ミッション破壊作戦～罪林罰採

■リプレイ

●応えよ剣、我が声に
「これがグラディウスか、思ってたよりも重いんだな」
　ルルド・コルホル（恩人殺し・e20511）は、ヘリオンの出入口で、グラディウスを両手で弄びながら、呟いた。
　眼下には奥飛騨温泉郷の景色が広がる。降下地点まで、もう間もなくだ。
「平湯大滝は冬にゃ結氷祭りってのが毎年あんだけどよ、それもこの攻性植物のせいで中止になってんだよな」
　仲間のケルベロス達へ向けてか。或いは、この温泉郷を占拠するデウスエクスへ向けてか。ルルドは呟いた。
　眼下の景色を睨みつける。デウスエクスのせいで、普段の生活を奪われた人々は多い。
　そう、そう言った当たり前の日常を――人々のささやかな幸せを守る、それが、ケルベロス達の存在理由の一つだ。
　ヘリオンが降下ポイントに到着した。と、ルルドはヘリオンの出入り口のフチを思い切り踏み込み、勢いをつけ、真っ先に飛び出した。
「２回も耐え忍ぶ。立派な事だが、往生際が悪いってもんだ！」
　グラディウスを掲げ、叫ぶ。
「３度目の正直っつーことで、いい加減ぶっ壊れて貰うぜ！」

　ルルドに続き、次々とケルベロス達はヘリオンより降下した。
　アリシア・メイデンフェルト（マグダレーネ・e01432）はドレスをはためかせ、空を舞う。
（「例えどのような場所であろうと、私が信じ戦うべきものは決まっております」）
　胸中で呟く。それは、護るべきものの幸福と安寧。アリシアが求めるものは、それだけだ、と。
　彼女は叫ばない。静かに、だが言葉には確かな、強い想いを込めて。
「どきなさい」
　グラディスを構える。眼下の魔空回廊を見据えて。
　瞳は静かに、しかしその想いは静かに燃える、青い炎のごとく。
「――ここはあなたのようなモノが跳梁跋扈していい場所ではありませんよ」

　土竜・岳（ジュエルファインダー・e04093）はミッション地域を見つめ、静かに怒りをたぎらせていた。
　フェイタルブーケに寄生された女性の苦しみを考えると……まして、幸せの象徴であるブーケのような姿をとるなど、岳にとって、とても許せるような相手ではなかった。
　岳はグラディウスを構えた。自身の力を、グラディウスに注ぎ込むように、意識を集中する。
　岳は、地球に生きる命が地球の自然を愛で感じ歓ぶこと、その想いこそが生命力そのものであり、そしてそれこそがケルベロスの力の源であると考えていた。
　それ故に。いや、たとえそうでなくとも。地球に宿る幸せを、笑顔を、護りたい。
（「大地の恵みである温泉郷や、地球が創り出した大滝の絶景を、大勢の方々が存分に楽しめる。そんな日々を必ず取り戻します！」）
　ぐっ、と、グラディウスを持つ手に力を込めた。
　ここで、フェイタルブーケを倒し、回廊は必ず破壊する。
　その意志を乗せて。
「宇宙に輝く蒼き宝石……地球に代わって！　大！　大！　大！　お仕置きですよ！！」

（「自然の姿そのままに人を癒やす山岳温泉……お前らに理解れとは言わないさ。この場所が人々にとって家であり安らぎだなんて」）
　渫・麻実子（君が生きるといいね・e33360）が胸中で呟いた。
　そこには、確かに人々の営みがあったのだ。
　それを、敵は……フェイタルブーケは破壊した。
　それは、決して許されざる行為だと、麻実子は思う。
　この国のあらゆる場所は、その姿を移ろわせながらも、ありのままに息づいて……人の思いと寄り添いながら、時を刻んできたのだ、と。
　それは、共に生きるという事。大地と人が、様々な形を見せながらも、共存してきたという事だ。
　だから、それを汚す事を、麻実子は決して許さない。
　構えたグラディウスは断罪の刃。そして、奪われた営みを奪い返すための奪還の刃。
「僕らの土を空を海を山を！　家々を！　奪わせはしない！」

　灰縞・沙慈（小さな光・e24024）は、サーヴァント、『トパーズ』と共に降下していく。
「私は誰も傷付けさせない……！」
　決意するように。宣言する様に。言った。
　あまり大きい声を出すのは得意ではなかったが、グラディウスに想いを乗せるための言葉は、不思議と淀みなく紡がれた。
　たとえ自分が傷ついても、仲間たちを守る。そう決めた。
　１人では、ダメだったかもしれない。でも、隣には、相棒が、トパーズがいる。
　大丈夫、２人ならきっと。
「体の痛みも心の傷も……全部、全部……守ってみせる！」
　そう。できるはずだ。２人なら。自分達なら。
　すべてを守ろう。自分達で。誰かを傷つけるものから。
「皆を傷付ける貴方だけには絶対に負けない！」

　進藤・隆治（黒竜之書・e04573）にとって、攻性植物とは忌むべき相手である。
（「我輩の里は攻性植物に滅ぼされたからな……」）
　故に。同じ攻性植物によって蹂躙される土地がある事が、傷つけられる人がいる事が、隆治には我慢ならない。
「ここは、人が安らぐ地だ。貴様らの様な奴らが好きにのさばって言い訳ではない」
　グラディウスを構え、息を大きく吸った。
　忌むべき敵は眼下に。その敵に向けて。
「だから……割れろ！」

「人に寄生する植物か……趣味が悪いね」
　一比古・アヤメ（信じる者の幸福・e36948）は降下しながらつぶやいた。
「それにしても奥飛騨温泉郷……本当なら、ボクもゆっくり温泉でも楽しみたいんだけどね」
　だが、その場所はデウスエクスに占領されているのだ。
　デウスエクスの襲撃は激しい。そんな世の中である。こういった観光地で心を癒すことは、人々にって重要な事だ、とアヤメは思う。
　デウスエクスを倒すことが、ケルベロスにはできる。
　だが、人々の笑顔の為には、敵を倒すだけではなく、こういった施設による心の癒しが必要不可欠。
　だから、取り返さなければならない。これも、人々のための戦いだ。
　グラディウスを構え、心を言葉に乗せて。アヤメは叫んだ。
「民の為の戦うのを選んだのはボクだ！　この国の人々の笑顔のため！　……いざ、剣よ！　その力を示せ！」

　フェイタルブーケとの戦いが始まったのはいつからだっただろう？
　遠い昔のようにも、つい昨日のようにも感じる。
　白咲・朝乃（キャストリンカー・e03561）にとって、フェイタルブーケは宿敵ともいえる存在だった。
　フェイタルブーケは、今なお多くの女性に寄生し、その被害を拡大させようとしている。
　多くのケルベロスによって、その凶行は止められてきた。
　だが、いつまでも、フェイタルブーケを野放しにしておくわけにはいかない。
　今回こそ。強襲型魔空回廊を破壊し、フェイタルブーケも倒して見せる。
（「――それが私の宿命だから！」）
　朝乃は両手でグラディウスを構えた。
　多くの人々の想いを引き継いで。想いは一点、グラディウスにすべてを込める。
「皆の、そして私の想い。受けてみろぉぉ！！」

　ケルベロス達の言葉に、叫びに、想いに、グラディウスは応える。
　眩いばかりに輝くエネルギーをその身に宿し、グラディウスはその本領を発揮した。
　八つの流星は、輝く光の尾を引き、魔空回廊へと向けて次々と降り注ぐ。
　グラディウスが魔空回廊を守るバリアに触れるや、爆炎と雷光が発生、辺りを包み込んだ。
　そして――。

●ブーケ・トスの終わり
　破壊されたバリアの欠片が、細かく砕けて降り注いだ。
　それはさながら、光の雪だった。光の雪はミッション地域へと降り注ぐ。
　元は醜悪な、地球侵略のための機構。だが、この一瞬だけは、とても美しいもののように見える。
　刹那、一陣の風が吹いて、降り注ぐバリアの欠片を吹き飛ばした。
　所詮は地球にとっては異物。そう、自然が主張したかのようでもあった。
　周囲には未だ、グラディウス使用による副産物である、スモークが立ち込めている。
　それでも、先ほど吹いた風は、ケルベロス達に、どこか清涼な匂いを感じさせていた。
　まるで、デウスエクスにより淀んだ空気を、地球が押し流すかのようだ。
　同時に、ケルベロス達は悟った。
　この地域は、解放されたのだと。
「よぉっし！」
　ルルドが、歓喜の声をあげた。
「……やった……！」
　沙慈も胸をなでおろす。
　とは言え、気を抜くことはできない。遠からず、ここを占拠していたデウスエクスは全滅するとはいえ、今はまだ、敵の勢力圏内だ。
「グラディウスを預かるよ！」
　アヤメが言った。
「頼む」
　隆治が言う。ケルベロス達はグラディウスをアヤメに預けた。
「さて、このまま脱出させてもらえればいいんですけど……」
　岳の言葉に反応するかのように、スモークの中から一人の女性が現れた。
　その女性の身体には、ブーケを思わせる形の攻性植物。
　悲痛な女性の表情とは裏腹に、ケルベロス達は、自身に向けられる確かな怒りの雰囲気を感じ取っていた。
　それは、フェイタルブーケの怒り。自らの繁殖地を完全に破壊されたが故の怒りだ。
「まぁ、すんなりとはいかないみたいだぜ？」
　麻実子が武器を構えた。
「もとより、女性は助けなければいけませんし――」
　アリシアの言葉に、
「フェイタルブーケはここでやっつける！　不幸のブーケトスはここで終わりにするんだ！」
　朝乃が続いた。
　ケルベロス達は臨戦態勢に入る。フェイタルブーケも、攻撃態勢に入った。
　かくして、奥飛騨温泉郷解放のための戦いが始まった。

　ボクスドラゴン、『シグフレド』と共に、アリシアが走った。それはどこか、舞うように優雅な動き。オウガメタルによりおおわれた拳による一撃。それに追従する様に、シグフレドがタックル。
「戦うのは苦手だけど……皆が傷つく方が嫌だから……！」
　呟いて、沙慈が飛んだ。オウガメタル『アメジスト』を身にまとい、フェイタルブーケへと迫る。
「トパーズ……アメジストも、力を貸してね……！」
　放ったのはアメジストによる一撃。間髪を入れず、トパーズが尻尾の輪を放ち、追撃。
「ブーケさん、あなたも生きる為なのでしょうけれど……！」
　自身の身体を高速回転させながら、岳が突撃する。
「私達にも守りたいものがあります。だから……ここであなたを倒します」
　フェイタルブーケに直撃。とは言え、上手く寄生された女性の身体は避けている。
「……今、助けてやるからな」
　呟き、隆治は自らの武器から衝撃波を放った。
　『タウントクラッシュ』により放たれた衝撃波には、挑発の意志が込められているという。直撃すれば、相手は怒りに飲まれるだろう。
　その効果かどうかは不明ではあるが、フェイタルブーケは自身の身体を侵食形態へと変貌させ、隆治へと迫る。武器で受けつつも、飛散した毒は防げず、隆治の体を蝕み始める。
「一気に決めさせてもらうぜ！」
　ルルドは叫び、ブラックスライム『影狼』のまとわりついた武器で、フェイタルブーケに斬りかかった。その傷口から影狼はフェイタルブーケの体内に浸食し、内部から焼き尽さんと活動を始める。
　『暴れ狼（ツマグ・オグンジェニ・ヴク）』。 濃紺色の炎はフェイタルブーケを焼き殺さんとはい回る。
「悪趣味な花。お前、朝乃の因縁なんだってな」
　いつの間にか、麻実子はフェイタルブーケの背後にいた。人差し指を突き出し、手を銃を模したような形で、フェイタルブーケに突きつける。
「良くは知らないけど……仲間のためこの土地のため、死んでくれ。勿論その捕えた女の人、離してからな！」
　人差し指から何かが放たれた。それは、麻実子のグラビティだ。『KISS AND KILL（キスアンドキル）』は、音もなく忍び寄り、相手を撃ち抜く。
「人質を苦しめる外道の所業！　決して許すわけにはいかない！」
　叫び、アヤメは飛んだ。
「白雪に残る足跡、月を隠す叢雲。私の手は、花を散らす氷雨。残る桜もまた散る桜なれば……いざ！」
　手に螺旋の力を込めた、死角からの急降下攻撃。燐光を花のごとく散らせ、『スプリングレイン』はフェイタルブーケの美しい花も、また散らせる。
「ここで終わりにするんだ！　溺れるほどの春を奏でてあげる！」
　フルートによって奏でられた、温かな春を思わせる曲。『ハルホリック』によって出現した音符たちが、フェイタルブーケに襲い掛かる。
　ボクスドラゴン、『ぷわぷわ』は、ケルベロス達の回復を行った。

　戦いは続いてく。ケルベロス達は、純粋な火力の少なさを、行動阻害で補う戦術をとった。同時に、出せる火力は惜しみなく使用していく。
　少々決定打には欠けたかもしれないが、フェイタルブーケへのダメージは着実に蓄積していったし、当初の予定通り、行動阻害効果も蓄積。如何にフェイタルブーケが回復技能を持っていたとしても、焼け石に水と言う状態であった。
　ケルベロス達は防御面に関しては充実していたため、被害は微々たるものだ。
　そして、決着の時は訪れる。

「死よ、汝は全てに滲み通る征服者である。我はその魔手より逃れ出る者、あらゆる軛である汝をこそ征服する者である」
　アリシアの詠唱が朗々と響く。『十三の祝福『復活』（ドライツェーンゼーゲン・ユル）』は、ルーンの力を使用し、魔力で編んだ宝剣で以て、味方を回復させるグラビティである。
「あともう少し……！」
　攻撃を加えつつ、沙慈が言った。
　フェイタルブーケの身体はそこかしこがすでにボロボロになっている。末端は枯れ始め、その限界は直ぐに訪れようとしている。
「地球の重力の元、どうか安らかに……！」
　祈りの言葉をつぶやきながら、岳は再度、高速回転しながらの突撃を敢行する。
　そして、それが最後の一撃となった。
　岳の攻撃を受けたフェイタルブーケは、その身体を急速に枯らせ、消滅していく。
　後に残ったのは、寄生されていた女性の、無事な姿だ。
　気を失い、倒れ込む女性を、岳が抱きかかえた。
「これで……終わったの、かな」
　朝乃が、呟いた。
　自分が救えたのは、ほんの一握りだった。でも。
「うん、僕達の完全勝利だぜ」
　麻実子の言葉に、朝乃は頷いた。
「とにかく、脱出しよう。時間がない」
　隆治の言葉に、沙慈もこくこくと頷いて同意する。
「無事帰るまでが作戦だ！　とっとと離脱するぞ！」
　ルルドが言う。
「さぁ、参りましょう、皆様」
　アリシアが促し、ケルベロス達はグラディウス保持者であるアヤメを守るように隊列を組んだ。女性は、朝乃がおぶって、岳がそれをサポートする。

　かくして、ケルベロス達は戦場を後にした。
「さようなら、フェイタルブーケ。運命の花束を握るのは、私で……最後よ」
　朝乃の呟きだけを残して。

作者：洗井落雲	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年8月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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