ゲームの隠し要素は全て見るべし!

作者:質種剰


 アパートの一室。
「……うーん、見つからん」
 ビルシャナとその信者達がそれぞれゲームに集中していた。
「同志よ、何を探しているのだ?」
「隠しキャラが町のどこかにいるのですが、見つからなくて」
「それ、既に他の奴に話して脱出フラグ立てたからじゃね?」
 テレビ画面に張り付くビルシャナと信者の会話へ、携帯機を握った信者が口を挟んだ。
「げっ……セーブした所からやり直しか」
 頭を抱える信者を見て、また別の信者が笑った。
「俺なんかただでさえ難しいにノーセーブで8周だぞ」
「なー、何度クリアしても脱がねぇんだけど」
 信者達の会話から察するに、彼らは全員ソフトこそ違えど『ゲームの隠し要素を見る』為に努力しているようだ。
「はぁ、裏ボス倒せても15ターン以内はキツい」
 次第に愚痴が増える信者達をビルシャナが一喝した。
「ええい、弱音を吐くな! 隠し要素を全て見ずにはゲームを真にクリアしたと言えぬ! 隠し要素を全部見て初めて次のゲームに取り掛かれるのだ!」
「は、はい、教祖様!」
 どうやらこのビルシャナ、ゲームのプレイスタイルに並々ならぬ拘りを持っているらしい。
「教祖様を何をしておいでで?」
「……全編通して初めての戦闘での全滅狙いだ」
「流石教祖様……かなり難しいヤツですね」


「隠し要素か……昔のでも新しくても、見るのはかなり大変よね……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が、困ったふうに微笑んだ。
 『隠し要素全て見ずに次のゲーム始める奴絶許ビルシャナ』の存在を突き止められたのは、彼女の調査のお陰である。
「左様でありますねー、かけらもアイテム集めとかは好きですけど、なかなか敵の図鑑が埋まらなくて、隠し要素を見るに至ってないでありますよ」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)もこくこく頷く。
「とまあ、そんな訳でして、岐阜県郊外のアパートにてビルシャナが配下を増やすべく集会をしているのでありますよ」
 『隠し要素全て見ずに次のゲーム始める奴絶許ビルシャナ』の語る教義は、ゲームにおける隠し要素の尊さ、ゲームへ隠し要素が存在するからには見なければならないという使命感である。
「どんな野望であろうと、ビルシャナの悟りは厄介であります。それ故皆さんには、悟りを開いてビルシャナ化した人とその取り巻きの信者達と戦って、ビルシャナを討伐して頂きたいのであります」
 今回は、ビルシャナと信者達がゲームの隠し要素を見ようと熱中しているアパートの部屋へ真っ直ぐ乗り込んで戦う流れとなる。
「ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は配下になってしまうのであります……」
 しかし、ビルシャナ化した人間の主張を覆せるインパクトを持つ主張を行えば、周りの信者達が配下になる事を防げるという。
「ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまで戦闘に参加してきますが、ビルシャナさえ倒せば元に戻るので、皆さんならきっと助けられると信じてるであります!」
 かけらはそう断じた。
 但し、ビルシャナより先に配下を倒してしまうと、往々にして命を落とす事は忘れないで欲しい。
「隠し要素全て見ずに次のゲーム始める奴絶許ビルシャナは、ビルシャナ閃光と浄罪の鐘で攻撃してくるであります」
 理力に満ちた破魔の光である閃光は、複数の相手にプレッシャーをもたらす遠距離攻撃。
 敏捷性が活きた浄罪の鐘もまた射程が長い上に複数人へダメージを与え、時にトラウマを具現化させる。ちなみにどちらも魔法攻撃である。
「周囲の信者は16人。彼らは分厚い攻略本を凶器にして殴りかかってきます」
 もっとも、説得にさえ成功すれば信者達は皆正気に戻るので、ビルシャナ1体と戦うだけで済むはずだ。
 ビルシャナのポジションはスナイパー、配下達はディフェンダーである。
「教義を聞いている一般人の方々は、ビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得できないであります。インパクトが重要でありましょうから、説得の際の演出をお考えになるのが良いかと思います」
 そこまで説明して、かけらはうーんと首を捻る。
「ここはやっぱり、誰もがクリアできない隠し要素を含んだゲームをプレイさせたり、その難しさを説く事で、信者達のやる気を削ぐのは如何でありましょうか。他には……今挑んでるゲームを振り捨ててまで飛びつきたくなる面白いゲームを教えて差し上げれば、大きな精神的打撃を与えられそうです」
 隠し要素を見なければという義務感から解放させられるならば、薦めるゲームのジャンルは何でも良いが、あくまで隠し要素信仰を否定する勢いで対抗案を推すのが大切である。
「もはや完全なビルシャナと化した当人は救えませんが、これ以上被害を拡大させないよう、討伐宜しくお願い致します……!」
 かけらはぺこりと頭を下げた。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
七道・壮輔(端歩飛・e05797)
妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)
オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)

■リプレイ


 アパートの一室。
「ソフトと攻略本の同時入手って何か違うだろう。はじめは、こういうのなしでやってみるほうが楽しいと思うな」
 七道・壮輔(端歩飛・e05797)が、信者へ向かって説得を始めるも、指摘する箇所がズレていた。
「は? 攻略本見なきゃ隠し要素うっかり見落とすだろ」
 隠し要素信仰を否定しないといけない場面で、何故攻略本入手の否定から入るのか。
 初回プレイは攻略本無しの方が新鮮味がある——理屈自体は誰しも判るものの、残念ながら信者への精神的ダメージになる要素が無い。
 話の論点自体ズレているのだから。
「最近は説明書にもある程度は書いてあるみたいだぞ」
「何が??」
 攻略本が無くても説明書さえあれば支障なくプレイ可能——と言いたいのだろうが、彼の曖昧な言い回しでは判然としない。
 初対面の敵に自分の主張を誤解なく伝えるには話術が必要で、信者がわざわざ此方の言葉の足りなさを斟酌してくれる筈もないからだ。
「隠し要素のためにプレイするわけじゃないだろう?」
 恐らく、隠し要素を見る為に利用していると考えて信者の持つ攻略本を否定したのだろうが、今まで一言も隠し要素自体へ言及していない為、これも唐突に感じるセリフだ。
「いやいや隠し要素見る為にプレイしてんだよ俺らは!!」
「さっきからわけのわからん事ばっかり、馬鹿にしてんの!?」
 案の定、信者達は総ツッコミしていきり立った。
「もしかしたら攻略本こそ『通り一遍』の元凶かもしれないぞ」
 一体誰が通り一遍と言ったのか知らないが、壮輔の中での元凶は攻略本なのだろうか。
 これでも本人は『隠し要素より本編の内容を楽しもう』と伝えたかったようだが、謎の攻略本否定に終始して、信者を悪い意味で怒らせるだけだった。
 次いで、
「ゲームの隠し要素とな?」
 オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)が、こてんと首を傾げてから信者達へ近寄っていく。
 やや古体な言い回しをする狐のウェアライダーで、黒い肌着の上に着崩した着物がよく似合う、どこか退廃的な魅力のある少女だ。
「実は妾も隠し面がどうしても先にすすめにゅのじゃ、すすめてくれにゅかの」
 オルファリアが信者へ差し出したのは、レトロゲームの名作を選りすぐった個数限定販売のハード。
「これ……」
 画面に映ったタイトルを見て信者達が言葉に詰まる。
 有名な高難易度もとい理不尽難易度のアクションゲームだからだ。
「よ、よし、この面をクリアすれば良いんだな? 任せろ」
 裏技のステージセレクトで出てきた面を恐る恐るプレイする信者。
 全体的に満遍なく難しいゲームの為、一つの面をクリアするだけでも難儀である。
 オルファリアとしては『隠し面のクリア目前でフリーズするソフト』を持ってきたかったらしいが、小檻がどのソフトなのか探し出せず代わりにこれを用意してきた。
「……これ、難し過ぎねぇ?」
 結局、代わる代わる信者達とビルシャナが件の面に挑戦して、1時間弱粘っても誰1人クリアできなかった。
「ゲームは楽しむためにやりゅのであって苦痛な作業になっていては本末転倒と言うものであろう」
 疲労困憊といった信者達を椅子の上から見下ろし、ここぞとばかりに踏ん反り返るオルファリア。
「そう言われると……」
「流石のムズゲーだな……気力がガンガン削られる」
 高難易度な隠し面をやらせて彼らの心を抉る——正攻法である分オルファリアの決めゼリフも説得力充分で、信者達に精神的打撃を与えた。
 一方。
「同じゲームばっかりやってたら飽きるじゃん普通」
 藤・小梢丸(カレーの人・e02656)は、普段より冷静かつシビアな意見を浴びせた。
「根気が続けばいいよ別に。でも集中力って長時間持続しないんだぜ……飽きが入ったら、作業って苦痛になるんだ」
 自宅警備員故かやたら実感の籠った調子で隠し要素探求のデメリットを突く様は、大層頼もしい。
「それに攻略本見ながらプレイしてんでしょ、何が隠し要素だよ、全部分かってんじゃん!」
 何を楽しんでるんだよ、意味が分からないよ——小梢丸が怒涛の勢いで畳み掛ける。
「攻略本無しで隠し要素見つけろとか何年かかるんだ!?」
 彼の言いたい事は解り易く、信者にもしっかり伝わって顔色を失わせた。
「俺らは隠し要素を探すんじゃなくて体験するのが目的だし」
「それだけ頑張って誰か褒めてくれるのかね。ただの自己満足じゃーん」
 攻略本の指摘には反論できても、自己満足と断じてしまわれては、黙るしかない信者達。
「ゲームやるならもっと楽しまなくちゃ」
 そんな彼らへ小梢丸は提案する。
「つまりは飽きたら積むんだ! そして時間を置いてまた楽しめばいい」
 ゲームはとにかく楽しむ為にあるものだ。クリアや隠し要素などの義務感に縛られる必要は無い、と。
「積んでる間に他のゲームをして楽しむののどこが悪いんだ!」
 自宅に堆く積み上げたゲームの山を思い返しつつ、決める所は決める小梢丸。
「隠し要素制覇は自己満足……」
 そうして信者達を苦悩させる傍ら、
「カレーにも隠し味というものがある。しかし、カレーを食べた時、隠し味全てを言い当てる事が重要なんじゃない」
 カレーが美味しいかどうかが重要なんだ。
「つまり何が言いたいかというと……カレーが食べたいねってことさ」
 誰も聞いていないカレーの隠し味を論じては、ふぁさぁと前髪をかき上げていた。


「ここで信者の皆さんに質問です!」
 と、明るく挙手するのは霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)。
 アイスブルーの髪色眩しい、カピバラのウェアライダーだ。
「隠し要素、裏技として有名なものでは、8回逃げる、アイテムを特定の順に並べる、などがありますが、これらはバグ技に該当します! 果たしてこれらバグ技も貴方達にとっては隠し要素なのでしょうか?」
「いや、違う」
 元気の良いユーリの問いに、信者達は口を揃えて否定した。
「制作側がわざと仕込んだ裏技は隠し要素の範疇だろうけど、偶然生まれたバグ技は隠し要素じゃないと思う」
 実際、小檻の予知で彼らが攻略を目指していた内容にも、バグ技は一切入っていなかった。
「それは何よりですね。何せ、『アイテムの並び順』にいたっては禁断のプログラム解析で判明したものです!」
 出鼻を挫かれた形になっても、ユーリはめげずに続ける。
「もしも貴方達が隠し要素にバグ技を含めていれば、例え今貴方達が『全ての隠し要素をやりきった!』と思っていても後日新しくバグ技が見つかるとその時点で教義に背いたアウトな事例になってしまいますよぅ!」
「いやぁ、そういう見落としをしない為の公式攻略本だしなぁ」
 信者は特に困惑する事なく返した。
 すると。
「あぁ〜、偶然見つかったバグ技を続編でさ、さも公式が裏技として認めたような敵配置にした事、あったよなぁ」
 ふと思いついたように久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)が言葉を添えて、ユーリに助け舟を出す。
「……無限増殖か」
 これには信者達も頷かざるを得ない。
「なるほど、最初こそバグ技だと思っていても、後から隠し要素扱いになるパターンもあるんですね! それをバグ技扱いでスルーして次のゲームにいったら後悔しますよ!」
 元々、ユーリ自身の主張もそこそこしっかりしていただけに、航の手助けを受けて正しい軌道に戻せたようだ。
「つまり! 後で隠し要素が見つかったとしても、教義に縛られて後悔する方がおかしいんです! また遊べる! という前向きな考え方が大切なんです!」
 ビシィと言い切ったユーリに、今度こそ気圧される信者達。
「後から隠し要素が増える……そんな事もあるとはな」
「隠し要素を制覇したと思ったらしてなかった……なんて恐ろしい」
 ビルシャナの教義には無理がある、との疑念をついに抱いた。
「確かに隠し要素だのやり込み要素だのあると制覇したくなるよな。それは分かる。だが……」
 そのまま、ユーリと同じ方向性の論駁材料を練ってきた航自身も、説得に加わる。
「隠し要素ってのは隠されてるからこその隠し要素だろ? 本当にやりきったかなんて製作者にしか分からない」
「ふむ……」
 幾多のビルシャナ信者を正気に戻してきた航の話術は安定していて、信者達を自然と考え込ませた。
「全部やりきったと思って次のゲームへ移ったのに、十何年経ってから発見される隠し要素もあるだろ。たまにネットニュースにもなってる」
 実際、レトロゲームの中には、発売から16年のも歳月を経てからユーザーの目に触れた長文の隠しメッセージがある。
「あの怨嗟溢れるメッセージは凄いな……その後8年後に二度目の発覚へ至る辺りも執念を感じる」
 草臥・衣(神棚・en0234)が内容を振り返って遠い目をした。
 そのゲームの発売年から数えて16年後と24年後、二度に渡って判明した隠しメッセージの文言はもの凄まじかったのだ。
「この時点で『隠し要素を全てやりきってないのに次のゲームに移った』という事実は残るわけだが?」
「ぐっ……」
 航の問いかけを受けて、到底返す言葉を持たない信者達が呻く。
「ひとつその事実があるなら、二つも三つも変わらんよな? 既にやっちゃってるんだから」
「そ、その時はまた最初からやり直して最終的に制覇すれば……」
 1人の信者が隠し要素に懸ける根性を見せようとするも、
「制覇すればセーフって? 果たしてそうかな……十何年も経ってりゃハードはガタガタ。壊れてる事もあるだろう。サポートは当然終わってる」
 その程度の言い訳が航に効く筈もなく、コテンパンの返り討ちにされた。
「互換機が出てればまだいい方で、純正のみかつ恐ろしい額のプレミアが付いてる事もある。紹介されて内容分かりきった隠しの為にいくら出す?」
 航は見る見るうちに信者達の覇気を失わせて、危なげなく説得を締め括った。
「レトロゲームの宿命には抗えないのか……」
 他方。
「じゃーん! これ、なんだと思います?」
 妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)がテンションも高く掲げたのは、今現在も品薄でなかなか手に入らない新しいゲームハード。
「実は新作、並んで手に入れたんですよね! これ、チーム戦が燃えるんですよ……一緒にやりましょ!」
 6台のハードを信者達へも配り、嬉々として誘いをかける宴。
「俺、やろうかな……ずっと気になってたし」
「欲しかったけど買えなかったんだよな」
 信者達は次々と誘惑に負けて、コントローラーを取り外して構えた。
「それじゃ、かぐらさん、勝負っすよ!」
「ええ、受けて立つわ妹島さん!」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)も自分の本体を取り出し、楽しそうに啖呵を切る。
 宴率いるたけのこチーム、かぐら率いるきのこチームに分かれて、塗料を塗りたくる4対4の縄張り合戦が始まった。
「誰か援護してくださーい!」
 3分という制限時間が気を焦らせるのか、宴が叫ぶ。
 どうやら、調子の良し悪しに関係なく元々の腕前が大した事ないらしく、絶妙な下手さ加減を見せつけていた。
「よし来た!」
 慌てて信者がカバーに入るも、宴以上にプレイに慣れていない彼らが玄人のかぐらに勝てる訳もなく、勝負は決した。
「……」
 信者は勝った側も負けた側も双方、ついつい新作を楽しんでしまった罪悪感に打ちのめされる。
「とまぁ、本体が手に入らないというのも含めて、新作ゲームは初動に失敗すると話題についていけなくなってしまうのです」
 そんな彼らに追い討ちをかけるべく、宴が語った。
「発売日が近づいたら一端古いゲームは置いといて後でゆっくりやればいいんですよ。品薄になってからじゃ後悔しても遅いんですからね?」
 実際に新作をプレイさせての主張は、宴自身ハードを所有している事もあって含蓄がある。
「確かに……今日まで一度もプレイした事なかったしな」
 さっきの対戦の楽しさを思い返して、信者達の気持ちは大いにぐらついていた。


「……時間が、時間が足りないんだよ……」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、血涙を流しながら声を振り絞っていた。
「あるかないかも分からないような隠し要素を探せる程やり込める時間が誰にでもあると思うな……」
 まさに時間に追われる現代人の心の叫びと言えよう。
(「隠し要素にはろくでもない選択やキャラクターの死亡が条件のものもある」)
 この日もヘリオンからしっかり蹴り落とされてきた蒼眞は、おっぱいダイブを堪能しても尚、振り払えない嫌な記憶に頭を重くしていた。
(「ゲームだと割り切って自分では絶対にしないような選択をしたり鬱展開を楽しむのもありだろうけど、隠し要素の為にやるのは一寸、な……」)
 隠し要素の中には、村人からの頼みを断り続けて初めて見られる、気分の悪くなる会話や展開もある。
 わざわざそれを見る為に村一つ滅ぼす選択など、幾らゲームでもやりたくないと嘆くのが、蒼眞という人間なのだ。
「隠し要素を全て見なければ次のゲームはやらないと言うけど、製作陣の遊び心だかファンサービスだかを堪能するなら、続編をやる方が手っ取り早いと思うがな」
 ともあれ、気を取り直して蒼眞が説くのは、隠し要素を制覇する意義——製作陣の用意した全ての要素を遊び尽くす——を理解した上での対案であった。
「何……?」
「続編や或いは全く別のゲームの中で特定のキャラに関わる話が出たり、かつての重要アイテムをネタにした物があったり、マップや台詞の一部を意図的に何かに似せたりするとか、分かる方ならニヤリとするようなネタが入れてあったりするからな」
 蒼眞が言うのも尤もで、敢えて例を挙げるとしたら、有名RPGのシリーズだろうか。
 このシリーズでは重要アイテムが様々に役割を変えて再登場しているだけでなく、誰も覚えていないような端役のキャラですら、名前だけ劇中の書物の文面に登場したりするのだ。
「その手のネタを楽しめるのは複数のゲームをプレイした者の特権だけど、たった一つの隠し要素の確認の為にその楽しみを放棄するのは、流石に勿体ないんじゃないか?」
 隠し要素制覇よりも続編を遊ぶ方が充実感を得られると、明確な理由をつけて披露する蒼眞の弁舌は滑らか。
「続編に仕込まれた前作のネタか!」
「ヤバい、それ見てみたい……!!」
 元より隠し要素へ躍起になる程ネタ好きの彼らだから、それはもう面白いぐらい動揺する。
「それに、どんな面白いゲームでも無期限で販売はしていないから、買う機会を逃せばプレイする事すら出来ない。積みゲーは色々と悲しいしな…………無論、後で中古で安く買うなんてのは論外な」
 最後には、ゲームはいつまでも待ってくれないという、航と同じ論理で現実を突きつけた蒼眞だった。
「そうだな。隠し要素見るのにかまけてDL期間終わってたりな」
 さて。
「こだわりは、まぁ認めてもいいけど……」
 困ったふうに首を傾げるかぐらだが、彼女の持論も小梢丸同様クールだった。
「そもそも隠し要素の中身が何か見たいだけ、だったりしないのかな?」
 だったらわざわざプレイする必要無いよね——と隠し要素信仰を一刀両断したのだ。
「手順と結果を見るなら攻略サイトがあるし、それだと不満ならプレイ動画を見ればすぐに全部見られちゃうわよ」
 兎に角容赦ない口撃を淡々と繰り出すかぐらも、ビルシャナ信者を相手取るのに多少は馴れている。
「あと、動画を上げてる人の中には物凄く上手な人もいるから、スーパープレイも見られてお得じゃないかしら?」
 終いには、お前らのへなちょこプレイなぞ動画職人の上手いプレイの足元に及ばないのだから素直に動画を見ておけ——と、暗に匂わせてトドメを刺してみせた。
「くっ……俺らは自分で隠しに到達するまで動画を見るまいと決めてたのに!」
「スーパープレイ……我慢してたけどやっぱり見たい……!」
 案の定、盛大に心を揺さぶられて歯噛みする信者達。
「それと、いつまでも同じゲームばっかりだと新しいものに疎くなっちゃうわよ? ——てことで妹島さん、もう1回勝負よ!」
「次こそ負けないっす!」
 彼らを尻目に、かぐらは宴と例の新作の第2ラウンドに突入する。
「ぎゃふん! 皆さん強すぎますよぅ!」
 早々に負けたユーリは転がる毛玉と化す。
 その楽しそうな様や、ケルベロス達7人の努力の甲斐もあってか、
「俺、新作ゲームやりたい!」
「俺も今のゲーム放り出してやりたいRPGやるわ!」
 16人中14人までの信者が正気に戻った。
 後は、『隠し要素全て見ずに次のゲーム始める奴絶許ビルシャナ』を配下より先に倒すしかない。
「黄鮫を刻め!」
 蒼眞が叫ぶと同時に、壮輔、オルファリア、小梢丸、ユーリ、航、宴、かぐらが同時に爆破スイッチを押す。
「呼ばれた気がして」
 フラっと現れたソフィアは、衣を気遣ってか耳打ちした。
「同じ黄鮫のカケラちゃんの代わりと思って、見届けてあげて」
 ——黄鮫師団8人の勇姿を。
 そう彼女が呟いた瞬間、ビルシャナの身体がピカッと光る。
「黄鮫ボンバー!!」
 ちゅどーーん!!!
 ケルベロス達が声を揃えて叫ぶと共に、8人の仕掛けた見えない爆弾が一気に爆発、見事ビルシャナの息の根を止めた。
 また、ユーリやかぐらの手加減攻撃が効いて配下2人の命を救えたのは、運が良かった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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