何回も全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)何かするから世界経済にクリティカルヒットしちゃったっていう事情が事の始まり。いや、仕方ないんだよ? やらないと人類に大打撃が入るんだから。でも現実問題として、経済的にあまりよろしくない。そこで、おもしろイベントで収益を挙げようってなって始まったのが、ケルベロス大運動会。
番犬の皆って普通の物理的ダメージは受けないでしょ? それを活かして世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故に使用できなかった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄り、開催国である『ケニア』の各地に、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げたんだって……なんでそんなもんに番犬が挑まなきゃならんのか? それはお金のた……げふんげふん。
栄えある第2回ケルベロス大運動会の開催地には、『ケニア』だって! ケニア各地を巡り、アトラクションに挑戦だ☆
「というわけで今回はケニアだよー!」
大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)は観光パンフレットを広げて……片付けた。
「み、皆にはジャングルのヒールをして欲しいの!」
ごまかすように広げ直したのは、ケニアの熱帯林におけるインフラ整備の計画書。
「森の中を通り抜けるのって大変だからね。ここに貫通する道路を作ろうって話があったんだけど、大きく森を切り開いたせいでジャングルが少しずつなくなり始めたの。そこで!」
取り出したのは二枚目の道路の整備計画。今度はジャングルを通ることなく、迂回路に道を拓くらしい。
「前の道路を綺麗に壊して片付けちゃって、皆でヒールしてジャングルを復活させようって作戦が立てられたよ!」
今回は戦闘じゃなく、邪魔になった道路を壊して、運んで、ヒールする……分かるか? ジャパニーズ伝統芸能カワラワリの出番ですぜ……日の目を見ない武術とかでもいいのよ? 日頃の鬱憤を晴らすってのもいいかも?
「それとね、ヒールし終わったらジャングルの中を歩いて見てもいいかも。実はこんなのがいてね……」
シマウマ風の牛のようなヤギっぽい生物の写真を見せる。
「面白い見た目してるし、絵に描いてみても面白いかも?」
「世界四大珍獣の一匹と言われるだけあって、貴重ですからね。ただ眺めてるだけでも面白いかもしれませんよ。ボンゴ以外にも動物は多いですから、全て終わったら散歩してみてもいいかもしれませんね」
サラッと動物の正体を明かした四夜・凶(全自動マシュマロ焼き機・en0169)だが、手に持ってるのは料理本。おい、ピクニックじゃねぇんだぞ?
「皆で道路をどーん! して、ジャングルをヒールして、最後に観光までできるコースだよ。熱帯だから暑い通り越して熱いかもしれないけど、森林浴するのも気持ちいいかも?」
最後に疑問形になるユキ。熱帯林の作業になるからね、皆も熱中症に注意だ!
●
「ヌヌ?セス君がブレス行くから?リフレクタービット的に回してオールレンジ攻撃?オケオケ了解ェ!」
「黒斑とレフコクリソスは、面白い事を思いつくなァ……?俺も混ぜろよ。ブレスには全力の一撃をブチ当てて弾く!」
身構える二人に対し、遥か遠方にて様子を確認するセス。
「物九郎のやつめ、受け止められるだろうな? 巌もいるが……まぁ、いいだろ」
白き竜が大気を飲み、黄金の角が赤い雷を纏う。
周囲に金色の燐光を散らす輝凛が龍鎚を振りかざす。
「ドラゴニックゥ!ハンッマァー!!」
道路が爆ぜ、爆導鎖のように瓦礫の山を繋いでいく……。
「一度壊した環境も、任意で治せると言うのは便利で御座いますね?」
『ドッたンばッタん大騒ギっテ奴ゥ?』
ヨルがスイッチ片手に発破。手の繋がった三つの人形がケタケタと軽口を叩き、フィオが遠い目。
「復興してるのか壊してるのかわかんないね……」
「まぁ、火を使わないうちは好きにやら……」
熱線が走り抜け、道路が溶けた。
「なんで火遊びをしてるのかなあ君ら!?ここ森の中だよ!?」
「か、環境に優しいグラビティを使っていまぁーす!!」
「そういう話じゃないでしょおお!?」
輝凛と弥奈が漫才やってる傍ら、ヨルが降り注ぐ瓦礫を発破。
「邪魔な物はこっちに頂戴。捨ててくるから」
「よろしくお願いします」
手押し車に乗っけた二つの瓦礫に、フィオが固まった。
「これ瓦礫じゃなくてさっきの二人なんじゃ……」
「スチームパンクはどうしてそんなに魅力的なのかー!」
アイラノレの叫びに機巧鎚が蒸気を噴き、鼓太郎が斬った道路をカジミェシュが運んでいく。
「壊すのはなんだか勿体のう御座いますが、仕方ありません」
「鼓太郎さーん!!私の信頼する友ー!あなたに日頃の感謝と親愛をー!!」
「え」
大声に振り向くと、アイラノレがぶんぶん手をふる。
「カミルー!!……大好きですー!!ずっと一緒にいたいですううー!!」
「君はいったい何を叫んで……」
「この幸せ者っ、リア充っ、末永く爆発して下さいっ」
赤面して顔を覆うカジミェシュから鼓太郎がリヤカーを奪い、照れ隠しに逃げ出してしまった。
『ルミナイズっ!ザ・ソウルコンダクターっ!』
ホルンが全高四メートルほどの光の鎧装を具現……重機?
「女子の皆で集まってする事と言えば……もちろん『道路の解体作業』ですっ」
セレネテアルは瓦礫を中空で迎撃、大きな塊は蹴り上げる踵落としで粉砕。
「女の子は黙って道路の解体作業なのじゃなー!!」
「なんで穴掘りなんですの?」
同じ師団のケルンを見つけたレイがひょこり。
「いやほら危ない物とか埋まってるかもしれぬし別に鉱脈とかそういうの見つけたいとかそういうのじゃ……」
「自然は動物さん暮らすのに大事ですの。だから、仮に見つけても採っちゃダメですの」
レイの正論を前に、ケルンがしゅーん……。
「流石にど派手ですね……」
麻実は土をならし、石を並べて額の汗を拭った。
「これで基礎工事完了なのです」
「では、こちらの出番ですね」
「今度はヒールでジャングルを再生させよう!」
シアは現地の土で作った団子に種を入れ、麻実が整えた地面に並べていく。蓮華は桶を小脇に抱え、その中身を手で掬った。
「枯れた大地に緑を芽吹かせよう~!」
蓮華が薬液を散布。種を瞬く間に発芽させるが、そこまで。
「ずっとずっとこの緑が続きますように!」
この新芽が木々となる遠い未来に向けて、シアはそっと祈りを捧げた。
「やっぱり準備はちゃんとしなきゃなのね……」
ヒメが横から覗き込むと、計算を終えた樹が爆薬をセット。
「職人さんが誠意を込めて作った物を壊すわけだから、こっちも真剣にやらなきゃね」
粉塵も上げずに崩れ落ちる瓦礫に、ヒメが拍手。
「流石本職。見事なものね」
「これでご飯食べさせてもらってる以上は、まあ、ね」
タオルと冷えた飲み物を受け取り、一服。
「それじゃ、壊した後はきれいに後片付けといきますか」
肩を回す彼の背中を、ヒメは微笑みながら見送っていた。
「しらべ嬢、服装が作業向きじゃない気がするんだけど」
流が心配するしらべの格好は白のワンピースに麦藁帽。
「大丈夫……」
流が道路を解体し、その後をしらべがヒール。
「お花たくさん……可愛い感じ、がいいなぁ……」
「気候の関係で大きくなりそう……」
花の芽吹きを見届ける二人が寄り添い、しらべがぽつり。
「運動会……番犬じゃなきゃ、死んじゃうような、アトラクション……沢山あるけど、よく作れたなぁって思う……」
「皆何を考えてるんだろうね……」
しばし、二人で運動会に想いを馳せるのだった。
「六六式戦闘術の真髄……ここで見せたげるよっ!!」
「こんなとこで真髄見せていいんか、おい」
ひたすら拳を叩きこむ睦を横目に、命は砲弾で道路を破砕、亀裂に砲身を突っ込んで爆破。
(ストレス発散には持って来いだね!日頃口には出せない思いを……って、命がいるから結局出せないけど!心に込めて、拳を打つべしっ!)
(これで上手く発散させてやれたらいいなぁ……悩みあるなら相談してくれりゃいいのに)
二人の思惑はすれ違う。
「行こうグラファイト……皆っ!」
三綺竜とその子分に突撃させて、広範囲に亀裂を走らせるネリシア。
「後はどーんしたらいいんだね?」
京華が鉄拳の一撃、一気に瓦解させてしまう。
「じゃあ、こっちは片付けちゃうね」
「ヒールは……任せて……」
京華が瓦礫の山を撤去したところから、ネリシアがヒール。
「凄い幻想的なジャングルになったよね……」
「なんだか美味しそうだね?」
戻ってきた京華が見たのは、ワッフル状の実をつけた幼木だった。
「是非ユキと、ユキの相棒の力をお借りしたいのじゃ。無論タダとは言わぬ」
括がニヤリ、番犬がユキを取り囲む。
「四夜様や皆様を交えて楽しみたいので……どうかお力をお貸しください」
月っぽいお菓子を差し出すエイレーネを筆頭に、緋色蜂師団の面々がユキに菓子を献上。
「な、何が目的?」
目をキラキラさせる白猫に、達也がそっとザッハトルテの箱を握らせる。
「いや賄賂とか買収とかそういうアレじゃ全然ないから。日頃お世話になってる四夜さんへのお礼と、大神さんへのお近付きの印だから」
「どうかよろしくお取り計らいの程を……あ、帰りもヘリオン乗っけてくれると嬉しいです!」
鳥の卵を模した銘菓を差し出しつつ懇願する和に、ユキがキョトン。
「帰り『も』?」
それから少しして。
「ミミ蔵、そこっす!」
「何すんですか!?」
ノイアールが偽箱に凶を確保させ、連絡。
「れっつショータイムっす!!」
空にはヘリオン、十七の影が降下。ノイアールを加えて十八人の番犬が凶を取り囲み、肩を組んでグルグル……。
『緋色蜂!ヒャッハー!』
「おぉう!?」
「さて、凶さんと遊んで貰ったし頑張って働きますかー!」
何事もなかったかのように、わかなは鉄鍋を構えた。
「こういう作業はやっぱり慣れた得物がいいよね」
「今日の作業のために武器を強化してきました!」
高硬度・大質量の特殊合金製という正に鈍器な武器を構える和奏だが、見てしまった。
「鉄鍋……?」
どう見ても調理器具。和奏が硬直してる間に藍励が道路をガシガシ。
「意外と、楽しい……」
猫娘が大斧振り回して道路壊してるとか、はたから見たらヤバごふっ!?
「Argo、それ、ゴミじゃない……壊すのは、道路」
『……All right。任務遂行する』
浮遊機の融合機が、文字通りの鉄拳を振るい道路を穿つ……のだが。
「あ、痛い、痛い。小石凄く、飛ぶ」
遠隔操作なんかするから自分に破片が当たるシェステイン。瓦礫の山を命がネコ(一輪車)で回収。
「大型武装使うなら気をつけて。あちこち飛び散るから、苦労するよ?」
「気をつけ……ます」
一方、静かに作業する人もいるわけで。
「二人とも順調ですわよ」
ステラがせっせと瓦礫を運び、メレアが道路の残骸を食らって消す。紫姫はサボりかな?
「私には監督役という責務がありましてよ?」
佐久弥を見ろよ。付喪神に働かせながら自分も仕事を……?
「そんじゃいくっすよ?」
金属塊をブン投げる佐久弥……落ちてきた金属塊が道路を貫通、地面に埋まった!
「やり過ぎました……?」
うごうごする神影。流体金属の彼女は下から道路を砕いて吸収……それご飯じゃないよ!?
「ハッハァー!ヒールの時間だァ!」
瓦礫を撤去した残骸のど真ん中、レヴォルトがギターをかき鳴らすたびに地面から小さな芽吹きが起こる。
「ジャングルだったことを考えると、やっぱり伸び放題の方がいいですかね?」
高宏は浮遊機を飛ばし、レヴォルトの演奏が届かない物陰にヒールを届ける。鬱蒼とした様子を確認しては、次の物陰へ……。
「じゃあ俺もヒールを……」
ジュッ。
「あっつ!?」
計都が鬼鋼を纏った途端、肌がコンガリする音がした。
「この炎天下でオウガメタルが熱されている!でも俺はこれを着ないとろくにヒールが出来ないんだ……!ええい、ままよ!」
ジュワァアア……。
「お前がヒールされる側になるなよ?」
陸也が氷騎兵を呼び出して廃材を運搬させつつ、計都の近くに配置。氷の冷気で……あ、溶けた。
「俺はヒールしてるから」
「えっ、見捨てないでくださいよ!!」
「あまりイジメてやるなよ?」
苦笑する晟は周囲を確認すると、サバイバルセットを背負う。
「では私は行くとしよう」
「……ふっ!」
沙葉が振るうは魔力を宿した妖刀。十字の剣閃に、分割された道路が崩れる。
「ん?」
魔力の残滓が紅く輝き、沙葉が首を傾げた。
「初めて見る状態だ……普段の戦闘では青いのに、何故だろう」
「まだ見ぬ異能でもあるのか?」
凶が隣から覗き込むと、ブワッと舞う燐光。
「何事!?」
「わ、分からない……」
凶が離れれば光も収まり、沙葉は疑問符を浮かべたまま得物を納めるのだった。
●
「さすがはケニアか。この密林、探索のしがいがあるというもの……」
晟は一人、森の中を行く。ナイフで枝葉を落とし、時に見つかる虫の巣を避け乍らの進行は困難を極めるが……全部が全部、そんな場所ではない。
「アフリカのジャングルってそのまま動物園っぽいよなぁ」
「動物園……?」
メリルディの言葉に漆は首を捻るも。
「ああ、確かに。言われてみるとそうかもしれませんね」
密林の境界が近いこの近辺では、少し先にサバンナが広がっている。腰を降ろせば少し離れた天然の動物園だ。
「そう言えば今日はリルが弁当を準備してくれ居るんですよね?」
「うん」
広げたお弁当の中身はケニア版おにぎりと焼肉。
「それじゃ、食べてもいいですかね?」
「食べてほしいけど上手くできてるかなぁ……」
メリルディはそわそわしと漆を見つめるのだった。
「今日はサンドイッチです。チキンサンドにタマゴサンドとハムとレタスの三種類です」
ほのかの広げる弁当を前に、ルヴィルはジッとほのかを見つめる。何かを察した彼女は一つ、差し出して。
「えっと、はい、あーん……」
「うんっうまいな~!」
食いつくなり破顔するルヴィルが二つ目を手に取り、ほのかの口元へ。
「はい、あーん」
「え、あの、その……」
誰もいないが周りを見回して、ぱくり。少しずつ頬に赤みが差す。
「ちょっと恥ずかしいです」
「なんでケニアにいるんだろ……」
「ほーら、甘えていいのよ?」
「姉貴、うるさい」
不機嫌なホワイトにブラックが両手を広げるがにべもなく、リーズレットがサンドイッチを差し出す。
「腹が減っては虫の居所も悪くなるとか!まずは食べよ!!」
半眼ではあるが受け取り、もぐ。
「……ふん、まぁ、味はいいよ」
よし! っとピースするリーズレットには目もくれず、ホワイトがきょろり。
「飲み物ならパンドラボックスの中に保管してあるのでお申し付けください」
「じゃありんごジュースちょうだい」
合わせてリーズレットが挙手。
「コスィ~冷たいお茶が欲しい~!」
「少々お待ちを……ふむ、これも一時の平和というやつでしょうかね」
ポツリ、こぼしながら二人に手渡すコスモス。と、木に登っていた悠美が何か見つけた。
「あれなんだー!?」
「不思議生物が居る!皆で絵に描いて見せあっこしよう!!」
「絵?絵か!いいぞ、私の実力を見せてあげようじゃないか!」
と、リーズレットと悠美の間で話が進んで。
「これが私の絵だ! ……うん?静かになってしまったな?これも私の実力だな!」
「独創的……だな……?」
悠美の絵は『あの』リーズレットが大人しくなる代物である。が、ヤバいのはもう一人。
「……私にも苦手なものはあるのよ」
そっと目を背けたのはブラック。
「……意外な一面を見れて嬉しいカモ?」
そう語るリーズレットはぎこちなく首を捻ったという。
「動物なんてネットで見ればよかったんじゃないのかい……?」
「何でもネットで済ませればいいわけじゃないのさ」
既にうだってるペルフェクティに対し、ヴィルフレッドは双眼鏡構えてやる気十分。
「……あついです」
アイギスが水筒の水を飲むのを横目に。
「のどかわいたーボクアイスティーがのみたいー」
「そこに飲み物と今朝作ったサンドウィッチが入ったバスケットあるから食べて」
と、探索を続行するヴィルフレッドに対し、静かに風を浴びて周りを見回すミリア。生い茂る木々、広大な草原……。
「自然とまるで一体化した気持ちにな……」
最後に捉えたバスケットが、猿の群れに取られてた。
「ヴィルフの弁当がー!?」
「僕の弁当がどう……動物に食われてるー!?食べられたら今日のお昼なしだから頑張って捕まえてくれたまえー!」
「くっ、あたしのお昼、楽しみにしてたのに渡してたまるか!」
と、挑んだ結果。
「あー!?あたしの髪の毛噛むなぁ!?」
「もー何やってんのさー」
ペルフェクティがため息。その後ヴィルフレッドの奮闘で無事バスケットが帰還、アイギスがふむん。
「ひとなつのおもいで、たくさんできました。夏季休暇の課題、絵日記なので。帰ったらいっぱい描けそうです」
これを思い出にカウントしていいのか……。
「凶、水筒提げた虎が脚を狙って来るんだけど……!」
「それ小鉄……」
「えっ」
ユキに水筒を開けてもらった小鉄は水を飲みつつ、いざ動物の群れへ……入れない。
「ふぎょー!?」
そりゃ、虎が近づいてきたら迎撃するさ。中々お近づきになれず、一旦人型に。
「凶!ご飯じゃ!美味いもん食わせろじゃ!!」
「はいはい」
と、お弁当を貰って再び虎に。もう一回行こうとしたけれど。
「すぴー」
草の上に寝転がり、そのままお昼寝してしまうのだった。
「レッド……手、繋いでも良い?」
「おう!」
レッドレークはクローネの手を取り森の中を進む。
「木が無数に絡み合っていて壮観だ……胡椒や生姜なんかも生えているな。魔法薬に使えそうなものはあるか?」
「研究用に持って帰りたいけど、流石に怒られちゃうかな」
レッドレークに苦笑を返し、採取を諦めたクローネ。その後も動物を見つける度にはしゃぐレッドレークと、彼を見て微笑むクローネ……。
「結構歩いたから、帰りはレッドにおんぶしてもらおうかな」
「良いぞ、帰りは俺様に任せて、しっかり掴まっていてくれ!」
既に少し眠そうなクローネを背に、レッドレークは再び森を行くのだった。
「ジャングルと言うことは、やはり蛇とかがいるんでしょうか。蛇よりもワニがみたいな、ワニ」
キールは水辺を目指すが、探究心に身を任せてあっちにふらふら、こっちにふらふら……。
「……珍しい植物とか、ちゃんとヒールするんで一部持って帰っちゃ駄目ですかね?」
見たこともない花を前に独り言をこぼし、しかし空港的な場所で取り上げられる気がして諦める。今日の目的はワニを見る事なのだから。
「マイヤちゃん見てみて、シマウマがたくさん!」
「どこどこ? わあ……なんだかサバンナに来たって感じするね」
キアラが示したのは、木々の向こうのサバンナを駆けるシマウマの群れ。
「ボンゴはシマウマ?とか牛みたいなのだから、一緒にいたりしないのかな?セレスは見た事ある?」
「ボンゴは森の魔術師って言われるくらい見つけるの難しいらしいのよね……大きな耳や模様が特徴的みたい。見た事はないからボンゴも見たいけれど……」
元気に動物を眺める三人に、リェトが微笑む。
「何でこう暑い地域で暑さを満喫するような事するんだろうな。姫さん方は熱中症とかにならんようにな?三人抱えるのは俺もできんぞ」
などと言いつつも、聖職服の彼は暑さを感じさせないばかりか、三人の日陰になっている。それに気づいたのか、マイアがリェトの背に隠れてみた。
「影になってるからちょっと涼しいかも」
無邪気な様子に三人が微笑み、リェトはマイアの頭を撫でて、すまなそうに頭を下げるラーシュには笑みを返すのだった。
「図鑑でしか見た事ない昆虫がリアルで見れるなんてね」
翠華は木に留まった昆虫をジッと見つめ、刺激しないように離れてからため息を一つ。
「どうせなら夜のジャングルも見たいわね」
昆虫用の餌を木に吊るし、その場を後にするのだった。
「ケニアと云えば草原や砂漠の印象だったけれど、森林もまた壮観だね」
「思っていたより青々とした植物が多くて私も驚きました」
トリニティに応える夜江がカメラを持っており、ふと問うてみる。
「夜江は動物が好きなの?わたしは、どうも懐かれない質らしくてね」
「動物は好きなのですが、感覚の鋭い子には避けられます」
色鮮やかな鳥を眺めるトリニティに親近感を覚えた時だった。遠く、例の珍獣がいる。カメラを構えて、やめた。
「いいのかい?」
「はい。それに、皆さんにシマウマ風で牛のようでヤギを見た、と言ったら本物を見たくなるでしょう」
ささやかな悪戯に、トリニティは微笑むのだった。
●
景臣が少女達の日陰代わりに歩幅を合わせていると……木々を抜けた先のサバンナに、キリンの親子が見える。
「皆さん、あそこ」
「キリン……?まぁ親子……!小さくて、愛らしいわ」
泉で休む親子を見つけたエヴァンジェリンは口元に手を添えて、声を抑える。
「あの親、父さんより確りしていそうですよ?」
千鶴夜の一言が、景臣の心にグサリ。
「わぁ、動物さん、いっぱい、いる。涼しそう」
流華が眺めていると、シマウマの群れがやってきた。
「シマウマやキリンはテレビでしか見たことがなかったのだが、実際に見てみると迫力も違うものだな。厳しい環境の中でもあのように生きているのだとすると逞しいものだ」
信倖が頷き、景臣が指を口元に。
「さ、驚かさないように進みましょうか」
頷いた少女達は彼に続き、去り際に振り返ると挨拶代わりに手を振った。
「わっ、ふしぎな鳴き声がしました。今のは何でしょう?」
辺りを見回す愛に、蓮は双眼鏡で確認。
「ブルーモンキーか……」
「青いお猿さん?」
蓮に双眼鏡を借りる愛が見たのは、白い襟が特徴的な猿だった。
「あぁ、あそこにも居るか」
「え、どこ?俺の視力じゃ見えない……」
累音が木々の合間に顔を覗かせる猿を発見。斑鳩は良く見えず、双眼鏡を借りる決意を固めた間に、黒地に白く長い毛が混じった猿が通過。
「綺麗な色合いの猿もいるのだな」
「おお、確かに綺麗だ」
今度は見えた斑鳩は楽し気に笑った。
「不思議な毛色のお猿さん、鮮やかな毛並みがとても綺麗ですね」
そんな猿を見つめていた志苑だが、ふと心配に。
「あまり見ると機嫌を損ねてしまうでしょうか」
けれど、猿はしばらくその姿を見せてくれていた。
「ロジオン、気を付けて歩いて……ここは私も翼を仕舞って歩いた方が良さそう」
「植物の豊かさ、木々の鮮やかさや香りもさることながら、鬱蒼としておりますね……っわぶっ!?」
光咲に言われて鬣を気にしていたロジオンは木の根を脚をひっかけた。
「大丈夫か?……って、あ!」
マクスウェルが何か見つけ、ロジオンが額に手を翳す。
「流石にこの距離ですと、判別は難しいですね……」
「双眼鏡を使えばもう少しよく見えるかしら」
マクスウェルが双眼鏡を通して見れば、それは白黒縞模様な猿で。那岐と瑠璃がきょろきょろ。
「こーゆー森はやっぱ物珍しいのかな?」
「うん。故郷とは違う色彩の多さ、むせかえる匂い。どこもかしこも新鮮だ。こういうのも素敵だね」
「私と瑠璃が故郷の森を守護しているように、この森を大切に護っている方がいるんでしょうね。心が引き締まる思いです」
二人の守護者は気を引き締め直すのだった。
「あれ、木の上に……おじいちゃん……?」
散歩中に小町が見つけたのは、樹上で休む老人。しかし近づく前に。
「あれはたぶんお猿さんかな~ゲレザって言うんだよ~」
「……あら本当、お猿さんじゃないのよ」
セイシィスに言われてよく見れば、黒い体毛に白髪のような毛が混じった猿であり。
「ちょっと愛嬌あって可愛いかも!」
「この動物ウォッチングもヒールした分の役得なのかな~?」
二人の散歩は、まだまだ続く。
双眼鏡を手にした灰だが、中々レンズに動物が映らない。
「鳴き声の主は見つけられた?」
「ダメだ、音がした方向を見ても既にいなかったりするし」
「そっか……あ、見て!エボシドリだよっ」
ラウルが示したのは割と近く。シズネがその姿を見て目を輝かせた。
「なんだあのモヒカン……!かっこいい!」
「烏帽子被ってるみたい。でもモヒカンって言われればモヒカンだし、なんだか可愛い」
小町はこっそりエボシドリをカメラに収める。
「素敵な思い出がまた一つ増えちゃった」
「ほんと、いい旅になったなぁ」
ニカッと笑うシズネを、小町はカメラに収めておくのだった。
「動物には触れたりはしないかの」
ミミはまだ見ぬモフモフに想いを馳せるが、見つけたもっふもふな猿は高い木の上。諦めて紙とペンを用意。
「カメラは使えぬし絵にしていくのじゃ」
まるで完成を待つかのように、猿はじっとミミを見つめていた。
「転ばないように気をつけて」
レスターの警告にエリヤはウロウロ。ちょっと昔の事を思い出す。
「元々僕は目が弱く、お外で遊ぶなんて言ったら怖い顔で止められたなぁ」
エリオットに支えられ、木の根を越えたところで腰を降ろし、レモネードと飴を共に、レスターは目を閉じる。
「俺と弟が育ったアスガルドの集落も豊かな自然に恵まれていた」
今でもまぶたにあるのは、木漏れ日と弟の記憶。
「弟はもういないけど……今はキミ達がそばにいる」
「そっか」
エリオットは微笑む。親友はどうやら前を向けたようだから。
「歌舞伎で見た……吊るして移動するやつ、やってみせて」
暑さで目が死んだノーザンライトに言われるまま、メリーナが蔦を組む、が。
「これ途中で引っかかって動けなくなりました!助けてください!?」
「じゃあ私は普通にターザンで」
「放置!?」
蔦を握り、優雅に滑空するが暑さでやられて、ぽーん。その先には、シマウマ風牛っぽいヤギ的なボンゴが! まぁ避けられなくて激突、からの敵襲だと思ったボンゴにバックキックされて吹き飛ぶ。
「これが、ケニア式の。馬に蹴られて何とやら、か」
「ボンゴがぼごーん」
「……はて、何か寒い」
ぽそり、メリーナが呟いた途端にノーザンライトは涼?を得るのだった。
「何から話そうか、シャルフィン?」
ジャングルの木陰で、マサムネは真剣な眼差しを向ける。
「昔は殺戮で快楽エネルギー得てたなんてさみしいし悲しいよ。だから今度からはオレと……」
「そんなサキュバスらしくない快楽エネルギーの摂取方法だったせいで俺は今もまだ魔法使いなんだが……なんだ?今度からはマサムネと」
言の葉が、唇に潰される。二つの舌は深く絡み合い。
「成程、こういう意味か」
ようやく解放されて、シャルフィンは一つ理解するのだった。
「なぁ虎次郎?蛇とか危ない動物はいねーよな……?」
周囲を警戒するブリュンヒルトに対し、夫は。
「あはは、なんかめっちゃ派手な色のトカゲが居る!」
「っつか本当に日本で見たことねーのいるんだな!?」
実に無邪気で、彼女も釣られて笑った。
「自然の中にいると元気出るあたり、やっぱアタシはシャドウエルフだなァって思うぜ……虎次郎も、獣の血が騒ぐんじゃねーの?」
振り向くと、いない。
「おい!?」
「悪い悪い、これやるから許して」
虎次郎が嫁に握らせたのは、青い鳥の羽根。
「キレイだろ?きっとそれ幸運のお守りだぜ」
「沖縄とケニアだと、同じジャングルでも違う?」
あかりの視線に、陣内はあごを撫でて記憶を辿る。
「木がたくさんあって、でも、もう少し、こう……緑が深くて、水に近いような……」
上手く言葉にできなくて、いっそ来るか? と聞くのも憚れる。
「いつか……」
何かを言いかけたあかりが首を振った。今はそれでいい。二人で一緒に居られるだけで十分なのだから。
作者:久澄零太 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:101人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 8
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