ふわふわわたあめのユメ

作者:天木一

 太鼓の音が鳴り響き、人々の騒がしい喧騒がBGMのように聴こえる。
「わーー! お祭りだー!」
 浴衣姿の小さな少女が夜の暗闇を追い払うように賑やかに並ぶ屋台の前に駆け寄る。
「りんごアメにーたこやきにー、水あめもー」
 少女は持ち切れない程食べ物を買い込み、パクパクと食べながら歩く。
「やきそばもいーなーかき氷も美味しそー」
 果てぬ食欲から少女は次々と目移りして食べ歩いていく。
「あーもーお腹ふくれたかも。でも最後に買うものがあるんだよねー!」
 最後に足を向けたのは甘い香りがする屋台。機械の中で割り箸を回すと白い糸が絡まり大きなふわりとした綿菓子となっていく。
「わー! わたあめくださーい!」
 少女が目をキラキラさせて綿菓子が出来上がるのを待つ。すると綿菓子はどんどんと大きくなり、やがて機械を膨張させて吹き飛ばし、それよりも大きくなって周囲を埋め尽くして少女の上に覆い被さってきた。
「わぁ! 大きすぎ……ふにゃっ」
 驚いて身動きできない少女がもがいて柔らかな綿菓子を押し退けようとするが、少女は甘い香りに包まれて力尽きた。
「わたあめが!」
 飛び起きたのは暗い見慣れた部屋。そこは自分の寝室だった。
「わたあめ……夢?」
 夢だったのかと少女は大きく息を吐いた。
「おっきなわたあめだったね。ゆうべお祭りで食べたから見たのかな?」
 楽しかったお祭りの事を思い出して少女の顔に笑みが浮かぶ。その時、胸に鍵が突き立てられた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 突如として部屋に現れた魔女が少女に突き刺した鍵を引き抜く。すると魔女は消え去り、少女はベッドに倒れ眠りに就く。
 静かになった部屋にふわふわと白い綿菓子が現れる。それは大きく部屋を満たすほどの大きさになると、窓から体を変形させながら押し出し、外へとふわりと飛び出した。

「新たにドリームイーターが現れるわ。前はプリンを相手にしたけど、今度の相手はわたあめよ」
 無表情に古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)が淡々と事件の発生を告げる。
「第三の魔女・ケリュネイアが少女から『驚き』を奪い、ドリームイーターを生み出してしまうようです」
 資料を配ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始める。
「ドリームイーターは人々を襲い、グラビティ・チェインを奪います。それを皆さんに阻止して、眠った少女を目覚めさせてほしいのです」
 敵が暴れる前に現場に到着でき、撃破すれば少女は目覚める。
「敵は5mくらいのわたあめです。大きさを変えたり、その体で相手を圧迫したり、甘い香りで惑わせるといった攻撃をしてくるようです」
 綿菓子はふわふわで甘く美味しい。だがその見た目と味に油断すれば痛い目を見るだろう。
「現れるのは神奈川県の住宅地です。少女の住む家の近くで人が通るのを待ち構えているようです」
 夜遅くの時間帯で、人は殆ど通らない。戦いが始まる前に被害者が出る事はないだろう。
「敵はまず遭遇した相手を驚かせようとするようです。そして驚かない人を優先して狙ってきます」
 その習性を利用すれば敵の攻撃をコントロールする事も可能だ。
「お祭りの屋台といえばわたあめは何処にでもある定番ですね。大きなわたあめなんて見てみたい気もしますが、人を襲うとなれば放っては置けません。皆さんの力でわたあめを撃破してください」
 セリカは一礼してよろしくお願いしますと言うと、すぐにヘリオンの出発準備へと取り掛かる。
「わたあめね、食べきれない量があっても困るだけね。それに深夜の甘いものは女性の敵よ、色んな意味で被害が出る前に退治してしまうわよ」
 るりの言葉に頷き、ケルベロス達は各々足早に出発準備に向かった。


参加者
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095)
メティス・メドゥサ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16443)
モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)
藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)

■リプレイ

●それは甘い香りと共に
 住宅地の静かな夜道を警戒しながらケルベロス達が進む。
「わたあめのドリームイーターね……」
 子供の夢らしいものが現れたものだと、無表情な古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は口元を微かに緩めた。
「わたあめのドリームイーターですか。姿かたちはあれですが止めないといけませんね」
 その可愛らしい姿をイメージしても敵意が浮かばないと、モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)は少し困ったように眉を寄せる。
「甘い香りのするでっかい綿飴……食べ応えありそうだねェ」
 綿飴が食べたいと思わず本音が出そうになった藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)は、慌てて気持ちを切り替え少女の為に敵を倒すのだと握り拳を作った。
「わたあめ……ふわふわ……おいしそうだけど、がまん」
 表情を変えないまま内心綿飴の魅力に惹かれるエドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)は、我慢我慢とふわふわの綿飴を意識から追い出す。
「美味しいお菓子が敵なんて、お腹が空いちゃいそう。甘いものに埋もれたい願望はリアにもあるけど……被害が出ちゃうのは見逃せないもんね」
 戦いを前に緊張するアザリア・スノゥホワイト(凍雪・e29759)は、Menrvaから響く鈴の音に心を落ち着かせる。
「おっきなわたあめか……夢はあるけどこれは流石に食べきれないし、大きすぎるかな……」
 エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)は巨大な綿飴を思い描く。
「子供の夢は可愛らしいものだね」
 立入禁止テープを張りながら、エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095)はどれくらいのサイズだろうと想像する。
「なんて美味しい依頼なの! わたあめ型ドリームイーター………じゅるり」
 食べきれないほど巨大な綿飴を想像してメティス・メドゥサ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16443)の口に涎が溢れる。
「早く食べたいの!」
 待ちきれないと歩く速度を上げると、甘い香りが漂い始め角を曲がった道の上、空からふわふわと小さな雲が落ちてくる。それは近づくほどサイズを大きくして5mにまで達した。

●巨大ふわふわわたあめ
「雲……?」
 るりは頭上に迫る雲を見上げ違うと首を振る。その巨大な雲のようなものは甘いお菓子の綿飴だった。
「なんと、わたあめ……!」
 巨大な綿飴に出来る限り目を見開いて驚いたフリをしてみせる。
『素敵な甘いわたあめの夢をプレゼントするわ!』
 綿飴はケルベロス達に向けて驚かせようと女の子の声を発する。
「おっきいっ! なんて食べ応えがありそうな敵なの!」
 目を輝かせてメティスは大きく驚きの声を響かせる。その口元からは涎が垂れていた。
「えっなにこのでっかいの!?」
 わざとらしくシェーラも驚いてみせる。
「……ヨダレなんて出てないよ? ウン」
 驚きよりも食欲が明らかに勝っているのを誤魔化す為に視線を逸らした。
「これは……確かに大きいなっ!」
 一歩引いて見上げたエルムが驚くと、ウイングキャットのロウジーもビクッと毛を逆立て若干後ずさりした。
「っ……!」
 綿飴を見たエドワウは驚きの声を押し殺す。
「ぜったいおどろかない、だいじょうぶ、おれならできる……!」
 自分に言い聞かせたエドワウは無表情のまま動揺を抑えきった。その頭上でボクスドラゴンのメルは嬉しそうに飛び回っていた。
『アナタたち、どうして驚かないのよ! 驚かない悪い子にはお仕置きしちゃうわよ!』
 綿飴が落下してくると、メルがブレスを吐いて押し返す。
「おいしそうだけど、食べちゃダメだよ」
 エーゼットが隣に浮かぶボクスドラゴンのシンシアに呼びかけ、植物を足元から生やし黄金の実の光で仲間を包み込む。
『驚かない子たちはダメダメよっお仕置きしなくっちゃね!』
 綿飴が纏めて踏み潰そうと広がりながらふわふわと落下してくると、シンシアは自らの属性を高めながら身を盾にして受け止める。
「おおきなわたあめ……ちょっと勿体無いけど、消えて貰うのよ」
 アザリアは白雪姫に触れて勇気を胸に宿すと、剣を掲げ放たれる光で星座を描いて仲間を守護する。
「見た目はただの大きなわたあめですが、油断せずにいきましょう」
 モニカは御業を鎧へと変形させ、エーゼットに纏わせる。
「貴女の御前に傅く私が、偉大なる御身を讃えることをお許しください。貴女は例えば氷、茨、棺。極寒の冬に一輪咲く、気高く麗しい白の花」
 シェーラは夜叉の女王を称えて召喚しその視線が綿飴を射抜くと、恐怖したようにその綿が抜け落ち散っていく。
『そんなに褒めてくれるなんてイイ子ね、それに比べてこっちの子たちときたら!』
 自らへの言葉と受け止めた綿飴は、驚かなかった面々に意識を向け、パステルカラーに色づいたような甘い香りを放つ。
「エドワウさん、きます!」
 呼び掛けながらモニカは御業でエドワウの前に壁を築き、香りを少しでも遮ろうとする。
「ありがとうございます! わたあめにぶつりこうげきがつうじるかふあんだけど……!」
 香りを避けるように回り込んだエドワウは、槍に雷を帯び刺させて突き入れる。綿飴に電流が走り綿が絡まるように歪に変形した。
「甘くていい匂い……ってダメダメ!」
 誘われそうになったエーゼットは首を振り、雑念を追い払って蔓で敵を巻き取ると宙に拘束した。
「聞いた通りの甘い香りね、魅了されないように気をつけていくわよ」
 その隙にるりは神槍『ガングニール』のレプリカを召喚し、放たれた槍は綿飴を貫き巨大な穴を空けて空へと消える。縮小した綿飴が戒めから逃げ出す。
「にゃあ」
 肩に乗ったロウジーが不可思議な鳴き声を上げるとエルムの姿が消え、一瞬にして敵の真下に現れるとオーラを纏った手刀で斬り上げた。
「甘い……美味しいわたあめだね」
 攻撃した際に千切った綿飴をこっそり食べつつ、エルムは敵と間合いを空ける。
「良い香り、砂糖の甘い香りはグラビティじゃなくても魅了されてしまいそう」
 その魅惑を破るようにアザリアは黒い液体を槍のように伸ばして敵を貫いた。
「コレは凄く美味しい敵に違いないの! わたあめ食べ放題! いただきますなのー!!」
 逃れるどころか喜び勇んでメティスは飛びつき拳をずぼっと叩き込んだ。そして思い切り引っ張り綿飴を千切って頬張った。
『そうでしょうそうでしょう! 甘い香りに身を委ねるといいわ』
 調子に乗って綿飴の甘い香りが強さを増す。
「いくら食べても減らないのー!」
 接近したままバクバクと食べていたメティスは綿飴に覆われる。だが翼の地獄の炎が綿飴を溶かし、気にせず食べ続けた。
「これだけ大きいと、わたあめでも重いのかな?」
 そんな疑問を浮かべながらアザリアの足元から広がった黒い液体が広がって飛びつき、包み込むように綿飴にへばりつく。
「このままだとわたあめの魅力に負けてしまいそう……燃えて、溶けて……!」
 香りにふらりと引き寄せられたエーゼットは、抗うべくブーツのヒールから炎を発し敵を蹴りつけて燃やしてしまう。
 続いてるりは黒い玉を手に生み出して敵に投げつけ、その目に悪夢を見せる。
『やだっ水はダメ! 溶けちゃう! 水洗いはダメだから!』
 慌てて綿飴は小さくなってふわりと逃げるように飛び退く。
「……ああ、そういえば、食べる前にわたあめを水で洗ったら溶けてなくなったって話を聞いた事があるわね」
 それを見てるりはそんな話があったと思い出す。
「まるで目の前に雲があるみたいだ。乗る……んじゃなくて上から攻撃してみようか」
 翼を広げ綿飴の上に飛び上がったエルムは、落下しながら思い切り踏みつけた。分厚い絨毯を踏んだような感触が足に伝わる。ロウジーも綿飴の上を駆け回り、翼を羽ばたかせて仲間達を癒していく。
「わたあめをおしつぶします」
 駆けるエドワウは飛び蹴りを浴びせ綿飴を押し戻した。だが綿飴はふんわりとエドワウを包み込み、その甘い香りで魅了する。
「わっ!?」
 綿飴が全身を包み口にまで侵入してくる。甘い味わいが口いっぱいに広がって蕩ける。それを解こうとタックルしたメルも取り込まれてしまった。
「食べて処理できれば良かったんだケド、そういうワケにもいかないよねェ」
 突っ込んだシェーラは勢いを乗せて巨大なハンマーを振り抜き、さらに噴射によって加速させて綿飴を吹っ飛ばして拘束を解いた。
「甘い香りに惑わされてしまっていますね、すぐに治療しますから!」
 モニカは大樹の幻影を呼び出し、ふわっと生命力に満ちた光が仲間達を見守るように包み心と体の傷を癒していく。

●わたあめまきまき
『わたあめの大きな夢に包まれて、そのまま甘い世界で眠るといいわ』
 綿飴はクルクル回転を始めると、周辺から綿を巻き上げてどんどん大きくなる。やがて8mを超えると、ふわふわと頭上から落ちてきた。
 それを防ごうと割り込んだエーゼットとシンシアは綿飴に押し潰され、全身を甘い香りが包む。
「食べちゃダメ……食べちゃ……」
 堪えようとするエーゼットの横で既にシンシアは美味しそうに口いっぱいに頬張っていた。それを見て脱力したエーゼットもパクッと口にして溶ける甘さに笑顔となる。
「もっともっと食べるの! 大人しくするの!」
 メティスは腕に装着した巨大杭打ち機を撃ち出し、食い込んだ杭が熱を放って内部から綿飴を焼く。
「焼いたらどんな味になるかな? いや、食べる訳じゃないんだけど……」
 勢いをつけたエルムは足に炎を宿し、跳躍して綿飴を蹴り飛ばした。炎が移り砂糖の焼ける香りが漂うと、程よく熱された周辺の部分を千切ってエルムは下がる。だが誘惑に負けたロウジーは香りに誘われるがままむしゃむしゃと綿飴に齧りついていた。
「わたあめ……ザラメを加熱、回転させて固めたもの。その原価は1本10円、袋入りでも精々40円、これが屋台で300円とかで売られる意味がわからない……」
 そんな蘊蓄を語りながらもるりはふわふわ漂う綿飴をパクリと食べていた。
「……なんてね? 500円出してでも縁日で食べたいって思えば、それがわたあめの価値だわ。私も買うもの、アニメキャラクターの袋入りをね」
 表情の無いまま軽口を叩き、呼び出した竜の幻が火を吹き綿飴を燃やす。
『もっと、もっとよ! わたあめの魅力に包まれなさい』
 甘い香りを全身から放ち、近くのケルベロス達を夢の世界へ誘う。飛び込んだメルは綿飴に取り込まれじたばたと暴れていた。
「甘くて美味しそうな香りだねェ……でも催眠されるわけにはいかないからねェ」
 シェーラの呼び出した夜叉の女王の凍てつく視線が、綿飴を震え上がらせ緊縮させてしまう。
「凍れば匂いもしなくなるでしょうか」
 モニカは弾丸を生み出して発射し、時間を止めるように綿飴の動きを静止させた。
「甘い香りも、花の香りには負けるのよ」
 アザリアの両掌に集めた光が薔薇蕾を形作る。それに優しくキスすると真紅の光の花吹雪が巻き起こりエドワウに付着した甘い香りを吹き飛ばした。
「あまいにおいでくらくらする……においのもとから、まっぷたつにします!」
 電柱を駆け上って大きく跳躍したエドワウは、体重を乗せて斧を振り下ろし綿飴を両断した。衝撃にメルが解放されぽとりと落ちる。
『わたあめは切られたってへっちゃらよ』
 ふわふわと半分に分かれた綿飴はくっつこうと近づく。
「ずっと食べていたくなるけど、人を惑わす相手じゃそうもいかないよ」
 地を蹴ったエーゼットは炎を纏った足で蹴りつけて綿飴を炎上させた。
「食べてばかりじゃダメだよ、食べた分は動かないと」
 反対側からエルムがロウジーに声をかけながら精製した弾丸を撃ち込むと綿飴が凍りつき、そこへロウジーが爪で引っ掻き凍った綿飴を齧り取った。
「だいぶ減ってしまったの、最後にもうちょっと食べるの」
 メティスは翼の炎で纏わりつく邪魔な綿飴を焼き消し、抱き着くように綿飴本体に齧りついた。
 追い打つようにアザリアが黒い液体で綿飴を串刺しに幾つも体を貫くと、ふわふわと散った綿飴が空から降って来る。
「ちょっとだけ、味見くらいはいいよね……」
 それを手にしたアザリアは雲を食べるように口の中で溶かし、沁み渡る甘さに頬を緩めた。
「美味しいねェ……もっと食べたくなるけど、悪いデウスエクスは倒さないといけないんだよねェ」
 ベタベタする口元を拭うと塀に跳び乗り、駆けて大きく跳躍したシェーラがハンマーを全力で振り下ろし、綿飴を地面に叩きつけた。
『ああっ無くなっちゃう! 早く新しいのを作らなくっちゃ!』
 小さくなった綿飴が回転を始めてもう一度その身を膨らまそうとする。
「それ以上回復はさせません」
 モニカはカプセルを投げつけ、割れた中からウィルスが広がり綿飴が巻き付かなくなった。
「もうあまいにおいだけでおなかいっぱいです!」
 槍を手に突進したエドワウは、穂先を前に出し体当たりするように綿飴を突っ切って大穴を空けた。
『ねぇ……一緒にふわふわの夢を見ましょう? 甘くて美味しい夢がずっと見れるわよ』
 残った綿飴の欠片が薄く膨張しながらケルベロス達を包み込もうとする。
「ふわふわに包まれてみたい気もするけど、ベタベタしそうだから遠慮するわ」
 そこへるりは神槍を飛ばし、綿飴を細かく散り散りに浮き飛ばした。

●わたあめの香り
「ちぎったわたあめってつけヒゲみたいよね、実際にフランス語では『バーバパパ(お父さんのヒゲ)』っていうのよ」
 粉雪のように空から落ちてくる綿飴をるりは髭のように口の上に持ってくると、まるで雪のように消え去った。
「雲みたいなわたあめだったね、あれに乗って飛ぶ夢とかも楽しそうだ……」
 エルムがふわふわの綿飴に乗った時の感触を思い出していると、その頭にロウジーが飛び乗った。
「こういう敵だったら、相手をするのも楽しいかな……」
 周辺にヒールを掛けていたエーゼットに飛びついたシンシアは、ぺろぺろと甘い香りの移った頬を舐めた。
「……もっと食べたかったの」
「少しだけ食べると、余計に食べたくなっちゃうねェ」
 残念そうにメティスは肩を落とし、シェーラもう同感だと頷いて2人は口の中に残った綿飴の余韻を味わった。
「みなさんから甘い匂いがしますね」
 ドリームイーターでなければ食べてみたかったと、モニカは体についた綿飴の残り香を払う。
「ふわふわわたあめに包まれるのは、想像の中だけが無難なのね……」
 戦いの最中についた綿飴が溶け、アザリアは不快そうに体中のべたつきに触れた。
「べたべたですね、かえったらいっしょにおふろにはいりましょう」
 エドワウは全身べとべとのメルを抱え上げ、自らの汚れも見下ろして溜息を吐いた。
 体についた甘い砂糖の香りに包まれながら帰途につくケルベロス達は、きっと甘く楽しい夢を見るのだろう。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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