鎌倉ハロウィンパーティー~祭りの夜は赤く染まり

作者:六月青

「ちくしょう……ちくしょう……なんでこんなことに……」
 病室のベッドの上で、男は嘆いていた。
 その足は包帯でぐるぐる巻きにされ、ぱっと見ただけでも怪我を負っていることがわかる。
「ハロウィンめ……どこまで俺の邪魔をする気だ! 今年こそ、今年こそあのオレンジ色の空間を真っ赤に染め変えてやろうと思ったのに! カボチャより、トマトの方が美味いんだからな!!」
 男は持っていたスマートフォンを操作する。そして撮りためた写真の中から目的の一枚を見つけると、ため息をついた。
「折角作ったトマトスーツ三号もお蔵入りか……ああ、誰か俺の代わりにこれを着て、あのハロウィンパーティーの会場に行ってくれねえかな……」
「それが貴方の夢ですか?」
 誰にともなく呟いた言葉に、返事があった。
 慌てて男は顔を上げる。四人部屋の、カーテンで仕切られた男のための空間の中、空気さえ揺らさずに『それ』は存在していた。
 真っ赤な頭巾の、一人の少女。
「あ、アンタは……がっ!」
 少女は持っていた大きな鍵を男の胸に突き立てる。そして、言った。
「なるほど、その被り物を着てハロウィンパーティーに参加したい、ですか。その夢、叶えてあげましょう。……世界一楽しいカボチャのお祭りに、トマトの被り物で参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 男の身体が力なく崩れる。と同時に、少女の隣にゆらりと立ち上がる影があった。
 それは、ジャック・オー・ランタンよろしく黒い目と口が書かれた、真っ赤なトマトだ。おそらく大人の頭から腰辺りまでをすっぽりと包むほど大きなそれからは、モザイクに覆われた手足が生えている。
 まさしく、男が見ていた写真の、トマト人間であった。


「鎌倉のハロウィンパーティーってのは、世界で一番盛り上がるんっすよ。……まあその、今回の被害者の格好で盛り上がったかどうかは、ちょっと自分にもわかんないっすけど……」
 少しだけ眉を寄せて、黒瀬・ダンテは予知の内容を語り出した。
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたんすけど、今、日本各地でドリームイーターが暗躍してるんす。ハロウィンパーティーに劣等感を覚えてる人の夢を吸い取って、鎌倉のハロウィンパーティー会場へ一斉にドリームイーターを送り込もうとしてるっすよ」
 世界で一番盛り上がる、と言われている鎌倉のパーティー会場に大量のドリームイーターが現れることになれば、大変な事態になるだろう。
「今回自分が予知したハロウィンドリームイーターは、えー、……トマトっす」
 情けない顔をして、ダンテはメモ用紙にさらさらと絵を描く。
「こう、こんな感じに……トマトにモザイクの手と足が生えた、みたいなトマトっす。元々、ドリームイーターに夢を吸い取られた被害者は、この格好で鎌倉のハロウィンパーティーに行こうとしてたみたいっす。それが、試着中に階段から落ちて骨折、行けなくなったもんだから悔しがって……その劣等感を、ドリームイーターに使われたらしいんす」
 間抜け、と言っては失礼なのだろうが、何にしてもすごい情熱であったことは間違いないだろう。
「とにかく、皆さんには実際のパーティーが始まる前に、そのハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいんす! 会場に来られちまったら、なんか多分いろんな意味で大変なことになるっすからね!!」
 ダンテは資料をぺらぺらとめくる。
「自分の予知では、今回のハロウィンドリームイーターが使うグラビティは次の三つっす」
 嫌いな食べ物の記憶を呼び起こし、相手のトラウマを引きずり出す『残さず食え!』。
 トマトを飛ばして相手を包み、冷静さを失わせる『トマト乱舞』。
 どこからともなく取り出したトマトで受けた傷を修復する『トマトうめぇ』。
 最早トマトへの狂信的な執念を感じるレベルだ。
「それとさっきも言ったっすけど、こいつはハロウィンパーティーが始まると同時に現れるっす。ただ、それを待ち構えるわけにはいかないんで、パーティーの時間よりも早くに『パーティーが始まった』と思われる位盛り上がっとけば、おびき出せると思うっすよ! 被り物のせいで視界も狭いんで、多分大丈夫っす!」
 本来のパーティー開始よりも早くに何らかの手段でパーティーが始まったかのように見せかけられれば、パーティーの参加者に被害を出すことなくハロウィンドリームイーターを誘い出すことができそうだ。
「……大体ハロウィンっつったらカボチャなんじゃないっすかね? この人はなんでこうトマトにこだわったのか、自分にはわからないっすけど……まあトマトだろーがスイカだろーがカボチャだろーが、ケルベロスの皆さんにかかりゃみじん切りのミネストローネっすよ! 結果は、ハロウィンパーティーの会場で聞かせて欲しいっす! 楽しみにしてるっすよ!」
「人々の楽しみを奪うような真似を、許すことはできません。……ですが、ソフィアはみじん切りという攻撃方法を取ったことがありません。皆さんの助けになれれば良いのですが……」
 微妙にずれたコメントをしたソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)に、ダンテが頭を抱える。
 ともあれ、ハロウィンドリームイーター撃退作戦は始まったのだった。


参加者
火明・ミライ(地球人の鎧装騎兵・e00456)
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
ヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415)
アリス・リデル(天下無敵のアッパーガール・e09007)
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)
杏場・ベルンシュタイン(琥珀色の夢・e14524)

■リプレイ

●祭りの前に
 鎌倉、世界最大規模のハロウィンパーティー会場……の、ほど近く。
 小さな公園では、一足早いパーティーの準備が着々と進められていた。
 作戦に当たる九人だけでは盛り上がりに欠けるだろうと、火明・ミライ(地球人の鎧装騎兵・e00456)と緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)のメイド仲間や事態を聞いた他のケルベロス達も駆けつけてくれている。
 パーティー会場設営の陣頭指揮を執るのはメイド長としての経験も厚い凛子で、彼女の指示のもとメイド達はテーブルの準備や料理の配膳などてきぱきと動いていた。
「……あの、これは一体」
 その傍らで、用意された大量の衣装に困惑した顔を見せるのはソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)だ。
「ハロウィンといえば、仮装ですから」
 にこりと笑ったのはミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)だ。彼女は白い着物をまとっているが、色白な肌と一筋色の違う美しい銀の髪が相まってまさしく昔話の雪女がそのまま抜け出してきたかのようである。
「私は、ソフィアさんには羽根付きの白いドレスで、天使様なんていいんじゃないかと思うのですけど……」
「わうっ、私はねー、ソフィアさんにはお姫様ーな十二単とか似合うと思うなっ」
 飛び跳ねるように言ったのは敬香だ。犬の耳と尻尾が愛らしい魔女の服を着た彼女は、尻尾を揺らしながら綺麗な色合いの着物を振ってみせる。戸惑った顔を見せるソフィアに、アームドフォートに小さなおばけをまるでてるてる坊主のようにいくつもぶら下げ、幽霊船のような見た目にしたミライが優しく声をかけた。彼女自身は、緑色の服に灰色のマントを重ねたバンシーを思わせる仮装をしている。
「真面目な貴女には難しいかもしれないけれど、任務だと思って、演技でも良いから盛り上がってみない? きっと楽しいと思うわよ~」
「そ、そうだぞ。せ、せっかくの機会だからな、楽しまないとだしな」
 杏場・ベルンシュタイン(琥珀色の夢・e14524)がややぎこちなく言って、ソフィアの肩に手を置いた。ピンク色のミニスカートのナース服で、きわどいスリットが入ったそれは彼女の細い肢体にぴったりとフィットしたデザインで、何ともセクシーである。手には大きな注射器のおもちゃがあり、口には出さずとも彼女がこのパーティーを楽しみにしていたことが伝わってくる。
 フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)が、黒いマントをひらめかせて、アラビアンナイトに出てくる姫のような衣装を手に取った。黒い鎧に黒いマントと、黒ずくめのようだがマントの裏側は目の覚めるような赤である。鎧の方も安っぽい市販品などではなく彼女の手製で、質感にこだわったしっかりとした作りになっているようだ。
「ソフィアさんは元が良いから、何を着せても可愛いと思うのよね」
「いえ、そのようなことはないのですが、……このままというのも問題でしょうし、その、どれか着てみたいと……」
「じゃあ手始めにこれ着てみましょう!」
「こっちがいいんじゃないかしら? 私と同じ、幽霊船の仮装よ~」
「え、あ、あの」
「Wow! ソフィアっちそれチョー似合ってるぜ! Hey,次はこっちとかどうどう?」
 プリンセスモードを使用し、赤と黒を基調としたドレスに小さな王冠を乗せた服装のアリス・リデル(天下無敵のアッパーガール・e09007)が、猫耳のついた魔女の衣装を彼女に差し出す。
「いえ、あの、これ、着方が」
「そんなのあたしにかかればヨユーヨユー! ホラここをこうやってー」
「は、いえ、あの、ソフィアは一人で、あの」
 きゃっきゃとはしゃいでいるアリスの後ろに、すっと歩み寄る人影が一つ。
「今宵、あなた方の血、頂くわ」
「What!? なんだ、マキナっちか、ビックリしたあ!」
「脅かすつもりは無かったのだけど……。そんなに怖いかしら?」
 少しばかり気落ちした様子のマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が身にまとっているのは、黒基調の夜会服に黒いマント。口元からは伸びた犬歯が覗く、完璧な吸血鬼の扮装だ。男装ではあるが、豊満な胸のせいで胸元のボタンが開いてしまっているため、そこから豊かな膨らみが見えてしまっている。
「マキナさんは、吸血鬼ですか?」
「ええ、どうかしら? 皆も仮装、よく似合っていると思うわ」
 仮装で盛り上がる女性陣を眺め、ヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415)は上機嫌だ。
「いやー、可愛い子ばっかりで目移りしちゃうなー」
 彼の衣装は真っ赤なシャツと黒いパンツという、スペインのフラメンコダンサーの服装だ。胸には赤い薔薇が飾られている。なかなか様になった格好なのだが、
(「俺以外皆女の子だなんて、この依頼受けて良かった! 後はもう、良いかっこしていい感じになるしか! なるしか!」)
 頭の中はどうやって女性陣をナンパするかでいっぱいであった。
「わうっ、みんなー! テーブルの準備が出来たよ、パーティーしよー!」
 敬香の明るい宣言と共に、『トマトマン誘き寄せパーティー』が始まった。

●赤い悪魔?
 テーブルに並べられたのは、その場に集まった面々、それから蘭華を筆頭とするメイド達が用意した菓子や軽食の類だ。
「おお、すごいね!」
「美味しそうでしょ~?」
「本当に。あ、これ私が作ったものですけど……とりっく・おあ・とりーと?」
 自信なさそうに言ってパンプキンパイを差し出す雪女姿のミオリに、ナース服のベルンシュタインもぎこちなく手を差し出す。
「あ、ありがとう」
「良かったら、これもどうかしら? お菓子作り、趣味なのよ。感想、是非聞かせて欲しいわ」
 そう言って、ジャックオーランタンに似せたシュークリームを振る舞うのは吸血鬼のマキナだ。シュークリームの中には南瓜のペーストが入ったカスタードクリームが入っているというこだわりようである。一口かぶりついたヴァルスタートが相好を崩した。
「いやー、こりゃあ美味いねえ! マキナちゃんは良いお嫁さんになるよー」
「ありがとう。食べるまでを通して、心が豊かになっていくのが嬉しいわ」
「うん、美味い。フォトナも食べるといい」
「ありがとう、じゃあ一つだけもらおうかな」
「Wow! フォトナのそれ、美味しそー! もーらいっ!」
「アンネリースさんとクロユリさんも、一緒にいかがですか?」
 南瓜を練り込んだパスタや南瓜あんパンなどの軽食類を給仕して回っていたフォトナが、呼びかけに応じてシュークリームを手に取る。その間にアリスがフォトナのパスタを食べ始めた。ソフィアに誘われアンネリースとクロユリもやってきて、一同は和気藹々と南瓜味の菓子や軽食を味わう。
 しかし、別のテーブルではそうはいかなかった。
「お疲れ様です。手を休めて、皆で一緒に食べましょう?」
 魔女の扮装をしたいちごの声をきっかけに、いちごに使えるメイド達が一斉にいちごの周りに集ったのだ。
 雪の結晶模様の白い着物を着て、雪女に扮したピアディーナ。魔女の仮装をし、パンプキンパイを持っている蘭華。クノーヴレットは妖精のイメージなのだろう、蝶の羽を背につけ草や蔦で作ったような意匠のドレスを着ている。ただ、その胸元は大きく開いており、可愛いよりは妖しい雰囲気だ。蘭華の持つパンプキンパイを切り分けようと、凛那が斬霊刀を構える。
「斬霊刀なら一瞬で八等分も可能!」
「凛那ってば……はい、ナイフ」
「え、ナイフで切るの? あ、あはは……そ、そうだよね」
 くすくすと笑った蘭華が、頬を染めつつ凜那が切り分けたパンプキンパイを、いちごへ差し出す。
「お嬢様、お味は如何でしょう?」
「はい、とても美味しいです♪」
「マスター、こちらも……ぁっ」
 その隣で給仕をしていたピアディーナが着物の裾を踏み、いちごに倒れかかる。踏みつけたことでずれたのか、その着物の袷からは豊満な胸が零れそうだ。『マスター』に失態を見せないようにと気を張っていた彼女だが、そのフラグを綺麗に回収してしまったらしい。
「トリックorトリートです、御主人様。食べてくれなきゃ悪戯しちゃうわよぉ~♪」
 逆隣にいたミライがそう言って、溢れんばかりの胸の谷間に挟んでいたスティックタイプのパンプキンパイをいちごに差し出した。さらに横から、敬香がいちごの頬をつつく。
「わうっ、主様、美味しいー?」
「ご主人様、あーん」
 さらには斜め後ろにいたクノーヴレットがいちごにぴたりと寄り添い、パンプキンプディングを差し出している。まさにハーレム状態だ。
「あ、あのあのっ……えと、お菓子はたくさんあるので、いたずらはしないでください、ね……?」
 顔を赤くしておろおろとしているいちごを見かねてか、凛子が眉をつり上げる。
「やりすぎはいけませんよ? あまり目に余るようなら……」
「……って、メイド長、そんなに怒られなくとも……軽いスキンシップですよ、ええ」
 やや慌てたようにクノーヴレットが答え、他の面々もそれに従って頷いた。
 その、時だった。
「トマトが……トマトの方がいいんだよおぉっ!!」
 地を這うような男の絶叫が、パーティー会場にとどろいたのは。

●夜はこれから、はしゃげよ乙女!
 真っ先に動いたのは敬香だ。
「Temps pour le lit」
 その言葉を囁き眼鏡を外すと、先程までの愛嬌のある笑顔は消え失せ、冷静な番犬の表情が現れる。
 次に動いたのはミライで、彼女の構えたアームドフォートががしゃりと重い金属音を立てた。
「いくわよ~? 照準同期は私が。タイミングは敬香に!」
「任せて! ……遊んであげるわ!」
 二人分の主砲の一斉射撃がトマト男を襲い、真っ赤なトマトがまき散らされた。続いて動いたのはアリスだ。バイオレンスギターを構え、激しい曲をかき鳴らす。
「来やがったなトマトマン! パーティーの邪魔しよーってんなら美味しく焼きトマトにしてやる! もっと熱く! もっと激しく! 盛り上がってこーぜ!」
「黒百合の……愛です!」
 アリスの『まるで恋する生娘のように(レット・ヒート・イット)』と、クロユリの『黒百合の呪撃』の直撃を受け、トマト男がのけぞった。
 しかし、見た目はおかしくても一応はドリームイーター。そのまま押し切れるはずもない。
「トマトは……トマトはうめぇんだよぉ!」
 どこからともなく取り出したトマトを口とおぼしき場所に入れ、トマト男は自身を癒やしているようだった。その間を使い、マキナがヒールドローンを展開し、ミオリの攻性植物から放たれる聖なる光がフォトナを包む。
「無法は許しません。オープン・コンバット……実りの力を!」
「トマトは旨いよ、旨いけどトマト祭りは二ヶ月前に終わってるんだよねー」
 ヴァルスタートがそう言って、リボルバー銃を構える。目にもとまらぬ早さで撃ち出された銃弾は、狙い過たずトマト男を貫いた。
「ヒールとキュアを欠かしたら、メディックの名折れだからね」
 フォトナの作り出すカラフルな爆風が、味方の士気を上げる。それを受け、ベルンシュタインがアームドフォートを構えて声を上げた。
「テメェもうちょっと遅く来いよ! パーティー楽しかったんだよ!」
 そして吐き出される弾丸が、再びトマトをまき散らす。
「本当です! ソフィアは全面的にベルンシュタイン殿に同意いたします!」
 眉をつり上げてゾディアックソードを構えたソフィアが、剣に宿した星座の力をトマト男に叩きつけた。
 その後もしばらく攻防は続いたが、フォトナとアンネリースの的確なヒールの甲斐もあり、途中でミライがとろろのトラウマに襲われて悲鳴を上げたりはしたものの、一同は終始押し気味に戦闘を続けた。
「番犬たるもの、主に迫る脅威あらば、完膚なきまで噛み砕くのみ!」
「私の全て、受け止める覚悟はあるかしら~?」
 敬香の『緋連十字狼牙(エキャルラット・ラム・フラム) 』、ミライの『火明流刀舞術 奥義ノ壱【射貫】(ホアカリリュウトウブジュツオウギノイチイヌキ)』を立て続けに喰らい、さしものトマト男もぐらぐらと揺れ始める。
「くそぉ……トマト……トマトおぉ!!」
 最後の一撃とばかりにものすごい数のトマトがトマト男から飛び出し、ソフィアに直撃した、かと思われた。
 しかしそれは紙一重のところで、マキナによって防がれる。
「マスターマキナ! マスターソフィア!」
「ソフィアは問題ありません! マキナ殿っ……!」
「この程度の怪我、心配は要らないわ。大丈夫よ」
「そうそう、ここでもう終わるからね、っと!」
 ヒールグラビティを使いつつ声を上げたアンネリースに、リボルバー銃を構えたヴァルスタートがそう言って、銃口をトマト男にぴたりと向ける。
「そのトマト、打ち抜くぜ!」
 その一撃が決め手となって、トマト男はその場に倒れ伏した。
 決まった、とばかりにポーズを決めるヴァルスタートだが、惜しいことに誰も彼を見ていないようだ。片手に持った薔薇が、いささか空しい。
「ったく、変なこと考えなかったらパーティーに混ぜてやったのに」
 アリスがそう言って、盛大なため息をついた。その横で、ミオリが頷く。
「トマトも悪くないのですけど、タイミングが良くなかったですね」
「本当にね。さ、後片付けして撤収しましょうか」
「わうっ、そうだねっ! ヴァルスタートさんもお願いっ!」
 フォトナの声に、ヒールグラビティを持つものはヒールを、そうでないものは通常の後片付けを、と手分けして動き始めた女性陣に、ヴァルスタートは肩を落とし、はああ、と息を吐くと夜空の月を見上げた。
「そうだ、ハロウィンはこれからが本番。大いに楽しむ前に、折角だし皆と一枚記念に撮りたいわ」
 ひとしきり片付けが終わったところでのマキナの提案に、一同は一も二もなく賛成し、集合写真を撮るべく並び出す。
「……ん?」
 そんな中、倒れていたトマト男の身体が消えたことに気づいたベルンシュタインは、その場に残された小さな赤いランプに気がついた。
 それはよくある南瓜……ではなく、トマトの形をした赤いランプだ。
 こんなところでまでトマトなのか、と思いはするが、こうなってしまえば可愛いものである。
「What? なにそれ、トマトランプ?」
「ああ……トマト男のなれの果て、みたいだ」
「ふーん……あ、それも一緒に写真に入れてやろうぜ! 記念だからさ!」
「記念……そう、だな。じゃあ、これを真ん中に……」
 そうして、総勢十七人での集合写真の真ん中には、何故か真っ赤なトマトのランプがちょこんと置かれることになったのだった。

作者:六月青 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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