波の去り置いてきぼりの水海月

作者:奏音秋里

「夏だ! 海だ!」
 前期を終え、帰省した1人の大学生。
 いろいろな海で泳いだけれども、やっぱり地元がイチバンいい。
 今日は平日ということもあり、広い砂浜は貸し切り状態だ。
「はぁ~気持ちよかった!」
 と、沖まで行って、戻ってきたのだが。
「ん?」
 素足の裏に、ぐにゅっとした感触。
 これは……若しや。
「海月っ!?」
「私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 青年は、海月を踏んで「気持ち悪い」と思ってしまったのである。
 そんな感情を魔女が見逃すはずもなく、ドリームイーターを生み出すのだった。

「海、行きたいっすね……」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、しみじみと呟く。
 水を張った盥に、足首から下をつけてぱしゃぱしゃ。
「けどそんな憩いの場所に、新たなドリームイーターが現れてしまったっすよ。皆さんに、退治をお願いしたいっす」
 山盛りの海月を抱いて、ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)も真剣な表情。
 可愛いのにねぇと、被害者に想いを馳せた。
「ドリームイーターの姿は、等身大の水海月っす。触手には毒があるっす」
 水海月とは、日本近海で最もフツウに遭遇できる海月である。
 ホンモノはたいした毒を持っていないのだが、ドリームイーターとなると威力も増大。
 傘の部分が乗っかってきても、バッドステータスを喰らう可能性があるようだ。
「皆さんが到着する頃は、引き潮っす。ドリームイーターは次の獲物を求めて浅瀬をぷかぷかしているっすから、攻撃して惹き付けてくださいっす。砂浜で問題なく戦えるっすよ」
 稀に小さな石や瓶の欠片などもあるため、素足での戦闘はオススメしないという。
 打ち上げられた海月を踏んで、滑って転んでもいけないし。
「青年は砂浜に倒れているっすから、戦闘前に保護しておいてほしいっす」
 終わったら海水浴してきてもいいっすねと、ダンテは笑う。
 ちょっと羨ましそうに、手を振るのだった。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
知識・狗雲(鈴霧・e02174)
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)
暮葉・守人(狼影・e12145)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)

■リプレイ

●壱
 浜辺へ到着したケルベロス達は、なにをおいてもまず被害者のもとへと急いだ。
「ここで少し待っていてくれ。お前さんの感情は、必ず取り返してくる……」
 抱き上げて、戦闘区域となるであろう砂浜を駆け抜ける。
 充分に離れた岩場の裏で、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)は青年を下ろした。
「見つけたっ! みんな、ドリームイーターはわたしの真下にいるよっ!」
 仲間達へ正確な位置を知らせるために羽搏かせる、白い翼。
 メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)が、粉砂糖を降らせた。
「海月にはちょっと早くない?」
 そんな疑問も口にしつつ、ミカ・ミソギ(未祓・e24420)は光の翼を発動する。
 シャツと水着にサンダルという海水浴仕様でバトルオーラを放ち、喰らいつかせた。
「最初からぶっ飛ばしていくぞ」
 知識・狗雲(鈴霧・e02174)が、満月の如きエネルギー光球を自分にぶつける。
 ボクスドラゴンもブレスを吐きながら、主とともに注意を惹くため動きまわっていた。
「ヒトの考えは不思議な生き物をつくるのですね。赤薔薇、あの円いモノを狙うのですよ」
 ローラーダッシュの摩擦で熾きた炎を、ドリームイーターへと蹴り込む。
 長靴で足許を固めて、沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)はテレビウムに攻撃を指示した。
「嫌悪は生きとし生けるものとして持つ当たり前の感情。まあ、確かに斯様な大きさとなればそのお気持ち、わからなくもありませんね……」
 アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)が、爆破スイッチを押す。
 カラフルな爆風を背に、ボクスドラゴンがブレスを命中させた。
「あの海月、あのまま浮いて流れてどこかに消えてくれればいいんだけど……ま、それはそれで問題があるか。やっぱり倒すよりほかにないね」
 くせっ毛の先を指で遊び、天喰・雨生(雨渡り・e36450)は溜息を吐く。
 一本足の高下駄で軽やかに、己の背丈ほどもある筆型の如意棒を真っ直ぐに伸ばした。
「日差し熱っぅう!! 駄目だ昇天しそう、あ~っ早く海に入りたい……アイツ浜に引きずり出したら勝手に干からびないかな?」
 『黒鉄の籠手』とか『黒鉄の具足』とか『犬耳パーカー(黒)』とか、真っ黒だから。
 暮葉・守人(狼影・e12145)は、灼熱へのイライラを籠めた礫で触手を撃ち抜いた。
 ひとまわり攻撃し終わったところで、やっとこさ海月が行動開始。
 海面から砂浜へ、ずりずりと上がってくる。
 ちなみに。
 雨生と守人は、早い段階で殺界を形成していた。
 広い砂浜をしっかりとカバーするために、互いに声をかけあい、無駄のないように。
 ミカの翼に反応する者もおらず、一般人の安全は確保されたようである。

●弐
 途端に伸びてくる触手が、ディフェンダーとして主を護るボクスドラゴンを締め付けた。
 痛みのあとに、毒をその身へと注ぎ込む。
「今年はまだ海水浴に行ってないんだ。個人的に困るのでがんばって退治するよ」
 電光石火に蹴り込めば、弾力のある身体に思わず足をとられそうになった。
 だがさして表情を変えず、青の瞳でドリームイーターの動きを捉え続けるミカ。
「俺もですよ、ミカさん。やはり海は最高ですね。ちょっと楽しみにしてたんです。楽しい海タイムのためにもさっさと終わらせましょう」
 ライトニングロッドを振るい、狗雲は強烈な雷をお見舞いした。
 ボクスドラゴンは、アリシアのボクスドラゴンへと属性をインストールしていく。
「人にいたずらさえしなければ、可愛いのですが……」
 最初こそ驚いたものの、あとは落ち着いて、瀬乃亜は独り言を零した。
 赤い薔薇の飴を具現化させて味方の回復に努める傍らで、テレビウムは閃光を発する。
「海月か、揺蕩う姿は優雅ではあるが。奪われた青年の感情は必ずとり戻さねばならんな……桜花遍く刃と成り、舞い散れ」
 右目に燃える地獄の炎が鞘のなかで圧縮され、ラジュラムの創造するのは鋭利な刃。
 常に岩場を背に立ちまわり、抜刀と同時に、爆発的な勢いに任せて一閃に斬り下ろした。
「水族館で見るのは綺麗だけど、海にいるとちょっと怖いかも。コル、視せてあげてよ」
 パラライズの効果で行動を制限している隙に、惨殺ナイフの名を呼ぶメリルディ。
 刀身に映し出したトラウマが、ドリームイーターへと襲いかかった。
「ヒトの心を弄ぶ魔女。いずれは、とは思いますが、いまは目の前の命を助けましょう」
 オーロラのような、柔らかい光が前衛陣の傷や状態異常を癒す。
 アリシアの想いを受け、ボクスドラゴンも体力を回復させて、耐性をつけさせた。
「お、こんなところにモザイク発見! こりゃまた……」
 空の霊力を帯びたチェーンソー剣で以て、触手につけた傷を斬り拡げていく守人。
 関心はモザイクの位置で、どうやら触手の根元が総てもやもやっとなっているようだ。
「これだけ近くに水があれば充分、威力は出るかな。血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
 ちらりと海へ視線を遣り、雨生は一族に伝わる呪を発動するための言葉を詠唱する。
 魔の波動を同調させて質量を増した水を指先から射出し、刃の如く標的を斬り裂いた。

●参
 順調にダメージを蓄積させて、ケルベロス達は優位な状況をつくりあげている。
 皆、決着はそろそろだと悟っていた。
「毒をもって毒を制すのよ、ケルス。安心して遊べるように、しっかり倒さないとね」
 攻性植物の鋭い牙がドリームイーターに噛み付き、毒を注入する。
 メリルディも、丈が短めのスカートに編み上げサンダルを履いて、海で遊ぶ気満々だ。
「A red rose is not a rose red flo.」
 変わらず瀬乃亜は、メディックとして仲間達へ薔薇の香りの飴玉を贈り続けている。
 テレビウムも、瀬乃亜への攻撃を肩代わりしつつ、前線で攻撃に専念していた。
「アスナロ、いまのうちにヒールをお願い」
 バトルオーラを集めた音速を超える拳で、ドリームイーターを吹き飛ばす狗雲。
 この隙に、相棒にはメディックの役割を果たさせる。
「っておいおい! 男に触手攻撃って誰トクだよ!! 我一陣の風となる!! 貫き穿ち切り払う暴風の斬撃!!」
 まさかの、ドリームイーターからして近接距離にいた男性は自分だけだった悲劇。
 迫る触手を駆け抜けるように振り払い、片脚に絡まれるくらいで済んだけれども。
 緑のオーラで身体を強化し、開いた距離を一気に詰めて音速の斬撃で反撃する。
「海水と雨で濡れた身体、凍らせてあげるよ」
 ドラゴニックハンマーを振るい、超重の一撃を放つ雨生。
 グラビティに呼応して、左半身に刻まれた梵字の魔術回路が赤黒く輝く。
「礎に慟獄、此に光。目せよ、俺の『銃弾』を」
 武器に至るまで翼から発せられる水色の光粒子を纏い、己の運動エネルギー量を調整。
 慣性と重量を自在にコントロールしながら、ミカはとっておきの武術を繰り出した。
「悪いが自由にはさせん! 彼のもとへ帰るんだ!」
 退がるミカと入れ替わり、ラジュラムが速攻で接敵する。
 最期は、桜色の地獄の炎にカタチどられた幾千もの繊細な刃で斬り棄てた。
 溶けるように、砂浜へと消えていくドリームイーター。
 気配すら、完全に消滅した。
「我が名のもとに、我が加護に命ず。我は征服者の打倒を望むもの。我は征服者をこそ征服するもの。故、いまこそ我が前に引かれし死の軛を絶たん!」
 魔力で編んだ宝剣をひと振りすれば、復活のルーンがテレビウムへ魔力を与える。
 アリシアもボクスドラゴンも、仲間達を癒し、労った。

●肆
 被害のほどは、砂が抉れていたり、防波堤が削れていたり、比較的軽微で済んでいた。
「紫の鎖よ、癒しを与えよ……ってね」
 狗雲とボクスドラゴンが中心となり、原状回復を図る。
 そののち全員で、ラジュラムの案内で岩場の向こう側へと青年の様子を確認しにいった。
「無事に眼を覚まされましたね。ご安心ください、脅威は排除いたしました」
 柔和な表情を浮かべて、アリシアは事情を説明する。
 倒れたときにできたのであろう擦り傷も、ヒールグラビティで治療した。
「ところで君、海月って食べたことある?」
 すっかり元気になった青年と、さらっとマイペースに海月トークを始めるミカ。
 『永久サンダル「履けルンです」』も脱いで、影へと座り込む。
「このときを待っていたっ! ダーイブっ!! みんな、お疲れさまっ!」
 これで周囲は安全そのもの。
 ぱぱっと脱ぎ捨てた装備の下に、守人はちゃっかり水着をはいてきていた。
「僕も、海を満喫しようかな。守人もお疲れさまだ」
 愛用のローブと高下駄を脱ぎ揃えて、雨生も水着に着替える。
 持参した浮き輪に乗って、流れのままに波に揺られていた。
「一度スイカ割りってやってみたかったんだよね。よければみんなでどうかな?」
 大きな西瓜を抱えたメリルディが、皆に大きな声で呼びかける。
 シートとか棒とか紐とか、必要と思われるモノは準備してきていた。
「いいかも。夏っぽくて楽しそうだね。手伝うよ」
 興味を示してミカも、青年と一緒にシートを拡げて場を整える。
 西瓜を置いて、棒を持たせて、目隠し用の紐を縛って、メリルディの身支度も完成。
「んじゃ、塩も準備してっと。よし、じゃあちょっと右寄りに真っ直ぐ歩いてくれ」
「右に行きすぎだ! 止まって、ちょっとずつ左を向いて……そこ。そのまま真っ直ぐ」
 クーラーボックスから塩もとりだして、守人は最初の指示を出す。
 雨生が補正したり、ほかの皆も方向を示して……あれ。
 メリルディ、西瓜の周りをまわっているよ。
 見かねた青年がメリルディの身体を90度回転させて、西瓜を叩かせた。
「えいっ……やったぁ! 割れたわ!」
 とんでもない甘党なメリルディだけは砂糖をつけて、皆で夏の味覚を味わった。
「美味しかった、ご馳走さま。ねぇ、アスナロ。足許だけでも海に浸かろうよ」
 狗雲は、ボクスドラゴンを誘って海へ。
 海水をかけたら、お返しにと両翼で大量の水をぶっかけられて……避けられなかった。
「びしょ濡れですね、狗雲さん。そういえば、あなたは海が好きなのですか?」
 問えば、テレビウムは返事の代わりに浅瀬でばしゃばしゃとはしゃいでみせる。
 楽しそうな相棒の姿に、瀬乃亜もにっこりを笑みを零した。
「シーくん、あまり遠くへ行ってはなりませんよ?」
 そんなサーヴァント達に、アリシアのボクスドラゴンも近付いていく。
 3体が水面に戯れるさまは、主人達の胸になにやら温かい気持ちを抱かせた。
「くぅ~っ! 暑い夏はビールに限る!」
 防波堤の先端では、何時の間にやら酒盛りが始まっているではないか。
 焼き鳥をつまみながら缶ビールを煽るラジュラムが、釣り糸を垂らしている。
「……っと、引いてるぞ!?」
 ビールを置いて立ち上がり、全力で竿を引けば、釣れたのは旬の魚・イサギだ。
 今日のラジュラムは素敵に大漁で、料理好きな守人と協力して捌き、皆に振る舞った。
「海も……いいものなのですね。いただきます」
 普段、森や廃墟にいることの多い瀬乃亜にとって、海は新鮮である。
 潮の音を聴き、香りを嗅ぎ、水平線を見遣るのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。