●トリック・アンド・トリート!
届いたハロウィンパーティーへの招待状を手にして、女性は暗い表情でため息をついた。風呂場へ向かい、下着姿になって体重計へ乗ってみる。
体重計のデジタル表示は、非情にも悲しい数字を写し出していた。
「注文したドレスを着て、ハロウィンパーティーに行きたかったのに……」
ダイエットが成功したら着られたであろう、セクシーなデザインの紫のドレスに蝙蝠のイメージのマント。けれど、ついつい上司に誘われた飲み会や、友達に誘われた女子会で、羽目を外してしまい、ダイエットは成功しなかった。
「ドレスも着れないし、行ったら絶対食べまくって、体重がまた増えるんだわ」
悲痛に呟いて、ハンガーにかかったドレスを眺めている女性の前に、赤い頭巾をかぶった少女が突如として現れた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですよね? その夢、私が叶えてあげましょう。世界一楽しいパーティーに参加して、あなたの心の欠損を埋めるのです!」
少女は持っていた鍵で、女性の心臓を一突きにする。
「きゃっ!?」
悲鳴を上げた彼女だが、そこから血が流れることもなく、死ぬこともなかった。その代わりに、女性はその場に倒れて、その体から立ち上るようにしてモザイク状のドリームイーターが生まれる。
光沢のある紫のセクシーなドレスを纏い、蝙蝠をイメージしたマントを付けた、形だけ美女だが、その露出した肌の部分は全てモザイク。吸血鬼に仮装したドリームイーターは、引き寄せられるようにふらふらとマンションの部屋から出て行った。
●パーティー夢見るドリームイーター
予知した内容に、ヘリオライダーの笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、目を丸くしていた。
「ケルベロスのみなさん、ハロウィンパーティーの仮装の準備は終わりましたか? 日本各地で生まれているドリームイーターさんも、ハロウィンパーティーに出る準備をしているみたいなのです」
世界で最も盛り上がる鎌倉のハロウィンパーティー会場を目指して、日本各地で出現したドリームイーターが集まってこようとしていると、ねむは説明する。
「ドリームイーターさんは、ハロウィンパーティーに参加できないのがとっても悔しいみたいで、楽しいハロウィンパーティーを壊してしまうかもしれません。ケルベロスのみなさんには、ハロウィンパーティーが始まる前に、ハロウィンドリームイーターさんを倒してほしいのです」
元気よく手を上げてねむは集ったケルベロス達にお願いをした。
ハロウィンのドリームイーターを、とりあえず分かりやすいようにハロウィンドリームイーターと呼ぶと、ねむは前置きをして話し続ける。
「ハロウィンドリームイーターさんは、ねむの予知では、パーティーが始まったらすぐに出てきますね。だから、だまさなくてはいけません!」
楽しい仮装や美味しいお菓子で、ハロウィンパーティーが始まったかのように振る舞えば、ハロウィンドリームイーターは騙されて誘い出せるかもしれない。
「みなさんが戦うハロウィンドリームイーターは、甘くて美味しいお菓子が食べられなくてドリームイーターになってしまったようなのです。だから、美味しいお菓子をいっぱい準備すれば、きっと出てきます」
パンプキンパイにマロングラッセ、チョコレートにキャンディー、チョコフォンデュもおしゃれかもしれないなどと、美味しいお菓子のことを考えたのか、ねむの表情が少し緩む。だが、すぐに表情を引き締めて、ねむは説明を続けた。
「このハロウィンドリームイーターさんは、トラウマを具現化させる『心を抉る鍵』と、冷静さを失わせて怒らせてしまう『平静喰らい』と、みなさんの精神を悪夢で侵食してしまう『夢喰らい』を使って襲いかかってきます」
せっかくのハロウィンパーティー前に大怪我をしないようにと、ねむは注意を促す。
「ハロウィンドリームイーターさんに邪魔されずにハロウィンパーティーをいっぱい楽しむために、パーティー前に倒してしまいましょう!」
元気いっぱいにねむはケルベロス達を激励した。
参加者 | |
---|---|
眞月・戒李(想失ユークレース・e00383) |
ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577) |
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
鳳・都(瑠璃の鳥・e17471) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
●合言葉は「トリック・オア・トリート!」
鎌倉のハロウィンパーティー会場の端の方で、賑やかなパーティーが始まっていた。ハロウィンパーティーの開始時間はまだ先ではあるが、飾り付けられた室内に、賑やかな音楽が流れ、8人のケルベロス達が楽しそうに談笑していた。
執事風の吸血鬼の仮装をした螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が、ギターとヴォーカルでライブを始めると、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が白っぽい布を被ってオバケに仮装して、カボチャのランプをもって走り回る。
持ち込んだスルメやナッツをかじりつつ心なしか楽しげに演奏を聞いている、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)に、猫の仮装の霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が声をかけた。
「トリック・オア・トリート! 手作りのクッキーはいかがかな?」
「ツマミだって立派な嗜好食品だろう」
クッキーと交換で、ルースはちさに小分けにしたスルメやナッツの入ったお菓子袋を渡す。
「依頼の上とはいえ、つい真面目に作っちゃったよ。味はそれなりだと思うけどね」
カボチャを混ぜた生地に更に刻みカボチャとチョコチップを入れて焼いたカボチャのパウンドケーキを差し出すのは、白い着物に猫の仮面で猫又の仮装をした眞月・戒李(想失ユークレース・e00383)だった。
「トリック・オア・トリート! 僕のカボチャのパイと交換しよう」
自前の翼で吸血鬼の仮装をした鳳・都(瑠璃の鳥・e17471)が、戒李のパウンドケーキのラッピングされた一切れと、カボチャのパイのラッピングされた一切れを交換する。
紙皿にお菓子を取り分け、紙コップで飲み物を配っている黒いローブの魔女の仮装のリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)に、首から下に包帯を巻いたミイラ女の仮装のヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)が、持っている大籠からカボチャクッキーや一口パイを、お皿に乗せていく。
歌い終えたセイヤに拍手が起こり、リコリスとヒルデガルトがお菓子や飲み物を渡しに行った。
「トリック・オア・トリート、お嬢様方……俺のキャラではないな」
格好つけてからぶっきらぼうになるセイヤに、ヒルデガルトがにこにこと微笑む。
「トリック・オア・トリート、セイヤ」
言われてセイヤはリンゴとカボチャのタルトを差し出し、ヒルデガルトは特製ケーキを返した。
「トリック・オア・トリート! わたしの仮装似合ってるかなっ?」
元気よく問いかける苺に、リコリスがハロウィンらしくチョコで顔が描かれた可愛いパンプキンプリンを差し出す。
「とてもお似合いです、苺さん」
「せっかくだから、楽しまないとね」
お返しにマカロンを差し出す苺に、リコリスが笑顔で受け取った。ルースの持ち込んだプレイヤーからは、ハロウィンの少し不気味で楽しい音楽が鳴り響いている。
「もう一曲歌ってよ、セイヤさん」
都のリクエストに応えようと、セイヤがギターを手に取った。
「一人でずっと歌ってるのも、盛り上がらないかもしれないな……」
いまだ現れる気配のない敵に、リコリスがおずおずと前に出る。
「ピアノで、合せるくらいでしたら、できます」
「コラボだねっ! 楽しそう!」
きっと盛り上がると苺が、オバケの仮装の布の下の目を輝かせた。
●お菓子をくれても悪戯します
会場の端に置かれていたキーボードでのリコリスと、ギターとヴォーカルのセイヤのコラボ。交換したリンゴとカボチャのタルトの包みを胸に抱えて、ヒルデガルトが笑顔で演奏を聞いている。
「飲み物は足りてるね?」
ちさに言われて、ルースが紙コップを差し出した。
「甘くないやつをくれ」
「何か楽しくなってきたよ。本当のパーティもこれくらい楽しみたいし、懸念事項はさっさと退治しちゃいたいね」
紙コップで乾杯をして、戒李が楽しそうに尻尾を動かす。
ライブが盛り上がりを見せたとき、異様な空気が偽のパーティー会場に流れた。
「おやおや、随分と大胆なのにモザイクで台無しだね?」
現れたのは、紫の光沢のあるドレスに蝙蝠をモチーフとしたマントのセクシーな吸血鬼の仮装を、その他の露出部分がモザイクというドリームイーターだった。豊かな胸も、引き締まったウエストも、言われる通りモザイクで台無しだ。
ケルベロス達など視界に入らないように、ドリームイーターは真っ直ぐに、お菓子の並べられたテーブルの方に向かっていく。
「猫さん、行きますよ」
ちさに言われて、ウイングキャットの猫さんが戦闘態勢に入った。
「スターゲイザー」
エアシューズで、ルースが飛び蹴りを炸裂させて、ドリームイーターの足止めをしようとする。
「折角のハロウィンだ……。本来、俺の柄ではないが……派手に行こうかっ!」
ギターを置いたセイヤが、『旋刃脚』で電光石火の蹴りを放った。お菓子に向かっていたドリームイーターが、モザイクのせいでどこを見ているか分からない顔で、振り向く。
その顔からモザイクを飛ばし、『夢喰らい』でドリームイーターがセイヤをモザイクで包み込もうとした。
「マカロン、お願いね」
ボクスドラゴンのマカロンが走り込み、セイヤを庇う。その隙に、苺も『スターゲイザー』で流星のごとく蹴りを放った。蹴りまくられて、ドリームイーターの足元が揺らぐ。
「まんまと誘き出されたわね」
追い打ちとばかりにヒルデガルトも『スターゲイザー』で、その足を狙って蹴りを放った。
「逃がさないよ、お前のトラウマはなんだろうね」
戒李の握る惨殺ナイフの刀身に、『惨劇の鏡像』でドリームイーターの忘れたいトラウマが映し出される。
着られなかった美しいドレス、参加できないハロウィンパーティー、食べられないお菓子……。
声なき悲鳴を上げて、ドリームイーターは戒李に飛びかかろうとした。
「ハロウィンパーティーを楽しみになさっている皆様の為にも、負けられません……!」
物質の時間を凍結する弾丸、『時空凍結弾』を作り出し、ドリームイーターに叩き込むリコリスの援助で、ドリームイーターの腕は戒李までは届かない。
ちさも『トラウマボール』で、ドリームイーターのトラウマを抉るべく攻撃を放った。
「君の悪夢は大体予想出来るよ……食欲の秋、とも言うし」
都もまた、『トラウマボール』を放つ。
蹴りの次はトラウマを抉る攻撃を次々と受けて、ドリームイーターは苦しんでいるようだったが、すぐに体勢を立て直し、モザイクでよく分からないが怒りのこもっているような雰囲気で、ケルベロス達を見渡した。
狙いを付けたのは、戦闘の前に抱きしめていた包みをそっと安全な場所に置いた、ヒルデガルトだった。『心を抉る鍵』で切りつけると共に、そのトラウマを具現化させようとする。
切り裂かれた肩を抑えて、ヒルデガルトはどうにか耐えて、逆に『スターゲイザー』で反撃をした。
●招かれざる客はお引き取りを
パーティーとは違う空気に気付き、よろめきながら逃げ出そうとするドリームイーターの前に、苺とマカロン、ルースが立ちふさがる。
「加減ができなかったらごめんねー」
苺の一族に伝わる基本技の連撃を昇華させた極意という『ストライクスリー』を受けてドリームイーターが後ずさるのに、ルースが『一針の慈悲』を叩き込む。
「痛みが悪だと、誰が決めた?」
逃げられないと悟ったのか、顔からモザイクを飛ばし、『平静喰らい』でルースを包み込んだ。
「大丈夫ですか、ボルドウィン様、ミラー様」
オーロラのような光が降り注ぎ、『オラトリオヴェール』でリコリスが、ヒルデガルトとルースを素早く癒す。
「せっかちだね? もっとゆっくり踊ろうよ」
挑発するような都の言葉と共に、『禁縄禁縛呪』で放つ半透明の御業が、ドリームイーターを鷲掴みにして、その動きを束縛しようとする。ドリームイーターの動きが鈍ったところに、セイヤが『降魔真拳』で魂を喰らう降魔の一撃を叩き込んだ。それと連携するように、ちさがバトルガントレットで、高速の重拳撃『ブーストナックル』を叩き込む。
ちさとセイヤにドリームイーターの意識が向いた隙に、死角に回り込んだ戒李が、恋人の肩を抱くように、優しく、獣化した爪をドリームイーターに向けた。
「綺麗な空だよ。ほら、見える?」
強烈な一撃に、ドリームイーターの体が揺らぐ。そこへすかさず、リコリスの『惨劇の鏡像』がまたドリームイーターのトラウマを抉ろうと放たれる。
パーティーに行く友人の楽しそうな顔、減らなかった体重、無駄になった招待状……モザイクの頭に当たる部分を押さえて、ドリームイーターが刀身に映し出されるトラウマに音のない叫びをあげた。
かなりダメージを受けているドリームイーターに、ちさが油断せずに『旋刃脚』で体力を削っていく。
リコリスに襲いかかろうとするドリームイーターの前に、ヒルデガルトが入り込んで庇った。
「皆はやらせないわっ!」
受けた傷を、『マインドシールド』で癒しつつ、ヒルデガルトは防御力を上げて、次の攻撃に備える。
明日から本気を出すという誓いを溶岩に変え、ドリームイーターの足元から噴出させる苺の『ニートヴォルケイノ』に、ドリームイーターは後ずさった。ケルベロス達に囲まれて、逃げる場所はないが、それでもまだ、ドリームイーターはどうにか逃げ出して、本当のパーティーに向かおうと思っているようだ。
「逃がしはしない」
縛霊手で殴りつけたルースの『縛霊撃』で、網状の霊力を放射され、ドリームイーターを緊縛する。動きの鈍ったドリームイーターに、戒李の『ドラゴニックミラージュ』で掌から現れたドラゴンの幻影が、ドリームイーターを焼いた。
「喰らいつくせ! ウロボロスの牙ッッ!!」
漆黒のオーラを全身に漲らせたセイヤが、黒い龍を司るオーラを両腕に纏わせて、両方の拳で二連撃を叩き込む。
「風邪の心配をする必要はないよ―浴びた時点で、終わりさ」
もうほとんど動くこともできなくなったドリームイーターに、都が『銀蝕の鬼雨』で特殊グレネード弾を上空に連射し、劇物の豪雨を降らせた。
●偽のパーティーは終幕を
雨が晴れたあとに残っていたのは、紫のドレスを着たカボチャの可愛い置き物だった。どうやら、ドリームイーターは消え去って、置き物に変わったようである。
「吸血鬼の仮装のカボチャの置き物になっちゃったね」
これはこれで可愛い会場の飾りになるかもしれないと、戒李が置き物の周りを歩くと、苺もそれに付いて回った。
「このまま、パーティーの続きしたいねっ」
「折角だし、ハロウィンパーティーの続きをしたいな」
ルースもそれに同意した。
「本当のパーティーに支障がないように、片付けないといけないね」
いそいそとちさが、会場の隅とはいえ、これから始まるパーティーのためにと片付けを始める。
「あのタルト……折角だから作ってみたが……味は保証しないぞ……」
やや不恰好な手作り感あふれるタルトを、テーブルの上から回収しているヒルデガルトに言うセイヤに、ヒルデガルトはにっこりと微笑んだ。
「ドリームイーターが暴れたから、少しつぶれてしまっただけよ。きっと美味しいわ」
片付けをしているちさを、リコリスも手伝う。
「霧城様、私も片付けます。私も……お役に立ちましたか?」
「みんなで協力したから、倒せたんだよ、リコリスさん」
爽やかに微笑む都に、リコリスも儚げに微笑んだ。
ハロウィンパーティーはもうすぐ始まる。開始前にドリームイーターを無事倒すことができたケルベロス達は、カボチャの置き物を見ながら、戦いの後片付けに勤しむのだった。
作者:駿河遊馬 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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