花火を人に向けてはいけません!

作者:青葉桂都

●巨大ロボの危険な花火
 季節は夏になり、全国各地では夏祭りが開かれはじめていた。北海道のとある温泉街もそのうち1つだった。
 街のそばにある湖畔の広場には、たくさんの客が集まっている。
 湯治客を目当てに並ぶ、祭りの定番メニューから北海道名物まで様々な出店。
 そして、夏祭りの目玉と言えば、花火だろう。連日のように行われる花火が湖畔の広場に集まった人々や、ホテルの窓にはりついた人々の目を楽しませている。
 その日も、そうなるはずだった。
 事件が起きたのは、花火大会が始まろうとする、その直前。
 突然の爆発音に、いくつもの悲鳴が上がる。
「あれは……デウスエクス?」
 湖からさほど遠くない場所にあった古い旅館を砕いて、突然巨大な機械の人型が姿を見せたのだ。
 突き出した両腕から火の粉が飛び出す。人の命を奪うべく舞い踊る火花はまるで花火の一種のようですらあったが、もちろんそれを楽しむ者などいるはずがない。
 危険な両腕を振り回しながら、ダモクレスは祭りの会場へと炎を撒き散らした。

●ダモクレスの進撃を止めろ
「大変だよ! 夏祭りを巨大ロボ型のダモクレスが襲うんだって!」
 ヘリオライダーよりも先にケルベロスたちに告げたのは有賀・真理音(機械仕掛けの巫術士・en0225)だった。
 次いで、ヘリオライダーが語り始める。
 先の大戦末期、オラトリオによって封印されていた巨大ダモクレスが復活して暴れだす事件が予知されたというのだ。
「復活したダモクレスはグラビティ・チェインが枯渇しており、戦闘能力が低下しています。しかし、放っておけば人の多い場所に移動して殺戮を行い、補給してしまうでしょう」
 力を取り戻せば、さらに多くの人を殺して、そのグラビティ・チェインでダモクレスを量産し始めるだろう。
 必ずここで食い止めなければ、大きな被害が出てしまうことになる。
「なお、ダモクレスが出現してから7分経過すると、魔空回廊が開いて敵は撤退してしまいます。そうなればダモクレスはもう撃破できなくなってしまいます」
 そうなる前に、なるべく急いで敵を倒す必要があるとヘリオライダーは告げた。
 事件が起こるのは北海道のとある湖のそばにある温泉街。
 湖畔の広場で観光客相手に夏祭りが行われており、それなりの人がいる。ただ、ケルベロス到着に前後して市民への避難勧告も行われるので、皆が深く気にする必要はないだろう。
 巨大な敵との戦いなので、周囲のホテルや旅館への被害は避けられないだろうが、ヒールで直せばいいので問題ない。気にせず足場などに使っていい。
「本来はサイズに見合った高い戦闘能力を持っているようですが、グラビティ・チェインの枯渇状態であるため弱体化しています」
 ただし、1度だけフルパワーの強力な攻撃を行えるらしい。運が悪ければ無傷でも一撃で倒される可能性があるほどの威力だが、使えばダモクレス自身も大きなダメージを受ける。
「敵の攻撃手段ですが、まず両腕から近距離に激しい火花を滝のように放つ攻撃ができるようです。受けると熱と光で防具を劣化させられてしまいます」
 また、敵の足元に爆発を起こし、目標を空へと吹き飛ばすことができるらしい。さらに、空中で花火のような大きな爆発を起こして追撃することができる最強の攻撃だ。
 空に打ち上げた爆弾から炎を降らせる範囲攻撃もできる。色とりどりに輝く炎を見ると、体が麻痺してしまうこともあるようだ。
 ヘリオライダーは説明を終えた。
「楽しいお祭りを邪魔するなんて許せないよねっ。無事に片付いたら、ボクたちもお祭りに参加したり、花火を見たりできると思うし、頑張ろうっ!」
 真理音が発した言葉に、ヘリオライダーは静かに頷いた。


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
シルフォード・フレスヴェルグ(風の刀剣士・e14924)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
ルー・シエロ(小白竜・e36124)
潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282)
木嶋・徹也(あなたの街の便利屋さん・e62493)

■リプレイ

●現れたダモクレス
 湖畔の温泉街でざわめきを広げながら人々が移動していく。
 避難する一般人たちの間をすり抜けて、10人のケルベロスは敵の出現地点へ向かう。
「花火は他人に向けんなって、人間様のルールはデウスエクスは知ったこっちゃないってかい」
 分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)が仲間たち――特に女性陣に視線を向けながら、軽く肩をすくめてみせる。
「季節の催しを狙うのは、グラビティチェイン収奪には効率の良い手段だと思いますよ。残念ながら不首尾に終わりますけれど」
 色黒の顔に微笑を浮かべたままだったが、空木・樒(病葉落とし・e19729)が吐いた言葉は辛らつだ。
「夏場は人の集まるイベントが多いし、警戒が必要とは思ったが。花火の会場が火の海になるなどシャレにならないな」
 潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282)が油断なく周囲を観察する。
 爆音が聞こえた。
 色とりどりの火花を飛び散らせながら、行く手にある古い建物が破裂する。
「そうなる前にアイツを打ち上げてやるか」
 舞い上がる煙へと、煉児は武器を向ける。
 見上げるほどの巨体が建物の残骸から飛び出してきた。
「おいおい巨大ロボって聞いちゃいたが……こんなでけぇのかよ……」
 木嶋・徹也(あなたの街の便利屋さん・e62493)は片手でハンチング帽を押さえ、もう片手でバスターライフルを抜く。
「本当に、すごく大きいなあ。けど、急いで片付けないと花火大会に間に合わないよ! がんばろう!」
 笑顔を見せる有賀・真理音(機械仕掛けの巫術士・en0225)は、ずいぶんと花火を楽しみにしているようだった。
「人の被害が出ないので戦闘に専念出来るのが幸いと言えば幸いか。さっさと片を付けて花火大会を楽しみたいものだな」
 仮面の下から敵を見上げて、巫・縁(魂の亡失者・e01047)も呟く。
 立ちふさがるケルベロスたちの上空へと、ダモクレスが両腕を向ける。
「行きましょう。ここを惨劇の場になどさせはしない」
 決意を込めた表情で、シルフォード・フレスヴェルグ(風の刀剣士・e14924)が言う。
 魔空回廊へ撤退する前に必ず倒すことを心に誓うと、狼の尻尾が高く上がった。
「花火前のセレモニーです。遠慮なく壊しましょう」
 白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)は澄ました顔で、ダモクレスに向けて弓を構えた。
 鈍い音がしてダモクレスの腕から何かが飛び出す。
 と、同時にケルベロスたちもまたそれぞれの武器を構えて攻撃をしかけていた。

●火花舞う戦い
 頭上で破裂した爆弾から、流れ星のように火花が飛び散り、後衛のケルベロスたちへと降り注いできた。
 真理音へと飛んだ炎を、徹也が代わりに食らう。
「木嶋さん、ありがとう!」
「気にすんな。真理音はなるべく安全な場所で、みんなの強化と回復をしてやってくれ」
 元気な声で少女が了解の返事を返す。
「できれば最初は前衛優先で支援をお願いします」
 佐楡葉は徹也の言葉を補足しながら前進した。
「其は紅の喜び。其は秘められた愛。其は命を滅ぼす――囚えなさい、≪Under the Rose≫」
 指先に魔力弾を宿しながら、近くにあった建物の壁を蹴って跳躍。
 ダモクレスの足元へと撃ち込む。
 大輪の薔薇が地面に咲いた。
 恋に病んだ乙女の執念が如く、絡みつき、棘を突き立ててその足を止める。
 止まった瞬間、シルフォードと縁も連携して攻撃をしかけた。
 まず空へと駆けた狼の青年が、重力を操った飛び蹴りを叩き込んだ。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て! 龍咬地雲!」
 後方で重たいものを地面に叩き付ける音が聞こえ、次いで襲いかかった衝撃波がさらにダモクレスを地面に押しつけていた。
 敵の足を止めて攻撃を当たりやすくするのはもちろん重要だが、ダメージを加速することももちろんケルベロスたちは忘れていない。
 楽雲が氷結の螺旋を足の止まったダモクレスへと飛ばす。
「俺達と貴様と、どっちが先に燃え尽きるか、勝負といこうじゃあないか。もっとも、こっちは氷も使わせてもらうがな」
 煉児がパイルバンカーに凍気をまとわせて敵を貫いている。
 樒が攻撃を食らった後衛に粉薬を散布して回復しているようだ。
 先ほど言葉を交わした徹也と真理音は前衛へと支援の技を飛ばしている。
「回復弾だ、安心して当たっとけ。ついでにツイてアタリも出やすくなるってな」
 タロットを張り付けたホルスターから銃を抜き、徹也が味方へと癒しの弾丸を放った。
 真理音がドローンを飛ばし、その徹也を含めた仲間たちを守っていた。
「竜の咆哮で何もかも浄滅してあげる!」
 ルー・シエロ(小白竜・e36124)の咆哮が、白い雷球を解き放つ。
 足を止められながらもダモクレスの巨体はそれを避けようとしたが、雷球は敵を追いかけて機械の体を激しく焼いていた。
 だが、枯渇状態とはいえたやすくデウスエクスを倒すことはできない。
 シルフォードは衝撃を感じて、数歩後ずさった。
 もっとも攻撃を食らったわけではない。目の前で縁のオルトロスであるアマツが上空へと吹き飛ばされていくのが見えた。
 攻撃を受けようとしていた彼をかばってくれたのだ。
 上空でアマツの周囲に大輪の火花が咲いている。
「ありがとうございます、アマツさん。まったく……派手な攻撃ですね」
 尻尾を振って感謝の意を伝えると、オルトロスもまた尻尾で応じてくれた。
 自分が打ち上げ花火にならないように、シルフォードは改めて警戒心を強める。
 そうしながらも、彼はアームドフォートの砲口を敵に向けた。
「花火を見るのは好きですが、麻痺付きは勘弁ですからね」
 アームドフォートが火を吹いて、巨体のど真ん中に砲弾を叩き込む。
 短期決戦を挑むべく、ケルベロスたちはさらに攻撃を続ける。
 樒は持参した時計を確認しながら戦っていた。
 現在はまだ2分すぎ……5分がたてば彼女も攻撃に加わるつもりだったが、今はまだ回復に注力する時間だ。
 再び炎の雨がケルベロスたちへと降り注ぐ。
 かばわれることを嫌ったか、ダモクレスは今度は前衛を狙ってきた。
 徹也が楽雲をかばったのが見える。
「夜闇に沈む小さき星すら、ただの獲物と成り下がるのです」
 そんな彼らに微笑を向けながら、樒はまた粉薬を準備する。
 毒の研究からつながった薬学と治療の知識に、彼女は高い矜持を抱いている。
 かつて遊牧民の国で用いられたという秘薬をさらに改良した薬は、デウスエクスとの戦いで十分な効果を発揮する効果を得ている。
(「わたくしが居る限り、誰も戦闘不能にはさせません」)
 仲間たちへと薬を飛ばしながら、心の中で樒は呟いた。

●爆炎に散るダモクレス
 一度だけ仕掛けてくるというフルパワー攻撃は、まだ飛んできてはいなかった。
 縁は敵の足を止めたあと、その攻撃を警戒していた。
 精神を集中しながら、敵を観察する。
「なにか攻撃前の徴候が見られればいいんだが……な!」
 言葉とともに爆発が起こった。
 花火の射出口になっている両腕を爆破して、攻撃の威力を弱めたのだ。
「まずは、その前にできるだけ動きを止めておくとしようぜ」
 爆破の隙を突いて接近した煉児が惨殺ナイフで敵をジグザグ似切り刻む。
 次なる攻撃も、まだフルパワーではなかった。
 楽雲は花火の炎を浴びながら、両手のエクスカリバールを振りかぶる。
 釘で傷口を広げる。
 すでに傷だらけのダモクレスだが、まだ止まる様子はない。
 樒が薬匙をかたどった杖で回復してくれた。真理音も御業の鎧を作ってくれる。
「助かるぜ、樒ちゃん、真理音ちゃん。勝ったら何かおごっちゃうかも!」
 回復してくれた礼を告げ、楽雲はさらに攻撃する。
「残り5分……」
 樒が声をあげようとした。
「気をつけろ! 変な動きをしている!」
 それをさえぎって、縁が仲間たちに呼びかける。
「……こいつがフルパワーか? 来るぞ!」
 徹也は叫びながら仲間をかばうために飛び出した。
 ダモクレスが腕を空に向ける。範囲攻撃の姿勢だ。
 視界の端で、縁がアマツと目配せしあうのが見えた。
 アマツが楽雲をかばおうとしていたので、徹也は佐楡葉の前に飛び出す。
 次の瞬間、星のごとく降り注ぐ火花で、視界が真っ白に染まった。
 それから全身を覆う熱。
 だが、回復している暇はない。
「ラスト……スパートだからな。仕留めるぜ」
 攻撃する仲間たちに続いて、徹也も敵をにらみ付け、爆発させる。
 傷だらけのダモクレスが、巨大な腕を徹也の前に突きだしてきたのが見えた次の瞬間、徹也は吹き飛ばされて意識を失った。
 6分。
 徹也と、それからフルパワーの範囲攻撃でアマツが倒れていたが、気にする余裕もなくケルベロスたちは必死の攻撃を仕掛ける。
「天才ですから――!」
 分解の魔力を手に、建物の屋根から飛び出した佐楡葉が敵の頭部にそれを直接叩きつける。
 縁が網状の霊力で敵を縛り上げたかと思うと、それに合わせて金髪のヴァルキュリアがグレイヴを深々と突き刺した。
「さあ、踊ろうぜ! 足は踏んでくれるなよ?」
 楽雲の身に纏う妖気が刃へと変じて踊るように敵を切り裂く。
 両手のオーラを合わせた刃が一閃した直後、シルフォードが敵の首の後ろに乗っていた。
「風よ、貫け」
 見えない位置から突きだした妖刀が風を纏って首を薙ぐ。
「花火のように散るのは貴方です」
 真下に潜り込んだ樒が、薬匙の杖を振り上げるように叩きつける。
 煉児は拳を固く握った。
 残り時間がどれだけかはわからないが、おそらく十数秒しかないだろう。
 だが、考えている余裕はない。ただ地獄の炎を全力で叩きつけるだけだ。
「見て驚け、我が怒り――そして、砕けろ!」
 建物の壁を蹴って、ひび割れた装甲の隙間へと巻き貝状の炎を巻き付けた拳を叩き込む。
 瞬間、爆発した炎がダモクレスの内部を焼き、砕いていく。
 色とりどりの火を噴いてダモクレスが動きを止め、その場に崩れ落ちていった。

●夏の夜の花火
「さて、花火の後は、片付けをしっかりやんないとな!」
 楽雲の言葉に、シルフォードが頷く。
「人も戻ってきてるみたいですから、お祭りを楽しめるようにもう一仕事しておきましょう」
 シルフォード自身も楽しみにしているのだろう。狼の尻尾が楽しげにパタパタと揺れていた。
「あ、着替える人たちは行っちゃっていいからねー。こっちは着替えない野郎どもでやっておくからさ」
 女性陣に向けて手を振りながら、楽雲は壊れた建物や設備をヒールし始める。
 やがて、避難していた人たちが戻ってきて、夏祭りは遅れて始まった。花火大会はもうしばらくしてから始まるらしい。
「っかぁー! この一口のために毎日働いてるみてーなもんだなぁ……」
 徹也は肉汁がこぼれそうなほどジューシーな焼鳥をビールで喉に流し込み、大きく息を吐いた。
 幸い、重傷にはなっていなかったので酒が飲めるし料理も食べられる。
「傷にさわるから、飲み過ぎないでねー!」
 声をかけてきた真理音に片手を上げて応じながら、徹也は次の一杯を買うためにまた屋台へと向かった。
 他の者たちも、想い想いに夏祭りを楽しんでいるようだ。
 黒い肌によく映える浴衣を着て、樒は屋台を物色していた。
「センスのいい浴衣だねえ。それが見られただけでも、ここまで来た甲斐があるってもんだ」
「いえ、それほどでもありませんよ。でも、ありがとうございます」
 焼いたとうもろこしを手に賞賛の言葉を投げてくる楽雲に、微笑を浮かべて礼の言葉を返す。
「せっかく北海道まで来たのですから、ご当地の名物を色々と堪能しましょうか。焼きとうきびもおいしそうですね」
 樒は周囲を見回した。
「ラムチョップはいかがですか? 戦いの後ですから、しっかり栄養補給しておいたいいと思いますわ」
 通りかかった佐楡葉が声をかけてくる。
 北海道といえばやはりラム肉だろうと彼女は言った。
「名物がたくさんあって、目移りしてしまいますね」
 食べ歩きに行くという佐楡葉についていくかどうか考えながら、樒は呟いた。
 花火が上がり始めた。
「やっぱり、花火は上がっているのを見るほうがいいですね。打ち上げられるのはもう遠慮したいです」
 シルフォードが呟く。
 誰にともなく発した言葉に応じたのは煉児だった。
「また似たようなダモクレスが出ないことを祈るばかりだな」
 青年もまた、空に描き出されている大輪の花を楽しんでいるようだ。
「大きな音・まばゆい光。こうして今を生きている事を実感できるのは皆のおかげだな」
「ええ、まったくです」
 なんとなく言葉をかわしていた2人は、人垣の間で背伸びしている真理音に気づいた。
「よかったら、抱えようか?」
 その背中に近づき、煉児は声をかける。
「うん、お願いしてもいいかな、潮さん」
 少女の体を、煉児は軽々と抱えて持ち上げてやる。
 連続して打ち上げられる花火を見て、真理音が歓声を上げた。
「花火って、こんなにたくさん種類があるんだね。いろんな人が考えた、綺麗な形を集めてきてるってことなのかな?」
「そうかもしれないな」
 真理音の感想に、煉児は相槌を打つ。
「きっと、こういうのを考えられる人を、綺麗な心の持ち主って言うんだろうなあ。すごいねえ」
「おかげで、私たちはこうして花火を楽しめるわけですからね」
 笑顔を浮かべている少女に、シルフォードも同意の声を出した。
 幾度も上がる花火を、ケルベロスたちは静かに楽しんでいた。
 そうしているのは、彼らだけではない。
 縁はアマツと、それにオランジェット・カズラヴァと並んで花火を見上げていた。
 凹凸のくっきりとした彼女の美しい体の曲線を水色の浴衣が包み込み、空に舞う光と祭りの明りに照らされている。
 縁のほうも浴衣だ。アマツも犬用の甚平を着せてやっている。
 北海道独特の名で売られていた唐揚げを、アマツは美味しそうにかぶりついている。
 ダモクレスの強力な攻撃から、仲間をしっかり守ったごほうびだ。
 2人は片手に電球型の容器に入ったソーダを持っていた。縁が待ち合わせの前に買っていたものだが、まだまだ外気に比べれば冷たい。
 つないでいるもう片方の手からは、夏の夜の熱気とは違う温かさが伝わってきていた。
 また一度打ち上げの音が響いてきて、空に大輪の花が咲く。
「手持ちのも打ち上げもどちらも嫌いでは無いが、こういう時に誰かと一緒に見ることが一番良いものだな」
 空を見上げながら、縁は言った。
 自然と表情が緩むのを感じる。仮面の下で、地獄で補った目にも笑みは浮かんでいるのだろうか。
「二人で見れば……思い出も二倍、ですからね……」
 少し強く握ってきたオランジェットの手を、縁も握り返した。
 周囲の人々も皆、花火を楽しんでいるようだ。
 自分たちが守った人々の笑顔を確かめながら、ケルベロスたちは心地よい夏の夜を過ごしていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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