●ケルベロス大運動会とは!
度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』発動は、世界経済に大きなダメージを与える事となった。
この経済状況を打破する為にはイベント、そう、お祭り騒ぎが必要なのである!
皆はイベントを楽しみ、経済効果もあって一石二鳥。そうして企画されたのが、ケルベロス大運動会なのであった!
ケルベロス達には通常のダメージは通用しない。そこで、この機会を逃す手はないと、世界中のプロモーター達が、あまりにも危険過ぎるため今まで使用できなかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を、開催国である『ケニア』の各地に持ち寄り、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げたのだ!
ケルベロスの、ケルベロスによる、全ての地球人の為の一大イベント、ケルベロス大運動会、ここに開幕である!
●運動会の陰で
「……暑い……と思っていたが、意外と過ごしやすいものなんだな」
と、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は呟いた。
ケニアは赤道直下とは言え、高原地帯に位置する。太陽の日差しは強いが、気温自体は過ごしやすい温度だ。
「さて、運動会の真っただ中ではあるが、会場を提供してくれたケニア政府から依頼があってね。皆には、サバンナのヒールをお願いしたい」
ケニア政府によれば、つい先日、サバンナの一角が火災に見舞われてしまったという。
動物たちは避難させたものの、その被害は甚大。そこで、ケルベロス達に、この火災跡地のヒールを依頼したいそうだ。
「我々ケルベロスの活動の宣伝にもなるが、ケニアの自然を取り戻す事は、何より現地の人々の生活を取り戻すことにつながる。当然、そこに住む動物たちの生活もだな。ヒール後には、ケニアの雄大な自然を堪能する余裕もあるだろう。では、よろしく頼む」
そう言って、アーサーは、ケルベロス達に一礼した。
●完成したドキュメンタリー映像より
――ひと月ほど前の事です。ここ、雄大なサバンナのある一角は、落雷による火災のため、見るも無残な姿へと変わってしまいました。
サバンナの再生には数か月、もしかしたら数年と言う時間が必要だったかもしれません。ですが、サバンナを瞬く間に癒してくれる人々が存在しました。そう、ケルベロス達です。
我々は、そんな彼らの活動に密着しました。
現場に向かった我々を出迎えたのは、花が咲き、花弁の舞う幻想的なサバンナの姿でした。アリス・ティアラハート氏のグラビティにより大地には花園が現れ、メイザース・リドルテイカー氏もまた、花弁を舞い踊らせます。シルディ・ガード氏は妖精たちと楽し気に踊りながら、周囲を癒し続けました。また、どこからか優しい歌声も聞こえ、ヒール・ドローンや、分身してヒールにあたるケルベロス達の姿もあります。
彼らの通った後には、様々な形で再生したサバンナの自然がその姿を見せ始めます。元々の姿とは異なり、少々ファンタジックな姿を見せますが、そこはご愛嬌と言う所でしょうか。
「動物たちも喜んでくれるといいね」
メイザース氏はそう言います。
「これで、いっぱい、元気に、なーれー!」
シルディ氏は、火災で焼け落ちた大きな木の前でそう言いながら、しゃがみ込み、力を込めて、ぐっ、と立ち上がります。その言葉に応えるように、その大樹は徐々にかつての姿を取り戻していきます。
その大樹が、今回の復興のシンボルになると、我々は感じました。
次に――。
●帰るべき場所へ
サバンナのヒール作業を終えたケルベロス達の次の仕事は、動物たちをサバンナへ帰してやることだ。
「では、作業の手順と……良ければ、普段は皆さんどういう仕事をしているのか、お聞きしたいわ?」
ウルズラが、保護活動の作業員へ尋ねる。自分達の活動のアピールもあるのだろう、作業員は笑顔で、丁寧に、普段の活動を教えてくれた。
ウルズラは興味深そうな表情で、作業員たちの解説を聞いていた。
さて、作業員たちの指示に従って、ケルベロス達は各々作業を始める。
陣内と眸は、動物たちを宥めながら、トラックへと誘導していた。ここから各生息域へと移動し、各々放すことになる。
「見ろよ、眸。チーターも喉がゴロゴロ鳴るぜ」
チーターを宥めつつ、陣内が言う。
「大きな猫のよウだな……陣内も喉を撫でられると気持ち善イのか」
眸が真顔で尋ねるのへ、
「いやいや……撫でようとしないでくれよ?」
苦笑しつつ、首を振った。眸は真顔で頷く。
その真面目な表情に、陣内は思わず笑みをこぼした。
天晴もまた、トラックへと動物たちを誘導していく。北海道の動物たちには馴染みがあるが、サバンナの動物を直に見るのは初めてだ。また、作業が終れば、彼らがいかにサバンナで生きているのか、それを見る機会もあるだろう。どこかそれを楽しみに、天晴は作業を続ける。
動物たちを乗せたトラックは、サバンナへと向かった。ケルベロス達を乗せた車両もそれを追う。
道中トラブルなく、車両はヒールの済んだサバンナへと到着した。
鬼人とヴィヴィアンが動物を誘導して行く。動物たちは、数秒、新しい景色となった故郷を眺めてから、ゆっくりとサバンナへと向かって行った。
「なぁ、ヴィヴィアン。自然ってのは不思議なもんだ」
鬼人が言った。自然と言うものには乱雑に並んでいるようで無駄はなく、本来であれば、火災からも自然に立ち直るのだという。ヴィヴィアンは、その言葉に頷いた。
「でも、今は……この動物たちのつらい時間を少しでも縮めることができて、よかったと思うよ」
笑顔で答えるヴィヴィアンに、鬼人も微笑みを返すのだった。
「……で、俺の足に噛みついて離さないラーテルにも、大人しく自然に戻ってもらいたいんだが……どうしような」
困った顔で、鬼人が言った。
「わ、鬼人大丈夫!? 怪我してない?」
ヴィヴィアンが大慌てでしゃがみ込む。ラーテルは我関せず、と言った感じで、鬼人の足をがじがじと噛んでいた。
「さあ、動物様達……貴方がたの住まわれていたサバンナに、緑が戻ってきましたわ……」
そう言って動物たちをサバンナへと送り出すミルフィを、アリスは見守っていた。
動物たちにとって、少々様変わりしたサバンナの姿はあまり気にならないようで、すぐさま思い思いに活動し始める。
「サバンナの緑ももどってきて……動物さん達も、きっと喜んでいますね……あ、ミルフィ、みて下さい、ぞうさんの親子が水浴びしてます……♪」
アリスの言葉に、ミルフィは頷いて、
「あちらには、キリンの親子が仲睦まじく木の葉を食んでございますわ……♪ ――この光景を、わたくし達で護ったのですわ……姫様」
2人の目の前には、平穏な動物たちの営みが広がっている。
それは、2人が取り戻した、かけがえのない時間なのだ。
東西南北がシマウマを優しく撫でて宥めながら、口を開く。
「ボクの故郷は焦土地帯と化して消えない炎が燃え続ける、もはや人が住めない土地です」
東西南北と共にシマウマたちを誘導していた保は、東西南北へと視線を向けた。
「でもボクは諦めない。いつか必ず故郷を取り戻すんです」
「うん……東西南北はんの故郷も、取り戻そう」
東西南北の言葉に、保は強く頷き返した。
「きっと、この大地のように、皆のヒールの届く日が来るよ」
サバンナへと帰っていく動物たちを、2人は手を振りながら、長い間見送っていた。
心に、ひとつの決意を宿して。
キリンの群れを誘導しているのは、ブリュンヒルトと虎次郎だ。ブリュンヒルトは怯えられないかと、恐る恐るキリンへ手を伸ばす。キリンは特に気にした様子はない。ブリュンヒルトは少しうれし気に、キリンを優しく撫でた。
「逞しく生き抜けよ……子供を残すまでうっかりお肉にされんじゃないぞ」
虎次郎が思わずつぶやくと、キリンの親子と目が合った気がした。キリンの親は子を庇うようにしながら、サバンナへと帰っていく。少しばつが悪そうに虎次郎が頬をかく。
「元気に暮らしてくれりゃいいな」
ブリュンヒルトの言葉に、虎次郎が頷く。
「……何か良いなあ親子ってのは」
虎次郎の呟きは、ブリュンヒルトに聞こえたのだろうか? それは、ブリュンヒルトだけが知っている。
宴は動物たちにヒールを施して、サバンナへと送り出していく。
「火災の原因は雷だったそうっすね」
シマウマに顔を近づけて、呟いた。シマウマは不思議そうな顔をしていたが、やがて宴を置いて、サバンナへと駆け出して行った。
「……お気をつけて」
どこかぼんやりとした表情で、宴はシマウマを見送った。
「なになに? 撮影? あ、そのアルマジロは野生動物じゃないぞ!」
アルマジロを抱きしめていたリーズレットは、撮影隊に気が付くと、手を振りながら其方へと向かう。
カメラクルーの前でアルマジロを地面に置いた。するとどうだろう、アルマジロはたちまち人間に変わった。ケルベロス、和が変身していたのだ。
「此処の動物も可愛いけど、うちの響も可愛いぞっ」
と、相棒のボクスドラゴンを抱き上げ、カメラクルーにアピールするリーズレット。
「なになに? うちのりかーも可愛いやろ?」
和も、自身のボクスドラゴンを抱き上げて、カメラクルーにアピール。
親バカな2人の、愛する我が子のアピールは、もう少し続く。
「お、ライオンがいる。もふりに行くか?」
ミリムと共にガゼルの群れを送り出した空牙が声をあげた。
「も、もふもふしてみたいです!」
ミリムが答えた。かくして、そろりそろりと、ライオンへと近づく。ケルベロスにとってはライオンは無害なのだが、やはり少々、怖いらしい。ミリムは空牙に、先にライオンに触れるように促した。
「大丈夫大丈夫、恐くねぇさ」
と、空牙がライオンに触れる。ライオンは特に反応せず、あくびなどしている。
空牙はしばらくライオンを堪能。それから、ミリムへとバトンタッチ。ミリムもしばし、ライオンを堪能するが、流石にライオンの我慢も限界だったらしい。突然大きな鳴き声をあげ、2人を威嚇するものだから、たまらず2人は逃げ出してしまった。
とは言え、その表情に恐怖はなく、とても楽しげであった。
●サバンナの休日
すべての動物たちをサバンナへと返したケルベロス達に与えられたのは、サバンナ観光の時間だ。皆、思い思いの時間を、広大なサバンナで過ごしている。
マサムネとシャルフィンは、木陰に二人で座り、サバンナの動物たちを眺めていた。
「ミルクティーでも飲む? ケニアはお茶生産が盛んなんだってさ」
と、マサムネが水筒を取り出しながら言った。シャルフィンは頷くと、カップを受け取る。ミルクティーを飲みながら、のんびりと、サバンナの自然を感じる。
「自然を感じながら飲むお茶は、やはりいつも飲むお茶と違うな……」
くすりと笑いながら、シャルフィンが言った。お互い肩を寄せ合いながら……2人きりの時間は、まだまだ続く。
凛那とイヴリンは、今日、初めて出会った。
きっかけは、サバンナのヒール作業だ。力不足を感じ、助けを求めていたイヴリンを、凛那が救った。その縁もあり、こうしてともに観光に出かけたのである。
「様々な動物が争うことなく共存してる。理想の姿だな。我々ヒトもそう在れれば良いのに」
2人は水飲み場に集まった動物を眺めていた。イヴリンの言葉に、
「みんな水は必要だからね。もちろんワニみたいな、ここを狩場にする動物もいるけど、それを含めて共存なのかな。ヒトもかくありたいよね」
凛那は同意の言葉を返す。
今日出会ったばかりの2人のケルベロスは、きっとこれからも、上手く共存する仲になれるだろう。
ギメリアはサバンナを飛行しながら、様々なネコ科の動物を観察している。
「アレは……サーバルキャットだな!」
呟き、少し離れた所に降りた。双眼鏡を使い、観察する。すごく楽しい気持ちになりながら、ギメリアはサーバルキャットの愛らしい姿を目に焼き付けるのだった。
真理とマルレーネは、動物たちへの餌やりを体験することにしたようだ。
キリンの群れを見つけ、餌となるはっぱを枝ごと、キリンたちに差し出す。
「し、舌! 凄く長いのですよ、マリー……!」
「おおお、枝ごと持っていかれるぅ」
お互い、楽し気に声を掛け合いながら、キリンに餌をやる。餌やりを堪能した後は、キリンをバックに二人で記念撮影だ。2人、ほっぺたと肩をくっつけて、自撮り風に写真をパシャリ。
「……また1つ、2人の思い出が出来たですね」
そう言う真理の手を、指を絡めるようにつなぎながら、
「まだ日はあるから……今日は沢山、思い出を作ろう」
マルレーネの言葉に、真理は頷いた。2人の休日は、始まったばかりだ。
「孫、日差し遮る帽子は被ったか?」
陸也の言葉に、わかなは、
「うん! だいじょーぶだよ!」
と麦わら帽子を指さして答えた。
キリマンジャロの絶景に感動しながら、2人のサバンナ散策は続く。
しばらく歩くと、2人はシマウマの群れに遭遇した。その内の数頭が、わかなへと近づいてくる。最初はびっくりしたものの、友好的なシマウマの態度にすっかり気を許した……のは良かったのだが。
「た、助けてー!」
いつの間にか何頭ものシマウマに囲まれて、身動きが取れなくなってしまったのだった。
陸也は大慌てで動物に変身、シマウマの背をかけてわかなの下へ駆けつけると、尻尾を振ってシマウマたちを威嚇する。
少々びっくりすることになってしまったが、これもいい思い出になるだろう。
サバンナに夕日が沈む。そんな光景を見ながら、ノルとグレッグは今日の事を思い出していた。
今日の作業を通じて知った、お互いの新たな一面……それを知れたことが、2人とも、どこか嬉しかった。その嬉しさを噛みしめながら、2人は無言で、橙に染まる、雄大な夕日を見つめていた。
「……こう言った景色を見る機会も、そうないだろうと思っていたが……案外悪くもないものだな」
グレッグが呟く。ノルは頷いた。
「うん。大切な思い出……覚えておくんだ、今日のこと」
ノルが言った。それからの2人に、言葉は不要だった。2人はそのまま、夕日が完全に沈んでしまうまで眺めつづけていた。
●完成したドキュメンタリー映像より
かくして、サバンナの再生は、無事に完了しました。
そこに、優しき人々の救いの手があった事を、我々は忘れてはなりません。
彼らの気高き心がある限り――そして、その心を我々もまた持ち続けることができれば。
この雄大な自然の営みは、永遠に続いていくことでしょう。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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