殺戮に踊る夏祭り

作者:青葉桂都

●エインヘリアルのダンス
 暦は8月に移り、全国各地では夏祭りが開かれている。北海道のとある街にある公園も、その会場の1つだった。
 市街中心部にある広い公園には、たくさんの客が集まっている。
 祭りの定番メニューから北海道名物までたくさんの出店。
 だが、夏祭りの目玉と言えば、やはり盆踊りだろう。
 今日は盆踊りが開催される日のうち1日だった。夕刻の公園には浴衣姿がいつもより多く見られ、設置されたやぐらの周りには特に人が集まっていた。
 事件が起きたのは、盆踊りが始まった、その直後だった。
 公園近くのビルから、3m近い身長を持つ大男が飛び降りてきたのだ。
「妙な歌が聞こえると思えば、ずいぶんと惰弱なダンスを踊っているものよ」
 殺意を示すかのような赤いオーラをまとい、腰ミノのような鎧を身につけて、男……エインヘリアルが一歩やぐらに近づく。
 浴衣姿の人々が、押されたかのように一歩下がった。
「だが、ようやく解放されて俺は今、気分がいい。このセオグリフも踊りに加わってやろう。もっとも……貴様らを殺す死の舞踏だがな!」
 殺意のオーラを輝かせ、セオグリフは人々へと躍りかかった。

●夏祭りを守れ!
 エインヘリアルによる事件を予知したと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちに告げた。
 このエインヘリアルはアスガルドで重罪を犯した犯罪者であるという。
「出現地点の付近にある少し大きめの公園で夏祭りが行われていて、敵はそこで虐殺を行うようです」
「楽しいお祭りで襲われちゃうなんて、ひどいなあ」
 有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)の呟きに、芹架は抑揚のない声で相槌を打った。
「そうですね。たくさんの人が殺されれば、それだけ多くのグラビティ・チェインが奪われ、エインヘリアルが憎悪と拒絶を得てしまいます」
 うまくすれば定命化を遅らせる効果もある。失敗してもどうせ犯罪者が死ぬだけというわけだ。
 だが、いずれにしても犠牲者が出るのを見過ごすわけにはいかない。どうか阻止して欲しいと芹架は告げた。
 それから、芹架は敵の戦闘能力について説明を始めた。
 セオグリフという名前らしいエインヘリアルは、血のように赤いバトルオーラを身にまとっている。
「また、踊るような動きで格闘攻撃を仕掛けてくることがあるようです」
 これは近距離に対する範囲攻撃だ。また、踊るような動きは身も凍るような恐怖を対象に与え、氷漬けにしてしまうらしい。
 現場は広めの公園。市街中心部にあり、夏祭りが開かれていることもあって人はそれなりに多い。
 ただ、事前に避難させてしまうとエインヘリアルは人の多い別の場所を目指すかもしれない。
「皆さんがエインヘリアルと交戦し、注意を引いている間に警察などが避難活動を行うことになるでしょう」
 目立った障害物としては盆踊りのやぐらや出店の屋台がある程度だが、壊れてもヒールすればすむのであまり気にする必要はない。
 特に寄り道をしなければ、エインヘリアルが公園にたどりつくのと同じくらいのタイミングでケルベロスたちも現場にたどりつけるだろう。
「無事に敵を倒したら、夏祭りも再開できるよねっ。ボクもできたら参加したいなあ」
 ヘリオライダーが説明を終えたところで、真理音が子供らしいはしゃいだ声をあげる。
 きっと参加できるだろうとヘリオライダーも告げた。


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
ソフィア・フィアリス(黄鮫を刻め・e16957)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)

■リプレイ

●公園の乱入者
 そこそこ大きな公園は、夏祭りに訪れた人々でにぎわっていた。
「祭りを台無しにするってのは許せねぇな。罪人ってのはどうにも風情を理解しねぇ奴が多すぎだ。ま、死の舞踏ってのは気になるけどな」
 差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)が呟く。赤い着物をなびかせ青年は駆ける。
「敵がどのような相手であれ関係ない。エインヘリアルの思うようにはさせないし、怪我人はけっして出させない」
 落ち着いた、はっきりとした声で星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)が宣言する。
 白い軍服に身を包んだ青年は、背筋を伸ばして公園内を駆ける。
 盆踊り会場のやぐらが見えてきた。
「エインヘリアルももう来てるよ。急がなきゃっ!」
 有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)の言葉にケルベロスたちが加速する。
 言葉通り、敵は今にも会場に入り込もうとしていた。
「エインヘリアルって勇者って言うより変人の集団よねホント」
 腰ミノ型のステラクロスを身につけ、殺意の赤いバトルオーラをまとった戦士を見やり、ソフィア・フィアリス(黄鮫を刻め・e16957)が呆れた声を出す。
「鮮烈だねぇ。言っちゃ何だけど華が無いな。あ、野郎だからだな」
 目深にかぶった帽子の下で、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)も薄笑いを浮かべて敵を眺めていた。
 人々に襲いかからんとするエインヘリアルを止めたのは、尾神・秋津彦(走狗・e18742)の大音声だった。
「待つであります! 祭りは千客歓迎なれど、無粋なる輩が踊りの輪に加わる資格なし!」
 ケルベロスたちへ視線を向けて、エインヘリアルは獰猛な笑みを浮かべた。
「ほら、そんなよえぇやつらとより俺と踊ろうぜ?」
 紫音の挑発に、彼はケルベロスたちへ向かって構えを取った。
「こいつらの代わりにお前たちがこのセオグリフの死の舞踏を味わいたいのか?」
 両腕をリズミカルに動かして、敵が告げる。
「どうせ踊りを見るなら、でかいおっさんより可愛い子が踊ってる方が皆喜ぶと思うのですよ。なのでお引き取り願うのです」
「ああ、沢山の人が楽しみにしてる日を邪魔をすると言うなら是非も無い、ってな。暴れる輩には退場して貰おうか!」
 ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)の言葉に応じて、天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)が敵の前に立ちはだかる。
 眼尻に赤い紅を引いて戦化粧を施した紫音が光太郎の横に並ぶ。
 緑縁の眼鏡をかけながら優輝も敵と対峙する。
 不適な笑みを浮かべて見せたエインヘリアルに、大鎌がつきつけられた。
「かつてわらわ達はそなたらを勇者として選定したつもりじゃったが……このような狼藉を犯すとは、どうやら見当違いであったようじゃのぅ……。せめて、正義の告死天使たるわらわがそなたの悪を断罪してくれよう。安心して逝けぃ!」
 ヴァルキュリアであるアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は、決然と告げる。
 もちろん、彼女自身がこのエインヘリアルを導いたわけではないが、見誤ったのが誰かは問題ではない。
「ふん……謳うよりも踊ってみせろ、ケルベロス!」
 叫んだエインヘリアルが、ケルベロスたちへと躍り掛かった。

●踊るエインヘリアル
 ケルベロスたちを踊るように薙ぎ払うエインヘリアルの攻撃から、紫音や光太郎が仲間をかばって受け止める。
 アデレードがドラゴニックパワーを噴射しながら紫音の背後から飛び出して、エインヘリアルをぶん殴る。
「まぁた場違いな格好で来ちゃって。でもま、踊りくらいなら付き合ってあげるわよ。それこそ死の舞踏をね」
 エインヘリアルに声をかけつつ、ソフィアが紙兵をばらまいた。
 敵はケルベロスに注意を向けているが、周囲には多くの一般人たちが残っている。駆けつけた警察官たちが避難を呼びかけているようだ。
 ヒマラヤンは戦場に風を吹かせた。
 礼儀正しく行動させることで、人々の混乱を多少なりと抑えるためだ。
 木下・昇たちが誘導に協力したおかげもあり、避難は順調に進んでいた。
「なんか祭を邪魔しに来た子が居るみたいなのですが、私達が来たからにはもう大丈夫なのです。警察の人に従って、落ち着いて避難するのですよ」
「はい! ケルベロスの皆さん、がんばってください」
 周りにいる人々に呼びかけると、一部の一般人たちが答えが返ってきた。
 金色の目を細め、ヒマラヤンは敵へと向き直る。
 仲間たちはすでに反撃を開始していた。
 スウが円筒形のスイッチを押して爆発で敵を制圧すると、優輝が斧を叩きつける。
「有賀殿は回復にて支援を願います!」
 秋津彦が真理音に呼びかけながら、砲撃形態に変化させたハンマーから竜砲弾を放つ。
「うん、がんばるよっ」
 真理音が頷いて、オウガメタルから粒子を放ち始めた。
「出力上昇、雷陣展開……悪いが、こっから先は通行止めってなぁ!」
 光太郎が敵を包み込むように雷の鳥籠を展開する。
 紫音の跳び蹴りを浴びたセオグリフだったが、動きを鈍らせつつも音速を越える拳で彼を殴り返した。
「ははっ、いいぜ。もっと踊ってみせろよ」
 痛打を食らいつつも、紫音は不敵な態度を崩さない。
 ヒマラヤンはモフモフとした獣理扇を振って、自分自身に妖しく蠢く幻影をまとわせながら戦闘に加わった。
 ケルベロスたちから攻撃を浴びながらも、エインヘリアルはひるまず踊り狂う。
 使い捨ての駒として送り込まれたという話だが、その戦闘能力は決して低くはない。
 秋津彦は屋台の屋根を蹴って、敵が背を見せている櫓の上に飛び乗った。
「まずはその動きを止めてやるでありますよ」
 後衛である彼が背後に回り込んだことに、セオグリフは気づいていないようだ。
 櫓から跳躍すると、重力を操りながら狼の少年は高速で敵へと降下。
 舞うように味方の攻撃をかわす敵に、背後から狙いすました蹴りを叩き込む。
「むっ……」
「これぞ狼の刀法、そのヘンテコな踊りでは捕らえもさせませぬ」
 うめきをあげる敵の横をすり抜け、少年はさらに敵を翻弄すべく距離を取った。
「チキュウの夏の風物詩がわらわを待っておる! 正義の炎を浴びて、罪を贖うのじゃ!」
 動きが鈍ったと見て、アデレードが炎をまとった鎌でより威力の高い一撃を繰り出す。
 優輝は武器を一度収めると、セオグリフへと接近する。
「叡智と追撃の矢」
 右手に氷、左手に炎の魔力を生み出す。
 それを体の前でスパークさせて、彼は『無』の力を生み出した。
 光を矢のごとく束ねて、敵の眼前から撃ち放つ。
「祭りの時間は有限だ。祭りを楽しむ人々の思い出を、壊させはしない」
 敵を追い詰める光の矢は、かわそうとした敵の動きを捉えて確実に貫いた。
 エインヘリアルの気弾がスウへと放たれた。
 紫音は代わってそれを体に食らい、一歩、二歩と後ずさる。けれど、彼はその痛みすら楽しいと感じていた。
「大丈夫か?」
「ああ。悪いな」
「気にするな」
 傷ついた彼を、ソフィアや真理音が回復してくれる。
 さらにもう一人、背後から彼を癒してくれる者がいた。
「少しは自分の体も顧みたらどう?」
 短い間だけ振り向くと、腐れ縁の仲である時任・優希の顔が見えた。
 避難活動を手伝っていたはずだが、無事に終えて戦闘のサポートに来てくれたらしい。
「優希が支えてくれるんだろ。頼りにしてるよ」
「ま、他の子と一緒に回復してあげるわ。終わったら、あたしとデートしてよね? 紫音」
「戦いの後、無事だったらな」
 敵に視線を戻すと、再び紫音の顔に狂気じみた笑みが自然と浮かぶ。
 なにもないはずの場所で爆発が起こる。
「もっと踊りなよ。好きなんだろ? 俺も踊らせるのが大好きだ」
 スウの技なのだろう。動きを止めた敵に、舌なめずりをして彼は告げた。
 そこに、紫音は一瞬にして間合いを詰める。
「そんなんじゃ、赤く染まれねぇだろ? もっと深くねぇとな!」
 無銘ながら理想の切れ味を持つ刀をナイフと共に振るい、彼は敵を切り刻む。
 蹴りの一撃が敵を吹き飛ばしたが、敵はまだ倒れはしなかった。

●踊らされるエインヘリアル
 やぐらの周囲を回りながら戦闘は続く。
 幾度めか、セオグリフは再び殺意をまとって舞う。
 光太郎はとっさにアデレードをかばった。
「お前みたいな奴と踊らされたんじゃ女の子がかわいそうだからな。代わらせてもらうぜ」
 2人分の衝撃をまとめてくらって、それでも彼はそう言ってのける。
 とはいえ、楽な状態ではないのは確かだ。
「強がりもほどほどにしておくんだな、ケルベロス!」
 叫んだ敵に、仲間たちの攻撃が飛んだ。
「強がってるのはお互い様じゃない?」
 ソフィアは後方から声をかけた。
「もう傷だらけだし、動きも鈍っているわよね。そろそろ回復しなくていいのかしら?」
 声をかけながら、縛霊手の御霊にグラビティ・チェインを預ける。
 紙兵を光太郎1人に集中し、彼の傷を癒やす。
 攻撃を引き受けている彼や紫音、それにミミックのヒガシバはもう一度では回復しきれないほど負傷している。
 舌打ちして、エインヘリアルが回復する態勢に入った。
 その時、乾いた音がした。
 回復しようとしたセオグリフがつんのめる。
「どうした。踊り疲れたかい?」
 スウは嘲笑うような声をかけると、Laurenzでジグザグに切り刻む。
 仲間たちも隙を逃さず攻撃を加えている。
 その間に、ソフィアが真理音と共にさらに仲間を回復している。
「無様な姿をよくも……!」
 怒りに肩を振るわせながら、敵は改めて自らを癒している。
「サメも一応お魚なのですが、これはあんまり食べたくないのですよ」
 ヒマラヤンが召喚した機械仕掛けの鮫にかみつかれて、敵が後ずさる……そこを狙ってスウは再び爆発で敵を制圧し、足を止める。
「宴も酣。本番も近いんだ、御開きとしようじゃん」
 もはや、戦いの趨勢は決していた。
「そろそろ退場の時間だ、エインヘリアル!」
 優輝が再び無の矢を放つ。
「枉事罪穢、祓い捨てる――金輪奈落に沈んでいけ!」
 大業物に光の霊力を宿して、秋津彦が烈しい斬撃を放つ。
 紫音の蹴りが敵の足を止めて、光太郎の雷が敵を囲い込む。
 そして、終わりは訪れる。
 最後の一撃となる音速の拳がアデレードを狙うが、紫音がそれを受け止めていなした。
「感謝するぞ、紫音よ!」
「そら、仕返ししてこいよ」
 アデレードは大鎌を振り上げた。
 悪を断罪し、邪な魂を物理的に刈り取る鎌に、地獄の炎が宿る。
「残念じゃが、わらわはこのあと『デミセ』巡りという大事なイベントを控えておる! さっさと断罪されてしまうのじゃ!」
 薙ぎ払う一撃と共に巻き上がった炎は、罪人の魂を肉体を焼き滅ぼしていた。

●楽しい盆踊り
 戦いが終わり、ほどなく避難していた人々の前にスウは顔を出した。
「敵は片づいたぜ。やぐらや出店も直しておいたから、ゆっくり祭りを楽しんでくれよ」
 歓声が上がり、人々が笑顔で公園に戻っていく。
「さて、俺も酒でもくらうとするかね。ああ、お礼に一杯おごってくれるってんなら、いつでも歓迎だぜ?」
 礼を告げにきた人々に、スウは冗談めかしてそう告げた。
 再開された夏祭りに、ケルベロスたちもまた散っていった。
「デミセじゃーっ! 食べ放題じゃっ!」
 はしゃぎ回るアデレードが食べ物もそうでないものも、端から店を回っている。
「ほ? はへはうへいはほ?」
 口いっぱいに食べ物をほおばったヒマラヤンがアデレードへと振り向いた。
 両手にも持ちきれないほどの食べ物を抱えている。
「いや、食べ物はたくさんあるが、食べ放題ではないだろう。訂正しておいた方がいいのかな……」
 北海道の名物らしいじゃがバターの皿を手に、通りかかった優輝が言う。
 なにを言っているかわからなかったが、おそらく食べ放題に関係することだろう。
「ところで、ヒマラヤンさんも……それは、すべて食べるつもりなのか?」
「ほ、ほえはひょふおいんあえおおいあえあおえふお!」
 首を横に振る彼女の言葉は、今度こそなにを言っているかまったくわからなかった。
 祭りの楽しみ方は様々だ。
 光太郎は公園の一角にある広場で、ミニライブを行っていた。
「さあ皆、脅威は過ぎ去った事だし――楽しみながら盛りアガっていこうか!」
 ケルベロスが演奏するとなれば、興味を惹かれる者も多いらしい。
 若者たちを中心に、少なくない人数が集まっている。
 実際に演奏が始まれば、さらに多くの人が足を止めて耳を傾けていた。
「天月さんのライブ、素敵だねっ!」
 真理音も足を止めて、演奏に耳を傾けていた。
 近くで屋台を覗き込んでいるのは秋津彦だ。
「え、北海道ではアメリカンドッグに砂糖塗して食べるのですか……?」
 北海道の一部地域では定番らしい。この辺りの地域なのか、それともその地域の人が宣伝のために店を出しているのか……ともかく、彼は試しに1つ手を出してみる。
「……むむむ、意外に有りですな、これは。有賀殿も如何ですか?」
「アメリカンドッグ? うん、ボクも食べてみるよっ」
 声をかけられた真理音は、光太郎に軽く手を振ると、屋台へ駆けて行く。
「ねえ尾神さん、お祭りって楽しいね!」
「そうでありますなあ」
 飛び跳ねる真理音へと頷き、秋津彦は次に向かう店を物色する。
 別の場所では、紫音が優希と連れだって歩いていた。
「手を借りたしな。つきあってやるよ」
 いつも通り軽薄な笑みを浮かべて紫音が歩く。
 鮮やかな赤い着物を羽織った紫音と、センスのいい衣装で着飾った優希に、すれ違う人々の目を引いていた。
「うふふ、ほら、あっちにも出店があるわよ。なんか奢ってくれなぁい?」
「奢るつもりはねぇよ。勝手に買ってこい」
 店へと向かう優希を立ち止まって待つ。
 街中の公園のためか花火はなさそうだったが、遠くから音楽が聞こえ始めた。
「盆踊りの曲……か?」
「たぶんそうじゃない? ねえ、踊っていきましょうよ」
「ま、死の舞踏とやらよりは楽しいかもな」
 独特な音楽を聞きながら、2人は先ほど戦った場所へ戻っていった。
 たこ焼きとビールをそれぞれの手に持って、ソフィアも盆踊りの曲に振り向いた。
 夜の公園を、紅白の提灯が無数に照らしているのが見える。
 浴衣姿の人々が集まり、曲に合わせて踊り始めた。
 さすがに、ラフなジャージ姿でそこに入っていく気にはならない。
「オラトリオも定命化して50年ちょっと……自分より上の世代では寿命を迎えたりする人も増えてきたわね。……この死者が戻ってくるという時期に彼らも返ってくるのかしら?」
 若く見えるが、実のところかなり高齢のソフィアは、呟いてビールをあおった。
 もともとは死者の供養のためにはじめられたという踊り。
 素人の踊りだったが、それはエインヘリアルの踊りなどよりずっと美しく見えた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。