ミッション破壊作戦～剣に魂、血に祝福を

■リプレイ

●剣に魂
「くぁ～はっは～～～！　あ、再びやって来ました熊本は天草諸島！！」
　興奮するヒナタ・イクスェス（世界一シリアスが似合わない漢・e08816）は羽、もとい着ぐるみに覆われた手をばたつかせる。
　近づいてくる戦の時。そして今度こそ天草諸島を解放するという欲がヒナタを昂らせているのだ。
　そんな男を尻目に、日影野・燦（這い寄るコールタール・e32883）がぽつり、零す。
「ボクとしては３回目、か」
　デウスエクスからこの地を解放しようと試みるのはこれが３回目。燦が参加しなかった分も含めると４回目になる。
　今度こそはという熱が強くなるのも当然と言える。
　イルヴァ・セリアン（あけいろの葬雪花・e04389）は静かに瞼を開いた。
　外を見遣れば海の青と木々の緑が混在している。
「もうすぐですね」
「ああ。間もなくだ」
　装備の点検をしていたレイリア・スカーレット（鮮血の魔女・e24721）は、最後に銀細工と瑠璃の加護が懐にあること確認すると傍らに置いていたグラディウスを手に取った。
　手中の刃に想いを寄せる。
　武器としての剣を使うつもりはもう無い。
　しかし、これでデウスエクス──天草諸島に巣食うエインヘリアル達の力を砕けるというのなら存分に利用する。
　いつか、彼の王の首を斬り落とすことに繋がるはずだから。
　パンッと玖々乱・儚（罪花喰らい・e00265）は両手を打ち合わせた。
「今日は戦闘前のお呪いもなし、さぁとっととつぶしてお家に帰らせていただきますかね」
「ええ、さっさと潰して終わらせましょう。……この場所にいつまでも奴らを居座らせておくわけにはいきませんから」
　言って、三和・悠仁（憎悪の種・e00349）はヘリオンの床を蹴った。
　すぐに他のケルベロス達が後に続く。
　シルフィディア・サザンクロス（ピースフルキーパー・e01257）も短く祈りを捧げ、宙へと飛び出した。
　バサッ。黒い翼を大きく広げる。
　下からの叩きつけるような風がいくつかの羽根をさらい、落ち着いた色合いの赤髪と黄色い花を躍らせる。
　体が地面に近づくほどにシルフィディアの瞳に憎悪の火がちらつき出す。
　どうせ何度言っても分からないだろう。
『福音の鐘兵団』が壊したこの島に住む２０万の人々の平穏な暮らしがどれだけ尊いものだったかなんて。
　彼らはこれっぽちも考えもしない。
「だから嫌いなんですよ、このクズ共が……！」
　シルフィディアの口調が茨のように棘を持つ。
　怒りのあまりグラディウスを握る手に力がこもり、震える。
「王だの団長だのの命令にただ従うだけの気狂い騎士モドキ共め、そんなに死にたいなら今度こそ皆殺しにしてやりますよ……貴様らの罪、その命で支払え！」
　抑えることを止めた憎悪を刃に乗せ、シルフィディアはグラディウスを振るった。
　重力に身を任せ降下する桐屋・綾鷹（蕩我蓮空・e02883）は、胡乱なものを見るような眼差しでバリアを見据える。
　兵団というからには統制やら訓練がある分、一筋縄じゃ行かないだろう。面倒くさい話だ。
　しかし、綾鷹らケルベロスは経験や技術などの堅苦しいものだけではない。
　地球の人間の命を背負っているのだ。
　たった１人のトップの待っているだけの兵団とは重みが違う。
　いつまでもたむろされると周辺の島々……ひいては世界中の人々がいつ一斉攻勢を掛けてくるのかと怯え続けることになる。
　寝るに寝られない状況など迷惑千万。
「いい加減俺達の星から立ち退きやがれぇぇぇ！！」
　内に宿した熱を糧に綾鷹はバリアにグラディウスを突き立てた。

●血に祝福
　前回は本当に世話になった。
「さあ福音の鐘兵団、今日は前のように行かないのオチよ？」
　バーサーカーめいた男の脳裏を過去の記憶が走り抜けた。
　ヒナタに手にはグラディウス。これを携えるのは２度目。
　眼前にあるバリアの奥に控えるのは『敵』。
　全力を賭しても、敵うか否か分からない……真の『強敵』。
「あ～なた達の栄光、今、ココで終わらせる！」
　故に敬意を表そうと決めた。己の『深層』の一端を見せようと。
「さあ輝けグラディウス！！　我が叫びを、我が魂を、我が『怒り』を糧にして！！　今こそ！　この回廊に！　終焉の風穴を開けてやれ！！」
　その魂の輪郭は少しばかり曖昧で。
　グラディウスに乗った重力はヒナタの怒りほどのものにはならない。
　しかし、それでもヒナタは構わずグラディウスを叩きつけた。
　この魔空回廊を砕くのだという意志は確かなものなのだから。
　襲い来る空気の塊など物ともせず儚はふっと息を吐き出した。
　普段は丁寧な口調を心掛けているがこんな時──魂を燃やすときくらいは、怒りに身を任せて叫んでもいいはずだ。
「砕けろ」
　回廊の奥に潜む狂信の徒とも言うべき福音の鐘兵団。
　彼女らのことを思うと儚の胸がイライラと騒めく。
　正義や信念、命すら信じる者に任せて、あの人のため、あの人が言うからなんて言い訳をする者達。
　そんな者達が信じる王になど、福音を届けてさせてたまるものか。絶対に。
　この回廊を砕いて兵団が信じるベル様とやらの計画を潰してやるのだ。
　儚の腕にしがみつくテレビウム『てれ』が顔でもある画面に何か動画を映したようだが、それを確認する余裕は無い。
　今はただ、怒りをグラディウスに託すのみ。個人的な感情の叫びだが、心の奥から湧き上がる儚の気持ちだ。
「壊れろよ」
　刃がバリアに触れる。
　同時に光と炎が生まれた。
　それらによる煙幕が瞬く間に広がる。
　けれど、レイリアの視界が妨げられることはない。
　福音の鐘兵団がヴァルキュリアによって作り出された存在なのかどうかは知らないが、ヴァルキュリアとして愚かな行いは見過ごせない。
　己の意志を持たず、ただ狂信的に従うのが彼女達の戦いだというのか。
　レイリアは目を細めた。怒りさえ宿した鋭い眼光がバリアの奥を睨み付ける。
「戦う意味は己の意志で決めるもの。他者にそれすら委ねた貴様達の力がどれだけ脆いものなのか、今此処で砕いて証明してみせよう……！」
　襲い来る大気を裂くようにレイリアはグラディウスを振るった。
　下から吹き上げてくる風は夏であっても少しばかり冷たい。その冷たさでもっても燦の感情を抑えることは出来ないが。
　幾度攻められようと不在の隊長格。それを疑おうとしない狂信者には嫌気が差す。
　そして、天草諸島の支配は当然で、足掛かり位思っているような言動がそれを煽る。
「甘く見るなよ」
　燦の声には強い苛立ちの色。
　今までのケルベロス達の魂も。何より、彼女らが当然と思って踏みにじっている日常も。甘く見られてたまるものか。
　だから何度でも叩きつけるのだと、燦はグラディウスを振りかぶる。
「ここはお前の様な味方の命すら駒扱いするヤツの栄光『程度』に収まるものじゃないことを！！　直接命を賭けない奴に奪わせ続けるほどここの『歴史』は安くないことを！！」
　ところどころ音が掠れ、詰まるような絶叫。強い嫌悪感がそうさせた。
　必要以上の力でグラディウスを握り、燦はバリアに刃を突き立てた。
　ヘリオンからの降下。バリアが悠仁の眼前に迫る。
　平時の蓋は緩み、漏れ出した憎悪が悠仁を覆っていく。
　どうしたところで侵略者は侵略者。それが変わる事は無い。
　しかし、彼女等の『それ』は何だというのか。
　王だの栄光だのと、己が生き足掻く為ですらない理由でこの地を、人々の居場所を奪おうというのか。
「……巫山戯るな」
　悠仁の胸にあるのは過去の記憶。
　居場所を奪われるということがどれだけ苦しいか。どれだけ、苦しめられると思っているのか。
　悠仁は知っている。故に許さない。
「回廊も、貴様等も……俺が憎む全てを悉く叩き潰すまで許しはしない……！！」
　誰にも賞賛されぬ道を歩いて行ける証明とも言えるコートが一際強くはためかせ、悠仁はグラディウスを叩きつけた。
　イルヴァの耳を彩る月明りが風に煽られ音を立てる。
　風音に飲み込まれそうな細やかな音色は、それでも確かにここにある。
　ただ『妄信』だけで人の命を奪う者達にこれ以上天草島を、人々の故郷を、命を蹂躙させはしない。
　それが『人々の幸福と平穏を護る』ということを自らの使命と定めた娘の決意。
　美しい自然も、そこに住まう人々の笑顔もこの島の全て。何一つとして兵団の妄念で汚していいものではない。
　彼女らの主の陰謀などに利用させたりはしない。
　イルヴァはグラディウスを握る手に力を込めた。
「お願い、グラディウス。わたしの想いに、応えて」
　小さくそう呟いて、イルヴァは燃える魂と共に刃を振るう。
「もうこれ以上、誰の平穏も幸福も奪わせない。此処で断ち切ります」

●光に福音
　光と炎が迸り、煙が広がった。
　８人がグラディウスを突き立て、天草に降り立つまではほんの数秒の出来事。
　着地したケルベロス達は真っ先に空を見上げた。
　バリアは未だこの地を覆っている。
　ギリと、誰かが歯噛みする音が響いた。
「行こう」
　レイリアは心中の苦さを押し隠して離脱を促した。
　黙って頷きを返す綾鷹は懐にグラディウスを手早く収めた。小さく収納する術はないが剥き出しで持っておくよりは遥かにマシだ。
　異論などあるはずもなく、８人は静かに──ただし獲物を抜いて走り出した。
　煙幕の向こう側には混乱するデウスエクスの姿がいくつもある。
　その中に１つだけ、確かにケルベロス達を認識した影があった。
　進行方向を遮るべく影が動き出す。
「まだ……まだ居座るつもりか！」
　刹那、悠仁は足を止めた。
　槌を砲撃形態に変形させ竜砲弾を撃ち出す。
　大気を震わす轟音が立ち塞がらんと姿を見せた少女に迫る。
　少女は盾を構え凌ごうとするも、狙い済ました一撃は盾越しにも強い衝撃を与えた。
　弾かれた少女が立て直そうとするが遅い。
　竜砲弾を追って走っていたレイリアの銀の槍は電を帯びている。
「貴様に与えられるのは福音ではなく、弔いの鐘であるという事を教えてやろう」
「っ、その言葉、そのまま貴様らに返すっ！」
　盾を前面に押し出して突きを受け流すと、少女は鈴の音のような声で歌い出した。
　けれど狂信を宿したその歌声はひどく耳障り。直接魔力の影響を受けたわけではない儚も眉を顰めた。
「狂信者の仲間入りってのは避けてもらいたいな！」
「安心しろ、死んでもお断りってなぁっ！」
　走る綾鷹の前に儚の雷壁が展開する。
　ダンッと綾鷹は跳びあがり、流星の煌きを乗せた蹴りを少女に叩き込む。その綾鷹の軌跡を黒い長刀の霊力が描いた。
　流れる血と同じような少女の赤い瞳には狂信と怒り。
「我らを侮辱するか」
「盤上の駒扱いの狂信者にはお似合いだろ？」
　燦の皮肉に少女はけたたましく笑い出した。
「ハッ、ハハハハ！　狂信者？　大いに結構。それが王の為になるのなら！　団長の栄光になるのならっ！　我らは喜んで礎になろう！！」
「……始末に負えないね」
　熱量を奪う鹵獲術が少女を襲った。
　その機を逃さず、イルヴァは漆黒の隠しナイフで掌に２つのルーンを刻む。
　ケルベロスは少女を攻め立てた。一刻も早く少女を打ち据えるのだとばかりに、激しく。
　仲間と連携を取ろうにも重ねることが出来ずにいるシルフィディアだが、『攻』に重きを置く一打は強力の一言に尽きる。
「貴様らデウスエクスに生きる価値など微塵も無い……！　いい加減死ね！」
　禍々しい蛇腹剣に姿を変えた両腕が少女を斬り裂いた。
　少女は噴き出す血を物ともせず吠えた。槍を構え、真っすぐに燦へ突撃する。
「くぁ～～！」
　一撃を阻むべくヒナタとてれが走る。
　かくなる上はと突き飛ばす勢いでヒナタは地面を蹴ったが、その手で逃がすよりも早く槍が燦の腹を貫いた。
「ぐっ、あっ……！」
「っ！　てれ、燦をこっちに！」
　主の言葉に従い、てれは崩れ落ちた燦を儚の元まで運ぶ。
　ジャギンッと、重々しい金属音が重なった。
「くぁ、さあ絶望を見せてやる」
　ヒナタがバックパックから展開した超巨大チェーンソーブレードが唸りと豪炎を撒き散らす。
「こ～れがヒナタ・イクスェスの必殺兵装『対デウスエクス用超大型６連式特殊チェーンソーブレード』。さあ業火と共に抉り、潰されるが良いのオチ！」
　６基のチェーンソーを受け止めた少女の盾が激しい火花を散らす。
　唇を噛み、堪えようとした少女の足が崩れた。
　火花が止む代わりに血が噴き上がる。
　その血に身を潜め、迫るは１人の娘。
「……わたしは人々の平穏と、幸福を護るための刃です」
　空の霊力を帯びたイルヴァの刃がボロボロになった鎧の隙間に刺し込まれる。
　だから、負けられないんです。
　その言葉を覆い隠すように少女は血を吐き、弱々しくたたらを踏む。
「べ、る、さま……！」
「私の忠誠は今もザイフリート王子に捧げられている。だが、貴様達のように戦う理由も意志も、王子に委ねる気は無い」
　レイリアは音もなく光の翼を広げた。
　すぐに全身が光の粒子に変わる。
「今も昔も、そしてこれからも、戦い、殺すのは全て私の意志だ……！」
　その意志と共に粒子となって輝くレイリアは、少女を絶息させるべく突撃した。

　儚が燦を担ごうとすると、レイリアが待ったをかけた。
　意識の無い男に詫びの言葉を入れてからグラディウスを抜き取る。
　強敵は倒した。煙幕もまだ色を残しているが周囲には敵が蠢いている。万が一の為だ。
　それを終えると、今度こそ儚は燦を担ぎ上げた。
　綾鷹は力ない背中に小さく零す。
「割れようと割れなかろうと最後の地点の一枚まで足掻いて苦しんで挫けて、其れでも割り切ればカッコイイんじゃねーの？」
　俺は知らねぇけどと、添えて。
「綾鷹さん……？　あ、あの、どうかしましたか……？」
「いや、なんでもねぇよ」
　濁されたことにシルフィディアは気付いたが追及しなかった。
　解放は出来なかった。けれど、これは次に繋がる勝利だ。
　分かっていても感情は渦巻く。
　ケルベロス達はそれぞれの想いを胸に、青い海を目指して走り出した。

作者：こーや	重傷：日影野・燦（這い寄るコールタール・e32883）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年8月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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