ケルベロス大運動会~湖癒やしてフィッシング!

作者:ハル


 幾度となく巻き起こるケルベロス・ウォーにおいて、現在の世界経済は著しい疲労を抱えている。
 ――だがしかし! こんな時だからこそ、面白イベントを開催し、国々の苦況を少しでも打破すべく、盛り上げなければならない!
 そういった主旨により、去年に続き今年もケルベロス大運動会が開催される運びとなった。
 通常ダメージの効かないケルベロス諸君らのために、プロモーターという名のドS達が生み出した「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」を披露するのだ!
 舞台は、すでに開催国ケニア各地に準備され、政府や国民達も心待ちにしているという。
 そう、開催地はケニアだ! お前達、ケニアに行きたいかー!? いや、行きたくなくとも行って貰う! それでは、ケニアで会おう!!


「……と、いう事らしいです」
 公式のプロモーション説明文を読み終えた山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)は、クスリと頬笑んだ。
「もう少し詳しく説明しますと、開催地を提供してくださったケニア政府から要望がありまして、ケニアの各地をヒールして回ることになったのです」
 桔梗は、頰に垂れた髪を耳に掛けながら、ケルベロス達にヒールが要請された現場の写真を見せる。
「もちろん、雄志による活動です。その点、集まってくださった皆さんには、まずわたくしから感謝を。そして、人々の生活を豊かにする行いですので、現地の方達にも、非常にいい印象を与えられると思います」
 今回、皆に委ねられたヒールポイントは、工業廃水によって鈍色となってしまった湖だ。とても生命が生きられる環境ではなく、すべての魚が死滅してしまっている。固有種がいたかもしれず、残念な限りだ。
「原因となった工場は現在稼働しておらず、閉鎖されています。また、ヒールした後は、魚を放流しなくてはならないのですが……」
 桔梗が、もったいぶったような笑みを浮かべ、
「その魚も、皆さんに集めてもらおうと思っています」
 その瞬間、ケルベロス達が「おお!」と盛り上がりを見せた。
「魚を集めてもらうのは、ケニア以外にもウガンダやタンザニアまで及ぶ巨広大な湖であるヴィクトリア湖。運が良ければ、美しいフラミンゴとも、間近で出会うこともできるかもしれません」
 素敵ですね、桔梗が、乙女の表情で言った。
「とにかく広大な湖ですので、自由に魚を集めてください。主に、スズキの仲間であるナイルパーチや、ティラピアがいると思います。また、ヴィクトリア湖には、アフリカのテレビ局主催の釣り番組も同行して皆さんを取材するようですので、プロの現地アングラーとの勝負も! どうやら、ヴィクトリア湖には巨大なヌシの姿が確認されているとか、いないとか……」
 とにかく、釣り対決する者を応援しながら、水遊びをしたり、潜って魚を追いかけてもよし、釣り初心者は経験者にレクチャーしてもらうもよし!
「そうして集めた魚を湖に放流すれば、皆さんのお仕事は終わりです。ケニアの湖を、美しい人を呼べる湖に生まれ変わらせてあげましょう!!」


■リプレイ


 覗き込もうとも、顔どころか一切の光を映さぬ鈍色の湖。
 先陣を切ったのは、いろこであった。続いて、悠が地面に描いた守護星座が煌めき、その周囲からハインツが生み出した黄金の蔓草が、徐々に緑をよみがえらせていく。
 できれば在来種を釣ってみたかったという寂しさを、晟はドローンで湖を再生する事により埋める。
 96名全員の奮闘により、湖は生命が再び住める環境に生まれ変わった。

「固有種はもういないんだね」
「根本的な原因が改善されない限り、な。だけど、この土地の暮らしに口を挟むのも……」
 失った命は蘇らず、だからこそ尊い。悲しげに瞳を細めるあかりに、陣内は環境に配慮しつつも煙草を吹かし言った。
「過去は無理でも、『これから』は作れるかもしれないんだよね。……ううん、そう願いたい」
 湖の前で二人が画用紙に描くのは、たくさんの命と笑顔。まずその一歩に、皆が多くの魚を連れてきてくれることを願って。


「そっち行ったのだー!」
「パティ様! そんなにばしゃばしゃやったら!」
 網を持って縦横無尽に駆け回るパティの背を追いかけるのは、言葉とは裏腹に、パティに負けず瞳を輝かせたシエル。
「皆さんが楽しそうで何よりです」
 優雅にパラソルの下、様子を千薙が眺める。ルアー釣りをする彼女の釣果は上々。
「簡単にはいきませんね」
「水面から浮かせて、抱きしめるように!」
 春撫とイズナは、素手で魚を捕まえようとするが、苦戦。だが!
「「やった!」」
 ついに二人が魚を捕らえた瞬間、
「!? なんか飛んできたべ!」
 ドーピーの困惑の声が響いた。
「……珍しい魚が釣れたのだ。うむ」
「え? それ、魚ですの……?」
 パティとシエルが顔を見合わせる。網に絡まり魚を逃したドーピーは「おらは魚っこでねぇべ!!」としょんぼり。だが、すぐに気を取り直し、釣りを再開。
「これで湖も、もっともっと賑やかになりますね」
 最後は皆で千薙に魚を見せ、褒めてもらう事ができた。

「うぅ……」
 悠は虫餌に伸ばしかけた手を、毛針に方向転換。その反応に、ハインツは胸中で頬笑んだ。悠はつかみ取りもアリなのでは……なんて言いながら誤魔化そうとするも、
「選んでおいてアレだが、使い方がよくわからない」
 最後には、素直にハインツに救いを求める。
「悠なら要領いいから、すぐ釣れるようになるぜ!」
 それを受け、ハインツは毛針を扱いやすいルアーに変更してやりながら、調整。日差しの下、二人は肩を寄せ合って、「ヌシってどんな魚なんだろうか?」会話をしながら、のんびり楽しんだ。

「ヌシを釣るぞ!」
「うむ、全力で行こう!」
 リーズレットがドヤ顔で披露する釣具や餌に、エフイーは彼女の頭を撫でたり、ファミリアの藍と何やら言い合う様子に苦笑。
「リッズレット、どうやらアタリが来たぞ!」
「おー、さすがゼノさんだ!」
 エフイーが釣り上げたのは、2メートル近いナイルパーチの大物! 私も釣るぞと意気込むリーズレットは、取材クルーに対し、「ヌシ釣れたら映してなー!」そう力瘤を誇示しながら、手を振った。

「オレに釣り勝負を挑むとはな」
「自分ですか? ミュージシャンにならなければ、漁師になってましたね」
 そんな互いの発言から始まった釣り勝負。だが、二人の竿はピクリとも動かない。
「釣りの極意は焦らないこと。戦闘と同じですよ」
(こいつ、できる!?)
 余裕綽々のウルトレスに、サイファは底知れない実力差を感じ始め……てはいなかった。サイファは釣り初心者であったから!
 サイファは無駄な見栄を張りながら、先の戦争での負傷について問う。そして!
「二人とも釣り針付けるの忘れてますよね」
「……」
 ウルトレスも釣り初心者であったことが判明した。

「追い詰めるぞ!」
 地を這う魚も見逃さず、泳ぐティアンはまるで人魚。
「俺はカラフルな魚を。夜は――」
「俺はシンプル目な魚……メス狙いだな」
 そんなティアンに、目を奪われてばかりもいられない。追い込まれる魚を、見事な連係でサイガと夜が網で掬う。
「こっちにも来た!」
 飛沫を上げ、ダイナは爛々と輝かせた瞳で、掴み上げた魚を涎を垂らしながら眺めている。そんなダイナに、「喰うなよ?」と夜が指摘したのも束の間。バシャリ! と、一際大きい波が!
「男前度が増したな」
「捕まえるオス、間違えてない?」
 サイガの網に捕らえられた、今日一番の大物は、夜。
 ティアンはその日、魚に話しかけるサイガや、猫耳尻尾丸出しのダイナなど、普段は見られないメンバーの一面に触れ、クスリと笑った。

 湖に浮かぶ、ウキ。
「あれがスッと水面に入ったら、竿を立てるんだ」
「はーい、先生」
 餌や針に右往左往していたのも、今は昔。鬼人のリードによって、ヴィヴィアンの釣りは上達を。
 風景を感じ、フラミンゴに目を奪われ、傍らには温もり――と!
「わっわっ、鬼人、すごい力だよ!」
「良い引きだ!」
 ヴィヴィアンの竿がしなる。釣れたのはティラピア。優しく針を外すヴィヴィアンに、鬼人は「今度は二人で釣りに行こう」そう約束した。

「へぇ、魚って嗅覚あるんだ」
「わたくしの用意した餌の臭いに、ヌシは抗えないはずですわ!」
 虫餌つけてー! と無邪気に言ってくる一華に苦笑しながら、万里はホテイアオイ周辺へ。
 集中する一華と違い、じっとする事が苦手な万里は、ティラピアを数匹釣った所で、ついキョロキョロと。一華のため、万里が気合いを入れ直そうとした所で、
「……あれって、フラミンゴだ!」
 万里は、艶やかなピンクの翼をそこに見た。
「すごいピンク!」
 二人が顔を見合わせ、感動を共有していると。
「わ、わ!」
「竿引いてない?」
 ヌシには及ばぬものの、今日一番の引きが一華を襲った。

「のんびりできていいな」
 巌は自然の雄大さを肌で感じ取っていた。釣り竿から生き餌を垂らすも、メインは双眼鏡で眺めるバードウォッチング。ハシビロコウを見られて、彼は大分満足していた。
「……あん?」
 そこで彼は、湖を所在なさげに浮かぶいろこの姿を目撃する。どうやら、魚に逃げられてしまっているようだ。
「調子はどうだ?」
 巌の問いかけにも、「全然」と、いろこは肩を竦めた。「お腹空いた」と腹を擦るいろこに、巌は「昼食まで我慢しろ」と苦笑した。

「釣りか、やった事ないな」
「オレもさっぱり」
 マサムネとシャルフィンは、釣り初心者。だが、ケニアのためにも! と、マサムネが意気込み、数釣りを楽しむ。
「また釣れた! シャルフィンの釣果は……まぁ、そうだよな」
 数を重ねるマサムネとは対照的に、惰眠を貪るシャルフィン。
「……マサムネは釣れたのか、凄いな」
 マサムネに起こされたシャルフィンは、大欠伸して。
「釣りなんて、寝ていてもできるだろう。それに、俺は堂々とサボっていたわけじゃない。こそっとサボッていただけだ」
 悪びれもせず胸を張るシャルフィンに、マサムネは大笑い。そうやって笑っていられる事こそが、幸せの秘訣。

「ふぃ~っしゅ!! カームが教えてくれた通りだ!」
「頑張って情報収集した甲斐が有るわ」
 満面の笑みで魚を掲げる蓮の頭をカームが撫でる。
「あそこに大物の魚影が!」
「本当!? わっ、私の竿に!」
「教本によれば、魚が逃げるのと反対方向に竿を引くそうです」
 紺の合図に従った菜々乃の竿にも魚が! エルディスは、菜々乃の身体を支えながら、本の内容をアドバイス。
(さぁ、落ちてきなさい!)
 紺は、釣り慣れない菜々乃が落ちてくるのを心待ちにするが、なかなか……。業を煮やし、水辺から顔を出した紺は、皆に思いっきり水をかけた!
「……ふっ。羽鳥さん良い度胸ですねぇ」
 エルディスが水鉄砲で応戦、菜々乃が湖に飛び込み、蓮が水を撒き散らす。
「紺さん、私もやられてばかりはいられませんよ?」
 カームも水鉄砲を構え、笑いはいつまでも。

「絶景絶景っと」
 湖の果ては見えない。ヒスイは景色を見下ろしつつ、大物の魚影を探索。
「みんな、網はちゃんと持ったか?」
「う、うむ! しっかり持ったのじゃ!」
 地上では雅也と、丸太を持ったマリーが、そんなコントじみたやり取りを。丸太は万能じゃのに……と、納得のいかない表情で、網に持ち替えるマリー。
「転んで怪我をしないようにね!」
 ハイビスカス柄のビキニを着た奈津美が注意を促して、準備が完了。ヒスイが、天音のアイズフォンに、「回り込め!」と指示を送ると、仲間達が連動して動く。
「アソコに一番大きい奴がおるのじゃ!」
「追い込んでいくぞー!」
 マリーも、その魚影に気付いたらしい。雅也のテンションも最高潮。
「この汚れた環境も……いずれ綺麗にしていかないと……」
 天音は、ヒスイからの情報を逐次フィードバックし、仲間を誘導。
「沢山捕まえられたわね」
「……ヌシがいないか確認してみる」
 奈津美と天音が、引き上げた網の中を確認。偶然見かけたマティアスに二人は、捕まえた一番の大物を掲げて見せた。

「そっちは?」
「奥に大きめの魚影。今はどう?」
 クロエと情報交換していたジドが、今日一番の魚影を発見。生き餌に針をつけて湖に投げ入れると、標的が興味を持った。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って――」
 だが、景継の口上と共に、刀を振るが如く投擲されたウキにより、魚影の動きが鈍る。苦い顔をするシドに、景継は「俺の獲物だ」とニヤリ笑った。

「滋養強壮と栄養補給にレプリカンF!」
 ジョルディは焦っていた。大金はたいて買った釣り具も虚しく、木や自分に針を引っかけ右往左往。そういった初心者の第一関門を乗り越えたと思えば、初インタビューが襲来。
「ゴミは捨てちゃダメだよ! 皆で守ろうヴィクトリア湖の自然!」
「ポイ捨ては絶対ダメ! 湖は綺麗にね!」
 そんな彼をフォローするように、機竜とシララがカメラに映り、インタビューを。
「どうも。私達はレプリカント・ケルベロスの特務旅団『レプリフォース』よ――」
 そして、クロエが取材クルー達を団長のマティアスの元へ。

「皆が楽しんでいるようで嬉しい。俺も魚捕りを楽しんでいる。最も、今もすり抜けられた所だがな」
 マティアスは、取材クルーの存在に気付くと、通りがかった楽しげな友人に手を振り返しつつ対応。
 その時、ジドが大物をかけたという情報が! 同時にジョルディが湖に飛び込む水音。
「ジョルディすごーい!」
 えーいっ! とルアーを投げ入れたシララは、飛び込んだジョルディに目を丸くし、
「え、えっと、網はどこにあるのでございましょうか?!」
 機竜と一緒にとってきたミミズで釣りをしていたテレサは、ようやく見つけた網を手にするも、使い方がよく分からずジャイロフラフープを出す始末。
「てきとーでいいのじゃ、テレサよ。のぅ、ちびルル達よ?」
 魚を三枚卸しにしかねないテレサをルが諫めるが、ルの竿から伸びる釣り糸に括り付けられたアンドロイド達が、この場の誰よりも必至だ。
 最終的に、見事釣り上げたシド。そして討ち取られたかのように膝を突く景継。
「魚は消毒だー!」
 仕上げに、機竜が火炎放射器……ではなくドローンで、魚を癒やした。

「水着可愛いね、ララ」
「ありがとう。次のアルバムをイメージして作ってもらったの」
 ルテリスの率直な褒め言葉に、ララの表情が綻ぶ。
 その可憐な表情に、ルテリスは、
(まるで、妖精のようだ)
 そんな感情を抱いた自分が恥ずかしくなる。
「あまり釣れないけれど、フラミンゴが見られてよかったわ」
「大きいのは、なかなか難しいものだね」
 釣果を覗き込むララに、ルテリスは苦笑。
 その後の取材で、ララがこれまで釣った一番の大物である『王子様』と、意味ありげな視線を向けられた彼は、自分が釣り上げられた幸運を噛みしめた。

「ヌシ釣りに挑んでみては如何ざんし?」
 笙月は、被った麦わら帽子を押さえながら言う。
「そりゃ釣ってみたいと思ってるよ」
 笙月のどこぞのご令嬢風の格好に、ゼグブレイドは苦笑を浮かべながら竿先に集中。笙月に、「もしもの時は協力しろよ?」予防線を張りながら。
 初ヒットは間を置かず。だが、簡単にヌシが釣れる程甘くもなく。
「初体験おめでとう」
「おわっ!?」
 意味深な笑みを浮かべ抱きついてくる笙月の勢いに押され、二人は湖の中へ。
「やれやれ……いけない弟だ」
「お、降ろすざんし!」
 それは、ご褒美か、お仕置きか。ゼグブレイドにお姫様だっこで救出される笙月の顔は、羞恥で真っ赤になっていたという。

「ちゃんと水分取っとけよ」
「ひゃ!」
 頰に当てられたペットボトルに、ティルエラは小さく悲鳴。彼女は、餌を替えてくれるトーマにお礼を言いつつ、ペットボトルに軽く口を。
 そんなに心配してくとも……なんてティルエラが言っても、トーマは肩を竦めるばかり。
「あれってテレビか?」
 傍を取材クルーが通り、トーマが手を振った。
 同時に、通り過ぎる風が気持ちが良くて……。
「おい!」
 焦るトーマも気にせず、ティルエラは彼の膝に頭を乗せた。取材クルーが盛り上がっている気配。恥ずかしさからか、文句が口をついて出ようとしたトーマを制するように。
 ――トーマ。ティルエラは、名を呼んだ。
 トーマは溜息一つ。二人分の竿を手に、穏やかな時を。

「餌は先端の針に刺せばいいのか?」
 ロベリアの用意したミミズを手に、釣りなど! と豪語していたシヴィルにかかる期待は脆くも崩れ去った。
「るーさん! 大物ゲットしてみせますよ!」
 期待薄感から寝そべるるーさんに、気合い十分の還。
「他の皆さんもどうぞー!」
 ロベリアは他の団員にもミミズを差し出すが、三段重箱で蠢くミミズの軍勢は、かくも異様。
 そんなこんなを経て開始した釣りは。
「17匹目フィィィイッシュ!」
「ふむ、こんなところかねぇ」
 黒のキャップを被り直す真也にしろ、クーゼにしろ、釣果は上々。
「良い感じの陽気で、眠くなっちゃうっすねぇ」
「……あいつ、アーチャーからアングラーにクラスチェンジしたのか」
 船をこぐ大亮の隣では、最新式リールの真也と比べ、竿のみのランサーがポツリとそんな一言を。
「うおっ!?」
 だが、より大物をかけたのはランサー。しかし、釣るどころか逆に湖に引き摺りこまれ!
「ランサーが死んだ!?」
 真也が湖に飛び込めば。
「「この人でなし!」」
 お約束に還と大亮が応じる。
「ハメをあまり外しすぎないようにな」
 大騒ぎの団員に、シヴィルは他人の振り。その騒ぎは、クーゼの腹が鳴り、皆にサーモン料理を振る舞うと宣言するまで続いた。
 ちなみに、不幸属性のランサーにヌシなど釣れるはずもなかった。

「どう郁くん!? すごくない!?」
 郁は、水中からひなみくの魚を捕る手法に感心ていた。ミミックであるタカラバコの口を開け、そこに魚を追い込んでいる。開いた口には複数のティラピア。
「え!? タカラバコ、意識失ってないか!?」
「あっ、お水が苦手なんだった!」
 だが、動かないタカラバコを二度見して、ようやく二人は失神している事に気付く。
「どう、郁くん? フラミンゴのマネー! ふわっ!」
「おお、上手い上手い、って、おっと!」
 反省した二人は、休憩がてらフラミンゴ鑑賞へ。フラミンゴのマネをするひなみくを郁が抱き留めたりして、嬉し恥ずかしな時間を過ごした。

「すっげーー!」
 今日のための水着に着替えた麻実子は、どこまでも続く湖に目を丸くしていた。早速水に足を付け、その冷たさにはしゃいでいた所、
「双牙、潜って魚集めてんだ」
 魚を抱えて浮上しようとしている双牙を見つける。双牙に近づく麻実子。そんな彼女の耳元で、双牙は「一緒に、潜ってみるか」なんて呟くと、手を引いて湖に引き込んだ。
「も、もー、何するのさー!」
 頬を膨らます麻実子だが、すぐその表情は笑顔で覆われる。
(湖底の景色とはいかんが)
 小魚とじゃれ合う麻実子や、手の温もりがあればそれだけで。

「小紅殿はキュートで瑞々しい魅力に溢れておるのう」
「先生、もっと褒めてー?」
 小紅は、レオンハルトの口説き文句にくるくる回って水着を披露。
 続け、瞳李とルビーに、セクハラ……もとい称賛とおっぱいを送るレオンハルト。
 ルビーはいつもの風物詩として流すも、瞳李はパーカーのファスナーを上げてしまう。
「陰影釣り大会inケニア!」
「いえーい!」
 そんな中、リェトの発案で釣り大会が開催! 伶が歓声を上げる。ルールは、ヌシ又はリェトより大物を釣る、もしくは、女性陣はフラミンゴを見つける事。
「勝者には、俺が飯を奢ろう。男には容赦せんからな。伶とレオンハルトは負けたら割り勘だし、アッシュはヌシを釣らん限り支払いだ!」
「おいレト、なんで俺だけ条件厳しいんだよ」
 奢り発言に、より盛り上がるメンバー。道連れ濃厚のアッシュは苦笑しつつ、早速ボトムを狙って竿を振る。
「伶、アッシュ、こっちに大物が! って、もしやあれがフラミンゴか? ルビー、小紅見えるか?」
「本当だ!」
「ごめんね、レト!」
 早々にフラミンゴを見つけた女性陣。ルビーがスマホで何度も撮影を。小紅も竿を放り出す。
「瞳李の情報を信じるか」
 伶は偽情報の可能性に疑心暗鬼になりつつ、ルアー釣りに挑戦。
 気になる勝負の行方は、リェトがボウズ。優勝は、ボトム狙いのアッシュ。そして2位にゴロ太が食い込む波乱となった。

「アイドルとしての活動ですか?」
 湖の周りに、結衣菜が飾り付けた舞台。そこに腰掛けたイピナは、結衣菜にマイクを向けられ、リールを巻くスピードを緩めた。
「イピナさんはアイドルを始めたんだっけ」
 柚月が今思い出したように手を打つと、イピナは少し恥ずかしそうに言う。
「副業みたいなものですが、楽しくお仕事させてもらっていますよ」
 戦い以外の光こそ、イピナの選んだ道。
「ケニアでアイドルツアーする予定とかはあるのかしら?」
 次いで結衣菜の口から飛び出した内容に、イピナは「そんなまだまだ!」と謙遜する。
「でも、その日も近いかもね。世界で活躍できるよう、応援してる。その時は、是非サインを頂きたいね」
 柚月が冗談めかして言うと、結衣菜が「高いわよ-?」と、マネージャー気取りで笑った。
 その後は、水着コンテストの話題になり、優勝宣言する結衣菜に「おおー!」とイピナと柚月が歓声を上げた。

「これ、俺が作ったんだ」
「この中にお魚入れておけば、大丈夫だね!」
 浅瀬にやってきたアドナと介。自作した柵を見せると、アドナは手を叩いて喜んだ。
「あっ、介くん、そっちそっち!」
「了解! なかなか素早いな!」
 そして、楽しみにしていた魚の掴み取り。アドナの指さす方向に、介は飛沫を上げながら飛び込んで魚を狙う。すでに柵には、数匹の魚。
「介くん、介くん! フラミンゴだよ、綺麗!」
 その頑張りが報われたのか、フラミンゴが姿を見せてくれた。
(アドナちゃんの水着姿の方が……)
 介の脳裏にそんな一言が浮かぶが、無防備なアドナの姿にニヘラと相好を崩す介は、鼻血を堪えるので精一杯だった。


「ヌシはナイルパーチだろうな」
 ティラピアをある程度釣って生け簀に放り込んでおいた晟は、泳がせ釣りを開始する。
「この辺りか」
 晟は、水生植物の繁茂としているポイントに狙いを定めキャスト。泳がせていると、食い付かないまでも、遊んでいる反応。晟はじっと待ち、タイミングを見計らってフッキング! 同時に、カメラを回されているのに気付く。
「釣り歴か? ……25年ぐらいか?」
 ファイトしながら、晟はインタビューに応える。すると、かかったナイルパーチは水面を跳ね、最高の絵面をプレゼントしてくれた。

「ボロくないか、この船?」
「信さん、これはね……味があるって言うんスよ」
 信吾の体感では、浸水五秒前。まして、一騎にフラミンゴのシミがついててお得! なんて説明されても……。
「ヌシ狙いたいけど、仮に釣れたら沈むだろ」
「あー、確かに」
 確かにじゃねぇ! 信吾は一騎を軽く小突くが、ともかく大物を! 途中取材がやってきて、犬だから、人見知りだからという一騎に変わって、信吾は笑顔で環境を守るべき、ケルベロスが戦う理由なんて案外単純という話しをして、取材クルーのみならず一騎にも感心されたりした。
「新天地でも上手くやれそうだな、こいつなら」
「長生きしそうっス」
 そして、サイズはともかく、活きのいい魚を二人は釣り上げた。

「ヴィクトリアッシーにも逢えるでしょうか?」
 シィラが、ルアーを投げる。眸の発案で、釣り対決が開催された事で盛り上がりは最高潮。
「釣りはー、現地で食料調達しないといけない時に必須なので♪」
「適当に木材を魚型に彫って、軽く色づけしただけですよ」
 メリーナは慣れた手つき、夜江は、自作のルアーを使い、竿を刀と見立て器用に扱っている。
「簾森のルアーも味があるが、君乃のはまた見事だなぁ」
「それ、眸さんが作ったんですか!?」
 千梨とエミリの声にシィラが振り返れば、
「ナイルパーチは小魚を好むみたいだからな」
 眸も夜江も称賛通りのな手製ルアーを釣り糸に垂らしていた。
「ルアーの方が良いんですね」
 その様子を眺め、ジェミはアイズフォンと平行して情報収集。
「狙撃手としては狙った獲物を逃がす訳にはいかないんでね」
「レスター頑張って」
 一番最初に魚をかけたのはレスター。力一杯リールを巻き上げる姿に、アウレリアが拍手。
「葉っさんも釣りするんですね?」
「……ん、みたい……」
 見よう見まねで釣りを始めたエミリの隣では、フローライトと葉っさんも釣りを。
「タコ糸にスルメってのつけて水に入れりゃいいんだよな」
「それはザリガ――ま、いいや。小エビ餌にしてのんびり釣ろう」
 どう見てもザリガニ釣りの手法を行っている広喜へのツッコミを放棄して、千梨も大あくびと共に糸を垂らす。
(引っ越し、しない?)
「いい表情ね、まるで人魚みたいよ」
 魚と一緒に遊泳していたエヴァンジェリンは、無防備な表情をトリニティに撮影され赤面。次いで、サムズアップするエルガーにカメラが向く。
 その後、エヴァンジェリンが一休みしようとボートに近づくと、
「ジェミ!?」
 大きな水音。眸が叫び、湖に飛び込んだ。
「うお!」
 運の悪さは連鎖し、ボトムを大型のルアーで狙っていたエルガーも、強烈な引きに転覆。
「……フローラ、泳げないん……ぶくぶく……」
 フローライトも無表情のまま沈んでいく。
「エヴァっ!?」
「アリア、大丈夫?」
 揺れに足を震わせるアウレリアの手をエヴァンジェリンが掴む。
「素潜り漁:目標はEDBですっ!」
 湖に飛び込むメリーナを筆頭に、全員の協力により、水没者は救助。事なきを得て、ジェミは手づかみで、エルガーが釣り大会の優勝を決定づける大物を釣り上げることもできた。
 最後は笑顔を特等席で観覧する千梨とトリニティに見守られ、フラミンゴをバックに記念撮影を。

「なんだ、酒も飲まずに酔ったのか?」
「レッドがスピード上げろなんて言うから……」
 ジョージのからかうような視線に、ガルフは肩を竦めてレッドレークを見た。その件のレッドルークは、小さいエビを餌に釣りをするのに夢中で、こちらの話しなんて聞こえていないようだ。
「しっかし、思うように釣れねぇなあ、マスタージョージ?」
「俺のせいじゃない。トラネコ様はがっつきすぎてお嬢さん方に引かれているだけさ。その証拠に、俺は馬鹿には見えないお嬢さんにモテモテさ」
 ポイントを選んだジョージに、虎次郎がジト目を向ける。だが、ジョージはそれを飄々と受け流しながら、「見えていないのは俺だけか……?」と生け簀を覗き込むガルフに苦笑した。
「え、何? かかってる!? くっ!」
 レッドルークの竿が大きく曲がる。苦戦しながらも、大物を釣り上げ、「グラマーちゃんは赤のにーちゃんがお好みか」と虎次郎に両手を挙げさせた。
 だが、調子に乗ったレッドレークは、その後ガルフと共に湖に落とされ、こき使われたのだった。


 様々なポイントを練り歩き、その都度ルアーチェンジで幾度も反応を確かめた宗嗣は、すでに多数のナイルパーチを釣り上げ、そしてヌシのいるポイントを見極めていた。狙いは、ボトム。宗嗣は、比較的水深の深い岩礁帯にピンポイントでルアーを投げ入れ、ロッドを煽ってヌシを誘う。
 ――来た! 宗嗣がフッキングを入れると、ジジジッジジジジジッ! と、ドラグが一気に放出されていく。釣りで、最も興奮する瞬間! 敵は、総額で十万を優に超える宗嗣の準備してきた釣り具に、不足なし!
 数十分という死闘を得て、宗嗣は大型のサメ程もあるヌシを釣り上げたのだった。

 放流した湖では、ヌシ改めヴィクトリアッシーも気持ちよさそうに泳いでいる。この美しさが永遠に続くのを願って、ケルベロス達は大運動会へと望むのだ。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:96人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 25
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