ミッション破壊作戦～邪道断つは強固なる信念

■リプレイ

●幼き者へ
　奪還の地に選んだのは福井県福井市で発見されたばかりの『子どもたちの学園』、ビルシャナの支配地域でも特に異彩を放つ無辜の子供を囲う監獄。
　ミッション地域直上に到達するとケルベロス達は施設上空に飛び込んだ、全ては罪なき子供達を利用しようとする教義から救う為――！
　ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は憂いた。明るい未来が待っているだろう子供達は、この地に連れ去られた時点で真っ暗な未来しか用意されていなかった。そして既に真っ暗な未来を迎えてしまった者がいることを嘆いた。
（「根こそぎ奪いとり、あまつ更に増殖させようという行い……そして、何より今はもう姿さえ変わってしまった『子どもたち』の犠牲」）
「止める、この地の何もかも。これ以上子供たちに不幸な犠牲が出ぬように。――そして、変えられてしまった彼らの自由の為にもこの剣を振るう！」
　澄ました語り口は紡ぐ度に熱く、激情を帯びていく。
　ユグゴト・ツァン（凹凸不変な嚢滲透・e23397）は思う。仔とは真に愛すべき存在ではないのかと。無垢にして純粋なる幼き仔らを利用する所業は畜生の極み、内に燃え盛る地獄ほど憤怒は膨れ上がっていた。
「仔。仔とは私の抱擁すべき存在と解け、洗脳する対象とは違うのだ。私の愛は有象無象に降り注ぎ、永劫の安楽を約束される――」
　故に。
「此度の破壊は全身全霊。我が魂の絶叫を轟かせ、強烈な一撃を見舞うのだ。私は『愛』の化身。歪な『愛』は赦さぬ。赦せぬ。存在する事を拒む！」
　加速度的に落下速度が増すたびに、初めて手にしたグラディウスも刀身が輝き始める。
　フレア・ガンスレイブ（ガラクタ・e20512）は安堵した、捨てられた子供達が見殺しされずに済んだことに。声なき悲鳴に応え、衣食住に困ることなく、子供達が寄り添える環境に置かれたことに。しかし――。
「――だけど、なんで更なる窮状へと追いやったんですか！」
　それら全ては目論見に利用し都合よく扱う為の布石でしかない。困窮に喘ぎ、孤独に悲しみ、心の奥底で泣き叫ぶ子供らを道具のように利用する非人道的行為は許されることではない。
「貴方たちのもとに居るという窮状から、私達が子供達を救い出します！」
　シャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）は過去の自分と重ねていた。かつてエインヘリアルの侵略に利用された自分と、ビルシャナの妄信的な思想に利用される子供達。生まれは違えど、抗う力のない子供の時分から道具に仕立てられてきたことは、近しいモノに感じる。
「考える力まで奪われ、歪められた子供たちに響くかは、分かりません……それでも」
　この思いが届くように、グラディウスを通して祈りを込める。小剣は少しずつ輝きを増していく。
　レヴィア・リヴァイア（海星の守護龍・e30000）は激昂した。人から変わり果てた者を見ては『此れでも元はひとの願いから生まれた者』だと思ったが、
「だが、此処は何だ。……此処は、何だ！」
　幼子は恨むより憎むより、平穏と明日への希望、暖かい幸せを求めただろうに――ビルシャナはその幼心を利用した。救いを求める心に漬け込み、狂信の徒に陥れようとした。これこそがビルシャナ本来の忌避すべき本質、衆生一切を救うと語る外道畜生の神髄！
「滅べ、疾く滅べ。妾が心の血を注ぎ捧げ、光剣に全てを込めて――必ずや汝等悉くを滅し、滅ぼし尽してくれる！」
　ミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）は憤りに心が震えた。罪なき子供達を自らの教義の信徒に染め上げ、世に復讐させようなんて酔狂ぶりは不愉快極まりない。
「子供達の意思を奪うデウスエクスなんて許せません！」
　思いの丈を乗せようと両手で柄を握り締める。こんな施設を作り出したビルシャナを、引きずり出してやる――！！
「こんなビルシャナの巣窟なんか――壊れてしまえぇえええええええええええ！！」
　不可視の障壁を破ろうと強く輝く刃は光が溢れ始める。
　大弓・言葉（ナチュラル擬態少女・e00431）は決意した、この地を子供達の未来の為にも奪還しようと。
「未来は無限の可能性があるのに、それを狭めるなんて許さないの！」
　世界は未知に溢れている。沢山のモノを見て、人と関わり、経験を積み、選択の一つ一つを自分で考え自分で決める。他人の思惑で勝手に決めたレールを進むことが幸福である筈がない！
「そうでなくては自分の人生とは言えないの、あんたたちのコピーは殖やさせない……！！」
　溢れる刃の光が粒子となり軌跡を描く、真昼の流星となり目前まで迫る。
　東名阪・綿菓子（五蘊盛苦・e00417）は同情した。あまりにも似通った境遇の中で救われることがない『子どもたち』に悲しみすら覚えた。小さな建物に広がる箱庭の世界、そこに君臨する大人は神様も同然。生きる為に神様に逆らってはいけない、それこそ子供達が従うべき唯一絶対の法。
（「彼らはわたがしと何にも変わりゃしない。ただ頼るべき『大人』が、本物の化け物か否かってだけ」）
　――だから本当は……本当はわたがしは彼らの力になってあげたい！
「ダメなのよ、社会への復讐なんて、同じ境遇の子どもたちを生み出すだけじゃないの！そんな間違ったやり方じゃ……地球を不幸にするだけよ！そんなの――わたがしは認めない！」
　綿菓子の手の中でグラディウスは燦然と輝き、灼熱の太陽が如き光を顕現させる。
「絶対に止めてみせる！わたがし達がそんな理不尽を……打ち砕いてみせるのよ！」
　８つの光が重力に引かれるように障壁と接触する。轟音と共に視界は煙に包まれ、爆発的な威力をみせた小剣が力を失い再び落ちていく。
　手応えは充分だった、充分だった筈なのに――ドームはいまだ健在。
　否、それだけ強力なバリアを展開できるデウスエクスが守護するミッション地域ということ。よほど運が良くなければ一撃で打ち砕くことは難しいのだろう。
　施設の中庭に降り立ち、僅かに痺れる腕を抑える――チリンと、音がひとつ。
　煙幕の中に佇む赤い僧服、手には黒笛、尾羽に吊るされた白鐘――忌むべき悪の芽、そして哀れな被害者の残滓。
　マグス・ヴェーザーの子どもたちはゆっくりと笛を構えた。

●幸福の追求者へ
「これ以上、不幸な子供は出させない！」
　無言の圧力というべきか、相対しただけで異常な迫力を感じさせる子どもたちに綿菓子が一足飛びで迫る。鋭角に顎下を捉えた一撃を与え、間合いをとろうとした一瞬に笛の音で弾かれる。
「ダリルさん、お願いします！」
　フレアが祝福された矢を放つとダリルに吸い込まれるように到達。ダリルも狙い定めて踵を叩きこむと子どもたちは尾羽を一振り。強烈な衝撃波に足元から波紋が伸びていく。かろうじてシャウラの前に言葉が割り込むが内臓に残る余韻に肝を冷やす。
「そうやって憎んだって、幸せになんかなれないんだよ！」
　ボクスドラゴンのぶーちゃんに援護を任せ、鋼鉄の拳で殴りかかる言葉は憎悪の音色を止めにかかる。言葉が応戦している間、ユグゴトがポツリと呟く。
「――Idhui dlosh odhqlonqh!」
　自身の内に猛る灰炎を顕現させて放ち、ミリムも大量のヒールドローンを散開させてデコイにさせる。
（「……酷い事するデウスエクスもいるもんだ」）
　改めて危険な存在なのだとミリムはヒシヒシと感じた。憎しみを自分のモノと取り違えるよう唆し、手駒に変質させていく。信仰とは心に根差すモノであり、奥底まで根を張れば取り除くのは困難極まる。
「下郎が！惨めに屍を晒すがいい！！」
　吹き飛ばされるフレアと入れ替わるようにレヴィアが突撃していく、紫電の一刀を突きこむが傷は浅い。もう一撃と鋼の鉤爪を振り下ろすが子どもたちは黒き笛で軌道を逸らし一吹き。間際に飛び込んだウイングキャットのオライオンが壁にしたたかに打ちつけられる。
　けたたましい笛と鐘が鳴り響く中をウイングキャットのロミも翼を広げて支援に回り、シャウラも爆風を巻き上げて綿菓子達を鼓舞させる。
「悲しい音、ですね……」
　援護に回る言葉に光の盾を飛ばして補助しながら、シャウラは戦線を維持させようと治療を続けた。応戦している内に煙幕は無情にも薄れていく。
（「……なんでしょう、この歯痒い感覚は」）
　衝撃波を砲弾で相殺しながらダリルは眉を顰める。次第に全体の動きに違和感を抱くが、混戦する場で熟考している暇はない。

　乱れ撃つ不協和音は鼓膜や内臓を容赦なく痛めつけ、八人を嘲笑うように奏で続けていた。接触から５分もすれば全員の動きを意識していた者達なら気づくだろう。綿菓子はその重大な違和感の正体にハッとさせられた。
　――幾人と動きが噛みあっていない。
　コンビネーションが働けば、早い者に合わせて相手より僅かに早く行動できる可能性が出てくる。一方のみが意識していても、一部の者同士と意識し合っても効果的ではない。少しでも早く倒すなら全員が互いを意識し合った連携は必要不可欠と言えよう。
（「このままだと、かなりまずいわ……でも」）
　既に煙幕は薄れ始めている。この逼迫した状況ではかえって混乱を招くかもしれない、せめて早く終わらせるために一秒でも早く動かねば。
　笛の音圧に消し飛ぶオライオンの背後から綿菓子とダリルが飛びだす。
「五蘊盛苦！」
　僅かに破れた装束の裂け目を増やすように、綿菓子は手刀で滅多斬りして黒羽が宙を舞う。追ってダリルが如意棒を分解し、
「その耳障りな演奏、やめてもらいましょうか」
　鮮やかなヌンチャク捌きで笛を持つ手をかちあげる。正確な狙いをつけた連携を疎ましそうに鐘の音で払おうとする。
「っ、フレアちゃん、そっちお願い！」
　飛びだす間際、言葉が呼びかけて二人を庇うが前衛を護る際は二人分のダメージを請け負う形になる。当然、蓄積される疲労は群を抜いて高い。シャウラの単体回復が二人に集中することもあって、回復量が少なくなる範囲回復のみしか受けていなかったロミとぶーちゃんも音色にかき消されて戦線を離脱する。
「愛は、形じゃないのよ――心なの！」
　軋む体を押して言葉は頭上にハートを描く、自らを空間に通して僅かに傷を塞ぐとすぐに行動を再開する。
「皆、ボクにチカラを……」
「ほざけッ！貴様を救う者など居ない！！」
　足元から細く伸びる光の糸を叩き切るようにレヴィアが一撃を放つが動きが軽くなった子どもたちは剣閃から身を翻して空を斬らせる。圧縮された空気の音弾に身を打たれながらもレヴィアは邁進していく。
「重力収縮、融解、循環、発火――」
　オウガ粒子の輝きを広げながらフレアは自らのグラビティをレヴィアに譲渡し、衝撃波を受け止めようとなおも前に立つ。ギシギシと機械部分は悲鳴を上げ、意図して無視するが痛みに汗が浮かぶ。
「くぅ、焼け石に水って感じ……！」
　ミリムもドローンを展開し、オウガメタルの力を借りて支援に回る。しかし複数回復の弱点ともいえる回復量が足りず、他の者達も例外ではない。攻撃する間もなくミリムの中でもどかしさが募り、シャウラも疲労を隠しきれず自らの回復に着手し始める。
　光の盾を自身に付与してシャウラは掌にグラビティを集中させていく。
「まだ、死ぬさだめではありませんから」
　黄金色の林檎がユグゴトの背から体内へ、さらに灰色の獄炎を全身に纏い破壊力を増幅させる。
「我が地獄、未だ潰えず……私は断罪を執行する！」
　両の手の魔導書から幾多の黒き触手が解き放たれる。溢れるおぞましきモノ達は濁流と化し供物を喰らわんと差し迫る――施設ごと穿つ一撃に砂埃が舞う。

「――！！」
　放たれた矢のように言葉が走る。砂埃を払い除けるように現れた重低音の弾、ユグゴトに直撃する寸でで言葉が受け止めると地に転がされる。そして忌まわしき鐘の音が増えていく。気づけば煙幕はすっかり晴れてグラディウスの効果が消失したことは明らかだった。
「時間切れ、ですか！！」
　悔しさを滲ませながらダリルは砲撃を繰り返し、後続の敵に牽制をかける。崩れた壁から湧いてくる子どもたちは赤い目を光らせ笛を吹く。怨嗟を込めた合奏にフレアも耐えきれずゴポと血反吐を漏らす。
「あああああ不快だ不快だ不快だ……！！」
　得物を杖代わりに身を支えるレヴィアの罵倒は止まらない、それが気つけとなっているように。
「……此の覚悟、生半なモノに在らず。己が身、己が心、遍く激に委ね……悟りの消滅を、成す――！」
　赤い修道服を血の赤に染めてユグゴトが刮目する。負傷する言葉も限界まで堪えたが前衛が壊滅したと言える状況にユグゴトが先に動いてしまった。最後の理性を振り絞って投げだしたグラディウスはミリムが手早く拾う。
「ユ、グゴト、さ……」
　目の前で変貌していく友人にフレアは絶句した。四肢が膨れ上がり肉塊となり蠢く触手と無数の口で覆われた姿はまさに悪魔の様相。
　暴れ狂うユグゴトをも排除しようと子どもたちは交戦し始めるが、元より満身創痍だった彼女がいつまで保つか解らない。
「まだ、私は……っ！！」
「ダリルさんだめです！！わたし達まで、わたし達までたおれたら……！」
　シャウラがしがみついて引き留めると我を忘れそうになったダリルもぐっと堪える。
「離脱しましょう！」
　ミリムや綿菓子も負傷者に手を貸し敷地外へ向けて走りだす。重い体をひたすら遠くへ向かわせようと、残る力を全て両脚にこめる。
　――疲労困憊する体は敷地外から脱出すると、ガクリと力が抜けて地に膝をついた。
「……必ず、必ず見つけてみせマス……！」
　どんな姿になったとしても友人に変わりない――行方をくらました友を想い、レヴィアは再会を誓う。

作者：木乃	重傷：なし 死亡：なし 暴走：ユグゴト・ツァン（オブリビオン・e23397）
種類： 公開：2017年8月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 3／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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