炎熱の今日も働く冷蔵庫

作者:奏音秋里

 何時の頃からだろう。
 その廃ビルで、炎を吐きながら暴走する冷蔵庫の噂が流れ始めたのは。
 心霊スポットとして有名で、夏になると多くの若者達が肝試しに来ている。
 曰く、冷蔵庫に追いかけまわされて、死にそうになった者もいるのだとか。
「此処が給湯室ね」
 どちらかというと、怖いのは苦手。
 だがしかし、配属先がホラー雑誌で、上司の命令なら来ざるを得ない。
「この冷蔵庫を撮影すれば、帰れる……」
 だから兎に角、早く帰りたかったのに。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 開けた冷蔵庫は何処かに繋がっていて、魔女を喚んでしまう。
 扉を閉じるより早く、正面からひと突きにされてしまった。

「冷蔵庫は夏のつよーい味方です! けど、ドリームイーターにされてしまったのです!」
 パタンと扉を閉めて、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が言う。
 集まってくれたケルベロス達へ、冷たい緑茶のおせったい。
「雑誌編集者の女性が、撮影中に感情を奪われてしまいました!」
 ドリームイーターを倒して、彼女の意識をとり戻してほしいのだと。
 デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)も、ねむの隣で皆の協力を仰いだ。
「廃ビルのなかでも戦えますが、狭いですし、なにより建物自体を崩壊させる危険性もあるのです! なので、裏にあるビルの駐車場まで誘き出すことをオススメします!」
 そうすれば、ひとまず女性も安全ですからと、ねむは説明する。
 駐車場も使われなくなって久しいため、一般人はいないと考えて大丈夫だそうな。
 ちなみに。
 ドリームイーターは、自分を信じていたり噂していたりするヒトに惹かれる性質を持つ。
「炎を吐いてきたり、氷を投げつけてきたり、温度変化に忙しいドリームイーターです!」
 どちらもバッドステータスを喰らう可能性があるので、対策が必要だ。
 そしてドリームイーターは、出会い頭に、自身の存在について問うてくるらしい。
 初撃は、答えられなかったり間違ったりした相手を狙ってくるようだ。
「この暑いのに炎とかうんざりなのですけど、放ってはおけません! ゼリーつくって待っていますので、よろしくなのです!」
 緑茶を飲み干して、ねむは皆を送り出す。
 氷がみるみるうちに溶けてしまうくらい、暑い朝だった。


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)

■リプレイ

●壱
 ケルベロス達は、2組に別れて行動を開始する。
 駐車場と廃ビル内の両方で噂話をして、ドリームイーターを誘導する作戦だ。
「この暑いのに炎とかうんざり……ってのは、ねむにめっちゃ同意する。早めに終わらせて、ねむのつくってくれるゼリーを食べに戻ろうぜ。それじゃ焔、なかは頼んだ。攻撃を受けたら、すぐに治療するんだぜ」
 冷たいおやつを想像する、八崎・伶(放浪酒人・e06365)は駐車場組に所属。
 ボクスドラゴンとは別々に、双方でメディックを努める。
「なんでも、このビルには炎を噴く冷蔵庫が出るらしい。幽霊か怪奇現象か、ただの噂話かは分からないけどな」
 デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)が早速、噂話を始めた。
「冷蔵庫は冷やすものだから、炎を吐くってイメージに反して面白いけど……よく考えると、それってマジで爆発する5秒前ってやつよね!? ホラーじゃなくてただ危険なだけよね!? 巻き込まれるのとかゴメンなんだけど!?」
 愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)も、話を盛り上げる。
「わたしも聞いたわ。電気も通ってないのに動いてる冷蔵庫があるらしいわね。足の生えた冷蔵庫が追いかけてくるみたい」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)も、ちょっと身を震わせる演技をした。
「私が聞いた話だと……冷蔵庫のなかは、実は地獄につながっていて……そこから炎が漏れ出ているのだとか……扉を開けたヒトは地獄に引きずり込まれてしまうらしい……実際にその瞬間を見たヒトもいるとか……」
 多少尾鰭を付けて、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)も聞いた風を装う。
「ますます気になるわ。会ってみたいわね」
 どんどんと、皆の話に乗っかっていくかぐら。
 怖いからやだーっていうより、肯定的な反応の方が対象を惹きつけられると考えていた。
「引きずり込まれるとか、やっぱりホラーなの!? なんなのっ!?」
 ウイングキャットを撫でながら、瑠璃は焦ったフリをしてみせる。
 音量もテンションも上げて、煽って煽って煽りまくった。
 さて。
 一方の、廃ビル内組はというと。
「ところで、炎を吹き出す冷蔵庫の話を知らないか? ソイツは部屋の片隅で、焼き尽くす相手が近づいてくるのをじっと待っているそうだ。見た目は冷蔵庫だが、炎の舌を出しているから一目瞭然らしい」
 此方も、目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)から噂話が始まった。
 ゆっくりふわふわと、ナノナノがあとをついてくる。
「炎を吐く冷蔵庫ですか……実際、冷気をつくるのに電力消費等で熱を持つのはわかるのですが、これまた珍妙な噂話が流れたものですね……?」
 ボクスドラゴンは、伶の相棒と並んで少し先を偵察中。
 ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)が、構造を思い浮かべた。
「冷蔵庫は開けずに触ると温かいから、熱暴走するという発想もあるんだろうなぁ……」
 妙に納得をしつつ、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)も物音や匂いに気を配る。
 そのうちに、問題の給湯室もとおり過ぎて、階段を上りきったとき。
 伶のアイズフォンから右院に、敵が現れたと連絡が入った。
「ごぉーーーっ! おいらはなんだぁーーーっ!」
 電話越しに、ドリームイーターの声と、どすんどすんという足音が聞こえてくる。
「私達も外へ出ましょう。メルゥガ、行きますよ」
「あの窓から行けるんじゃないか?」
 ウォーグも右院も真もナノナノもボクスドラゴン達も、全員、翼を持っているから。
「よし! いまだ。煎兵衛、飛べ!」
 駐車場側の2階の窓を開けて、羽搏いた。
「おかえり、焔。これで全員が揃ったな」
 相棒を迎えた伶の表情が、自然と緩んだ。
「おいらはなんだぁーーーっ! ごぉーーーっ!」
 しかし、合流の喜びも束の間しか許されず。
「炎を吐く冷蔵庫だろ。しかし、真夏に炎を噴く冷蔵庫とはな……実に苦しいこったぜ」
 真っ先にデリックが、見たままを素直に答えた。
「冷蔵庫……炎を吐くとかいう……けど……炎を吐くとか……もはやそれは冷蔵庫と呼べるのだろうか……」
 千里も、疑問ともとれる内容をくっつけて答える。
 デリックと千里の返事は正解と認識されたらしく、攻撃対象から除外。
 ケルベロス達は、ドリームイーターをぐるりと囲い込んだ。

●弐
 返答の無かった後衛に狙いを定めて、ドリームイーターは炎を吐く。
 サーヴァントもまとめて、瑠璃も伶もダメージを受けた。
「ゲっ……本当にいたのね……ドリームイーターだからいるに決まってるんだけど……実際みてみるとかなりのインパクトね……お、お願いだから爆発はしないでよね!」
 ウイングキャットに、前衛陣へバッドステータス耐性を付与させておいて。
 エアシューズに煌めきと重力と、序でに願いも籠めて、瑠璃は思い切り蹴り飛ばした。
「上手く誘い出せて一安心。あとは倒すだけね」
 小型治療無人機を、かぐらは前衛メンバーの頭上へと浮上させる。
 黒の長髪を風に靡かせて、明るく爽やかに笑ってみせた。
「ドリームイーターが箱から出てくるとはね。とにかく倒してしまわなければならないワケか。煎兵衛、ひたすらナノちっくんをするだけの簡単なお仕事だ。ヤツが毒状態になるかはワカラナイが、任せたぞ。さぁ、しもべ達よ、皆を守れ!」
 ナノナノが毒を注入しているあいだに、かぐらと同じだけの小型治療無人機を飛ばす真。
 大量の飛行物が、最前線で盾となる。
「あまり強そうな見た目じゃないが、油断するんじゃねえぞ!」
 仲間を鼓舞して、デリックは過去に喰らっていた魂を喚び起こし、己に憑依させた。
 禍々しい呪紋が全身に浮かび、鋭い眼光には自信も漲っている。
「ノブレス・トレーズが一騎、山吹のウォーグ! メルゥガとともに参る!」
 主の名乗りに呼応して、後衛位置からボクスドラゴンがブレスを吐いた。
 お返しにと氷が飛来するが、如意棒で捌いて腹部を打つウォーグ。
「好き勝手には……させない……」
 愛用の日本刀を抜けば、千里の茶色の瞳が鮮やかな緋色に変じる。
 神速の突きで貫いて、ドリームイーターの体内へと雷の霊力を残した。
「見た目ダモクレスだけど、そうじゃないんだよな。冷却熱なのか? 冷蔵庫としてがんばろうってのは凄ぇなあと思うんだが……存在が迷惑なんで、さくっと消えてもらおうかね。遠慮なく倒させてもらう」
 回復のため、伶は紙兵達を自身の列へ向けて撒き散らす。
 ボクスドラゴンも、瑠璃のウイングキャットへと己の属性を注ぎ込んだ。
「ディフェンダーの皆さん、タゲ取りは任せたからね!」
 右院から飛び出すゲーム用語に、頼もしい仲間達は確と頷く。
 自分は支援するスタイルで、既に狙われたウォーグから順に、癒しの時間を提供した。

●参
 熱せられたり冷やされたりと、温度変化が激しくて風邪でも引きそう。
 後追いでダメージを受けるため、メディックを中心にこまめな回復を必要とした。
「確かに、冷蔵庫は冷やすのが仕事だけど……これは冷やしすぎ……」
 氷を喰らいつつも、フェアリーブーツで地を蹴るかぐら。
 理力を籠めた星型のオーラを、堂々と正面から蹴り込んだ。
「あたしのファンになっても、許してあげないんだから! ね、プロデューサーさん!?」
 呼ばれたウイングキャットは、その翼でかぐらにまとわりつく邪気を祓う。
 邪魔をさせまいと、瑠璃も光り輝く呪力とともにルーンアックスを振り下ろした。
「癒せ、天津風」
 伶が縛霊手を扇いで起こした風は、真を包むようにしながら吹き抜けていく。
 ボクスドラゴンの属性インストールと併せて、天女による慈悲の如く傷を癒した。
「遅延の棘スリサズよ、敵を捕らえよ」
 右院の胸の前に、トール神を表す文字を刻んだルーンストーンが浮かび出る。
 生成される魔法の茨がドリームイーターへと巻き付き、その自由を奪った。
「冷蔵庫のくせに炎なんて噴いてんじゃねえよ! あちぃだろうがぁっ!! 全力でブッ壊す! 逃しはしねえぞ、喰らいやがれッ!」
 地獄の炎が体内のプラズマ電磁推進力を呼び起こし、拳へと集積させる。
 紫電を纏う降魔の拳で以て、デリックはドリームイーターを激しく打った。
「コレで終いだ、破ッ!」
「まったく……冷蔵庫のくせに暑苦しくて叶わないね……じゃあ……さよなら……」
「全てを解き放て――ドラゴライズ・フルバースト!」
 最期は、真と千里とウォーグの連携攻撃が炸裂。
 自分の間合いへと惹き寄せておいて、大きく右脚を蹴り上げる真。
 衝撃にバランスを崩したところで、間髪入れず。
 千里が妖刀を突き刺し、重力エネルギー塊を相手の体内へと直接流し込んだ。
 竜を象った黄金のグラビティを全身に纏い、ウォーグがガルド流裂破竜闘術を繰り出す。
 舞い踊るような攻撃が終わった、次の瞬間に、ドリームイーターは爆発したのだった。

●肆
 ドリームイーターの消滅に、緊張を緩めるケルベロス達。
 互いと周囲の状況を確認して、事態の収束を計る。
「オツカレサマ。煎兵衛もな。翼の光よ、皆を癒せ!」
 皆と相棒を労い、真は翼に意識を集中させた。
 オーロラのような光を発し、状態異常を含めた仲間達の回復を一手に引き受ける。
「真さん、ありがとうございます」
 きちんと礼を述べてから、ウォーグはフェアリーブーツで舞い踊った。
 花弁のオーラが戦場へと降り注ぎ、削れたアスファルトを平らに直していく。
「ついでに廃ビルもヒールしてみようか……」
 千里は、回復を終えた真と一緒に、廃ビルのヒールへ挑戦。
 ものすごくぼろぼろだったからものすごい花が咲いちゃったけど、なんとかなるもんだ。
「あとは被害者ね。給湯室へゴー!」
 赤縁の眼鏡の位置を戻して、瑠璃は右腕を上げた。
 パンクな衣装についた銀の飾りが、しゃらんと音を立てる。
「夏といえば、だけど、記者さんも大変ね……ドローン起動。集中モードで展開」
 既に意識をとり戻していた女性に駆け寄り、かぐらは小型治療無人機を操縦。
 表面の擦り傷も精神的な疲労も、総てを取り去った。
「どうだ、ひとりで帰れるか? 家まで送り届けてもいいが」
 諸々説明をして、伶はちょっと大きな声で訊ねる。
 デリックと一緒に支えながら立たせてみるも、足許がふらついていたからだ。
 女性は、お願いしますと答えた。
「ゲームっぽい依頼だったし、楽しかったね。あなたのことも、助けられてよかった」
 敵を誘き寄せたり、パーティーが合流したり、事前情報に魅力を感じていた右院。
 女性の気持ちも考えて、騎士道精神に則り、礼儀正しく接する。
「ホントに。俺達が助けられたからよかったものの……仕事とはいえ、女ひとりで廃ビルは危ねえぞ。今度から、ヤバそうな取材のときは同行者でも付けるんだな」
 右院の言葉に、デリックも最初は同意。
 だがしかし、次も都合よく助けの手が差し伸べられるかは分からないから。
 厳しいようだが、言うべきコトはちゃんと忠告するのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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