●月の音色
神々の棲む島。そう呼ばれている国に伝わる青銅製の楽器、ガムラン。
それは美しい音色を響かせ、神に捧げる音楽を奏でると云われる。そんな音色と同じ響きを宿す球を真鍮のなかに封じ込めたものが、ガムランボールと呼ばれる小さな飾珠だ。
星に月、太陽。そして花や雨、海。
自然をモチーフとした意匠が刻まれた小さな球。
掌の上で揺らせば、しゃりん、と愛らしい音色が鳴る。安らぎの音を聴かせてくれるそれはドリームボールとも呼ばれており、願い事が叶うと言い伝えられていた。
此処はガムランボールを専門に扱う店だった。
星の図が刻まれたもの、花を模した宝石が鏤められたもの、太陽のような眩い金。雨の滴を模ったものや、海に揺蕩う波を思わせる装飾。
銀の粒と銀を細い糸で飾ったものや、真鍮の中に色鮮やかな球を埋め込んだもの。
様々な種類のガムランボールを取り揃えていることを売りとしていたその店は現在、営業を停止していた。
「どうして駄目だったのかな……」
店主である女性は未だ片付けを始めていない店内を見渡す。
アジアンテイストで纏められたこの店を開いて数カ月。最初は客足も良かったが徐々に売り上げが減り、この店は閉店に追い込まれた。
手には『導きの月』と書かれているタグが結ばれたガムランボールが握られている。
深く俯いた表情には後悔の念が見て取れた。そして彼女が大きな溜め息を吐いた、そのとき――背後に怪しい影が現れた。
驚いた女性は思わず球を取り落としてしまう。
しゃりん、と幽かな音色が店内に鳴り響くなか、その影――魔女・ゲリュオンは囁く。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
●星映す眸
安らぎの音色奏でるガムランボールの専門店。
既に閉店が決まった店の主であった女性の『後悔』が奪われてしまった。メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)はそんな予知があったと話し、ヘリオライダーから伝え聞いた話を仲間達に語る。
「自分のお店を持つのは、夢よね。けれど……叶えた夢が潰えてしまった人が襲われたの」
ガムランボール専門店の主である女性の『後悔』が魔女によって奪われた。
魔女は既に消えてしまっているが、其処から新たに生まれたドリームイーターが事件を起こそうとしている。このままでは夢を奪われ、意識を失った店主も目を覚ませないまま。
暴走した店主型夢喰いが無理矢理に客を店に引き入れ、押し売りめいたことをして最後には殺してしまうことになる。
「未来を知ってしまった以上、放ってはおけないものね。手伝ってくれるかしら?」
メロゥは集った仲間達に星の彩を映す瞳を向けた。
そして、メロゥは敵の詳細を語る。
敵は一体で女性店主にそっくりな姿をしている。店内に入った直後にそのまま戦闘を仕掛けることも出来るが、この類の敵には別の対抗策もあるという。
それは買い物を楽しむことだとメロゥは告げる。
「メロたちがガムランボールをじっくり見て楽しんで、気に入ったものを一つ選べばいいのよ。そうすれば夢喰いは満足してしまうそうなの」
店内の棚やボードに並べられたガムランボールの種類は様々。
凛と高い音色を響かせるものもあれば、比較的重厚で荘厳な音を鳴らすものもある。見た目も其々に違い、月や星をモチーフにしたもの、ハート型のもの、バスケット型やアンティーク調のものまである。
何を選ぶかは各自の好きにすればいい。
選ぶ間、敵は此方をそっと見守っているだけらしい。
そうして敵が満足した場合、戦闘力がかなり減少するようだ。そうなれば倒すのも簡単だと伝え、メロゥは更にもうひとつの情報を付け加える。
「満足させてから夢喰いを倒すと、戦闘後に意識を取り戻した店主さんの後悔の気持ちも薄れるらしいの。夢が還って、前向きに頑張ろうって思えるみたいね」
買い物も楽しめて心も救える。良いこと尽くめね、とメロゥは淡く双眸を細めた。
そうして、メロゥは導きの音色とかの店に思いを馳せた。たとえ後悔の念があったとしても、被害者は悪いことをしたわけではない。
「夢は完全には叶えられなかったかもしれないわ。それでも、だからって彼女の未来が暗いままでいいわけがないもの。だから、ね」
メロたちの手で明るい未来を切り拓きましょう、と少女は微笑んだ。
どうか、どうか――神聖なる音色が誰かの先を示す導きになりますように、と願って。
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551) |
茶菓子・梅太(夢現・e03999) |
ラズリア・クレイン(天穹のラケシス・e19050) |
アーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974) |
アリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909) |
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679) |
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004) |
●夢と音
「――いらっしゃいませ」
踏み入った店内でケルベロス達を迎えたのは、無表情の女性。
それが店主の姿をしたドリームイーターだと思うと緊張したが、此方を客と認めたらしき相手は静かにレジスター前に控えているのみ。
「さあ、素敵なお買い物にしましょ」
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は仲間達に微笑みかける。こんなにたくさんのガムランボールは初めて見たと瞳を輝かせた彼女の傍らには茶菓子・梅太(夢現・e03999)が興味津々に店内を見渡していた。
「ガムランボール、初めて見た」
梅太が目の前の棚にそっと手を伸ばすと、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)も自分も実物を見るのは今日が初めてだと話す。
「こんなに種類があって装飾も一つ一つ違うんですね」
ガムランという東南アジアの民族楽器を元にして作られたアクセサリー。それがガムランボールなのだと語ったレオナルド。ラズリア・クレイン(天穹のラケシス・e19050)は成程、と頷いて近くにあった物を掌の上に乗せた。
するとしゃらん、と不思議な音色が辺りに響く。
「素敵な形と音、です」
「綺麗な鈴かと思ったらとても不思議でエキゾチックな響きなのです!」
「この音、綺麗ですね……! とても癒されます」
素直な感想を口にするラズリアの隣、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)とアーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)が音色の余韻に耳を澄ませた。
「これ、アリシアは初めて知りました。とても可愛いですね!」
思わず、勿体ないと呟いたアリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909)はこの店が既に閉店していることを残念に思う。アリシアがちらりと横を見ると、相変わらず店主型夢喰いは無表情で控えている。
少し不気味じゃ、と軽く身震いしたミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は棚に並ぶ銀珠に視線を映した。
「綺麗なものじゃしうまくやればお客さんも増えたんじゃないかのぅ」
されど、今は自分達がこの店にとって最後の客。
夢喰いにも、そして夢半ばで散った店主の為にも――。仲間達は視線を交わしあい、めいっぱい楽しい買い物をしようと心に決めた。
●音色を探して
静かな店内に響き渡るのは清らかな音。
しゃらん、と残響する不思議な音色を聞くとまるで異国にいるようだ。暫し商品を見て回ったレオナルドは或るひとつを手にとり、音を確かめてみた。
「このイルカのモチーフが付いたガムランボール、何だか可愛いですね」
音も澄んでいて静かな海を思わせるよう。心が落ち着きます、とレオナルドがイルカの模様を眺めているとラズリアが隣を覗き込む。
どれも素敵で迷ってしまうが、ふと彼女の目に留まったのは銀の細工が施してあるひとつだった。
「この青い真鍮の入ったもの、とっても綺麗。音も澄んでいて……」
これにしましょう、とラズリアはそれを掌で包み込む。銀の珠は何だか自分の手によく馴染むような気がして、ラズリアは双眸をそっと細めた。
仲間達が其々のお気に入りを選ぶ中、アーニャはウイングキャットのティナに似合う物を探していく。小振りな星めいたガムランボールを手に取ったアーニャはティナの首輪にそれを合わせてやった。
ティナが動くと同時にしゃりん、と鳴った音を聞き、アーニャは微笑む。
「よし……! ティナとお揃いで一緒に買おうっか!」
ちいさな星は翼猫へ、少し大きな星は自分に。ひとりと一匹が揃った様子を眺めていた店主がほんの少し笑った気がした。
同じ頃、アリシアとミミは様々な様相のガムランボールを見比べていた。
「アリシア、芸術とかはよくわからないのですけど……一つ一つがモチーフを元に綺麗にデザインされてあって凄いなって思います」
「わらわは見たことがないものはどんどん見ていきたいのじゃ。こんなに綺麗なものならば見るのも楽しいのじゃ」
これも、あれも、と手にしてみるミミはアリシアにも金や銀の珠を渡していく。少しずつ音も違って聞こえるそれらは二人の関心を引くには十分なものばかり。
だが、アリシアがはっとする。
「これ一個これだけするんですか? アリシアのお財布足りるかな……」
「大丈夫ですよ。お手頃なものも見つけました!」
高価なものに青褪めるアリシアに対し、あこはさっと真ん丸なボールを差し出す。ミミもそれを覗き込み、これじゃ、と目を輝かせた。
「わらわはこのボールが欲しいのじゃ。猫の顔になっているのが可愛いのぅ」
「あこはお花にしたのです。音も重厚感があってすてきなのです!」
ミミに猫珠を渡したあこは花の意匠が刻まれたものを軽く振る。球を転がして音を聞くあこはまるで、玩具でじゃれる猫のよう。
その様子を見守っていたラズリアは微笑ましさを覚え、くすりと笑った。
花と星。そして煌めく石。
理想の物を探す最中のメロゥはちら、と隣の梅太を見遣った。ころころと珠を鳴らしていた彼はふと視線に気付いて首を傾げる。
「お気に入りは見つかった?」
「まだ、迷い中……。梅太は? たくさんあるから、見つけるのが大変ね」
「……たいへん。でも……、たのしいね」
「――うん、たのしい」
ゆるゆると微笑む二人の気持ちは同じ。そうして暫く、二人で品物をめいっぱいに探して楽しんだメロゥは隣の梅太の裾をくい、と引いて呼ぶ。
「メロね、お願いがあるの。梅太が選んだガムランボール、メロがプレゼントしたいなぁ、って。……だめ?」
少女からの願いにぱちりと瞳を瞬いた梅太。
次の瞬間には嬉しそうに相好を崩し、だめじゃない、と答えた。
「じゃあ、メロゥが選んだものは俺がプレゼントするよ」
「わ、わ……うれしい」
お返しの提案にメロゥの頬が紅潮し、つられてほんのりと梅太の頬も染まる。二人は感謝の気持ちを互いに送り、贈り物を手に取った。
そして、店内に和やかな雰囲気が満ちる。
レオナルドはイルカのガムランボールを鳴らし、その音で心を落ち着かせた。
この後にはドリームイーターとの戦いが待っている。少し恐くなってきた心情を押し込める為、響かせた音色はしゃらりと余韻を残した。
そのとき、アーニャは偽店主の雰囲気が変わっていることに気が付く。
「皆、見て! 店主……ううん、夢喰いが微笑んでる!」
無表情であった敵は今、にこやかに満足気な表情を浮かべていた。
これで敵を満足させるという使命は完了したのだと察し、仲間達は身構える。後はそう、弱体化した夢喰いを倒すだけ。
楽しい買い物だったと笑みを交わしあった後、番犬達は真剣な眼差しを向けた。
●悪夢の終わり
戦意を感じ取った夢喰いは身構え、此方の出方を窺う。
しかし、敵からは脅威となる雰囲気はまったくない。皆で協力しあえば怖い相手ではないと察し、ラズリアは作戦の成功を感じ取った。
「このお店には大切な夢が詰まっているの。貴方にはお引き取り願います」
床を強く蹴ったラズリアは構えた槍の切っ先をドリームイーターに向け、稲妻の力を帯びた一閃を突き放つ。
其処へレオナルドが地獄の炎を武器に纏わせて続いた。
震えそうな気持ちは奥底にあるが、今はひとりの女性を救う為に踏ん張る時。レオナルドは刃を振り下ろし、敵に炎を与えた。
更にメロゥが魔力に満ちた言の葉を星に変え、光を生み出す。
「梅太、おねがいね」
「うん、大丈夫」
光の雨を降らせて敵を穿つメロゥ。彼女から告げられた言葉は短いが、たったそれだけであっても何を意味しているかなどすぐに分かる。梅太はその思いに応えるべく、雷壁を周囲に張り巡らせてゆく。
対する敵は月の音色を響かせてミミを狙い打った。
だが、すぐさま飛び出したアーニャがそうはさせないと立ち塞がる。痛みが身体中に駆け巡ったが、即座にティナが清浄なる翼を広げて癒しを施す。
「痛そうじゃのぅ。すまぬのじゃ」
「平気です! これくらい何てことありません」
ミミが心配そうに見つめる中、アーニャは魔力を込めた光輝くオーラを発動させた。月光の慈愛がアーニャの痺れを取り払い、体力を完全に癒す。
そして、アリシアは敵を睨み付けた。
「アリシアがその後悔の念ごと断ち切ってあげますよ」
刹那、跳躍したアリシアが流れる星を思わせる蹴撃で相手を穿つ。仲間に合わせてミミも動き、テレビウムの菜の花姫に攻撃を願った。
「わらわは敵の動きを鈍らせていくのじゃ。遠慮はなしじゃからのぅ」
竜槌を振り上げたミミが轟竜の砲撃を放つ中、菜の花姫が眩い光を放つ。眩しさでテレビウムが敵を引き付ける中、ウイングキャットのベルが翼をはためかせた。
「ベル、かっこよくいきましょう!」
あこはベルに呼び掛け、光輝くオウガ粒子を放出する。それと同時に翼猫による清浄なる力が加護として巡り、仲間達をやさしく包み込んだ。
あこ達が支援に回る中、他の仲間は攻勢に移る。
本来あるべき力を失った状態のドリームイーターは徐々に弱りはじめていた。
このような戦いなど長引くべきではない。ラズリアは凛とした眼差しを向け、遠慮などなしに敵を猛攻に巻き込んでゆく。
メロゥは殺神ウイルスを散らして敵の回復を妨げ、梅太も彼女に寄り添う形で雷の加護を皆に施していった。敵も星を思わせる魔力珠をレオナルドに向けて投げてきたが、ダメージはあことアーニャがしっかりと癒している。
「きっとあと少しです、みんなファイト!」
「すべすべでぷにぷになのです!」
アーニャが光輝の力を発現させ、あこが癒しの肉球で皆の背を支える。
ティナとベルの翼猫コンビもしっかりと仲間の援護に回り、菜の花姫も懸命に敵を引き付け続けた。
そして、隙を見つけたミミは猫のぬいぐるみを取り出し、其処に魔力を施す。
「みーこ、ごーなのじゃ」
掛け声と共に投げられたみーこは敵を追うように襲い掛かる。可愛さに押し潰されそうになる夢喰いをしかと見据え、アリシアは力を溜めた。
夢喰いに似て、あり得ないものをある形にする、それはこの『重』も同様。
「夢散った後、其の追い打ちを重ねるような真似。アリシアは許しません」
首を出せ、と告げたアリシアは敵に肉薄し、二つの斬撃を同じ箇所にほぼ同時に重ねた。まるで紙屑のように引き裂かれた敵が僅かに傾ぐ。
其処に好機を見出したラズリアは刹那の間だけ目を閉じ、亡霊王の槍をエネルギーとして具現化させた。
「夢は、綺麗なままが一番なのですよ」
その場に放たれたのは、忘却の楽園に君臨する死王の槍。
虚無の槍は迷うことなく敵を刺し貫き、悪夢に成り得る偽の魂を縛り付けた。
今です、とラズリアが送った合図に頷き、メロゥは再びひとかけらの言の葉を唇にのせる。瞬刻、天上ならぬ天井にさんざめく無数の星々。
「――ねぇ。あなたにも、聴こえるでしょう?」
月の囁き、そして――星の導きを奏でる音が。
淡く告げられた言葉と共に光は雨の如く降り注ぎ、戦場に煌めきが満ちた。メロゥが解き放った光に目を細め、梅太も指先を敵に差し向ける。
「悪夢じゃなくて……よい、夢を」
夢の化身に向けて放たれた力は幻覚を起こしながら迸った。夢の主に望むのは精神を蝕む悪夢ではなく、未来に向けて見る夢であってほしいから。
メロゥと梅太達の連撃に夢喰いが膝を突き、苦しげな声で呻いた。あと一撃で戦いが終わると察したあこは頷き、ミミも仲間に視線を向ける。
お願いします、とラズリアが告げ、アーニャもレオナルドに信頼を預けた。
仲間達の思いを感じ取り、レオナルドは覚悟を決める。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
勇気を奮い起こす言葉と同時に、居合いの構えから刃が見えないほどの高速の斬撃が繰り出される。心臓の畏れの炎から陽炎が巻き起こり、戦場が熱を帯びた。
その刃と焔はまさに縦横無尽。否――獣王無刃。
刹那、その連撃が収まる。その一瞬後、偽店主の姿は霞のように薄れはじめたかと思うと、やがて夢喰いの形は完全に崩れ去った。
不意に、しゃらり、と鳴るガムランボールの不思議な音色。
その響きは穏やかで、宛ら戦いの終わりを彩っているかのようだった。
●重なる音
偽店主は屠られ、店には元あった静けさが戻った。
アーニャとあこは荒れてしまった店内を片付け、仲間と共にバックルームに向かう。其処には本当の店主である女性が倒れていた。
あこがそっと彼女を起こし、アーニャは無事を確かめる。
「良かった、怪我はないようです」
「わ、気が付いたみたいなのです! 大丈夫ですか?」
二人が店主を覗き込むと、平気です、というしっかりした答えが返された。レオナルドが事情を説明し、ラズリアは楽しい時間を過ごしたと笑む。
「店長さん、店長さんっ、とても素敵なお買い物をさせて頂きましたの」
「そんな……私こそお礼を言わないといけないのに」
ありがとうございます、とラズリアが伝えると店主は緩く首を振った。アリシアはお礼をしたいのだと告げ、思いを言葉にしてゆく。
「アリシアは恥ずかしながら今日この日までガムランボールのことは知りませんでした。だらもう一度、頑張ってみましょう。店主さん!」
「そうじゃのぅ。ものは良さそうじゃしきっと売れるようになるのじゃ」
ミミも出来ることならば手伝いたいと申し出て、女性に笑顔を向けた。きっとすぐには難しいだろう。それでも、ケルベロス達が彼女に向けた思いは本物だ。
レオナルドは穏やかな表情を湛え、店主に心からの応援の気持ちを送る。
「あなたの願い、またいつか叶うと良いですね」
それに、ほら、とレオナルドが示した先には選んだガムランボールを大切そうに持つ二人の姿があった。
梅の花と星が刻まれた珠。其々に緑と黄のストーンが飾られたものを交換しあい、メロゥと梅太は真っ直ぐに見つめあう。
「……大切にするよ」
「ありがとう、梅太。メロも――私も、大切にする」
「こちらこそ、ありがとう」
想いと願いを込めて、掌で包み込んだ銀の珠は凛とした音を響かせた。
凛と響く、梅の花と星。星色の瞳は煌めく。
梅と星は凛と歌う。燈す緑はいつも君の傍。
幸せに満ちた少女と少年の姿を見つめた店主もまた、嬉しそうに微笑む。
想いと音色が重なる時。きっとこれが自分が求めていたものだと感じた店主は、ありがとう、と改めてケルベロス達に告げた。
メロゥは彼女に微笑を返した後、もう一度梅太を見あげる。
溢れる笑みは、どこまでも甘く。
響く音色はどこまでも穏やかに。
大切な君と幸せを分かち合えたなら、それが一番、うれしいことだから。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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