ケルベロス大運動会~ケニアスポーツ総力特集!

作者:のずみりん

 激しさを増すデウスエクスとの戦い、都度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』により世界経済は大きく疲弊した。
 支援する経済界にも、支援されるケルベロスにとっても、この状況はまずい。非常にまずい。
 そこでこの経済状況を打破するため、ケルベロスたちの特性を生かして考えられた世界一大イベントこそ『ケルベロス大運動会』である。
 今年も世界中のプロモーター達が腕によりをかけ、危険過ぎる『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄り、ケルベロスたちを待っている。
 危険すぎるスポンサーと危険すぎるヒーローの決戦の地、第二回ケルベロス大運動会の舞台として選ばれたのは東アフリカはケニア。
 モンスーン吹き荒れるサバンナの大地で、ヴィクトリア湖で、築かれたスポーツ要塞はケルベロスたちを待っている。

「ダメダメダメ! なに、このいい子ちゃんみたいな台本は!」
「えぇー……これでも精いっぱい頑張って……それにほら、最近フェイクとか虚偽とかうるさくて」
 いかにも転属ばかりです、というルーキーの抗議を、見た目通りのパワフルさで『ケニアスポーツ新聞』編集長は切り捨てた……言葉と、物理的に。
「あぁーっ、段取りがぁー!?」
「印刷しただけの紙にやかましい! 趣味がどうとか、これからの戦いはとか……こんな常識、うちの読者は求めない!」
 誰が言ったか、スポーツ新聞は信用できる情報媒体に含まない。日本も、世界も、ケニアでも、もはやこれは(たぶん)常識。
「大阪城の本丸、太古から潜む攻性植物の正体を見た!」
「おぉ、いいわね」
「ケルベロスが見たオーク受け、今年の水着は之だ!」
「エロスは基本ね、けっこう!」
「既に戦いは始まっている! 次のデウスエクスの標的は……」
「惜しい、大衆は疑問を求めない! もっと衝撃的に断定する!」
 ここぞとアイデアを上げる記者、カメラマンたち。もはやブレーンストーミングというか大喜利じみてきた気もするが、この流れ、この雰囲気こそスポーツ新聞。
「ケルベロス二十六ノ秘密! 独占公開、グラビティの謎!」
「そんなに薄着で大丈夫か!? ケルベロス武装の秘密に迫る!」
「あのデウスエクスが……強敵の機密を暴露する!」
 いいねぇいいねぇと頷く編集長。
 真実よりも大事なのは娯楽性、衝撃力。言葉より心で理解できたと意気込むルーキー記者の元、第一陣到着のアナウンスが開幕の知らせと響き渡った。


■リプレイ

●ケルベロス極秘情報、ぶっちゃけどこまでいケルベロス!?
 日本を遠く離れた東アフリカはケニアの土地でも、スポーツ誌、ゴシップ誌のノリというものは万国共通らしい。
「ネス湖のネッシーの正体は死神なんやで」
「ほう、それはそれは……真奈さん、事情通ですね。どうです、他に……」
 小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)のネタをさらりと受け流す記者。ネッシーはそろそろ厳しいか……これはある種の真剣勝負だ。ちら、とロビーを見やって一考。
「そうねー……あ、ヘリオライダーにエインへリアルの王子やったザイフリートっているやろ。あれ、実は女なんやで」
「またまた御冗談を」
「いやいや真面目なハナシ。跡継ぎになるために性格を偽ったんだとか……人間見た目で判断しちゃいかんよ? ほら見てみ」
 と、指さす先は先はインタビューを受けている盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)。一見してちょっとぶりぶりなアイドル少女だが、ぴえりには他にない大きな属性がある。
「ハーイ、日本が誇るスーパーアイドル、『魔法の男の娘アイドル・ラジカル☆ぴえりん』でーす!」
「男の娘、だと……」
 ひきこもり中に気まぐれで始めたネットアイドルがウケてしまって現在に至ったという彼。いわく『かわいいに男も女も関係ない!』……なお年齢(満ニ十歳)については禁句である。
「な?」
「お、おぅ……エキゾチックジャパーン」
 驚く取材陣にしてやったりという真奈。後々、えらいところに流れ弾が飛びそうだが、まぁネタ記事の類だし大丈夫か。

 さて、知らず渦中のぴえりだが、彼の現在の活動は『ネタシャナスレイヤー』……世にはびこる変態ビルシャナを論劇バトルで処しまくる、それはサツバツなお仕事という。
「パンツ一丁に対抗してふんどしとか、ムタンガ推しにコテカ……って変態対決ばっかじゃーん!」
 やーん、はずかちーい……とくねる姿は、未覚醒の方には『どうして女の子じゃないんだ!』と叫びたくなること請け合いだ。
 しかもこれが割と真面目な脅威だから困る。
「ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響でさ、一般人がビルシャナ化する事件が多発してるんだよ」
「それはなんと恐ろしい……理弥くん……さん」
 なんか違う方にとられた気もするが、栗山・理弥(見た目は子供中身はお年頃・e35298)の解説に相槌を打つ記者。
「……おう。それが妙に変態揃いでさー。巨乳好き貧乳好きは序の口、メイド服巫女服水着エトセトラ、ロリショタ……特にショタ! 何べんみたか」
 まさにイタチごっこ! と、げんなりしてみせる理弥だが、なんとなく記者は理解した。いかにもなサングラスと『ガキじゃねぇし』と書かれたTシャツで頑張っているが、彼の見た目は……。
『かわいい』
 である。言えば怒られるだろうが。うん。
「まー、ほら仕方ないのよねー。ビルシャナばっか、変なのばっか偏るのも」
「日本だから……ですか?」
 それはさておき、と月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)は呟きを聞きとめた取材陣へ首を横に振る。
「それもあるけど……あ、でも根は一緒かなー。みんながそれを望むっていうか、上の人って書いて最上位存在がそも……」
「あ、ちょっと着信が着ましたストップちょっと待って話題カエマース」
 一言で言うと『その名をみだりに唱えてはならない』……無言のサインに京華はそっと話題を修正した。
「でも私、ぼっちなんでゴシップネタなんて持ってないんですよね。あ、ケルベロスコートの中! とか……興味ない?」
「あ、そ、それで!」
 実際のところ、ビルシャナの謎は謎のまま、深まるばかりということになったのだった。

●英雄かく語りき、その身の秘密とは!?
「あ、私の忍装束に興味おありですか?」
「アッハイ」
 忍装束というか、そこからこぼれそうなたわわな双丘というべきか。トルテ・プフィルズィッヒ(シェーネフラウ・e04289)は頬を染めた若手記者に前かがみで応じてみせる。
「この『忍ビキニ』は……こうやって……快楽エネルギーを蓄えて、防御力に変えるんです♪」
 両腕で寄せられた爆乳がむにゅりとたわむ。ぶふっ、とくぐもった音。
「先日もオーク達に装束の中まで触手でまさぐられちゃいましたけど……この通り……あらぁ?」
 同行するカメラマンからのドクターストップのサインが出ている。どうやらお年頃の青年には少々刺激が強すぎたようだ。
「私も……ちょっと恥ずかしい、ですけど……♪」
 そっと抱き抱えて救護室へつきそうトルテ。青年を包む柔らかに張りのある四肢と『魔香水「ナハトブルーメ」』の甘い妖香は止めを刺した気もするが……意識がなければ大丈夫だろうか。

 若手記者とトルテがが離れてから早々。おぉっ、とロビーに歓声が響く。
「Bonne idee……これなら前回の様なトラブルは避けれる筈ですの」
 その中心にいるのは到着したシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)、見た目麗しい攻性植物に包まれたレプリカントの少女だ。
 昨年、インドでは突然の取材に記者を驚かせてしまったが、今年は思惑通り反応は上々。
「これは素敵なショーをありがとう、マドモワゼル・ジャルディニエ」
「Merci beaucoup.あら、ご存知でしたの?」
 礼を返す年配の記者はなかなか手慣れたベテランのようだ。遠慮なく語れる相手はシエナにもありがたい。
「こちらの娘がナッケール・カクテュス、サボテンの性質を備えてますの。そして、この子が一番の相棒のヴィオロンテですの!」
「ほう、見聞より更に見違えておられる……闘いの日々は続いているようですな」
「Oui……ジュモーお母さまとも、お会いしましたわ。わたしがレプリカントになったのもお母様がわたしを戦場に誤送した事が原因であってわたしの欠陥は関係ないですのに……」
『お前は私の娘ではない』……かの指揮官型ダモクレスと邂逅した言葉を思い出したシエナの花は少し萎んで見えた。どうしても愚痴混じりになってしまう話を、静かに記者は聞き手に徹してくれた。

 一方、彼女が注目を集めるロビーの片隅。
「全世界同時放送で些か目立ち過ぎたからな……よし、今のうち」
「もし、そこドラゴニアンのお方!」
 そっと通り過ぎようとした神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)と、目ざとく捕まえた記者の姿があった。身長190cmの竜派ドラゴニアンの巨体は、さすがにこっそり行動するには不向きである。
「神崎さまとお見受けしますが……何か、理由あってお忍びで?」
「あ、いや……質問するなら他の者の方がいいと思ってな……」
 ちらと見た先はアイドルらしく、報道陣に微笑んで応じるイピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)と、ちょっと押され気味なコマキ・シュヴァルツデーン(銀斧とウィッチクラフト・e09233)の二人。
「防具についてですか? えぇ、確かに普段着のように見える防具も多いですが、きちんと防御力はあるので大丈夫なのですよ。ただ、びしょ濡れにされたり、開けてしまったりすることはあるので……ね」
 武門の家に生まれ、人々に希望をもたらすアイドルとして活躍するイピナは誰から見ても華があり、素養を感じさせる。巻き込まれた感じの抜けないコマキも。
「コマキさんのドレスも綺麗ですね。まるでオーロラのような……その長物はやはり箒?」
「いえルーンアックスですよ! ハルバード! 私の得意武器!」
 魔女に箒はただのステレオタイプよね! と、妙に力強く語る彼女は対照的に素朴な味わいで花を添える……紙面に乗せるなら、武骨な自分よりは彼女たちのような方がと晟は思うのだが。
「え、そんなことないですよ? あ、神崎さんも服について語りたいと?」
「そうではないんだが……あぁ、うん。薄着と言えば薄着だが、私の場合は筋肉というアウターの上に鱗と甲殻があるので薄着でも特に気にはしないな」
 なにか、斜め上に取られてしまった気がする。
「秘密と言われてもな特にはないぞ? グラビティと言っても基本的に私は武器を振り回したり、相手を殴ったりしているだけだしな」
「筋肉イコールグラビティ……ですか?」
 気づけば、コマキに逃げられた報道陣とイピナたちまで集まってくる。いいのか、それで。
「いや筋肉はプロテイン……プロテインがグラビティの源になるのかもしれんな」
「そこまで鍛えることに拘りとは……やはり宿敵が?」
「そんなものは私が教えてほしい。まぁ果たし状は貰ったが……」
 決してラブレターではないぞ、という最後の一言が、更に記者たちの好奇心を加速させるのだった。

●ケニア、恋人たちの時
「ふむ、『男子会旅団団長はバイの男子恋人持ち』? その通りです!」
 どこから嗅ぎつけてきたのか、マイクを突き付けてくる取材陣に胸を張って応えるのはマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)。
 恋話を聞かれ、ここまで堂々と答えられるのは種族性癖を問わず早々いないだろうという堂々ぶり。その自信は恋人どころかもう今年の冬にも……。
「待て、マサムネ。何を言うつもりかはわからんがそれ以上は駄目だ」
 アツいノロケ話を遮るのは今まさに渦中のシャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856)。急にふさがれた口をもごもごと慌てるマサムネを脇に、選手交代。
「おや、シャルフィンさんはそれほどでもなく?」
「いや、あるが、『ごしっぷ』でも『すきゃんだる』でも無いぞ。本当の事だから仕方ない」
 騒動を期待するような記者だが、これまた手強い。
「ぷはっ! まぁまだ一線は越えてないとだけ言っておくよ! オレ、ワイドショーとかスポーツ紙とか苦手マンだけど、まさか取材される側になるとは思わなかった」
「お二人ともユニークですからねー。それにアツアツな相思相愛ぶりで」
 持ち上げてくる記者に顔を伏せるシャルフィン、楽しそうなマサムネ。
「それでシャルフィンはどうなのー? なんだったらここでキスでもしてみる?」
「ひ、人前でキスは駄目だ! その、俺が恥ずかしいというかなんというか……とにかく、今は、駄目だ」
 誰も見てない時なら……というシャルフィンのささやきは歓声に紛れて消える。きっと聞こえたのはマサムネだけだっただろう。

 一方、そんな二人とは違った方向で目立っていたのがもう一組。
「えー、空木さん……そちらは……」
「大切な人です」
 集まってくる記者に空木・樒(病葉落とし・e19729)は微笑んで答えた。鈴蘭を模した清楚なミニドレス……痩身を無駄なく包む衣装も似合う彼女……ではなく、記者たちを注目させた、その隣の事である。
「俺……じゃない、拙者東方に伝わる妖刀に選ばれし刀剣士……にて、候」
 くぐもった声とその姿が筐・恭志郎(白鞘・e19690)と分かるものは割と少ない、はずだ。周囲にケルベロスとは秘密にしている恭志郎、取材を受ければ当然バレてしまうわけで……そこで渡されたのがこの変装。
『これで変装は完璧だね!』
 樒から渡されたサングラスとマスク、これに真っ黒の剣道着と額当てをつけ……見事に正体不明の不審人物の完成である。
「でも、二人っきりのこんな所、記事にされたら恥ずかしすぎて……!」
「あっ、はい……いや魅力的なカップルですよ、御二人とも」
 もっとも上の空な記者の返事は謎の黒男の衝撃だけではない。頬を染めて首を振る樒の姿は、愛らしく、普段の彼女をを知るものには更に意表を突く魅力にあふれている。
 名はわからなくても、二人の姿は十分に目立っていた。
「それで、えー……剣士殿のお名前は」
「御無礼。申し訳ないが、それを言えばうぬらを巻き込む……これは内密だが此度の訪問、運動会の参加は表向きの理由。我が『誘い燐火』がこの地に求める秘技があると囁いてな……」
 鞘に納めた斬霊刀の揺らめきは関わり合いになるなと無言の圧力、なのだが。
「なんですと!?」
「是非詳しいお話を! できる範囲でいいので!」
 むしろ東洋の神秘と盛り上がらせてしまった。
「彼は口下手ですから、その辺で……話題ならそうですね。ここで一つグラビティを……取り出したるは栓をした試験管、中身は並み程度の毒でデウスエクスには効きませんが……」
 すかさず樒がフォロー……が、今度は戦慄のざわめき。待て、それを何処から持ち込んだ。
「これを、振って攪拌しながら手をかざし…ふーっ、せいっ! とまあ見えずとも、グラビティチェインを流し込むと、黒化してグラビティ毒に」
「と、と言うわけで忙しいからこれにて御免!」
 空港管理局までやってくる大騒ぎのなか、恭志郎は樒を抱きかかえるように駆け抜けた。

「あはは……これ記事どうなっちゃうんだろ……樒さん、あんなものどうやって」
「大変だったね! アレはね、謎の気合を送る手へ意識を集中させて、もう片手で中身の水にインクを流し込む……ただの手品だよ」
 まさか飛行機には持ち込まないもん、と屈託なく笑う樒。恭志郎こそ、あんな出任せ説明で……と、数刻言い合って、どちらからか笑顔。
「今度こそ二人っきりだ、ケニアを楽しもうね!」
「ん、行こうか!」

●ケニアスポーツ総力特集! テーマは……
 ケルベロス大運動会。今日という日はケニアスポーツ新聞もスポーツを押しのけての大特集である。
『ケルベロスが来る!』
 わかりやすい英語の見出しと共に一面を飾るのは正統派な英雄といった風の晟、イピナ。逃げ出そうと翼を広げたコマキまでも、うまくヒロイックな一枚で合わせられている。
『熱烈峻厳、デウスエクスから愛と死の果たし状!?』
『眩き剣よ、ドレスを語れ』
「いや、その愛は何処からきた……」
「『ラブレターじゃない』っていっちゃったのが……あ、私たちの話も紹介されてますよ」

『ケルベロスの夏はニンジャが熱い! ノービキニ・忍ビキニ』
『誘い燐火が求める忍びの秘宝とは!?』
「僕まで忍者扱いされているんですけど……」
「真っ黒すぎたかなー? ははは……あ、騒ぎの方はもう大丈夫だって」

 二面、三面、読み進めるほどに直に、マニアックになっていくのは常。
『ケニアの夜のアツい二人』
『ケニアの夏、男の娘の夏』
「なんで俺まで混ぜられてんの!?」
「そらねぇ、そうなるよねぇ」

 一度行くところまで行った紙面は折り返し、日常紙面を経由して裏一面へ。文字通り裏の『花』を飾るシエナの姿。
『人の心の闇、ビルシャナの脅威』
『ジャルディニエ嬢、語る』
 デウスエクス、宿敵との戦い。それは時に力、時に心との戦いである……少し落ち着いた紙面はそう話を締める。
「テーマは……『愛』でしょうか」
「困った時の常套句ですよね、それ」
 まぁいい言葉は誰が使ってもいい言葉だ。ケルベロスと新聞各紙が彩る大運動会、いよいよ開幕である。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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