走させ膨大な力を得る。失敗すれば徒に命を散らすだけではあるが、ここで部隊を全滅させる訳には行かない、と特殊な薬液の詰まったそれを大動脈へと突き刺そうと彼女が息を詰めた瞬間、円を描き胡乱な方向へと飛んでいく物体をその目が捉えた。
 悪い、と炎希の口が紡ぎ、彼は意識を手放した。彼らが逃げようとしていた方向とは違う方角へと飛んで行ったグラディウスに、ビルシャナ達の意識がケルベロス達から明確に逸れた。
「今!」とユーシスが声を上げる。
 四体、決して多くはない数の全てがその飛来物へと意識を移した瞬間に彼らは一斉に全力離脱を試みた。
 果たして、その試みは幸運を呼んだ。薄れだしていた雷光を纏う煙が風に吹かれたように再びケルベロス達の姿を覆い隠したのだ。
 魔空回廊への攻撃は成功。
 グラディウスの一本を失ったとはいえ、重傷者を二名出したのみで全員が帰還できた事は紛れもなく成果で、魔空回廊への攻撃はこれからも続く。その破壊の一助となれた事は明確だ。
 振り返り見た松江の街は、少し明るく見えた。

作者:雨屋鳥 重傷:双刃・炎希(イクサガミの寵児・e00195) マリア・ライン(黒山羊の女神の偶像聖女・e33839) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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