ケルベロス大運動会~おいでませ、日本食屋台村!

作者:絲上ゆいこ

●告知PV
 壮大なBGM。
 地球のホログラムがゆっくりと回転をはじめ、低くしかし朗々と響くナレーターの声がスピーカーから流れだした。
 ケルベロスとデウスエクスの戦いは日に日に激しさを増し、度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動によって世界経済は疲弊してしまった。
 痩せ細った経済を打破し、収益を挙げる為に考案されたイベント――。
 ケルベロスたちはグラビティでしか、ダメージを受けないというのはご存知であろう。
 世界中のプロモーターたちが、危険過ぎる故に開催を断念してきた『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄り、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げケルベロスたちに競わせる。
 ――それこそが、ケルベロス大運動会なのである!
 栄えある第2回の開催地は『ケニア』に決定した。
 さあ、ケルベロスたちよ! ケニア各地を巡りアトラクションに挑戦するのだ!

●屋台参加者募集中!
 ナレーター、――レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は立体映像を閉じてから、周りを見渡す。
「と言う訳で。今年もケルベロス大運動会の当日に、ケルベロスたちによる日本屋台村を運営する事になったぞー」
 国際交流の一環として行われる日本屋台村は、ケニア市民たちにケルベロスたちが活躍する日本文化を知って貰う為に、狙った客層によって4箇所に設置される事となっている。
「ここに集まった皆には、大衆向けの予算1000円前後で美味くてボリュームのある料理の屋台を考えて貰おうと思っているぞ」
 日本食と言っても、料理の種類は和食に限られてはいない。
 日本で独自に進化を遂げたラーメンやスープカレーなどは、日本食と言って問題は無いだろう。
 勿論、日本らしい雰囲気があればスイーツやオリジナル創作料理も歓迎だ、と彼は言う。
「ああ。去年と同じく日本政府が協賛してくれているからなァ。食材の準備や、お前たちが競技に出ている間の、代わりの料理人や店員の心配は必要無いぞー。日本政府がちゃんと用意してくれるそうだ」
 そして、レプスは資料をケルベロスたちに差し出す。
「高すぎず、安すぎず。色々な工夫をして競技も屋台も盛り上げてくれよなァ。イベント事はやっている方がまず楽しくなきゃ、絶対成功しねェからな。お前たちも目一杯楽しんでくれよ」
 何より俺も美味いモンは食いたいしなとレプスは瞳を細め、笑った。


■リプレイ


 ケニアの高原に設置された屋台村に、心地の良い風が吹く。
 大乾季に当たるこの時期は天候も良く、日本より気温が低く過ごしやすい気候だ。
「太巻きって取り敢えず巻いとけば良いんだよな?」
 凝った物は作れんがと累音は巻簾を手に。
「ケニアで敢えての日本食ってのが良いね。お。それ全員分?」
「どうせならお揃いで着たいなぁって」
 イェロの問いにアウレリアが柔らかく笑む。風奏廃園の皆は揃いのエプロンで店番だ。
「お揃い嬉しいです! あ、夜兄様、ラッピングをお願いします」
 華が手際良く仕上げた具材の選べる太巻きには和紙が巻かれ。デザートにはケニア特産珈琲を使った珈琲餡の水饅頭。
「でも水饅頭って作れるのね」
「はい! 夜兄様、素敵なアイディアですね!」
 餡を練りつつ首を傾ぐアウレリアに華が微笑み、夜が頷いた。
「でも俺はこういった事には疎いので一切料理は出来ない。皆ふぁいとふぁいと!」
「えっ、折角ですし一緒に作りましょうよ!」
「ううん、夜も作ってみよ? 巻いてみよ?」
 華とアウレリアが、夜に声を掛け。
「呼び込みするから許して? ……良ければ冷たい菓子でも」
 夜は美脚女性客の手を取り、ウィンクを一つ。
「ちゃっかり女性への接客に回るとは夜はやり手だな」
 イェロは肩を竦め、流石と累音は関心する。
「俺の仏頂面では客も来てくれんだろう、調理の代わりに接客は夜に任せるからな」
「累音のクールなトコも好みだって人もいるって!」
「ははは、イェロの気遣いも接客に向いているよ」
 とびきりの笑顔で、いらっしゃいませ!
「ね、冬真。味見をお願いできる?」
「美味しいよ。僕が一番好きな味だ」
 その言葉に割烹着を纏う有理の頬は緩んでしまう。
 味噌汁に白ご飯。肉じゃがに鮭の西京焼き、卵焼きに青菜の胡麻和え。デザートは黒ゴマプリン。
 冬真の祖母の優しい味だ。
「旨かった、料理上手なお嫁さんだね」
 食事を終えた客が笑う。
「ありがとうございます」
 自分の事よりも嬉しくて、普段は無表情な冬真の頬も緩んでしまう。彼の表情に有理もはにかむ。
「はい、僕は幸せ者です」
 日本に帰った後も同じ味を二人で。
 『米ライスご飯定食』。日本の米の美味さが味わえる事をウリに。添えられる味噌汁は日本のお母さんの味だ。
「しかしハバネロを却下されるとはな」
「それはあまりにも激辛過ぎるだろ?」
「色映えするのに残念だ」
 シャルフィンはマサムネに不思議な事を言われたかのように首を傾げ。ししとうの天ぷらがカラリと添えられた。
「後は米もライスもご飯も好きな物をおかわりしていい。どれも一緒? ばれてしまっては仕方ないな。はっはっは」
 シャルフィンはおかしげに笑う。
 焼きそば、お好み焼き、モダン焼き。
 首に『美味しいよ』の看板を下げた文字通りの看板ナノナノのルーナが、甚平と鉢巻を纏った手作りの黒猫と狼の人形の前を跳ねる。
「モダンと焼きそば一つづつだ。頼む!」
 人形と同じ格好をした三人組は、立ち並ぶ客と鉄板を前に忙しなく動き回っていた。
「結城そっち大丈夫か? こっち上がったぞ、次はどれだ?」
「次はお好み焼きのイカで、焼きそばの青のり抜きの紅生姜増量です」
 遊鬼が客引きと注文取りを、そして結城が記憶力を活かしつつ紫音と手分けして料理作りを。
「こっちも、出来ました。遊鬼! お願いしますね」
「遊鬼、こっちのも頼むわ」
「確かに頂いたぞ、ありがとう! 腕の良い料理人達が作る故、どれも格別だぞ」
 三銃士の屋台での戦いはまだまだ続くのである。
 日本情緒溢れる店構えに人々も足を止める。
「横とは奇遇だな、団長」
「ああ、お互いに頑張ろう」
 弁当を眺めるマティアスに頭を下げる景継。
 『蒼桐屋』は豆腐居酒屋だ。
「湯豆腐はタレと出汁を選べる。オススメは醤油ベースとポン酢だ」
 何を隠そう彼は豆腐狂いなのであった。
 蒼霞の皆は和服に身を纏い。落ち着いた店内は、どこか侘び寂びが感じられる内装。
「お持ち帰り用のカップに流し込み、粗熱をとり、冷蔵庫で冷やして、完成ざんしな!」
 精進料理や薬膳料理を参考に。雑穀おにぎりに旬の野菜を活かしたお浸しや豆腐と山芋の梅肉和え。
「和さーん♪ 地元のバナナを使った豆腐プリン、お弁当のお供に如何?」
「うん、いいねぇ」
 そして笙月特製の豆腐デザートと選べる二種のお茶を添えて。
「ほぅ、シンプルながら健康増進に働きかける食材が中心なのか」
「失敗していたら困るし、先ずは俺達で食べてみないとな」
 まじまじと眺めるマティアス。ノルと設営をしていたロアが出来たてのデザートに目を光らせる。
「笙ちゃんの豆腐のデザート美味しそうだなぁ……少し食べても」
 リーズレットもロアに視線を送り。
「こらこら、つまみ食いはダメだよ? するなら味見をってね」
 手際よく弁当を仕上げていた和が窘め。味見の声掛けに着物姿のりかーがぴょんと跳ねた。
「おう、力仕事と味見役は任せろー!」
「おぉ……これは素敵だな!? お店で出せたりするのではないか!?」
 ついでにロアとリーズレットの二人も同時に顔を上げる。
「はい、りかー。あーん」
 ノルは出来たてのお浸しを食べさせてあげる。暑さを考えてさっぱりと、出汁を効かせてうまみはしっかり。
「体に良いもので作られた弁当だ。買っていかないか?」
 客引きをするマティアスも試食したい出来だ。
「屋台もお弁当も楽しい想い出も皆の協力あってこそ。めいっぱい楽しもう!」
 和の意気込みに皆は頷く。仲が良い事は善きかな、この時間が既に楽しいのだから。


 漂うカレーの香り。
 オウマ式シーフードカレーの看板を掲げた店で、泰地はご飯の上にルーをかける。
 たっぷり海鮮カレーについてくるオマケは家でも楽しめるレトルトカレーだ。
「駆逐艦オウマ式具特盛り! シーフードカレーおまちどう!」
 提灯に海老天の絵。衣はサクサク、中はほっくり。ティユが丁寧に仕上げ、たっぷりと盛られた天丼はシンプルに旨い。
「タレはやや多めにね」
 天丼とけんちん汁、浅漬けのセットを提供するこの店は客足が途絶える事が無かった。
「テンドンセット! スゴイ=オイシイ! タベル! イイネ!?」
 着物にエプロンドレスという大和撫子といった出で立ちの佐楡葉は奥ゆかしいマッポーめいた呼びかけを。衣を同じくして忙しく動き回る千穂とチェザに意味深な視線を送っていた。
「あれ、あのひと固まっちゃってる……食べ方がわからないとか?」
「天丼はご飯と具を一緒に食べるのなぁん! ……!」
 この二人の獣鍋でも良かったかなぁの視線を感じ取ったチェザは一瞬ぴゃっとしつつも、華麗にスルーだ。
 今回はボクの肉は狙われていないはず。
「どうかな……美味しい?」
 接客の基本は愛想良く。千穂は客にへにゃりと笑いかけた。
 一方裏方。
「練習通り、温度もばっちり。美味しく揚がったよ」
「フッフッフ、僕も完璧だ! なぁに僕は貴族ではあるが味噌を使わせればちょっとしたものなのだ」
 ティユと並び全力で庶民的な事を言うアルシェールは馬鹿みたいな量の玉ねぎをけんちん汁にぶち込み、無駄に胸を張った。
「執事、暇ならば店の装飾を手伝いたまえ、褒美もやろう」
 汁椀を掲げ。良い貴族は執事への気遣いも忘れないのだ。
 ぎこちない動きで月がたこ焼きを返し。その横で櫻が手慣れた様子で手を動かす。
 スイーツたこ焼きに、出汁の効いたたこ焼き。
「あ、冥加さん。よかったらお一ついかがです?」
「わ、おひとつ頂こうかしら!」
 二人は顔を合わせて笑った。
「ケニアは紅茶やチャイが主流って聞いたんだよねぇ」
 紅旗は本日の一押し、鈴カステラのフレンチトーストにアイスとフルーツを添えてたっぷりと盛った。
 水鉄砲に水風船。甘い飴にスナック菓子。氷水桶に沈む瓶ジュース達。
 店先にはいつもの日乃屋の駄菓子だって並んでいる。
「こういう安くて美味い菓子もあるんだぞって伝えられたらいいな」
 智十瀬は客に菓子を勧め。
「そうだねぇ、お茶に合わせてお菓子も用意した事だしね」
 日本を身近に感じてもらえたら嬉しい、と紅旗は瞳を細めた。
 焼きそばパンと缶コーヒーの屋台。
「こう見えても料理は得」
「刀真君の足を引っ張らないように頑張るねっ!」
「へ?」
 リシュテールと顔を合わせ刀真は間抜けな声をあげていた。
 着替えを終えた給仕達。
「キャー影乃さんかわいぃ!」
 ニアが跳ねて喜びの声を零す。
 本日の接客制服はメイド服。どうやっても目立つじゃん。影乃は小さな声で囁く。
「えっと、焼きそばパンありますよー。あ、スミマセン……写真はあの人だけでお願いします」
「いらっしゃいませ、兄貴姉御の皆様方! 日本の伝統ヤンキー、パシリで焼きそばパン! どっすかぁ! 缶コーヒーもありまっせ!」
 あの人。影乃の抵抗によりミニスカメイド服を纏う23歳男児、八雲は声を張り上げ。
「マスター! それニアの考えたセリフですよ!」
「お腹空いたなぁ」
 ニアは叱り、影乃は呟く。
 一方裏方。
「刀真君、刀真君! 焼きそばの野菜はこんな感じで良ーい?」
「初めてのお使いじゃねーんだぞコラ……えっと、何でもありません」
 彼の苦手克服が為必死に話しかけるリシュテール。刀真はかなり仕上がっている。やれやれ。
「よう、お二人さん。手伝い来たよ」
「遅えぞ八雲!」
「泣くなよ。いい加減慣れろよ?」
「泣いてねぇし!」
 半泣きで喜ぶ刀真に八雲は肩を竦める。途絶えぬ客の列。さてさて今日は忙しくなりそうだ。


 ケニアの空の下、いつもの味をいつもの君と。
 自宅のリビングをイメージした店内はシンプルな家具。
 ケニアをイメージした色彩と図案の鮮やかで大胆な陣内の絵が彩りを添える。
「タマちゃん、注文入ったよ」
「ん」
 去年も二人で開いたチーズオムレツの屋台。
 パリパリ香ばしいチーズオムレツに、あかりの作るバター入りチャパティ・ロイコベースのトマトスープ。
 色彩に囲まれて、食後には家で挽いている珈琲をいつものタンブラーに。
 いつもの味を、いつもの君と。二人で。
 『出張魔法喫茶』と書かれたのれんが揺れる。
「日本料理の良さをケニアの皆様にも伝えられるよう、頑張りましょう」
 ロジオンが意気込み作るのは焼きそばと肉じゃがだ。
 その横でビスマスはいつもの如くなめろうをアレンジし、バンズで挟めばさんが焼きバーガーの完成だ!
「さんが焼きは焼なめろうに変更する事もできますよ」
「冷たいお茶もご用意しておりますので、必要な場合はお申し付けくださいね」
 鬣を風に靡かせロジオンは会釈を。ビスマスはバーガーを掲げアピールをした。
「日本の任侠はテキ屋商売も極めないとやっていけないそうだな。丁度いい、俺達も和のココロってのを学ぶいい機会だ」
 『みるぽわる』と書かれた法被に捻り鉢巻。リュカはこれは勝負だと宣言する。
 ラーメン、ナポリタン、クレープ、ベビーカステラ。ミルポワル・ファミリアの各自が得意な料理を盛り合わせれば、B級グルメてこんもりプレートの完成だ。
「俺達みたいに外来のモノが日本でアレンジされ愛れてきたモノだから親近感が湧くな。俺達もこうありたいもんだ」
 一見バラバラだが盛り付ければ纏まる所も似ていると、リュカの言葉にスピノザも頷く。
「しかし自分の作った物で喜んでもらえるのって嬉しいもんですね」
「喜んでくれてなによりだね」
 ここは新たに出来た本当の家族の様に大切な居場所。笑顔を浮かべレスターは客に皿を渡す。
「ひんやりおいしいクリームあんみつとお抹茶のセット。今ならなんと、あいすあんぱん付きですよ」
「有りそうであんまり聞かない組み合わせだよねー」
 神様の売り子、ゴり子(ゴッド売り子の略)。今日のサヤとフェクトは麻の着物にエプロンをつけて、鴉印の女給さんだ。
「ゴ……いや、何も言うまい」
 風鈴を吊るし言葉を濁す翌桧。
「皆さんの体調管理はお任せを。これも我が勤めです」
 殯による体調対策もバッチリだ。
「恵、あいすあんぱん作りよろしく」
「ああ、パンなら焼いてやる」
 ケニア名産の薔薇。その花の天然酵母を職人仕込みの技でパンに仕立てる恵。
「あたしも手伝える事ある?」
 そのパンをジゼルがくり抜きアイスと餡を詰め、蓋をすればアイスあんぱんの完成だ。
「ホイップクリームにしてもおいしい、ね」
「さて、ではクリームあんみつも用意を致しましょう」
 殯の鮮やかな手捌きで生まれるクリームあんみつ。
「うわっ、お前ら凝るなぁ……本格派かよ」
 総合Pの翌桧は座りっぱなし。
「ふぁいいらっはいいらっはい」
 市邨は独り暮らしの家事スキルを披露しつつ、一口……いやガッツリつまみ食い。
「サヤもお味見してよろしーです?」
「私も1個だけ!」
 ゴり子の二人も仲良くつまみ食い。
「あたしも、……」
「不味い物は客に出せねぇ、味見は作り手の義務だ」
 恵の鶴の一言。我慢をしていたジゼルも手を伸ばし。皆が一斉につまみ出す。
「うわっ、美味しい! 天才だよ!」
「ふふー、おいし」
「どの屋台も賑やかですが華やかさでは此処も随一、ですね」
 微笑む殯。試食を終えればゴり子の二人は呼び込みだ。
「餡蜜なんて俺の為に用意してくれたんだろう?」
「ちがいますよ」
 ひらひら手を振るレプス。一刀両断するサヤ。
「サヤちゃん、冥加ちゃんが写真取りたいって!」
「ぴーすぴーす!」
「翌桧も頑張って……、どこいくの?」
 シレっとパンを齧りながら立ち上がる翌桧。
「ああ、敵情視察だよ」
 市邨は肩を竦める。
「千歳の所に行くなら俺も」
「サヤもだいじょうぶですよ」
 上手にサボる翌桧に付いて、お土産持って。


 りんと涼やかに風に遊ぶ鈴と鈴蘭。飴屋すずの屋台は、その名の通り飴の屋台だ。
 桜色の浴衣を纏う千歳は片手に飴細工。
「去年はインドで好評だったのよ。夢は大きく世界展開、かしら」
「うん、良い雰囲気。この調子で毎年海外出店、なんて出来るとイイね?」
「着実な世界進出を歩んでいるね」
 甚平姿のキソラは冷やし飴担当だ。仕込んだ物を店前に運ぶダリルは頷き。
「皆さんとケニアの人々にいっぱい美味しいを伝えますよー!」
「綾ってば招きネコ、がんばるのじゃ!」
 拳をぐぐっと握りしめたルルゥも綾もやる気満々。綾がぴょんぴょんと跳ねる度に鈴が鳴る。
 その時更衣室の奥から響く悲しい悲鳴。
「ち、千歳ー着付け手伝って欲しいのよ……!」
 アリシスフェイルの声だ。勿論よと千歳は立ち上がり。
「さぁ、寄ってらっしゃーい見てらっしゃい、食べてらっしゃい、綺麗で可愛い飴と、暑い季節にピッタリの冷やし飴!」
 お客さんの呼び込みなら任せてねと、勇は猫を模った飴細工を客の前に差し出す。
「私のオススメはめっちゃ可愛い私がほしいくらいのこれ!」
 客の少年はその造形に瞳を輝かせた。
「どうだ、色も形も見事なもんだろ? 美人店主に頼めば好きな形も作ってくれるぜ。何にしても見るだけならタダだ。ほれ、寄った寄った」
 フラミンゴの飴細工を見せるローデッド。戻ってきた千歳は微笑み、飴を練り捻り裁鋏で切り伸ばす。
「はあい、お嬢さん飴ちゃん興味なあい? 見た目もとーっても可愛くて食べるのがもったいないけど味もほっぺが落ちちゃうくらい美味しいのよう?」
 由は翼猫を肩に侍らし、首を傾ぐ。
「では、おひとつくださいねえ」
 ネストのおさぼり組は手を振り。
「ステキでかわいくって食べやすい手まりアメもオススメなのじゃ!」
 綾は両手をフリフリ、盛大にお出迎えだ。
「よう。もうかりまっか、ってな」
「差し入れだよ」
「嗚呼、冷やかしに行こうと思っていたのに」
 ダリルは笑みを深め、彼らの訪問を歓迎する。
「ひんやりと甘い食べ物や飲み物はどうかしらー。こちらは冷やし飴をジュースで割ったもの、こちらがアルコールで割ったものになりまーす」
 浴衣を着付けて貰ったアリシスフェイルも飲み物を勧め。
「コッチ特産の紅茶で割るのも美味しいと思うなぁ、っと、美味しくてもお酒の飲み過ぎには注意、でな?」
 キソラもここぞと押して行く。
「皆頑張ってくれているし、終わったら打ち上げしなくちゃあね。それじゃあ打ち上げは、冷やし飴に飴細工でいいかしら?」
 千歳の言葉に、皆から喜びの声があがった。
 薔薇の館仕上げの豚と鶏の可愛い看板。
 選べるカツのボリュームたっぷりカツカレー。
 そして付け合せのキャベツ。
 ――ザク、ドンッ。
「俊さん、猫の手」
「え? 猫の手?」
 にゃん。
 指を切り落としそうな俊の包丁捌きに炯介は猫のポーズを取ってみせるが、猫の手ポーズを真似た所で切口は変わらない。
「なかなか難しいわね」
 結局千切りも任された炯介は手早く盛り付け。俊は華王と接客を担当だ。
「お客さん、気に入ってくれるかしら」
 首を傾ぐ俊に炯介は微笑んだ。とても頼もしい、と。
 旅館「熊ノ湯」の代表の二人は、旅館の制服を着込み、三種の饅頭とフルーツ牛乳の前に並んでいた。
「はーい、ケニアの皆さん。特製お饅頭とフルーツ牛乳はこちらになりまーす!」
「日本でお馴染みのこしあん饅頭とちょっと変わった人参饅頭、そしてケニアの皆さんにとってはお馴染みのギゼリを使った特製ケニア饅頭! 良かったらおひとついかがですかー!」
 並ぶ客に小熊は笑顔で接客。
 真白は横目でちらりと彼女を見る。
 ――後で余裕があれば小熊ちゃんと他の屋台も回ってみたいな、なんて。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:60人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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