ケルベロス大運動会~ケルベロス・スタイル

作者:こーや

 ケルベロス・ウォー。
 世界中の総力を結集することで、ケルベロスを僅かな時間だけ強化する大規模戦争用の決戦体制である。
 地球の全ての技術と資源が投入されるが為に、世界経済は後退してしまう。
 今、度重なる発動で世界経済は大きく疲弊してしまった。
 この経済状況は打破しなくてはならない。
 その為に『ケルベロス大運動会』で収益を挙げようというのである。
 栄えある第2回ケルベロス大運動会の開催地は『ケニア』。
 ケルベロス達に通常のダメージが効かないことをいいことに、世界中のプロモーター達が一般人には危険すぎて使えなかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄り、巨大で危険で物騒なスポーツ要塞をケニアの各地に造り上げたのだ。
 ケニア各地を巡り、アトラクションに挑戦しよう!
 安心していい。どんだけ危なくてもケルベロスだから大丈夫だよ!
 色んな意味で「ケルベロスで良かった!」と思える一日をエンジョイしようぜ!

 ファッションにおける世界の最先端といえばケルベロス。
 その彼らが来るというのだから、ケニアのファッション業界が色めくのも当然というもの。
 ファッション誌である『ファッションオブケニア』の記者達に至っては殺気立っている。
 編集長とおぼしき女性が眼鏡をくいと持ち上げた。鋭い眼光が部下たちを見据える。
「では作戦の確認です。カメラマン!」
「はいっ、自分の任務は索敵にあります! センスの良いケルベロスをこのカメラを使って探し出して見せます!」
「結構。次、ライター」
「色やモチーフなどの拘りを引き出し、ファッションを細かにメモします。コメントはレコーダーを使って管理します」
「よろしい。では、アシスタント達」
「自分達は機材の確認です。お二方が任務に専念出来るよう支援します!」
 さながら最前線に赴く兵士のようだ。
 ファッションの最先端に至近距離まで迫れるのだから当然と言えば当然。
 さらに細かく役割や機材の確認を続けていると、飛行機の到着を告げるアナウンスが響き渡った。
 ギラリ。ファッションオブケニアの記者達の目が剣呑な輝きを放つ。
 記者達は猛然とケルベロスの元に押し掛けた。


■リプレイ

●空港インタビューその1
 ロビーに着いた途端、押し寄せてきた記者達の熱気にリィンハルト・アデナウアーは目を白黒させた。
「『ファッションオブケニア』です! ファッションについて取材させてください!」
 相手は一般人だというのに、敵を前にしている時よりも怖いとさえ思ってしまう。
「構いませんよ、私でお力になれるなら」
 勢いに押されるリィンハルトに愛葉・ナガレの助け船。北条・椿も堂々たる態度で隣に並ぶ。
 慣れからくる落ち着いた対応だが、リィンハルトは思わずそんなナガレを凝視してしまう。
 視線を感じたナガレはあとで抱きしめてあげようと思いつつ。
「今日は、白と、勿忘草の色で――夏の空を」
 白いミモレ丈のレーススカートを軽く摘み上げ、微笑む。元々はナガレのメイドの言葉だがこれは黙っておく。
「今日はスカートがアシンメトリーで裾の動きがとても美しい素敵な黒のワンピースですの」
 椿はにこやかに答えながらも、ちらとリィンハルトとナガレに視線を投げた。
「ファッションとか聞かれても僕よくわかんないよー!」
 と、あわあわしているリィンハルトはともすれば人の波にさらわれそうだ。
 すかさず引き寄せたナガレは、周囲の人に押しつぶされかけながらも視線で椿に救援要請。
 椿は黒い裾をさっと翻し、ナガレとリィンハルトの間に割って入ることで2人を繋ぎとめる。
「では私たちはこれにて。運動会、応援よろしく頼みますわね」
 そんな椿の言葉を残して、3人は逃げるように記者達から離れていった。
 素早く記録を残した記者達は次なる標的もといケルベロスを探す。するとケルベロスコートを着た女の姿が目に付いた。
 ケルベロスコートはケルベロスの証。すぐに突撃するが──。
「全然おしゃれとかしてなくて、ごめんなさーい」
 私服の上からケルベロスコートを羽織っただけの月宮・京華は、そう言って全力で走り去っていった。
 呆気にとられる記者達だが立ち直りも早い。
 背後を通りがかるケルベロスの気配を察して即座に取材を申し込んだ。
「アクセサリーや服装のこだわりを話せばいいのかな」
 レスター・ストレインは軽く首を傾げながらも応じる構えだ。
 旅団の刺青を隠す為に着けている左手の黒手袋は後ろめたさから。黄色い色眼鏡は、地獄化した涙が人を傷つけないように。両耳のピアスは弱い自分との決別を。
 ファッションの拘りというよりも理由を一つ一つ説明した後、レスターはふっと笑みを浮かべた。
「俺は臆病者だからせめてファッションくらい恰好つけたくてね」
 そうしたら新しい自分になれそうじゃないか、そう添えたレスターは記者達と別れ、ロビーを後にするのであった。
 コマキ・シュヴァルツデーンはケルベロスというだけで記者達に囲まれても、のほほんと受け答え。
「え? 服? 服について聞きたいんですか?」
 特に拘りは無いと前置いて。
 強いて言えば、魔力のブースター兼蓄電池にしているという、祖母の形見の翡翠のネックレスとピアス。
 それらに白い手が添えられれば緑の鮮やかさが際立つ。
 ひとしきり答えたコマキは『水着コンテストの応援お願いします』なんてちゃっかり言うと、トランクを下げてさっさと遁走するのであった。

●空港インタビューその2
 観光に向かおうとするアリス・ティアラハートとミルフィ・ホワイトラヴィットも記者達に呼び止められた。
「貴女様がたは……報道関係の方々ですわね?」
「はい、ケルベロスの最先端ファッションの取材をさせてもらいたいんです」
「え、えっと……取材……ですか……?」
 戸惑いを見せるアリスは普段着だというエプロンドレスの裾をつまむ。
「でも、この服は動きやすくて、デザインも可愛いですし、ピナフォアを交換して装いも変わったりする、お気に入りの服なんです……♪」
「このメイド服は、仕事着ではございますが、ファッションの様なものでもあり、戦闘服ともいえますかしら──」
 丈が短めのフレンチメイド服を、動きやすさもさることながら、可愛らしさ、高い露出等の大胆さも兼ね備えた愛用の逸品だとミルフィは説明した。
 それと、とアリス。胸元の宝石に触れながら、憧れの人と再会を願ってつけているのだという。
 取材を終えた2人は観光する為に空港ロビーを後にした。
「あ? なに? ケルベロスの取材? おいおいついに俺様もマスコミに大々的に取材されるほどの有名度になっちまったよぉー。どーよヴィクセン、今なら俺様のサインいくらになると思う?」
「はいはいはい、事前に連絡があっただろ? ケルベロスみんなだから。君が有名になったわけでも何でもないぜ。なんなら私が100円で買ってあげようか、君のサイン」
「安すぎじゃねぇか! オマケの食玩じゃねーんだぞ!」
 なんてやり取りで記者達を笑わせたチーディ・ロックビルとヴィクセン・ニコラウス。
 ヴィクセンは質問に対して、ご覧の通りとばかりに手中で銃を回しながら西部劇調のコートを翻す。
 2種類の耳のどちらが本物なのかと聞かれ、ヴィクセンが煙に巻こうとしたら軽い意趣返しとばかりにチーディが横から答えを漏らす。
 そのチーディはというと、自慢の肉体美を見せつけながら高かったというレザージャケットを自慢するのであった。
「おお、この感じは懐かしいのう。去年、インドで取り囲まれた時を思い出すのう」
 そう記者達に応じたのはウィゼ・ヘキシリエン。
 前回の取材で付け髭の素晴らしさが広まっていないことを知ったウィゼは嘆きの溜息を零す。
「きっと、インドでは大人気間違いなしなのじゃ」
 ウィゼは付け髭をしごくと、付け髭の素晴らしさを記者達に熱く語り出すのであった。
 次に記者達に捕まったのは猫夜敷・千舞輝と御神・白陽。
「えーと何、取材?」
「オシャレ関連? ほほう、ウチに聞くとはお目が高い」
 にんまりと笑う千舞輝。
 推しは『猫ファッション』だという。可愛らしい猫耳キャスケットやベルトの猫型バックルがお気に入りだ。
 あとは重ね着。布が多いほどアレンジの幅が増える。そういう意味では冬が一番で、今着ている服はこの時期わりと暑いそうだ。
 一方の白陽はというと。
「どうしよ。俺あまり服とか考えてないんだけど」
 そういえば代わり映えしないシャツとズボンくらいしか無いなと呟く。
 その呟きもご丁寧にメモする記者の目が、白陽が脱いだコートと共に小脇に抱えた袋へ向けられる。何かのオシャレアイテムだと思っているようだ。
「あ、これ? 不測の事態に備えるというか、持ってるのが日常だから? なにせ刀振って生きてきたし」
「……そういえば刀持ちっぱやけど、大丈夫なん? 職質されへん? それ」
 合言葉は『ケルベロスだから大丈夫』。
 記者達の言葉にひとしきり笑うと、2人も空港を後にする。
「ファッション取材だって!?」
「ファッションなら俺よりマサムネにインタビューした方が良い。何しろ俺はいつも適当な服装だからな」
 シャルフィン・レヴェルスは早々にマサムネ・ディケンズへパスしたが、マサムネ本人は自分も大したオシャレさんではないと前置いて。
 髪と目が鮮やかな色のマサムネは、グレーやブラック、ネイビーなどの色を使ってシンプルスタイルを心掛けているのだとか。差し色に目と同じ赤を加えれば華やかさが出る。
 が、それは普段の話。
 今日はというと、シャルフィンの影響でださださペアルックのイモTシャツを着ている。
 死んだ魚の目でTシャツに触れたマサムネにシャルフィンがしたり顔で言う。
「そうだな、ちょびヒゲでもつければかっこよさが上がるんじゃないか?」
「あー、あー、シャルフィンは相変わらずちょびヒゲ推しかぁ」
 つける度にちょびヒゲをひっぺがされるマサムネは『解せぬ』と頬を膨らませ拗ねるのであった。
 で。
 でー。
「初めての場所なのに、なぜか懐かしい……」
 空港に熟れ熟れバナナを手に深呼吸するゴリラが1頭。もとい空舟・法華。
 ただのゴリラかとスルーしていた記者達だが、そのゴリラがケルベロスコートを着ていることに気付いて取材を敢行。
 ファッションのことを尋ねたものの法華はそれをさくっと無視。
 代わりに日本でのゴリラ体験を無駄に熱く語り出した為、記者達は慌てて逃げ出すはめになったのであった。

●『ファッションオブケニア』より抜粋
 日本には『十人十色』ということわざがある。考えや性質は人によって異なるという意味だ。
 我々取材班が目にしたケルベロス達はまさに十人十色。実に多様で、それぞれが洗練されていた。
 突然の取材に驚きつつも快諾してくれたシルク・アディエストはハイウェストワンピースにボレロの落ち着いたスタイルだ。
 戦闘であればその場での対応のしやすさを優先するというシルクも、平時はゆったりした服を身に着けているという。
 ファッションとは生き物である。止まった姿は勿論、動くことも考慮されるものだ。
 その点、シルクは巧みであった。激しい動きこそ出来ないというが、その場でくるりと回って見せてくれた時のスカートの揺れは実に優雅。
 星詠・唯覇は肩に乗せたテレビウム『カラン』との色合いが絶妙であった。
 青のシンプルな半袖のアウターに、下部に青系のボーダーが入った白いVネックの半袖シャツ。膝下丈のハーフパンツはベージュのシンプルなデザインだ。
 ブレスレットやネックレスも身に着けているが、うるさくならない程度に抑えられているのが良い。
 カジュアルなコーディネートはその色調も相まって爽やかである。青系が元々好きなのだとか。
 普段は和装で、このような服装はあまりしないらしいが実によく纏まっている。
 ケニアを盛り上げるためにも全力で運動会に挑むという彼を、ぜひ応援してほしい。
 また、我々にとって馴染み深いものをコーディネートに取り入れているケルベロスもいた。
 シンプルな黒いワンピースの新条・あかりは腰回りに翡翠色に植物模様のカンガ布を幾重にも巻き付けてオーバースカート風に。
 ご存知のようにカンガ布は綿で作られている。
 その為、軽くて着心地が良いとあかりは話してくれた。巻き方を変えれば様々な着こなし方を楽しめるのも良いとも。
 玉榮・陣内はサファリシャツに白いパンツを合わせ、赤地にエメラルドグリーンの格子が入ったマサイシュカをストールのように巻き付けていた。
 着こなせるか少し自信が無かったという陣内だが、存在感を放つ鮮やかな色使いをうまく使っている。なんでも好きな人の髪と同じ色なのだという。
 インタビュー中、あかりのカンガ布のセイイングについて陣内が尋ねるシーンがあった。
 我々が見つけた『NAKUPENDA SANA』というメッセージを彼も見つけられたのかはまた別の話だ。
 彼らのプライベートにかかわることなのでここは伏せておく。
 逆に馴染みがない為、強く興味をひかれたファッションもあった。
 日本の民族衣装である着物である。
 気恥ずかしそうなリモーネ・アプリコットと戸惑いを見せる神野・雅。
 日本人ではないというリモーネが『小袖』というベースのワンピースに、パンツに該当する『袴』、『草履』と呼ばれる靴。
 手には鞄である『巾着袋』。さらに腰には刀と、我々とは全く違う文化の服装だ。
 日本の着物はとても素敵なので、是非ケニアの人間にも来てもらいたいと彼女は語った。
 動き易さを重視しているという神野・雅は丈の長い黒いアウターにパンツとブーツ。鮮やかな赤の外套と愛用の刀。
 英雄らしさをイメージして格好良さを意識しているのだと語ってくれた雅だが、写真からでは信じられないかもしれないが女性であることを付け加えておく。
 清楚な印象を与えるリモーネと、ヒロイックを全面に押し出した雅のファッションは対照的ではあるのだが、並んでも違和感はなく、それどころかしっくりと馴染むのが面白い。
 友人からのプレゼントである装飾品をたくさんつけてきたというセット・サンダークラップ。
 ミリタリージャケットとカーゴパンツにブーツ。
 それらをベースに風よけのゴーグル、ラピスラズリの指輪を通したネックレス。セットの肌とよく馴染む明るいターコイズブルーの腕時計。
 さらにベルト通しには尻尾型と、小さなルビーのストラップを並べて下げ、水色と赤の宝石のビーズを用いたアンクレットはパンツのポケットの留めボタンに噛ませていた。
 様々な色合いのアイテムを使ったスタイルは、テレビ映りのことを考えてのものだという。
 このように、ケルベロス達は我々の目をとても楽しませてくれた。
 その様子は写真からも見て取れるだろう。
 ケニアでケルベロスを間近に見ることが出来るというこの稀有な機会。読者諸君も是非有意義に活用してほしい。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:23人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。