一緒に花火、どうですか?~陽菜の誕生日

作者:桜井薫

「あの、あの! 花火やるのに、どこかいい場所知りませんか?」
 ぱたぱたと駆け込んできた天野・陽菜(ケルベロス兼女優のたまご・en0073)は、前置きなどを一切すっとばし、円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)に勢い良く質問を投げかけた。
「花火? また突然、どうしたんじゃ?」
「あ、はい! この前お芝居の勉強がてら見た映画で、主人公が仲間たちと花火をやってるシーンがあって……それが、すっごく楽しそうだったんです。で、そういえば、みんなで花火とかやったの、ずっと前だったなあ……久しぶりにやってみたいなあ、って、思って」
 無邪気な笑顔とキラキラした瞳で、陽菜は勲に応える。そして小さく、今日は誕生日だから、みんなと楽しい日を過ごせたらすごく嬉しいですし、とも付け加えた。
「なるほどの。なら、ここ辺りはどうかの」
 勲が口にした地名は、とある関東外れの溪谷。最寄り駅からは多少歩くことになるが、人里から十分離れているので多少騒いでも大丈夫で、景色も申し分ない、とのことだ。
「あ、いい感じです! じゃあ、じゃあ、私、早速みんなをお誘いしてきます。花火、いーっぱい持っていかないとですねっ」
 色とりどりの炎を放つ紙製の手持ち花火、スパークする火花の飛び散る針金製の花火、風情ある雰囲気には欠かせない線香花火、などなど……陽菜は楽しげにあれもこれもと、用意する花火の種類を挙げる。
「そんなに一人で持ちきれんじゃろう。荷物持ちがてら、わしも付き合うじゃ。今日は天気もええし、何より楽しそうだしの」
「はいっ、ありがとうございます! 私、がんばって、たくさん声かけてきますねっ。合言葉は、『誰でも歓迎!』です!」
 友達同士で盛り上がるのも良し、恋人と甘い時間を過ごすのも良し。
 いつにも増して元気な足取りで、陽菜は駆け出すのだった。


■リプレイ

●浴衣の競演
 リーズレット、和、うずまき三人の【三ツ星】は、全員浴衣で決めて楽しげに溪谷に集う。柄と色にはそれぞれの個性が存分に活かされ、さながら三輪の花のようだ。
「LET'S PARTY!」
「いぇー…!」
 さっそく花火の始まり、と思いきや。
「たまにはこういうんもえぇよね……ってリズさんストップ、それはあかん」
「はっ! ……そ、そう! ぁ、危ないからダメなんダヨ」
 二人の両手に手持ちで上げるには大き過ぎる打上げ花火が握られてるのを見て、和が慌ててストップをかける。
「そうか……ならば線香花火大会しよう! 誰が最後まで残ってるか競争だ!」
「よし! 負っけないぞぁ~」
「いいね、なら景品はアイスでどう?」
 それならと勝負に切り替えるリーズレットに、二人もノリ良く賛成の意を示し、三人のメインイベント開始となった。
「よぉし! ご褒美アイスはボクのものっ☆ ……あ」
 景品のアイスにやる気を出したが、張り切った勢いでうずまきの炎があっさりと落ち、ねこさんはジトッとした目で主人を見つめる。
「残念だったな! ……って、マジか……」
 ライバルの自滅にはしゃいだリーズレットだったが、彼女の炎も続いてぽとりと落ち、響は『やれやれだぜ』とでも言いたげな表情だ。
「ありゃ二人ともどんまい……ってりかー危ないって……ぁ」
 主人の勝ちだと喜び飛びつくりかーに和の炎はゆらめき、こちらの火玉も儚い命を散らしてしまう。
「これは引き分け、かな?」
「ひ、引き分けだよっ。優勝商品は皆のモノだよネ!」
 顔を見合わせ勝敗の協議がまとまったところで、うずまきはしっかりと権利が全員にあることを強調し、かくてめでたくアイスは全員のものとなった。
「はい、陽菜さんにもアイス!」
「皆で食べた方が美味しいしね☆」
「お誕生日おめでとね♪」
「……わあ、ありがとうございます!」
 仲良くアイスを食べている三人の側を通りかかった陽菜にもアイスがふるまわれ、辺りは一転、楽しい女子会の空気に包まれるのだった。

 ブリュンヒルトは浴衣で、虎次郎は甚平で。夫婦で花火を楽しむ時間は、お互い久々だ。
「へぇ、途中で色変わる花火なんてあるんだ」
「花火なんて何時以来だろ……火薬の匂いが妙に懐かしく感じるよ」
 七変化の炎を見てはしゃぐ妻に、虎次郎はそっと自分の花火の火を近づける。
「あ、強くなった……こういうの、アタシも性に合ってるわァ♪」
 お互いの火を分け合いながら強く燃え盛る炎は、二人の顔を明るく照らす。見慣れた伴侶の顔に、今日この場だけの思い出を映しながら。
「締めはやっぱり線香花火だな。どっちが長持ち出来るか競争だ」
「もちろん受けて立つよ♪」
 線香花火を取り出して誘う虎次郎に、彼女はむろん異論なしと頷いて……二人同時に火を点け、その炎の行方を見守った。
(「あ、落ちそうだ……えぇい!」)
(「と、落っこちそうだな……」)
 そして、二つの炎が仲良く落ちそうになったタイミングで動いたのも、二人同時のことだった。
「……!」
 どうやら、二人とも考えていたことは同じだったようで。
 互いの不意を打とうとしていたブリュンヒルトと虎次郎は、なんともタイミング良くキスを重ねることとなった。

 ヴィンセントと桜は、二人とも浴衣を着て岩に腰掛け、線香花火を手に取る。
 桜のまとめ髪には、ヴィンセントが作った簪が揺れている。
「あの……簪、似合いますでしょうか?」
「うん、すごく似合ってて……桜も、きれい」
「……あ、ありがとうございます、ヴィンセントのおかげ、です」
 頬を染める桜に、彼は優しくうなずく。
「線香花火……花火は、これが一番好きです。儚くて、静かで、散り際まで美しくて」
「うん、微かに爆ぜる光は、寄り添ってくっついて、一緒に眺めるのには、丁度いい。……桜が帰ってきてくれたから、桜が言う、線香花火のうつくしさが、わかる」
 ヴィンセントの言葉には、無事に再び二人の時間を過ごすことのできる幸せが込められていた。
「……うつくしい、とか、すき、とか、桜がいないと、きっと感じない。どうか傍に、いて。オレにいっぱい、教えてほしい」
「……はい。美しいも、好きも、二人で一緒に見つけましょう。ずっとそばに、います」
 線香花火の炎は落ちても、二人の誓いは永遠に輝き続ける。

「海咲さん、とっても可愛い!」
「ジェミさんも、すっごくよく似合ってます!」
 ジェミと海咲が、互いの浴衣姿を見て歓声を上げる。年頃の女子二人が纏う華やかなオレンジと爽やかな青の浴衣は、競い合う花火の炎にも負けない美しさだ。
「あ、その髪飾り……」
 海咲はジェミの髪に『Rise up more』の姿を認め、ちょっと嬉しそうに瞳を輝かせた。
「真っ赤なガーベラの髪飾り、嬉しい。どんな時も前に進む勇気を持てそう!」
「……気に入ってもらえてうれしいです」
 大輪の花のような明るい笑顔で改めてお礼を言うジェミをまぶしげに見つめ、海咲はにっこりと微笑む。
「さ、花火です、花火! ジェミさんはどんなのが好きですか?」
「好きなのは色々あるけど……あ、打上げ花火だ!」
「わぁぁぁ! すっごく、すっごく綺麗です!」
 花火が上がり、散っていくさまに無邪気な歓声を上げる海咲の横顔が、ひときわ大きな花火の炎で照らされる。その姿を見て、ジェミは愛しさを感じずにはいられない。
「……!?」
 花火にはしゃぐ海咲の頬に、不意に柔らかな感触が落とされる。
「え、あれ……っ!? どうしました!?」
「あまり可愛かったから、ね」
 その正体は、ジェミの口づけだった。少し慌てる海咲に、ジェミは照れ隠しの笑みを作るのだった。

 白地にピンクと、紺地に白の朝顔が染め抜かれた浴衣を見せあい、褒めあい。
「……はっ、ごめんなさい! 普段と違うリュイェンさんに見とれちゃってました」
「うん? いいんだよ、僕もシフに見とれてたしね!」
 花火の準備もそぞろなのは、互いの姿があまりに素敵だったから。
「わぁー……途中で色が変わるんですね!」
(「ふふ、無邪気にはしゃぐシフ可愛い」)
 それでもどうにか手持ち花火を始めた二人。やがて慣れてきたのか、シフは花火の炎で空中に文字を描く。『ス……』で止まった彼の文字に応えた彼女の文字は、『ボクモ』だ。
「普段はあまり近付けないから、ドキドキしちゃいますね……」
「うん。こんなに近づけて。シフが近くて、おかしくなりそう」
 甘すぎる火文字の後は、線香花火で肩を寄せ合い、さらに甘い時を過ごす二人。
 また来年もその先もこうして二人で花火をしようと、これまた甘い誓いを交わすのだった。

●普段着の幸せ
「楽しみだね、タマ」
 相棒に話しかけつつ、護朗はダリルの姿を探す。ほどなく待ち人は現れた。
「溪谷で花火だと水に映って二倍楽しめそうですね」
「って、チェスロックさん!?」
 迷子にならないように、と手を引くダリルに、護朗は子供扱いかとムッとしつつも、なんだか兄ができた気分で文句も言えず愚痴を飲み込む。
「すごい、いっぱい持ってきましたね」
 そんな護朗の内心を知ってか知らずか、ダリルは沢山持ち込んだ花火を広げ、そしてひときわ大きな花火を護朗に差し出し、点火の役目を果たすように促した。
「え、僕が火つけていいの? ほんとに? ……うわぁ!」
 喜々として火を点けた花火は派手な音を立て、護朗はタマともどもびっくりして飛び退くこととなったのだが。
「花火を見ると日本の夏という気がしますね」
 そんな様子を微笑ましげに見守りながら、ダリルも軽く手持ち花火を回してみせたり、風情を心ゆくまで楽しんでるようだ。
 最後の線香花火長持ち勝負が僅差で護朗の勝ちとなるまで、二人は思うさま炎の競演を続けるのだった。

「缶ビールに、ボトルカクテルに……お、つまみも美味そうだ」
「ふふ、夜のピクニックですね……もちろん、花火もしましょう」
 レオンが二十歳を越えたお祝いに見繕ってきたお酒を手に柔らかく微笑み、ソーヤは手持ち花火に火を点けた。この火がこの時間が、長く続けばいいな……と思いつつ。
「こっちはほら、打ち上げ花火」
 レオンは嬉しそうに大きなリュック一杯に詰め込んだ花火を見せ、ソーヤのタイミングを崩さないようにポンポンと挙げてゆく。
「花火に酔って、お酒にも酔うって贅沢にも思えますよね」
「美人と一緒にお食事ってだけでもいいものさ」
 紙コップを片手にどう? とお酒その他の感想を訊く彼女に、レオンは軽口っぽく返しつつ、自分が満足してることを表情と態度に乗せる。
「それとまあ、こんな時に言うのもなんだけど。誕生日プレゼント、ありがと。嬉しかったよ」
 レオンが懐から取り出した時計に反射し、花火の光が煌めいた。
「……光に見入っちゃいますね」
 ソーヤが見入った光は、花火か、はたまた思い出の輝きか。

 勇華とエーゼットは、線香花火を手に、二人寄り添い並ぶ。
 エーゼットがどっちが長く落ちずに保たせられるか競争しようと笑みを向けると、勇華は二つ返事で。
「僕が勝ったら……その、勇華からキスしてほしいな」
「ってエー君!? えぇとそれは……うん、それでいいよ。じゃあわたしも……勝ったら……キスしてくれる?」
 結局どちらが勝ってもキスすることになる、ただ主導権のみを賭けた可愛らしい賭けが始まった。
「あわわわ、き、消えちゃう! 頑張れ、わたしの頑張れ!」
 勇華の慌てる声を追い、ジリリと彼女の火の玉が先に落ちる。
「じゃあ、ご褒美、だね。目、瞑って? 恥ずかしいから……」
 約束通りの勇華からのキスを、エーゼットは優しく目を閉じ受け入れるのだった。

 ネーヴェとルーナは二人寄り添い、夫婦水入らずの時を過ごす。
「ね、どれする?」
「ネーヴェと一緒なら、何でも」
「……じゃ、線香花火……どれだけ長く保ってられるか、競争。勝負ねルーナ」
「いいね」
 照れと嬉しさを込めてネーヴェが返したのは、定番の風情ある花火だ。夫はうなずき、こよりを一本手に取る。
「……」
 ささやかな炎の音の中、花火と共に用意してきた西瓜をひとかけら、片手でつまんで夫の口元に差し出す。
「……ご馳走様」
「……! あ……も、も、一回!」
 ルーナはぬけぬけと西瓜と共にネーヴェの指先をぱくりとやって、不意を突かれたルーナは思わず火の玉を落としてしまい、ムキになって照れ隠しのリベンジを願う。
「……!」
 そしてルーナは、自分の唇が触れた指先をこっそり舌でなぞる妻の姿を見て、思わず蕩けるような笑顔を浮かべる。
「何だか、も、勝負なんかよりも。ルーナだけ……見てて、い?」
「もちろん」
 それに気付いたネーヴェも、溶かされそうな顔で頬を染め、そそと直ぐ夫のもとに寄り添う。
 そんなお願いに、ルーナはうなずき妻を抱き寄せるしかなかった。

 なずなは、この日をとても楽しみにしていた。
「標的10個までは余裕か……なら次は30個同時……」
 なずなが放つ花火は、『シューティング花火』。空に上がっていく風船状の花火で、付属の拳銃型リモコンで撃ち抜くと光を放つ。暇にあかせて鍛え上げてきただけあって、その腕前はほぼ百発百中だ。
「わあ、すごいです……!」
「ベ、別に……!! これくらいならワールドクラスなら普通だし……!!」
 小気味よく破裂する光につられてやって来た陽菜が彼女の腕前を褒めると、なずなは真っ赤になって反論する。
「あの、あの。私もやってみたいんですけど、いいですか?」
「いいよ。シューティングの経験は?」
「ほとんど無いです」
 じゃあまずはチュートリアルで1個からか……と、なんだかんだ面倒見良く、なずなは陽菜の世話を焼くのだった。

 雅也率いる旅団【日進月歩】は男4人女3人の大所帯で、賑やかに楽しむ準備万端だ。
「よーし、野郎ども集合! パラシュートゲット勝負、いくぜ!」
 団長の一声で、八雲と匡と楓はわらわらと雅也の周りに集まり、ルール説明に耳を傾ける。
「ルールは簡単、パラシュートをゲットしたチームの勝ち! 勿論、お互いへの妨害もOKだ。チーム分けは、俺・匡チームと八雲・楓チームで!」
 さしずめ刀剣士チームと飛び道具チーム、といったところだろうか。
「男同士のバトル、負けらんねぇな。八雲頑張ろうぜ!」
「おぅよ!」
 張り切る楓に、八雲は不敵な笑顔で応える。
「んじゃ、アッシュはジャッジ頼むな!」
「なるほど、了解した。えっと、どっちも頑張れよー」
 そして女性陣から審判としてアッシュを指名し、彼女がパラシュートを点火すると同時に走り出す男4人。
「さて、どーやって邪魔……わわ!」
「ほら匡、いくぜ!」
 妨害の作戦を考えていた匠は、急に鳴った破裂音に、一瞬頭が真っ白になってしまう。そんな相棒の尻を叩くように、雅也はねずみ花火や煙玉などを相手側の足元にぽんぽんと投げてゆく。
「あっぶねぇ……おもしれーじゃんよぉ。考えんのはやめたやめた!」
「おいおい連中の妨害本気すぎね? これはそろそろ俺らも本気出しちゃう? ……八雲、作戦Cで行くぞ」
「了解! 飛び道具のプロフェッショナルを敵に回したことを後悔させたらぁ!」
 楓がノリノリで作戦名を告げれば、八雲もノリ良く応え、手を銃身にロケット花火を放つ。ちなみにこの流れ、作戦AやBがあったわけではなく、単に二人が適当に合わせたテンションの産物だ。
「……あ、あー! あっちの方に、み、水着着た可愛いお姉ちゃんがー」
 相次ぐ攻勢にひるむものかとばかりに、匡は咄嗟の出まかせで混乱を誘う。
「行くぜ! ……え、水着美女??」
「水着のお姉さん? どこどこー?」
 嗚呼、悲しき生き物、汝の名はオトコ。
 匡のセリフがかなり棒読みでも、水着が居そうにない場所でも、八雲と楓は華麗に引っかかった。
「ナイス! このままぶっちぎりでいくぞ!」
「お、おう……!」
 好機とばかりに花火を投げまくる雅也、自分の言った嘘のベタさに真っ赤になりつつも懸命に援護する匡。二人の攻撃は、風向きの関係で八雲に集中する。
「大人気なく無茶するから……まぁ、頑張れ」
 集中攻撃を受けた八雲に、アッシュは一応クールにエールを贈ってみたりもするが、そのトーンはきわめて冷静だ。どうせこの男、このぐらいでどうにかなるタマではない。
「ちくしょー、させねー!」
「それはこっちのセリフだぜ!」
 そして花火の雨をくぐってパラシュートに突き進んだのは、楓と雅也だ。
「よっしゃー! 八雲のカタキ、取ったーーー!」
 コンマ一秒あるかないかの差を制し、その手にパラシュートを掴んだのは、楓。
 かくて、野郎どもの稚気溢れる宴は、飛び道具チームの勝利で幕を閉じたのである。

「奈津美さん、私達も沢山楽しみましょう!」
「そうね。今日はお互い目一杯楽しみましょうね」
 派手に騒ぐ男性陣を横目に眺め、雨弓と奈津美は女子たちの楽しい花火を始める。
「手持ち花火もたくさんの種類があるんですね。だいふくはどの手持ち花火にしますか?」
「見て、バロン。綺麗でしょ」
 雨弓が優しくだいふくに花火を教える傍らで、奈津美は柔らかい色の炎がゆらめく手持ち花火を、バロンの視線の先にそっとかざす。バロンの細められた虹彩は色と形を変える炎に魅せられたようにらんらんと輝き、その好奇心を表している。
「……だ、だいふくそれはネズミ花火ですよ!」
「ナノー!!!」
 そんな穏やかな時間に乱入したのは、だいふくがうっかり手に取り驚いて投げつけられることとなった、くるくると回る悪戯者の花火だ。
「どうしたの、バロン? ……ああ、ねずみ花火ね。大丈夫、落ち着いてね」
 みぎゃっと驚いてパンパンに尻尾をふくらませた相棒を、奈津美は優しく抱っこして、よしよしとその背中をなだめている。その様子に雨弓も、あとで一緒ごめんなさいしましょうね、と、懸命にだいふくの背を撫で、意図せず友達にやらかしてしまった相棒を気遣う。

「皆、お疲れ! スイカあるから、皆で切って食べようぜ!」
 いやー惜しい勝負だったな、と笑顔で口惜しがりつつそこに戻ってきたのは、雅也だ。
「匡センパーイ、刀剣士なんだから、空中でスパパーンってやって下さいよー」
「いやいやいや! ぜってー無理!」
 軽口で煽る楓に無理無理と繰り返し、匡はきちんとビニールシートに敷いて地面に置いたスイカを着実に切り分けた。
「陽菜、誕生日おめでとう! 勲も一緒に、こっちでスイカ食べないか?」
「はい、もちろんです! ありがとうございます!」
「ほう、上手く斬ったもんじゃのう」
 陽菜と勲がスイカをお呼ばれしている傍ら、男性陣はそろそろ花火も上がりといった空気の他参加者にもスイカを振る舞い、女性陣は締めの線香花火をやりたい者に声をかけてゆく。
「線香花火を見てるとすこし寂しく思えてしまうけど、あの賑やかさの後だと静かな物も悪くないな」
 アッシュはちらちらと揺れる小さな炎を見つめ、しみじみとつぶやいた。
「そうそう。線香花火の火が最後まで落ちなかったら、願いが叶うという言い伝えもあるそうなんですよ?」
 雨弓の穏やかな微笑みに、陽菜を含めこの場に集う女性陣は、素敵ねとかせっかくだから願い事をしようとか、楽しげに思い思いの反応を返した。
 炎は消えても、思い出は消えない。
 心に燃える思い出は、どのようなものか……それは、思い出を作った自分たちが一番良く知っていることだろう。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月20日
難度:易しい
参加:27人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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