泡沫の夢と正義

作者:雷紋寺音弥

●堕ちた英雄
 暗い、暗い、部屋の中。昼夜の区別さえ分からない場所で、男は自らを呼ぶ声にゆっくりと目を覚ました。
「喜びなさい、我が息子よ」
 台の上から起き上がった男の前に立っていた、仮面の男が呼び掛けた。瞬間、生暖かい風が吹き込んで、仮面の男の纏っているマントを静かに揺らした。
「ドラゴン因子を植えつけられたことで、お前はドラグナーの力を得た。しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死亡するだろう」
「ふっ……ははははっ! こいつは冗談キツイぜ! ここまで来て、俺の第二の人生は、目覚めて起きたら5秒で終了ってか?」
 死へのカウントダウンを告げられ、男の自暴自棄な高笑いが部屋に響く。だが、それを聞いても仮面の男……竜技師アウルは口調も表情も変えることなく、男に一抹の希望を与えた。
「お前が死の宿命を回避し、完全なドラグナ―に覚醒するためには、相応の生贄が必要だ。即ち……多くの人間を殺し、グラビティ・チェインを奪取せねばならないということだ」
 元、人間であった者に、それができるか。改めて問う竜技師アウルだったが、男の答えは既に決まっていた。
「心配すんな……。ここまで堕ちる途中で、盗みも恐喝もやったんだ。今さら、履歴書に泥が付く心配なんざ、する必要もないだろうさ」
 だから、そちらは心配せずに待っていろ。それだけ言って、男はふらふらとした足取りで、そのまま部屋を出て行った。
 迷いはない。躊躇いもない。男の淀んだ瞳の奥に、確かな殺意を感じ取りつつ、竜技師アウル満足そうな笑みを浮かべて、男の背中を見送った。

●夢の残滓
「召集に応じてくれ、感謝する。ドラグナー『竜技師アウル』によって、ドラゴン因子を移植されて不完全なドラグナーになった人間が、事件を起こそうとしているようだ」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に告げられたのは、完全体になるためにグラビティ・チェインを欲した不完全なドラグナ―が、一般人を虐殺するという事件の報だった。
「敵は1体だけで、出現場所は茨城県の野外劇場だ。当日は、劇場で行われているヒーローショーを見に、親子連れが集まっているからな。そこに現れて、役者も観客も関係なく、全員を皆殺しにしようとしている」
 クロートの話では、ドラグナーにされた人間も、かつては地方の野外劇場でヒーロー役として活躍する役者だったという。
 だが、それも今となっては10年も前のこと。ヒーロー役のイメージが強過ぎるという理由で、やがて男は次第に仕事を干され始めた。それでも、しばらくは様々なアルバイトをして頑張っていたが、やがてそこからも厄介払い。最後はアルコールに溺れた上、犯罪行為を繰り返して日銭を稼ぐだけの、しがないアル中になってしまった。
 自分の人生は、もう何をやっても同じことだ。ならば、最後に大暴れをしてやろうという結論に至り、男は『竜技師アウル』の実験へ身を捧げたらしい。
「不完全なドラグナーは、ドラゴンに変身する力を持っていないのが救いだ。まあ、それでも油断はしない方がいいぜ。こいつは巨大な大鎌を二本も持っていて、おまけに竜語魔法まで操るからな」
 使用する武器は、二振りの簒奪者の鎌。妨害に特化した陣形を好み、デスサイズシュートやレギオンファントム、ドラゴニックミラージュに似たグラビティを用いて来る。戦いが長引けば長引くほどに効果を発揮する技が多いため、長期戦は泥試合になり兼ねない。
「以前はヒーロー役を演じた経験もあるのかもしれないが……そんな男が、今や悪の改造人間とは皮肉なものだな。だが、同情できる部分はあっても、無差別な殺戮を認めて良いという理由はないぜ」
 絶望の果てに、男は人であることも、そして英雄を演じることさえも捨ててしまった。
 正義と夢。その二つを失い異形の者へと化した男へ、最後の救いを与えて欲しい。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
揚・藍月(青龍・e04638)
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
柊・詩帆(怠魔師・e26972)
皆守・信吾(激つ丹・e29021)

■リプレイ

●帰ってきた男
 野外劇場に響く、子ども達の歓声と爆発音。舞台で繰り広げられるヒーローショーは、正に佳境を迎えている。
「みんな~、もっと元気な声で応援して~!」
(「ヒーローショー……馴染みは薄いですね」)
 司会のお姉さんがマイク片手に子ども達へ叫ぶのを横目に、白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)は油断なく周囲を見回していた。
 何も知らず、ヒーローを応援している子ども達。彼らの笑顔は守られるべきだが、しかしスタッフへの根回しは、実は殆どすることができていない。
 事前の避難を促せないのであれば、そもそも関係者に些細な真実でも告げることがタブーだ。いかにケルベロスが付いているとはいえ、いつ、どこからデウスエクスが襲い掛かってくるか解らない場所に、無力な子どもを置いておくことを良しとする者はいないはず。
 結局のところ、自分達の手で守るしかないのだ。だが、それで良かったのかもしれない。かつてのヒーローが、悪へと身を落として殺しにやってくる。そんな非情な現実など、子どもも大人も関係なく、知らない方が幸せだろう。
 ショーは、いよいよクライマックス。ヒーロー達が力を合わせ、悪の怪人を撃破する……と、思われた瞬間、劇場の外側から飛来した巨大な鎌が、舞台の上に備え付けられていた看板を真っ二つに両断した。
「……危ねぇっ!!」
 割れた看板の片方が客席へ落下したのを見て、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)が身を呈して前列に座っていた子ども達を庇った。
 デウスエクス達と同じく、ケルベロスはグラビティ以外ではダメージを受けない。その特性が、偶然にも有利に働いた結果だ。
「……どうした? 悪役にしてはヌルい攻撃じゃねぇか?」
 看板を振り払い、マサヨシは鎌の戻って行く方向を睨み付けながら、そこに立っていた男に言い放った。だが、それを聞いても男の方は、鎌を受け取りながら不敵な笑みを浮かべるだけだった。
(「かつて、子供たちに勇気を与えたヒーローが、子供たちを傷つける悪に堕ちるなんて……」)
 最悪の悲劇が起きる前に、せめて人の知らない場所で終わらせねば。その想いを胸にエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)がバイオガスを展開する中、柊・詩帆(怠魔師・e26972)とシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は、演者たちと入れ替わるようにして舞台に立ち。
「悪いヤツが襲ってきた! だけど、心配ご無用! ケルベロス参上だっ!」
「皆、落ち着いて、左右に分かれて避難して! お父さんや、お母さんの手を離しちゃ駄目だよ!」
 混乱する客席の一般人達へ、劇場のスタッフに代わり避難を促して行く。それでも、逃げ遅れた子ども達には、皆守・信吾(激つ丹・e29021)が、そっと頭に手を置いて言葉をかけた。
「大丈夫、必ず守るから」
 ほんの少しだけ、欠片程度の勇気でも持てるなら、見知らぬ人の手でさえも取って、支え合いながら逃げて欲しい。それだけ言って、改めて広がるガスの塊へと視線を向ける。ここからでは、中の様子は解らないが、恐らくは既に死闘が始まっているはず。
 果たして、そんな彼の予想は正しく、既にガスに覆われた戦場では、一触即発の空気が漂っていた。
「役者としてヒーローを演じたあなたは、こんな事を本当にしたいと思っているんですか?」
「……こんなこと、だと? 俺にとっちゃ、死活問題さ。誰でも自分が可愛いし、自分の命が一番惜しい……そうだろう?」
 既に人間であることを止めた男は、真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)の問い掛けも鼻で笑い飛ばすだけだ。ならば、せめてヒーローとしての心だけでも思い出して欲しいと、揚・藍月(青龍・e04638)が諭すように問い掛けるが。
「ヒーローとは、敵を唯殺すものではない。愛を持ち……何より、子ども達に誇るべき背中を持つ者だ。貴殿は、それを知っていたはずだろう?」
「ハッ……! 愛だ? 誇りだ? そんなもんが、飯を食うために何の役に立つ? こちとら、遊びでやってんじゃねぇんだ。青臭い寝言は寝てから言いな、兄ちゃん!」
 もはや、完全に役者としての誇りさえも捨ててしまったのか、男は何一つ彼らの言葉を聞き入れる素振りさえ見せなかった。
 異形の怪人、ドラグナ―。混沌を纏った人ならざる者に堕ちた男が、手にした鎌を振り上げる。歪んだ口より紡がれる竜語魔法が炎の竜を呼び出して、紅蓮の炎弾がケルベロス達に向かって放たれた。

●払えぬ呪縛
 かつては英雄を演じた男が、巡り巡って人々の敵となる。なんとも皮肉な話だが、しかし遠慮をしている余裕はない。
 不完全とはいえ、男は既に人であることを捨て、人知を超えた怪物へと変貌していた。その力は、単体であればケルベロス達をも凌駕する。まともに正面から殴り合えば、確固撃破されるのは必至の相手。
「ヒーローって良いよね。子供達に夢を与えるのはヒーローもアイドルも一緒だよね」
「ヒーローショーがいつでも楽しーのは、ヒーローも子供も大人もみんなの心が、正義と夢に高鳴るからだよね?」
 男が忘れてしまった夢や希望。せめて、それだけでも思い出して欲しいと、シルヴィアと詩帆は戦いながらも言葉をかける。が、既に人を止めた身である以上、男の心もまた人ならざる者に変わってしまっていたのだろうか。
「夢? そんなもんは、寝てる時に見るだけで十分だぜ。掴もうとしても、手を伸ばしたら消えちまう……ヒーローもアイドルも、所詮はそんな偶像だろうが!」
 夢見る心を失った男には、彼女達の言葉も届かない。どれだけ大人になろうとも、僅かばかりは残るであろう、子どもの心。ドラグナ―へと変貌した今、男の中からは、それさえも完全に消えてしまったというのだろうか。
「思い出せたら、悪夢は(体感)5秒で終了だよっ」
「貴方にも同情できる部分はある……。でも、罪も無い人を殺して良い理由にはならないよ!」
 いい加減に、目を覚ませ。巨大なハンマーと稲妻を纏った突きの一撃で、シルヴィアと詩帆は続け様に男へと仕掛ける。更に、オルトロスのコペルが擦れ違い様に敵の纏っていたローブを斬り捨てるが……その身を凍らされ、電撃が全身を迸ってもなお、男は武器を振るうことを決して止めず。
「オラァァァッ! どうした、正義の味方さんよぉっ!」
 男の投げた大鎌が、不可思議な軌道を描いてエリオットへと襲い掛かった。全身で正義を体現するような彼の姿は、堕ちた男にとって、今や憎悪の対象でしかなかったのかもしれないが。
「……っ!? 役者として成功したいなら……ヒーロー役のイメージを捨ててでも技術を磨き、演技の幅を広げる方法もあったはず。たとえヒーローの仮面を脱いだとしても、あの日胸に刻んだ言葉を、勇気を忘れなければ、道は開けたはずなんだ……!」
 その身に纏った装甲を破壊されながらも、エリオットは返す刀で逆袈裟切りに敵を斬り上げた。
「どこで間違っていたのか……道を引き返す事も変える事も出来たはず」
 同じく、梔子もまた網状に展開した霊力で男を捕えつつ、悔いを残さぬ様に改めて告げる。
「うるせぇっ! 何が技術だ! 演技の幅だ! そんなもん磨いたところで、そもそもオーディション前の面接で落とされちゃ意味ねぇんだよ! どいつも、こいつも……俺の努力を見ようともしないで、勝手なイメージで切り捨てやがって!」
 だが、そんな彼女の言葉にも、男は激昂して返すだけだ。ならば、そのイメージを活かして自分を売り込むことはできなかったのかと、大剣片手にマサヨシが問うが。
「ハッ……! そりゃ、若い頃だったら、それで食って行けたかもしれねぇけどなぁ……オッサンになったら、俺みたいなのはお呼びじゃねぇんだよ! 結局、ヒーローなんてのは顔と年齢だ! そいつがあれば、誰でも良かったんだろう?」
「言い訳してんじゃねぇよ! 結局のところ、テメェが楽な方へ逃げただけじゃねぇか!」
 もう、こいつには何を言っても無駄だろう。もはや、会話を交わすことさえ馬鹿馬鹿しい。怒りと哀れみのままにマサヨシが大剣を叩き付ければ、それは純粋な力となって、男の身体を圧し潰し。
「あんたの演じたヒーロー、見たことあるよ。子供心に、凄く格好良かったことを覚えてる……。諦めない直向きな姿勢には憧れもしたよ」
 こんな結果になって残念だ。どこか憂いにも似た表情で繰り出された信吾の蹴りが、男の脇腹を捉えて突き刺さった。
「ぐぅっ……!? や、やるじゃねぇか、兄ちゃん。だがなぁ……大人の世界ってやつは、兄ちゃんが思ってる程、綺麗事だけじゃ食っていけねぇんだよ。兄ちゃんも、いつまでも何の足しにもならねぇ夢ばっかり見てねぇで、さっさと大人になったらどうなんだ?」
 大鎌の柄を地面に突き立てて衝撃を殺しながら、男が不敵な笑みを浮かべて信吾に問う。生きるためには、時に卑怯で汚い仕事もしなければならない。それが弱者として、社会から虐げられた者の宿命なのだと。そんな台詞を惜し気もなく吐き捨てる男へ、今度は佐楡葉が冷めた視線を向けつつ竜砲弾を発射した。
「役者として寿命が短かったのは仕方ないにしろ、犯罪に手を染めてもパッとしなかったようですね。悪に徹すれば悪なりの栄耀はあったでしょうに、それすら掴めず落魄れましたか? ……嗤えますね、落伍者」
「グッ……ハハハハッ! さすが、リアルヒーローなケルベロス様は、言うことも御立派だなぁ、おい! てめぇらみてぇに、力に恵まれた連中には、俺のように泥水を啜っても生きなきゃいけねぇやつの気持ちなんざ、解るはずもねぇよなぁっ!」
 衝撃に吹き飛ばされながらも、男は狂ったように笑って叫んだ。それが自嘲なのか、それとも世の中へ対する恨み節なのかは、ケルベロス達には解らなかった。
「なるほど……俺達は、どちらかと言うとヒールの方なんだろうね。だが、それでも、ああいう正義の味方に憧れない訳ではない。護るべきは、自然ではあったかもしれないけど」
「きゅあきゅあっきゅあぁぁぁっ!!」
 ふっ、と皮肉げな笑みを浮かべた藍月の隣で、ボクスドラゴンの紅龍が高らかに吠える。何を言っているかまでは解らなかったが、自らの誇りにかけて敵を倒すとでも叫んでいるのだろう。
 帯電する藍月の縛霊手が男の胸板を貫き、その傷口目掛け、紅龍のブレスが襲い掛かる。男の胸元が激しく爆ぜて火花を散らし、周囲に弾けた雷鳴が、閃光を伴って炸裂した。

●正義の価値
 かつては英雄を演じていながら、悪へと身を窶した男との戦い。煙に覆われた戦場で繰り広げられるは、道を違えた者同士の悲しき殺し合い。
「……ったく、粘りやがるな、てめぇら。だが、こいつで終わりにしてやるぜ!」
 男の掲げた二振りの大鎌が、内に宿る死霊の力を解き放つ。解放された怨念は津波の如く押し寄せて、ケルベロス達を一度に纏めて飲み込まんとするが。
「……ぐっ! さ、させる……ものかよ……!」
 波が広がり、全てを飲み込もうとした瞬間、その間に割って入ったマサヨシが、纏めて攻撃を受け止めた。
「まったく……。無茶をするものだな」
 苦笑しながら藍月が紙兵を散布し、紅龍が自らの属性をマサヨシへと付与する。だが、それでも彼の傷を考えると、まだ少し癒しの手が足りない。複数の者が受けるはずの攻撃を、まともに正面から食らったのだから。
「堕ちたヒーロー……貴方のステージはもうここにはない。ここからは、私達のステージだよ!」
 ならば、ここは自分に任せておけと、シルヴィアが自らの身体に溜めた気の力を解き放つ。暖かく、そして柔らかな光となった気を受け取って、呪怨により硬化したマサヨシの身体が力を取り戻した。
「助かったぜ……。さあ……来いよ、根性無し。テメェが捨てた正義を叩きつけてやるよ」
 そちらが来ないなら、こちらから行く。極限まで研ぎ澄まされた、一撃必殺の正拳突き。蒼き炎が宿りし拳が、男の怨念を焼き殺す。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し……。我が拳に砕けぬもの無し……。我が信念、決して消えること無し……。故に、この一撃は極致に至り!」
「なっ……馬鹿なぁぁぁっ!?」
 拳に胸元を貫かれた瞬間、男の背中から溢れ出す蒼き灯火。その勢いに怯んだところを狙い、信吾と梔子の脚が同時に男へと炸裂し。
「もーめんどくさいよぅ……はやくかえりたいよぅ」
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!!」
 詩帆の掲げた右手と、エリオットの掲げた長剣から放たれる輝きが、男の身体に驟雨の如く降り注いだ。
「ハッ……ハハハ……。こいつが、お前達の正義ってやつか? だが……正義が飯を食わせてくれるか? 夢や愛が、金を運んで来てくれるのか? ……答えてみろよ、ケルベロス……」
 既に男は満身創痍。しかし、それでもなお、金と名誉の呪縛から逃れられないというのであれば、成すべきことは、ただ一つ。
「演者は演者。舞台を降りてまで、英雄の役は出来ませんでしたか。大丈夫、ここで終わりですよ」
 せめて、混沌と化した肉体が残らぬよう、木っ端微塵にしてやろう。それが最後の慈悲だと言わんばかりに、佐楡葉は銃口を敵に突き付け。
「――See you later」
 至近距離から放たれる、凄まじい熱量の魔力弾。無慈悲な熱波の奔流を浴びて、男の身体は薔薇の海に沈むかの如く、粉々に崩壊しながら消えて行った。

●黄金の心
 戦いは終わり、劇場には再び子ども達の笑顔が戻った。梔子や佐楡葉達が会場の簡単な片づけを済ませたところで、エリオットはゲリラライブを行うシルヴィアの傍らで、改めて集まってくれた子ども達に告げた。
「どんなに辛いことがあっても、ヒーローの勇気を、笑顔を……そして希望を忘れないでくれ。約束だ」
 その想いが、理想が、何百回裏切られることになろうとも、それでも最後まで人として、夢や希望を忘れないこと。それこそが、一人一人が本当のヒーローになるために、一番大切なことなのだと。
「ショーの続き、やるよね? 握手会とか」
「怖い目にあった子を勇気づけれらるのは、会うのを楽しみにしてたヒーローが一番だよ」
 それでも、最後はやはり、子ども達にとってのヒーローに役を譲ろうと、信吾や詩帆はヒーロー役の演者達を集めて言った。
「それにしても……彼が望んだヒーローとは、なんだったのだろうね?」
「さあな……。ただ、仮初でも正義の味方になったんなら、道を違えたことへの代償は、支払わなきゃいけねぇだろうさ」
 互いに空を仰ぎながら、言葉を交わす藍月とマサヨシ。そんな彼らの言葉と想いもまた、透き通った青空の中へ、吸い込まれるようにして昇って行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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